森を抜けると、カナズミシティの看板が目に入る。
「やっと抜けた。とりあえず無事みたいでよかったよ。」
「危ない所を助けてもらって、ありがとうございます。」
「ありがとう、助かったわ。わたしはマリ。こっちはダイね。それにしても、
あー、この人私のことを知ってるのか。
「事件の熱が冷めない中の生放送は、視聴率爆上げの伝説的な放送だったもの。新チャンピオンは女の子ってことで、性別や身長、体格なんて関係なくチャンピオンになれることを世間に知らしめた。それは色んなトレーナーに希望を与えることにもなったのよ?」
「はぇ〜。」
テレビの人なら私のことを知ってるのも当然。かと思っていると…全然予想いてない所を褒められて少し驚いた。
そっか、そういうことなら私がチャンピオンになった意味はあったのかもしれない。・・・少しだけ。
「あたしだって、そのひとりやけんね!」
そして、サファイアもそう言って胸を張ると、その動作で目を覚ましたのか、サファイアが背負ってる人が起き上がる。
「う、うう・・・。潜水艇の・・・部品は?」
「ごめんち!取り返せんかったったい。」
「そうか・・・。」
「わたしたちはホウエンテレビの者です。これから、テレビと警察にこのことを伝えます。」
「ああ、すまない。・・・それと、サファイアちゃん。1つ頼まれてほしい。」
そう言うと、ゴソゴソと懐から1通の手紙を取り出す。
「旅の途中で構わない。ムロという町に寄ったら、ダイゴという男に・・・。この手紙を渡してほしい。君を・・・信頼、して・・・。」
「ちょっと、今ダイゴって!!」
限界だったのか、言いたいことだけ言うとまた気を失う。
え、今ダイゴって言ったよね?
聞き返そうにもまた気を失っちゃったし、その人が私の知っているダイゴさんなのかどうか確かめることは出来ない。
・・・ムロ、か。
「安心しぃ、社長さん。その手紙、引き受けたったい!カナズミジムを突破したら、すぐに行っちゃるけんね!」
「ねぇ、サファイア。ジム制覇の旅、私もついて行っていい?」
「よかよか!!マシロさんが一緒なら、心強・・・あ。」
サファイアは途中で言葉につまると、今度は申し訳無さそうに謝ってきた。
「やっぱりダメっちゃ。アイツと競争ばしよるのに、マシロさんについてきてもらっちゃズルっこになる。・・・ありがたいんやけど、ジム制覇はあたしの力で成し遂げんと意味がなか。せやから、ごめんち!」
そう言って手を合わせる。
誰かと競争してるみたい。どっちが先にジムを制覇できるか、ってところかな?
それなら、私が一緒にに行くのはあまり良くはない。
「そういうことなら、仕方ないね。」
「サファイアちゃん、ジムまでの地図書いておいたから。ジムに行くなら、目を通しておいて。カナズミシティは広いからね。」
「ありがと!」
「ジム制覇、がんばってね。」
立派な志しを持って旅をしてるのなら、邪魔はできないね。
手を合わせながら謝り倒すサファイアを応援すると、受け取った地図と手紙を握りしめて町の中に走っていった。
「それじゃ、残った人達は病院ね。」
「僕達もですか?」
「そりゃ、ね。川に引きずり込まれてたんだから。一応診てもらったほうがいいでしょ?」
「それもそうね。大人しく連れて行ってもらいましょう。」
そしてその日はマリさんとダイさんの2人を病院に送ると、ポケモンセンターで休むことにした。
ーーーーーーーーーー
そして次の日。
マリそんとダイさん、社長さんの様子を見に病院に向かうと、ベンチに座っている2人が私に気づく。
「あら、マシロちゃん。様子を見に来てくれての?」
「そんなところ。で、どう?」
「わたし達は問題なし。でも、社長さんの方は重症みたいね。命に別状はないけど、今も意識不明よ。それに・・・。」
「僕達が撮った映像が、無駄になったんですよ!」
「・・・??どゆこと??」
急に映像の話をされても意味が分からない。
カメラが壊れたとか、そんな話?
「唐突に口を挟まない。」
パァン。
「あたっ。」
私の事を察してか、ダイさんの頭をひっぱたく。
「いきなり映像の話をされても分かるわけないでしょ。昨日の件、報道規制がかかったのよ。表向きには、『社長は散歩中に、野生のポケモンに襲われた。』ってことになってる。」
「つまりそれって、警察は動かないってこと?」
「そう。それに、社長が何故サファイアちゃんに手紙を託したのか。規制がなければ、この事件はニュースで流れ、ダイゴという男もこの事件を知ることになるはず。」
「それなのに、社長はわざわざ手紙をサファイアに渡した。・・・つまり社長は規制がかかることを予想していた?」
「ええっ!?」
マリさんと私の話を聞いて、驚いた声を上げるダイさん。
「デボンはホウエンきっての大企業。自社のネットワークを使わないのは何故?電話は?メールは?自社の社員は?それらを使わないのは・・・。」
「そのデボンって会社の内部に、さっきの青い集団のスパイが紛れ込んでるってこと?」
「その通り!!」
「えぇ!?段々と怖くなってきましたよ・・・。マリさん、この事件追うの止めたほうが・・・、あたっ。」
パァン。
2度目の高い音が響く。
「何言ってんのよ。こういうのこそ、ジャーナリストの真骨頂じゃないの。私達だけが知ってる犯人の手がかり。」
「手がかり?」
なにかあったっけ?私には心当たりがないんだけど。
「連中のバンダナと、サファイアちゃんが気づいた、ポケモンに入っていたっていうしるし。きっとアイツラのシンボルマークなのよ。ダイ、早く調べて!」
「は、はい。」
慌てながらも、ダイさんは手元のパソコンを操作する。
そして、少しの待ち時間の後表示された検索結果。
「出ました、マリさん!チーム、アクア・・・?」
「アクア団・・・ね。」
アクア団、か。ここにもロケット団みたいな組織がいるんだ。それも、大企業にスパイとして潜り込んでるなんて、結構厄介じゃない?
・・・いや、ジムリーダーに混ざってるよりはマシか。
「とりあえず、アクア団ってのが暗躍してるのは分かったけど、目的はさっぱりだよね?あ、目的といえば盗られた道具って何だったの?」
「そういえば、盗られた物が何だったのかはさっぱりね。社長さんは潜水艇、って言ってたっけ。」
「ウ~ン・・・。盗られた物は何か分かりませんけど、潜水艇といえばカイナ、ですよね。」
「そうね、カイナの造船所に行けば何か分かるかもしれない。」
アクア団の目的も分からず、盗られた物も何か分からない。でも、次にやるべきことは見えてきた、かな?
「それじゃ、わたし達はカイナに向かいましょ。マシロちゃん、よかったらついてきてくれないかしら?あなたに助けてもらえるなら、これ程心強いことなんてないわ。」
「そうですね!僕からもお願いします!」
と、2人揃って頭を下げられる。
「私としては、ついて行ってもいいんだけど・・・。後から合流する形でもいいかな?」
「何か用事でもあるのかしら?」
「ほら、昨日言ってたダイゴって人。私は元々、ダイゴって人に会いに来たんだ。」
「だから昨日サファイアちゃんに、一緒に行こうって。」
「ま、それは断られちゃったけどね。それに、社長さんが手紙を渡す様な相手だもん。アクア団の事も何か知ってるかも。」
「なるほどね。・・・分かったわ!それならお互いに情報を集めつつ、カイナで落ち合いましょう。」
「オッケー。マリさん達も気をつけてね。あいつら、顔を見られたからには、なんて言うような連中だから。」
「ええ。気をつけて動くつもりだけど、できれば早くも合流してね?」
そんな声を聞きながら、私はカナズミシティを後にした。
ーーーーーーーーーー
「ちょっとマリさん・・・。僕達だけで大丈夫なんですか?」
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言うなら、大丈夫じゃないわね。」
「ええっっ!?」
不安そうなダイに追い打ちをかけると、素っ頓狂な声を上げる。
「それでも、マシロちゃんが協力してくれるんだもの。何かあっても助けてくれるわよ。」
「何かあってからじゃ遅いんじゃ・・・。」
そんな呟きは聞こえないふりをする。
ジャーナリストとして、特ダネを前に引くことは頭にはなかった。
「とりあえず局長に、自由に動けるように許可をもらっておきましょう。あとは・・・。」
そう言うと、マリは頭上のポワルンを見上げる。
当たり前のようにそこにいたポワルンは、マリの手持ちではない。先日襲われた社長の手持ちである。
その社長も、今は意識不明。故に、面倒を見るトレーナーが必要なのだが・・・。
「このポワルン、どうしよっか?」
「マシロちゃんに預ければよかったんじゃないですか?それか、サファイアちゃんとか。」
「サファイアちゃんはジム制覇の旅の途中よ?そんな彼女の手持ちの枠を減らすようなことできないわよ。マシロちゃんに至っては、初対面なのに協力してくれるのよ?これ以上の頼みは流石に厚かましいと思わない?」
「・・・それもそうですね。」
それに、協力してもらうとなると矢面に立つのはマシロちゃんになる。そのマシロちゃんにポワルンを預けるのは、危険の真っ只中に放り込むようなことにもなり得る。
言葉の裏ではそんなことを思っていたのは口に出さずに諦めたように続ける。
「仕方ない、か。わたし達が連れていきましょう。」
「えぇ、いいんですか!?勝手に連れ出したりして。」
「他に頼れる人がいないんだから、しょうがないでしょ。それに、さっきも言われたでしょ?」
「???」
「顔を見られたからには、って。ポワルンも放っておく訳にはいかないのよ。」
逃げようとした際に、強硬手段にでたあの3人組。マシロちゃんのお陰で難なく逃げられたものの、助力がなければ逃げられなかった可能性もありえた。
「それなら、社長さんは・・・。」
「社長さんなら大丈夫よ。気を失ってたから、あいつらの顔を見てないはず。それにデボンの社長なんて有名人を、入院中にどうこうするのは難しいわよ。荷物を奪われた時も、部下もつけずにお忍びって感じだから奪えたって所もあるでしょうしね。」
「マリさん、よく考えてますね・・・。」
「ジャーナリストなら、いついかなる時も特ダネを逃さないために思考をめぐらせるものよ。」
そう言って立ち上がると、マリは上司に直談判するためにスタスタと歩きだし、ダイがその後ろを慌てて追いかけていった。