カガリとの戦いの後、休みながらカイナに向かった結果、結構な時間が経ってしまった。
いつの間にか天気は崩れ豪雨が降り出し、カイナの町に着いたときには、大半が水の中に沈んでいた。
「うわぁ~・・・。大分酷いことになってるね。この雨のせいなのか、他の要因なのかは分かんないけど。」
これだけひどい有り様なら、どこかに避難所が作られてるはず。素直に造船所に行っても誰もいないだろうし、そっちに行ってみようか。
ボートが集まってるし、あの建物かな?
「・・・あれ?」
そう思って周囲を見渡していると、水面をなにやらバシャバシャと泳いでいるのか溺れているのか、よく分からない様子で飛び跳ねているポケモンが目に入る。
「ミスタ、あそこまで降りれる?」
「ーーー」
ミスタはいつもの電子音で返事をすると、一目散にそこに飛んでいく。
そのまま私はそのポケモンをサッと抱えあげ様子を見ると、そのポケモンはまだら模様の土色をしていた。
「見た目的に水タイプ・・・だよね。ヒレもあるし。それなのに泳ぎが下手なのはなんでだろう。普段は流れの穏やかな川に住んでる子が流されたのかな?」
なーんかどっかで見たことあるような気がするんだけど。
まぁ、いいや。
野生のポケモンならとりあえずボールに入れておこう。
確か、この前買ったヒールボールが鞄の中に・・・っと。あったあった。
が、ボールを近づけてもそのポケモンがボールに収まることはなかった。
「あれ?入らないってことは、誰かの手持ち・・・?それなら、このまま避難所に連れて行こうか。」
手の中でぐったり、というかどんより?しているポケモンを抱えて、避難所に向かう。
どうやら、病院をそのまま避難所にしてるようで私達はその屋上に降りる。
「よっと。ありがと、ミスタ。・・・あれ?」
屋上に降り立つと、屋上の端、手すりにもたれかかっている人影に気づく。
そして、その人影が誰か分かった途端、私は素っ頓狂な声を上げた。
「ルビー?こんな雨の中、何してるの?」
「マシロさん・・・!?」
私の声を聞いたルビーも素っ頓狂な声を上げた。
「建物の中に入らないの?」
「中はちょっと・・・。居づらくて。」
手すりにもたれかかったまま、こちらを見ずに呟くように話すルビー。
うーん、こっちを見もしないし、間違いなく何かあったみたい。
あのヒラヒラしたルビーの師匠には何かあったら後で殺すって言ったはずなのに・・・。後でしばく。
「何があったの?」
「・・・ボクは、マシロさんに言われるまで、サファイアがあの時助けた女の子だとは知らなかったんです。」
「へぇ~。・・・・・・・・・え゛!?」
あれ?もしかして、私のせい!?
余計なこと言った!?
「私が余計なこと言ったから?」
「いえ・・・。それに関しては問題ないです。ただ、次にあの子の前で戦うときは、自分で納得できる自分でありたい。そう思ってました。だから、ホウエン地方でもコンテストに出場して、全てのランクを制覇しようとしていたんです。」
問題ない、ようには全然見えないんだけど。
「そんな中で、ヒワマキシティで再会しちゃったんですよ。ちょうどその時ブーピッグの群れに遭遇て、咄嗟にサファイアを助けたんです。」
今のところ、問題はなさそうだけど。
「その後です。助けたことで、隠してた実力がバレちゃって・・・。それで、今ホウエンで起きている事態に対抗するため、ジムリーダー達が少しでも戦力が欲しいって。サファイアも協力するから、ボクにも力を貸してほしいって言われて・・・。でも、ボクはその言葉に首を縦に振る事が出来なかったんです。」
「それは、どうして?」
「コンテストを制覇してないボクだと、またあの子を恐がらせてしまうかもしれない。・・・いや、そもそもマグマ団のカガリって人に手も足も出ませんでした。戦闘になってもボクだと足手まといになるかもしれない。そう思ったとき、つい興味ないって素っ気ない態度を取ってしまったんです。そしたら、サファイアはものすごく怒って、2度とその顔を見せるなって言われて・・・。」
あぁ、なんか私の一言で事態がややこしくなってる・・・。
「それで、ヒワマキにはいられなくてコンテスト会場のあるカイナに来たんです。それなのに、ボクを追いかけてきた師匠が飛び入りで参加してきて、そのせいで美しさ部門だけリボンが取れなくて、MIMIに八つ当たりして・・・。ホント、何やってるんでしょうね。」
うーん・・・。なんか、1つ1つは小さいことでも、全部がダルマ式に悪い方に転がっていったって感じ?
というか、飛び入りって・・・。師匠なのに何やってるのよあのヒラヒラ。
しばくだけじゃ足りないかもしれない。
それより、さっきから妙にソワソワして腕の中のポケモンが落ち着かないんだけど。どうしたんだろう?
「まぁ、八つ当たりはよくないね。ちゃんとMIMIに謝った。」
「・・・もう、MIMIはいないんです。八つ当たりした後、そのまま海の中に逃げ出しちゃったんです。」
「逃げちゃったんだ・・・。海の中だと、流石に見つからないかぁ・・・。」
ルビーの為には探してあげたいけど、無理かなぁ・・・。逃げ出した子を探すとしても、海の中を探すのは難しいよね。
「ところで、マシロさんはどうしてここに?」
「私?私は海底洞窟に行ける潜水艇がないかと思ってね。マグマ団とアクア団のリーダーを逃がしちゃったし。」
「・・・マシロさんも、戦ってたんですね。」
「まぁ、成り行きでね。」
そう言うと、何故か余計に落ち込むルビー。
まぁ、背中を向けてるから何となくそう感じるだけなんだけど。
「・・・マシロさんは成り行きでも戦ってるのに、ボクは大事な仲間がいなくなってからも、こんなところで迷ってる。ボクだけが状況を変える方法を知っているっていうのに。」
「え・・・?それってどういうこ、・・・っとぉ!?」
どういう事かと聞こうとした瞬間だった。
抱きかかえていたポケモンが飛び出したかと思ったら、回転しながら尾ビレでルビーの頭をスパァンと叩いた。
おお、いい音。
「マシロさん!?急に、どうし・・・た・・・。」
そして、引っ叩かれたルビーが振り返って自分の頭を叩いたポケモンを見た瞬間、驚いた表情で絶句する。
「MIMI!?どうして、ここに?」
あ、この子がルビーの言ってたポケモンなんだ。
「途中で溺れてるのか泳いでいるのかよくわからない感じだったから拾ってきたんだけど、その子がMIMI?」
「・・・はい。マシロさんは、父さんと戦ったときに少し見ただけでしたっけ?」
「あー・・・。たしかにそうかも。」
言われたら、ルビーがお父さんと戦ってたときにチラッと見た様な気がする。ヤルキモノの攻撃を止めてたっけ?
「ごめん、MIMI。ボクはキミに酷いことを言ってしまった。引っ叩かれても、文句は言えな痛ぁ!」
今度は視線を合わせるために屈んで話すルビーの頬をスパァンと引っ叩く。
「あははっ!!MIMI、さっきまでとは打って変わって、元気だね。」
「マシロさん!?笑ってないでなんとかしてくださいよ!!」
暴れまわるMIMIを両手で抑えながら、悲鳴を上げるルビー。
「ごめんごめん。でも、悩みのタネが1つ減ったじゃん。」
「え?・・・もしかしてMIMI、一緒に戦ってくれるってこと?」
自分の目の前の高さに持ち上げたMIMIに問いかけるルビー。そして、その言葉にうなずくMIMI。
「MIMIもこう言ってるけど、ルビーはどうするの?」
「・・・あの時と、同じですね。ボクが父さんと戦った時と。マシロさんが助けてくれて、今度はMIMIも背中を押してくれる。それなのに、ボクだけが逃げるわけにはいかないよね。」
そう言うと、ルビーはそっとMIMIを下ろす。
「君の口上、まだ行ってなかったよね。たとえその身が朽ち果てゆけども、変わらぬ心の美しさ。身につけたるは、思いやる心。名前は・・・っっ!!」
その時だった。MIMIの体を眩い光が包みこんでいく。そして、光が収まったときそこにいたのはさっきまでとは全く違う姿。
「これって、進化!?」
長い体にピンクのようにも、水色のようにも見えるウロコ。
いや、そもそも見る角度によって色が違う・・・?なら、虹色って言うべきかな?
・・・というか。
「はぇ~・・・。すっごいキレイなポケモン。」
「キミ、だったんだね。ミロカロス・・・、ずっとボクが探していたポケモン。」
ルビーはMIMIの顔を少しだけ撫でると、ありがとうとつぶやきながらMIMIをボールに戻す。そして、私の方に視線を向けたときにはその顔にはもう迷いはなかった。
「マシロさんも、ありがとうございます。MIMIを連れてきてくれて。」
「偶然だよ、偶然。お礼を言われる事じゃないって。」
「それでも、MIMIの事以外でも、ずっとボクを助けてくれましたから。」
「そうかな?」
「そうですよ。言うなれば、マシロさんは、ボクにとって人生の師匠ですね。・・・っと、のんきに話してる場合じゃありませんでしたね。」
そういうと、ルビーは建物の中に駆けていった。
「吹っ切れたみたいだね。というか、私が師匠ねぇ・・・。全然ガラじゃないんだけど。というか、もう1人の師匠は何してるの?」
はぁ~、とため息をつきながらルビーの後を追おうとした時だった。
雨音に混じって、不意にバシャバシャと水面をハネるような音が聞こえた。
「今のは・・・?」
屋上から下を覗き込むと、さっきのMIMIみたいに水面をハネるポケモン。
まぁ、これだけ浸水してたらそういうポケモンもたくさん出てくるよね。
「ミスタ!」
屋上から飛び降りるのと同時にミスタが私を受け止めるとその勢いのまま、ハネているポケモンをサッとキャッチする。
見ると、赤い体に長いヒゲ。
「今度は、コイキングか〜。コイキングは元々泳ぐの下手だし、こんな状況だと溺れるのも当然かぁ〜。」
「コイキチ〜!コイキチ〜!!」
そんな事を呟いていると、近くの建物からコイキチを探す声。
コイキチって、多分この子だよね。
スーっと声のする建物に近づいていくと、窓から顔を出して、コイキチ〜と叫ぶ子供の姿。
「コイキチって、この子?」
「え?・・・わっ!!」
抱えていたコイキチは、その子の姿を見るやいなやその子の腕に飛び込んでいく。
「おぉ〜。すごく懐いてるね。」
「はい!あなたが助けてくれたんですか?」
「助けたというか、拾ったというか。まぁ、そんな感じかな?」
「ありがとうございます。でも、この水害の中でどうやって?」
「ミスタがいるからね。水害ぐらい、なんてことないよ。」
「そっかぁ。ならきっと、すごいトレーナーなんですね!!」
なんかこの子、微妙に話がズレてると思ったら目の焦点もあってない。もしかして・・・。
「君、目が見えないの?」
「はい。あーあ、ボクにもそれだけの腕があれば、あなたみたいに困った人を助ける事ができるのに・・・。」
目が見えないのに他人の心配するなんて、優しいというかお人好しというか。
「大丈夫だよ。この事態をどうにかするために、たくさんの人が頑張ってる。」
そう言った瞬間、避難所から飛び上がる車。その上にはルビーの姿が見えた。
私の弟子が状況を変えられるって言ってるんだから、師匠である私が信じない訳にはいかないよね。
「コイキチは見つかったんだから、君も早く避難しなよ。それじゃ!」
そう言って少年の前から飛び上がると、宙を飛ぶ車を追いかけた。