2014年8月16日
PM 2:43
静岡県 東富士演習場
「うわぁっ⁉︎」
「落ち着いて!このまま待たなきゃ……」
「ちょっと⁉︎水入ってきてるよ⁉︎救難信号は⁉︎」
「応答なし!水で壊れたみたい!」
それは突然の出来事だった。プラウダ高校の戦車の砲撃を躱したのも束の間、バランスを崩した黒森峰のIII号戦車は川に転落した。
乗員はパニックになり、入ってくる水が彼女たちから正常な判断力を失わせた。特にこの戦車には一年生しか乗っていなかったのも、混乱に拍車をかけた。
「落ち着いて!」
操縦手ーーー城山正美はそんな一同を制するように叫んだ。
「小梅、キューポラからは浸水してないよね?」
「え、はい!それより正美さん!頭から血が……!」
正美は振り向いて小梅に問いかける。しかし正美もまたこの落下で頭部をどこかにぶつけ、頭から出血していた。
「なら、1人ずつそこから脱出しよう。幸い戦車は止まってるし、そうそう動かないよ」
「け、けど!そんなことしたら危なくない⁉︎」
「今ここにとどまる方がみんなまとめて溺死待ったなしだよ……1人ずつ落ち着いて脱出した方がいい」
「それなら、正美が先に出てよ!怪我してるし…」
「操縦席からじゃみんなが出てくれなきゃ出られないよ。なんとか頑張るから……」
その時、外から声が聞こえた。それも、この場にいるはずのない人の声が。
「皆さん!大丈夫ですか⁉︎」
それは間違いなく、黒森峰副隊長西住みほだった。
「みほさん⁉︎どうして⁉︎」
「皆さんこそ、大丈夫ですか⁉︎」
「正美さんが、出血してます!」
「救命ボートが来てます!早く脱出しましょう!」
「私は後でいいよ!1人ずつ出て!」
「けどっ!」
「これじゃ出ようがないんだよ!お願い!」
正美に気圧されるようにして、車長の小梅、通信士、装填手、砲手が次々と脱出し、それを見届けた正美もまたなんとか脱出した。
しかしちょうど正面から川に突っ込む形になったことで、操縦席には真っ先に水が溜まり、低体温症と出血を併発した正美はボートに倒れ込んだ。
「……………」
「正美さん?」
「……………」
「正美さん⁉︎」
小梅の声が、とても遠くに聞こえた気がした。
2015年2月15日
AM10:21
黒森峰女学園 学園寮
「本当に退学するの?」
「……あれだけ言ったからには私はもうここにはいられないよ。単位も貰えないし、再入学先の試験も受かったから」
「そうじゃなくて!どうして戦車道がないとこに行くのって言ってるの!」
正美は部屋の片付けの最中、ルームメイトの逸見エリカからありのままの気持ちをぶつけられていた。
あの後、救急搬送された正美は迅速な手当により、命は助かった。
しかし予想以上に入院が長引いたのに加え、試合のことで悶着を起こしたために事実上選択科目の単位を剥奪されてしまったのだ。
正美は別の学園艦への再入学のために今月中には寮を引き払わねばならなかった。
再入学先の大洗女子学園には戦車道がないため、エリカが食ってかかってる次第である。
「……私は諦めちゃいないよ。必ずまた戦車に乗る。いつか、きっと」
「っ⁉︎」
正美は毅然とした口調でエリカに答えた。
「しばらく距離を置きたいんだ。自分を見つめ直したい」
「……わかったわよ、どこにでも行きなさいよ」
「……エリカ、ありがとう」
それから半月後、正美は寮を引き払って行った。
投稿前予告
「入学式、かぁ」
「正美ちゃん、よろしくね!」
「どうして、ここに?」
「普通一科、2年A組西住みほ、至急生徒会室に来ること、以上」
第一話「復帰」