紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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10 紫の少女と決戦の後

 長い審議のあと、決着が出た。

 

1着 メジロアルダン

2着 サクラチヨノオー

3着 オグリキャップ

 

 すべてハナ差の決着であった。

 

 レースレコードを1秒近く縮め、東京競馬場2400mのレコードに迫るタイムを叩き出したこのレースは、長く語られる名レースとなった。

 

 結局3人のうちだれも最後まで譲ることはなかった。

 精神力で勝負が決まらなければ、そのほかの部分で勝負が決まる。

 一番大きかったのはレース運びの優劣だろう。

 内側の一番良いコースを通ったアルダンさんと、その外を通ったチヨノオーさん、そして一番大外から来たオグリさん。

 この差が最後にわずかな差になったとボクは思っているが実際のところはよくわからなかった。

 

 なんにしろ、長く語られるレースは幕を閉じた。

 そして、その後はひどかった。

 

 アルダンさんはレース後骨折が発覚。

 サクラチヨノオーさんは屈腱炎を発症。

 唯一オグリさんだけが翌日から元気にご飯を食べていた。

 

 

 

 レースから1週間。

 ルドルフさんの手伝いをして、オグリさんのご飯を作り、体を作る基礎トレーニングを繰り返すボクに、マックイーンさんが声をかけてきた。

 

「アルダンさんが、ヴィオラさんのお見舞いを待っているようですの、行ってもらえませんか?」

「行っていいなら今日でも構わないよ」

「では、6時に正門前で。帰りは日曜の夕方になりますから、外泊許可を取っておいてください」

「え? お泊り?」

「アルダンさんが滞在している温泉施設は、少しここから距離がありますの。さすがにそこから日帰りしたら、学園に戻ってこれるのは門限を余裕で過ぎてしまいますわ。温泉もありますし、少しぐらい滞在してもかまわないでしょう」

「わかったー、寮長さんとトレーナーさんの許可は取っておく」

 

 アルダンさんへのお見舞いのお誘いだ。

 サポーターとしてしばらくお付き合いした仲だし、お見舞いにはいきたいと思っていた。

 東条トレーナーにも、行けそうな時があれば教えてくれとお願いをしていた。

 マックイーンさん経由で着たのが少し意外だが、アルダンさんも会いたいと言ってくれているのは素直にうれしかった。

 

 授業後、トレーナーさんと話してトレーニングは軽めで上がらせてもらい、お泊りの手続きや、お土産の豆乳おからクッキーを作ったりして、待ち合わせの場所に向かう。

 ちゃんと、寮長のミホシンザン先輩にも、ルドルフさんにも、メジロのほうで泊まる旨伝えた。

 許可もすんなり出たが、ルドルフさんが

 

「何があっても動揺しないように」

 

 と意味深なことを言うのが心に残っていた。

 

 

 

 メジロの療養施設はとても立派だった。

 まるで旅館のような立派な建物で、貧乏暮らしに慣れているボクは動揺してしまう。

 マックイーンさんは

 

「それでは夕食の時に会いましょう」

 

 とボクを置いて奥に行ってしまった。

 いや、案内してもらわないとどこに何があるかすらわからないんだけど……

 と突っ込みをする前に奥に消えた。

 

 マックイーンさんはこういうポンコツなところがある。

 見た目の綺麗さや所作の美しさに騙されてはいけないのだ。

 

 さて、だれに声をかけるか、と悩んでいると

 

「ヴィオラちゃんですね。アルダンちゃんがお待ちですよ」

 

 と黒鹿毛のウマ娘メイドさんが声をかけてくれた。

 そう、メイドさんである。しかもフリフリの多い、エプロンドレスのメイドさんである。

 メイド喫茶メジロ家である。メジロ家、趣味がよすぎませんか、という疑問が頭の中に浮かんだ。

 

 メイドさんの後ろをついていくと、奥の部屋に通された。

 書斎のような立派な部屋である。

 一人の老ウマ娘が立派な机に座っており、メイドさんがボクの後ろに立った。

 

 何かがおかしい。

 ボクはアルダンさんのお見舞いをして、温泉三昧を楽しんで、マックイーンちゃんとパジャマパーティをする予定だったはずだ。

 ラスボスのようなご老人に、おそらく部屋の雰囲気とかからみて、メジロ家のお偉いさんに会う予定は一つもなかった。

 

「初めまして、メジロ家総帥のトヨといいます。おばあさまとでも呼んでちょうだい」

「あ、初めまして。ヴィオラレジーナといいます。メジロマックイーンさんの同級生で、先日まで、メジロアルダンさんのサポーターをしていました」

「ご丁寧にありがとうございます。そちらにおかけください。ラモーヌも、ふざけてないで」

「はーい」

 

 メイドさんだと思っていたウマ娘さんを総帥はラモーヌといった。

 おそらくアルダンさんの姉のメジロラモーヌだろう。

 同じ寮だが、顔を見たことがなかった。そういわれると顔つきがアルダンさんと結構似ている気がする。

 

 ボクがソファに座ると、ラモーヌさんはなぜかボクの隣に座った。

 あなたは総帥側でしょう、と思うが、なぜか動こうとしない。

 初めて会った絶対女王はフリーダムすぎた。

 

「えっと、ボクはアルダンさんのお見舞いに来たのですが、何の御用でしょうか」

「メジロ家として、お礼を言っておこうと思いまして。日本ダービー勝利は、メジロ家の因縁でしたから」

「お礼なんていりませんよ。勝ったのはアルダンさんの努力ですし、東条トレーナーのトレーニングのおかげです。ボクがしたことなんて多くはないです」

「アルダンから、ずっと世話をしてくれたと聞いています。それもまた、ありがたいサポートです。お礼には足りないでしょうが、今日から三日間、楽しんでいってくださいな。もちろん、今後何かありましたらメジロの施設を使っていただいて構いませんよ」

「それは、ありがたいです」

 

 ちょっと見ただけでも立派な建物だ。施設もそろっているだろう。

 そんな施設をある程度自由に使わせてもらえるというなら、それはとてもありがたかった。

 温泉入り放題だろうし。

 

 きっと見舞いに来たボクに対するあいさつ程度の話だろうと思い安心していたのだが……

 

「私の話はこれくらいですが、ラモーヌがヴィオラさんに聞きたいことがあるみたいでして」

「聞きたいこと?」

「そうよ、ねえヴィオラちゃん、アルダンちゃんをどうやってあそこまでやる気にさせたの?」

「どうやって?」

 

 ラモーヌさんの問いかけは、曖昧過ぎて何を聞いているのかわからなかった。

 

「アルダンちゃんって、いい子なのよ」

「そうですね、優しくて、上品で、とてもいい先輩です」

「だからね、勝てないと思っていたのよ」

「…… 話が飛んで理解できないです」

 

 ラモーヌさんの話は天才肌の人間の話し方だ。

 とにかく話が飛ぶ。本人としてはつながっているのだろうが、聞いてもどういう意味かまるで分らない。

 だが、今の会話でも分かったことがある。

 ラモーヌさんは、今までの経験から、アルダンさんがダービーを勝てるはずがないと思っていたのだ。

 しかし、アルダンさんがダービーを勝ち、ラモーヌさんはアルダンさんの変化に気づいたということだ。

 そして、その変化の原因がボクだと、ボクにある可能性が高いと考えているのだろう。

 

 確かにサポーターとして二週間程度は一緒にいたし、友達になったと思っている。が、勝てなさそうなウマ娘をダービーで勝てるような特殊なことは絶対にしていない。

 だから、まるで何を聞いているかわからなかった。

 

「ヴィオラさん、私のお話は終わりました。ラモーヌは少し面倒な子ですが、少しの間付き合ってあげていただければ助かります」

「あ、わかりました」

「私のお部屋に行きましょ!」

 

 総帥はラモーヌさんのこんな反応に慣れているようだし、ボクはあいさつのために呼んだだけのようで、お話は終わったようだ。

 立ち上がるラモーヌさん。

 ボクの手を握って、引きずらんばかりの勢いで部屋を飛び出した。

 振り払うこともできなかったボクは、そのまま、近くにあったラモーヌさんのお部屋に連れ込まれたのであった。

 

 

 

「私はアンタレスに所属していて、同じチームにサッカーボーイがいるのよ。日本ダービーに1番人気で出ていたんだけど、知ってる?」

「1番人気の方でしたから、当然見てましたよ」

「ひどかったでしょう? うちのトレーナーさんが体は仕上げてくれてたけど、完全に気合が抜けてたわ」

「そうでしたね。ちょっと上の空な気がしました」

「オグリキャップさんも、サクラチヨノオーさんも、気合がすごかったじゃない」

「間違いないです」

 

 部屋に連れ込まれたボクは、ラモーヌさんの着せ替え人形になっていた。

 制服を脱がされ、白いドレスを着せられる。

 ちょっとウェディングドレスっぽいそれはとてもきれいで、ボクにはあまり似合ってない気がした。

 ラモーヌさんならとても似合うのだろう。

 なんせ、ウマ娘の中でだれが一番きれいか、という話題が出れば、栗東のゴールドシチーさんに並ぶ美人ウマ娘さんが、目の前のメジロラモーヌさんだ。

 やっぱりこう見ると、顔がいいな、という感想が浮かんだ。

 

「レースを最後に決めるのは、レースへの執念よ。アルダンは、才能はあるけど、それが常々足りなかったのよ。最低でもNHK杯で2着になったときには、ダービーはとても勝てないと思っていたわ」

「レースへの執念……」

 

 どうだっただろうか、と思い返す。

 正直サポーターになる前は、時々朝練で併走していただけだからよくわからなかった。

 走りがとてもきれいで、速かった印象はある。

 だが、気合とかそういう精神的な部分はあまり記憶にない。

 

 ラモーヌさんの言うがままに、ポーズをとり、写真を大量にとられる。

 レフ板とかも置いてあり、使うカメラもごつい。

 コスプレと撮影が趣味なのだろう。ただ、ボクを撮ってどれだけ楽しいのか疑問である。

 

「アルダンは、真面目なのよ。だから、レースに挑む理由も、私に追いつくとか、メジロのためにとか、そういうことを真面目に信じていたわ。そんなくっつけたような理由じゃ、レースに勝てないのにね」

「そうですか?」

「もちろん人によるわ。でも、アルダンにはそれでは足りなかった。体が弱くて、箱入だったあの子が持っているものは少なくてね。でも、ダービーの時は違った」

「……」

「自分を見てくれたトレーナーさんのため、共に鍛えてきたチームのメンバーのため、何より、あなたのために全力を尽くした。それこそ、足をへし折ってでも、ね」

「……ごめんなさい」

 

 これ、もしかして怒られているのでは? と思った。

 アルダンさんは限界以上に力を出して、結果今回の骨折につながった。

 全治1月ほど。治癒後のトレーニングも考えると、菊花賞までで復帰できるかは微妙らしい。

 その原因がボクだと詰められているのではなかろうか。

 ラモーヌさんは笑顔で肩出しのボディスーツとタイツ、燕尾服風の上着を取り出す。バニースーツだ。

 色っぽい服装だが、小学生にそれを着せるのはほとんど違法行為ではなかろうか。

 

 だが、断る選択肢もなく、ボクはおとなしくそれを着るのであった。

 

「……いや、むしろ感謝しているのよ。あの子を綺麗なお人形さんではなく、ダービーウマ娘にしてくれたのがあなたなのだから」

「……これ着せた後それを言いますか」

「それはそれ、これはこれ~」

「はぁ……」

「最初は、あなたのトレーナー、白井トレーナーが何かしたのかと思ったの。なんせあの天才の弟子だもの。すごい何かがあるのかなと思ったんだけど……」

「うちのトレーナーさんはすごいですけどね。レース展開完全に予想して、アルダンさんのレースプラン考えたのはうちのトレーナーさんですよ」

「やっぱりそうだったのね。確かにあそこで前が開くのを読んでいて、そこにアルダンちゃんを突っ込ませたのはすごいわ。でも、勝ちの根本的な理由ではない。きっと、アルダンちゃんが勝てた理由は、あなたよ」

「そんなたいそうなものですかね」

 

 ラモーヌさんの話術に完全に乗せられたボクは、すでにやけくそだった。

 幸い、白井トレーナーのおかげで体の成長は著しい。

 胸も随分肉がついたし、トモの発達もかなり良い。

 こういう露出の多い服を着ても最低限見栄えがするだろう。

 ラモーヌさんの指示に従いポーズをとると、やっぱり写真を撮られた。

 

「うーん、自覚がないのかー。まあいいわ。寮も同じだし、ヴィオラちゃんにもう興味津々だわ。これからヴィオラちゃんでも遊ぶからよろしくね」

「ボクでも遊ぶってどういうことですか……」

「だってヴィオラちゃん、いつも皇帝に遊ばれてるじゃない。噂の児童虐待レベルダサTシャツで」

「ルドルフさんは精一杯選んでいるんです。いわないであげてください……」

 

 美浦寮では完全に定着してしまったのだろう児童虐待レベルのダサTである。

 なんだかんだで結構ファッションにうるさそうなラモーヌさんも、直接見たら精神ダメージを受けるのではなかろうか。シリウスシンボリさんはダメージを受けていたし。

 まあ、ボクのファッションセンスもあまりよろしくないし、ラモーヌさんに少し、ウマ娘として恥ずかしくない格好について教えてもらうことにしよう。

 そのまま、いくつかの服で撮影会をした後、ボクはアルダンさんの部屋に案内をされたのであった。

 

 

 

 メジロの療養所での滞在はとても楽しかった。

 

 御飯がまずとてもおいしい。

 到着初日なんて、フルコースっぽいコース料理が登場した。

 フルコースっぽい、といったのは、なんか間ごとに、ニンジンが挟まるせいだ。

 ボクの知ってるフルコースにプラスして、ニンジンである。

 ただ、ボクの知っているのはあくまで前世の知識だから、世界が違うこちらではこれがフルコースなのかもしれない。

 初めて使うカトラリーにちょっと苦戦しながら、おいしく完食したのだった。

 

 温泉も素晴らしく、思わず何度も入ったら、入りすぎて湯あたりした。

 主治医さんにお注射まで打たれてしまい、少し大騒ぎだった。

 注射なんて怖くもないが、ラモーヌさんもマックイーンさんも大騒ぎしていた。注射、苦手なんだろうか。

 

 トレーニング施設の充実も捨てがたい。

 今回は完全に遊びに来ているからほとんど使わなかったが、ここにしばらく滞在してもトレーニングには困らなそうだ。

 

 みんなで料理を作ったりもした。

 朝食会の時にアルダンさんは普通に料理をしていたので、もともと料理ができるのだと思っていたがそうでもなかったらしい。

 ラモーヌさんもマックイーンさんも驚いていた。

 なお、ラモーヌさんは好奇心に従ってなんでも入れてしまうのでメシマズになるタイプで、マックイーンさんは卵を爆散させるオグリさんと同じタイプだった。

 

 大騒ぎしながら二泊三日を楽しく過ごし、その後もアルダンさんの脚が治るまで、ちょくちょくお泊りさせてもらうことになるのであった。

 

 

 

 日本ダービー後、ボクの生活はそう大きくは変わらなかった。

 せいぜいラモーヌさんが時々絡みに来るぐらいである。

 相変わらずルドルフさんは忙しいし

 相変わらずアルダンさんは美人である。

 相変わらずオグリさんは無茶苦茶飯を食う。

 同期でもメジロマックイーンさんはじめ何人か仲良くなったりした。

 

 毎日基礎トレーニングは地道に積み重ねていた。

 身長はぐんぐん伸びていき、毎月1cm以上のペースで大きくなる。

 体重も増えるが、トレーナーさんにちゃんと報告しているし、成長分だと思っている。

 

 夏になれば夏合宿、とおもいきや、トレーナーさんとラモーヌさんに拉致られてコミケットに参加させられ、コスプレしながら同人誌を売る羽目になったりした。

 やけになって、冬のコミケットには自分の写真集を売ったら、それなりに売れてしまい、それなりのお金が手に入る代わりにいろいろ失った気分になったのは誤算であった。

 

 年が明け、年齢が一つ上がったころ、ボクの成長は止まり始めた。

 まだ年齢的に伸びる余地はありそうだが、小さいころから鍛えすぎていた悪影響らしい。

 とはいえ身長は142cmまで伸びて背が低いながらも最低限の背の高さはあるし、体も骨もしっかりできている、とトレーナーさんに太鼓判を押された。

 

 トレーニングも本格化し始める。

 2回生になればメイクデビューが迫ってくる

 ボクが最初に目指すは7月の函館の札幌ジュニアステークス。一番最初に行われる重賞であった。




次の章から、ジュニアクラス周辺を始めていきます
チームの設定
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学年の設定
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