紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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第二章 紫の少女のジュニアクラス戦線
1 紫の少女と入学式


 入学して1年たつと、学年が一つ上がり、ボクは2回生になった。

 そうなると、新しいウマ娘たちが入学してくる。

 

 基本、ボクはウマ娘の知り合いなんてほとんどいないが、今年の新入生の中に、一人だけ、ボクの親友がいる。

 

「わー! ヴィオラちゃんおひさしぶりー! なんか結構大きくなってる!! やだ! 私より大きくなっちゃいやだ!!」

「お久しぶりです。イソノルーブルさん。あと、頭を押さえないでください、縮みませんよ」

「なんで他人行儀なのー!! お姉ちゃんって呼んでよー!!」

「そんな呼び方したことないです」

 

 すごい勢いで走ってきて、ボクに抱き着くと、頭をギューギューと抑えてくる。

 イソノルーブルさん。

 闇レースで競っていた仲であり、ボクより3つ上のウマ娘である。今は1学年下だが。

 

 あの殺伐とした業界でも、彼女とは仲が良く、姉さんなんて呼んでいた。

 ボクが体を張っていろいろ動いていたのは、姉さんたちのためといっても過言ではない。

 そんなイソノルーブルの姉さんだが、闇レースが壊滅した後、しばらく橋の下で暮らしていたらしい。

 収入もなくなって、家もなくなってしまったのだとか。ホームレス小学生である。

 それを知ったボクは慌てて母やイワシミズのお姉さんにお願いして、家に引き取ってもらった。生活費は奨学金をつぎ込んだ。よく考えたら学園で生活している限りお金ほとんど使わないし。

 ただ、年末以降、家に帰っていなかったので、ルーブルさんと会ったのは数か月ぶりだった。

 

 そうしてこの度、晴れてイソノルーブルの姉さんもトレセン学園に合格し、入学したのだった。

 

 だが、トレセン学園は結構お嬢様が多い。

 そんな学園に来たからには成長したところを見せたいし、アルダンさんをまねた丁寧なしぐさを心がけてみたのだが、ルーブル姉さんには甚く不評だった。

 

「それで、イソノルーブルさん」

「お姉ちゃんって呼んでよぉ!!」

「頭抑えんな、アホ姉さん!!」

 

 姉さんの身長は小さく140cmしかない。

 昔はボクのほうが小さかったが、ここ1年で結構伸びたので、142cm。

 正直どっちもチビの部類だと思うが、ボクに背の高さで越されたのが悔しいらしい。

 だが、正直うっとおしい。

 その手を躱すと、逆に両手で姉さんの頭を押さえた。

 

「いやぁあ! 縮むぅ!!」

「縮んじまえ!!」

 

 こんな風にじゃれながら、ボクたちは寮へと向かうのであった。

 

 

 

「やー!! ヴィオラちゃんと同じ部屋がいい~!!」

「いやいや、姉さんそもそも栗東じゃん」

「やー!!」

 

 そのまま寮へと二人でたどり着いたのだが、そこでルーブル姉さんがまた駄々をこね始めた。

 そもそも寮は学園から自動で割り当てられるので、学生側に選択の余地はない。

 もちろん相性の悪いルームメイトということがあるので、その場合寮長に申請すれば部屋の交代はできるが、その程度だ。

 そもそも美浦寮と栗東寮変更できないし。

 それを知ったルーブル姉さんが離れたくないと駄々をこね始めたのだ。

 もう、床に寝転がって盛大に手足をじたばたさせている。

 スカートがめくれてパンツ見えるし、もう見てられないぐらいひどい状況だ。

 しばらく駄々をこねていたが、これではらちが明かないと気付いたルーブル姉さんは、立ち上がり、ずんずんと寮の中に入っていく。

 

「ヴィオラちゃんのルームメイトをレースでぶったおして、私がそこに代わる!!」

「いや、部屋割りの変更権限があるの、寮長さんだし……」

「じゃあ寮長もレースでぶったおす!!」

 

 大声でそう叫ぶルーブル姉さん。

 さすがにやめたほうがいいよ、と止めようとしたのだが、もう遅かった。

 

「なるほど、この皇帝を倒そうというのかい? なかなか元気のよい新入生じゃないか」

「そうね、この女王に勝てると思っているなんて、元気な子ね。生意気♪」

 

 ボクのルームメイトの皇帝、シンボリルドルフさんと、ミホシンザン先輩の後任で美浦寮長になったメジロラモーヌさんにルーブル姉さんの叫びはばっちり聞かれていたらしい。

 

「なるほど、どっちがヴィオラちゃんのルームメイトで、どっちが寮長さん?」

「私がヴィオラ君のルームメイトで生徒会長をしているシンボリルドルフだ」

「私が美浦寮長のメジロラモーヌよ♪ フフフ♪」

 

 負けん気が強いところはルーブル姉さんのいいところだが、ちょっと無謀過ぎないだろうか。

 さすがにウマ娘業界をよく知らない人でも、この二人の名前は知っている。

 ルーブル姉さんだって知っているはず、というか入学式で多分二人とも挨拶をしていたはずだ。

 

 だが、勝負に燃えるルーブル姉さんは闘志をむき出しに二人をにらみつける。

 たぶんにらみつけている。

 ラモーヌさんよりちっちゃいから上目遣いにしか見えない。

 ぶっちゃけかわいい。

 

「まあ、新入生に実力を見せるのもいいだろう。着替えてレース場に来るように。えっと」

「イソノルーブルさんです」

「イソノルーブル君。ほかにも走ってみたい新入生がいたら、来てくれてかまわないよ。皇帝の実力、見てみたくはないかな?」

 

 普段鷹揚で優しいルドルフさんだが、勝負になると目の色を変えるところがある。

 ルーブル姉さんにあおられて、闘争心に火がついてしまったらしい。

 ルドルフさんがそう周りに言うと周囲がざわめく。

 ルドルフさんも、ラモーヌさんも皆にとって生きた伝説だ。

 一緒に走ってみたい、と思うは必然だろう。

 だが同時に、あこがれの対象でもある。

 躊躇してしまう気持ちも出るだろう。

 ルーブル姉さんのようにひとまずケンカを売る、後はそれから考えるようなウマ娘は例外なのだ。

 一瞬のざわめきの後

 

「はーい! ボクもカイチョーと走りたい!!」

 

 明るい声がその場に響いた。

 

「ふむ、たしか、トウカイテイオーだったか」

「覚えててくれたんだね、カイチョー!! ボクもカイチョーと走りたいよ!!」

 

 小柄なウマ娘が手を挙げ、ルドルフさんに話しかけてきた。

 トウカイテイオー。前世知識でいえば名馬中の名馬の一人だが、こちらの世界ではまだ単なる新入生だ。

 彼女がどれだけの実力を持っているか、ボクにはまだわからなかった。

 なんにしろ、ルドルフさん、モテモテだな。

 そんな風にボクは部外者としてみていたのだが……

 

「で、勝ったらその人と部屋を変われるんだよね。ボク、カイチョーと同じ部屋がいいから、そこの紫の子! ボクと勝負だ!!」

「え、ボク!?」

 

 なんでか知らないが、テイオーさんのご指名で、ボクまで巻き込まれるのであった。

 

「では、ルーブル君、テイオー君、トレーニング用のコースで待っているよ。場所はヴィオラ君に聞いてくれ」

「ちゃんと首を洗ってから来なさい♪」

 

 あまり多くの生徒を集めないためだろう。

 この場をボクに預けて、二人はこの場を立ち去った。

 鼻息荒いルーブル姉さんと、やる気満々のテイオーさんが残る。

 

「ひとまず、更衣室に行きましょうか」

 

 おそらくルドルフさんとラモーヌさんは自分の部屋で着替えてくるだろう。

 ボクは二人を連れて、更衣室へと向かうのであった。

 

 

 

 レースは更衣室の時点で始まっている、なんていう言葉がある。

 ここで体操着、場合によっては勝負服に着替えるわけであり、ここが日常と勝負が切り替わる場所だ。

 だから、ここで着替えるときにスイッチが入るウマ娘は多い。

 

 さっきまでやかましいぐらいしゃべっていたルーブル姉さんは、上着を脱いだ途端、一瞬で静かになった。

 レースに向けてスイッチが入ったのだろう。相変わらず二重人格のような変わりっぷりである。

 ルーブル姉さんは相変わらず線が細い。手も足も、すごくほっそりしている。

 だが、前に一緒に走ったときに比べ、おなかがかなり引き締まっている気がする。

 今まで闇レースに参加していたみんなは、ろくにトレーニング理論なんて知らないからがむしゃらに走りまくるぐらいしかしていなかった。

 ルーブル姉さんなんて典型的であり、完全な脳筋トレーニングだったはずだ。

 だが、あの体つき、最近はちゃんと誰かに指導されていたのではないか。

 

 一方のテイオーさんもまた、全体的に華奢な気がする。

 テイオーさんはあまり明確な切り替わりがないようで、鼻歌を歌いながら、踊るように服を着替えていた。

 動きがいちいちキレイで、やわらかいな、というのが印象だ。

 

「ヴィオラちゃんは相変わらず、私の裸が好きだねぇ」

「誤解を生むようなこと言わないでください。テイオーさんも隠さなくて大丈夫です」

「ヴィオラのエッチ」

「エッチじゃねーし!!」

 

 なんか著しい風評被害を受けた。

 なんで二人の下着姿を凝視しただけでそんなことを言われなければならないのか。

 いや、よく考えたら言われて当然だった。

 ちょっとへこみながら、ボクは二人を連れてレース場へと向かうのであった。

 

 

「あまり時間もない、さっそく始めようか」

 

 レース場にはすでにルドルフさんもラモーヌさんも居た。

 本来この時間は、寮長のラモーヌさんはもちろん生徒会長のルドルフさんも、オリエンテーションの対応をしなければならない。

 レースになって、ヒトが皆こちらに移っているからあまり問題はないが、長い時間かけるわけにはいかないだろう。

 

「レースは一周。スタートとゴールは同じ。1800m芝コースです。合図はアルダンさん、お願いしても」

「わかりました。早速行きましょう。よーいスタート」

 

 ラモーヌさんに連れてこられたらしいアルダンさんがちょっと適当なスタートの合図をする。

 それに合わせて、ルーブル姉さんが先頭を切って飛び出した。

 

 

 

 

 ルーブル姉さんは完全な逃げウマ娘である。

 先頭を切って逃げていくスタイルだが、ただそれだけではない。

 ルーブル姉さんは、結構ずるいのだ。

 ペースをごまかし幻惑したり、一切そうしたことをせずに普通に逃げたり。

 とにかく自分はペースを握り、相手のペースを崩すことにたけている。

 

 今も、2番手につけたボクや3番手に付けているテイオーの前でウロチョロしたり、ペースに緩急をつけたりして非常にうっとおしい。

 

「あらあら、ヴィオラちゃん、久しぶりに走ったら下手になってない?」

 

 ルーブル姉さんの煽りを聞いてボクはもっともだと思った。

 最近、基礎練習ばかりで、併走なんて、朝練で少ししているぐらいだ。

 闇レースでしのぎを削っていたころと比べたらもう蒸したてのまんじゅうぐらいぷにぷにである。

 一方ルーブル姉さんのことだから、その辺の合法的な野良レースにはしょっちゅう参加していたはずだ。

 レース勘にはかなりの差があるだろう。

 なので…… ボクは速度を上げて、ルーブル姉さんの横につけた。

 完全な競り合いの姿勢だ。

 基礎トレーニングを積み重ねている以上、あのころからかなり身体能力は上がっている。

 特にスタミナは段違いなので、スタミナの差を生かしてつぶすことにしたのだ。

 

 振り払おうとするルーブル姉さんは激しくペースを変えて前後に動く。だが、それに合わせるだけならば、スタミナの消費を嫌がらなければそこまで難しい話ではない。

 第三コーナーを回るころには、ルーブル姉さんも、後ろにいたテイオーさんも完全にばてていた。

 

 ハイペースでこのまま押し切ろうと第四コーナーから加速する。

 ルドルフさんもラモーヌさんも、後方待機をしていたのは見えている。

 定石でいえば、ハイペースで逃げて届かないところまでセーフティリードを稼ぐのがいいと考え、とにかくルーブル姉さんをあおってペースを上げていたのだが……

 

「そんな風に遊んでいて逃げられると思われていたのなら心外だな」

 

 ルドルフさんとラモーヌさんがすさまじい勢いで上がってきた。

 尻尾が逆立ち、空間のゆがみすら感じる。

 おそらく領域ぐらいは発動していると思われる。

 あんなのポンポン気軽に使うのはこの二人ぐらいしかできない芸当だ。

 

 テイオーさんがちぎられ、ルーブル姉さんもぶっちぎられ、そして必死に逃げるボクは一瞬だけ並んで粘ったが本当に一瞬だけで同じくぶっちぎりられた。

 

 結局二人は並んでゴールし、離されてボク、ルーブル姉さん、テイオーさんの順でゴールの前を通ったのだった。

 

 

 

 結局負けた二人はおとなしく部屋に帰っていった。

 帰っていったのだが……

 

「ヴィオラ君、二人の案内をしてやってくれ」

「デュレン先輩、ボク、美浦寮、栗東寮チガウ」

「二人と仲良くレースをしたらしいじゃないか。私を差し置いて、そう、私を差し置いて」

「ボクのせいじゃないですよ!?」

 

 寮に戻って、挨拶に精を出すルドルフさんやラモーヌさんを置いて少し休憩していたら、栗東寮のメジロデュレン寮長につかまり、ルーブル姉さんとテイオーさんのオリエンテーション案内を押し付けられた。

 この二人、同室になってしまったらしい。

 当然二人とも新入生なので案内はほかの先輩がする必要があるが、デュレン先輩直々にボクにやるように命令が来てしまった。

 

 生徒会長と美浦の寮長がレースをしたのに、自分だけハブられたことの八つ当たりが結構入っている気がする。

 だが、レースを吹っ掛けたのはルーブル姉さんであり、それを高値で買ったのはルドルフさんたちだ。

 ボクは単に巻き込まれた被害者でしかない。

 と文句を言ったが見事に黙殺された。

 

 仕方がないので三人で学園を回ることになってしまったのであった。

 

 

 

 


 

 

「そういえば私は勝ったから、ヴィオラ君は何でも一つ言うことを聞いてくれるんだよね」

「そんなルールないですよルドルフさん!?」

「何、そう難しいことではない。いつも私がペアルックの服を選んでいるからね。たまにはヴィオラ君が選んでくれないか」

「まあ、それくらいなら……」

 

 あのダサTを着る習慣は1年たった今でも続いており、月1でラインナップが増えていく。

 いつもルドルフさんが選んでいたが、ボクにも一度選んでほしいということだった。

 それならば、ということで、ボクが選んだのは……

 

 ゴスロリだった。

 

「ちょっとこれは、私には似合わないんじゃないか「似合いますよ絶対!!」そ、そうか」

 

 食い気味にボクは答える。

 ルドルフさんは確かに男性的な雰囲気が普段からあるし、服装も大人っぽい感じのものが多い。

 だが、基本ウマ娘は皆顔がいい。

 ルドルフさんも普通に顔がいいし、髪も長くてきれいだ。

 ちょっと体格がいいのであまり膨張色はよくないだろうが黒地に黒のリボンがいっぱいついた感じのゴスロリドレスならば十分に合うはずだと思ったし、現に着せたら非常に似合っていた。

 なお、ペアルックなので当然ボクも同じデザインの白ゴスロリである。

 

 おそろいの日傘をもって、うきうきお散歩デートである。

 最初は腰が引けていたルドルフさんも、着てみたら似合っているし、外に出たらノリノリになっていた。

 基本ノリがいいのだ。

 ラモーヌさんのコスプレコレクションからアルダンさん経由で流してもらって、夜なべしてサイズを作り直した苦労をした甲斐があったというものである。

 

 

 

 なお、ラモーヌさんは

 

「お姉さまって呼んで♡」

 

 と言ってきたから黙殺した。

 代わりにアルダンさんを

 

「アルダンお姉さま」

 

 と言ったらアルダンさんは喜んでくれた。

 アルダンお姉さまはいつもボクの面倒を見てくれるし、優しくしてくれるのでお姉さまという価値がある相手だ。

 一方ラモーヌさんはいつもケミカルX作って後始末させるわ、書類仕事丸投げしてくるわ、着せ替え人形にして売り子を強要してくるわ、基本迷惑しかかけられていないのだ。

 お姉さまと呼ぶ価値なしである。

 

 なんにしろ、騒がしい学園2年目の生活が、幕を開けたのであった。

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