紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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アグネスフローラはアグネスタキオンの母です。
アグネスタキオンの母です。
大事なことなので2回言いました。


3 紫の少女の学年旅行

 2回生の春に、学年旅行というイベントが存在する。

 2泊3日で学校で旅行に行くというイベントである。

 今回の目的地は横浜。

 近場だが観光名所は多い場所だ。

 トレセン学園は自主性を重んじるので、二人一組を作り、それぞれが旅行プランを考えることになっていた。

 

 そう、()()()()を作るのだ。

 

 俗にいう、二人組を作ってー、というやつである。

 ボクにとっての地獄が、始まった。

 

 全学年で探していいのならば、相手はいるだろう。

 ルーブル姉さんはお願いすればまず確実に組んでくれるし、アルダンさんあたりだって組んでくれそうだ。ルドルフさんと組むのだっていい。

 だが、これは学年旅行。

 当然同じ学年の人としかペアは組めない。

 

 ほぼ唯一の友達であるパーマーさんとヘリオスさんは、すぐにお互いペアになった。

 マックイーンさんはライアンさんと組んでいた。

 あと顔見知りといえば、リギルのスイートミトゥーナさんだが、さっさと友達とペアを組んでいた。

 友達のいないボクは完全に詰んだ。

 

 もちろんまだペアが決まっていない子もそれなりにいる。

 だが、そういう子にいきなり話しかけるのもハードルが高い。

 何よりちょっと遠巻きにされている気がする。

 心が完全に折れた。

 

 このまま一人旅にするかというのも考える。

 だが、それをするときっとテイオーあたりが馬鹿にしてくる。

 いや、訂正しよう、テイオーのことだ。純粋に心配して憐れんでくる。

 さすがにここまでボクがダメージを受けているのに傷にあえて塩を塗ってくるとは思えない。

 だが、純粋な善意でかわいそうといいそうである。

 そちらのほうがダメージが大きい。

「ボクが、友達になってあげようか?」

 なんて言われたら舌を噛み切って死ぬ。

 でも絶対言う。絶対善意100%で言ってくる。

 プライドと命を懸けて、ペアの相手を探さねばならない。

 

「あの、ヴィオラさん」

「? なんですかフローラさん」

 

 そうやって悩んでいるボクに、声をかけてきたのはアグネスフローラさんだった。

 話したことなんてほとんどないので、なんだろうと首をかしげると

 

「今度の旅行、私とペアを組んでくれませんか?」

 

 と言ってくれたのだ。

 

「是非! よろしくお願いします!!」

 

 捨てる神あれば拾う神あり。

 ボクはフローラさんが女神に見えた。

 だが、ボクはもう少し慎重に考えるべきだった。

 そして、知っておくべきだった。

 サタンというのは女神の顔をして訪れるものだということを。

 

 

 

「そういえば、なんでフローラさんはボクに声をかけたんですか? チームメイトのダイイチルビーさんは?」

 

 用紙に自分の名前とフローラさんの名前を書いて、最低限の尊厳を守ったボクは、フローラさんに話題を向けた。

 フローラさんは、ボクの記憶が正しければラモーヌさんも居るチームアンタレスの所属である。

 そして、アンタレスに2回生は二人、フローラさんとダイイチルビーさんがいたはずである。普通ならチームメイトでペアを組みそうであるが……

 

「ルビーちゃんはヘリオスさんにお熱なんですよ。ほら」

 

 フローラさんの言うほうを見ると、黒鹿毛の少女、ダイイチルビーさんが、ヘリオスさんと話している。

 だが、ヘリオスさんは確かパーマーさんとすでに行くという話をしていたはずだ。

 三角関係が発生していた。ちょっとワクワクする。

 

「おおっ!」

「ルビーちゃんはヘリオスさんと幼馴染なんですが、素直になれないらしくて」

「素直に好意を伝えるって難しいですからねぇ」

「でも、最近ヘリオスさんがパーマーさんとばかりいっしょにいるから嫉妬しちゃって、今回は頑張るらしいです」

「すごいですねぇ」

 

 まさにラブコメチックな展開である

 ちなみに、ウマ娘同士の恋愛、というのも普通にある。

 血統を重視されるウマ娘だが、ウマ娘同士の夫婦でも、不思議パワーで子供ができるのだ。ウマ娘すごい。

 だからこそ、こういう恋愛関係だってありなのだ。

 まあ、中学生ぐらいのころは憧れはあるがみんな意識がレースに向いており、大体こういうラブストーリーが始まるのは高等部後半のようだが。

 

「で、そうすると私のペアはどうしようかなーと思ってたら、ラモーヌさんが、『ヴィオラレジーナさんがおそらくボッチで泣いてるから、組んであげて』っておっしゃって」

「な、泣いてないやい!!」

 

 ぶっちゃけマジで泣き出す5秒前ぐらいだった気がするが。

 ラモーヌさんへの感謝と、風評被害への怒りが合わさり複雑な気持ちになる。

 

「あ、でもルビーさんがヘリオスさんと組めなかったらどうするんですか? 成否聞いてからでもいい気がしますが」

「恋のダービーは弱肉強食。不退転の覚悟なく挑むぐらいなら切腹するべきですから」

「さ、さいですか……」

 

 急に鎌倉武士みたいな決意の話をされて、ボクは少しビビるのだった。

 

 

 

 結局ルビーさんは、ヘリオスさんとパーマーさんと3人で回ることになったらしく、切腹の危機は避けたようだ。

 そしてボクは、トレーニング後、フローラさんの部屋で旅行計画の打ち合わせをすることになった。

 

 フローラさんの部屋は栗東寮で一人部屋らしい。

 ちょっと変わった人だけどお嬢様っぽいし、部屋の中はファンシーだったりするのだろうか。

 

 寮の部屋は住人によって結構変わる。

 ボクとルドルフさんの部屋はルドルフさんのキャラが反映されて、あまり物がなく質実剛健といった雰囲気だが、そんな雰囲気の中、壁にかかっている1枚のダサTが異質なオーラを発している。ほかの人には「絶対に笑ってはいけない部屋」とよばれ、来訪者は多くない。

 アルダンさんの部屋なんかは上品な家具でまとめられ、まさにお嬢様といったオーラが出ている。紅茶が飲みたくなるお部屋である。

 ラモーヌさんの部屋はとにかく服であふれている。

 ほとんどコスプレまがいの服ばかり、というかコスプレ服だが、日常的な相談のほか、勝負服の相談や、デートの時のファッションなどの相談で訪れる人は多い。

 

 そうしてフローラさんのお部屋は……

 研究室だった。

 

「は?」

 

 寮の中に研究室である。

 真ん中に手術台のようなベッドがあり、なんか手かせ足かせがついている。

 周り中にはフラスコやらビーカーやら試験管やら、様々な実験器具が並べられており、赤青黄色緑と、様々な色の液体や固体が入っていて、いくつかは鮮やかに光っている。

 呆然と立ち尽くすボクの背中で、ガシャッ と無情にも鍵が閉まる音がした。

 

「えっ?」

「ようこそモルモットちゃん、私の研究室へ♡」

 

 マッドな表情のフローラさんは、狂気的であり、ひどく魅力的だった。

 

 

 

「うう、お嫁にもういけない……」

「服を脱がせて全身を触診しただけじゃないですか。仰々しい」

「仰々しくないです!!」

 

 そのままベッドに寝かせられて、下着姿で腕やら脚やら腹筋やらを確認されたのだ。普通ならトラウマ物ではないだろうか。

 

「ヴィオラちゃんは、毎日トレーナーさんとそれ以上のことしてるのに?」

「あれはただのマッサージです!! フローラさんだってトレーナーさんとそんなことしてるんですか!?」

「うちの小内トレーナーは極めて紳士的だから、指一本触れないわよ。あなたのところの変態さんとおなじにしないで」

「辛らつだけど否定できない!!」

 

 監禁して、美人なお嬢様にあれこれされたら…… あれ、ご褒美? 

 意外と悪くない気がしてきた。

 

「前からあなたのカラダには興味があったのよ」

「なんか言い方がエッチです」

「? ただの学術的な話よ? 全然エッチじゃないわ」

「さいですか……」

「ほら、あなた闇レースに出てたんでしょ?」

「その話、あまりしないでいただければ……」

 

 下手に話すとやばい話だ。URA上層部だけでなく、今を時めくメジロ家にも思いっきりかかわるスキャンダルである。ただの核地雷である。爆発すれば焦土だ。

 

「ああ、別に脅しているわけではないわよ。興味があるのはヴィオラちゃんのレース成績ね。月1回以上、下手すると毎週レースに参加しても、怪我したことが一度もないなんて、信じられないと思って、興味があったのよ」

「なるほど」

 

 闇レース最強と言われたのは、ボクがとにかくレースに出まくって、最多勝を繰り返したせいである。

 勝率でいえばたぶん輝峰さんこと、パーマーさんのほうが高かったが、パーマーさんは勝てるレースを明らかに選んでいた。

 最多出場数と最多勝利数。それはおそらく間違いないだろう。

 

「骨も丈夫だし、トモもパンパンに発達してるし、いいわねぇ」

「頬ずりすんな!!」

 

 なんだ、ボクの太ももは肌触りがいいとでもいうのか。最近はラモーヌさんまで膝枕を要求してくるし! 

 

「ということで、みんなをあなたみたいに丈夫にするのが私の目標なのよ。なので実験の協力として、これ飲んで」

「…… なんですか、これ」

「ミックスジュースよ」

「何をミックスしてるんですか!?」

 

 フローラさんが取り出したのはショッキングピンクの液体だった。

 光ってるし、どう見てもジュースには見えない。

 

「いいからいいから」

「よくな、ガボガボガボ」

「あはは、光ってるよヴィオラちゃん」

 

 強引に飲まされたボクは、ピンク色に発光した。

 

 

 

 散々もてあそばれて、ピンクに発光しながらボクは解放された。

 保健室に行ったが、検査しても特に異常はないらしい。

 ピンク色に光ってるのに異常ではないとはどういうことなのかわからないが、異常な薬物も検出されなかったという。

 

 白井トレーナーに相談したら

 

「これってヒトの機能回復にも役に立つのかな」

 

 とか言いながら、なぜかフローラさん側に回った。

 

「やめろー! ショッカー!!」

「先っちょだけ、先っちょだけだから」

「うわあああああ!!」

 

 トレーナーさんまで敵に回ってボクにできることはなかった。

 翌日は赤く輝くことになるのであった。

 

 なお、ルーブル姉さんは逃げだした。

 だが、ボクは姉さんを追いかけることも、助けを求めることもしなかった。被害者は一人で十分だ。

 

 ダイイチルビーさんが、なぜヘリオスさんに必死に言い寄っていたのか分かった。

 最初見た時、ボクはパーマーさんにヘリオスさんをとられる危機感だと思っていた。

 

 いつも一緒にいた幼馴染。

 恋心を秘めた相手。

 それに突如現れるライバル。しかも距離感が近い。

 危機感を覚えたルビーさんが、必死に恋をかなえようとするが、不器用な彼女はうまくいかない。

 そんなストーリーを脳内で描いていた。

 

 ボクはとんだ恋愛脳だった。

 今ならわかる。あれは、大災害から逃げる避難民の態度だ。

 結局、危機感を持っていたルビーさんと、恋愛脳のお花畑だったボク、その差が、後を分けたのだった。

 

 すべての元凶、ラモーヌさんに文句を言いに行ったら、

 

「ピンクに光ってるの、似合ってるよ!」

 

 と笑顔で言われた。

 ボクは、無言でラモーヌさんの口に澄み渡る空の色をした真っ青なミックスジュースをぶち込んだ。

 ラモーヌさんは光らなかった。

 おかしいと思って残ったジュースを飲んだら、ボクはレインボーに輝き始めたのだった。

 

 だが、こんな非人道的な行いが許されるはずがないのだ。

 盛者必衰。

 ボクが虹色に輝いているのを見たアルダンお姉さまが、東条トレーナーに言いつけたのだ。

 ヒトがウマ娘に勝てるはずがない。そんなことは幻想である。ヒトは弱い生き物ではないのだ。

 おハナさん(41)は、一瞬にして白井トレーナーをジャーマンスープレックスで沈めると、フローラさんとラモーヌさんと、どこからか連れてきた小内トレーナーを並べて説教を始めた。

 開始30秒のことであった。

 種族、年齢、そういったものは関係ない。精神は肉体を凌駕する、ということをおハナさんはその身をもって示したのだった。

 ボクは、おハナさんを神と崇めることを決めた。

 

 

 

 騒動はあったが、結局学年旅行は、フローラさんとペアを組むのは継続にした。

 フローラさんがお詫びに旅行中の食事をおごってくれるといったからだ。

 ボクに足りないものは、金と友達である。それを解消できる和解案が出たら、乗らざるを得なかった。

 

 計画は、午前中にラーメン博物館へと行き、そのまま走って移動して午後は中華街食べつくしである。

 

 教官はこの旅行計画に難色を示したが、最大限の知識と文章力、そして誠心誠意込めた説得により無理やり通したのだった。

 ちなみにマックイーンさんは野球観戦をいれようとして怒られていた。

 

 

 

 朝のラーメンは一日のコースのスープのようなもの。

 博物館内のすべての店を回り、全部乗せのラーメンを食べ続ける。

 フローラさんも結構大食漢であり、ボクのプランについてきてくれる。

 醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン、とんこつラーメン

 スープと麵と具の複雑なコンビネーションだ。

 

「小麦の麵と、御飯ですの?」

「ラーメンと言ったらライスですよ」

 

 こういう時にどうしても前世のおじさんっぽい趣味が出てしまう。

 だが、ラーメンライスは譲れない。

 スープをかけながらのご飯も、チャーシューで食べるご飯も、すべておいしいのだ。

 

「ラーメン、素晴らしいですわ……」

 

 ボクに付き合ってラーメンライスの食べ方をマスターしてしまったフローラさんが、何か変なものに目覚めてしまった気がするが気にしないことにした。

 

 

 

 新横浜の駅で崎〇軒の巨大シューマイをつまみ、栄養補給をしながら走って中華街に向かう。

 新横浜と横浜の距離は結構遠いのだ。

 道なり10km弱ある。

 だが、油と炭水化物と炭水化物を補給した、ボクたちのスタミナはSS+1200を超えている。

 そのまま中華街に飛び込むと、巨大豚まんをほおばりながら、店を回り続けるのであった。

 

 高級な中華については、フローラさんにお任せだ。

 マッドなフローラさんは、どうも珍味とかゲテもの系に流れがちだが、別に食べられない物を勧めてきたりはしない。

 そして、ボクは味さえよければ何も問題ないのだ。

 仔羊の脳みそは普通においしかった。

 なお、生首の丸焼きみたいなそれの写真にとってUMAINEのグループに送って自慢したら、無茶苦茶怒られたのだった。

 

 

 

 そうして食べて食べて食べつくしたら、フローラさんと二人、無事太り気味になった。

 乙女がしてはいけないおなかになった。

 うちの白井トレーナーも、フローラさん所の小内トレーナーもダートに埋められていたので、ボクらのダイエットは二人をダートに埋めたおハナさんが対応してくれることになった。

 

 食べ物はおいしい。ラーメンは最高だ。しかし、調子に乗ると大変なことになるというのをボクたちは身に染みて感じたのであった。

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