さて、当然ながらボクも遊んでばかりというわけではない。
クラシッククラスの日本ダービーが終われば、ジュニアクラスのメイクデビューが始まる。
そのための特訓をしなければならないのだ。
白井トレーナーのプランにより、ボクのカラダも仕上がってきた、らしい。よくわからないがトレーナーさんが言うのだからそうなのだろう。
ここまで来るには延々と基礎トレーニングであった。
基本はまず、柔軟体操である。
脚が180度まで開くようになったし、開脚前屈だって体がべったりと地面につくのだ。
トレセン学園に来る前は当然のようにこんなことまるでやっていなかったから、最初はもうがちがちだった。腰が90度以上曲がらなかったし、脚だって90度ぐらいしか開かない。
本当に硬かったのを1年弱でここまで持ってきたのだ。
なお、ルーブルの姉さんも入学したてのボクと同じぐらいの硬さだったので、今はたっぷりと柔軟体操をさせられている。
姉さんの悲鳴がチームルームに響くのはしょっちゅうのことである。
あとはマシントレーニングだ。
負担をかけずに筋肉をつける、ということで、負荷が軽めのことを反復してやらされていた。
走るだけだとどうしても筋肉が偏る。
マッサージで体付きを確認され、それをもとにトレーニングメニューを組まれて筋肉の偏りを是正していく。これのおかげで脚の肉付きのバランスも良くなった気がして、個人的には非常に満足である。
将来は美脚モデルになりたい。
最後に肺活量のトレーニングのための水泳をやらされていた。
水の好き嫌いはウマ娘によりかなり分かれるが、ボクは泳ぐのは非常に好きである。
延々と潜水して泳ぐなんて言うのが好きで、最終的には潜水遠泳300mの記録まで達成してしまった。
肺活量もばっちり。体は完全に出来上がっていた。
現状、をまとめるとこんな感じである。
身長142cm
同学年の周りに比べればかなり小さいほうだが、年齢からみれば大きいほうだ。もうちょっと伸びるとうれしい。
体重はばっちりである。
学年旅行から体重はちゃんと落とした。
基本的には水泳で落とした。泳いで泳いで泳ぎまくった。
フローラさんは謎のミックスジュースを飲んだら次の日には戻っていた。
うらやましいような、うらやましくないような。
スリーサイズは78/57/89である。
尻がでかいな。自分でもそう思う。栄養はすべて尻に行く。
鍛えているからしょうがないのだ。ガンガン脚とかの筋肉が発達していく。
もうちょっと上半身を鍛えないと下半身のパワーを抑えきれないかもと最近思って調整していたりする。
体は出来上がってきているので、次は走る練習だった。
これがまた過酷を極めた。
そもそも体に身についてしまっている走り方というものがある。
慣れているのでそれを自然にしてしまうが、分析していくと非効率な部分はかなりあるものだ。
特にボクのカラダに身についた走り方は、鍛える前の走り方だ。
そのころの最適な走り方と、今の走り方は全く違った。
「右足は後1cm内側、左足はそのままで」
スローで走るポーズをしながら、綿密にチェックされ、矯正をしていく。
普通に走ると元に戻ってしまうこともあるので、撮影してスロー再生してチェックする。
直したと思っても戻っていたり、主観ではできているつもりでも全くできていなかったり。
そんな行ったり来たりの繰り返しである。
そんな地道な作業で矯正をしていくのだ。
「うう、なかなかうまくいきません」
「かなりましだと思うよ。体幹が強いから軸がぶれないし、手の振りもしっかりしているし」
「そのあたりは近所のおじさんに教えてもらったんですよ」
「おじさん? どんな人?」
「名前は知らないんですよね。ボクの家の近所にいた、イワシミズさんの知り合いらしいのですが、イワシミズさんは「名前を言ってはいけないあのおじさん」って言っていました」
「怪しいだけじゃない……」
「仕事もしてなさそうだったので完全なニートです」
「本当に怪しいだけじゃない……」
本当にただの近所の不審人物である。
ただ、おじさんに教えてもらった技術やトレーニングがあったから今ここまで来れていると思うと、感謝の気持ちはあるのだ。
「ルーブル姉さんもおじさんに教えてもらってたって言ってたよね。おじさんの名前知ってる?」
「しらない。でも元トレセン学園のトレーナーって言ってた気がする」
「へー。そういえばおじさん、脚の調子はどんな感じだった? 最近会えてないしさー」
「体調はそこそこよさそうだったよ。最近は外歩いてることも多かったし」
「足が悪い方なんですか?」
「右足が昔から悪くて歩くのも苦労してたみたいですね」
「なるほど…… 一度会ってみたいですね」
「? そうですか? じゃあうちに来ますか? イワシミズのお姉さんに頼めばすぐに会わせてもらえるだろうし」
ただの脚の悪いおじさんなのだが、何が白井トレーナーの琴線に触れたのだろうか。
まあ、そんなことを言うなら家庭訪問とかそういう感じで来てもらうか。
母に電話して、トレーナーさんを連れていくことを伝えるのであった。
都営のぼろいアパートがボクの実家であり、今はルーブル姉さんの実家でもある。
メジロのお屋敷や、シンボリのお屋敷なんかに比べれば1部屋以下の広さであるが、だからこそ落ち着けるところもかなりある。
母にすでに連絡をして、夕飯もうちでみんなで食べることになっていたのだが……
「やっぱりあなたでしたか、ムラサキさん」
「この子の髪の色でわかりますよね。ヴィオラレジーナの母のムラサキです。いつもヴィオラがお世話になってます」
「あれ、お母さん、トレーナーさんと知り合いなの?」
会った瞬間あたかもお互い知っているような挨拶だった。
「そうですね、知り合いですよ。玄関先で話すのもなんだから上がってちょうだい、白井さん」
「ええ、お邪魔します」
何となく反応が硬い。母の表情は営業スマイルだし、トレーナーさんは無表情だ。
昔からの知り合い、の割には仲がいいのかも、よくわからない反応である。
ボクとルーブル姉さんは戸惑いながらも、トレーナーさんに続くのであった。
うちは基本、床に座るスタイルで生活している。
母がちゃぶ台の前に座り、トレーナーさんがちゃぶ台をはさんで反対側に座る。
ボクは母の膝の上に座って、ルーブル姉さんはちょうど90度の位置に座った。
「ヴィオラ、また重くなったわね」
「成長期だもん」
すりすりと頭を母の首や胸に擦り付ける。
母はくすぐったそうにしながらボクの髪をもてあそぶ。
入学当初は肩に届かないぐらいのボブカットぐらいの長さだった髪も、今は胸の下まで届くぐらいのロングヘアになっている。
もともとはあまり長いと邪魔なので母に切ってもらっていたのだが、ルドルフさんにあこがれて伸ばし始めたのだ。
ただただ伸ばしていたのだが、毛先をそろえたりするために切ったほうがいいらしく、最近ラモーヌさんに少しだけカットしてもらって、綺麗になっている。
成長してるんだぞー、と母にアピールしたく、こうやって擦りついていた。
「……」
「白井さんも、ヴィオラに良くしてくれてありがとうございます」
「……それが仕事ですから」
何かを聞きたそうにしているが、口には出さないトレーナーさん。
「私が退学になって、何年ぐらいたったかしら?」
「11年です」
「よく覚えてるわね」
「お母さん、トレーナーさんと同期だったの?」
「白井さんのほうが年下よ。一つだけね」
どうにか水を向けてみても話がまるで弾まない。
トレーナーさんは何を聞こうとしているのだろうか。
母は何を隠そうとしているのだろうか。
お互い相手をうかがっており、奇妙な沈黙が流れていた。
「こんにちはー」
「こんにちゃー」
「あ、イワシミズのお姉さんも、バージちゃんもいらっしゃい」
沈黙の少しあと、イワシミズのお姉さんがうちに来た。
約束も何もないと思うがいつものことである。
そうして、部屋に入ってきて、イワシミズのお姉さんは固まった。
「…… お久しぶりです、バージさん」
「…… お久しぶり、アグネスさん」
「二人も知り合いなんです?」
母とイワシミズのお姉さんは学園時代からの仲と聞いているし、母とトレーナーさんも学園で同じだったみたいだから、二人が知り合いでも確かにおかしくない。
だが、イワシミズのお姉さんを睨みつけながら知らない名前を出したトレーナーさんと、ひどく困惑したイワシミズのお姉さんが、ただならぬ事情があることを物語っていた。
バージちゃんを抱っこして、母の膝の上に戻る。
さすがに二人が膝の上に乗れば、母は重いだろうが、なんかただならぬ気配がするし、我慢してもらおう。
「バージさん、その子は?」
「私の子だよ」
「……」
「トレーナーさん」
ボクは、バージちゃんを向かい合わせになって抱きしめる。
「その目はやめてください」
「……」
「トレーナーさんとイワシミズのお姉さんに何があったかは知りません。母と、何があったかも知りません。もしかしたら何か恨んでいるのかもしれません。でも、バージちゃんは関係ありません。それは、子供に向けていい目じゃない」
「……ごめん」
バージちゃんをトレーナーさんが見た瞬間、殺意すら混じっているのではないかという目をしていた。
本当に何かあったのだろうか、と思うが、それにこの子は関係ない。
バージちゃんは大事な家族だ。無関係にそれを巻き込むならトレーナーさんといえども敵にしなければならなくなる。
幸い、トレーナーさんも多少冷静さを取り戻したらしく、謝ってくれた。
しかし、このギスギス空間はどうしようか。
バージちゃんを連れて一度どこかで時間をつぶしたほうがいいだろうか、なんてことを考えるが……
母が、ボクを膝から降ろして、バージちゃんを受け取った。
「ヴィオラ、あなたがいたほうがこの場は収まりそうだしまかせるわ。バージちゃんの面倒は母がみてるから」
「ん、わかった」
「バージちゃん、お砂場行こうか?」
「いくー!!」
母がバージちゃんを連れて近くの公園へと向かうのであった。
「で、バージさん、あの子は誰なんですか?」
「ここではイワシミズで通ってるから、そっちで呼んで」
「……イワシミズさん、あの子は誰なんですか?」
「私とトレーナーさんの子、って言ったらどうする?」
一瞬にしてトレーナーさんの髪が逆立つ。
慌ててルーブル姉さんと一緒にトレーナーさんに抱き着いて、立ち上がろうとしているのを止める。
暴れられたらこのボロ家が壊れてしまう。
そうなったら明日から母とルーブル姉さんと3人で橋の下生活である。
いや、それはそれで楽しいかもしれないが。
「冗談だ。トレーナーさん、結局私に手出さねーんだもん。あれは私だけの子だ。かわいいだろ」
「冗談言うタイミングじゃないと思うんですけど。というかトレーナーさんって誰です?」
「そっちのアグネスと私の担当トレーナーだよ。前のスピカのトレーナーさん」
「へぇ。母とも関係あったんですか?」
「いや、姐さんは独立独歩だったからね。担当トレーナーがいなくてさぁ」
母は無関係らしい。
バージちゃんを連れて外に出て行った理由が少しわかった。
で、おそらくイワシミズのお姉さんは前スピカトレーナーさんが好きで、白井トレーナーも前スピカトレーナーさんが好きだったのではないだろうか。
どろどろの三角関係である。ちょっとワクワクする。
「バージさん!! 東条さんがどれだけあの人を待ってるかわかってるでしょう!!」
「だからイワシミズだってば。それに、私はトレーナーさんの意思を尊重しただけだって」
「ちょ、力つよ…… というかなんでおハナさんの話が?」
「あー、トレーナーさん、前スピカトレーナーの沖野さんは、おハナさんと婚約してたんだよ」
「へ? 本当に?」
どんどんやばい情報が出てきている気がする。
「ヴィオラちゃん、どうせその沖野さんって、あのニートおじさんでしょ!! 今から連れてくる!」
「ルーブル姉さん! おねがい!」
ここまで情報がそろえば大体話が分かってくる。
このまま家が吹き飛んで3人で橋の下生活をするなら、ひとまずあのニートおじさんに責任ぐらい取らせてやろう。ルーブル姉さんもボクもそう考えたのだった。
幸いニートおじさん、沖野さんは、脚に不自由があるのもあり、ウマ娘に勝てるヒトではなかった。おハナさんの関係者だから、と警戒していたが、ルーブル姉さんが簡単に担いできた。
「やあ、アグネス。久しぶり。元気してるか?」
「トレーナーさん……」
沖野さんに会ったトレーナーさんは、どこか辛そうにしていた。
「ヴィオラちゃんもルーブルちゃんも、二人についてどれだけ知ってる?」
「何にも知りませんよ」
「私も何も知らないよ」
「今は白井を名乗ってるみたいだし、白井で呼んだほうがいいわね。白井さんは、将来有望なウマ娘だったの。でもデビュー直前で、練習中に大事故を起こしてしまったのよ」
「大事故?」
「走行中の骨折ね。転倒して、すごい勢いで転がって、あわや外ラチに激突して大惨事っていうときに、トレーナーさん、あそこにいる沖野トレーナーが身を挺してかばったの」
「…… すごいですね」
「で、白井さんは助かったんだけど、怪我が重すぎてデビュー前に引退しちゃったし、トレーナーさんは一時期重体にまでなってね。結局後遺症も残っちゃったからトレーナーを引退して、それで私が面倒を見てたってわけ」
「じゃあバージちゃんのお父さんって……」
「残念ながらそれは違うわ」
「……残念?」
「私はトレーナーさんが好きだったの。いえ、今でも好きかもしれない。だけどトレーナーさんは受け入れてくれなかった。あの子は私の子よ」
なかなか愛憎あふれる話である。
ちなみにウマ娘はウマ娘同士でも、性別問わずヒトを相手にしても、さらには一人だけでも子供を作れる、結構謎な生き物である。
ボクは、母の処女懐胎だときいているが、もしかしたらバージちゃんもボクも、イワシミズのお姉さんと母との間の子なんじゃないかとちょっと思っていた。
母とイワシミズのお姉さん、とても仲が良いし。
だが、今の話と、何よりもイワシミズのお姉さんの表情を見て、それはないなというのを悟った。
沖野さんを見る目が違う。
そして、白井トレーナーを見る目も違う。
これがイワシミズお姉さんの本気での愛なのだろう。
母に対する視線とは質の違う目だった。
「……お姉さんは、白井トレーナーを恨んでいるんですか?」
「うーん、恨んでいるとはちょっと違うかな。嫉妬してる、んだと思う」
「嫉妬?」
「トレーナーさんに命がけで助けてもらったのとか、トレーナーさんに消せない傷を残したのとかが、うらやましい、のでしょうね」
「……」
あまりに重すぎる感情に、言葉を失う。
イワシミズのお姉さんは、普段はさっぱりしているし、子供は溺愛しすぎているし、ボクもかなり溺愛してくれる、近所の人のいいお姉さん、というのがボクの印象だった。
だが、この粘着くような黒く、深すぎる愛情もまた、イワシミズのお姉さんの本性なのだろう。
「で、トレーナーさんはトレーナーを続けられないってんで皆の前から姿を消して、未練がましくついていったのが私ってわけ」
「ほかの人と連絡は?」
「全然とってなかったよ。でも、ヴィオラちゃんがスピカに入ったって聞いたから、正直潮時かなと思ってた」
「なるほど、少し話をまとめますね……」
つまり、ニートのおじさんは前スピカのトレーナーさんの沖野さん。
ラモーヌさんとかに聞いたことがあるが、天才なんて言われていた名トレーナーだったらしい。
それで、うちの白井トレーナーが練習中に事故を起こして、それを庇って怪我をして引退したと。
で、隠遁生活に入ったけど、教え子の一人だったイワシミズのお姉さんが甲斐甲斐しく世話を焼いていたということだ。
そして、白井トレーナーもイワシミズのお姉さんも、沖野トレーナーが大好きだったけど、教え子には手を出さなかったと、そういうことなわけだ。
なかなか複雑な関係である。
しかし、よくわかった。
なんだか微妙な空気を醸し出している沖野トレーナーと白井トレーナー。
ボクとルーブル姉さんは、そんな沖野トレーナーの後ろから襲い掛かり、縛り上げて持ち上げた。
「ヴィオラちゃん!? ルーブルちゃん!?」
白井トレーナーが悲鳴を上げるが無視だ。
「ヴィオラちゃん、これからリギルに行くよ!」
「ルーブル姉さん、準備は万全です!!」
ルーブル姉さんと以心伝心である。これくらいならアイサインすらなくてもお互い考えていることがわかる。
ウマ娘に勝てない雑魚トレーナーを担ぎ上げるぐらい簡単なことだ。
「ちょ、ちょっとまった!!」
「「ニートに発言権はない!!」」
唯一絶対の真実は、このニートおじさんは、われらが神、おハナさんを振ったということだ。
おハナさんはこのことを引きずっているっぽいし、おそらくこの唐変木を待っている。
じゃなければ、美人でちょっときついけど優しいあのおハナさんが結婚できないわけがない。
同僚トレーナーでも、ウマ娘でもより取り見取りではないか。
われらが信徒(最近はルーブル姉さんやリギルのメンバーも増えたので、ちょっと人数が増えた)の使命は、この役に立たないハーレム気取りのニートおじさんを、神の生贄に捧げることだ。
大丈夫、最悪死体はシンボリの力やメジロの力で簡単に隠せる。ルドルフさんもアルダンさんも賛成してくれるはずである。
そのまま全速力で、生贄を担いだまま、ボクたちはリギルのチームルームに向かうのであった。
「あら、二人ともお出かけ?」
「一度学園にこれを届けてきます」
「頑張ってね」
娘二人が近所のおじさんを担いでいるという異様な光景を目にしても、母はおっとりとほほ笑んだ。
「おねーたんおねーたん、どこゆくの?」
「お祭り、かな?」
バージちゃんが純粋な目で聞いてくる。
一瞬悩んで、ボクは祭りに行くと答えた。
神にささげる生贄の儀式だ。祭りといって差し支えなかろう。
「おまつり! いきたい!!」
「じゃあ一緒に行こうか?」
「いくー!!」
バージちゃんもウマ娘だし、まだ幼いとはいえこのニートおじさんがいろいろ仕込んでいるから最低限走れる。
学園までぐらいなら、荷物もあるし、ペースを落とせばいっしょに行けるだろう。
「夕飯までには帰ってくるのよ」
「「「はーい!」」」
母の見送りで、ボクたちは走り出したのであった。
ボクたちは、生贄を担いでそのまま学園へと向かい、リギルのチームルームに直行し、チームルームにおハナさんがいるのを確認して、生贄を部屋に叩き込んだ。
リギルのメンバーに事情を説明していると、白井トレーナーやイワシミズのお姉さんが追い付いてきた。
あのまま家に置いておくと喧嘩に発展して家が吹き飛ぶのを懸念した母が追い出したのだろう。
ひとまず面倒なので、リギルメンバーとも協力して、全員リギルのチームルームに叩き込んだ。生贄は多くて損はない。
「おハナさんの婚約者か。複雑だな」
ルドルフさんがちょっとしょんぼりしている。
おハナさんは神だし、リギルメンバーは多かれ少なかれ特別な感情を持っているだろう。
そこに婚約者があらわれれば、そんなことも思うはずだ。
「なんにしろ、今日は練習になりませんね。解散しましょうか」
「そうだな。ヴィオラもルーブルも、また明日だな」
「おつかれさまー」
なんにしろ、こんな混乱状況では練習も何もないだろう。
そのままアルダンさんの掛け声で、リギルの練習は解散となった。
そしてそのまま、リギルメンバーはチームルームのドアに耳をつけて中の様子をうかがっている。
ボクらも白井トレーナーの運命が気になるが、うちで母が夕飯を作って待っているだろう。
不審者集団と化したリギルメンバーを置いて、ボクらは家に帰ることにした。
「たのしかったね、おねーたん」
リギルメンバーからお菓子をもらったバージちゃんは楽しそうに笑った。