新年あけて、まずはURA賞の発表が行われる。
毎年最優秀ウマ娘を決めるこの賞で、ボクは無事、最優秀ジュニアウマ娘に選ばれた。
ここまで有名になると、二つ名なんかももらえるようになる。
今回、ボクに着けられたのは『紫電の女王』である。
名前そのままな部分があるが、中二病心をとてもくすぐられた。
女王様とお呼び!! とか部屋で言っていたらルドルフさんに見られた。ちょっと恥ずかしかった。
閑話休題、表彰後、行われる記者会見でボクに対する質問は、
「クラシック路線とティアラ路線、どちらに行くか?」
というところに集約された。
前世における競馬ほど、クラシックとティアラの区別は明確にされていない。
一般的に長い距離が苦手なウマ娘がティアラ路線に行くとか、実力主義者がクラシックに行くとか、そういう傾向はあるなんて言われるが、しょせん傾向でしかなく、距離や開催場所以外に明確に何か差があるわけではないのだ。
中には、ボクがブルマを普段履いているからティアラ路線を目指すだろう、なんて何の関係があるかわからない話もあった。
ボク自身のクラシック登録が、5つ全部、桜花賞、皐月賞、オークス、日本ダービー、菊花賞すべてにしているというのもあるだろう。
オグリさんの事件から、追加登録が可能にはなったが、クラシック登録制度自体は残っているのだ。
どちらかの路線を選んで登録する人が少なくないが、全部登録するとどちらの路線を選んだかわからない。
つまりボクの行く先に予想がつかない状況だった。
ただ、まあ、隠すことでもないので、素直に答えることにした。
「次はどのレースに出る予定でしょうか?」
という質問に対して
「トライアルは出ずに、桜花賞に出る予定です」
と答えたのだ。
「ということは、ティアラ路線を?」
「はい、ティアラ路線『も』走ります」
「? どういうことでしょうか」
「クラシック登録したからには、すべてのレースに出る予定です」
会場がざわめいた。
クラシッククラスのG1は、ティアラのレースの翌週にクラシックのレースが行われる。
つまり、毎回1週間ずれがあるのだ。
「ならば、全部出ることできません?」
年末、クラシッククラスのレース予定を決めるため、トレーナーさんと話しているときに、ボクはこう切り出した。
闇レースの頃は、毎週レースに出るなんて言うことも日常だった。
そう考えると、別にクラシックレースすべて出ても構わない気がした。
連続といっても2レースだ。トレーナーさんのフォローもあることを考えれば難しくないだろう。
そう考えて提案したら白井トレーナーは最初難色を示した。
「ルール的にできなくもないけど……」
「やっぱり難しいですか?」
デメリットも色々あるだろう。
例えば体調の問題。GⅠでの体力消費は半端ではない。それを2週間続けてやれば体調を崩すかもしれない。
また、無理なレースプランで世間体もよくないだろう。
それに伴って、1枠を占める以上、出場できなかったウマ娘が出るわけで、そういった子から恨まれたりするかもしれない。
そう考えると無理強いするつもりはなかった。トレーナーさんがダメというならやめよう、それくらいに思っていたのだが……
待ったをかけたのは沖野トレーナーだった。
「チーフ」
「トレーナーさん……」
「世間体とか、常識とか、そういうのに捕らわれるな。自分の中に理由を探せ。自分が無理だと思うなら必死に止めろ。だけど、そうじゃないならそれは怠惰でしかない」
「……トレーナーさん」
沖野トレーナーがそういうと、白井トレーナーは考え込む。
少しだけ、沈黙が流れる。
「ヴィオラちゃん」
「なんですか?」
「全部出場、できなくはないと思う。ただ、体調に少しでも不安が出たら、どんな理由でも絶対回避させるから」
「わかりました」
「トレーナーさん、レーススケジュールもトレーニングスケジュールも、レースプランももう一度練り直します。手伝ってください」
「了解、チーフ」
こうして、ボクはティアラクラシックのGⅠレース、全部参加することを決めたのであった。
もちろんボクのことばかりが問題なのではない。
目下の問題は、プレクラスニーさんのメイクデビューである。
本格化がやっと始まったぐらいで、体を作るトレーニングをトレーナーさんたちのメニューでやっているところだが、そろそろメイクデビューはしてもよさそうに思える。
マックイーンさんのレース展開を利用したとはいえ、ライアンさんがレース展開をミスしたとはいえ、ライアンさんの猛追から押し切るだけの実力はあるのだから、メイクデビューするには十分な実力があると思う。
「でも、私はまだまだで……」
だが、問題はプレクラスニーさんの自信のなさであった。
やる気はあるはずだ。わざわざスピカに転籍し、憧れとはいえ同期でライバルにもなる、ヴィオラの近くで頑張る根性も疑いはない。
ただ、自信がないのだ。
できれば1月中にデビューを、とトレーナーさんたちは考えていたようだが、プレクラスニーさんは乗り気でないようであった。
とはいえチームメイトとして、何もしないわけにはいかない。
新年ということで、学園近くの大國魂神社へチームメンバー全員で初詣に行くことになった。
三が日が過ぎて、人出が少なくなりつつある境内を、買い食いしながら進んでいく。
「たこ焼きうまー。ここのが一番おいしいかな」
「ヴィオラちゃん、それ、5箱目…… 太り気味出ちゃうよぉ」
「大丈夫よ、ヴィオラの脂肪はすべて尻に行くし」
「人が尻がでかいみたいに!!」
「普通にでかいでしょ」
わたわたするプレさんと、呆れるルーブル姉さんの口にたこ焼きを押し込む。
食べ比べたが、ここのが一番おいしいと思う。
「ほらほら、はしゃぎすぎないの。はい、飲み物」
「ありがとうネイチャママ!」
「ありがとうママ!!」
「お前ら、頭からかけてやろうか」
「ネイチャさん、ありがとうございます」
ネイチャさんは相変わらずママみにあふれていた。
みんなの分の飲み物を目ざとく買ってきてくれる。
「さて、お賽銭投げたし、色々食べたし、この後どうしようか」
「あ、絵マがあるじゃない。試しに書いてみようよ」
ルーブル姉さんが目ざとく見つけた絵マのほうへとみんなで向かう。
絵マの裏側に印刷されたウマ娘はいろいろあり、なんと、ボクのことが印刷されたものまであった。
ウマ娘の願掛けにおいて、基本人気なのはクラシックを目指す子はルドルフさん、ティアラ目指すならラモーヌさんである。
だが、直近の目指すレースの、去年の勝ちウマ娘を印刷したのを使う子も多く、いろいろな絵マがつるしてあった。
「お母さんに送る用と、保管用と、いたずら用と、願掛け用と4つくださいな」
「ルーブル姉さん、何いたずら用って!?」
「こんな感じ」
「ひげ書かれた!?」
ルーブル姉さんがボクの絵マを4枚買う中、ボクは願掛け用にルドルフさんと、ラモーヌさんの印刷されたものを買う。どうせなら三冠と三冠だ。
六冠をとる! とさっさと書いて、奉納してしまう。
戻ってきて、みんなが書いているのをのぞき込む
ネイチャさんはルドルフさんの絵マに、ほどほど頑張る、なんて書いていた。
「ネイチャさん、それでいいの?」
「ん? まあ、私はキラキラしてないしこんなところよ」
「ん~ ネイチャさん、世間体とか、常識とか、そういうのは一度忘れて、夢は書いたほうがいいと思うよ」
ネイチャさんはとてもいい人だし、ママだ。
だが、やっぱりどこか、近い年だと感じる部分がある。
きっと周りの目を気にして、負ける自分への言い訳の余地として、こんなことを書いているのだろうと思う。
でも、ネイチャさんだって、何か夢があるはずだ。
「はっはっはー、ネイチャさんはまじめですよ~ 同期のトウカイテイオーとか、あとはシガーブレイドさんとかレオダーバンさんとか、そういうキラキラウマ娘に勝てる気がしないですもん」
「勝てるよ」
「?」
「ネイチャさんなら勝てるよ」
「いやいや、無理ですって」
ネイチャさんが一瞬驚き、そして肩をすくめる。
実力は一番自分がわかってる、と言わんばかりの態度だ。
確かにネイチャさん自身のことは、ネイチャさんがよくわかっているだろう。
でもボクのほうが、レースの怖さと楽しさを知っている。
「ネイチャさんは、テイオーとか、ブレイドさんとかレオさんとかと比べて自分の素質に自信がないの?」
「あとはヴィオラちゃんとか、ルーブルさんとかもね。私なんてしょせん脇役ですわ」
「実力なんて言ったら、ボクは全然勝てないよ」
「いやいや、最優秀ジュニアウマ娘様が何を言ってるんですか」
「ライアンさんみたいな末脚はボクにはない。マックイーンさんみたいな完璧なレース展開ができるわけでもない。何より、アイネスフウジンさんみたいなスピードと領域を展開できる才能があるわけじゃない」
「……」
「ボクより才能や素質がある同期なんて、両手じゃ足りないぐらいあげられるよ」
他にもアグネスフローラさんだって、いつもお騒がせしているがその速さは驚異的だ。次の桜花賞でぶち当たるだろうが、本音を言えば勝てる気なんてまるでしない。
ダイタクヘリオスさんやダイイチルビーさんの速度なんて、見ていると誰が追い付けるんだと思うぐらい速い。
闇レースをしてた頃なんかはパーマーさんに完封され続けてたから実際レースでやりあったら若干トラウマが出そうだ。
「負ける理由を挙げればいくらだってあげられる。でも、ボクは勝ちたいし、トレーナーさんが勝てるように全力で準備してくれる」
「……」
「ネイチャさんだってきっと勝てるよ。だって、こんなにキラキラしてるんだから」
「……」
「だから、ちゃんと、夢を描こう?」
「はぁ、しょうがないにゃぁ」
ネイチャさんは、絵マを再度買う。
同じルドルフさんの絵マに、ネイチャさんはやけくそのように、無敗の三冠!! とでかでかと書くのであった。
ルーブル姉さんは、ボクの絵馬にティアラ三冠って書いていたし、プレさんは何を書いているかなーと思ってのぞき込むと、スーパークリークさんの絵マに、天皇賞秋を目指す、と書いていた。
文字のほかに、いろいろかわいらしいイラストを描いている。
チームメンバーみんなの似顔絵だ。特徴がよく出てるし、かわいい。
「ひゃっ!? ヴィオラさん!?」
「プレさん、天皇賞秋が目標なんだ」
「おかしいですよね」
「いや全然。でも、理由は気になるかな。好奇心だけだけど」
天皇賞は天皇陛下の名が入るだけあり、日本で一番格式が高いレースと考えられている。
例えばメジロ家なんかは、天皇賞をとにかく重視しているので有名だ。
だが、単発で天皇賞秋が最終目標、という人はあまり聞いたことがなかった。
「ヴィオラさん、ルドルフさんが負けたレース、知ってますか?」
「クラシックのジャパンカップと、シニアの天皇賞秋、あとは海外遠征の時の1回だね」
「私は天皇賞秋を、ゴール板前で見てました。絶対的な皇帝のルドルフさんを差し切るギャロップダイナさんは本当にすごくて、とても憧れました」
プレさんが、恋する少女のような表情で熱く語る。
ルドルフさんは強すぎてつまらない、勝利より三度の敗北を語りたくなる、なんていわれるが、本当に真正面から負けたのは、天皇賞秋の一戦だけだ、なんていわれることがある。
ジャパンカップは、菊花賞からのローテーションは、菊花賞が長距離であることや移動、間の短さなどもあり、体調管理が非常に難しいらしい。
アメリカ遠征の時なんて前例のない海外遠征であり、もっとつらかっただろう。
そういう意味で、ルドルフさんに実力で勝ったのは天皇賞秋のギャロップダイナさんだけ、なんていわれることがある。
直線で伸びるルドルフさんを後ろから差したのだから、あの時のギャロップダイナさんは本当にすごいとボクもレース映像を見て思ったものである。
「自分では、勝つのは難しいかもしれないですが、でも、一度だけでも、あの舞台に立ってみたいなって思うんです」
「そっか、じゃあ、頑張らないとね」
「そ、そうですよね」
「まずはメイクデビューだね」
「が、頑張ります」
少しだけ前を向いたプレさん。
メイクデビューはおそらく大丈夫だろう。あとは、トレーナーさんに任せるだけであった。
それぞれが夢を抱き、描きながら、決戦の時へと向かっていく。
その結果が出るのは、そう遠いことではなかった。