4月になると、学年が上がりボクは3回生になった。
そして、同時に新入生が入ってくる。
それは新しいチームメンバーを探す機会でもあるのだ。
それぞれのトレーナーは徐々に動き始めており、一部トレーナーは既に新メンバーを加入させていていたりする。
「一緒に頑張りましょうね」
我らが神、東条トレーナーなど、入学試験のレースからチェックして、新しいメンバーを入れるべく日々努力している。
東条トレーナーは入学式直後から寮に行くまでの間で待ち伏せをして、鬼気迫る勢いでシンコウラブリイちゃん口説き落としているのを多くの生徒が目撃している。
こうして無事リギルに加わったシンコウラブリィちゃんは小さくてかわいらしいが、足がとにかく速い。
他にもマチカネタンホイザさんを狙っているという話を東条トレーナーはしていた。
こうやって選抜レース前に良さそうなウマ娘を気が早いトレーナーは確保していくのだ。
一方我らがスピカは、というと……
「別に取らなくてもいいんじゃない?」
「今でも十分忙しいし……」
二人とも、やる気がなさ過ぎた。
「今忙しいって言っても、ボクやみんなが引退した後どうするんですか!? 暇になっちゃいますよ!!」
「そうなったら俺はおハナさんの方のサブに行くし……」
「ただの裏切り者だった!!!」
まあ、師匠がいつまでも一緒のチームにいるのも良くないという沖野トレーナーの判断はわかるが……
「どうせ、ヴィオラちゃんかなり長い間走るだろうから、暇にならないでしょ。それに、またどこかからヴィオラちゃんがメンバー拾ってきそうだし…… 枠はあけておいた方がいいかなって」
「新メンバーはネコやイヌじゃないんですよ!?」
「にゃーん?」
「わ、わんです?」
「二人とも、乗らなくていいからね」
ルーブル姉さんとプレさんが猫と犬の鳴き声を真似た。
普通にかわいかった。
「でもまあ、私も後輩欲しいし、メンバー欲しいと言っちゃほしいですね」
ネイチャさんがボクを援護してくれる。
さすがママである。空気の読み方が違う。
「どうせだから、みんなで探しに行こうよ」
「まあ、それもいいかもしれませんね。トレーナーさん? いいですか?」
「オッケーだよ。ただ、あんまり多くても面倒見切れないから、一人か二人ぐらいにしてね」
「「「「はーい」」」」
こうしてみんなで元気よく、新メンバー探しの旅に旅立つのであった。
「でもまず、どんなメンバーを探すかが大事だよね」
「そうですね、みんな、どんなメンバーがいいと思う?」
「あまり…… 怖くない人がいいです……」
プレさんの要望は怖くない人、らしい。
抽象的だが、判断はプレさんにしてもらおう。
「ネイチャさんは?」
「そだねー、うーん、おとなしい子がいいかなー」
ネイチャさんはボクを見て、ルーブル姉さんを見て、そう答えた。
あまりママに負担をかけすぎないようにしようと少しだけ思った。
「で、ルーブル姉さんは?」
「太ももの太い子」
太ももフェチのルーブル姉さんは自分の欲に忠実だった。
ということで皆の要望にあったメンバーを探しに、体操着に着替えてトレーニングコースにやってくる。
チームに入っていない子は、放課後、コースで教官の指導の下トレーニングをしていることが多い。これは学園自体がやっていることなので、ボクたちのようなチームに所属しているメンバーが混ざっても問題ないのだ。
尤も普通はチームに所属していたらトレーナーさんが面倒を見てくれるし、移籍を考えているごく一部の人以外まず来ることはない。
そんなところにボクたちが行ったら、まずみんなにもみくちゃにされた。
「ヴィオラちゃん、自覚なさすぎでしょ」
「太もも触らないでっ、だめぇえええええ!!」
集られ、太ももを撫でられまくるボクを見ながら、ネイチャさんがあきれたようにボクに告げる。
よく考えなくてもボクは今まで6戦5勝のGⅠ2勝ウマ娘であり、1回も桜花賞の二着である。実績があり、皆にあこがれられる存在であったのだ。
新入生にとってあこがれの存在がひょこひょこやってきたのだからそりゃもう集まってくるに決まっていた。
なぜか太ももを撫でるとご利益があるという妙なうわさが流れていたらしく、寄ってたかって太ももを無茶苦茶揉まれる。
向こうではプレさんが教官に謝っていて、ルーブル姉さんは大爆笑していた。
お邪魔したお詫びとして、ボクが新入生たちの一部の面倒を見ることになった。
これでもトレーナー資格は持っているのだ。
最低限教えることはできる。
希望者を集め、みんなでコースを一周し、体を温めたら次は全力でコースをもう一周する。
スタートダッシュがいい子、最後の伸びがいい子、速い子、遅い子、いろいろばらけるのを一人ずつ、ネイチャさんに確認してもらう。
この時点での速い遅いは、あまり重要ではない。
1年のトレーニング期間、そしてその後のレースの繰り返しの中で、能力が伸びる子もいれば、頭打ちになってしまう子もいる。
この時点でGⅠクラスの実力の子などいない以上、結局成長してみないと実力はわからないのだ。
だが、重要でなくてもこの時点でも優劣はついてしまう。
一人ずつちゃんとアドバイスをして、速い子は増長してさぼらないようにより速くなるようなアドバイスを、遅い子にはこれで心が折れて諦めないように、どうすれば速くなるかのアドバイスをしていく。
まあ、言い方はいろいろあっても基本はちょっとしたフォームのアドバイスと基礎トレなのだが。なんだかんだ言ってもパワーこそ正義である。
そうしてもう一周して、今日のトレーニングは終わった。
「ビビッとくる太ももの子はいなかったわ」
残念ながらルーブル姉さんのお眼鏡にかなう子はいなかったようだった。
一度だけのトレーニング手伝いで、継続するつもりはなかったのだが、この後継続要望が大量にボクのところに届いた。
教官の教え方が悪いとは思わないが、トレーナーがつくまでの暫定的なものであるという意識が強く、教え方が非常に無難であり、あまり踏み込まないものだ。
ボクはまあやりたい放題やったので、そのあたりが人気の秘訣につながってしまったのだろう。あとはボク自身の実績と太ももの太さか。
だが、ボク自身バリバリの現役であり、そうそう他人の面倒を見ることはできない。
だが要望を無碍にするのも悪いと思い、朝練に来るようにと皆に伝えることにした。
午前5時過ぎから行われる朝練は、トレーナーさんに内容は報告しているが、ボクの場合トレーニングとして必須なことをやっているわけではない。どちらかというと好きに走って気晴らしをするという側面が、ボクの場合強かった。
この時間なら他人のために使えるだろうと、こちらに呼んだのだ。
惰性で来るには時間が早すぎるため、やる気のない子たちは来ないだろうし、人数も限られるだろうという狙いもあった。
とはいえまあ、予想以上に人は集まった。
みんな結構真面目であり、速さには真摯である。さらに、早朝の朝食調理に会長をはじめ有名なウマ娘が結構来るのだ。
ミーハー心も加わり、新入生の1割以上、30人ぐらい来てしまった。
人数が多いので手伝いが欲しいが、なかなかそんな人がいない。
アルダンさんやオグリさんといった朝練の常連メンバーは、お願いすれば手伝ってくれるかもしれないが、現役でガンガン鍛えているので手伝ってくれというのははばかられた。
チームメンバーはルーブル姉さんは朝が苦手で絶対来てくれないし、頼みのネイチャさんも低血圧で朝が苦手らしく無理そうだった。
プレさんは手伝ってくれるが、弱気なプレさんとボクだけではなかなか難しい。
他の人に頼もうにも、ルドルフさんは忙しいし、ラモーヌさんは朝は無理といわれてしまった。同期の子もお願いが難しいし……
ひとまずやれるだけやるしかないと思っていたのだが……
「もー、馬鹿ヴィオラ! なんで計画的にやらないのさ!」
「テイオー! ありがとー!!」
ルーブル姉さんに話を聞いたらしいテイオーが助けに来てくれた。
口は悪いがとてもいい子である。
テイオーのフォローとプレさんの手伝い、あとは朝練メンバーがちょくちょく手伝ってくれることで、この新入生向け朝特訓は回り始めたのであった。
マジでテイオーには頭が上がらない。
この前、少しへこんでグダグダしてたら勝手にボクの尻を枕してたのも許してあげることにした。
こうやって、朝練での新入生へのトレーニングコーチが始まったがうちのチームに誘う相手はなかなか見つからなかった。
ルーブル姉さんのお眼鏡にかなう太ももの子がいないのだ。
というかこの時期の子ってそうそう体が鍛えられている子は少ないと思うし、育てればいいと思うのだが、ルーブル姉さんはわがままだった。
朝練のせいか、ボクへのトレーナー契約希望ばかり集まるのだが、スピカへの希望は全く来ないので、何も進んでいないに等しかった。
だが、ある日突然、ルーブル姉さんが真夜中に一人のウマ娘を連れて部屋に乗り込んできたのだ。
ネイチャさんとプレさん、あとなぜかテイオーまでくっつけて、ボクの部屋に知らないウマ娘を連れてやってきたルーブル姉さんは突然
「ミホノブルボンちゃんをうちのチームに入れましょう」
といきなり宣言してきたのだった。
ルーブル姉さんはルーブル姉さんで、良い新入生がいないかを探していたらしい。
だが、学園内で、制服の上からでは脚はほとんど見えない。
なので、風呂場に入り浸っていろんな子を観察していたらしい。
そうして、気に入った太ももの子を連れてきたのだとか。
絶対後で栗東の寮長に怒られるやつだ。
後で今年新しく寮長になったタマモクロス栗東寮長に菓子折りをもっていこうと決めたのだった。
ひとまず目の前のブルボンさんへの対応である。
表情は一切なく、何を考えているかわからない。
テイオーはルドルフさんのベッドに座り、ルドルフさんとおしゃべりを始める。テイオーもルドルフさんも無関係だし、ルドルフさんに迷惑かけたくないからちょうどいい。
ボクらは隣のルドルフさん用の書斎の方に移動した。
「で、ミホノブルボンさんでしたっけ? チームスピカに入ってくれるということでいいんですか?」
「はい、お願いします」
「理由をお聞きしても?」
ここにチームメンバー全員が来ている以上、ルーブル姉さんは最低限、ネイチャさんやプレさんに根回しはしているだろう。
後はボクがOKを出すかどうかだけである。
「ヴィオラさんの太ももが気に入りました」
「こいつも太ももニストかよ!!」
ルーブル姉さんと類友であった。
そのまま自然な動きで、ボクの座っているソファに座りなおしたミホノブルボンさんは、ボクの太ももを枕にして寝転がる。
「あの、なにを……?」
「スピカに入れば膝枕し放題と聞いたので」
「ルーブル姉さん!?」
姉に完全に売られていた。
後ブルボンさん、発言と行動はぶっ飛んでいるが、ずっと無表情である。
それはそれでちょっと怖い。
「いやだってさ、ヴィオラちゃんとお似合いだと思うんだよね」
「何がですか!!」
「ほら、立って並んで」
「……?」
言われるがまま、立ち上がりブルボンさんと並ぶ。
ボクはいつもの私服、ださTシャツに一分丈のローライズレギンスである。
ブルボンさんもTシャツに下はレギンスパンツであった。
そのままの流れで写真を撮られる。
「ほら、二人とも太もも太いし、表情死んでる」
「誰のせいで表情が死んでると思ってるんですか!!」
ただ、ブルボンさんの太ももは非常に立派だった。
他の部分も非常に立派である。
無表情だが顔もいい。
まあいいか、という気持ちになった。顔がいいし。
「本人が嫌でないなら、私は反対しませんよ」
「わかりましたマスター。ぜひよろしくお願いします」
「え、なんか呼び方変わったんだけど、何、マスターって」
「太もも学の師匠なのでマスターです」
「よくわからんもののマスターにされた……」
困惑は深まるが、こうして新しい仲間は増えるのであった。