紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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9 紫電の女王と決戦の後

 第3回東京開催がダービーの翌週で終わった後、東京競馬場のライブ会場を使って、ライブまつりが開催されることになった。

 生徒会主催ということで、ボクも庶務補佐として裏方に回ろうと考えていたのだが、最近庶務として入った6回生のマティリアル先輩や、4回生のカリブソング先輩なんかもいるから人手が足りていること、なによりも

 

「樫の女王としてメインを張ってくれ」

 

 とルドルフさんに言われたので、参加者側になることにした。

 

 そして、参加するとなるとメンバーを集める必要がある。

 ソロぴょいも可能らしいが、ライブスキルにも歌にもあまり自信がない。

 学生外からも参加者を集め、ヒトでも参加可能にするらしいので、それこそ人種問わずのイベントなので、メンバー集めは苦戦しないかと思ったが……

 

「アイネスフウジンさーん!! 助けてー!!」

「なんなの!? なんなの!?」

 

 あまりにメンバー集めに苦戦したボクは、面識があまりあるわけではないアイネスフウジンさんに抱き着き、すがっていた。

 周りに話を聞いて、メンバーを募集していたボクだが、断られまくっていた。

 友達が少ないのもあるが、どうやらオークスでライブに参加できなかったせいで、今回のボクのライブは期待値が高まっているのだとか。

 そのせいで一緒にやるのはちょっと…… と皆にしり込みされてしまったのだ。

 

 テイオーやルーブル姉さん、ネイチャさんはメイクデビューが近いからとダメだっていうし

 アグネスフローラさんには交換条件ね、と言われ、その交換条件の内容が怖くて断ってしまった。

 そうすると、ふさわしい相手…… ということで、ダービーに勝ったアイネスフウジンさんに泣きついたのだった。

 

「うえええ……」

「泣いてると私まで悲しいの……」

「すんすん」

「組んでくれる人がいなくて寂しかったのはわかったの」

「うううう」

「大丈夫なの、おねえちゃんに任せろなの」

「おねえちゃーん!!!」

 

 こういう感じで泣き落としをして、無事、ライブに出てくれる仲間を確保したのであった。

 

「でも、もう一人ぐらいいるといいと思うの。奇数がバランス的にちょうどいいの」

「じゃあうちのチームのプレさんも入れておきましょう」

 

 アイネスフウジンさんの要望によりプレクラスニーさんを勝手に入れて、名前は逃げ切りシスターズ、としてメンバーはそろったのであった。

 

 

 

 そうしてメンバーが決まった逃げ切りシスターズの次の問題は、ライブでの衣装だった。

 

「普通のライブ服でもいい気がするの」

「ライブ服って、無難過ぎない?」

「ヴィオラちゃん、ライブ服のズボン、また入らなくなった?」

「ぎくっ!」

「さすがにこれ以上スリット広げるのはまずいと思うんだけど」

 

 この前のオークスの後、十分休んでいっぱい食べたら、またトモが太くなってしまい、すでに限界を超えてスリット入りになっていたライブ服のズボンが入らなくなっていた。

 現状に合わせて応急措置するととすでにもう尻が見えるレベルのスリットである。

 さすがに新しいのを注文したが、特注サイズなので次のライブまでには届かない。

 どうにかごまかそうとしたのだが、プレさんにはすぐにばれてしまった。

 

「じゃあ勝負服で踊るのはどうなの?」

「私、勝負服持ってないです……」

「ボクの勝負服のレプリカでいいじゃない」

「恥ずかしいのでちょっと……」

「恥ずかしいって言われた!」

「私も、ちょっと遠慮したいの」

 

 プレさんはまだ2勝クラスなので勝負服を持っていない。

 勝負服はGⅠに出場する可能性があるオープンクラスに上がって初めて作ってもらえるのだ。

 なのでボクの勝負服のレプリカ(URAが通販で販売される予定だったが政治的配慮で中止になった在庫のあまり数着)を貸すことを提案したのだが断固拒否されてしまった。

 解せぬ。

 

 だがこうなると揃いで持っている服など、制服か体操着しかなくなる。

 さすがにどっちでもライブをするには不適当だ。

 ということで、服関係で困ったときにいつも頼るメジロラモーヌさんのところへと行くことになった。

 7回生になり、美浦寮長をイナリワン先輩に交代したラモーヌさんは、今はアルダンさんと一緒に近くの家を借りて二人暮らしをしていた。

 最近は、服飾ブランドの立ち上げを準備しているのだとか。

 

「まあ、構わないけど…… 時間もないし一からは作れないわよ。ベースとなる服、何かないの?」

「これならあります」

 

 そういわれて、ボクがもってこれたのはボクの勝負服のレプリカである。

 同じ服が3つも必要となると、これくらいしかなかった。制服や体操着を改造してしまうわけにもいかない。

 幸いベースとなる部分は伸縮性の高い生地でできているから体型の影響を受けにくく、背が高くてスタイルのいいアイネスさんでも入るだろう。

 だが、ベースがこれになると気づいて、アイネスさんとプレさんは絶望的な表情をしていた。

 

「き、きっと大丈夫ですよ! ラモーヌさんがいい感じに修正してくれます!!」

「そ、そうなのね! きっと大丈夫なのね!!」

「いや、ボクの勝負服の基本デザイン、ラモーヌさんだからね」

 

 ラモーヌさんのデザインに希望を見出そうとしていた二人だが、ボクは冷酷な事実を告げる。

 そういえばボクの勝負服のデザイン決めたころは、プレさんはまだいなかったっけ。

 やばいライブ衣装が来ることが決まったと気づいた二人は、絶望しながら死刑囚のような表情で虚空を見つめていた。

 

 

 

 そうして1日で出来上がったライブ服は、すごいものだった。

 元の勝負服は白系の布ついていて、ふわふわとしていたが基本それらは全部取り払われ、黒地の布で赤のリボンという形で飾り付けられていた。

 

「かわいくできたと思うわ」

「元のほうがまだ布があった……」

 

 満足そうなラモーヌさんに対してアイネスさんとプレさんは魂が口から抜けかけていた。

 なんにしろ、3人分のライブ服は出来上がったのであった。

 

 

 

「私、両親も弟妹も呼んじゃったのね……」

「私も、両親きますよ……」

「ボクはまあ、お母さんだけですが……」

 

 最初の頃は、ダービーウマ娘とオークスウマ娘に挟まれて自分は不相応だと主張していたプレさんであったが、現状そんな余裕もなくなったようだ。

 なんせこのライブ服だ。

 URAの審査も無事通ってしまったので引くに引けなくなった。

 このライブ服の前には、肩書も何も関係ない。

 最大の敵は羞恥心と世間体であった。

 

 さらに、今回のために用意された楽曲、「逃げ切りっ! Fallin' Love」まで用意されているのだからもうどこにも逃げ場がなかった。

 

「うう、やっぱりいやなの……」

「でも、このライブ祭り、協賛がすごい集まってるみたいで、ファン投票で成績が良いと豪華賞品らしいよ」

「やるの!!」

 

 ライブ服を見てから絶不調だったアイネスさんであったが、賞品と聞いてやる気があがった。

 特に賞品一覧のすき焼肉に目線が刺さったままだ。家族と一緒にすき焼きを食べる光景を想像していそうである。

 

「やっぱり無理ですぅ……」

「プレさん、この格好で頑張れば、きっと速くなれますよ」

「速く? なれる?」

「ええ、きっと」

「そ、そうですよね! ヴィオラさんもいつも恥ずかしい格好で走ってたからこそ早くなったんですよね! 羞恥心より速さ! 私、わかりました! 頑張ります!!」

 

 ライブ服を見てからやはり絶不調だったプレさんもうまく言いくるめた。

 代わりにボクのメンタルに多大なダメージを受けた。

 

 ちなみにボク自身も商品に目が眩んでいた。

 塊肉をもらって、ローストビーフにチャレンジすることで頭がいっぱいである。

 こうして賞品に目が眩んだ二人と、確実に騙されている一人の3人で、逃げ切りシスターズは練習に励む。

 

 欲に忠実なボクらのスキルはみるみる上がっていくのであった。

 

 

 

 そうしてライブ大会当日はすぐに訪れた。

 初日のしかも最初に回されてしまったボクらはラモーヌさん作成の新ライブ服で舞台の上に立つ。

 ライブの舞台の上だと、もう脳内麻薬がドバドバ出ているせいか、意外と気にならなくなるものである。

 

「皆さん初めまして! 私たち、逃げ切りシスターズのライブにおこしいただきありがとうございます!!」

 

 マイクパフォーマンスはリーダーのボクがやることになった。

 最初、リーダーはアイネスさんにお願いする予定だったのだが

 

「わ、私こういうの苦手なの。恥ずかしいし、ヴィオラちゃんにやってほしいの」

「私も、ヴィオラちゃんがいいと思います」

 

 と二人が言うのでボクがリーダーになってしまった。

 リーダーだろうが、なんだろうが、このライブ服が恥ずかしくて状況は終わってるのは変わらないと思うが、たぶん譲れない一線があるのだろう。

 

 といっても、大したことなんてしゃべらない。

 さっさと終わらせるためにも、一曲目にすぐに入るのだった。

 

 

 

「逃げ切り!」

「「「「「にげきり!!」」」」」」

「逃げきれっ!」

「「「「「逃げきれっ!」」」」」」

「だって I want you♪」

「「2番手って恋はないんだ」」

「ぶっちぎっちゃえ超特急!!」

 

 センターでアイネスさんが銃で打ち抜くポーズを決める。

 ウマ娘の本能に逆らえないのだろう、ライブになるとノリノリである。

 普段はかなり控えめで、恥ずかしいとかいうアイネスさんだが、ライブになると明るくて声もかわいいのでかなり栄える。

 練習も非常にまじめにやっていたので、振り付けもばっちりである。

 

「逃げ切り!」

「「「「「「「逃げ切りっ!」」」」」」」

「逃げきれ!」

「「「「「「「逃げきれっ!」」」」」」」

「もっと I LOVE YOU」

「駆け抜けて今 君の所へ

 この気持ち届けたいっ! ワタシ Fallin’ Love~♪」

 

 歌い切り、汗を流しながらもはにかむように笑うアイネスさん。

 ああ、かわいいんじゃ~

 もう、こんなのアイネスさんのファンになっちゃうよぉ。

 

 だが、気を抜いているわけにはいかない。

 すぐに次の曲が始まるのだから。

 立ち位置を変えて、次はプレさんをセンターにして曲が始まる。

 

「たったかつったか ぴょいっと 駆けちゃお♪」

「「ふっふー♪」」

「ぱっぱらぱっぱ せーのでスタート!!」

「「やっふー♪」」

「「「やっぱりすっごい でっかーい伝説♪ ぜったいぜったい いっぱいつくっちゃお!」」」

 

 プレさんの雰囲気的にはおとなしいのがあっているとは思うが、あえて楽しいのを選んだ。お祭りだし、明るいのがいいはずだ。

 

「いい天気♪」

「うきうきだね♪」

「ならばかけっこだ♪」

「「「いっせーのーせで 一等賞 目指して!」」」

 

「はしっちゃおう♪」

「うたっちゃおう♪」

「「「あしたもはれるや! YES!」」」

 

 ノリノリのまま、歌いきると会場もやはり盛り上がってくる。

 プレさんも笑顔で観客に手を振っている。

 やはり選曲は間違っていなかったとおもう。

 

 そして最後は、ボクをセンターに

「うまぴょい伝説」

 である。

 ある種の鉄板であった。

 

 羞恥心からも、世間体からも逃げきって、逃げ切りシスターズの初ライブは大成功に終わったのであった。

 

 

 

 このライブの結果、優秀賞をもらい商品のお肉がもらえたほか、日本全国のファンからお肉がいろいろ送られてきた。

 

 ライブが終わった後のインタビューで、

 

「お肉が食べたいです!!」

「お肉が食べたいの!!」

 

 とアイネスさんと二人で肉食系女子をアピールしすぎたためだ。

 プレさんは後ろで小さくなっていた。食べられると思ったらしい。

 あまりの食いつきっぷりに心配されて日本各地からご当地の牛肉だの豚肉だの鶏肉だのが送られてきたのだ。

 

 なんにしろ、これにより逃げ切りシスターズの知名度はとても上がった。

 それにより、何かのイベントのたびにライブ依頼が来て、このライブ服から逃げきれないことが確定してしまうのにボクたちが気付くのは少し後のことであった。

 

 

 

 

 そんなこんなでレースの祭りも、ライブの祭りも終わり、季節が変わる。

 新しいウマ娘たちがメイクデビューをしていく中、レースから去るウマ娘も出てくる。

 

 アグネスフローラさんは、オークスで引退をすることになったし、アイネスフウジンさんもライブではあんなに楽しんでいたが、レースからの引退を考えているらしい。

 

「正直、ヴィオラちゃんにまだ直接勝ってないから…… もう少し続けたいとは思うんだけど、難しそうなの……」

 

 アイネスさんはそう言っていた。

 ピークが過ぎるというのは残酷で、本人しかわからないが歴然とした事実として存在する。

 それでも粘るか、あきらめるかはウマ娘次第だが、二人は身を引くつもりに見えた。

 他にもクラシック路線で争ってきたハクタイセイさんなんかも引退する予定だと聞いている。

 

 ウマ娘が増え、減り、時代は移り変わっていく。

 そんな変わり目をボクは感じたのであった。




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