紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

32 / 62
11 紫電の女王と秋の訪れ

 夏が過ぎると秋になり、GⅠの季節になる。

 

 この季節になると、レースの様相はガラッと変わる。

 まず、夏ウマ娘と呼ばれる、夏時期から成績を上げて実力をつけてきたウマ娘がGⅠ戦線に参戦してくる一方、夏まででトゥインクルシリーズを引退してしまうウマ娘も多いのだ。

 

 今回ボクが挑戦する予定のレースは菊花賞である。

 そのあとエリザベス女王杯に行ければいいが…… 菊花賞の消耗で厳しい可能性がある。

 だからと言って菊花賞で手を抜くなんてナンセンスなので、菊花賞に目下全力投球である。

 あとは、年末の有馬記念には出たい。オグリキャップさんと、メジロアルダンさんが引退レースで出るのだ。

 一度は二人とも全力で走ってみたいと思っていたので、それだけは絶対出たかった。

 

 閑話休題、菊花賞である。

 3000mという長距離が目に付くこのレースだが、何よりも一番重要なのは、このステップレースが2400mや2200mと、本番と比べてかなり短いということだ。

 ステップレースだけでなく、それまでのレースはほとんどすべて2400m以下であり、3000mというのはかなり未知の領域だということである。

 

 ひとまず相手に来そうなのはだれか、考える。

 結局アイネスさんは菊花賞3000mは長すぎるし、他に秋でよい距離のレースもないため引退し、アイドル活動に専念し始めた。逃げ切りシスターズである。

 ちょこちょこ人気も出ており、楽しそうに活動をしていた。

 ハクタイセイさんも引退し、クラシック前半で競ってきたメンバーのうち、出てくる有力者はメジロライアンさんだけだ。

 

 メジロライアンさんの長距離適性はわからないが、ダービー2着になったときのやばい末脚は十二分に警戒に値する。多分あの末脚は、ボクのストライド走法と同じぐらいの速度が出ている。あれに追い付かれる前に突き放さないと勝ち目がないのは間違いない。

 

 他に怖いのはホワイトストーンさんだ。

 クラシック前半では、まだピークが近くなかったのか、そこまで目立つ存在ではなかったが、ダービーでは3着に入り、夏明けの菊花賞ステップレースではセントライト記念で1番人気、1着を取っている。

 明らかに実力を増してきているうえ、鋭い末脚も長く使える脚も使える、長い距離でこそ生きそうな走り方をしている。かなり危ない相手だった。

 

 あとはやっぱりメジロマックイーンさんだろう。

 前走は3勝クラスのレースであるが、京都の3000mで勝っている。

 一人だけ、事前にリハーサルをしているということだ。

 いつも練習の走りを見る限り、実力も高そうであり、決して油断できる相手ではなかった。

 

 ざっと見ると、警戒する相手はこの3人だろうか。

 先行1で差し2と考えると、逃げて押し切りたいと思うが、菊花賞で逃げは鬼門だ。

 今まで何十年と、逃げウマ娘が菊花賞で勝ったことがないのだ。

 

「まあ、だからこそ大逃げ推奨なんだけど」

「ですよねー」

 

 ウチのトレーナーさんのことだからそういうとは薄々思っていた。

 基本常識を蹴とばして生きているのがうちのスピカトレーナー二人である。

 

「菊花賞で逃げが不利な理由はいくつかあるよ。一つはもちろん距離。長距離だからスタミナ管理が大変」

「まあ正直、ボクはスタミナには自信があります」

「京都の第三、第四コーナーはアップダウンがあってすごくテクニカルなんだけど、これを2回も回る必要があってさらにスタミナを消費する。逃げはインコースを通るからコーナーリング難しいしね」

「コーナーリングなら自信がありますよ。フローラさんに美しいっていつも褒められています」

「あとは直線にも特徴があるんだよね。長いし、他の中央3競馬場と違って坂がない。さらにコーナー抜けてから内回りのコースがあるから、内ラチがしばらくないところがあるせいで、内ラチのさらに内を抜くこともできる。そのせいでブロックがされにくいんだ」

「そういえばそうでしたね。内ラチのさらに内から強襲なんて言うのもできるわけですね」

 

 そういう事情を考えると、確かに差し追い込みが有利な要素が多い。

 だが、ボクにとってはどれも不利じゃない。

 つまり、逃げれば勝てるということだ。競争相手が少ないだろうから、よけい勝てるだろう。

 

 ひとまず逃げで行く方向で検討することになり、レースまで調整を続けることになったのだった。

 

 

 

 レースまで、調整以外にもやることは多い。

 

 まずは逃げ切りシスターズの活動である。

 アイネスさんがソロで行ってもらうことも少なくないが、やはり3人グループなので、3人で活動することも少なくない。

 ボクが一応リーダーではあるが、リーダーという肩書であってリーダーという役職ではないと主張している。

 アイネスさんの役職がおねえちゃん、であり、プレクラスニーさんの役職がかわいい担当だ。

 謎設定が増えつつも、徐々に評判は上がってきており、府中近辺でやっているライブでは人の集まりもいい。羞恥心はすでに捨て去っているのでライブ服も気にならなくなってきていた。

 そんなこんなでライブ練習にライブとやることは多かった。

 

 次に生徒会の仕事である。

 会長が変わるので、引継ぎ資料の作成はかなり入念に行っている。

 なんせほとんどがルドルフさんが始めたことばかりである。

 書式にマニュアルと作らなければならないことは多い。

 ラモーヌさんが立候補予定なのでたぶん決まりだが、選挙もあるので確実ではなく、他の人が万が一選ばれることを考えて、誰でも対応できるような準備が必須だった。

 

 他にもルドルフさんとラモーヌさんの関係の後押しをこそこそしている。

 なんせ、こちらはルドルフさんのスケジュールは把握しているし、ラモーヌさんのことも次期会長候補として、引継ぎ担当のボクは簡単に呼び出せる。もともとの関係の良さもあるし。

 とはいえ外で合わせるとまた週刊誌にすっぱ抜かれそうなので、面会場所は主に学園内の学食とかラウンジとかである。

 なんだかんだで、二人して仲良く話していることも最近増えてきているので、ボク的には非常に満足である。

 

 これだけ忙しいとトレーニングの時間は大幅に減ってしまうが、最近フィジカル的には頭打ちになっているのも考えるとあまり多くの時間は必要ない。

 現に調子は絶好調であり、オークスの頃よりも技術面の進歩があるから明らかに強くなっている自覚がある。

 

 だが、少し、周りの目に無神経だったかもしれない。

 菊花賞が近づくある日、

 

「ちょっといいでしょうか?」

「ん? なんですか? マックイーンさん」

 

 メジロマックイーンさんに呼び出されたのであった。

 

 

 

 マックイーンさんに連れられてきたのは小さな談話室だった。

 

「で、なんですか、マックイーンさん?」

 

 全く心当たりがなかったボクは不思議だった。

 なんか顔が険しいし……

 

「いえ、最近ヴィオラさんがあまり練習できていないようでしたので、どうしたのかなと思って」

「……? そうかな?」

 

 毎日マシントレーニングはしているし、週2で障害コースへ練習しに行ってお姉さまたちにかわいがられながら跳んでいる。

 走りの確認も朝練で下級生に教えながらしているから、調整に不安は一切なかった。

 

「そうですわ! 生徒会のお仕事に、ライブ。それにラモーヌさんと会長さんの関係にも手を出してますわよね! 余計なことしすぎですわ!!」

「うーん、どれも必要なことだし、調整はちゃんとしているよ」

 

 マックイーンさんが言いたいことがいまいちわからなかった。

 ボクのこと、心配してくれているのだろうか。

 マックイーンさん、クラスでも優等生だしなぁ……

 

「生徒会のお仕事や、ユニットでの活動は必要かもしれませんが、ラモーヌさんたちのことはそんなことないでしょう!! 変に首突っ込んで事態をかき混ぜるべきではありませんわ!!」

「いやまあそうかもしれないけど、一番重要じゃない。あの二人、あのままじゃ別れちゃうよ」

「メジロ家とシンボリ家の問題ですわ。別れても仕方がないのではないでしょうか? 部外者が口を出すべき問題じゃないですわ」

 

 マックイーンさんの発言に少し引っ掛かりを覚える。

 二人が性格の不一致とか、もしくは夢を追いかける過程で別れるというのならわからなくもない。

 大きなことを言い、それで他人を惹きつけるルドルフさんのカリスマ性と、好きなことだけをやり、それで他人を惹きつけるラモーヌさんのカリスマ性は方向性が違いすぎる。

 そういう不一致から疎遠になっていたのかなと思ったが、家とかも関係してくるのか。面倒な。

 

「部外者っていうならマックイーンさんのほうが部外者なんじゃないの? ボクはアルダンさんにはちゃんと相談しているし、メジロのほうには話がついてると思うんだけど。マックイーンさんはだれかにボクを止めろって言われたの?」

「ッ!!」

 

 一瞬の沈黙。

 だが、何か地雷を踏みこんだ気がした。

 

 そもそもメジロ家と一口にまとめても中でも仲の良しあしがある。

 ラモーヌさんと関係が深いのは当然実の妹であるアルダンさんだ。

 アルダンさんには逐一報告をメールでしているし、それを聞いたアルダンさんは苦笑はするが止めることはない。

 シンボリ家のほうはよくわからないが、ルドルフさんとアルダンさんのトレーナーであるおハナさんにも話は通してあるし、おハナさんはむしろやれ見たいな雰囲気を出してくるからあまり心配していない。

 神は言っている、もっとやれと、ということでやりすぎてこじれるのだけは避けたいので注意は必要だが、止める必要はないはずだ。

 

 そう考えるとマックイーンさんのほうが部外者だと思ったのだが、それが地雷の雰囲気があった。

 怒った雰囲気のまま、マックイーンさんはその場を去ってしまったのだった。

 

 

 

「ヴィオラちゃん、マックイーンとけんかしたみたいだね」

「あ、パーマーさん。お疲れ様です」

 

 その数日後、マックイーンさんとは一言も話さないままであったが、障害の練習場でパーマーさんと会った。

 パーマーさんも時々障害の練習をしているのもあり、ちょこちょこここで話すことが多い。パーマーさん自身、本格化がまだ進んでいないようで、現状オープンクラスにいるぐらいで、障害への転向も考えているのだとか。

 そんなパーマーさんはマックイーンさんとボクがぎくしゃくしているのに気づいていたらしい。

 

「喧嘩、したんでしょうね。ラモーヌさんとルドルフさんのことに、マックイーンさんが部外者が口を出すなっていうから、ボクもムキになってマックイーンさんのほうが部外者でしょって言っちゃったんですよ。そうしたら怒っちゃったみたいで」

「あー、なるほどね。マックイーンにそれは急所かなぁ」

「そうなんです?」

「名家って本当に複雑なんだけど、私やライアンは本家筋みたいなもので、マックイーンは分家筋みたいなポジションなんだよね。だからさ、マックイーンはメジロ家で、部外者でしょって言われるのが一番傷つくんだ」

「うわぁ……」

 

 うわぁ、としか言えない。

 名家、めんどくさすぎる。

 きっとそんなことをマックイーンさんが言われて傷ついていたのを、パーマーさんは見たことがあるんだろう。

 

「ま、言ってしまったものはしょうがないよ。そんなのヴィオラちゃんは知らなかっただろうしね」

「そうですね」

 

 そういってボクの頭をなでるパーマーさん。

 

「ラモーヌさんとルドルフさん、昔恋人だったんだよ。でもなんか家同士のいざこざもあったらしくてさ。アルダンさんなんかはラモーヌさんべったりだから絶対プッシュしてるだろうけど、反対する人も家の中に多いよ。シンボリ家に嫁に入るとかなったらそれこそ大騒動だし、マックイーンの周りにも反対する人はいると思う」

 

 複雑怪奇すぎるお家事情を感じた。

 

「パーマーさんはどう考えてるんですか?」

「私は正直どっちでもいいな。ラモーヌさんと仲がいいわけでもないし、好きにすればいいぐらいにしか思ってないよ」

「そうですか」

「でも、ヴィオラちゃんが二人の仲を応援したいっていうなら、私も応援しちゃおうかな」

 

 そういってパーマーさんはボクの頭を抱えてぐりぐりとなで回す。

 ちょっと落ち込んでいるのがばれていたようだ。

 

「ありがとうございます」

「次は菊花賞でしょ。そこで走りで見せつけるのが一番さ。マックイーンも、ライアンも、すごい強いよ」

「そうですね」

「頑張って。私は、ヴィオラちゃんを応援してる」

「がんばります」

 

 ちょっともやっとしたまま、ボクは菊花賞を迎えることになったのであった。




中学生の喧嘩である。

面白かったら高評価お気に入り・感想お待ちしております。

創作について話したり相談するディスコード鯖
https://discord.gg/92whXVTDUF
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。