紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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14 紫電の女王と年末まで

 エリザベス女王杯の後の次走は有馬記念ということになった。

 一つは菊花賞3000m、エリザベス女王杯2400mを連続で走った疲労がそれなりにあり休んだ方がいいだろうということになったこと、ジャパンカップの分析が間に合わなさそうだったことが理由としてあった。

 ジャパンカップで事前登録された海外ウマ娘が60人以上おり、さすがのうちの白井トレーナーも海外ウマ娘までは網羅していなかった。

 

 現在稼働している現役メンバーもボクだけでなくクラシッククラスにはプレクラスニーさん、ジュニアクラスにはイソノルーブル姉さんとナイスネイチャさんがおり、トレーナーさんも余裕がなくなっている。

 

 フローラさんの分析を考えると、ボクの強さはトレーナーさんの作戦能力とボクがそれにきちんと答えることだ。

 トレーナーさんなしでレースに挑むのはどう考えても不利だ。

 そんなこんなで、次の出走は有馬記念の予定であった。

 

 

 

「で、そんな今を時めく三冠ウマ娘さんが何でこんなところにいるの?」

「意地悪なこと言わないでくださいよパーマーさん」

 

 変則な三冠ウマ娘になったボクはどうしているかというと、最近は障害練習コースに入り浸っていた。

 ルーブル姉さんの阪神ジュニアステークスの調整やら、プレさんの年末の3勝クラスのレースの調整やらでトレーナーさんがとられていて、完全自主練になっているのだ。

 一人で走っているのも寂しいので、構ってくれる人が多い障害練習コースに毎日来ているのだった。

 

「ここで練習してても、障害レースには出ないんでしょ?」

「春の中山大障害には出ようかなと思ってます」

「え? 本当に? トレーナーさん反対しないの?」

「特に何も言ってませんでしたよ」

 

 障害レースと平地のレースの出走条件は共通なので、GⅠも勝っているボクには出走資格がある。

 そもそも中山大障害にそんなに出走者がいないので、GⅠにもかかわらず出たいといえばほとんど誰でも出られる状況だ。

 賞金だってかなり良い。オークスなんかよりは少し低いが、朝日杯よりも断然多く出る、普通にGⅠレベルの賞金なのだ。

 だが、人が集まらないのは、どうも障害が下に見られているのと、あとは転倒事故の危険があるからだろう。

 

「大丈夫ですよ、転倒時の受け身の練習もしてますし」

「まあ、先輩たち喜ぶんじゃない? 観客も集まるだろうし。でも、勝てるの?」

「正直どうでしょうね」

 

 転倒時の対応のため、受け身の練習はきちんとしている。

 ヤエノムテキ先輩に頭を下げて古武術の受け身は教えてもらったし、近くの柔道場でも受け身だけ教えてもらいに行ったこともある。

 毎日レース場隅でコロコロしてるのは、遊んでいるのではないのだ。

 

 だから怪我の心配は基本していないのだが、勝てるかどうかはまるで分らない。

 トレーナーさんは好きに走ってきな、というからもう好きに走る予定である。

 ぴょんぴょん跳ぶのが好きなので、走ってみたいだけでしかなかった。

 

「じゃあ天皇賞春は? マックイーンもそこに合わせてくるだろうし、ライアンや私も出る予定だよ」

「へー、パーマーさんも出る予定ですか。ボクは大障害での疲れ次第ですね。一応出る予定ですが」

 

 メジロと言ったら天皇賞。総力合わせて取りに行くつもりのようだった。

 天皇賞春は中山大障害春の3週間後だし、どうにか間に合うだろうとボクは思っているし、きっと間に合うだろうという計画は立てていた。

 

「負けないからね」

「次は勝って見せますよ」

 

 そんな言葉を交わして、ボクは障害練習に戻るのであった。

 

 

 

 

 もう一つ力を入れているのはアイドル活動である。

 

 逃げ切りシスターズは最近メンバーを二人増やした。

 ルーブル姉さんとブルボンちゃんだ。

 ルーブル姉さんはライブ衣装を非常に嫌がったが、肉で簡単に釣れた。

 

 アイドル活動の目的は二つ、肉と金である。

 人気を集め、それにより肉を手に入れるとともに金儲けするのだ。

 

「あの、アイドルって、もっと、キラキラしてて、夢を与えるような存在なのでは?」

「夢でキラキラするよりお金でキラキラしたいです」

「弟や妹にまたあのお肉を持って帰るの」

「今度はおいしい豚肉とかもいいわね。とんかつとかにできるし」

「……」

 

 生まれも育ちもいいプレさんの正論は、欠食児童三人の意見により潰される。

 ブルボンさんは何も言わずにルーブル姉さんに膝枕されていた。

 ボクの膝枕はウマ娘をダメにするから用量を守っているらしい。

 意味が分からなかった。

 

 ユニットの活動は基本、学園公式で行われるイベントのほかは、ウマチューブによる活動がメインだ。

 最近は料理動画の再生数が伸びている。

 料理をする肩書リーダー、実情雑用のボク。

 解説をするように見せかけて何も説明しない解説担当のルーブル姉さん。

 ツッコミを入れつつルーブル姉さんと雑談しているプレさん。

 毒見担当のアイネスさん。なお、アイネスさんはマジでなんでも食べる。

 そして毎回炊飯器を爆発させるブルボンちゃんである。

 実際作っているのはボクだけだった。

 

 他にも動画撮影中にダサTで横切ってしまうルドルフさんや、ケミカルなサムシングを持ち込むフローラさん。フローラさんを止めようとしてケミカルなサムシングをかぶってえらい目に合うダイイチルビーさん、すべてを無視して極めてまともな料理を作るネイチャさんなど、個性豊かなゲストも評判になっていた。

 

 おかげで差し入れはバンバン学園あてに送られてくるし、ちょこちょこ入る収益化の収入も活動資金として使えるので助かっていた。

 

 

 

 そんな風にボクが日常を送っている中でも、レースは繰り広げられ続けていた。

 

 ウチのチームスピカだと、プレさんは、3勝クラス2戦目で勝利して無事オープンクラスに昇格した。

 周りと比べればゆっくりではあるが、目標が来年の天皇賞秋である。

 能力も充実してきており、確実に間に合うペースだろう。

 

 ジュニアクラスだと、ルーブル姉さんは阪神ジュニアステークスに見事勝利を収めた。ベテルギウスのイブキマイカグラさんや、ベガのミルフォードスルーさんなんかを抑えた堂々の逃げ切りである。

 当然、それは実家でお祝いすることにした。

 

「ルーブル姉さんおめでとー!!」

「おめでとうルーブル」

「おねーちゃんおめでとー」

「本当にすごいわね、ルーブルちゃん」

 

 ルーブル姉さんご要望のとんかつ(鹿児島黒豚だ)でとんかつパーティになった。

 

「ヴィオラちゃんもよくわからない感じの三冠とったしすごいよねぇ」

「なんですかよくわからない感じって」

「だって、皐月賞とってオークスとってエリザベス女王杯とか聞いたことないし」

「つまり世界一ってことですね」

「そういうポジティブなところ、ヴィオラのいいところだと思うよ」

「お母さんに褒められた!」

 

 こんな感じでみんなで大騒ぎしていたのだが、母に抱き着いて一つ気づいた。

 

「あれ、お母さん、太った?」

「いや、ルーブルとヴィオラに妹ができるからね」

「へー、妹…… 妹!?」

 

 母が妊娠しているなんて初耳すぎた。

 

「二人に心配かけるかと思って秘密にしてたんだよね」

「え、え~!?」

「どこどこ、わー、動いてる」

「姉さんずるい!! ボクも!!」

 

 母のおなかに耳ピトすると音が聞こえる。

 妹なんて、とてもうれしい。

 

「二人とも、しっかりおねえちゃんしてね」

「「はーい」」

 

 返事だけはとてもいいのが自慢な、ボクら姉妹であった。

 

 

 

 他にはネイチャさんは今年中にオープンクラスに昇格し、ステップレースを経て皐月賞に挑戦する予定だった。

 テイオーも順調に皐月賞を目指しており、そこでの衝突がどうなるかは期待半分、不安半分である。

 

 そんな感じで、チームスピカは順調に行っていた。

 

 

 

「いいことですね。リギルのほうは、ちょっと今大変なんですよ」

「? テイオー、頑張ってますよね? 三冠とるかもしれない勢いなのに」

 

 そんな中、ラモーヌさんちに遊びに行ったところ、アルダンさんがそんなことをボヤいていた。

 ちなみにラモーヌさんはルドルフさんと一泊二日で競馬場視察である。

 そうなるとアルダンさんが一人になってしまうため、リギルのメンバーとかボクが、ちょくちょくお泊りをしていた。

 

 しかし、リギルが大変とはどういうことだろうか。

 テイオーがいればしばらく安泰のように思える。

 実際まだまだ分からないところだが、リギル所属のテイオーは無敗の三冠を公言しているし、それが納得できるだけの実力を持っている。

 前途は明るいように思えるが内部的には違うようだ。

 

「マティリアル先輩も、スイートミトゥーナちゃんも、結局あまり実績を残せなかったから、シンボリ家とおハナさんの間でいろいろ揉めててね……」

「でも二人とも、重賞は勝ってますよね?」

 

 世の中には未勝利でやめていくウマ娘も多いし、重賞を勝てるのなんて一握りだ。

 上を見ればきりがないが、普通なら十分といえる成績なはずである。

 

「ルドルフさんと比べると劣るという話みたいなのよね」

「それこそ無茶苦茶でしょう。ルドルフさんはただの化け物ですよ」

 

 ルドルフさんは本当に化け物レベルである。ルドルフさんに言わせるとクラシック5戦も出て3勝したボクのほうがよほど化け物だといっていたが、無敗の三冠をした人に言われたくはなかった。

 なんにしろ、ルドルフさんは空前絶後であり、マティリアル先輩やミトゥーナさんではとても実現できるはずがない。二人とも素質はあったと思うが、適正も、才能もルドルフさんとは異なるのだ。

 

「私は当然メジロだから全然関係なかったんですけど、どうやらシンボリ家のほうからもトレーニングとかレースプランに口出しがあったみたいで…… で、結果があれだからおハナさんもついに堪忍袋の緒が切れちゃって」

「大変そうですね」

 

 今度胃にやさしい食材をもっていこう。

 多分この前沖野トレーナー経由で分けた肉は重過ぎる。

 

「で、いま、姉さんとルドルフさんの婚約話まで出てますから、メジロまで巻き込んでしっちゃかめっちゃかです」

「とても大変なことはわかりました」

 

 ボクは部外者なので、ただただ、ルドルフさんとラモーヌさんを会わせることぐらいしかできない。

 

「んー、ボクも何かできることがあればいいんですけど」

「あるとすれば、そうですね。ヴィオラちゃん、私と結婚しますか?」

 

 いきなりデッドボールを投げてきた、アルダンさんにボクは硬直した。

 

「え? アルダンさんとボクが?」

「ええ、ヴィオラちゃんはラモーヌ姉さんと並ぶ三冠ウマ娘ですから、ラモーヌ姉さんがシンボリ家に嫁いでも私と一緒ならカバーできるはずです」

「……アルダンさん、疲れてます?」

 

 理屈はわかるが理屈でプロポーズしないでほしい。

 

「だって、ヴィオラちゃん、私のこと好きですよね?」

「好きですけど! 何なら初恋ですけど!! でもこの流れはないです!!」

 

 アルダンさんのこと、好きか嫌いかと言われれば大好きである。

 お嬢様系の美人の外見はもう好みドンピシャだし、いつも優しいし、構ってくれるし。

 ただ、アルダンさんの好みもボクは知っている。アルダンさんの好みは頼れる白バの王子様だ。ボクみたいな妹キャラは確実に適合していない。

 ボクがアルダンさんの気持ちの方向がわかっているように、アルダンさんもボクの気持ちを分かっているはずだ。

 それでこの流れでこの雑なプロポーズである。

 疲れているとしか思えなかった。

 

「疲れているかもしれないです」

「お風呂入ってマッサージしますよ。有馬記念近いんですから」

「ヴィオラちゃんにも負けないように頑張りますから」

 

 そんなことを話しながら、二人でお風呂場へと向かう。

 

「…… 多分、これが一番なのではないかと思うんです。私も名家のウマ娘ですから、必要となれば必要な相手に嫁ぎます。そうすれば……」

「ボクは嫌ですよ。アルダンさんのこと、好きですから、アルダンさんが好きな人と結ばれないのは嫌です」

 

 アルダンさんは口をつぐんだ。

 

「アルダンさんが犠牲になるなら、ボクはルドルフさんとラモーヌさんのほうを破談にさせますよ」

 

 ボクはやるときはやらかすウマ娘なのだ。

 やると決めたらマジでやらかす。

 アルダンさんもそれを察したのだろう。

 

「……こんな私に幻滅したかしら」

「余計好きになっちゃったかもしれないです。これなら頑張って頼りがいがあるところ見せればもしかしたらがあるかなーと思って」

「ふふ、じゃあ頑張って」

 

 外から見てるだけではわからないが、メジロもシンボリもリギルもたぶん相当ごたついていて、アルダンさんは相当参っているのだろうなと思った。

 

 結局二人仲良くお風呂に入って、アルダンさんの全身をもちもちマッサージして、一緒に寝たのだった。

 一日たったアルダンさんは少し元気そうになっていた。

 

 

 

 いろいろごたごたもありつつ、めでたいこともありつつ、年末の有馬記念は近づいていた。

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