紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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15 紫電の女王の有馬記念

 有馬記念は、その年の最後のレースにして、クラシック級とシニア級が正面からぶつかり合うことになるレースでもある。

 

 クラシッククラスの注目株は、まずはもちろんこのボクである。

 変則三冠ウマ娘、紫電の女王、連対を外さないミスパーフェクト、ターフの魔術師もしくはターフの詐欺師なんて呼ばれるボクは、現状クラシッククラスの最有力だろう。

 休息期間も十分とれており、調子も絶好調であった。

 

 次に注目されているのはホワイトストーンさんだ。

 菊花賞優勝、前走ジャパンカップでは4着だったが、日本ウマ娘の中では最高順位だったし、菊花賞からジャパンカップのローテーションはシンボリルドルフすら負けたほど過酷であることも考えれば非常に評価される実績だろう。

 長距離に強いことも考慮すれば中山競馬場の2500mも有利な事情だった。

 

 あとはメジロライアンさんか。強さは疑わないのだが、いまいち勝ちきれない状況が続いていた。

 

 

 

 一方シニアクラスの注目株は、まずはオグリキャップさんだろう。

 ただ、天皇賞秋6着、ジャパンカップ11着と凡走を続けており、今年前半の安田記念で優勝した時や、宝塚記念で2着になったときの力強さがない。ピークが過ぎていそうな気配が見えていた。

 

 メジロアルダンさんも当然注目を集めている。

 前走天皇賞秋で2着、怪我のためあまりレースに出れておらず、ダービー以降GⅠの勝利はないが、それでも掲示板を外さない安定的な走りをしている。

 今回こそはと勝利を狙っているのは明らかだった。

 

 先日の天皇賞秋で勝利したヤエノムテキさんも人気がある。

 ジャパンカップが不調で、多少人気を落としているが、それでも人気のあるウマ娘だった。

 

 あとは宝塚記念でオグリキャップさんに勝利したオサイチジョージさんなんかもおり、シニアクラスのメンバーもそろっていた。

 

 

 

 アルダンさんやオグリさんとの併走は朝練でかなりの頻度しているが、レースの走りは別物と考えた方がいいだろう。

 

 トレーナーさんとも念入りに打ち合わせをして、ボクは有馬記念に挑むのであった。

 

 

 

 有馬記念のパドックは、お祭りのような雰囲気に包まれていた。

 垂れ幕が所せましと垂れ下がり、ファンの皆さんが大声で歓声を上げている。

 

『一番人気はやっぱりこの子、三冠ウマ娘、紫電の女王、ヴィオラレジーナです』

 

 跳ねながら手を振ると大歓声が上がる。

 さすがの三冠ウマ娘の肩書は伊達ではなく、人気は一番だった。

 声援がそこかしこから聞こえてきて、とても気分がイイ。

 だが、今日も当然のように一角を占めている虚紫集団は絶対に許さない。

 でもお歳暮で最高級和牛10kgを送ってきたので許すことにする。

 そう、ボクは安い女ではないのだ。あの異様な集団の前で虚無った表情をしてさらに牛肉20kgをせしめることに成功なんてしていないのである。

 なお、表情に欲が漏れていたとちょっと不評だった。

 

『二番人気は菊花賞ウマ娘、ホワイトストーンです』

 

 菊花賞、ジャパンカップと成績が良かったホワイトストーンさんが二番人気である。

 白い芦毛が特徴的で、美人さんのホワイトストーンさんは、ボクと同じく展開で勝負してくるタイプだ。

 今回、ボクとの相性では一番注意が必要な相手だった。

 

 3番人気がメジロアルダンさん

 4番人気がメジロライアンさんと続いていく。

 

 ここ最近の実績から考えれば、ヤエノムテキさんがもっと上位に来ていいかと思うのだが7番人気である。

 下バ評はなかなか複雑怪奇であった。

 

 

 

 パドックをうろうろしていると、ボクを見つけたオグリさんがこっちに寄ってきて、ボクに声をかけた

 

「ヴィオラ君」

「ごきげんよう、オグリさん」

「ヴィオラ君こそ、ずいぶんご機嫌だな」

「アルダンさんやオグリさんと走れますからね」

 

 二人とももう引退すると聞いている。

 二人と本気で走るのは、おそらくこれが最初でこれが最後だろう。

 

「そうだね。私もこれで引退するから、これが最後だ。だから、ヴィオラ君に借りを返しておかないとね」

「借り?」

「ダービーに出られたことだよ。だから、私の全身全霊の力をヴィオラ君に見せてあげる」

「楽しみにしてますね」

 

 いつもあまり闘志を表に出さないオグリさんが、かなり燃えているように見えた。

 

「今日、ヴィオラちゃんに勝つのは私ですよ」

「アルダンもやる気だな」

「ごきげんよう、アルダンさん」

 

 そんな話をしていると、アルダンさんも話しかけてきた。

 

「当然ヴィオラちゃんにも勝つし、オグリさんにも負けないですから」

「今回は私が勝つ」

 

 アルダンさんとオグリさんはダービー後も何回かレースをしている。

 今までの結果は大体五分ぐらいか。

 二人の間にもおそらく何かいろいろな思いがあるのだろう。

 

「そういえばアルダンさん」

「? なにかしら?」

「今日もライアンさんに睨まれてるんですけど、ボク、何かしました?」

「あー、おうちの関係で思うところがいっぱいあるのかもね。マックイーンちゃんと違って、ヴィオラちゃんは全く関係ない理由だと思うわ」

「そうですか……」

 

 一時気になったことをアルダンさんに聞いてみるが……

 要領を得るような得ないような…… そんな答えだった。

 あとボクがマックイーンさんの地雷を踏みぬいたのはアルダンさんも知っているようだった。

 名家もきっと大変なんだろうな、と思いながら、ボクはレース場へと向かうのであった。

 

 

 

 いつもの関東の競馬場で流れるファンファーレを聞きながらゲートインをして、特に何もなくスタートをした。

 

 いつものように好スタートを切ったボクは先頭集団の一番内側に入る。

 前を行くオサイチジョージさんに先頭集団で走り始めるメジロアルダンさんとヤエノムテキさん。ホワイトストーンさんやオグリキャップさん、ミスターシクレノンさんは少し後ろ当たりをついてきている。

 ライアンさんはいつものように後ろの方につけたようだった。

 

 完全に囲まれているがあまり慌ててはいなかった。

 有馬記念が行われる中山競馬場のコーナーは小さく急であり、特に第四コーナーは200mもなく、かなり急に曲がるコーナーだ。

 絶対どこかで前が開くのはわかっていた。

 

 ポジションは想定通りであり問題はない。

 だが、いつも以上にちょっとした走りにくさを感じていた。

 隣に着けてくるヤエノムテキさんが、今、微妙に半歩こちらに寄せてきた。

 接触したら当然違反だが、半歩程度寄せただけで接触することはない。

 だが、その寄せで感じる圧迫感はかなりのものがある。

 それに合わせて、さらに外側にいるメジロアルダンさんも、半歩よりもう少し、内に寄せてくる。

 相手に圧迫感を与えながら、少しでもコース取りを有利にしようとするテクニックだ。

 こういう細かいところまでいろいろしてくるのが熟練のシニア級、といった感じであった。

 ここで半歩外に出つつ、少しだけ速度を上げて前に出る。

 抜け出しにくくなるが、ヤエノムテキさんへの圧迫感は半端ないだろう。

 嫌がって下がるなり、外に逃げてくれれば有利に運べるが、その辺は相手のほうが熟練で、そのままボクの干渉を気にすることなく走っていく。

 後ろからホワイトストーンさんが内ラチ側によって圧迫をかけてきたので、結局ボクは内ラチ際のほうに戻るしかできなかった。

 そんな細かい駆け引きをしながら、道中は進んでいく。

 一瞬たりとも気を抜けなかった。

 

 

 

 第二コーナーを回り向こう正面に入るとレースのペースが上がった。

 ここで一度下り坂になるため、その勢いでペースが上がったのだ。

 末脚の速さにはあまり自信がないので、ここでボクは前に詰める。

 先頭を走るオサイチジョージさんの内側にぴったり付けた。

 外からミスターシクレノンさんが一気に上がっていって先頭についたが、おそらくオーバーペースだ。あれは最後まで持たない。

 集団になったまま第三コーナーを回り始める。

 ヤエノムテキさんやアルダンさんは先頭に並び、オグリキャップさんがさらに外に出て並びかける。

 ホワイトストーンさんはおそらくボクと同じく、最内際を狙っていたのだろうが、ボクが内側を占領しているのでボクに並びかけ、外に回っていた。

 

 第四コーナーを抜けて、四人が横一線で競い合う。

 ボクは最内を、ホワイトストーンさんはオサイチジョージさんとヤエノムテキさんの間を抜けてスパートをかける。

 ホワイトストーンさんはボクが外に回ると読んでいたはずだ。

 最内が開くのは第四コーナー終わり、一方オサイチジョージさんとヤエノムテキさんの間は二人の速度差で第四コーナー途中で開く。

 末脚がズブい方なボクはコースの有利より長く末脚がつかえるコースを選ぶと踏んでいたはずである。

 おそらく当初の予想を外されたため、ホワイトストーンさんは少しタイミングを外している感じだった。

 

 

 

 中山の短い直線で、ボクは前4人に並びかける。

 オサイチジョージさんはすでに脱落しつつあり、あとの3人のあたりで空間がゆがみ始めたような錯覚を感じる。おそらく領域(ゾーン)の展開をし始めている。

 三人とも極限状態に入り、全力を絞り出し、奇跡の領域に足を踏み込んでいるのだろう。

 ホワイトストーンさんもそんな領域(ゾーン)争いに加わっていた。

 こちらとて一般ウマ娘で、ピークもとっくに過ぎているせいで領域(ゾーン)なんてすごい技を発動できないのだからやめてほしい。

 安定して力を発揮できるということは、限界をさらに超えて何かするなんてことが難しいのと基本同義だ。

 領域(ゾーン)なんて不安定な中で力を振り絞ったところで発動する奇跡だから、ボクみたいなタイプのウマ娘には無理なのだ。

 

 だが、今あるもので勝負しないといけない。

 領域(ゾーン)のバーゲンセールみたいになった先頭争いで、ボクはさらに力を振り絞った。

 

 今回、最内の一番いいコースを走り抜けている点、多少ボクが有利だが、その程度である。

 今回これ以上の策も何もなかった。いや、一つだけ新しい走り方をしてみる予定だが…… 基本は真っ向勝負である。

 全力で走り、すさまじい勢いでスタミナが削られていく。

 最高速度勝負になると分が悪いボクはじりじりと引き離されていく。

 ホワイトストーンさんは並びきれておらず、詰めることも難しそうだ。

 そのまま中山の坂に到達したタイミングで、ヤエノムテキさんが脱落する。

 混沌とした、空間がきしむような雰囲気が減るが、その分重圧が増える。

 そんな中、ボクはストライドを一気に大きくした。

 オークスでやった、あの走り方である。

 

 全力疾走から一気にあの走り方に切り替えられれば速度を上積みできる上に、負担もオークスの時ほどではなくなるはずだということで、うまく切り替える方法を考えていた。

 その結論の一つが今回のこの、上り坂をうまく使う、という方法だった。

 ストライドを切り替える時、速度を落とさないと、上体が十分沈んでいないため、余った力で体が上に跳んでしまうのだ。

 だから今回、中山の直線の、下り坂から急に上り坂になるタイミングで地面に突っ込むように倒れながら、急にストライドの幅を大きくしたのだ。

 結果、抑えきれないパワーは上に向こうとするが、坂の角度と相殺されて、ぎりぎりで抑え込むことに成功した。

 

 最高速度を超えて、更に再加速したボクは一気に前二人に並びかける。

 通常減速するはずの中山の坂で、最高速度からさらに再加速したボクに二人も驚いているかもしれない。

 後ろからライアンさんが追いすがってくる気配がするが、あれでは届かないだろう。

 この戦いについてこれるだけの覚悟が彼女には足りていない。

 きしむような二人の圧力を感じながら、ボクは走っていく。

 

 一歩だけボクが抜け出す。

 二人が全身全霊をもって並びかけてくる。

 才能・覚悟・努力・夢。

 きっと二人ともボクよりもよほど早いウマ娘である。

 例えば二人が競った日本ダービーの頃、その時ならば今のボクでも勝負にならなかっただろう。

 だが、だがしかし、今ならボクのほうが……

『ピークを越えた』ウマ娘の走り方ならボクのほうが上だ。

 

 ドゴッ!!!! 

 一歩踏み出す。とてつもない音が足元から響き、芝が舞う。

 ゴスッ!!!! 

 さらに一歩踏み出す。ゴールがすごい勢いで近づいてくる。

 ドゴッ!!!! 

 もう一歩踏み出す。ゴール前はもうすぐである。

 

 そうしてボクはゴール板の前に飛び込んだ。

 

 

 

 ボクが見事、有馬記念を制覇したのであった。

 

 

 

 

「ぜー…… ぜー……」

 

 やはりストライド走法は負担が大きい。

 オークスの時に比べれば200mちょっととわずかな長さであったが、それでもふらふらになってしまう。

 足元がおぼつかないボクを、抱き上げたのはオグリさんであった。

 お姫様抱っこである。ちょっと恥ずかしい。

 

「……結局私は、君に追い付けなかったな」

「ど、どうでしょう…… 今日はボクの勝ちですが、次はわかりませんし……」

 

 というかなんで抱えられているのだろうか。

 まあ、結構限界だったから楽といえば楽なのだが。

 

「私はね、ヴィオラ君を捕まえたかったんだ。あのダービーの時からずっと」

「今完全につかまってますけどね」

「ふふ、じゃあ捕まったヴィオラ君は、私に毎朝味噌汁を作ってくれるかい?」

「味噌汁ですか? いやまあ、できればボクは朝はホットケーキ派なので、味噌汁はちょっと面倒なのですが……」

 

 何か話がかみ合ってない気がする。

 オグリさんはちょっとしょんぼりしていた。

 

 

 

 有馬記念の結果も元に、今年の年度代表ウマ娘はボクが選ばれた。

 

 年度代表ウマ娘になると、なんと新しい勝負服がもらえるのだ。

 今の勝負服があまりに痴女といわれるのであまり露出が多くないので……

 とお願いしたら、紫色のウェディングドレス風の勝負服がもらえた。

 ひらっひらのふりふりでリボンもたっぷりだ。

 これはこれでちょっと恥ずかしくなるぐらいかわいい系だが、今のよりはいいだろう。

 

「花嫁さんみたいですね、ヴィオラちゃん」

「似合ってます?」

「似合ってますよ。結婚しましょう」

「ちょっと直球すぎません?」

 

 早速会場でお色直しして、新勝負服に着替えたらフローラさんはいつものフローラさんだった。

 

「ヴィオラ君、花嫁さんみたいだ。とてもかわいいと思うよ」

「オグリさんもありがとうございます」

「やはり、私に毎朝味噌汁を作ってくれないかい?」

「今朝も作ったじゃないですか」

 

 若干面倒だがしょせん味噌汁。

 だしは予めとったやつで味噌を溶いて、乾燥わかめを入れるだけだ。

 個人的には生わかめより乾燥わかめのほうが好きなのだ。

 一部の和食派に人気なのでここ最近は毎日作っているし、オグリさんには毎日渡している。

 オグリさんはしょんぼりしていた。

 

「おー、すごいかわいいのもらったじゃん」

「どうこれ、いいでしょー♪」

「似合ってる似合ってる」

「テイオーもそろそろ勝負服できるでしょ? 今度見せてよ」

「ふっふー、ボクの勝負服を見て感動するがよいぞ」

 

 テイオーも素直にほめてくれた。

 そろそろネイチャさんも勝負服を用意し始めていたのでテイオーもかと思っていたが案の定だった。

 テイオーの勝負服、どんな系統になるのか、少し楽しみであった。

 

 今年一年はかなりいい年になったと思う。

 だが、来年がどうなるかはまだ何もわからなかった。




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