紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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1 紫電の女王の今年の目標

 年末は、ルーブル姉さんも一緒に実家でのんびり過ごすことにした。

 今まで延々と走ったり、走ったり、トレーニングしたりと忙しかったし、年末ぐらいゆっくりしようと考えていたのだ。

 

 最初は通販なんかで最高級の年越しそばとか、おせちとかを取り寄せることを考えていた。

 だが、ボクもルーブル姉さんも育ちが育ちなので何がよくて悪いかなんてまるで分らない。

 最初、テイオーに相談したのだが……

 

「これがいいんじゃない?」

 

 といってテイオーが選んだのは十万円以上するおせちだった。

 高級素材を使っていて値段がドン、さらにウマ娘用ということで四人前でも量が半端なくてドン、結果この値段である。

 普通にルーブル姉さんと二人でビビった。

 

「どうせなら、こっちのほうがいいだろう。ヴィオラ君はカニとか好きだっただろう?」

「あー、ルーブルもお肉好きだし、こっちのほうがイイかも」

 

 そういって加わったルドルフさんの意見も考慮された結果、さらに数倍に跳ね上がったおせちの値段に、ボクたちはビビり切ってしまい、結局注文することができなかった。

 

 当初のプランはとん挫したがめげないボクら姉妹は、母と一緒に外食することにした。

 まずはお寿司である。

 ボクらが住んでいるのは学園から川を渡った反対側の川沿いである。

 最寄り駅の近くには、立派な回らないお寿司屋さんがある。

 最初、そこに行くことを二人で計画していたのだが……

 

「ヴィオラちゃん、回らないお寿司ってどうやって注文するの?」

「わがんにゃい……」

 

 注文の仕方からわからないというトラブルに見舞われ、ここはやめることになった。

 だが、100円回転寿司も悲しいので、100円じゃない近所の回転寿司屋へと3人で向かうのであった。

 

 

 

「ねえ二人とも」

「なに?」

「反対側座ったら?」

「「や~」」

 

 6人掛けの席の片側に3人並んでボクらは座っていた。

 母が真ん中で、レーン側がルーブル姉さん。反対側にボクである。

 二人してゴロゴロと母に甘えながら、のんびりお寿司を食べる。

 

「姉さん!! 牛刺しのお寿司だって!! 食べよ食べよ!!」

「うう、580円のを頼むのは緊張する……」

「た、確かに……」

「二人とも、そんな無理しなくても……」

 

 金額の問題ではないのだ。というか金額だったらルドルフさん推薦うん十万のおせちだってそんな問題ない。

 これは単に、魂に染み付いた貧乏根性が問題だった。

 だが、母にはいいものをいっぱい食べさせないと、妹の発育に問題があったら困る。

 そして母は、ボクやルーブル姉さんが食べないで自分だけいいものを食べようとは決してしない。

 

 だから、決意を胸に抱いて、ルーブル姉さんは大トロを3皿、牛刺しの寿司を3皿頼んだ。

 全部金色の皿である。とても高そうだ。

 

「おいしい……」

「お母さんも食べてよ!! おいしいよ!!」

「ふふ、よかったわね」

「次これにしない? 大穴子の折り畳み寿司だって」

「母は、イカがいいかな……」

「職人さん、何かおすすめとかありますか?」

 

 変わったものを頼もうとするボクに、いつものような無難なのを頼もうとする母。

 一生懸命お店の人においしいのを聞くルーブル姉さん。

 三人で大騒ぎしながら、回転寿司でたらふくお寿司を食べたのであった。

 

 

 

 そのあとは3人で買い出しに向かう。

 今ならデパートの地下だって怖くないのだ。

 まあ、ボクらが向かった百貨店はそう高いものがあるわけではない。

 年越し用に、すでに揚げてある持ち帰り用のてんぷらに、生蕎麦を買って年越しの準備をし、さらにおせち用のお惣菜もいくつも買えば十分だろう。

 

「二人のおかげで今年の年末年始は豪華ね」

 

 ついでにデパートの出店で大判焼きを買って三人で食べていると、母は嬉しそうにそう言ったのだった。

 

 きっと、貧乏性のボクらは、いくらお金があってもこれくらいがちょうどなのだろう。

 ここで買ったものを食べながらボクらは年末から三が日を過ごした。

 いろいろおいしかったが、お祝いということで奮発した鯛の尾頭付きを塩焼きにしたのは正直微妙だった。

 鯛は刺身のほうがおいしいという知見を得るには少し高いものであった。

 

 

 

 さて、新年四日には、新イベント、餅つき大会が学園で行われる。

 単にウマ娘たちがそのパワーに任せて餅を搗きまくり、近隣の住人と交流を図るイベントである。

 勝負服があるウマ娘は勝負服着用が義務付けられたが、幸いボクは新勝負服が合ったので事なきを得た。

 寒空の中、あの格好露出の多い格好で餅つきは肉体的にも精神的にもきついのだ。

 まあ、最近オープンに上がって勝負服ができたプレさんと、ルーブル姉さんと三人、ひらひらのドレス風勝負服を着て餅つきをするのは、それはそれでかなりシュールな光景であった。

 

 近隣住民も参加できるイベントということで、親類を連れてくる人も多い。

 ボクも母を呼んでいるし、例えばオグリさんなんかは笠松からお母さんを呼んでいた。

 芦毛で外見はオグリさんそっくりだが、オグリさんと違ってちょっと儚いオーラがあった。

 そしてオグリさんは、延々とオグリさんのお母さんの世話を焼いている。

 寒くないようにと何枚も掛物を渡しているせいで、布ダルマになっていた。

 ちなみにその隣では、うちの母が、ボクとルーブル姉さんに大量に掛けるものを渡されて、やはり布ダルマになっている。

 マザコンならば一度やることだ。何も問題ない。

 せこせこ母に世話を焼いていると、オグリさんのお母さんから声をかけられた。

 

「ヴィオラさんでしたよね? うちのオグリキャップは、迷惑かけてないですか?」

「とんでもない! いつもイベントとか企画してますし、とてもお世話になってますよ」

 

 オグリさん自身、かなり天然で純朴だが、能力が低いわけではない。

 周りに素直に頼むこともできるのも相まって、企画実施力はかなり高いのだ。

 生徒会でも、朝練の後輩指導でも、実際かなりお世話になっていた。

 

「ただ、なぜか毎日味噌汁をねだられるんですよね……」

「あら、そうなんですか。キャップは、ヴィオラちゃんのこと好きなんですねぇ。これからもよろしくお願いします」

 

 そんな話をかえってきたオグリさんに聞かれる。

 オグリさんは真っ赤になって自分のお母さんに何かを言っていた。

 

「あけましておめでとうございます、ヴィオラさん」

「あけましておめでとうございます。フローラさん。その子は?」

「あけまちておめでとうございます! アグネスフライト、3歳です!」

「ご挨拶できてえらいねぇ。おもちあげよう」

 

 小さいおもちの入ったお椀をフライトちゃんにあげた。

 

「で、フライトちゃん、親戚の子?」

 

 アグネスと同じ冠名だし親族だろうと思ったのだが……

 

「フライトは、お母さんの娘なのです!!」

 

 そういってフライトちゃんはフローラさんに抱き着いた。

 

「え? え!?」

 

 ボクは混乱した。

 フローラさん、実は子持ちなのだろうか? 

 動揺してフローラさんを見るが、フローラさんは意味深に笑っている。

 イエスともノーとも言わない。

 怖すぎる。というか3歳って絶対実の子供だったらやばいって。

 

「ヴィオラちゃんは、フライトの新しいお母さんになってくれるってお母さんが言ってた!」

「ヴィオラさんと私が結婚したら、ヴィオラさんもフライトちゃんのお母さんだからね」

「意味わからない事態を広げないでください!!」

 

 フローラさん、この子に何を仕込んでるんだ!? 

 結局フライトちゃんはボクから離れなくなってしまったので、フライトちゃんを連れて会場をうろつくことになったのだった。

 

 

 

「トヨおばあちゃん、あけましておめでとうございます」

「ヴィオラさんもあけましておめでとうございます」

 

 メジロの総帥、トヨおばあちゃんもこのイベントに参加していた。

 なんせ主催が生徒会。そのトップがラモーヌさんだ。メジロのトップとしても来ないわけにはいかないだろう。

 とはいえボクとトヨおばあちゃんとの関係はそう複雑だったりする話じゃない。

 時々お邪魔するメジロの療養所で、基本的に毎回ご挨拶する相手である。

 で、あいさつするとお菓子をくれる。完全に餌付けされていた。

 あとはラモーヌさんやアルダンさん、パーマーさんのことなんかを雑談する程度の仲であった。

 

 トヨおばあちゃんは、フライトちゃんを抱き上げて優しくなでる。

 耳の付け根を優しくなでる、ウマ娘をよく知っているなで方だ

 

 ラモーヌさんはあいさつ回りをし続けているし、アルダンさんもラモーヌさんについている。

 ライアンさんやマックイーンさんはなんかこっちを睨んでる気がする。普通に怖い。

 というか睨むならこっち来てトヨおばあちゃんと話せよ。

 正確な親族関係知らないけどお前らのおばあちゃんだろ!? 

 

 パーマーさんは我関せず、ヘリオスさんやルビーさん、フローラさんと餅を食っていた。

 フローラさん、フライトちゃん預けて自分は楽しんでますね……

 

「次の天皇賞、メジロからは三人出ますが、ヴィオラさんにとって脅威になりますか?」

「うーん、現状感覚だけで話すなら、一番気を付けてるのはパーマーさんですね」

「そうですか」

「実はパーマーさんと直接やって、勝ったことないんですよね。天皇賞春はパーマーさんには長すぎると思いますが、何か意外なことやってきそうなのが怖いです」

 

 マックイーンさんにもライアンさんにも負けたことはない。

 だが、パーマーさんには闇レース時代勝てたためしがない。

 賞金のために無茶苦茶出てたボクと、勝てるレースに確実に勝っていたパーマーさんは立ち位置が違うし、当時と状況も違うが、それでもメジロの3人で警戒しているのはパーマーさんだった。

 

「あとはホワイトストーンさんですね。菊で負けてますし」

「マックイーンやライアンはライバルにならないと?」

「二人とも優秀だと思いますよ?」

 

 菊の頃のマックイーンや、有馬の頃のライアンなら、天皇賞春で敵ではない。

 言外にそういうと、メジロの総帥は穏やかにほほ笑んだ。

 フライトちゃんを受け取り、ボクは餅付き大会へと戻るのであった。

 

 

 

 餅を食いまくった餅つき大会が終わり、フライトちゃんの謎は残ったまま、新学期が始まった。

 そうすると、今度はチームで、今後の予定を考えることになった。

 今年のレーススケジュールだ。

 皆でチームルームに集まり、こたつで蜜柑を食べながらスケジュール表を睨む。

 

「ルーブルちゃんは、報知杯ウマ娘ステークスから桜花賞、オークス、で一回ステップレースを秋にしてエリザベス女王杯かな」

「それで行こうと思います」

 

 ルーブル姉さんのスケジュールは極めて王道なクラシッククラスのティアラ路線だ。

 途中のステップレースで負けても、阪神でのGⅠ勝利があるから出場できないということはないだろうし、だからこそ王道で十分そうである。

 

「ネイチャちゃんは、若駒ステークスから弥生賞で皐月賞かな。で、ダービー菊花賞と」

「わかりました」

 

 ネイチャさんもそう複雑なスケジュールではない。

 現状オープンクラスなので、弥生賞で優先権が取れれば確実、取れなくても出られる可能性が高い。

 皐月賞あたりの成績でダービートライアルに出るかが変わるだろうが、そう大きな変化ではない。

 問題はテイオーに対してどう勝つか、だがそのあたりはトレーナーさんが考えるだろう。

 

「プレちゃんは秋までにオープン特別のレース2,3回やって、毎日王冠から天皇賞秋だね」

「お願いします」

 

 プレクラスニーさんは、完全に天皇賞秋を目指すスケジュールだ。

 夏の安田記念あたりを目指してもいい気もするが、天皇賞に万全を備えたいのだろう。

 

「ブルボンちゃんは、東京のメイクデビューから1勝クラスに出て、朝日杯が目標でいいかな」

「構いません」

 

 ブルボンちゃんは王道のジュニア級路線である。

 一回負けると朝日杯に出られないが、そしたらおそらくクラシックを目標に切り替えるのだろう。

 

「で、問題はヴィオラちゃんなんだけどどうする?」

 

 一番の問題はボクである。

 シニア以降のレース希望は今まで何も考えてこなかった。

 だから思いついた希望を述べることにした。

 

「中山大障害の春には出たいですね。あと、凱旋門賞とかかっこよくないですか?」

「うん、なるほどね」

 

 ノリと気分で考えたマイプランである。

 ひとまず障害レースには一度出てみたかった。

 あれだけぴょんぴょん練習したんだし、勝てるかどうかはまるで分らないが一度出てみたかった。

 幸い中山大障害はここ近年、出場者が減っており、ボクのせいで誰かが枠からあぶれるなんてまず起こらないだろう。

 気軽に出ても許されるだろうと思っていた。

 これについては前から話しているのでそう問題はないだろう。

 

 凱旋門賞は、この前ルドルフさんから聞いたフランスのレースだ。

 世界一すごいレースらしく、ルドルフさんの海外遠征もこれが目標だったという。

 どうせだから夢はでっかく世界一にすることにしたのだ。

 

「まあ、凱旋門賞は私もよくわからないや。沖野トレーナーは何か知ってる?」

「おハナさんに聞けばわかると思うぞ。ルドルフの時に目指していたはずだからな」

「出られるなら出てみたいです」

 

 結局こんなノリで、ボクのレーススケジュールは決まっていった。

 おハナさんに教えてもらったところやURA経由でフランスに問い合わせたところ、どうやら予備登録をすれば出られる可能性があるという話だった。

 なのでボクは早速予備登録をして、あとは結果を待つことにしたのだった。

 

 ということで、中山大障害から、天皇賞春、宝塚記念を経て凱旋門賞を目指すということになったのである。

 海外旅行が今から楽しみになった。

 




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