ボクの今年の最初の参加レースは中山大障害である。
出場ウマ娘は6人と数が少ないが、観客は非常に多く集まった。
三冠ウマ娘、五冠バを見に来ているのだろう。
純粋なボクのファン、今回ボクが参加して障害レースに興味を持ったファン、そしておそらくボクの負けを見に来た人もいるだろう。
今までの実績で一番人気はもらっているが勝てると思っている観客はほとんどいないだろう。
なんせ、障害の実績がまるでない。
そもそも障害一つ跳べないという悪口すら、ある雑誌で書かれたりしている。
だから観客の期待は高くないのだ。
だが一方で参加ウマ娘たちには警戒されていた。
障害練習は長い時間かけてそれなりにちゃんとしていたし、ボクが障害をきれいに飛べることは、他のみなは練習場で見ている。
単に遊びに来ただけではないのはわかっているだろうし、それに、遊びに来たみたいに見えるウマ娘に負けたくないという闘志を感じた。
パドックに出てくるのはボクが最後だった。
GⅠなので皆当然勝負服だ。だが、フリフリのドレスなボクと違い、皆の勝負服は、ズボンでびしっと決まっている系である。ティアラ戦線で見てきた、イクノディクタスさんの服と同系統の服である。
そして皆、スタイルがよい。背が固く、女性らしい曲線を描く立派なバ体である。
そんな男装の麗人的な雰囲気の中で、一人だけドレスである。
明らかに浮いていた。
「キャー、ヴィオラちゃんかわいいー!!」
「むむうっ!?」
ボクが出てきたときに真っ先に近づいてきてボクを抱きしめたのは、パンフレットさんである。
今回のレースで、一番勝利を期待をされているのはこのパンフレットさんだろう。
去年の中山大障害春の優勝者であり、すでに2年近く障害競走を続けている古株だ。
去年の最優秀障害ウマ娘こそ、中山大障害秋を勝ったワカタイショウさんに取られていたが、ワカタイショウさんが怪我で不在の今、彼女が一番強いとみるべきである相手であった。
だが、それはそれとして、普段からボクにお菓子をくれる優しいお姉さんである。
それで、小さいボクをかわいがってくれて、こうやってよく抱きしめられる。
そうすると、身長差ゆえに豊満な胸部に顔をうずめることになるが、幸せというべきか、息ができない状況を焦るべきか……
幸い今回はすぐシンボリクリエンスさんが助けてくれた。
「パンフレット、ヴィオラちゃんはシンボリで預かる予定なんだから、渡さないよ」
「そうそう、なんせうちのルドルフさんのルームメイトなんだから」
「むぐううう!?」
助かったと思ったら、今度はシンボリ家のペアに挟まれていた。
シンボリモントルーさんもシンボリクリエンスさんも、身長が高くやはりバ体がとても立派である。
なので、身長差がありすぎるせいでボクが立っているとちょうど二人の胸の高さにボクの頭があるのだ。
前後からその柔らかい胸部装甲に挟まれて、ボクはヘブン状態だった。
シンボリさんちの子になりたくなっちゃうよぉ~
そんな状態から助けてくれたのは、最年長のオキノトモヅナさんだった。
「ほらほら、後輩が来て張り切っちゃうのもわかるけど、レースに集中しなさい」
「「「はーい」」」
トモヅナさんは、ボクを抱き上げると二人から解放してくれた。
「頑張ろうね、リトルプリンセス」
そういいながら、トモヅナさんはボクのおでこにキスをする。
あまりにかっこいいしぐさにボクは真っ赤になってしまうのであった。
パドックでの盤外戦に完全敗北だった。
あの後はクリバロンさんも混ざって、ボクを抱っこしたり、ほっぺにキスしたりとやりたい放題された。
とても幸せなひと時だった。
男装の美女5人に囲まれてちやほやされるのだ。
お金いくら払わないといけないのか、と本気で思ったりした。
嫌がればやめてもらえると思うが、やめるなんてとんでもない。
ハーレム状態でちやほやされるのをやめることなんてとてもできなかった。
若干体力を消耗したが、テンションは上がり切ったまま、ボクはレース場に向かった。
レース場に入ればみな真剣だ。
ボクも気を引き締めてゲートに入る。
中山競馬場障害、4100m 中山大障害が始まった。
ひとまずボクは先頭を切って走り出す。
障害レースというのは距離が長く、さらに障害を跳ぶ必要があり、さらに坂があるので過酷なレースだ。
最後に直線はあるが、その時点でほとんどのウマ娘は体力を使い切っているので、差しが決まるなんてほとんどなく、通常は道中の順位がそのまま着順になる。
だからこそボクは一番先頭で走り始めたのだ。
だが、一番先頭だからこその不利がある。一番先頭は当然、一番最初に障害を跳び越える必要があるのだ。
二番手以降は、先頭の跳び越えるタイミングを利用して跳べるので障害を跳び越えるのには圧倒的有利である。
勝つために、そんな最不利な位置にボクはつけるのであった。
スタートしてすぐに5号障害、生垣が待ち受ける。
ボクの身長ぐらいある生垣だ。
ぴょいっと、それを軽快に跳び越える。
いつも練習で飛んでいる生垣と同じサイズである。
失敗することはない。
スカートをたなびかせながら、ボクは走り続けるのであった。
スタンド前の直線を走り、水濠と生垣を跳び越える。
これも学園で練習していたものとそう変わらない。
前は横に跳ぶのが苦手で水濠によく落ちていたが、今ではそんなこともなく、うまく跳び越えられた。
順調にレースは進む。
後ろからはシンボリクリエンスさんがついてきており、他の出走者は後ろの方にいる。
おそらく様子をうかがっているのだろう。
第一コーナーを曲がり、生垣を跳び越え、バンケットを上り下りする。
バンケット自体も、平地競争にはない設備だ。
その斜度は中山の直線の坂を超える、これ自体体力を非常に奪われる場所だった。
バンケットを二回上り下りすると、中山大障害の名物、このレースにしか使われない障害である大障害の一つ、大竹柵が待ち受けていた。
通常の障害よりも0.2mも高いのだ。ボクの身長より圧倒的に高いそれは、威圧感が半端ない。
たかが20cmではないのだ。ウマ娘の身体能力をもってしても跳び越えるのが大変な障害に、さらに20cm『も』足されているのだ。
日本一事故が多い障害物は伊達ではなかった。
それを、全力で跳びこす。
この高さの障害は、経験がない。学園の練習コースにも同サイズの障害がないのだ。
飛び越えられる!! そう確信した瞬間……
ビリリリリリリッ!!
布を裂く音がする。
スカートの端が障害物の先に引っかかったのだ。
慌てて受け身を取り、地面に一度転がった後、そのまま立ち上がる。
体に特に問題はない。
だが、勝負服のスカートはぼろぼろになっており、大問題であった。
レースは終わっていないので慌てて走行を再開する。
シンボリクリエンスさんにすでに先行されている。
後ろでは、ボクの転倒につられたのかどうかはわからないが、オキノトモヅナさんと、クリバロンさんが大竹柵の跳躍に失敗し転倒していた。
一度遅れると、挽回は難しいのが障害レースだ。
スカートを破り捨て、そのまま2番手で走り続けるが、目の前にあるクリエンスさんの背中が遠い。
追い越そうとしてもコーナーで、跳躍で距離を取られ、どうしても追い越せない。
もう一つの大障害である大生垣、通称赤レンガは、クリエンスさんを参考にできたし、スカートがなくなっているのでそう苦労なく跳び越えることができたが、これも失敗であった。
結局、これだと後追いであり、全く追い付けないのだ。
このままぴょんぴょん跳び越えて、最終コーナーに回る。
直線の時点で3000m以上走り、アップダウンの激しいバンケットを計6回、障害を計11回も跳び越えている。
スタミナなんて残っているはずがない。
すぐ目の前にある背中に、全く追い付くことができず、シンボリクリエンスさんの2着で終わるのであった。
「これ、ひとまず被っておいたほうがいいよ」
「あぶっ!?」
ゴールで息を切らせていると、クリエンスさんが上着をボクにかけてくれた。
「レースに一生懸命なことはいいことだけど、その恰好はいろいろ目に毒だからね」
「ふぇ?」
よく考えたら、結構レースの序盤でスカートを破り捨てていたのをいまさらながらに思い出す。
このドレス風の勝負服は、スカートがくるぶし丈のロングスカートであり、中が見えないようになっている。
もっとも前側下半分のスカートが薄い布で作られていて、少しだけ透けるようになっているため、見えるのを考慮して、レースのガーターベルト付きタイツになっているという仕様だ。
それに合わせてパンツも白のレースパンツである。見えないところへのこだわりはラモーヌさんのこだわりだった。
だが、スカートが破ければ当然全部丸見えである。
ボクは白のガーターベルトに白のレースパンツで3000m近くを走り抜けた痴女であった。
レースが終わりそのことに気づいて、恥ずかしくなってうずくまってしまう。
そんなボクを、クリエンスさんはお姫様抱っこで運んでくれる。
白馬じゃないけど白馬の王子様なクリエンスさんがイケメンすぎるのだった。
「お手数おかけしました」
「ふふ、ヴィオラ君はかわいいからね。エスコートなんてむしろ役得だよ」
お礼を言うとクリエンスさんはさわやかにそんなことを答えた。
そんなイケメンなこと言われるとガチ恋しちゃう!!
「でも勝負服は失敗でしたね。こんな恥ずかしい格好で走ってたんじゃお嫁に行けなくなっちゃいそうです」
「なら、私がヴィオラ君をお嫁さんにもらってもいいよ」
近寄ってボクの耳元でささやくクリエンスさん。
それはやばいですよ。ガチ恋距離ですよ!!
おっぱいの付いた美人イケメンは特にボクの性癖に刺さるんだからやめてくだち!!
まあ、からかっているのはよくわかる。年齢差ありすぎるし、こういうことされるとボクは動きがかわいくなると、もっぱら障害練習場では評判だったのだ。
「ダメです! ヴィオラちゃんは私のお嫁さんですからね! 全くシンボリは油断も隙もない」
「ママー」
「いやフローラさんのお嫁さんでもないですし、タキオンちゃんもママじゃないからね。というかフローラさん、どうやってボクの控室に入り込んだんですか」
フローラさん、チームが違うし、ウチの白井トレーナーと東条トレーナーみたいに、お互いのトレーナー同士仲がいいわけではない。
つまりただの他人である。
それがどうして控室にいるのだろうか。
「ブルボンちゃんが入れてくれました」
「マスター、私だけだとお茶が入れられないんです」
今まではルーブル姉さんとテイオーがよくついてきてくれたが、最近は二人とも自分のレースで忙しいし、最近はブルボンちゃんがついてきてくれていた。
ただ、ブルボンちゃんは機械類に触ると爆発させるウマ娘的特殊能力がある。
おそらく電気ポットでお茶を入れるためにフローラさんを連れてきたのだろう。
ひとまずこのごちゃごちゃメンバーでウイニングライブまでお茶を楽しむことになるのであった。
ボクが天皇賞春の前哨戦として中山大障害を選ぶというわけのわからないことをして、男装イケメン美女ハーレムを楽しんでいる頃、ライバルたちは着々と準備を進めているようだった。
メジロマックイーンさんは阪神大賞典を勝利し、天皇賞春に万全の備えだし、ホワイトストーンさんも大阪杯に勝利して天皇賞に駒を進めていた。
ライアンさんはなぜか1800mの短距離向けである中山記念に出て2着だった。あそこのトレーナーさんは何考えているか、相変わらずよくわからなかった。
パーマーさんはOPクラスで苦戦しているが、天皇賞春には格上挑戦するつもりのようだ。
天皇賞春がどうなるか、ボクにはわからない。ただ、簡単に勝てるレースではないことはよくわかっていた。
一方そのころ、クラシッククラスはというと、ルーブル姉さんが確実に前哨戦を勝ち、全戦全勝で桜花賞出場を決めていた。
「妹に負けてられないから、私も三冠取るからね!!」
「頑張ってください!!」
とても期待できる状況である。
一方テイオーも皐月賞へ無敗で到達しており、うちのネイチャさんは若駒ステークスでテイオーに思いっきり負けていた。
「ネイチャさん。大丈夫?」
「まー、トレーナーさんもいますし? ぼちぼちやりますわ」
とはいえネイチャさんも皐月賞には充分届く。問題は本番だが、白井トレーナーと二人何か考えているらしい。
皐月賞もどうなるかが楽しみであった。