「ボクは無敗の三冠を目指すんだ!!」
「私も無敗の三冠を目指すわ」
ルームメイトと約束した、そんなたわいもない夢。
だがそれが現実のものへと刻一刻と近づいていた。
最初に会ったときは、気に食わない奴だと思っていた。
妹と同じ部屋がイイとか、ふざけたことを抜かしたルーブルは、ボクと一緒にカイチョーやラモーヌに挑み、ヴィオラともどもコテンパンに負けた。
そんな出来事が出会って初日のことだった。
第一印象はお互い最悪だったが、一緒に暮らしてみると悪くはなかった。
口と態度は悪いが、基本的に気が利くし、世話好きだが押し付けてこない感じは好感触だった。
ただ、妙なところで非常に世間知らずだった。
これは、ルーブルの義妹であるヴィオラも同じであった。
まず、服装。二人とも雑なTシャツに、下はレギンスやら短パンやらしか持っていない。
私服がこれだけである。
そもそも下着もろくに持っていない。
シャツ1枚で部屋の中をうろつかれたときはどうしてやろうかと思ったものだ。
一時期橋の下で暮らしていた蛮族である。寛大な心で、社会生活を一から叩き込んだ。ルーブルもヴィオラも、年齢と身長不相応に発育がいいのだ。あの尻と太ももは、無防備にさらけ出してうろついていいものではない。
三人で買い物に行ったり、毎日の服装をチェックすることでどうにかこうにか調教していく。
ルーブルに上下の下着をつけさせるようになるまで、かなりの時間がかかったものである。
ヴィオラのほうは知らない。あっちはカイチョーの管轄だ。いまだ時々素肌Tシャツで寮内をうろついているのはいろいろエッチだと思う。
他にも尻尾ケアを教えるのも一苦労だった。
アホヴィオラもバカルーブルも、尻尾は水で洗って終了だったのである。
石鹸すら使いやしない。
それに一から洗い方を教え、トリートメントなんかの使い方を教えるのはすごく大変だった。
おかげでいまだにルーブルはボクに洗ってくれと頼んでくることが多い。
代わりにルーブルが覚えた尻尾洗い方法で、ボクの尻尾を洗ってくれるので、まあしぶしぶやってあげるのだが。
「こうやって誰かに洗ってもらうの、初めてだからうれしいな」
普通、尻尾なんて子供の頃は両親に洗ってもらうものだ。
そんなルーブルの普通じゃないことを時々感じると、複雑な気持ちが心に芽生えるのであった。
ボクはトップチームの一つであるリギルに、ルーブルは当時無名なチームだったスピカに入った。
とはいえチーム同士、トレーナー同士の仲が良く、合同での練習は珍しくなかった。
一般的な練習方法が多いリギルに比べ、機械トレーニングや坂路トレーニングなど、一風変わったトレーニングを繰り返すスピカはなかなか斬新であった。
同期はリギルにはだれもおらず、スピカにはルーブルと、ナイスネイチャがいた。
当然三人で、何度も模擬レースを行った。
ルーブルはボクに匹敵する素質の持ち主であり、ネイチャは、確かに優秀なのだがいまいち闘志というか、やる気にかけている気がした。
「おなじみ三着ってね。あははっ」
負けてもこういうことを言うのがネイチャだった。
そうすると当然、ボクはルーブルをライバル視することになる。
だが、ルーブルはティアラ路線、ボクはクラシック路線だ。
直接対決するとなると、おそらく有馬記念とかそのあたりになるだろう。
だからこそお互い夢を語り合ったのだ。
ボクは無敗の三冠を
そしてルーブルも無敗の三冠を
お互い目指して頑張ると、そうお互いに誓い合ったのであった。
桜花賞
いつもは阪神競馬場で行われるが、改修のため京都競馬場で行われたティアラ一冠目。
一番人気は5戦5勝、無敗を維持している神速のシンデレラとも言われたルーブルだった。
ヴィオラの姉(学年から妹とも勘違いされることもあるが)である彼女には、ヴィオラが達成できなかったティアラ三冠の期待も両肩にかかっていた。
「姉さんがんばれー」
「ルーブルがんばれー」
前日に中山大障害を走ったはずなのに、張り切ったヴィオラがルーブルの横断幕まで作ってパドックで応援しており、ボクもその応援に付き合わされた。
圧倒的一番人気のルーブル。
逃げというのは孤独ゆえに難しい戦術ではあるが、強い逃げウマ娘はその分他人が駆け引きできず、圧倒的に強い。
今回ルーブルのライバルとなるのはノーザンドライバーやスカーレットブーケ、シスタートウショウなどがいるが、どれもルーブルに勝てるようなウマ娘ではないだろう。
まず一勝は堅い。パドックでヴィオラと応援していた時はそう思っていたのだった。
様子がおかしく見えたのは、本バ場入場後だ。
何かしきりに歓声を気にしているのか、あまり落ち着かない様子をルーブルは見せていた。
「声援、うるさいからかな」
「うーん、でも慣れてると思うんだよね。ライブとかもっと近くからうるさいし」
耳をぺたんとしながらヴィオラが答える。
確かに今日の歓声は一段とうるさい。それだけ人気があるということだが、敏感なウマ娘の耳には少し大きすぎるような気はした。
だが、そんな大きな歓声を受けるのはルーブルだけではないし、ウマドルユニットでも活動しているルーブルは歓声を浴びるのには慣れているはずだ。
妙な胸騒ぎが現実化したのはゲートイン直前のことだった。
ごたつき、ルーブルの周りで騒ぎが起きた。
スピカのトレーナーとサポーターであるプレクラスニーがゲート裏まで駆けつける事態になっている。
会場はざわめき、何が起きたのかという声があちらこちらから聞こえる。
ヴィオラもその場に行きたそうにしていたが、残念ながらボクもヴィオラも今日は応援のために来ていて、サポーターでもないから本バ場に入ることができない。
アナウンスはルーブルの落鉄を告げているが、どうやらそれだけではなさそうだ。
落鉄なら、その場で修理すればいい。だが、脱いだ靴の状態が悪いのか、履きなおす気配がないし、何が起きているのかさっぱりわからなかった。
結局10分ぐらいごたついていたが、白井トレーナーとプレクラスニーが職員に引きずられるようにその場から連れていかれる。
ルーブルは何回か足踏みをしてゲートに入っていった。
「いやな予感がします」
「いやな予感?」
「遠すぎて見えませんが、靴、履いてないんじゃないでしょうか。身長が少しだけ低い気がします。あの勝負服、ヒール高いんですよ」
「え、靴履かないってありなの!?」
「放送もないですし、何が起きているかわからないですが……」
険しい表情をするヴィオラ
結局予定より10分以上遅れて、レースが始まるのだった。
スタートからルーブルの走りはおかしかった。
まず、スタートダッシュが全然遅く、ハナをトーワディステニーにとられてしまう。
ルーブルのスタートは認めたくないが天才的にうまい。自分よりはもちろん、スタートダッシュと最初のポジショニングに定評がある、隣のヴィオラよりもうまいと思っている。
そんなルーブルがハナをとれなかったのだ。明らかに何かがくるっている。
それが、落鉄のせいなのか、他の理由があるのか、ボクにはわからなかった。
そこからも何もかもがおかしかった。
コーナーに入り、トーワディステニーが沈んでいく中で、シスタートウショウやノーザンドライバーが並びかけてくる。だが、コーナーを抜けても伸びる気配がない。
ルーブルの十八番その二、逃げてるのに差すというでたらめな走りが全くできてなった。
もともとはアイネスフウジンがやっていたらしいこれをヴィオラが改良し、ルーブルが完成させた、まさに後続殺しの戦術が、今回に限って全然出てこない。
「ルーブル姉さん!! もういいです!! 止まってください!!」
「!? ヴィオラ、どうしたのさ!!」
「足から血が出てます!! 止まって!!」
直線に入り、ヴィオラが叫ぶ。
慌ててルーブルのほうを見ると、確かに純白のタイツの足先が赤く染まっていた。
そもそも靴を履いていない。何があったかわからないが、裸足で走っているのだ。
ヴィオラの焦りと叫びは歓声に掻き消える。
結局ルーブルは全くいいとこなしで沈み、5着に終わるのであった。
「ルーブル姉さん!!」
「ヴィオラ! それはダメだって」
ヴィオラが観客席からバ場に飛び出し、ボクもあわてて後を追う。
本来はダメな行為だが、我慢できないのはヴィオラもボクも同じだった。
ふらふらとしているルーブルを慌てて抱き上げる。
ヴィオラが足の裏を確認しているが、ヴィオラに見せたまま、そのまま救護室へと向かう。真っ赤に染まった白いタイツと足の裏は、観客からも見えたのだろう。
あれほどうるさかった歓声がいつの間にか静まっていたのだった。
ルーブルの怪我は、大したことはなかった。足の裏の皮が剥けているだけで、薬を塗って安静にすれば数日で治るということだった。
限界まで走って眠ってしまったルーブルの看病は沖野トレーナーと白井トレーナー、プレクラスニーに任せボクとヴィオラはその場から離れる。
「ねえヴィオラ、これ、URAに抗議しようよ。再走案件だよ、これ……」
どうやら、本バ場入場後、ルーブルの靴の底が抜けて壊れてしまったらしい。
当然応急処置でどうにかなるレベルでもなく、勝負服の靴の予備もなかったため、代用の体操服用シューズの使用をトレーナーたちは主張したらしい。だが、勝負服と一式でないからダメという現場職員の根拠ない拒否で認められず、裸足で走ったということだ。
だが、ウマ娘の全力を裸足で耐えるのはなかなか難しい。
結局、その反動に耐えきれず、足の裏の皮がひどいことになりながら走っていたということであった。
ウマ娘が蹄鉄なんてくそ重いものを足に着けて走っている理由をなんだと思っているのだという対応である。
オグリさんの時はURA理事長にかみついたと評判のヴィオラのことだ。
きっと今回も大騒動を起こすと思っていた。
場合によっては再走ぐらい要求するのだと思っていた。
思っていたのだが…… ヴィオラの反応は違った。
「しませんよ。今からウイニングライブに向かって、シスタートウショウさんの勝利を祝いに行きます」
「え、なんで!?」
「どういう理由があれど、勝ったのはシスタートウショウさんです。その勝利に傷をつけるのは生徒会としても、私個人としても許せません」
「でも悔しくないの!! 無敗の三冠じゃなくなっちゃうんだよ!!」
「悔しくないわけがないでしょう!!」
ヴィオラが叫んだ。
ギリッと、歯がきしむ音がした。
「悔しくないわけがないです。でも、シスタートウショウさんや、二着のヤマノカサブランカさん、三着のノーザンドライバーさんが悪いことをしたわけではないんです。だからまず、その勝利を祝わないと勝負そのものを、勝者を、そして敗者のルーブル姉さんを貶すことになります」
「……」
「彼女らだって、今まで必死に頑張ってきたんです。その勝利を少しでも傷つけてはいけないんです。だから、目立つボクが、目立つ場所で、彼女らの勝利を祝福しないといけません。ここで騒いだら、すべてが台無しになります。抗議はあと、勝利への祝福が先です」
ヴィオラは無表情で、涙を流していた。
春のうらららか日差しに似合わないほど、手は真っ白になるほど冷え、震えていた。
ヴィオラは、ホームレスになっていたルーブルをわざわざ義姉にするほど仲が良いのだ。悔しくないわけがない。
だが、ヴィオラはその道を選んだのだ。
結局この後、二人で不自然なほど大騒ぎしながらライブに参加し、ボクらは勝者を称え続けた。
当然ながらURAのルーブルへの対応は大問題になり、ファンからURAへの訴訟沙汰まで発生する事態になるが、桜花賞を勝利したシスタートウショウへの非難は、
「もしかしたら、なんて意味がありません。桜花賞はシスタートウショウさんが勝った、それだけです」
というスピカやヴィオラ、ルーブル本人からの回答により、ほぼ全く起きることはなかったのであった。
そのまま自宅療養ということで、ルーブルはヴィオラと実家に帰ってしまった。
一人になった自室で、ボクはただ、皐月賞への勝利の念を高めていっていた。
ルーブルの無敗も三冠もなくなった。
だが、ボクは、ボクだけは無敗の三冠を達成して見せる。
そのためだけにさらにトレーニングを重ね、レースに準備する。
おハナさんが少しだけ不安そうな表情をしていたのは、当時のボクは気づいていなかった。
「ネイチャちゃん」
「なに? トレーナーさん」
「クラシック三冠、どう思ってる?」
「……」
「テイオーに勝てないと思ってない?」
「……」
「テイオー、強いからね。あれはやばいよ。多分ルドルフさんと同レベルの化け物だ」
「そうですね」
「ヴィオラちゃんの時は、あそこまでの化け物はいなかった。アグネスフローラさんやアイネスフウジンさんは強かったけど、あんなどうすれば勝てるんだっていうほど強くはなかった。だから作戦でどうにかなったけど、テイオー相手だとそれはちょっと難しそうなんだよね」
「トレーナーさんでもですか」
「うん、ネイチャちゃんがヴィオラちゃんに劣ってるわけじゃないよ。むしろ末脚がヴィオラちゃんより鋭いから同時期のヴィオラちゃんより走ることなら優秀だよ。体の丈夫さは劣るだろうけど」
「でも」
「うん」
「でも、私は勝ちたい。1回でもいいから、テイオーに勝ちたい」
「……ちょっと汚い手で、しかもかなりつらい手なら勝つ方法があるよ」
「さすがに違反行為はしたくないんですが……」
「もちろんそんなことはさせないよ。普通にルール内の方法だよ。ただ、人によっては汚いっていうだろうし、やるには練習もすごい大変だからさ。例えば……」
「……なるほど」
「多分、一番有効なのは皐月賞、テイオーが一番油断していて、未熟なこのタイミングだよ」
「やってみます」
皐月賞は、桜花賞の一週間後である。
GⅠではあるが、そう目立つライバルはおらず、勝つのは難しくないとボクは想定していた。
二番人気のイブキマイカグラ、三番人気のナイスネイチャ。どちらも負ける気が全くしない。
今回はルドルフさんも見に来てくれている。だからこそ無様な走りはしたくなかった。
だが……
どうも気持ちがささくれ立つ。
ルーブルはその後復活したらしくヴィオラと一緒に今日の観戦にも来ていた。
だが、彼女が横断幕まで準備して熱心に準備している相手はネイチャだ。
当たり前である。ネイチャはチームスピカ、同じチームである。
ルームメイトをそこで優先する方がどうにかしている。
だが、気持ちが落ち着かなかった。
その声で、ボクの名を呼んでほしいのに。
ボクのことを応援してほしいのに。
ボクは、キミのことを応援したのに。
なんてくだらない感傷が心をよぎる。
だが、それ以上にうっとおしいのはネイチャだった。
「おやおや、テイオー、ルーブルちゃんが私を応援してるのが気になるのかなぁ?」
パドックからこんな感じで、散々あおってくる。
「そんなことないし」
「ヴィオラちゃん~ ルーブルちゃん~ ネイチャは頑張るからね~」
これ見よがしにスピカのほうに手を振るネイチャ。
完全にボクに見せつけるようだ。
離れようとしてもネイチャは自然とついてくる。
「ついてこないでよっ」
「ネイチャさんが行く方に、テイオーがいるんだもの」
ネイチャはそんな風にニヤニヤしながら答える。
微妙なやりにくさを感じながら、ボクはパドックを過ごすのだった。
「やっぱりテイオーは無敗の三冠目指してるの?」
「当たり前じゃん」
「ライバルの前で当たり前って言えちゃう図々しさ、すごいわー」
本バ場入場までの地下道でもネイチャはついてきた。
無視すればいいのだろうが、無駄に律義に返答してしまうのはなぜだろうか。
ネイチャの話術のせいか、なんだかんだで友達だからか。
「でも残念。ネイチャさんが勝つし」
「……ボクに勝てると思ってるの?」
「はっはっはー、確かに? テイオーのほうが? 素質も脚の速さも上だよね」
言外に、ネイチャなんか敵ではないと告げると、ネイチャも自分が劣ることはあっさり認めた。
「だけどさ、それで勝負が決まらないのが競バなんだわ」
振り向くとネイチャは歯を見せて笑っていた。
さっきまでのパドックでのわざとらしい笑いとは違う、本気で獲物を食いちぎってやるという雰囲気をまとった、肉食獣のような笑みだった。
よく言えば優しく、悪く言えば闘志に欠ける、そんなネイチャには似合わない姿である。
「負けてもさ、泣かないでよ」
「ネイチャこそ、負けても泣かないでよ」
どうやるつもりかわからないが、ネイチャは勝つつもりのようだった。
ゲート前では不自然なほど静かだったネイチャ。
だが、ゲートイン後のスタート直前。
「あっ」
とネイチャが声を上げた。
その瞬間開くゲート。
飛び出すナイスネイチャ。
声に気を取られたウマ娘たちは、そしてボクは、完全に出遅れた。
なんという意地の悪い、しかし洗練され切った技だろうか。
ゲートが開くタイミングは、一番人気のボクがスタート準備ができた瞬間だ。
声に気を取られたと判断すれば、スターターはゲートを開けない。
今のネイチャの声は、スターターが、ボクが落ち着いてスタートボタンを押そうとする瞬間から、実際にボタンを押してゲートが開くまでのわずかな時間に差し込んできたものだ。おそらく、スターターの癖すら分析している。
普通に考えたら偶然だが、今回のは絶対に必然としてネイチャがやっていると、ボクは確信していた。
そのあともとにかく走りにくい。
ボクが走ろうとする場所に常にネイチャがいるのだ。
普段差しで走るネイチャがわざわざ先行策を取って、ボクが走ろうとするところにいるのだ。
マークされているというわけではない。
おそらくここを走るだろうという場所を先に占領している感じだ。
どれだけ分析されているのか、恐ろしくなる走りである。
だが、それでもボクが勝つ。
苦戦しながらも、ボクは道中を進んでいった。
予想通り、スローペースで道中が進む。
こうなると上がり3ハロンの勝負になる。
だが、後ろから上がってくるウマ娘に比べ、前にいればその距離分も、良いコースで走れる分も有利である。
ポジションの最有利はネイチャに取られているが…… 上がり3ハロンで負けるつもりはなかった。
第四コーナーからスパートをかけるネイチャと同時にボクもスパートをかけた。
予想以上にネイチャのスパートが速い。今までの併走では、実力を隠していたのか。それとも別の何かがあるのか。
だが、それでもボクのほうが速い。
ネイチャとの差をじりじりと詰めていき、坂でちょうど並んだ。
あと200m、末脚勝負では負けない。
一気に抜き返そうと力を込めたのだが…… その瞬間、ネイチャが再度爆発的に伸びた。
「ウソでしょっ!?」
思わずネイチャを見る。
すさまじく広いストライド。
ヴィオラが有馬記念でやったアレの真似だというのはすぐにわかった。
有馬記念でヴィオラが魅せてから、多くのウマ娘がまねして挫折した方法だ。
まず前提条件として、すさまじい脚力と柔軟性が必須であり、ほとんどのウマ娘がこれで再現ができなかった。
更に条件が厳しすぎる。これがつかえる角度の坂なんて、中山競馬場ぐらいにしかない。
そして再現できたウマ娘も真似する子はいない。脚への負荷が半端ないのだ。
有馬記念後「筋肉痛だよ~」と言いながら歩き回っていたヴィオラが化け物なのであり、普通のウマ娘なら数日は動けなくなる。
特に、皐月賞のこのタイミングで使ってしまえば、ダービーなどに多大な影響が出かねない。
だが、いくら理由を述べても結果は変わらない。
ぐいぐい伸びるネイチャに必死に追いすがろうとして、しかしどうしても一歩足りない。
外から見ていたらおそらくほぼ同時、
しかし走っているボクたちにはわかる絶対的な差がボクたちの間にはあった。
一着 ナイスネイチャ
二着 トウカイテイオー ハナ差
無敗の三冠が、なくなった瞬間だった。
「テイオー、頑張ったな」
ルドルフさんが頭をなでてくれる。
それが本心からの激励だということはわかっている。
視線の先にはネイチャに抱き着くルーブルとヴィオラが見える。
結局、ゴールを見ていたネイチャが勝ち、ネイチャを、ルーブルを見ていたボクは負けた。
ただそれだけである。
それがしかし、無性に悲しかった。
アニメ2期5話であった 前にもあった落鉄 というのはイソノルーブルの落鉄事故と思われます。
リアルでも最終的に民事訴訟にもなりました。
面白かったら高評価・お気に入り・感想お待ちしております。
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