紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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この年の阪神競馬場、馬場改修で使用されてないのを忘れてました。2.5話もちょっとだけ改変しています。


4 紫電の女王と宝塚記念

 天皇賞春から宝塚記念までの間、ボクはひたすらトレーニングをして、妹をかわいがってをし続けていた。

 天皇賞春は負けたが、二度同じような不甲斐ないレースはしたくない。

 妹に、おねえちゃんかっこ悪いって言われたら死んでしまう。

 次の宝塚は絶対に無様なレースはしないと心に誓っていた。

 

 ひとまず筋力アップは延々と行っていた。

 ピークを過ぎた、というのはウマ娘の力の問題であり、体のほうはまだまだ成長余地がある。というかまだ成長期なのだ。身長は伸びてないけど。

 

 なので主に筋トレをして体の筋肉を増やした。

 ブルボンちゃんとの徹底した筋トレだ。

 トレーニングプログラムは毎日白井トレーナーが触診して、バランスを崩さないように微調整されながら作られたものであり、ボクもブルボンちゃんも尻から脚にかけてが一回り太くなった。

 パワーも最高スピードも、筋力が増えれば上がるのだ。

 もちろん筋肉をつけたことによる弊害もある。

 一番は筋肉がつけば、体が重くなることだ。

 重くなると、慣性の法則のせいで、力の向きをすぐに変えるのが難しくなる。

 それに合わせて走行フォームも変える必要があった。

 具体的にはストライドをかなり広くして、一歩を大きく、時間も長くするのだ。

 筋トレとフォームトレーニングをして、毎日自宅まで帰る間もフォームチェックをする。

 そして帰ったら妹と存分に遊ぶ。

 朝は朝練に出ないといけないので、4時ぐらいには家を出る。

 天皇賞春から宝塚記念まで約1月半。

 そんな生活を繰り返していた。

 

 

 

 そんな生活の中、チームに一人、新メンバーが加わった。

 ホクトベガちゃんだ。

 きっかけはマシントレーニングができるトレーニングルームで、ホクトベガちゃんが黙々とウエイトトレーニングをしていたことだ。

 チーム加入前のウマ娘も自由にトレーニングができるが、トレーナーへのアピールもあり、また、元来ウマ娘というのは走るのが好きなのもあって、もっぱらランニングなどの走る系統のトレーニングばかりする子が多い。

 ウエイトトレーニングのような基礎トレーニングをする子はごく少数派である。

 そんなごく少数派のなかにホクトベガちゃんがいたのだ。

 気になって声をかけて、トレーニングメニューの相談で仲良くなったのでそのままチームに引っ張ってきたのである。

 

 ホクトベガちゃんの175cmある体格に、パワーのありそうな体つきである。ブルボンちゃんに「いずれ神を超えるでしょう」という謎の評論をもらうほど立派であった。

 新メンバーも加わり、サポートしてくれるメンバーも増えたので、さらにトレーニングは充実していっていた。

 

 

 

 もちろんトレーニングばかりではなく、レース展開の分析もしっかり行っていく。

 ボクの強さは、太ももから生み出されるパワーと、白井トレーナーの分析力と、それを臨機応変に実行する能力から生まれている。

 真正面からの実力勝負では、マックイーンさんやライアンさん、ホワイトストーンさんに勝てないのはわかっている。

 とはいえ、やることは多くはなかった。

 

「メンバーでちょっと注意した方がいいのはバンブーメモリーさんぐらいだね。あとは天皇賞春とほぼ同じメンバーだし」

 

 今回の宝塚記念の出走者は10人

 うち5人は、天皇賞春から直接宝塚記念というメンバーで、2人は天皇賞春から1戦挟んで宝塚記念というメンバーである。

 バンブーメモリーさんは安田記念から宝塚記念というローテーションで参加している。

 2年前から同じローテーションで宝塚記念に参加している熟練であり、少し警戒が必要だ。

 残りの2人のうち1人、ミスターシクレノンさんは有馬記念に出た後、GⅡレースに出て宝塚記念。

 最後の1人、イイデセゾンさんはクラシッククラスで、日本ダービー後宝塚記念に出ていた。皐月賞でもダービーでも掲示板に残っていたし、実力はあると思うが、シニアクラスと戦えるほどではないだろうと思う。

 

 結局ライバルはいつものメンバーであった。

 

 

 

「で、どうすると勝てますかね?」

 

 現状チームメンバーで忙しいのは次にGⅢエプソムカップに出るプレさんぐらいだ。

 ネイチャさんはダービーが終わったし、ルーブル姉さんもオークスが終わっている。

 ブルボンちゃんもホクトベガちゃんもまだデビュー前。

 そんな状況なので、鼻息荒くトレーニングに励むプレさんと、それに付き合わされる沖野サブトレーナー以外のメンバーがチームルームにそろっていた。

 

「はい!」

「はい、ルーブルさん」

「爆逃げで勝ちましょう!」

「うーん、それは難しいかな」

 

 ルーブル姉さんの逃げ切り主張にトレーナーさんは否定的な意見を述べる。

 ボクがルーブル姉さんに上回っているのは計画的に走ることと、スタミナぐらいだ。

 ルーブル姉さんのように競えばすべて競り潰して、放置すれば突き放してセーフティリードを取るような狂乱的な逃げはできないのだ。

 

「正確にタイムを刻んで逃げるのはいかがでしょうか?」

「多分マックイーンさんあたりに付け込まれるだけだねぇ」

 

 ブルボンちゃんの提案したラップ逃げにもトレーナーさんは否定的な反応である。

 ブルボンちゃんがデビューから使用する予定のラップ逃げは、ボクと白井トレーナーが開発した奴の改良版だ。

 あえて1ハロン単位では正確にラップを刻まないことでマークを外し、しかし全体で見れば一定のペースを守るという、マーク戦術にも対応した最新版なのだ。

 だがそれは、ブルボンちゃんのほうがボクより冷静で体内時計が優れているからできる技であって、ボクだと同じペースで走ることしかできない。

 ジュニアクラスやクラシッククラスの前半だとそれで勝てたが、熟練者ばかりのシニアクラスでは通用しないだろう。

 

「有馬記念で使ったあれは?」

「使える場所がほとんどないんだよ。あとライアンさんと末脚勝負に持ち込まれて負けると思う」

 

 ストライドをあげての追い込みをネイチャさんが提案するが、それにもトレーナーさんはネガティブな反応だ。

 そもそも今回の舞台は京都競馬場。

 坂は第三コーナー前から始まり、第三コーナー時点で登り切ってしまうため、そこから使うと800mは残っている。さすがにその距離を走り続けるのはつらすぎるし、コーナーを曲がるのもつらい。

 外ラチぎりぎりを走ると、その分の距離の不利でライアンさんあたりとの末脚勝負に負けそうである。

 

「じゃあ、王道の先行策……?」

「まあその方向だよねぇ」

 

 ボクが後思いつくのはこれくらいだ。

 ただ、無策で先行策で行けば、きっとあのぐちゃぐちゃしたマックイーンさんとの真っ向勝負だ。

 更にホワイトストーンさんやライアンさんも前目に付けてこられた日にはそのあたりとも真っ向勝負である。

 勝てる気がしない。

 

「トレーナーさん、どうしましょう」

「やっぱり皐月賞のあれじゃないかな」

 

 皐月賞のあれ、というのはボクの時の方法ではない。

 ボクの時の皐月賞はラップ逃げで勝っている。つまり、想定しているのは最近のネイチャさんの皐月賞だろう。

 

「いいですね、ああいう盤外戦術、ボクは好きですよ」

 

 ルーブル姉さんとネイチャさんもノリノリであれやこれやとアイデアを出し始める。

 ブルボンちゃんは一人柔軟体操を始めた。

 新人のホクトベガちゃんだけが

 

「年度代表ウマ娘の戦い方じゃない……」

 

 と大きな体を縮こまらせて、部屋の隅で戦慄していた。

 まあ大丈夫、すぐに染まるはずだから放置である。

 

 

 

 ということで、まずは情報収集だ。

 メジロのおうちがとても揉めているのは知っている。

 そして今回のライバルのうち二人がメジロ出身だ。

 ということで外からわかる程度で情報を集めることにした。

 さすがにラモーヌさんやアルダンさんに聞くのははばかられるので関係者に聞かなくてもわかる範囲である。ということでまずはトレーナーさんが知っている範囲で教えてもらう。

 

「まず、メジロ家というのは三人のウマ娘が協力して作られたんだ」

「ウマ娘三人って女神様と一緒ですね」

「そうだね、三女神にあやかったのかもしれない。一人は日本出身のアサマユリ、一人はアメリカ出身のアマゾンウォリアー、そして一人はフランス出身のシェリル。この三人がメジロ家を作ったわけ」

「なるほど」

「三人は仲が良かったから、協力してそういう家を作ったわけだけど、今のメジロ家ぐらい大きくなると主導権争いが激しくなっちゃってるわけだね。で、アサマユリの系譜がマックイーンさん、アマゾンウォリアーの系譜がラモーヌさんやパーマーさん、シェリルの系譜がライアンさんっていうわけ」

「もうバッチバチじゃないですか」

 

 おそらくレースの結果が次代の後継者争いに直結する。

 そしてこのままだと初のティアラ三冠を取ったラモーヌさんが圧倒的優位である。だが、ラモーヌさんはルドルフさんと恋仲で、ルドルフさんはシンボリ家の方のトップがほぼ確実になって……

 

「ちなみに、マックイーンさん、血統で見るとアサマユリの系譜だけど、シェリルの血も引いてる上にシンボリの血も引いてるよ」

「あれ、これってボク、各所の恨み買ってません?」

「そうだね」

 

 ラモーヌさんやアルダンさんにべったりだった上に、ライアンさんやマックイーンさんの勝利を何度も邪魔してきたボクは、メジロ家の2系譜には嫌われているだろう。だが、ラモーヌさんとルドルフさんの関係を取り持ち、ラモーヌさんが抜けかねない状況は、もう1つの系譜からも嫌われかねない。

 さらに、マックイーンさん経由でメジロとシンボリの親睦を取り持っていたシンボリの人たちにも、別ルートを開拓したボクは恨まれてそうだ。

 つまり、敵しかない。

 アルダンさんがボクを戸惑いながらも取り込もうとした理由もなんとなくわかる。

 このごちゃごちゃしたメジロ家をまとめ上げるのに必要なのは絶対的な勝者だ。

 ラモーヌさん以外なら、外から持ってくるしかなく、変則三冠、GⅠ5勝のボクは絶好の旗頭だろう。

 そういうのがあって、アルダンさんのあんなわけのわからないプロポーズにつながったのか。

 

「というか、これ、トレーナーさんも知ってましたよね」

「当然。ただ、そろそろヴィオラちゃんも自分でも考えていいかなって思って」

 

 こんなの公開情報と推論だけで成立する、いわば簡単に調べられる情報だ。

 トレーナーさんはそれを知って、フォローをしてくれていたのだろうなと思う。

 例えばウチのチームの勝負服は、ネイチャさんの以外は皆ラモーヌさんに作ってもらってるし、ブルボンちゃんもその予定だ。

 また、ルドルフさんが生徒会で孤軍奮闘していた時、積極的に手伝うように後押ししてくれていたのもトレーナーさんだ。

 ただ、できれば地雷原でタップダンス始めたボクを止めてほしかった。

 もう手遅れだったが。

 

 まあ、それはそれとして。

 知ったからにはそれは存分に使わせてもらおう。

 ルーブル姉さんとネイチャさんに、白井トレーナーも混ざって紅茶を飲みながら優雅にお茶会である。

 ブルボンちゃんはスクワットをはじめ、ホクトベガちゃんは隅で震えながら

 

「三冠ウマ娘の戦い方じゃない……」

 

 とつぶやいていた。

 誉は(ターフ)で死にました。

 

 

 

 いろいろ検討をしたが、結局やることは少しだけにした。

 そう多くしなくても効果的だろうという判断だ。

 

 パドックはいつものように最高潮。

 夏のグランプリということで、ファンの数も非常に多い。

 そんな中、ファン投票1位、1番人気を取ったボクには大声援が降り注いでいた。

 

 ここ最近の実績は微妙だが、直近の2敗は長距離と障害である。

 中距離では今まで負けなしなので、今回も堅いと思われているようだ。

 

 2番人気のマックイーンさんは、相変わらずのガンギマリの黒いオーラをまといながら、いつものメジロ目力でこちらを見ている。

 なので今日はボクから声をかけることにした。

 

「マックイーンさん、ごめんね」

「……何がですか?」

「メジロのおうちのこと、部外者だし庶民だから全然知らなかったんだ。マックイーンさんも大変なんだね」

「……」

 

 メジロ目力がさらに険しくなる。

 だが、気づかないふりをして話を続ける。

 

「でも、天皇賞と違って、今日は勝つからね!」

「ッ!!」

 

 あくまで無邪気で天真爛漫に、そして無意識な傲慢さをにじませながらそう告げると、マックイーンさんはそっぽを向いた。

 ついでに聞き耳を立てていただろうライアンさんにも聞こえただろう。

 

 憐れまれるというのが一番プライドを傷つけるのだ。

 だからこそ、こうしてボクは煽った。

 この少しのやり取りで仕込みは十分だ。

 あとはボクの武器を生かして頑張るだけである。

 

 観客に愛想を振りまきまくるボク。

 すごいオーラを振りまくメジロの2人。

 我関せずのホワイトストーンさん。

 やばいオーラにビビるクラシッククラスの子。

 無事戦法がはまっているのを理解して楽しそうなスピカメンバー。

 プロテインを飲んでいるブルボンちゃん。

 そして死んだ顔をしたホクトベガちゃん。

 混沌とした雰囲気のパドックの時間は過ぎていった。

 

 

 

 ゲートインは順調に進み、スタートを待つだけになる。

 まさにゲートが開こうとした瞬間

 

「シッ」

 

 鋭くボクは息を吐く。

 その半タイミングぐらい後にゲートが開き、ボクはゲートから飛び出した。

 こんな姑息な手に、シニアクラスのメンバーがそうそう引っかかるとは思っていない。

 だが、それでも耳に入り、気になるものである。

 意識がこっちに向いているのを理解しつつ、ボクは先頭を走り始めた。

 

 逃げウマ娘がおらず、先行したボクが先頭に立つ展開になりレースを引っ張っていく。

 後ろにはマックイーンさんのほかに、ライアンさんやホワイトストーンさんまで、集団になってついてくる。

 前と後ろの差がなく、まとまって走っていくレース展開だ。

 

 内側を丁寧に走りながら、ボクはペースのアップダウンを激しく行う。

 後ろにつかせないためももちろんだが、とにかく激しくペース変動をさせて、全体を振り回しているのだ。

 レース全体がボクのペースに影響され、速くなったり遅くなったり、無茶苦茶なペースが作られていく。

 マックイーンさんが相変わらず圧をかけてくるが、2回目だし結構慣れてきていた。

 

 すすっと後ろに下がってマックイーンさんに並び、さらに外に少しずつずれてはじき出そうと圧をかける。

 そんなよくわからない領域(ゾーン)を使わなくたって、もっと強く圧力はかけられるのだ。圧力を嫌がって下がっていくマックイーンさんを一瞥し視線を合わせるとともに、ぼそっと自分でも何を言っているかわからない言葉をつぶやく。

 マックイーンさんの脚が一瞬乱れた。

 

 代わりに上がってきたライアンさんにも圧をかけ、同じようなことをするとすぐに下がっていく。

 順位が目まぐるしく変わる状況に、ホワイトストーンさんも走りにくそうにしていた。

 

 無茶苦茶なペースになりながら、坂を上って、第三コーナーに入り、坂を下り始める。

 ここでボクは一気にペースを上げてラストスパートに入った。

 通常なら早すぎるスパートだ。

 下り坂でコーナーリングが苦しくなって外に流れてしまう。

 だが、ボクのコーナーリング技術と、さらに鍛えて付けたパワーをもってすれば、この殺人的な遠心力の中でもコーナーリングができる。

 内ラチぎりぎりを全力で下り降りていく。

 周りもボクにつられてスパートをかけ始める。

 だが、当然遠心力に耐えられず、どんどん外へと流れていく。

 

 下り坂での遠心力に耐えても、結局道中の無茶苦茶なペースで皆スタミナが切れていた。

 

 こうなれば、あとは根性と道中どれだけ有利だったかの勝負である。

 今回無茶苦茶な走りをしたボクだが、これ自体最初から計画的な走りであり、コーナースパートも相まって圧倒的に有利な場所からスタートしていた。

 マックイーンさんもライアンさんも外に振り回されており、ホワイトストーンさんも後方集団に沈んだ。

 

 いくら闘志だけ燃やしても、それ以前にレースへどれだけ努力を重ねたか、というのは大事なのである。

 トレーニングによるスピード増強

 レース分析

 コース分析

 対抗ウマ娘対策

 こういったものを積み重ね、完璧にハメ切ったボクが負けるわけがなかった。

 後ろから怨念に近い何かを感じながら、ボクは1着でゴール板の前を横切ったのであった。

 

 

 

 

 

 宝塚記念は、紫電の女王 ヴィオラレジーナが勝利したことで、六冠を達成し、シンボリルドルフの七冠に近づいた。

 勝利後のインタビューで、チームスピカから、ヴィオラレジーナの凱旋門賞への遠征が公表される。

 それは大きくマスコミに取り上げられるとともに、様々なところへと影響を及ぼすのであった。




ラモーヌ「ネイチャさんの勝負服、こんなのがいいんじゃないかな」(露出がとても多い&体の線がばっちり出る服)
ネイチャ「いえ、地元のみんなが作ってくれる予定のものがあるので」(鋼の意思
そうしてネイチャの勝負服は、無難でネイチャに似合っているが、大きな特徴がないものになりました。


面白かったら高評価お気に入り・感想お待ちしております。

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