紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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5 紫電の女王の夏合宿

 宝塚記念後、最初に考えたのはメジロ対応である。

 とはいえ、やることは多くない。

 勝ってごめんなさいともいえるものじゃないし、そもそも利害が矛盾する相手と仲良くするのは難しいのだ。

 

 なので、ラモーヌさんのところへ、メジロ家の事情を知ったことを伝えるぐらいである。

 

「むしろ今まで何も知らなかったことに驚きよ」

 

 とただ驚かれただけだった。

 

「いやぁ、やってから思ったんですが、あとからいろいろ言われないかなって」

「そんなの負けウマの遠吠えだし気にしなくても大丈夫よ。ルドルフだって何も言われてないでしょ」

「ルドルフさんも何かやってたんですか?」

「ルドルフこそ、勝つために何でもありみたいな典型よ。今の質問されるまで、今回の牽制はルドルフに教えてもらったのかと思ってたもの」

「へ~」

「といってもマネできる子なんてほとんどいないでしょうけどね。レースしながら、レース展開も考えて、さらにほかの子へ牽制するなんてよほど頭キレる子じゃないとできないわ」

 

 そんなものだろうか。

 まあ、ボクとネイチャさん以外に現役でやってる子見たことないのでそんなものかもしれない。

 

「まあだから、ヴィオラちゃんが思ってるほど問題はないってことよ」

「それならよかったです」

「そんなことよりも、新しいトレーニング用水着作ったのよ!!」

 

 話の転換が早すぎるが、まあラモーヌさんだといつものことなので特に気にしない。

 おそらく本当にどうでもいいと思っているのだろう。

 

「どんなのですか?」

「学校の水着って悪いとは言わないけどやぼったいし、特に下半身の部分が裾が長くて動きにくいじゃない」

「うごきにくい、ですかね?」

「だから、あたらしく作ったのはこれよ!!」

 

 取り出した水着は布面積が非常に少なかった。

 脚の動きを一切阻害しないレベルのハイレグカット。

 腕の動きを一切阻害しないようにオフショルダー。

 露出がとても多かった。

 

「ちょっと、露出が多すぎませんか?」

「? 見せつけた方が美しいじゃない」

 

 ラモーヌさんが心底不思議そうに首をかしげる。

 ラモーヌさんはウマ娘が美しいと思ってる人なので、隠さないほうがいいと信じてる節がある。

 だから、何も考えずに作らせるとこういう露出が多い服になるのだ。

 

「ちょっと試しに着てみてよ」

「わかりました……」

 

 ちょっと恥ずかしいのだが、断る選択肢はなかった。

 ボクのサイズで作られた水着を受け取ると、更衣室で着替えて、ラモーヌさん家の中にあるミニスタジオに行くのだった。

 

 

 

「確かに、動きやすくはありますね」

 

 脚と腕の可動域を一切覆わない水着は、確かに動きやすい。

 少し柔軟したり、踊りの動きをしてみると、既存の学園水着と比べても動きやすいのは確かだ。

 

「でしょでしょ?」

 

 同じ水着を着たラモーヌさんが胸を張る。

 背は低いが出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる理想的な体型。

 整った顔に真っ黒な青鹿毛が輝いている。黙ってると本当に芸術品のように美しい。

 そんなラモーヌさんがこの格好はいろいろ問題ではないだろうか。ルドルフさんに怒られないだろうか。

 そんなことを考えながらじっくり鑑賞していた。

 

「でもやっぱり…… 恥ずかしくないですか?」

 

 アルダンさんも、同じ水着を着て出てきた。

 うん、とても良い。

 アルダンさんもまた、とてもスタイルがいいのだ。

 レースに引退して、トレーニングを減らしたからか、前以上に丸みを帯びている気がする。

 じっくり鑑賞すると、恥ずかしそうに手で体を押さえた。

 

「露出多すぎかな?」

「そんなことないですよ。動きやすいですし、うちのチームで採用してもらいます」

「ヴィオラちゃん!?」

 

 恥ずかしさより、これを着ているほかの子を見たいという欲望が優先した。

 見られる覚悟があるやつだけが、見ることが許されるのだ。

 欲の前では恥は投げ捨てたのだった。

 

 

 

 新水着を導入し、ボクは今年は、リギル・スピカ合同夏合宿に参加した。

 夏合宿は今回初参加である。

 

 3年前、入学した年は、メンバーがボク一人だったため、夏合宿は実施しなかった。

 一昨年は、ボクがメイクデビューを函館で、7月に行い、7月終わりの札幌記念に参加したため、夏合宿がやはり行われなかった。

 去年、スピカはリギルと合同の夏合宿が行われたが、ボクだけ学園に残って、アイネスさんやフローラさんと併走三昧だったため、やはり不参加だった。

 

 今回の合宿のテーマは、基礎から見直す、ということで、基礎的な筋力トレーニングと、基本的なフォームチェック、これがメインとすることになった。

 

「それなら私でもついていけそうですね」

 

 ホクトベガちゃんがのほほんとそんなことを言うが、当然そんな生易しい内容にはならないのである。

 

 合宿初日に、東条トレーナーが全員の身体能力、体型、すべての数値を徹底的に測定した。

 医者まで呼んでレントゲンまで取って、健康診断を兼ねるものだ。

 そのうえで白井トレーナーが情報を分析し、トレーナーふたりで個人ごとの特別メニューが作られるのだ。なお、沖野トレーナーは子育てのため東京にお留守番である。

 

 この特別メニューが死ぬほどつらい。

 限界ぎりぎりを完全に見極めた、搾り取るようなトレーニングである。

 基本的なスケジュールは、2日サイクルで、1日の朝にウォームアップをしっかりやったら、午前中フォームチェック、午後が筋トレ、夜にはクールダウン、2日目は完全自由時間という、見ただけならそう厳しそうに見えない。

 だが、フォームチェックでミリ単位まで補正されるんじゃないかと思うぐらいのフォーム修正をされて、精神を削られた挙句、限界ぎりぎりまでの筋トレをさせられると、2日目なんて全く動けなかったりする。

 そんな2日サイクルを3回繰り返し、7日目にまた測定をする、そんな一週間のトレーニングスケジュールだった。

 

 自由時間にいそいそと出かける予定を立てていたらしいホクトベガちゃんは、リギルの1年生のビワハヤヒデさんと二人、ホテルの自室でつぶれていた。

 

 

 

 ボクはというと常に絶好調である。

 

 まずラモーヌさんの水着、本当に動きやすい。

 合宿で使う砂浜はプライベートビーチなので第三者の目を気にする必要がないのもよい。

 だがそれ以上に、トレーナーさんたちの着る水着姿がたまらない。

 ウチの白井トレーナーは、変態な天才だが、ウマ娘だし外見だけはいいのだ。

 そして僕たちのような小娘とは違う、成長しきった大人の丸みを帯びた魅惑ボディなのである。

 そんな白井トレーナーが、ワンショルダーでハイレグの水着を着てトレーニングを見てくれるのだ。

 それだけでボクのテンションは絶好調である。

 リギルの東条トレーナーはもっとやばい。40オーバーの一児の母とは思えないスタイルだ。ウマ娘の天然の美とは違う、努力で作り上げた美は、ウマ娘にない美しさがあり、思わず拝んでしまうものだ。

 というかボクは拝んだ。

 ルドルフさんも拝んでいた。

 謎の新興宗教の儀式のようだった。

 

 なお、ルドルフさんも同じ水着を着ていたが、その上に常にダサTを着続けていた。

 ラモーヌさんにルドルフさんの水着写真を送るように頼まれていたので、ルドルフさんの写真は何度も送ったが、あまりのダサTにマジ切れしていた。

 

 頭打ちがかなり見えているからこそ、こういう基本が重要になっていた。

 走りの雑なところ。

 筋肉の無駄な付き方。

 そういうものを修正して、少しずつ少しずつ、努力を重ねていく。

 おそらく一月で爆発的に能力は上がらない。

 だが確実に少しだけ強くなれるだろう。

 凱旋門賞に備え、ボクも完全に仕上げる姿勢になっていた。

 

 

 

 それはそうと、いろいろなイベントも起きている。

 どうも最近、テイオーとルーブル姉さんの距離が近い。

 前は競うようにボクの膝だの尻だのを枕にしてたのに、最近は二人でなんかイチャイチャ膝枕とかしているし、二人で話していることも増えた。

 恋人にでもなったのか、まだなる前なのかわからないが、ずいぶん仲が良いように見えた。

 少し寂しいが、きっといいことだろうと生ぬるく見守ることにした。

 

 

 

 だがそうすると、いろいろ困ったことが起きる。

 まず夏祭りに行こうかと思ったが一緒に行く人がいない。

 普段ならルーブル姉さんとテイオーと行くのだが、さすがにこの間にはいる勇気はない。

 

 だがほかの候補もなかなかいなかった。

 ルドルフさんはあれだけ激しいトレーニングをしながらいそいそと東京によく帰っている。多分デートだ。基本一緒に行ってくれないと考えた方がいい。

 プレクラスニーさんは燃えに燃えていて、さらに一段階激しいトレーニングをしているから夜は起きられないはずだ。

 ネイチャさんは年下のブルボンちゃんやリギルの2回生マチカネタンホイザさんなんかを連れていくはずだ。そこに混ざってもいいのだが、ボクが混ざるとなかなかポジションが難しい。

 実績や学年的にはボクが一番最上級生でとても強いウマ娘だ。だが、年齢的にはみんなより下で、特にネイチャさんといるとネイチャさんのママ力にやられて甘えたくなってしまう。

 そうすると全体的に微妙な空気感、どう扱うか迷うような、困ったような空気が流れるのだ。

 

「ということでホクベちゃん一緒に行こ」

「体が痛くてつらいんですが……」

 

 ホクトベガちゃんとリギルのビワハヤヒデさんは、必死に合宿についてきている1回生だ。成長余地が大きい分、体の痛みも大きいのだろう。

 休養日に出歩いているのを二人とも見たことがない。

 なので、二人を誘って夏祭りに行こうと思ったのだ。

 二人ならまだマウント取れそうだし。

 

「ねえ行こうよー、チョコバナナ食べよー、おごってあげるから~」

「…… ちょこ、ばななぁああああ!!!」

 

 ホクベちゃんを誘っていたら、なぜかチョコバナナの単語でビワさんがゾンビのように立ち上がった。

 そんなにバナナが好きなのだろうか。

 

「ほらほら、ホクベちゃんも立たないと、置いてっちゃうよ~」

「ぐぬぬぬぬ」

 

 案外負けず嫌いなホクベちゃんは、立ち上がったビワさんに反応して立ち上がった。

 これで同行するメンバーができたのだった。

 

 3人でせっかくなので浴衣を着て、夏祭りに繰り出す。

 そこでボクはさっそく自らの失敗を悟った。

 ボクの身長は142cm

 ビワさんの身長は173cm

 ホクベちゃんに至っては177cmもある。

 ビワさんとの身長差ですら30cmもある。

 そんな3人がボクを挟んで両側にいるとどうなるか。

 娘どころか、連行されるエイリアンの様相を呈し始めたのだ。

 腕でも組んだらボクの脚は明らかに浮く。

 

 だが、ビワさんにチョコバナナをまず食べさせなければならない。

 ひとまずチョコバナナを三本買ったが、ビワさんに全部食われた。

 おかしい、3人分のつもりだったのだが……

 ちなみにホクベちゃんも、体格に似合ってよく食べる。

 たこ焼き3船買ったら全部ホクベちゃんに食べられた。

 おかしい、3人分だったはずなのだが……

 食べ物屋を片っ端からあさり、どこがおいしいとか雑談をしながら3人で祭りを回る。

 

 途中、ルーブル姉さんとテイオーを見かけたが、二人して物陰に行ってしまったので見ないふりをした。

 ホクベちゃんとビワさんも気づいたらしく、二人して顔に手を当て、指の間からその光景を見ながら顔を赤くしていた。

 

 

 

 1月の過酷な合宿により、ボクは完全に仕上がって、凱旋門賞へ向かうのに十分な状態になった。

 皆もかなり成長していた。

 特にホクベちゃんとビワさんはかなり体格が立派になり、背も伸びていた。

 ボクは伸びないのに…… 解せぬ。

 

 だが、そんな大成功な合宿だったが、ルーブル姉さんとテイオーはなんか少し様子がおかしかった。

 それがどうしてかは、ボクにはわからなかった。




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