紫電の女王の栄光の道のり   作:雅媛

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7 紫電の女王の帰還

凱旋門賞が終わり、日本に帰ってきたら、生活が劇的に変わる、なんてことはなかった。

インタビューを2回程度受けただけだ。

 

「どのようなトレーニングをしていたのですか?」

「ホテルに併設されたトレーニングルームでマシントレーニングですね。軽めのウェイトトレーニングとか、ランニングマシーンとかあのあたりです」

 

「勝利の秘訣は何でしょうか?」

「チームみんなの協力と、URAのバックアップだと思います」

 

「凱旋門賞に勝った感想は?」

「コースがすごく難しくて、参加している人たちもみんな速くてとても大変でした。でも、運よく勝てて嬉しいですね」

 

「今後の予定は?」

「まだ未定です」

 

聞かれた内容も要約するとこんな感じだ。

何か隠すつもりもないし、正直に答えていたし、特に質問の制限もしていないのだが、なんとなく記者の人たちが聞きたいことを答えられてないような、違和感はあった。

だけどそれが何か聞いてくれないし……

 

そんな感じで、ちょっとだけ騒がしかった後、日常の生活に戻るのであった。

 

 

 

とはいえ全く暇になるわけではない。

秋のGⅠシーズン、うちのチームのメンバーは皆GⅠに参加する。

 

最低でも、

プレクラスニーさんは天皇賞(秋)と有馬記念

ルーブル姉さんはエリザベス女王杯とやはり有馬記念

ナイスネイチャさんも菊花賞と有馬記念

ミホノブルボンちゃんが朝日杯ジュニアステークス

GⅠ参加予定4人、合計でのべ7レースである。

ここにさらにジャパンカップに参加することも検討し始めると、さらに増えるのだ。

 

だが、スピカで空いてるのはホクベちゃんぐらいしかおらず、サポートをだれがするかという問題があった。

さすがにこんな状況で不慣れなホクベちゃんばかりにお願いするのも悪いのもあるので、基本サポートはボクが担当する予定となっていた。

 

ちなみにボク自身のレースは本当に未定である。

天皇賞(秋)は近すぎて調整が確実に間に合わない。

ジャパンカップは知らないメンバーが多すぎてスピカ、特にボクと白井トレーナーと相性が悪すぎる。

凱旋門賞の時なんか、分析だけで1月かけていたのだ。そこまでいかなくても、それを再度してもらう気にはならなかった。

そして有馬記念は去年勝った。

そうすると出なくてもいいかなーという気分になってくる。

閑話休題。

まずはプレさんの天皇賞(秋)である。

 

 

 

さすがのみんなの良心、よいこのプレちゃんも、本番前はかなりナーバスになっていた。

ちょうどボクが帰ってきたころ、一度爆発してしまったのだ。

 

「私なんて、みんなに比べたら全然遅いもん!!」

 

なんだ遅いもんって、怒ってもプレさんはかわいいなとボクは思った。

ただ、遅いって言われても違和感しかない。

実績的にはプレさんは劣っている。これは事実だ。

だけど……

 

「正直ボクはプレさんとやりたくないんだけど…‥ 勝てそうにないし」

 

これが本音だった。

だって勝てないし。

勝てない勝負は賞金が減るから好きじゃないのだ。

ピークを迎えたプレさんは速すぎて作戦の立てようがないのだ。

とくに2000m以下とか絶対無理である。

できれば2400m以上で戦いたい。そうすればスタミナで勝負できるし……

 

ただ、実績がないのが不安なのだろう。

ひとまずみんなで抱き着いて落ち着かせた後、ケーキを食べて試しにチーム全員で模擬レースを行った。

 

(ネイチャさん、ボクは右を取る)

(りょーかい、私は左ね)

(前は任せて)

 

プレさんに元気づけるためとはいえ、負けるのは悔しい。

なので全力で相手するためにネイチャさんとルーブル姉さんにハンドサインを送る。

3人で囲んで無茶苦茶牽制をかける作戦の予定だった。

そう、予定だったのだが……

 

トレーニングコース2000m。

スタートして囲もうとしたらすぐに計画は破綻した。

まず逃げ気質ではないネイチャさんがぶっちぎられる。

次にルーブル姉さんが抜けられて先を取られる。

右を取ったボクは必死に食らいついたが普通にスピードが速すぎて並ぶのにすら一苦労だ。

無理したせいでボクは直線で沈んだ。

 

結果は

1位プレさん

2位ブルボンちゃん

3位ホクベちゃん

 

である。

汚いことを考えた三人は完全にボロボロだった。

天罰覿面であった。

 

「GⅠウマ娘の走り方じゃないですよ。恥ずかしくないんですか?」

 

ホクベちゃんに真顔で言われたボクたちはひどく傷ついたのだった。

 

 

 

そんなプレさんが2000mの天皇賞(秋)で、そうそう負けるとは思わなかった。

マックイーンさんやホワイトストーンさんより明らかに強いとボクは信じていた。

 

だがレースというのは単純にはいかない。

まずスタートしてすぐ、何かごっちゃごちゃして、トラブルが起きているのがわかった。

審議ランプがすぐに点灯したからだ。

 

そしてそのまま続くレース。逃げ続けるプレさんは、直線でマックイーンさんと競り合ったが、最後100mで失速し、半馬身差ぐらいで負けてしまった。

 

それを見た時、ボクはひどく落胆したが、ゴール後プレさんが満足そうにしてたので、まあいいのかな、なんて思ったものだ。

 

このまま何もトラブルがなければ、めでたしめでたしで終わった話だった。

だが、まず生じた違和感は、プレさんの格好である。

この雨の不良バ場、勝負服が汚れるのはわかるが、右足側のスカートが裂けている。

 

何か、いやな予感がした。

そして残念ながら、これが的中してしまうのであった。

 

 

 

控室に戻ってきたプレさんをチェックするが、脚に少し擦り傷と打撲傷があるだけで、たいしたものではなかった。

ただ、レース中にこれができたというのが問題だ。

確実に接触事故が起きている。

だが、それはそれこれはこれである。

ぶつかってきたらしいマックイーンさんとチームベガに、あとで正式に苦情を入れて終わりである。

そう、終わりになる予定だったのだ。

 

審議が長引く。

関係各ウマ娘が呼び出しを受けることになった。

プレさんに付き添って待機場所へ行くと、そこにはカリブソングさんとメイショウビトリアさん、プレジテントシチーさんがいた。

 

「ビトリアさん、シチーさん、ご迷惑かけてしまったみたいで……」

「プレクラスニーさんが気にすることではないわ」

「そうですよ。あんな寄せ方されちゃったらどうしようもないわ」

 

入ってすぐプレさんが頭を下げると、二人も構わない、といった風に手を振った。

 

「後ろから見てましたけどあれはマックイーンさんがひどいですよ。プレクラスニーさんが声上げてるのに突っ込んでいきましたもん」

 

カリブソングさんもぷんすか怒っている。

いつも個性派ばかりの生徒会でも落ち着いているまとめ役なのに珍しい。

そんなカリブソングさんにビトリアさんもシチーさんも興奮して同調している。

誰か、落ち着いてまとめられる人がいるといいのだが……

こういう時に生徒会の役員の肩書が役に立つ場合が多いのだが、残念ながらボクはプレさんの関係者だし、カリブソングさんは思いっきり参加者だ。

会長のラモーヌさんや副会長のアルダンさんはメジロのウマ娘なのでマックイーンさんとの関係で利害関係が疑われる。

 

そうするとオグリさんか。

ひとまず東京競馬場のどこかで何か食べてるだろうし、至急来てほしいとUMAINEで連絡をする。

そんなことをしているとプレさんが呼ばれ、一人で部屋へと入っていき、それと入れ替わるかのようにオグリさんが部屋に入ってきた。

 

「なんだいヴィオラ。急に来てくれなんて」

「いえ、審議が長引いてますし、生徒会の中立なウマ娘が一人いた方がいいかと思いまして」

「なるほどなるほど。まあみんな、甘いものでも食べた方がいい。おなかがすくと怒りっぽくなるからな」

 

そういってオグリさんは持っていた紙の手持ち箱を広げる。

中には大量のドーナツが入っていた。

 

「ここのが一番おいしい。私が保証しよう」

 

オグリさんがそういうなら、とみんな一つずつつまむ。

すさまじく甘くて重量感があるが、確かにおいしい。

甘味で頭がとろけそうになる。

 

殺伐とした雰囲気がすぐに吹き飛んだ。

 

プレさんはすぐに出てきて、それと同時にマックイーンさんが部屋に入ってくる。

部屋内に一瞬緊張が走るが……

 

「ああ、メジロマックイーン、ちょうどいいところに来た。ドーナツが一つだけ残っているんだ」

「ふえ?」

 

返事も聞かずにオグリさんはドーナツをマックイーンさんの口に押し込んだ。

そのままもぐもぐしながら、マックイーンさんは聴取の部屋へと向かう。

有無も言わせぬやり取りだった。

 

 

 

最終的に審議の結果、マックイーンさんは18着降着になった。

プレジテントシチーさんの妨害をしたため、その後ろに下げられたのだ。

降着はGⅠで初めての出来事である。

なんにしろその結果、プレさんが1着になった。

 

「あはは、勝っちゃいましたね」

 

プレさんが複雑そうに笑った。

マックイーンさんは何も言わずに立ち去った。

 

少し考えて、ボクはマックイーンさんを追いかけた。

 

 

 

「……」

「……」

 

多摩川の河川敷に、マックイーンさんはいた。

そんなマックイーンさんの隣にボクは座る。

 

「……文句を言いに来たんですか? それとも笑いに来たんですか?」

「そうじゃないよ」

「じゃあ、嘲笑いにきたんですか?」

「そうじゃあないよ」

 

思えばずいぶんおかしな関係になってしまった。

入学式の時は仲良くなれそうだと思ったのに。

あれから3年以上経って、こんな風になってしまった。

 

「……ごめんね」

「なにがですか?」

「いままでのいろいろ。もっとマックイーンさんといろいろ話せばよかったなって」

「……」

「入学式の時、とってもきれいなウマ娘がいたから仲良くなりたいなって思ったんだ。でも、なんでこうなっちゃったんだろう」

「……」

 

オグリさんお勧めの競馬場シュークリームを取り出し、マックイーンさんに渡す。

マックイーンさんが食べ始めるのを見て、自分も食べ始める。

 

「ボクさ、結構人見知りなんだ」

「知ってます」

「飛び級でみんな年上だから距離感じちゃうし」

「知ってます」

「みんないろいろ知ってるけど、ボクは勉強とレースのことぐらいしか知らないし」

「知ってます」

「みんなと、どう付き合えばいいかわからないんだ」

「……」

 

誰もいないわけではない。

チームのみんなはいるし、生徒会のみんなもいる。

家族だっている。

でもクラスメイトで仲がいい人なんてほとんどいない。

 

いびつなボクのいびつさが、結局こうなってしまったのではないか。

そう思うと悲しくなってしまった。

 

「ヴィオラさんは……」

「うん……」

「アルダンさんとはどういう関係なんですか?」

「初恋のお姉ちゃん」

「それはかなり難しそうですわね。アルダンさんは年上の白馬の王子様が好みですし」

「知ってる……」

 

アルダンさんの好みはボクのような小さくて年下の妹キャラとは逆の存在だ。

とはいえ、妹だったアルダンさんはボクを妹のようにかわいがってくれるので、それで満足していた。

 

「ラモーヌさんとは?」

「優しいお姉ちゃん。服とかお菓子くれるし」

「あの服、よく着ますわね…… メジロでも不評なんですが」

「ちょっと恥ずかしいけど動きやすいし……」

 

あれ、メジロではやっぱり不評だったんだ……

なんとなく納得する。でも動きやすいんだよね……

 

「……メジロ家をどうしたいと思っていますの?」

「よくわかんない…… 何かしたいわけじゃないんだけど、アルダンさんやラモーヌさんが困っているなら助けたい」

 

正直メジロ家の中の話なんて分からないのだ。

そもそも関係者じゃないし。

ただ、アルダンさんやラモーヌさんにはお世話になってるし、困っているなら助けたいなという程度でしかない。

 

「ヴィオラさんは、どうなりたいのです?」

「お金一杯稼いで、お母さんとルーブル姉さんとプリンちゃんと一緒に楽しく暮らしたい」

「…… ほら、ルドルフ越えとか、前人未到の記録を打ち立てるとか、そういうのは?」

「なんか怖いからヤダ。最近周りの目が怖いし」

「もう結構手遅れだと思いますが……」

 

すごい記録が欲しいわけじゃないのだ。

楽しく暮らせる何かが欲しかっただけなのだ。

ボクにとってそれがレースだっただけである。

 

でもみんなの執念とかを見てると何か間違ってたんじゃないかと思ったりしてしまう。

 

「ほらほら、泣かないでくださいまし。はい、ちーん」

「ちーん」

 

マックイーンさんが差し出してくれたハンカチで鼻をかむ。

 

「はぁ、やっぱりちゃんと見ないと駄目ですわね。ヴィオラさんも結局、普通のウマ娘ですね」

「なんだと思ってたの?」

「化け物でしょうか?」

 

マックイーンさんが笑った。

 

「でも、自分で相手を作り上げるのはもうやめますわ。あなたのことも、メジロ家のことも」

「ん」

「さてそれじゃあ、皆様に謝りに行きましょうか。今回いろいろ迷惑をかけてしまいましたし」

「一緒に行く」

「一人でも行けますわよ?」

「一緒に行く」

 

ボクも責任を感じているのだ。

一緒に行きたかった。

 

「もう、そんな裾をつかまなくても置いていきませんわ」

「ん」

「結構ヴィオラさん、かわいいんですのね」

 

コロコロと笑うマックイーンさんのほうがとてもかわいらしかった。

 

 

天皇賞(秋)のトラブルはウマ娘の間ではこれで終わった。

マックイーンさんが皆に頭を下げれば、他の人だってそれ以上何も言わない。

レースとなり、興奮すればああいうことをしてしまうのは参加者だれもがわかっていた。

最終的にはマックイーンさんを中心に皆で団結し、東京競馬場2000mの改修をURAに訴えて認めさせるまで成功した。

 

「来年は私が勝ちますわよ」

 

マックイーンさんがプレさんにそう宣言する。

 

「今度こそ、誰もが認める形で勝ちますから」

 

プレさんもマックイーンさんにそう宣言する。

 

この話はこれで終わりである。

そう、終わりになるはずだったのである。

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