ボクは有馬記念当日の朝、日本に帰り、そのまま中山競馬場に直行した。
アルダンさんとラモーヌさんはまだ少し香港に残るようだが、家族とルドルフさんはボクと一緒に帰ってきた。
母と妹は家に帰るが、ルドルフさんとルーブル姉さんはボクと一緒に有馬記念観戦へと向かうのであった。
今回の有馬記念は非常にメンバーがそろっている。
ボクの同期だと、メジロマックイーンさんやプレクラスニーさんのほかにも、マイルチャンピオンシップに勝って有馬記念に挑むダイタクヘリオスさんなんかもいるし宝塚記念後の休養からやっと復帰したメジロライアンさんもいる。
一つ学年が下のクラシッククラスだと、トウカイテイオーやナイスネイチャさんはもちろん人気があるし、他にもツインターボさんなんかも出ている。
ターボさんはその小柄さと大逃げ、さらに青の色髪で人気を集めている。
「つまりボクの人気的な後継者ってことですね」
「ターボはヴィオラちゃんみたいにひねくれてないから全く別物だと思うよ」
ルーブルさんの突っ込みが痛かった。
他にも天皇賞秋で最終的に二着になったカリブソングさんなんかも出ている。
かなりの有力バが出る混戦模様であった。
「で、誰が勝つと思う?」
「私はテイオーに一票」
「私もテイオーだな」
「マックちゃんもあると思うけど」
大体この二人が人気が高い。
プレさんなんかはボク個人的には二人より上だと思うが、適性が1600mから2000m前後だ。2500mの有馬記念は明らかに長い。
さらに、今回のレース、ターボさんの狂乱逃げにヘリオスさんの爆逃げが加わるハイペースレースになるのは疑いがない。
逃げ気味の先行を取るプレさんには不利なレース展開だった。
ライアンさんは復帰してすぐだから未知数だし、ネイチャさんでは1着はさすがに難しそうだ。
そうするとテイオーかマックイーンさんか、といったところだろう。
誰かが大番狂わせをするかもしれないが……
そうなったらそれはそれで興味深い。
ボクたちはゴール前の一番良い場所を3人で陣取って、応援をするのだった。
結果だけ言えば、大番狂わせの1着ダイユウサクさんであった。
6回生、アルダンさんやオグリさんたちと同学年だが、正直聞いたことがなかった。
「ルドルフさん、知ってます?」
「顔と名前はね。でも、この前のマイルチャンピオンシップに出ていたぐらいしかわからないな」
やはりかなり無名なようだ。
ただ、その末脚はすさまじく、先頭で粘っていたマックさんやテイオー、追い上げてきたネイチャさんを全部まとめて差し切ったぐらいだから相当である。
こういう番狂わせというのが時々起きるからレースは面白く、下位の人気薄なウマ娘も参加しているのだ。
そのレースの怖さも今更ながらに感じた。
ひとまず香港土産のバタークッキーと烏龍茶の葉っぱをもって、知り合いの控室を回る。
順位順でいいかと思い、まずはマックイーンさんの控室に行った。
「引退ってどういうことですの!!」
「ちょっと待ってよマックちゃん!?」
控室に行ったら、まだ着替えていないマックちゃんに迫られ、床に正座させられた。
「聞いてませんわよ!」
「この前初めて公開したからね」
「勝ち逃げはずるいですわ! ずるいですわ!!!」
「いや、マックちゃんとは一勝一敗一分じゃない」
菊花賞はホワイトストーンさんが勝ったし、天皇賞春はマックちゃん、宝塚記念がボクだから、一勝一敗である。
「最後に負けてるからダメですわ! 次の天皇賞でコテンパンにしようと思ってたのに!!」
ボクのことをぺちぺちたたきながら、マックちゃんがバタークッキーをむさぼる。
そんな食べるとまたダイエットが大変になりそう……
奈瀬トレーナーがボクがもってきた烏龍茶を淹れてくれた。とてもおいしかった。
どうにか解放され、次はテイオーのところへ向かう。
同じようにテイオーにも正座させられる。
「ボクと一回もやらずに逃げるなんてずるい!!」
みしゃー! と猫のように怒るテイオーがかわいい。
かわいいがそろそろ脚の感覚がなくなってくる。
テイオーもバタークッキーをむさぼり始める。太目残りを気にしないのだろうか。
おハナさんはやれやれと肩をすくめるだけで助けてくれなかった。
「でも、引退したら、ヴィオラさんは何をするんですか?」
「何って、学生生活じゃないかな?」
スピカの控室にぼろぼろになって戻りつつ、皆でウーロン茶を飲みつつお土産のレンジでチンできる飲茶を食べる。
さすが本場のお土産、おいしい。
「普通の女の子に戻りますって言っちゃったしね!」
「普通の女の子…… 戻る…… マスター、システムエラーを起こしました」
「なんでさ!?」
ブルボンちゃんのサイボークジョークが相変わらずきつい。
「マスターが普通の女の子だった時期が想像できないからです。システムエラー。普通とは、イデとは…… うごごごご」
「そこまで!?」
「私が入ったときにはすでに変でしたねぇ」
「プレさん!?」
「まあそうだねぇ。会ったときから下着で走ってたくらいだし」
「トレーナーさん!?」
「トレセン学園入学前も大抵浮いてたねぇ。そこが可愛いんだけど」
「ルーブル姉さん!?」
「結論、ヴィオラちゃんに普通の女の子の時期なんてなかったということでいいかな?」
「ネイチャさん!?」
「ですね」
「そうですね」
「だね」
「異議なし」
「異議あるよ!!!」
ボクはびったんびったんと尻尾を振って抗議したのだが、残念ながら異議は却下された。
解せぬ。
何にしろ、ボクのトゥインクルシリーズ三年間が終わった。
のんびりとチームルームで荷物整理をしていると白井トレーナーがやってくる。
「ヴィオラちゃん、お疲れ様」
「トレーナーさんもお疲れ様」
「本当に引退しちゃうの?」
「まだわからないですねー、また走りたくなるかもしれないですし、ほかに面白いこと見つかるかもしれないですし」
引退といってもみな引退届までは卒業ぎりぎりまでは出さないものだ。
出してしまうと不可逆であり、出走権がなくなるが、出さなくても特にペナルティはないので、大体そんな運用をみなしていた。
とはいえ、普通、引退すると言ったら再度走らないものである。
今回の天皇賞秋で大騒ぎになったのもあるし、一度休みたかった。
「トレーナーさんは、ボクが引退したら寂しいですか?」
「んー、正直助かったって感じかな。楽しかったのは確かだけどね」
「ですよね」
ボクの走りはトレーナーさんの分析と、ボクの臨機応変で成り立っている。
当然トレーナーさんの負担も半端ない。
今は見る子も多いのだし、そろそろ学年が上のボクは退場してもいいだろう。
「でもさ」
「なんです?」
「引退して、本当に何するつもり?」
「何もしなくてもよくないです?」
「そうだけど、何もしないでいるヴィオラちゃんが思いつかない」
「ひどいなぁ、ボクは平和主義者ですよ」
ボクは笑う。
トレーナーさんも笑った。
「ひとまず、朝練の子何人か集めて、チームでも作っても面白いかなと。走る以外でも何かできることはないかなと思っていたんですよ」
「へー」
予定は未定だ。
何をするかなんて全く考えていない。
毎日プリンちゃんをもちもちするのも捨てがたい。
ああ、でも……
「恋とかしてみたいかもしれないですね」
「……それ、あんまり言わないほうがイイかもよ」
「何でですか?」
首をかしげると、トレーナーさんはため息をついた。
「何人かに求婚されたの忘れたの? 告白合戦が始まるよ?」
「わーい、ボクモテモテだー」
「……まあ本人がイイならいいけど」
「でも、誰かとお付き合いとかかしてみたいじゃないですか」
「まあ、今のうちに付き合ってみてもいいかもね」
トレーナーさんは呆れたようにそう言った。
レースから引退したとしても、人生が終わるわけではない。
むしろ、これからがスタートである。
次は何をしようかな。
そんなことに胸を膨らませながら、ボクの物語は続いていく。
今後の予定
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