妄想玩具箱   作:tomoko86355

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ジョーカーメモリ・・・・使用者の潜在能力や身体能力を極限まで高める作用がある。
エジプトの遺跡で発見された『地球の意志』が一番最初に生み出したメモリ。
上記の能力の他に、使用者の肉体を造り変えてしまう作用もある。


第7話 『 私の大事な宝物』

エジプト、ルクソール近郊。

そこには、『失われた黄金都市』を求めて、多くの発掘隊が昼夜問わず、まるで熱病にでも取り付かれたが如く作業を行っていた。

その中に、一目でアジア人と分かる一団が、混じっている。

彼等は、風都大学から『古代都市』を調査する為に派遣された考古学者達であった。

 

「素晴らしいね、これが紀元前に造り出された都市とは思えないよ。」

 

友人である園咲琉兵衛に招かれた「飛電製作所」の社長、飛電是之助は、広大な大都市跡を見渡す。

そこには、市場や大衆向けの風呂やトイレ、果ては、遊技場まであった。

 

「ハハッ、まだ驚くのは早いぞ? 是ちゃん。」

 

古代都市の街並みを、子供の如くキラキラとした瞳で見回す友人の背後から、濃いサングラスを掛けた人物が現れた。

風都大学から派遣された調査隊のリーダーであり、スポンサーの園咲琉兵衛その人であった。

 

彼等は現在、大学の発掘調査の視察をする為に、此処、ルクソールを訪れていた。

高校時代から親交があった是之助は、琉兵衛の善意で視察隊の一員として招かれたのである。

 

「我々は、この大都市の地下で、未知のエネルギーを発見したんだ。」

「未知のエネルギー? 」

 

地球のエネルギーとして最も知られているのが、石油である。

他にも天然ガスや石炭等が挙げられた。

 

「コッチだ、君に”彼”を紹介してあげよう。」

 

友人を手招きして、琉兵衛は「彼」が置かれている簡易テントへと案内する。

テントの中には、最新の機材が所狭しと設置されており、その中央にある作業台には特殊な正方形のガラスケースが置かれていた。

 

「りゅ、琉ちゃん、こりゃ一体何だい? 」

「”地球の意志”だよ。」

 

ガラスケースに鎮座した指先程の小さな鉱石。

薄紫色の光を放つその鉱石を、魅入られたが如く眺める友人を琉兵衛は面白そうに眺めていた。

 

 

 

20数年後、日本海近郊にある孤島‐ 蒼樹ヶ島『セクターシティ』

 

砂漠エリアにある旧研究棟地下では、壮絶な死闘が繰り広げられていた。

 

「あれ? 何なのコイツ等。」

 

アタッシュカリバーを巧みに操っていた迅が、突如液状化し、逃げていくギフジュニアの群れを驚いた様子で眺めていた。

意志を持たぬ死骸の群れが、自分達に恐れを抱いたとでもいうのであろうか?

 

「彼が呼んでいるのよ・・・・恐らく、自分が持っているコアエナジーだけじゃ足りなくなったのね。」

 

娘であるメズールの肩を借り、アイダ博士が何とか立ち上がる。

 

「博士、 奴は・・・・エノシガイオスは一体何をするつもりなんですか? 」

 

黄色を基調としたライダー、ゼロワンこと滅が、未だに疲労困憊な様子のアイダ博士へと振り返る。

 

「ガイアインパクト・・・・彼は、ミハルを生贄にあの子を地球と一体化させて、本土にいる日本人全てを抹殺するつもりよ・・・。」

「なっ・・・・何だとぉ? 」

 

母の口から出た最悪なシナリオに、グリード態となったウヴァが目を剥く。

 

「御免なさい・・・・こうなってしまったのは、全て私のせいね・・・。」

 

アイダ博士は、全てを諦めたのか、ポツリポツリと事の真相を語り出した。

 

曰く、エノシガイオスは正確には自分が生み出したグリードではなく、元々、蒼樹ヶ島の遺跡に眠っていた古代人の生き残りであった。

此処、砂漠エリアにある地下の霊廟で、長い眠りについており、調査隊の一員であった前セクターシティの責任者、ゼウス博士が発見したのだという。

 

「彼の意志は、恐竜メダルの一枚に宿っていた。 」

 

ゼウス博士達が発見した紫メダルには、人間と思われる意識体が宿っていた。

”彼”はまず、ゼウス博士と対話し、かつて自分が日本の本土を統べていた人間種(リント)の長である事を明かした。

 

元々、この地上は七つの種族からなる異能の力を持ったグロンギと呼ばれる怪物達が支配していた。

その中でも、リントと呼ばれる種族は力が弱く、他部族からは虐げられる存在でしかなかった。

エノシガイオスは、そのリント族の長であり、優れた錬金術を使用して『クウガ』と呼ばれる人造の兵器を造り出した。

絶大なる戦闘能力を持つ『クウガ』は、グロンギ族の長、ン・ダグバ・ゼバを撃破。

それに従う7部族のグロンギ達も封印した。

力を使い果たした『クウガ』は、長い休眠期へと入り、エノシガイオス達‐リント族は、漸く長い悠久の平和を手に入れたかに見えた。

 

「でも、彼の”欲望”は、それで収まらなかった・・・自分の配下である錬金術師達に命じて”オーメダル”を造り出したのよ。」

 

エノシガイオスは、そこで自分達が如何に優れた種族であるかを知った。

あれ程、恐ろしかったグロンギ族に勝ってしまったが為に、それまで彼等、リントが持つ事が無かった『欲望』という快楽を知ってしまったのである。

クウガの力の源である『霊石・アマダム』は、装着者に人知を超えた身体能力と膂力、そして回復力を与えるが、同じく相当な負荷も負わされる。

現に、グロンギ族の長、ン・ダグバ・ゼバを倒した際には、使用者である”戦士”が命の灯を消されてしまった。

その失敗を踏まえ、リントの長・エノシガイオスは別のエネルギーに目を付ける事となる。

 

「人間が本来持つ感情をエネルギーへと変換する術を手に入れた彼は、錬金術師達に”オーメダル”と”オーズドライバー”を生み出させ、ソレを使って大陸を支配する様になったのよ。」

「良くある話だ。」

 

アイダの告白に、滅は仮面の下で吐き捨てる。

 

人間という生き物は、業が深く愚かだ。

それは、リントという種族も同じだったのである。

 

「でも、何で日本人を抹殺するんだよ? その話が事実なら、日本人はリントの末裔でしょ? 」

 

アイダ博士の独白に、迅が意味が分からないと首を傾げる。

 

確かに迅の言う通りで、本土にいる日本人達は、エノシガイオスにとっては大事な同胞達だ。

何故、そんなリントの末裔達を抹殺する必要があるのか。

 

「純潔なリントの血筋は、日本本土にはいないからよ。 彼が眠りについてから、多くの渡来人が、日本列島に渡って来た・・・彼等は日本に移住し、その血を本土に定着させた・・・・。」

「馬鹿々々しい・・・何て愚かな。」

 

そう、怒りを露わにしたのは、意外にもグリードであるメズールだった。

彼等、グリードにとって人間達がこだわる宗教観や生活習慣等、大した問題ではなかった。

普通に生きて、仕事をし、時には些細な事で喧嘩をして、和解し、また朝を迎える。

そうした生活のサイクルが当たり前であり、宗教などの価値観で、戦争が起こる等、全く理解出来ないのだ。

 

「本当、馬鹿々々しい、そんな下らない理由で本土の人間達を皆殺しなんてありえないよ。」

「全くだな・・・・やっぱりあの糞野郎は頭の中身がイカレていやがる。」

 

メズールに続いてカザリとウヴァが、呆れた様子で肩を竦めた。

そんな彼等を尻目に、滅が迅を促して霊廟の奥へと向かおうとする。

その背をウヴァが慌てて止めた。

 

「おい、まさか二人だけで行くつもりじゃねぇよな? 」

「そのつもりだが? 」

「二人だけじゃ無理よ・・・・皆で協力して彼を止めないと・・・。」

 

いくら天才発明家である飛電或人が造り出した最新式のスーツとはいえ、相手は未知のオーパーツを持つ怪物だ。

幸い、此処にはライダーのアシストユニットとして開発されたグリードが揃っている。

彼等と協力すれば、十分勝機はある筈だ。

 

「否、俺と迅の二人だけで十分対処出来る・・・博士達は、万一を考えて、職員達と一緒に島から避難してくれ。」

 

滅はそれだけ告げると最下層へと続く通路へと向かう。

その後に続く迅。

 

『敵の戦闘能力は未知数です。 やはり、アイダ博士の言う通り、彼等の協力を仰ぐべきですよ。』

 

最下層にある王の間へと向かうべく、エレベーターに乗り込むと、開口一番、滅亡迅雷フォースライザーに内臓されている人工知能『アーク』が言った。

 

「・・・・・滅はさ、あの人達に死んで欲しく無いと思ったんでしょ? 」

『迅様・・・・。』

 

アークの問い掛けに応えぬ滅に代わり、仲間の迅が言った。

この世に生を受けて僅か5年しか経過していないが、迅は生みの親である或人から鋭い洞察力を受け継いでいる。

子供の様に純粋無垢であるが、仕事柄、人間の汚い部分は嫌という程見せられている。

それが、父親である或人の意図であり、迅が本来持つ『甘さ』を消させる為であった。

滅亡迅雷netという、信頼出来る大切な仲間達や偉大な父親がいるから、変な方向に曲がらず、真っ直ぐに己の信念に基づいて行動している。

だからこそ分かるのだ。

仲間の滅が、何故彼等の協力を拒否したその理由が。

 

「俺も滅と同じ気持ちだから・・・・あの人達は”悪い奴”じゃないもん。」

『そうですね・・・・彼等は、とても善人です。』

 

短い時間ではあるが、アークはウヴァ達が持つ『良心』を理解していた。

 

彼等、グリードはアイダ博士達、人間の手によって生み出された人造物。

しかし、その本質は『善良』で『家族愛』に満ち溢れている。

 

 

20数年前、

日本海に浮かぶ絶海の孤島、蒼樹ヶ島。

半径数千メートルに渡る建設中の建物の一区画に立つ、2階建てのプレハブ小屋。

時刻は、午前2時。

当然、人の気配は周辺に無い。

 

最新型のPCが置かれたワークデスク。

そこに黒い下着の上に白衣を羽織っただけという大胆な恰好をした女性が、優雅に脚を組んで液晶画面を眺めていた。

 

「なぁ・・・オリヴィア、仕事も結構だが私の相手もして欲しいなぁ。」

 

革張りのデスクチェアに座る女性の背を鴻上ファウンデーションの若き会長、鴻上光生が背後からしな垂れ掛かる。

 

「止めて、さっきしたばかりでしょ? 」

 

胸元にしのんだ不埒な手を、アイダ博士が煩そうに振り払った。

しかし、そんな連れない態度に臆する事無く、鴻上はブラジャー越しに、その豊満な乳房を揉んだ。

 

「一か月振りにやっと二人っきりになれたんだぞ? 一回ぐらいじゃ僕の情熱の火は消えないよ。」

「あら、そう・・・・。」

 

まるで幼子の様に甘えて来る鴻上に、アイダは呆れた様子で溜息を零すと、白衣のポケットから愛用のスマホを取り出し、慣れた手つきで画面を操作した。

美しい女性達の画像が、空中に展開される。

忽ち、鴻上の顔色が真っ青に変わった。

 

「一体、私は何人目になるのかしらね? 鴻上君。」

 

空中に映し出されている3D映像は、全て鴻上が今現在付き合っている女性達だ。

 

「か、彼女達とは既に切れてる・・・・い、今は君一人だけだよ。」

 

内心の焦りを女科学者に知られまいと、鴻上が精一杯の虚勢を張る。

勿論、口からの出まかせ。

今でも定期的に彼女達とは連絡を取り合っている。

 

「相変わらず嘘が下手糞ね・・・・そういう所は学生時代と全く変わって無いわ。」

 

経営者としては天才的とも言える手腕を発揮し、鴻上ファウンデーションを瞬く間に大きくした偉人。

しかし、その反面、異性関係にはだらしなく、又、無責任な所があり、自分の好奇心を探求する余り、周囲にとんでもない被害を出している。

アイダとゼウスとは、大学時代からの付き合いがあり、鴻上が何かやらかす度に、二人で尻拭いをやらされた。

 

「お・・・・怒っているのかい? オリヴィア。」

「別に・・・貴方のやる事に一々目くじらを立てていたら、コッチの身が持たないわよ。」

 

天才であるが故に、社会的常識に疎く、必ず何かしらの事件を起こす。

正直言えば、関わってはならない人間の部類に十分該当するが、ゼウスもアイダも彼を見放す真似だけは出来なかった。

それは一重に鴻上が持つ経営者としての才覚であり、彼の傍に居れば、それなりに恩恵を預かる事が出来る。

現に、蒼樹ヶ島で非人道的とも取れる研究を行っても、何の咎も受けないのがその証拠だ。

潤沢な資金を提供してくれる上に、最新設備の研究所まで与えてくれる。

 

「だから、今夜はこれでお終い。 明日は、早くから遺伝子研究所に行かないといけないの・・・・。」

「遺伝子研究所? 」

「そ、もうすぐ私の可愛い子供達が生まれるのよ。」

 

液晶画面に映る各種類のコアメダルを愛おし気に撫でる。

クワガタメダル、シャチメダル、ライオンメダル、サイメダル。

これらは、『オリジナル』の解析データから抽出した事で生み出した複製体だ。

古代の錬金術師達が生み出した人造生命体を、現代の科学力で復元したのである。

 

「タカメダルのデータが手に入らなかったのが、非常に残念だけど。」

 

そう言って、アイダが未だに未練たらしく自分に抱き着いている大柄な男を軽く睨む。

 

「うっ・・・・悪かったよ。 タカメダルの行方は、ライドベンダー隊に命じて早急に調べている最中だ。」

 

妖艶な美女に睨まれ、鴻上がバツの悪そうな表情になる。

 

現在、グリードと呼ばれる怪物の意志が宿ったコアメダルで、タカメダルのみが行方不明だ。

蒼樹ヶ島の遺跡で発見された当初は、確実にあった筈が、本土にある鴻上生体研究所に移送される過程で、失ってしまったのだ。

 

「別に無くても、此方には大した支障は無いんだけどね・・・・。」

 

相手は、グリードと呼ばれる怪物の意志が宿ったメダル。

万一覚醒し、人間に危害を加える事になれば、鴻上ファウンデーションの死活問題にすら関わる。

鴻上の失態をまた拭う羽目になれば、自分は兎も角、ゼウスは黙っていないだろう。

 

 

翌朝、鴻上光生と教え子である真木清人は、本土へ還った。

アイダは、仕事を理由に見送りを部下の研究員達に任せ、一人、遺伝子研究所のVIPルームに篭(こも)る。

 

『見送りに行かなくて良かったのか? 』

 

四つ置かれた培養槽の前に立ち、アイパッドを操作してバイタルチェックを行っている美貌の女性科学者の背に、何者かの声が掛けられた。

 

「鴻上君達の見送りは、ゼウスに任せているわ。」

 

アイダは、振り返らずに素っ気なく声の主へと返す。

彼女の背後には、最新型のPCが置かれたデスクがあり、数枚の書類と特殊素材で造られた透明の容器があった。

その中に、球体状の黒い物体が蠢(うごめ)いている。

 

『・・・・・腹の中に子がいるな・・・・。』

「え・・・・? 」

 

それ自体に何らかの意思があるのか、黒い球体は不気味に脈動を繰り返していた。

 

『何だ、気づいてないのか? お前の腹の中に子供が宿ってる。』

 

訝し気に此方へと振り返る女科学者を、球体は面白そうにからかった。

 

「嘘でしょ? 」

『嘘なものか・・・・・あっ、知らなかったのか?そりゃ申し訳無かったな。』

 

一丁前に一般的常識は持ち合わせているらしい。

己のデリカシーに欠けた発言に、球体は形だけの謝罪の言葉を述べる。

流暢な日本語を巧みに喋り、紳士然としたその態度は、何処か鴻上と似たところがあった。

 

『こういう場合、”おめでとう”と言った方が良いのかな? 生憎、この身体じゃ君に祝いの品を送れないのが残念だが。 』

「・・・・・。」

 

球体の軽口を黙殺し、アイダは手に持っていたA4サイズのアイパッドをデスクに置くと、慌てた様子でVIPルームから出て行く。

顔面は、紙の如く蒼白になっていた。

 

 

数時間後、女子トイレの個室。

アイダは、蓋の閉じた様式便器の上に座り、妊娠検査薬を片手に途方に暮れていた。

 

念の為にと、お守り代わりに携帯していた検査薬には、しっかりと妊娠反応が出ている。

 

失態だった。

避妊は確実にしていたつもりだった。

生理の周期を毎月欠かさず付けており、ゴムやピルの服用もしていた。

 

「はぁ・・・・・泣けるわね、全く。」

 

お腹の中の子供は、間違いなく鴻上の子だ。

30代後半、自分が生んだ子供が欲しいと思わなかったと言えば噓になる。

鴻上に事実を打ち明ければ、彼は手放しに喜んで、引き取ってくれるだろう。

しかし、それだけは駄目だと、彼女の中にあるほんの一握りの理性が訴える。

あの非常識の塊である男が、子供を育てられる筈が無い。

彼には告げず、堕胎するか自分で育てるしか選択肢が無い。

仕事は、まだまだ山ほど残っている。

乳飲み子を抱えながら、果たして研究を続けられるだろうか?

 

『なーんだ、そんな下らない理由で悩んでいるのか? 』

「・・・・・っ! エノシガイオス! 」

 

何時の間にそこにいたのか。

個室のドアの隙間から、黒い粘液が忍び込んでいた。

ドアの内側に張り付いた粘液‐ エノシガイオスは、二本の角と鋭い牙が生え揃った中世に登場する悪魔の様な顔を浮き出させる。

 

『折角、宿った命を殺してしまうつもりか? 』

「・・・・・っ! 」

 

エノシガイオスに、内心の葛藤を見透かされ、美貌の科学者の頬が僅かに赤くなる。

 

『我々の国では、子は宝だ。 彼等はいずれ国を大きく繁栄させる礎となってくれる。』

「っ、だから何? 私が命を軽視しているとでも言いたいの? 」

 

こんな化け物に、人の真理を説かれるとは思わなかった。

元々、エノシガイオスはグリードとなる前は、アイダと同じ人間であった。

此処、蒼樹ヶ島を拠点に豪奢な城を造り、強大な力で、本土にある国々を支配していた。

 

『落ち着けオリヴィア、私は君の力になりたいんだ。』

「力? 」

『そう・・・・私は、鴻上の様な軽薄な男とは違う。』

 

エノシガイオスは、己の手を実体化させると、女科学者の華奢な手を優しく握ってやる。

 

『腹の中の子は、私が育てる・・・・安心しろ、こう見えても、子育てには自信があるんだぞ? 』

「冗談でしょ? 」

『冗談なものか、10人子を設け、10人とも私の手で成人させた。』

 

女科学者の手の甲に、愛おし気に頬を寄せる。

茫然とした様子で、アイダ博士は目の前の怪物を眺めていた。

 

 

今から思うとアレが全ての過ちの始まりだった。

エノシガイオスの意図も知らず、アイダは奴の傀儡に成り果ててしまった。

 

 

「ちっ、アイツ等ばかり良い恰好させるかよ。」

 

愛息子の声に、アイダは現実へと引き戻される。

見ると緑を基調としたタクティカルスーツを着るウヴァが、セーフガードライフルを手に霊廟へと向かおうとしていた。

 

「お、俺も行く! 」

 

グリード態へと変身したガメルがその後へと続く。

 

「なら、僕は環境システムに行くよ、核融合炉を強制停止させないと。」

 

人間へと擬態したカザリが、これ以上のコアエナジーの流出を止めるべく、環境エリアへと向かう。

 

「待って、私も手伝うわ。」

 

同じく人間体へと擬態したメズールが、カザリの後を追おうとした。

 

「待ちなさい! そんな事をしたら貴方達は死んでしまうのよ! 」

 

必死の形相で、アイダが愛娘のメズールへと縋りつく。

 

核融合炉から発する電力は、メズール達、グリードの核であるコアメダルに力を与えていた。

オリジナルと複製体である彼等の違いはまさにソレで、核融合炉を強制停止させると勿論、ソレを糧に生きている彼等も死亡してしまう。

 

「お願い、私を一人にしないで・・・・。」

「母さん。」

 

彼女にとって、グリードは単なる実験体ではなかった。

我が子としての情が芽生えたアイダは、人間の子供と同じ愛情を彼等に注いだ。

自分の持てる知識と技術を教えた。

それぞれの個性を活かす教育を施した。

成人すると仕事を与え、普通の人間と同じ生活を送らせた。

 

「なーるほど、それが核融合炉を停止出来ない理由ですか。」

 

今、一番聞きたくも無い男の声。

見た事も無い20代前半辺りの二人の男を従え、飛電エントリジェンスの若き総帥が、アイダ博士達の所へと近づいて来る。

途端、警戒態勢に入るカザリとメズール。

ウヴァとガメルは、滅亡迅雷netのアーマードライダー達の所へ向かってしまった。

今は、二人で愛する母を護らねばならない。

 

「良く出来ていますなぁ? ”オリジナル”と全く遜色が無い。」

 

或人の視線が、愛娘のメズールで止まる。

嫌らしい視線で自分の太腿を眺める若社長に、メズールは嫌悪感を露わにしていた。

 

「今更、何しに来たの?」

 

子供達を脇に下がらせ、美貌の女科学者が、或人を睨み付ける。

予想外の闖入者達を眺めるアイダの視線が、翔太郎の傍らに立つフィリップで止まった。

 

「来人君? 」

「オリヴィア先生。 」

 

どうやら、二人は知り合いらしい。

驚愕に双眸を見開くアイダ女史と対照的に、フィリップは何処か哀しい表情をしていた。

 

「知り合いか? 」

「うん・・・・ちょっとね。」

 

アイダ博士が、実父・園咲・琉兵衛の愛人だった・・・とは、幾ら相棒の翔太郎であろうと簡単に話すのは憚(はばか)られる。

アイダ自身は、ガイアメモリの機密&琉兵衛の監視を目的に、近づいたのだが、勿論そんな意図などフィリップが知る筈も無い。

 

「オリヴィア先生、僕達は、エノシガイオスの暴走を止める為に此処に来ました。彼がコア・エナジーを過剰に摂取すれば、この島どころか本土にも悪影響を及ぼし兼ねない。」

 

意を決し、フィリップが美貌の科学者の説得を買って出る。

 

或人では、余計に彼等の神経を逆撫でするだけだ。

 

「一体どうやって? いくら文音ご自慢のアーマードライダーでも、奴を止める事は不可能よ。」

 

Wの実力は、良く理解している。

学生時代から、好敵手(ライバル)であり、良き親友であった園咲・文音が創り出した最強のライダーなのだ。

彼女が持つ、νロストドライバーも、元々は文音が設計したWドライバーを参考にしている。

 

「僕達を信じて下さい・・・・悪い様には絶対に・・・。」

「悪い様になるに決まってんだろ? まぁ、核融合炉を強制停止させれば話は違うけど? 」

「てめぇっ、余計な事を喋るな! 」

 

必死の説得の傍らで、悪質極まりない茶々を入れる或人の胸倉を、翔太郎が掴んでいた。

 

そんな二人のやり取りを、母親の傍らで眺めるメズールとカザリ。

二人は何かを決意すると、お互い視線を合わせ頷き合う。

 

「母さん、御免。」

 

短く、母への謝罪を言葉にしたカザリが環境エリアへと向かうべく、脇をすり抜ける。

その後へと続くメズール。

 

「待ちなさい! 核融合炉を止めたら貴方達は・・・・っ! 」

「知ってる・・・・でも、お母さんや島の人達を死なせる訳にはいかないから。」

 

研究員の中には、意地悪で嫌な奴も沢山いるが、中には優しくて親切な人達もいる。

それに、この島は彼女達にとって、大事な生まれ故郷だ。

エノシガイオスに滅茶苦茶にされる訳にはいかなかった。

 

去っていく、子供達を茫然と見送るアイダ博士。

己の無力さに打ちひしがれ、力無く崩れ落ちる女科学者の痛ましい姿に、翔太郎は舌打ちすると、或人の胸倉を掴んでいた手を離す。

 

「親父さんが言ってた・・・・街の涙を止めてやれるのが、本当の漢だってな・・・俺が、この街の・・・アンタ等親子の涙を止めてやる。」

 

泣き濡れた女の双眸が、自分の傍らへと立つ一人の探偵へと向けられる。

暫しの沈黙。

そんな二人の空間を、若社長の無粋な咳払いがご破算にした。

 

「おーっとぉ、申し訳無い。ちょっとアイダ博士が腰に巻いてるベルトが気になっちゃってさぁ。」

 

訝し気な視線を向ける二人の間を無遠慮に割って入り、或人がアイダの腰に巻かれたままの状態のνロストドライバーを指差す。

 

「どうするつもりなの? 」

 

ユートピアメモリの毒素を中和する目的で造り出したドライバー。

真木・清人が、試作品であるボルゲーノバイスタンプを使い、仲間の一人から生み出した悪魔を撃退する事は出来たが、長時間使用するには、何の訓練も受けていない自分では無理だった。

 

「見たところ、T2メモリにも適応しているみたいですねぇ・・・もしよろしかったら、そこにいるカリメロ君に貸して頂けないかなぁっと。」

「飛電教授! 」

 

或人の兇悪極まりない意図を察したフィリップが、怒りの形相で若社長へと詰め寄る。

 

「貴方は、まさか最初から翔太郎に・・・・。」

「だから? Wドライバーはエノシガイオスに破壊された・・・唯一の希望は、カリメロ君がエターナルメモリを使用してドーパント体になる事だけだ。」

 

だが、例えドーパント体になれたとしても、それでコアエナジーを吸収し、進化したエノシガイオスに勝てる保証はまるで無い。

ドーパント体よりも、更に強化されたアーマードライダーの方が、勝機があるのではなかろうか。

 

「エターナルメモリ・・・・・そう、貴方も克己君と同じなのね。」

 

何かを悟ったのか、アイダは腰に巻いているドライバーを外し、傍らに立つ翔太郎へと差し出す。

 

「このドライバーは、貴方のお母さん、園咲・文音教授が造ったロストドライバーを元に、私が開発したものよ。」

 

園咲・文音がガイアメモリを使用する為に、ドライバーを開発していた事は知っている。

アイダは一時、財団Xの研究員として働いていた。

その時に、ロストドライバー及びWドライバーの研究データを手に入れたのである。

鴻上ファウンデーションに移籍後は、文音が創り出したドライバーを超えるベルトを生み出すのに執心した。

そのかいあり、νロストドライバーを生み出す事に成功。

後にこの技術は、ポセイドンドライバーへと引き継がれる事になる。

 

「T1、T2メモリに対応出来る機能を持ってるわ・・・貴方が風都のライダーなら十分使いこなせる筈。」

 

差し出されたドライバーを無言で受け取る翔太郎。

そんな二人の間を、今度はフィリップが割って入る。

 

「駄目だ翔太郎! 飛電教授は、君に若菜姉さんと同じ事をさせるつもりなんだ!」

 

かつて風都で人気があったアイドル、園咲・若菜。

フィリップの実姉であり、ガイアメモリという呪われたアイテムに人生全てを狂わされた女性であった。

ミュージアム壊滅後、唯一生き残った彼女は、愛する弟の為に、自らの肉体と命を犠牲にガイアインパクトを発動。

一時、消滅の憂き目に合っていたフィリップを再構成させ、現実世界へと受肉させた。

 

この狂気の科学者は、エターナルメモリを翔太郎に使用させ、蒼樹ヶ島限定でガイアインパクトを起こさせようとしている。

エノシガイオスによって破壊された自然大系を強引に、元へと戻そうと画策しているのだ。

 

「そう、此処からが君のターニングポイント。 頭に卵の殻を被ったまま、コスプレ探偵で終わるか、それとも英雄になって死ぬか・・・・。」

「・・・・・。」

「どちらか好きな方を選びたまえ、君の人生だ、誰も文句は言えない。」

 

悪魔の囁き。

翔太郎の視線が、右手に持つνロストドライバーへと落ちる。

風都のライダーとして戦い、生きて来た今の自分に選択肢は一つしかなかった。

今迄だってそう、そしてこれからも馬鹿な信念を貫き通す。

 

翔太郎は、一同から少し離れると、何の躊躇いすら見せず、ドライバーを腰に装着する。

 

「翔太郎・・・・。」

「悪いな? 相棒、 俺はやっぱり仮面ライダーなんだ。」

 

背後にいるフィリップに謝罪すると、ポケットからエターナルメモリを取り出し、スイッチを押す。

「エターナル」という承認音声が鳴り、翔太郎は、ドライバーに装填した。

 

『エターナルメモリ認証、 エターナルジョーカー。』

 

ベルトから音声認証が響くと同時に、黒い粒子と白い粒子が翔太郎の身体を包む。

現れたその姿は、真紅の複眼をV型のバイザーで覆った右が白、左が黒を基調としたアーマードライダーであった。

 




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