オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第2話 獣と王子様

 

「Hey!元気がないようだが大丈夫かい。クキキキキ」

 

 修練を始めてどれほどたったのか。突然耳元で囁かれる声にビックリする。

 

 この声は―――

 

 見ると私の顔の横でふよふよとした青白い人魂が浮かんでいた。

 

「はあ・・・幽霊ちゃん急に声を掛けないでよ」

 

「クキキキキそりゃ無理ってもんさ、なんせ幽霊だもーん」

 

 ボクが子供の頃の話。ひょっこりと現れた自分のことを幽霊と名乗るおかしな存在。普通ならば警戒しているであろうがその頃のボクはパパと会う事が出来ず不貞腐れ非常に寂しい思いをしながら灰色の日々を淡々と過ごしていた。他者との繋がりのない狭い世界で独りだけの状況が恐ろしくて堪らない。

 

 そんな時に現れたこのおかしな存在に当時のボクは恐れず話しかけることにした。

 

『こんにちは!!』

 

 この奇妙な付き合いが始まったのはそれからだった。

 

 彼もしくは彼女に名前はない。暫定的に見たままの姿から幽霊ちゃんと呼んでいたのだがすっかりとその呼び名が定着してしまった。それほど長い付き合いともいえる。

 

「今日も今日とて酷い面をしてらっしゃる、すごい笑えるねーカワイソ」

 

「はあ、そう思うなら少しは優しい言葉をかけるぐらいの気遣いぐらいしてくれたっていいじゃない。・・・それはともかく今回はえらく来るのが遅かったね」

 

「外でいろいろあったと言ったら気になる?気にしちゃう?」

 

「―――外!」

 

「落ち着けよーちゃんとお話ししてあげますからねークキキキキ。なんと今回は新しく発見されたダンジョンのお話。まずわわわぁ――」

 

 幽霊ちゃんが言うには偶然この場所に迷い込んでしまったらしい。普段は外の世界でいろいろな場所を気ままに巡っているらしく、たまにふらりと現れてはボクの知らない外の知識を教えてくれるのだ。本では得られない生の見識は知識だけでは辿り着けない想像の限界をたやすく超えてくる。まるで子供の様に話をせっつくボクを邪険に扱うでもなく詳しく丁寧に教えてくれる。地獄の様な真っ赤なマグマ地帯、凍らない幽玄たる大滝、奇怪な建築物群、天を貫く大木。もたらされる情報はどれも心躍るものであるが、なによりも楽しみなのはダンジョンの話。たくさんの夢と希望の集積である冒険譚は興奮して眠れないほどに好きだ。

 

 故にさらなる夢想をする。

 

「おいおいもうおねむの時間かー?」

 

「・・・・うん・・・眠、い」

 

 夢の件もあって日に日に外への思いは募りゆく。幽霊の語る外界の話に耳を傾けながら瞼が落ちていく。そういえばもう夜だっけ。最近一日が過ぎるのを早く感じる。朝の挨拶が終わってから寝るまでずっとずっと魔術の修練。雑念を振り払うかのように深淵の奥底へと潜ることだけが外への執着から目を逸らす唯一の方法だった。

 

 今はただこの楽しい気分のまま夢の世界に旅立つのだった。

 

「クキキキキ、おやすみおやすみ子兎ちゃん」

 

 

 

 

 また、夢を見ている。見慣れたどことも知れない闇の世界でボクはまた目玉の化け物に殺されていた。

 何度も何度も親の顔よりも見た光景。この痛みもこの絶望もずっと前から知っている。

 

 そして、この先もだ。

 

 王子様の到来。切り伏せられる化け物。王子様の温かな腕に包まれ、そして、そして・・・・・唸り声。

 

 ・・・・???

 

 見るとボクを抱きかかえる王子様の背後に知らない女が立っていた。

 

 まただ、また夢に変化が現れた。

 

 二日連続だなんて何が・・起こっているんだ?

 

 獣の死体の上で踊るボロボロのエプロンドレスを身に着けた乱れた金髪の女性。顔はうつむき両腕を広げクルクルと踊っている。ぐちゃぐちゃと足踏みするたびに化け物の内臓が零れ落ち血が跳ねる。それなのに死んでいるはずの化け物から唸り声が聞こえる。

 

『起きて。彼が、来るよ』

 

 唸り声はどんどん大きくなっていく。いつのまにか王子様は消えており辺り一面に肉片と臓物の海が広がり、ボクの体がゆっくりと沈んでいく。

 

 その姿がおかしいのか女は指を差しケタケタと女は笑う。化け物も笑う。

 

 不思議な事にボクは恐怖を感じていなかった。

 

 寧ろ・・・・・・どこか懐かしい―――?

 

『『アハハハハハハハハハハハhaha』』

 

 沈み切る寸前に見えたその女の顔は黒く塗りつぶされていた。

 

 暗い血の滲む水の中でもがくことも出来ず、ただただ不愉快な笑い声だけが頭の奥底で木霊する。いつまでも続く笑い声に混じり風が鳴る。

 

 真っ赤な水中で風の流れ・・・?

 

―――この異音・・・夢じゃない・・ッ!?

 

 

 

 

 イグナイツはベットから転がり落ち跳ね起きる。

 

「――――――ッ!!」

 

 最初に感じ取った異常は風だ。生ぬるい風が部屋の中を渦巻いておりボクの髪を掻き乱す。

 

 ボクはおもむろに発生源であろう部屋の中心で風を吐き出す黒い球体から距離を取る。見方によっては穴にも見えるそれは時折、黒い稲妻が走り明かりの落ちた部屋を鈍く照らす。

 

 なんだこれッ!?こんな異常事態が起きているのになぜ警報が鳴らない?

 

 そもそもなぜ明かりが落ちたままなんだ。電気系統に何か問題が発生したか?いやそれよりもこの現象は何者かによる空間干渉。籠れ出る魔力の残滓からそう判断する。いったい誰が・・・

 

 ふと王子様のことが思い浮かぶがその考えを振り払う。あまりに都合が良すぎる願望が混じった希望的観測。

 

 ――――――だが、夢の中でエプロンドレスの女が放ったあの言葉。

 

 都合のいい話だと分かってはいてもどうしてか期待してしまう。ドキドキと心臓がかつてないほどに脈打ち鼓動する。停滞した運命の歯車が今動き出そうとしている。

 

 気のせいか穴が前よりも大きくなったように見えるが・・いや、間違いない。今なお膨張し続けている。

 じわじわと確実に穴は広がりを見せ、遂には床や天井を飲み込み始めた。

 

 まるで卵にも見えるが高圧の暗黒空間。床や天井は触れた部分からは亀裂が走る。床に散らばった本やぬいぐるみ、服までも浮いては吸い込まれていく。

 

 この勢いでは光すらも吸い込む大穴にこの場の全てを呑み込まれてしまうかもしれない。そんな考えが頭をよぎるが恐怖は一切無い。退屈な日常に終わりが来ることを夢見たボクにとってこの大穴は希望となりえるかもしれないから。

 

 この穴はどこにつながっているんだ?外に繋がっているんじゃないか?

 

 あるかどうかもわからぬ外の景色を夢想しながらふらふらと大穴に歩み寄る。息が荒い。頬が熱で高揚している。胸の高まりが留まることをしらない。

 

 だが、そんなボクの期待を裏切るかのように急激に穴のサイズが縮まっていく。

 

「――――――あッ!?」

 

 おいおい待て待てまだ早い!

 

 焦りから踏み出したはずの第一歩。

 

 ―――――だが止まる。

 

 なぜ、足が動かない。あのサイズであればまだ間に合う。それがわかっていながら一向に足は動こうとしない。ブワリと嫌な汗が全身をひたす。未だ決意も定まらぬままその様子を眺めるだけで留まっている。

 

 結局のところだ。ボクは本当の所、何も期待などしていなかったのかもしれない。もしあの穴の先になにも無かったらボクは正気を保てないかもしれない。それにこの穴は一度入れば二度と戻っては来れないだろう。

 

 期待せずにいれば失望もしない。何もしないことで自分の心を守ろうとしている。ここまで来てひどく臆病だった。今まで外への夢を見るだけで満足していたが、つまるところボクは完全にここで飼いならされていた。最初から外に出る気なんて一切なかったのだ。

 

 その場でへたり込む。

 

 そもそもの話、ボクは外なんかに出てどうするんだ。外はおそらく広大。あてもなくいるかもわからない夢の中の彼を探しに行くつもりか?確信もないのに後先考えない非常に愚かで感傷的な行為だ。

 

 それに・・パパはどうするんだ。ボクがいなくなったらきっと悲しむ。今日まで不自由なく生きてこれたのも大好きなパパのお陰なのに。

 

 裏切る訳にはいかない。これでいいんだ、これで。

 

 思いつく限りの言い訳で心を装甲のように包んでいく。情けなくて涙が溢れてくる。

 

 涙で歪む視界に映る黒い穴が大きな目に見えてきた。チャンスを前に何もしないことを選んだボクを恨めしそうに見つめているように錯覚する。

 

 早く閉じてしまえ。

 

 そうすればボクは日常に帰ることができる。複雑な思いが混じりながらも穴を強く睨みつける。

 

 煮え切らない思いが通じたのか運命は賽を投じたのであった。

 

 ―――なんとその時、ボクの目にありえない物が映る。

 

 穴はすでに頭のサイズにまで縮まっており、そこから何者かの手が垂れさがる形で現れたのだ。

 

「―――――――――」

 

 気がつくとボクは穴に両手を突っ込んでいた。

 

 なんとも現金な話だがボクが動くに足りる王子様の存在がこうやって示されてしまったのだ。この手の主をこちら側に引きずり込めばパパへの裏切りにもならない。ボクが行くのでなく相手をこちらに引き込む。偶然にも条件が満たされてしまったボクの行動はとても速かった。

 

 穴の中は非常に強い力場になっているのか、すでにボクの指が何本かへし折れているが構わず穴の縁を掴み力を籠め無理やりこじ開けようとする。

 

「ぎぎギ・・・・カハァッ!ガァッッ」

 

 この突き出た手の持ち主の面を拝まなければ気が済まない。先ほどまでの弱気な自分はどこに行ったのか・・ただただ必死に縋っていた。それでも穴が狭まる力が抑えきれない。

 

 思い出せ!夢の中でのあの温もりを!確かな熱量をッ!!

 

 あれを現実にしたければなんとしてでもこの状況を打破しなければならない。せめて頭3つ分の大きさまで広げないと手の主をこちらに引きずり込むことはできない。

 

 この時気がついてはいなかったが、これまで何かに全力で挑む機会のなかったボクが初めて本気を出す瞬間でもあった。

 

 その結果生まれて初めてその身に眠りし恐るべき膂力が解放されつつあった。

 

 穴が少しづつだが広がっていく。

 

 ―――――重い.

 

 

 穴の中はまるでドロドロの沼のような抵抗感が常に纏わりつく。

 

 空間内で渦巻く力の流れに腕が持っていかれそうになるもギリギリのところで推し留まる。少しでも気を抜けば腕だけじゃなく全身ごと穴に吸い込まれてしまいそうだ。

 

 失敗すれば死ぬ。

 

 ギチギチと穴がこじ開けられる。それと同時に穴の縁から部屋内に空間の裂け目が網目のように広がりゆく。まるで悲鳴を上げているようだった。

 

「あと、少し―――ッ」

 

 こんなにも疲れたのは生まれて初めてだった。

 

 開け開け開けェェェ――――――ッッ!!!

 

 全身汗だくのボクの中で祈りが満ちる。穴が広がるごとに亀裂も走る。力ずくでは強引過ぎたか。このままでは部屋ごと崩壊する可能性もある・・・時間の問題、限界が近い。

 

 焦る気持ちが思考を鈍らせ全身が強張る。皮膚が裂け血生臭い稲妻を描く。血塗れになってもそれでも腕の力だけは緩めない。

 

 そして・・・穴が広がったと同時にようやく中から腕がずるりと垂れ落ちる。待ってましたとボクはおもむろに二の腕に顎でかぶりつきそのまま引きずり出そうとする。

 

 肩、そしてこれは頭か?

 

 鈍い銀色の髪で覆われた頭部が遂に露わとなる。そこが・・限界だった。右肩と頭が出た状態で穴がガラスのように砕け散ってしまう。飛散する空間の断片。それを何と形容すべきか。

 

「い”ッたああ~~―――ッ!!」

 

 体の支えを失い勢いよく尻もちをつく。腕の内にしっかりと彼を抱えながら。

 

 成果はあった。

 

 急いで穴を確認するがそこにはもう何も無かった。ドーム状にくり抜かれた天井と床に部屋に網目を張る亀裂に合わせズレた壁だけが残っていた。

 

 ゆっくりと腕に抱える男の体を確認する。

 

 やった、やったんだボク。

 

 夢の中で何度も感じた実感の伴った温もり。彼が"そう"だとなぜか確証を得ていた。その事実に喜びを噛みしめながら男の体が血塗れだと気が付く。喜びもつかの間、背筋がゾッとする。体の至る所に痛々しい傷が浮き出ている。それに左腕と左目といくつか体のパーツが足りない。恐らくあの空間から無理やり引きずり出したせいだ。両足は空間が弾けた影響で向こう側に置いて行かれた。

 

 ・・・ボクのせいだ。ボクの都合を優先するだけで彼の事をなんら鑑みることがなかった。

 

 罪悪感に駆られつつ医療キットから包帯を取り出し手当てを施す。この傷も、この傷もボクのせいだ。

 

 今、彼は死にかけている。弱弱しい吐息が不安を煽る。このままじゃ彼を殺すことになる。

 

 ダメだ・・血が止まらない。いくら血を拭っても溢れてくる。どうすれば・・こんな時どうすればいいんだ。助けを呼ぶにも部屋に備え付けられた緊急用の機能は停止している。壊すことは得意だが直すことはそう得意ではない。

 

 だからと言って、このまま見殺しにできるはずも・・・・・・

 

 ――――ドクン

 

 心臓が跳ね上がる。焦るボクの胸中に小さな火がともる。体が熱い。幾度も経験した忌むべきあの感覚が襲いかかる。

 

 う、嘘。こんなッ・・このタイミングで衝動がッッ!

 

 息が荒い。視界がグルグルと回る。心臓の鼓動が頭の中で反響する。プルプルと指先が死にかけの彼の首に触れる。柔らかな首。鼻腔を血が饐える。

 

 ブチッ。

 

 頭で何かが弾け飛ぶ。理性が―――飛ぶ。

 

 

 

 

 

 その後のことは鮮明に記憶に焼き付いていた。

 

 血、血、血。

 

 赤く染まった床。正気を取り戻す頃にはそこには原型すらとどめていない赤黒い"何か"があった。

 床にへたり込み顔を覆うも、嫌な感覚に恐る恐る顔を上げる。掌は血にまみれており拭えば拭うほど顔が赤く染まっていく。ひび割れた鏡に写るボクは色鮮やかに彩られていた。

 口内に広がる甘美なる口当たりに咀嚼が止まらない。何を口に入れているかなど考えたくなかった。吐き出そうにも嚥下が止まらない。

 

 なぜ、なぜこんなにもおいしいんだ。知りたくなかった彼がこんなにもおいしいだなんて。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ違う違うそうじゃないよお”お”お”お”」

 

 何度も、何度も力任せに両腕を地面に叩きつける。破壊されていく床の破片が跳ねる。いったい何をしているんだッ。自ら希望を摘み取る・・・なんて愚かな行為をしてしまったんだッ!

 

 鏡の中のボクは顔を曇らせながらも歪んだ笑みを浮かべていた。楽しすぎて堪らない。そんな人殺しの顔だった。殺しで芽生えた初めての感情。彼をバラすのはとても楽しかった。獣のようにむさぼり喰らうのもそれはもうたまらなかった。もはや理性という歯止めが効かない体になってしまった。

 

 ボクは――――――――悪い子だった

 

 いつの間にやら脱ぎ捨てられた衣服。

 

 一糸まとわぬ血に濡れし体をさらけ出しながら獣となったボクは残った彼の残骸にかぶりつく。ついでに匂いだって嗅いじゃう。肌に生臭い血を刷り込む度に全身が彼の存在を感受する。時折グチャグチャな彼を全身で抱きしめたりする。

 

 すごい!夢で王子様にされたやつだコレ!腕の隙間から彼を構成するいろいろな器官が零れ落ちる。その上で意味もなく転がる。赤いベットの上でボクと王子様が一体となる様な感覚がこれ以上ないほどに興奮させる。

 

「・・・残さず食べなきゃ」

 

 王子様はお亡くなりになられました。

 

 こうなってしまっては彼と一緒になる方法がこれしか思い浮かばない。せっかく出会えたのに離れ離れになるなんて悲しすぎる。これを悲劇言わずしてなんと言う。だから食べるんだ。彼の魂が完全に霧散してしまう前に・・・ボクを一人にしようったってそうはいかない。

 

 なんだこれ・・・仕方がないじゃないか。衝動のせいなんだ・・・・ボクを責めないで・・誰も悪くないん、誰も。ボクはひ、被害者だ・・・

 

 血の浮いた床を丁寧に舐めとる。結局、全部一緒なんだ。配役が違うだけで夢も現実も全部一緒。化け物がボクで兎が彼。今回限りの配役。夢の中の化け物もさぞかし気分がよかったんだろう。こんなに蹂躙することが気持ちよかっただなんて・・・同じ夜を何度も繰り返す気持ちが今なら理解できる。

 

 獣へと堕ちたボクになら――――

 

 そうなると疑問が残る。それだと王子の役割は誰が担う?

 

 無防備な背中に気配を感じた。おかしいここには誰もいない。いつの間にか消えていた幽霊ちゃんとも違う気配。いったい誰が・・・

 

 振り返ればそこには原型すら留めることなく破壊されつくした彼の破片が存在した。夢でも見ているのかと目を疑ったが答えはすぐにやって来た。

 

 彼の壊れた部位が再生していくのだ。失われた人の形を埋めていく。そのままあっという間に彼は復活して見せた。

 ボクは驚きのあまり暫し呆然としていた。彼が生きていたことで夢が潰えていない事への喜びよりも半ばあきらめていた”不死者”との遭遇に感極まっていた。

 

 望外な願いが叶ってしまった。

 

 送り込まれる人形たちを壊すたびに思ったものだ。愛読書である”不死狩り日和”に登場する主人公の宿敵。殺しても殺しても歯向かう不死者キリル。こんな奴がいてくれればボクはきっと普通であれる。いくらでも壊していい相手がいれば人間社会であっても少なくともそう取り繕える、パパも許してくれると思っていた。

 

 王子様が本当に不死者かなど愚問だ。あの状態からここまで再生することができるのは、かの存在を他に置いていない。

 

 不死者に理解のある優しい獣はここですよと安心させなくては。世間一般での不死者の忌み嫌われっぷりは心得ているつもりだ。

 

 血塗れの部屋の中で伏する彼は未だ意識はないが息はある。故に確信する。血塗れの現状を見ればきっと彼はボクの事を誤解する。はしたない奴だって勘違いされてしまう。

 

 違う・・普段のボクはこんなにもは破廉恥なんかじゃない!狂ってなんかいない!ただちょっと病気なだけなんだ。

 

 体面を繕うだけの恥ずかしさは持ち合わせているつもりだ。

 

 方針は決まった。すぐにでも行動に取り掛かる。

 

 これからボクがすべき事は一つ。不死の王子様である彼が目を覚ます前にこの惨状を急いで何とかしないと。残った血肉を急いで頬張り腹に詰め込んでいく。血を舐めとっていく。

 

 体が、精神がまるで羽根が生えたかのようにフワフワと浮ついている。なんせ欲しいものが二つも手に入ったのだ。不死と夢の彼・・まさか二つが一つになるとは・・・夢が現実となった今、ボクは幸福で満たされていた。

 

 やっぱり王子様は実在したのだ!

 

 王子様が生きており、おまけに不死者であったことに生まれて初めて神の存在を感じた。今まで何もしてくれなかったのは今日という日の為だったんだと都合のいいことを並べる。すると感謝の言葉で溢れる。

 

 ボクは今日という日を決して忘れることはないだろう。ボクという存在がようやく舞台に上がれる記念すべき日なのだから。檀上は既に温まっていた。

 

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