振動音と共に上昇していく狭き一室。全身に感じた慣性の楔がこの先に待ち受けるであろう不安の元へと誘う。
恋都は・・・死体の様に寝そべる。
まさかエレベータが存在するとはな。最初に見つけた時には驚いた。暗闇の狭間、差し込む光の矢と共にガチャガチャと音を立てる扉。スライド式の横扉の間に挟まった死体がエレベーターの起動をを妨げていた。頭の無い女の死体であった。これはさっきの少女の仕業だろう。
どこまでも上昇していくこのエレベーターにも驚きだ。階数の表示もボタンの一つもないのに死体をどかせば勝手に上へ上へと昇り出す。体内時計からかれこれ20分近くは乗ってる。イグナイツが監禁されていたあの場所はどれほど地下深くに埋まってたんだ。あの怪物がここまで来たのだ。ちゃんと最後までたどり着くと信じたい。ゆったりとした速度で進む終わりの見えないエレベーターがいい加減じれったい。
「いつになったら辿り着くんだよ。こんな地下奥深くとは思わなかったんだが?」
「さすがにこの階層は特別離れたところにあるねー特別だよ特別」
そんな場所を探り当てたこいつはなんなんだ。幽霊に疑念ポイント+200点。
これほどまでに長いエレベーターを要する技術力からいろいろと見えてくるものもある。なんだろ俺のイメージするダンジョンはそれこそ古臭い建造物や洞窟なのだが、元の世界における旧時代の地下道ぐらいの新しさはある。このエレベーターだってどんな原動力で動いているのかもわからない。照明から電気なのか?異世界の技術力も侮れない。
「ところでさあ・・さっきから何してんのぉ?」
「何って服の補修だよ。さっきの戦闘で王子様に巻いた包帯が外れちゃったし、服だって替えないとね」
「なんだよ不死者、まるでお人形さんみたいだね。男のくせにそんな格好して恥ずかしくないのか?おっと心は乙女だったか?失礼しちゃう」
「もーそんなこと言っちゃダメでしょ。ちゃんと似合ってるんだから問題ないよ」
「幽霊ちゃんはそれが問題だと思うんだけどねー不死者君にはプライドとかないんだろねー」
俺は今、床に座るイグナイツの胡坐に腰を下ろし後ろから服装の手直しを受けている。
ああ、この体勢が一番楽だ・・
幽霊からの罵倒もなんのその。普段なら苛立ちから過剰に反応していたところだが俺には確かな余裕が生まれていた。
こいつと密着していると本当に気分が楽になる。奇妙な安らぎが体に満ち溢れる。安心感すら感じるんだものなぁ。あと、なんでこんなにも柔らかいんだ。女ってこういう生き物なんだ・・・だが忘れてはいけない。こいつの二面性を。絶対に忘れてはならない。コイツの本質は自分本位な獣だ。
「・・・・・・」
「イグナイツ・・・こんな根暗で障害持ちの不死者のどこがいいんだ、趣味が悪いな~」
「だってほら、王子様だから、ね?むしろこれがいいっていうか、ね。ほら、わかるでしょ。ねっ」
「王子様って・・・いきなり気味の悪い事をいうなよぉ心配するぞ~」
まったく酷い言い草だとイグナイツは独りごちる。幽霊ちゃんはどうにも王子様に対して当たりが強い。いきなり王子様の話を振ったボクも悪いが、そういえば夢の王子様についての詳細は幽霊ちゃんにも話したことがなかったっけ。心配されてもしかたないか。でも、ほんと好き勝手言ってくれる。こっちはそれどころじゃないのに。
敵の首を捻じり切った時の肉の裂けるあの感覚が今も両手に残っている。久しぶりの王子様以外の殺し。
ボクは―――何も感じなかった。
人間を殺した際の言葉にできないあの昂ぶり。あの少女はボクになにも感じさせてくれなかった。
ボクはもうダメだ。王子様を食べるための殺しの意味が変わってきている。殺しそのものを楽しんでいる節がある。王子様以外で感じることができない体になっちゃったのかもしれない。
王子様は酷い人だ。これではますます嫌われるじゃないか。
なんだか、―――嬉しいな。胸の内を曝け出したい。殺しを楽しむ醜いボクを罵ってほしい。お互いに泣きながらヤメロと懇願させたい。
また一歩王子様の隣に立つに相応しい存在へと近づいたようでテンションが上がる。依存度が上がる度に手の付けられなくなっていく自身に呆れ果て、満足する。
こうやって彼と密に触れ合うと幸せな気分になれる。ボクの選んだ服を着て、こうやってボクに身を任せている。信頼されているようで嬉しい。王子様が今着ている服はボクが昔よく着ていたもの。とっておいてよかった。なんだろうか、この得もいえぬこの支配感。本当にお人形さんみたいだ。彼の従順な態度が拍車をかける。ボロボロなのも凄くいい。
ボクのお願いに嫌がりはしても結局は言う事を聞く。抵抗されるのも楽しい。だって最終的には聞かざる負えないのだもの。それがわかっているからこそ楽しいのだ。楽しい。楽しい。どちらが上で下なのか言葉にせずとも知っているのだ。
ピロリン♪
そうこうしていると気の抜ける音と共にようやくエレベーターが止まる。ようやく終点へと辿り着いた。
「幽霊ちゃん」
「あいあい~・・・・・・・異常なし!」
壁をすり抜け扉の向こうの様子を確かめる幽霊ちゃん。一向に開く様子のない扉にイグナイツは爪を食い込ませ無理やりこじ開ける。
「・・・・すげーパワー」
「よーし行っちゃいましょうか」
恋都はイグナイツに背負われ外へと踏み出す。
ぶわりと空気の匂いが変わり違う場所に来たのだと鼻から感じさせる。
それから真新しい血の跡が続く通路を進み扉を慎重に開けた。
そこは・・・
「・・・酷いな」
「この跡はさっきの子の仕業でしょうね。見てくださいこの傷」
広間のあちこちにおびただしい死体の山が大なり小なり積まれていた。パチパチと赤い炎が揺らめきその全貌を照らす。
広間の至る所が綺麗に丸く窪んでいた。まるでデッシャーで繰り抜かれたアイスクリームの様相。
・・・というか巨大なスプーンが部屋のあちこちに突き刺さっている。あの時は暗くてわからなかったが俺の頭を削り取ったのはこれか。広間の惨状に気を取られるが今更ながらここは収容所だと気付く。広間に対になるように設置された部屋のどれもが簡易なベットとトイレが備え付けられており、扉が全開だ。この死体がここの住人のものなのか。
「なんだこれは、まるで・・・」
「クキキキキまるで・・牢獄みたいって?そのとおり。ここの機能がダウンしたのをいいことに捕まっていた奴らが一斉に暴れだしたんだろうねぇ」
「牢獄・・・これ全部攫われてきた人間の死体なの?でもさっきの子は・・」
少女のことはよくわからない。それでも死体が装備する装備規格の統一性。まさかこっちでこれを見ることになるとは。
「この死体は鎮圧する側だ。見ろ」
「?」
どの死体もどこぞの部隊めいた黒い装甲服を身に着けている。元の世界の鎮圧部隊を彷彿させる装備の充実ぶり。武器は黒い意匠の剣に斧と原始的な武器でありながら可変式のデザイン。実にスマートだ。
どうにもちぐはぐだな。死体の山からイグナイツが何かを拾う。
「・・・これ、銃?赤い炎といい・・・火継守がこんなに・・」
銃を抱えた死体もいくらか見受けられる。この世界では銃を使えるのは火の属性を持った者だけでありその数はとにかく少なくそして強い・・らしい。なんでも火属性でなければ火薬が機能しないらしい。フォトクリスはそう語っていた。
黒焦げた爆発跡に銃痕。戦場めいた痕跡の残滓から激戦であったことが想像に難くない。それほどの存在を投入しなくてはいけない相手だったのだ。地下の少女もその対象。そして返り討ちにあったのだ。
――――――――いた。
「イグナイツ、あそこ」
エプロンドレスを身に着けた女の死体がちらほらと黒い死体群にまぎれている。その周りで黒服どもが群がるかのように女を剣で貫いたまま息絶えている。その有様から執念じみたものを感じさせる。何が何でも殺すという強い使命感。他の少女もどれも念入りに破壊されており酷いありさまだ。あまり長く見ていたいものではないな。
恋都は辺りを見渡す。広さ的に一人一室か。独房の数から収容されていたのはこの女どもで間違いないだろう。通路で出会ったあの少女はこの地獄を勝ち抜き俺たちの元まで訪れたのだ。
「・・それだと死体の数なんか少なくないですか?」
ああ少ない。
独房の数と死体の数が合わない。鎮圧は失敗し人の形をした化け物どもは解き放たれてしまったようだ。あいつらは何者か。捕らえられた人間って奴なのか。独房前に取り付けられたネームプレートが読めれば何かわかるかもしれないが俺には文字が読めない。仕方がないんだ、文字の知識を最初からインストールしないフォトクリスが悪いんだ。
「イグナイツ、あれ読めるか。勿論俺には読めない」
「900年も生きてんだから文字の一つぐらい習得しとけよ。生きてて恥ずかしくないのかよ」
また怒られた。しょうがないだろ異世界人なんだから。
「・・・・増長したアリス・・」
「は、なんだって?」
「いえ、本当ににそう書いてあるんですよ、他にも・・・」
強酸性アリス、銀河眼のアリス、ネズミアリス、ぬいぐるみのアリス、狡猾なアリス、ハイパーアリス、追跡者アリス、貪欲アリス、魔王アリス、などなど・・・・
読み上げられていく意味の分からない表記。どういった意図を持ってそんな名前をつけたんだ。似たような服に身体的特徴、アリスという名前。これはいったい・・・
「あちゃーやっぱり全滅かー。こいつらでも抑えられんか、使えね」
「・・・ねえダンジョンってモンスターが守っているもんじゃないの?なんで人間が・・・」
確かにこれはどう見ても人間。引っぺがしたフェイスメットからは女の顔が現れた。整った顔立ち。実に美人だ。
「さあ?ここ普通じゃないからさー。少なくとも800年以上前から確認されている古いふっる~いダンジョンだし」
「そんな前から存在しているのに未だに攻略されていないって、パパ強すぎない?」
「ゲームマスターが直接戦うことはないよ。ダンジョンの守りは守護者のこいつらだけで十分なんだよね。外界の冒険者ども相手なら尚更。でも底の底へと封じられし真の化け物たちには及ばなかった、ああカワイソ。弱い奴に生きる資格なし」
「・・・パパがこんなに危険な奴らを生かしているのはやっぱりあの異能が鍵なのかな」
「あらあらいったいどうしたの」
「じゃなきゃ希少な火継守を投入するはずがないよ。あの空間を削り取った能力、魔術じゃ説明がつかないし、それにほら」
部屋の隅で青く揺らめく冷たい炎。それは熱ではなく冷気を吐き出す。
「巨大なスプーンや削り取られた穴ぼこに目が行きがちだけど、こことか炎がそのまま氷漬けになってるし、普通じゃないよ。属性の相克関係ももう関係ない。こんなことは不可能だよ」
彼女が何を言いたいのかわかる。ここに収容されているアリスと命名された恐るべき怪物たちは皆、変わった力を持っている可能性がある。火継守よりも優先度の高いとなるとこのダンジョンの儀式とやらの根幹に関わりそうだ。
そう考えるとここは能力開発のための施設なのか?
それに異能・・俺にも心当たりがある。少し突っ込んでみるか。俺の事を勘違いしてくている今ならこの話題を出しても不審がられないはず。深入りしたくないが異能が関わってくるなら知っておくべきかもしれない。
「・・・まるで勇者みたいだな」
「ああそうか伝承では勇者が使えるんでしたっけ。異能の再現が目的なんでしょうか?でもどうやって・・彼女らが900年前を生きた勇者本人なはずがありませんし」
エプロンドレスの少女たちは顔つきと言い金髪と言いどの個体もよく似ている。こいつらはいったいなんなんだ。妙な胸騒ぎを覚える。
「おや?」
「どうしたの幽霊ちゃん」
「あれ敵じゃね?」
死体の山に二つの光。それが何者かの目だと認識した時には遅かった。
「ぐぇ」
短い断末魔とともに幽霊の姿がブレて消える。それはなんともあっけない最後であった。
「ッ!」
イグナイツは王子様を背負ったまま後ろに飛ぶ。空中で反転させ背中を相手に向け恋都を盾にする。敵の全貌も見えず戦うのは危険という王子様からの忠告からくる行動であったが、先手をとったのは相手であった。後ろに飛んだイグナイツの体が強く後方へと引っ張られる。
「!?」
急激な加速を肌で感じつつも慣性に乗った体は制御がきかずイグナイツは正面から壁に激突する。
ドゴッッ!! 壁に痛ましい亀裂が刻まれる。
盾にされたはずの俺は受け奇しくも無事であった。
「―――――――――ッオぐ」
「ッ――――イグナイツッッ!!」
衝撃で咳き込みながらも恋都は声を上げる。ほんの一瞬で尋常ではないGが襲ったのだ。普通ではないぞこれは。
そんな心配をよそにイグナイツは耽る。
ああ、王子様が心配してくれている。ひび割れた壁から体を引き抜くが呼吸がうまくできない。
いったい”何”をされた?
死体に潜む敵を睨みつける。頭によぎるは異能の存在と王子様に教えられた戦いの心得。故に、全力で敵を殺すことにためらいはなかった。
「おい!貴様は何者だ!こちらに敵対の意思は、―――イグナイツッ!?」
「――――死体の山ごと消えちゃいなよ【狂飆】」
―――――轟音は衝撃を伴い圧を差し向けた。
◇
イグナイツは獰猛に笑う。
ボクの中に眠る深淵通ずる”暗き穴”に魔力が満ちていく。基盤たる土壌から魔力を吸い上げ枝先へと運ばれていく。花開くは魔術の澱。起動、駆動、発動へと正しき手順を踏み求むべき答えを算出する。段階を経てシークエンスは終了する。なにものにも依ることのないイグナイツ=ヴェルチクラフトという”ボクだけ”の神話を魔術で表現する。
世界を穢せ犯せ蹂躙しろ。
神気―――発祥――!
突き出した腕の先から生じる風の波が視界のすべてを飲み込み吹き飛ばす。
それは形亡き強大な鈍器であった―――
死体が、炎が、武器が、無慈悲な風圧に巻き上げられ一時を置いて降り注ぐ。圧倒的な暴風で何もかもまっさらな地平線へと誘う魔術。悉くが拉げ原形を留めぬ無塵地帯と化す。そんな地獄の呈そうを晒す中、一人平然と佇む者がいた。頭を抑え子供のように縮こまるくすんだ白髪の少女。おびえた表情をしているが、油断のならない眼でしっかりこちらを窺っていた。
また子供かと恋都はうんざりする。だがあの目・・・怯える者のそれではない。
少女は長い髪をひるがえし落ちてきた剣を掴み投げつけてくる。
イグナイツが回避行動を取ろうとした時――――いつの間にか肩に剣が突き刺さっていた。肩から伝播する力に押され体が吹き飛ぶ。剣や斧が更なる追撃を加え襲い掛かる。
「―――――ツッ!!?」
「イグナイツッ!!?止まるなッ動け!このまま守りに徹すれば死んでしまうぞ!イグナイツッ!イグナイツッッ!!」
痛みに怯むことなく綺麗に着地し敵へと一直線に疾走する。戦いにおいて敵の力がどんなものかわからぬ以上迂闊に手を出すのはまずいと王子様は言っていた。暗黒の中で出会った金髪少女の場合、王子様を使いうまく注意を逸らせたが、今回は正面からの真っ向勝負。
異能の正体を探る間にも死んでしまいそうなほどの殺傷力。ボクでなければもう死んでいる。既に術中にあるのならば悠長に推測する暇はない。嵌った時点でアウトラインはとうに超えている。この場で守りに徹っしていたところで少しずつ命を削られていくだけだ。自由にさせ過ぎてはいけないタイプの敵。戦いの流れを掌握しなければ死んでしまう。ここは己のフィジカルでゴリ押すしかない。
王子様、見ててください!!
飛び道具が体に着弾する度にが痛みが遅れてやってくる。イグナイツは歯を食いしばり殺意を満たし獣となる。自然と口角が歪み瞳孔が開く。かまわず次々と飛来する剣や槍の弾幕を前に避けることなく一直線に全力疾走する。
もちろん王子様を盾にしながら。
「オッガギャッ」
「!?」
怯むことなく仲間を盾に突っ込むボクに驚いているのか及び腰のまま相手は指先に魔力をこめながら武器を投擲しつつ後方へとさがる。
盾である王子様越しに突き出る刃。威力が強すぎて貫通し盾が機能していない。攻撃を避けられないなら愚直に進むしかない。時間が惜しい。
ただ―――前に。
それにしても・・不可解な現象だ。
手元から武器が投擲された瞬間までは認識している。だがそこからプッツリと映像が飛んだように対象を見失う。投擲から着弾までのラグの短さ。剣を透明化させたのではなく殺人的な加速をもって飛来している。
でなければ、ああも力が籠るはずがない。現に全力疾走しているはずなのに殺到する刃の勢いで押されている。普通の人間であれば昆虫の標本みたいにそのまま壁に貼り付けになっていたことだろう。こいつの異能は加速させる力と見るべきなのか?様々な憶測が頭をよぎっていくがその必要はなくなった。
あと二歩で爪が届く。ミチミチと先鋭化した指先が跳ねる。
そこに、喉元を食い破れる距離まで肉薄するイグナイツへと影が差す。少女の体躯には似つかわしくない巨大な流氷。冷気を振り撒き氷の刃が鉄槌を下そうと馬鹿げた速度で襲い掛かる。
イグナイツは笑う。ボロボロの体では避けようがないと思ったのだろうが、甘えたな。
近づけば近づくほど投擲物の威力が落ちているのにこの距離では恐れる程の脅威はない。それでも目に見えぬ速さで振り下ろされる刃に拳を頭上にて叩きこむ。軌道が読めれば攻撃を合わせるのは容易い。
バギィッッ!!
粉砕され飛び散る氷の破片。破片が皮膚を食い破るがもはや関係ない。爪を伸ばし首へと水平に薙ごうと力強く踏み込んだ。
だが、
ドグシャッッ!!
「ウ”ッッ!?」
あと一歩、といったところで敵の姿は急にぶれ―――ボクは遥か先の壁に激突していた。
また、かッ!またなのか!!なんて無様ッ!
勢いよく頭を壁から引き抜き飛来する氷の礫に構わず、念じ指を横一線に切る。
(消し飛べェ!!!)
ノータイムで放たれた無言の魔術。粒子が残滓の尾を描き加速が破壊を生む。
だが爪先から放たれたキラキラと光る粒子は相手に届くことなくその場で爆発四散する。
不発・・!それに威力が低すぎる。
こちらの魔術にも干渉するか・・・
そんなことも、できるんだ。先ほどから体のいたるところが悲鳴を上げている。主に脚部の筋肉がブチブチと根を上げるまでに引きちぎれているし関節だって擦り切れてボロボロだ。
・・・・異常にすり減っている。これも異能だというのか?
どちらにせよ長期戦はこちらが不利。
冷汗をかきながら、無意識に王子様へと手を伸ばす。焦りを紛らわせるための何気ない行為だったがそこでようやく気づく。
王子様がいない。
まさか落とした!?
彼はどこに―――