オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第9話 祈り手

 

 ――――――――――Side/???

 

 襲撃者は恐れを無視し平静を装い動揺を隠す。

 

 コイツは何者だ・・・?

 

「ふーふーッ~~~~」

 

 今もこちらに殺意マシマシで睨みつける獣耳の女を警戒する。次から次へとなんだというのだ。せっかく”特定種別A種”から隠れてやり過ごしたはずだったのに変なのに出会ってしまった。

 

 あの獣人はなんだろうか。まさか逃げ出した冒険者?それにしては強すぎるし第三階層にいる理由が思いつかない。冒険者如きが辿り着ける場所ではない。

 

 白と黒。モノクロな色彩を身に着ける少女は正体不明の獣人に腰が引けていた。

 

 ああ戦いたくない。不意を突けたのに死ななかった。A種や上位戦闘員並みの頑丈さ。獣人の癖に魔術を使うときた。まさか守護者?勘違いによる先制だったがこれは立派な反逆行為だ。謝れば済む話か?

 

 ・・・無理だろな~。

 

 敵の殺意で体が震える。仲間を何のためらいもなく盾にするような怖い相手。話し合いは無理だ。後方に横たわる男の死を確認し次の一手を繰り出そうとした時、背後から手が伸び腰にしがみ付かれる。

 

「ッえ!?」

 

 振り返れば串刺しになり死んだはずの男が背後から組み付いていた。血が滲む包帯まみれの顔面から覗く目が異様に輝いていた。咄嗟に腰からナイフを引き抜き首元へと斬りかかるも歯で受け止められた。

 

「――ウブッ――ゥギ――ッ!」

 

「!!ッグ、この!」

 

 ナイフがびくともしない。口の端から血の泡を吹き出しながら必死に食らいつき鬼の形相を呈す。全身を刺し貫かれどうして動ける。その気迫に圧され、どうしてか懐かしき記憶の芳香が少女の判断を鈍らせた。

 

 その一瞬の逡巡が命取りだった。

 

 超高速で迫る獣人に殴りつけられた。骨が砕ける音がした。威力からこちらの異能を利用し加速をつけたか。ほんの数分で順応したのかッ。よくもまあ意識がついてくるものだ。

 

「ッ!」

 

 襲撃者は殴られながらも、もう一本のナイフを虚空から取り出しバランスを崩す獣人の首に突き刺す。攻撃を当てたのはすごいが腰が入っていない。痛いだけで致命打には成り得ない。特に”私”に対しては。

 

 そしてその速度では負荷で肉体が持たない。立っていることもできないまでに終わっているのだ。こちらの異能により関節がすり減り内出血が隠しきれていない。激しく動けば動く程に寿命を削っている。

 

 ナイフの刃先が鮮血が導き出す。どうしようもない血路。

 

 

 ガギッ

 

 人体が出してはいけない異様な音に目を見開く。

 

 ―――――なぜ、なぜ刺さらない!?

 

 少女は信じられない物を見た。予想に反して獣人の首から返って来た感触は柔らかく弾力に満ちた硬さだった。なんだこの硬さは!?

 

 この女を刺すには加速の距離が足りない。近すぎたと言うのか。いや異能が無くたって軽く力を込めただけでナイフは首を刺さる。ギョロリと目だけが動き獣人と視線が重なる。少女は完全に気圧されてしまった。退こうにも枷である男が邪魔で離れることも出来ず獣人に正面から羽交い絞めにされる。

 

「このまま、潰すから。内臓吐き出せ」

 

「いッ―――――ガァあああああ」

 

 グググと万力のように締め付ける怪腕。細腕から信じられない力が発揮される。拘束を抜けようともがくもビクともしない。喉奥から熱いものがこみ上げる。

 

「ゴフぅッ」

 

 獣人はニヤニヤと楽し気な目で死にゆく過程を見届けるつもりか。死にたくない!誰か助けて!その叫びは声にもならない。

 

「ダメダメッそんな目で訴えかけても、君の可愛い内臓見せてよ。そのまま顔にかけてほしいなぁ」

 

「がああああああああぁぁッッ!」

 

 ゴポゴポと血と泡を吐きながら最後の力を振り絞り垂直にジャンプする。少しの力と距離さえあればいい。後は勝手にどこまでも加速する。加減度外視の異能が作用し少女ごと獣人の体が天井へと激突する。身長が高い分まず獣人が激突した。瓦礫が降り注ぐ。

 

「ッ――――――――――」

 

 それでも拘束は弱まらない。そのまま地面に落下する。重力を伴い一つの流星となり地面へと着弾。轟音と共に床に大きな亀裂が走る。

 

 こ、これで・・・

 

「グフッ・・・やるなぁ。でもね、無駄だからさ、そろそろ死のうよ」

 

 こんッこんなところで死ねるかッッ!!まだやるべきことがぁッ。無様でもいい!生き延びなければいけない!!

 

「ごめッごめんなさいごめんんさい!」

 

 少しだけ力が緩む。感情の読めない目をした獣人は口から血を垂らしながら問いかけてくる。

 

「・・・名前なんて言うのかな?」

 

「フ、フラメンツ」

 

「フラメンツちゃんって言うんだぁ。君は何者かな?こんなところで何をしてるの?」

 

「わ、私は”祈り手”の一員で、特定種別A種の制圧の為に派遣、されました」

 

「特定種別A種?それってなあに?何者なの?」

 

「私もわかりません。異能を振るう化け物が暴れているから始末して来いとしか聞かされていない、ので」

 

「じゃあなんであんなところに隠れてたの?」

 

「・・・つ、疲れて。確実に勝つためにも連戦は好きじゃないから」

 

「へぇ、ここの惨状はフラメンツちゃんの仕業なんだ。あれ、でもボクたちには攻撃仕掛けてきたよね、そんなに弱そうに見えたのかな?こうやって今にも殺されかけている癖に」

 

「・・・・わ、わからない。わからないよぉ。やり過ごすつもりだったのに、なんでぇ」

 

「そっか、関係ないけどフラメンツちゃんって可愛いね」

 

 また両腕に力が込められていく。血が止まらない。目や鼻からも血が流れ出る。両肩の骨だって脱臼しているのに。

 

「な、なんで。助けて!死にたくないよお」

 

 

 

 

 イグナイツは滑らかな肌の感触を確かめながら骨が折れていく音を味わう。未成熟の柔らかな体。やはり生の反応はいい。肉人形では味わえない感情の乗った生の感覚。王子様では感じえないベクトルの違う昂ぶり。この子をこのまま殺せば気持ちがいいに決まっている。困ったな、ボクはどうしようもない奴みたいだ。どうも殺しも好きらしい。加虐的で執拗に痛めつけるのが好きなんてどうかしてる。王子様にばれたらどう反応してくれるだろうか。

 

 くひッ

 

「・・・そこまでにしておけ」

 

 不意に肩にかかる重み。この匂いは王子様だ。息を荒げながら体を這わせこちらまできたのか。必死な姿も視界によく映える。

 

「もうそいつに戦闘意欲はみられない。そうだろ?」

 

 促すように語気を強める恋都に対しコクコクと血涙交じりに必死に頷くフラメンツ。そのかわいらしい姿に愛着が湧き上がるが同時に壊したくもなる。

 

 ・・・後ろ髪を引かれつつも拘束を解く。王子様にやめろと言われればやめるしかない。

 

「ん”、ん”~」

 

 全身の筋肉を力ませると体中に刺さった剣が抜け落ちる。すぐに傷も塞がり衣服の穴だけがその痕跡を知っている。

 

「ん~体の節々が痛い。筋肉がボロボロだ。この子結構強いかもしれませんね」

 

「イグナイツ、俺も・・」

 

「食いしばってくださいね、吐くほど痛いですよ。冗談抜きで」

 

「いいから早く、、オゲェぇッ!!」

 

 強烈な痛みと血の流れが喪失感を生み恋都は思わず嘔吐する。吐きすぎて胃液と血の塊しか出ねえよ。

 

 イグナイツが俺の体に刺さった刃を一気に抜き去っていく。イグナイツも俺と同じぐらい傷を負ってたのになぜこうも平然としていられるのか。

 

「ゴホッッゲホッ!祈り手とか、言ったか?何かしらの組織に所属していると見受けるがこの隊服どもも一緒か?」

 

 小さな襲撃者はイグナイツと俺の顔を交互に見やり恐る恐る言葉を紡ぐ。

 

「ううん、この人たちとは違う。黒殖白亜はダンジョンの環境保全及び外部からの防衛が主な任務で、祈り手は・・・・・わかん、ない」

 

「わからない?」

 

「記憶がないから、わかんない。研究所の人たちからは祈り手って呼ばれてて、気がついたらダンジョンの怪物どもと戦ってた、から。今回も頭に指令を受信したから・・・」

 

「(・・受信?)じゃあその異能とはなんだ?お前はアリスじゃないのか?」

 

「それは・・・・わからない・・・頭が痛い、よ・・ぐ、う」

 

 急に頭を抑え痛みに悶え始める。明らかに様子がおかしい。

 

「ちょっと頭見せ、痛いッ!ておい!暴れんな!イグナイツこいつを抑えろ」

 

「おらぁ、獣人だ!大人しくしろっ!」

 

「馬鹿!誰がそこまでしろと言った!めっちゃ泣いてる!」

 

 イグナイツが暴れるフラメンツを強引に抑え込みその隙をついて恋都は少女の長い髪を掻き上げる。

 

 すると髪に隠れた額に横一線の手術痕を発見した。

 

 ・・・なんだこれは。よく見なければわからないほどの細やかな傷と金属のアタッチメント。触診により指先に感じる違和感。こいつ頭に何か埋め込まれてやがる。

 

 受信ってそういう・・・

 

「こいつも実験体じゃねーか!ここってどっかの研究施設か何かか!?」

 

「どうします?このままだと死んじゃいそうですけど、頭のコレとってみますか?」

 

「とるって・・簡単に言うな。野蛮なイグナイツには分からないだろうけど脳とダイレクトに直結してるかもしれん。マジで死ぬぞ。信号の受信を遮断すればなんとか・・・」

 

「大丈夫ですよー人間の頭の構造は把握してます。お医者さんごっこならお手の物ですよ!」

 

 呆気にとられる恋都を余所にイグナイツはどこからともなくメスを取り出す。いや待ていつの間に白衣なんか着ているんだ。なんだその眼鏡。【蔵書】の魔術を応用すれば早着替えもできるのかよ。便利にも程がある。

 

 イグナイツは取り出した拳銃のようなグリップがついた注射器を取り出しフラメンツの首筋に打ち込む。

 

 プシュッ!

 

 急にグッタリするフラメンツ。透明な手袋をつけテキパキと準備を進めるイグナイツに理解が追い付かない。

 

 妙に・・手慣れている。

 

「・・・・・あ、え?」

 

「子供の頃パパにお医者さんごっこしたいと言ったら何を勘違いしたのか医学書と大量の人間を渡されて修理方法を徹底的に叩き込まれました。解体も修繕もお手の物です。ふふん!頭に埋められた金属片は何度も摘出したことがあります。え~取りあえず頭蓋骨に穴開けてポーションぶち込んで・・・・多分よし!!」

 

「待て!まッて!うわあ・・・」

 

 見るからに雑。次々と溢れる流血に隠れているのに医療用器具を突っ込み奥底に潜む金属片チップやチューブ状の回路を引っ張り出す。ガリガリと音を立てドリルが回る。合間に様々な薬品を取り出し流し込む。

 

「まあ見ててください、すぐに終わりますよ」

 

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