照明が落ち輝きは赤光に切り替わる。赤色の造形が彩を添え辺り一面を不安を想起させる世界へと切り替える。
ここは第二階層にはびこる運搬通路。車両を使い【蔵書】の魔術で物資を運ぶため人の行き来が頻繁となるのだが、活気は鳴りを潜め通路は荒れ果て凄惨な光景を露わにする。
「――――――――!・・・これは」
「区画の放棄とは思い切ったことをする・・・・事態はなお悪いか」
「上のやつらは私らを見捨てたのかッ。どうします隊長このままでは・・・」
完全に第一階層への道を遮断されてしまい帰る場所を失ってしまった。ここは未だに地獄の渦中。特定種別A種が我が物顔で練り歩く、我々エリート部隊にとっても危険極まりない殺戮空間。一歩踏み出せば闇に紛れ怪物が顔を覗かせる。それは目の前の”彼ら”にとっても一緒か。
「あ~ええとだな~・・・コホン!諸君、どんなに異常な事態に直面しようと我々の役割は変わらない。そうだろ?」
「それは勿論です隊長」
「まずは目の前の仕事を片付けて考えよう。先の事ばかり考えていては足元を掬われる、と私は思うのだよ」
やはり我が部隊は優秀だ。私も鼻が高い。例え言葉にせずとも部下からの信頼が手に取るようにわかってしまう。いや~優秀で困っちゃう。栄えあるA部隊の統率者として実に誇らしいな!
さあ仕事の続きだ。拡声器を手に取り目標に対し最後の通告を行う。
『無駄な抵抗はやめて即座に武装を解除し投降せよ!貴様らに逃げ場所などない。余り私を困らせるなよ、脱走者ども~』
「ふ、ふざけるなッ!俺たちをここから出しやがれ!」
第一階層に繋がる通路。無慈悲に降ろされた隔壁にまで追い詰められた簡素な服を着た集団。その正体は異変の際に逃げ出した囚われの冒険者たちである。どうやら彼らは脱出の機会を前々から窺っていたようでシステムがダウンしたのをいいことにいち早く実験場から逃げ出した集団である。
『え、何か言ったか!?もっと大きな声で言わなきゃ気持ちは伝わらないぞ!』
拡声器によって増幅された音が通路を反響していく。
「隊長!うるさくて相手が何言ってるか聞こえません!」
『えッなんて!?』
「こんな広くもない場所でそれ使わないでください!!」
『はあッ!!!?だからなんてッ!!』
「だから!―――ああああああうるせええええええええええええ!」
『ぐぇっ!?』
部下に腹部を殴られ拡声器を落とす。床に落ちたそれは甲高い音をたて沈黙する。床で蹲る私を無視して部下が替わりに話を進める。これでは示しがつかない。
「貴様らには二つの選択肢があるッ!ここで死ぬか、大人しく牢獄に戻るか!どちらかさっさと選びやがれ、このゴミ虫どもがッ!」
「い、いい加減にしてくれ!俺たちは家に帰るんだ。家族が待っているんだ!こんなところで死ねるかよォっ!!」
「なんだ貴様ら、与えられた労働のノルマも果たさずに逃げるつもりか?責任感が著しく欠如しているな。考えてみろ、お前たちがいなくなればその分誰かが迷惑を被ることになるんだぞ。可哀想だと思わないのか?隣人の気持ちをよく考えろ!!自分さえ良ければそれでいいのか恥を知れ!・・なあもう少し頑張ってみないか?今ならまだやり直せる。握手するぞ悪手!」
「ふざけるなッ俺たちは!家畜じゃねえ!人間なんだよ!」
それがなんだと言う。人間であることが家畜でない事の証明になるとでも思っているのか。おめでたい頭をしている。私は今立場の話をしている。実験体風情が分を弁えろ。譲歩はした、後は知らんぞ。このやろう。
「はあ、全く話にならんな。そもそも自分の意思でノコノコとこの場所にやってきたのだろう。ここがどんなダンジョンか知っていたはずだ。親に教わらなかったのか?好奇心に負け規則を破り大した実力もないのにこの地に踏み込んだのが貴様らだ。まったく冒険者というのは・・・愚かしい!人の家に土足で踏み入る虫けらをどう扱おうとこちらの勝手だろうに。だがッ、貴様らは運がいい。他のダンジョンなら普通死んでるところを我々は生かしてやっているのだからな。せっかくだからこの場で感謝を求むるぞ。さあ言え!ありがとうございますとなぁッッ!」
「か、感謝を強要されてるのか俺たち・・・・完全に下に見てやがる。ど、どうするこのまま戦ったところで・・」
「だからまた働くってのかよ!クソッ死んでも俺は働かねえ!絶対にだ!働くぐらいならここで一矢報いてやらあ!あの厄介なゴーレムはいないんだ。やるぞオァ!!俺たちゃ男なんだよォ!!」
「そうか・・・面倒が少なくて助かるよ。そして、その選択は自己責任だ。吐いた唾は呑めぬと知れ!」
施設から奪い去った武器を手に殺到する冒険者たち。戦ったところで勝てるはずがないのに、それでも抗おうとする冒険者によくみられる気質。誠に諦めが悪い。悪あがきもいいところだが縮こまっているよりはまだマシか。それでも愚かだと評さざるえない。一生飼い殺しになっていればいいものを。
「おらしねー」
指揮を引き継いだ副隊長はハンドサインで合図する。隊員たちは一斉に機関銃を構え、敵をほどよくひきつけた所で引き金に指が掛かる。
閃光が瞬いた。
「ぐあ!」「ひあっぅ」「た、助け!」「くそがああッ」「これ以上の搾取はあああ」
絶対有利な殺し間。この袋小路では逃げる場所も遮蔽物もない。銃弾の雨が容赦なく敵を襲い凄惨な現場を作り上げていく。彩られていく赤の色彩。硝煙の匂いと交じり見るもの全てを地獄に誘う。
魔術を使い一気に殲滅したいがここまで人が密集しているとこちらにも被害が及ぶ可能性がある。弾がもったいないがこればかりは仕方がない。魔力は有限なのだ。想定すべき相手はこいつらではない。もっと恐ろしい存在こそが本命なのだよ。
彼らは何も抗うことも出来ず死んでいく、――――――かのように見えた。
一人、前に突出し銃弾を剣でいなす者が現れるまでは。
「くッうおおおおッ!!」
銃弾を剣で捌くほどの技量の持ち主がいるとは思わなかった。冒険者特有の何かしらのスキルの賜物なのか。こちらからの銃弾による圧が弱まる。
「あの男を狙い撃ちにしろ」
怒涛の飽和攻撃。面でなく点と化した銃弾の波が男を鋭角に襲う。
「ぐぇあアッッ!!?」
技量ではどうにもならない手数の暴力にすぐさま膝を折り死に目をきたす生意気な冒険者。
厳しい環境を超えここまで辿り着いただけのことはある。ここにいる冒険者どもは生存力や適応力を見込まれ殺されることなくいままで生かされていたのだ。これぐらいやってくれないと張り合いがないというもの。
なあそう思うだろ、貴様らも。
思いに呼応するかのように飛び出す幾つかの影。ヘイトの集まった男たちがハチの巣になっている隙に壁や天井を蹴り自陣に切り込んでくる勇ましき者が数名、魔力を携え空中に躍り出る。前方の男は囮で死も覚悟の上か。そうでなくては面白くない。
「列するは聖櫃たる彼方への想い、誰も彼もが夢閉ざす!【黄金汲】」
「全隊員魔術戦用意。対空防除、相互チェイン=【隔意】」
「――――――!?」
隊員間で形成されし相互ラインが私の魔術の威力を増幅させ負担を軽減する。
上空で放たれた閃光が複数に分裂し炸裂するも瞬間的に発生した”溝”が空間を断絶させ一切の干渉をも許さない。
(私の自慢の魔術が・・それも聖句による神性付与を。それをまるで寄せ付けぬ構成密度はなんだ!?なぜ貫通しない!?)
驚愕に圧倒されることなく空中で剣を抜き去る名も無き騎士。巻きあがる煙を掻き分け回転しながら剣をリーダーらしき人物に振り下ろすが、剣ごと蹴りにより首の骨をへし折られた。
「遅い」
なるほど。今のは聖句か。
となるとこいつらはセプストリア聖王国の聖騎士どもか。
信仰することで行使可能な神言魔術。それはただの魔術と違い神性を孕む。
使用には信仰する神によって発動の条件が異なり、通常魔術ほど運用は容易でない。行使時には神の特色、いわば”兆し”が見える。兆しとは形だけの祈りとはまた違う明確なる祈念の所作。
特定の動作以外にも何かしらの媒体だったり、寿命や肉体を消費するものもある。面白いところでは条件はないがその一生で使用回数制限の決められたものなんてものも。様々な供物を捧げ神の力の一端に触れることが許されるのだ。
兆しとはつまりは祈りだ。祈るからこそ力を与えてくれる。
だが、この騎士の魔術プロセス。駆動から発動への圧倒的短さ。魔法大国ならではの強権さ。ただ心に浮かんだ祝詞を言葉にするだけで使える易易たるさ。
聖王国に固有の神言魔術は存在しないが代わりに通常魔術に聖句を添えるだけで神言魔術へと変貌させる反則じみた使い勝手の良さ。言わば神性のエンチャント。最近この辺りを調査に来ていた聖騎士を捕らえたと聞いていたがこいつらのことだったか。他の冒険者どもとは動きが違い、よく連携がとれている。
「前衛はそのまま殲滅戦を続行。残りはツーマンセルで騎士一人を相手にしていけ。敵はアンティキア正教の人間だ。速やかに圧倒していけ」
私は久々の歯ごたえのある狩りの予感に高揚感を覚えナイフを振るい乱戦へともつれ込む。我々A部隊は黒殖白亜でも一番優秀な部隊と評されている。彼らの奇襲が不発に終わった時点でもう勝ちの目は消えたとみていい。このままだとすぐにでも制圧してしまう。
もっとがんばれ。まだ足りないぞ。
・・・まあ、特殊研究ブロックに回された連中じゃないし実力としてはこんな物かもしれないが。
「ぐ、化け物どもがぁ!グアッ」
「すごいッ見ろ!味方を囮にした副隊長の卑劣なバックスタブだ!容赦がなさすぎる」
「副隊長、相変わらずせこぃ・・・」
「・・・あんま文句垂れてると、減給されるよ。さっさと殲滅」
部下のひそひそ話をしっかりと聞きながら次々と聖騎士たちの数を減らしていく。正面からの戦闘を部下に任せ背後から致命傷を与える戦法を卑怯と思うぐらいなら、最初から銃なんて使わずに正面から突貫してる。せっかく数で有利を取れてるんだから囲んで手の届かないところから殴るほうがいいに決まってる。副隊長として部下の命を大事にする義務がある。A部隊はアットホームな部隊を目指してるんだが、どうにも部下に怖がれている節がある。ちょっと悲しいが隊の規律を厳守する立場としてはそういう宿命なのかもしれない。こういうときアホなポジションである隊長が羨ましい。
「――――グルアアアアアアアア!」
「うわッ何だ!ぐあ」
獣の雄たけびと共に背後で部下が宙を舞う。何が起きた!?
副隊長は背後から迫る何かを察知し身をかがめ攻撃を避ける。前転の要領で襲撃者を蹴りつける。
「!(硬い)」
足裏に感じる硬い感触を通しこちらの芯まで響く。まるで分厚い壁を蹴りつけたかのような感覚に驚き、思わずその正体を確認しまた驚く。がっしりとした体躯を覆う黒い毛並み。鋭い爪に牙。そして、獣臭さ・・・
「おい、なんで獣人がいる!?どっから紛れ込んだの!」
「ゴアアアアアアアアアアッッ」
実験に適さない獣人は遥か昔に捕獲対象から外され処理対象となったはず。袋小路まで追い込んだ冒険者の群衆にこんな奴はいなかった。こうも目立つ存在に今まで気が付かなかったというのか。そんなことがありえるのか。
そんな我々の一瞬の動揺を突き、聖騎士たちが我々の包囲網を抜けて行く。
「今だッ!この機を逃すな!疾く翔けよ!」
「ッ!しまっ」
「続けえええええええええええ」
「くッッ!逃がすか!」
こいつら最初から離脱が目的か!私は追うよりも不遜なエネミーの排除を優先する。イレギュラーはいないほうがいい。いるはずのない存在に驚きつつも至近距離から機関銃をぶっぱなす。
「ガア”ア”ア”ア”アアアアアアア――――――ッッ!」
至近距離から放たれる銃弾が獣人の強靭な肉体を削ぎ散らかしていく。跳ねた血が私を赤く染める。
が、獣人は一歩も引かない。それどころか私の両肩を掴んでくる。鋭い爪が肉に食い込み両肩を砕こうと締め上げる。獣人にしてもこれはタフ過ぎだわ。
「それで盾になっているつもり!生意気なのよ」
「ギィァッッ!??」
「副隊長!」
「私に構うな!それよりも騎士どもを追うの!」
銃弾を撃ちながら私を掴む剛腕を空いた手で一息に握り潰す。悲鳴上げる獣人に更なる追撃を加えようと引き金に力が籠る。
―――――カチカチ
空しい感触が指先を交わす。弾切れだ。ならばと銃を捨て去り魔術を行使する。この距離ならば特に問題ない。
―――【発火】
小規模の爆炎が獣人を包む。限定的な範囲に絞りつつもその威力は絶大。燃え盛る人型。それでもなお獣人は倒れない。銃弾で腹部から頭部にかけグチャグチャにされ、その上火達磨にされているというのにそのまま爪を振るい襲い掛かる。その姿に敬意を覚えより一層力が張る。
ズドムッ、と私の拳は獣人の心臓を貫くのだった。流石のフィジカル。やはり獣人はタフですごい力を持っていた。私には及ばないけど。
やはり、我々の脅威ではない。外のレベルは低いな。
包囲網を抜け逃げ出す騎士どもを隊員が追いすがる。時期に掃討も終わる。私もその背後に追い打ちをかけようとする。
「む」
獣人の胸に突き刺さった腕が・・抜けない。頭上から聞こえる獣の唸り声に初めて危機感を抱く。
「グィギギギギg」
「なに、まだ楽しませてくれるの?」
黒ずんだ炭のような体から煙を出しながら頭部が動き出す。パカリと顎を大きく開き鋭い牙が顔を見せ襲い掛かる。避けようにも深々と突き刺さった腕が締め付けられ抜けない。大した胸筋だ。決して油断した訳ではない。銃弾でミンチにされ、燃やされ、心臓を貫かれた。人生三度は死んでいるこいつが普通じゃないのだ。どうしようもないまま、対獣人戦において一番警戒すべき攻撃が私の頭を―――――
「ふぉい!」
気の抜ける掛け声とともに獣人の体がひび割れ切り刻まれる。崩れた積み木の城のように崩壊していく獣人の背後には我らが隊長がいた。刀を構え意気揚々と聖騎士たちを一刀のもとに屠っていく。その姿はまさしく黒殖白亜部隊最強のリーダーだ!頼もしいな!お互いの背を合わせ武器を構える。彼らはもう終わりだ。
「一気呵成!そろそろ終わりにする!いくぞッ」
「隊長に続けッ!」
宴もたけなわ、一方的とも思えた脱走者約50名の殲滅戦は乱戦へと転がったが特に問題なく終えた。
・・・数名の逃亡者を出したことを除けば。
「おげえええええええぶえええええ」
「大丈夫ですか隊長、はい水」
「うぐぐ、ありがとう副隊長、やはりダメだな、私は・・・ヴッ」
嘔吐する隊長の背を摩る。だいぶ無理をしていたのだろう、足が震えている。強く殴り過ぎた。少し落ち着きを取り戻したのか戦闘用ヘルメットをかぶり直す。
「・・・それで部隊の被害は」
「こちらの損害はゼロ。敵はほぼ塵殺」
「そうか・・・逃げられたか」
「まあ、前半隊長が寝てたのが原因なんですが」
「だったら手加減しろよぉ。内臓がひっくり返ると思ったぞ!私を何だと思っているんだ!隊長ちゃんをもっと慮って!」
「思ったより元気がありますねー、今夜は隊長に花を持たせますよ」
ギャーガーと喚く隊長を適当にあしらいながら、薄暗い感情を自覚し私は頭を振る。血の海に沈む冒険者の死体に止めを刺す隊員たち。傍を通り抜ける私を怪訝な顔で窺うもすぐに仕事に戻る。
外界のレベルは低い。我々守護者と外の人間。あまりに生物としての格が違いすぎる。”ホーム”で産まれた我々は力も保有魔力も何もかもが桁違い。人間とは見た目にそこまでの違いはないのにこの歴然とした力の差。隊長クラスは特にそれが顕著だ。
特殊戦闘部隊”黒殖白亜”
戦闘職の中でも選りすぐりの戦闘力を保有するエリートである我々だが、隊長だけはさらなる異才の輝きを放つ。A部隊は全部隊の中でも総合評価はトップクラス。火の属性持ちが多く在籍するおかげで非常に高性能な装備を扱う事ができ、装備の選択肢が多い。おかげで冷気漂う外界における重要な任務を任されることも多い。その任務の達成率からマスターにあの”黎明”や”祈り手”と同等以上の価値を特別に見出されている戦力の要。A部隊に所属する者全てがそれを誇りによりいっそう職務に励んでいるでいる。
だが私は知っている。マスターの興味はA部隊にではなく隊長個人にあることを――――私は知っているのだ。
私のどんな努力も隊長は軽々と踏み越えていく。成長の留まるところを知らない怪物。そのくせ精神性は温厚、奢る事も無くアホな行動も持ち前の愛嬌で部隊の人間から慕われている。
――――マスターから興味を募る隊長が、誰よりも強い隊長が、なによりそれに嫉妬する私に優しくしてくれる隊長の事が・・・私は嫌いだ。
どうにも素直に付き合うことができない。そんな自分が嫌いで嫌いで堪らない。その醜さに、弱さに、情けなくなる。
つい考えてしまう。隊長が私の目の前に現れたりしなければ、こんなにも醜い自分が生まれる事も無かったと。自身の性格の悪さは生来の物か、それともそうでないのか。もはや誰にもわからない。
今はただ・・生き残りをいたぶることでしか自分を保つことができない。敗者はこうなると目に焼き付け気を引き締める。
「や、やめてくれ!が、ぎゃああああああああ」
「・・・・はあ、私はダメな奴だ」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
「副隊長・・なにも生きたまま燃やさなくても」
「うるさい、これはA種を呼び込むのに必要な事よ・・・それにね。逃げ出した騎士はともかく弱っちい奴らをどうしようが別にいいでしょ。敗者は死に方も選べない。本当に恐ろしいわ。おまえたちは交代しながら休憩」
「・・わかりました」
とってつけた理由に高まる疑念と生暖かいの目。ごめんなさい、A種云々は嘘だ。生きたまま燃やしたくて燃やしたよ、ああ。やはり私がおかしいのか。外界の人間を嬲ることがそんなに悪い事か?
基本的に守護者は優しい子ばかりだ。お陰で持ち前の残虐性が孤独を産み出す。これはどこに捨ててくればいいのだ。それでいて咎められる事も無く心配ばかりされる。その度に自己嫌悪をする。私は・・浮いている。この部隊にいるべきではないのかもしれない。
動かなくなった黒焦げの男の頭を踏みつぶす。
・・・・殺しを昔ほど楽しめなくなった気がする。
「隊長、すぐにでも追跡をかけることは可能ですがどうします?」
「じゃあ準備が終え次第すぐに向かおうか、このまま逃がせば、なんか優秀ともっぱらの噂のA部隊の名折れだ。それに”あれ”が気になる――――やっぱり見間違いじゃないよね・・・」
「なぜ・・・彼らと一緒にいたのでしょうか?あれに協調性などあるとは思えません―――」
騎士との戦闘の最中、混然とした騒乱にまぎれ騎士に抱えられた小さな影。フードで顔は確認してはいないが、こぼれ出た金髪が嫌な憶測を立てる。
「それに獣人の死体も消えています。あの状態から逃げおおせるなんて普通じゃありませんよ。そもそもなぜ獣人がこんな所に・・・獣人は全員殺処分されるはずですが」
「もしかしたら・・・”失敗作”なのかもしれない。確証はないけど」
「そうなら、ここにいる理由もわかりません」
「あのタフさ、まるで不死性だ。処分された後も生き延び隠れていたのかも。能力を隠し通し敢えて処分され機を窺っていたと考えれば説明もつくかな」
あれほどの傷を負って生きている。その事実に自分が任務の失敗の責任を負っていることに気が付く。逃がした時点で隊そのものに責任が生じるが、私自ら相手取った敵を逃がしたこと自体は個人のミスだ。評価を欲してやまない私にとって許しがたい失態。
・・・外の人間の分際で舐めやがって~
「・・・思った通り面白い奴。次は改めて二度殺してやる」
「うんうん、その意気だ――――」
「た、助けてえええええええええッ!」
突如、通路に響く助けを求める声。何事かと全員の視線が声の元へと集まる。通路の曲がり角から現れたのは私たちとは違う意匠の部隊服を着た人影。あれはD部隊の隊章か。ふらふらと朧げな足取りで歩み寄るその姿は今にも倒れそうだ。
「そこで止まれ!所属と認識番号を名乗れ!・・・おい聞こえているのか!」
「助けてえええええええええッ!」
「――――隊長」
「・・ああ、撃て。ただし」
「わかってますよ」
短い炸裂音が響く。放たれた銃弾は狙い通り足首に着弾する。だが所属不明の隊員は倒れることなく、それどころか駆け出した。
「だずげでえええええええええッ!」
「全隊員、下がれ隊長がなんかする」
「え!?・・これでも喰らえッ!うら!」
その場で隊長が刀を雑に振り抜く。その行動にリンクするかのように見えない斬撃が”敵”を胴体から真っ二つに裂く。舞う上半身に飛び散る中身。倒れた下半身からは内臓や血ではなく白い綿が飛び散る。それを認識した瞬間、私は魔術を行使していた。
「【嚇炎】」
炎のラインが散らばった体を残さず切り裂き炎上させるも赤く揺らめく熱原体がコミカルナ形を持ち実体化する。
あれは――――ぬいぐるみか!
「だずげでぐれええ”え”え”え”え”え”え”ええ」
「ビームコンデンサーを用意しろ。全員、配置に着け。来るぞ!」
「隊長!あの症状、資料で見たことがあります。あれは間違いなく――――――」
最悪だ。特定種別A種の中でも最悪の部類の敵がやってくる。脱走者相手では感じえない緊張感。喉がひり付く。
通路の先。曲がり角からぴょこりと顔が覗く。地面に垂れた金髪。異様なのはその顔面。目に張り付く大きなボタン。かわいらし気な顔は丸みを帯びており、それはまるで作り物のような質感を帯びていた。
「――――――ッ!ぬいぐるみのアリスゥ!!!!!」
遂にその全貌が露わになる。背後には様々な”ぬいぐるみ”を連れ気の抜けるゆるふわな見た目からは考えられない威圧感を放つ。奴の力は危険だ。放置すればこのダンジョンが崩壊しかねないほどの異能の保有者。殺戮者の系譜!
「撃てえッ!」
溢れ出すぬいぐるみを前に光線銃、銃弾や魔術で弾幕を張る。背後は隔壁の降りた通路。逃げ場はなく、脱走者を相手にしたような余裕もない。触れれば一貫の終わり。ぬいぐるみがぬいぐるみを産み出し伝染する。ここで必ず仕留めるしかない。
通路いっぱいに怯むことなく迫りくる死の軍勢。悪夢のような光景と相対する。
こんな所ではまだ死ねない。
こんな、こんなところではッ!
柔らかな濁流が一つの部隊を襲った。理不尽な運命は唐突にやってきては、たやすく全てを飲み込んでいく。
彼らは今・・・なにを思うのであろうか。