オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

21 / 88
第12話 氷水騎士団

 

 床に這いつくばる黒い毛並みの獣人。涎を垂らし苦しそうに床に爪を立てもがく。抜け落ちる体毛。だんだんとその輪郭は縮み、まだ少年とも言える顔つきが芽を咲かす。

 

「グ、グオアアアアアアアアア!――――ッはあ、はあ」

 

 そんな今にも崩れ落ちそうな肩に仲間が手を貸し支える。

 

「大丈夫か?よくやってくれたぞ。グレイズ隊員!」

 

「新米の癖に見直したぞ、坊主!」

 

「くそ!先輩の立つ瀬がぬぇ!最高の後輩だよなぁ貴様は!」

 

「ハ、はは。いえ・・・皆さんが無事でなにより、です」

 

 包囲網をなんとか潜り抜けた騎士たち。お互いに顔を突き合わせ改めて生きていることを実感すると自然と笑いがこみ上げる。生きていることがなんと素晴らしき事か。当たり前の幸せを噛みしめ、嬉し涙を溢す。

 

 黒服の追跡者に延々と追い回され袋小路に追い込時は死を覚悟した。だが、こうして僕は生きている。これもまた神の導きか。追手を警戒していたが来る様子もなく、こうやって休息もとってられる。

 

「う”」

 

 カラカラとグレイズの体から銃弾が抜け落ちていく。どれほどの銃弾を受けたのか。よく生きていたものだ。

 

「ふ、うっぐ。ううう”う”」

 

「まったく泣きすぎですよ、モルデさん」

 

 その中で一人大泣きする者がいた。所属する騎士団の中でもかなり若く、歳も近い事から新米の僕にいろいろといろはを教えてくれたモルデさんだ。普段は落ち着き払った頼りがいのある先輩だからか大泣きするその姿に思いもよらず心配して声を掛ける。

 

 どうにも周りの様子がおかしい。この気まずげな空気はなんだろうか。

 

「あー、グレイズ隊員。モルデのことは放っておいてやれ」

 

「え、何かあったんですか?」

 

「そいつが婚約協定結んでいたのは知ってるか?」

 

「ええ、それは。確か二年後に結婚される予定だと聞き及んでいます。お相手は可愛らしい女性の方でしたよね・・・・・え」

 

「・・・そういう事だ」

 

「ジルウウウウウウウウ!ごめんんんんんっうわああああああああああああ」

 

 大声をあげ床に縋りつき咽び泣く。こんな先輩見たことがない。あのカッコよかった先輩の面影はいまや見る影もない。やはりダンジョンは恐ろしい場所だ。内面に眠る別の一面がまろび出る。それに婚約協定が破れたって・・・何があった?

 

 よく見ればみんな前に比べやつれているように見える。

 

「いったい先輩方の身に何があったんですか」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 気まずげに顔を見合わせる先輩たち。本当に何があった・・・

 

「そう、だったな。グレイズ隊員だけ別の場所に連れていかれたんだったな」

 

 皆が暗い表情で沈黙する中、騎士団副団長のマンディスが無精髭を掻きながらポツポツと語る。

 

「まあ、なんだ。地上で化物と遭遇してからいろいろあったよな。騎士団長は戦死、他の隊員と逸れるし、カンテラ壊されるわでてんやわんやだ」

 

 外界での調査で遭遇した魔獣の群れ。騎士団長が殿を務め撤退する最中、魔獣の激しい攻勢に晒されていた。

 

 戦闘の最中に破壊されたカンテラ。あれから運が最悪な方に傾いた。あのカンテラは探索の際に必要不可欠な物で宿りし炎は火継守が直接灯した特別な炎である。カンテラの炎は結界を展開し範囲内に存在する命を冷気から守り、視界一面が真っ白になってしまうホワイトアウト現象や夜の闇をも見通し雪原に道を示す。これが無ければ外界にはびこる危険な未踏の空白地帯をまともに探索することはできない。

 

 カンテラを失い降り注ぐ銀の世界で進むべき方向も定まらず体温と体力はどんどん奪われ一人、また一人と息絶える仲間たち。死が首筋まで這い寄って来ていた。

 

 あれを見つけるまでは。

 

「もうダメだって時に偶然見つけた遺跡。寒さから逃れるために地下に続く階段を進み、そこで罠に嵌まって意識を失った・・・ここまではいいな」

 

「はい、ガスが流れ込んできてそのまま・・」

 

「・・・その後だが目が覚めたら俺たちはどこかの一室に閉じ込められていた。しかも全裸で。おまけに俺たち以外にも知らない奴らが多く捕まってやがった。こいつらもまた全裸だった。意識は曖昧でひどく体が熱かったのは覚えている。扉は開かねえし魔術の行使も上手くいかねえ。どうしようかってまともに動かない頭を働かせようとした時に・・・・・・女が現れた」

 

「女、ですか」

 

「ああ、扉からたくさんの女が、だ。どいつもこいつも息を飲むような美人でおまけに、全裸だった・・そこから何かがおかしくなっちまった。気がつけば扉のロックが解除されるまで来る日も来る日も女とヤりまくっていた。その間、食い物はおろか水の一滴ですら口にせず不眠不休で定期的に入れ替わる女どもとずっと行為に及んでいた。いや、ヤらされてたか。とにかくあの時の俺たちは普通じゃなかった。だってあり得ないだろ?男の体はそんなに連戦可能な仕様じゃねえんだぞ!?日に日にやつれていく体に不安を感じつつも本能に押され腰は勝手に動き続けるし、正直擦り切れるかと思ったぞ・・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・なるほど。モルデさんは婚約者以外と姦淫したことで図らずも誓いを破ったという事なのか。可哀想に・・・

 

 それでみんなこんなにもやつれていたのか。話を聞く限り薬か何かを盛られたのだろう。体力の向上と精力増強。薬学でそういった効能の薬があるのは知っているがどれも材料的な意味でかなりの値が張る。そんなものを投与してまで何がしたいのだろうか。

 

 というか、僕があんな必死こいて地獄を見ている間先輩たちは何してんだ、羨ま・・・ではなく、ここって本当にあの悪名高い三大禁忌の一つなんだよな?なんでこの人たちはエロい目にあってるんだ?

 

 いくら詳細不明だといっても一般的なダンジョンとまるで勝手が違い過ぎる。

 

 それに、なんで僕だけ別の場所に移されたんだろうか?

 

「・・・それで感想は?」

 

「おう!マジ最高だったぜ!あんな美人お目に掛かれねえ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・ゴホン!!そういや、俺も聞きたかったんだがグレイズ隊員は今までどうしてたんだ。お前のあの姿はいったい・・・」

 

 さて、どう答えたものか。獣人の如き姿。なぜこんなことができるようになったのか自分でもわからない。自然とできるようになっていた。

 

 体を伸ばしどこにも異物が残ってないことを確認する。異常な頑丈さに再生力。まるで堕ちた獣のような姿はグレイズ自身を嘲笑う皮肉な力そのものであった。

 

「何があったかは僕にもわかりません。目が覚めた時には既に何かされていたみたいで何がなにやら・・あの時は薬を嗅がされてたせいかここが現実か夢の中かも判断できないぐらいに意識が朦朧としていて・・」

 

「他に何か覚えていないのか?どんな些細な事でもいい」

 

 これは・・・不審がられているのか。一人だけ別行動だったのは痛いな。お互いの間にできたくだらない溝はすぐにでも埋めるべきなんだろう。こんなところで不和ってるのはごめんだ。

 

「すみません・・・なにも。あの力も守護者に追い詰められて初めて使いましたので」

 

「まあ、グレイズ隊員が身を張って敵の注意を引いてくれたおかげで俺たちはこうして生き抜くことができたんだ、あてにさせてもらってもいいな?」

 

「そうだ気にするな坊主。包囲網が完成された時点で本来なら全滅していたんだ。抜け出せず死んでいったあいつらのことまで気負う必要はねえよ」

 

「・・・・・・・・はい」

 

 先輩騎士たちの心遣いが身に染みる。

 

 ・・・・結局、僕は話さなかった。いやできなかったと言っていい。

 

 言葉にしようとすると激しい罪悪感と自己嫌悪に晒されありもしない罪を告白することに躊躇い言葉が喉に詰まる。

 

 必死に声を絞り出そうとするもか細い吐息だけが零れる。

 

 ――――――――なんだ、やっぱり何かされてるじゃないか。

 

 あんなことを言ったが、グレイズはしっかりと何があったのかを記憶していた。

 

 何もない病的なほど真っ白な一室。ピントの合わない眼をグレイズはギョロギョロと動かす。体は拘束され動くことも出来ない。

 視界には白い服を身にまとう何者かがグレイズの切り開かれたお腹に手を突っ込みくちゅくちゅと音を立てている。それなのに、何も感じない。痛みですら。

 それが逆に恐ろしく腹に触れる何者かの手の感触を勝手に幻視してしまう。それがたまらなく気持ちが悪かった。グレイズはそれが終わるのを耐えるしかなかった。こんな場所からでも神への祈りは果たして届いていただろうか。

 

 あれは、夢であって欲しかった。

 

 グレイズは内に秘めし病巣に打ち震えている間も話は進む。

 

「さて、これからの方針だが元の場所に一度戻ってみないか?」

 

 それってさっきの袋小路のことだろうか。

 

「おいおい正気かよ」

 

「仕方がないだろ。俺たちはここがどこなのかも知らないんだぞ。それに”彼女”が新たに導いている」

 

「なんだと」

 

 ケープを目深に身を包む金髪の少女。フードから覗く無表情な顔が人形のような印象を与える。少女がギュッとグレイズの手を掴む。

 

 グレイズは彼女の名前を知らない。それどころか会話すらしたことがない。怪しげな実験の後、投獄されたグレイズはそこで彼女と初めて出会った。話しかけてもまったく無反応。瞬き一つせずじっと虚空を見つめる姿にずっと不気味さを感じていた。何より人外じみた美しさが近寄りがたかった。そんな彼女との共同生活が始まり一カ月が過ぎた頃・・・異変が起きた。

 

 消灯された一室。突然開かれた扉から籠れ出る不穏な空気。そしてグレイズを揺り起こす小さな手に目を覚ます。困惑するグレイズは彼女の手に引かれるがままに一緒に脱出した。

 

 進むべき道筋がわからないグレイズは言葉を介さない彼女に導かれ状況もわからぬままに進む。その結果逃げ出した副団長たち脱走者のグループと運よく合流できた。

 

「・・・・・」

 

 少女はグレイズの服を引っ張りある一点を指差す。いままでこの子が導くがままに道を進んできた。脱走者の残した痕跡を辿り追って来た守護者は別として、それまで敵と会敵はすることは決してなかった。

 

 悲鳴や不気味な笑い声、戦闘音が響くこの広大なダンジョンで生き延びれたのは少女のお陰だと言っても過言ではない。武器や服を手に入れれたのも彼女が保管庫を教えてくれたからだ。此処まで来ると誰も少女の能力を疑うことはない。

 

「いったいどこの子なんだろな?こうもダンジョン内の構造に詳しいと、このまま信用してもいいものか」

 

「それはわかりません。ただ僕と同じように捕まっていたので敵ではないといは思いたいですが」

 

「・・・・でも、そいつお前の腕に噛り付いてるぞ」

 

「え、おわッ」

 

 がじがじと腕にかみつき血を啜っている。な、なんなんだろうこれ。なぜ僕の血を吸っているんだ。噛り付く少女を振り払うと口惜しげな顔でじっと見てくる。

 

 今のは会話のできない彼女なりのコミュニケーションとでもいうのだろうか。だからって血を啜るか?

 

 一見じゃれついているようにも見えなくはないが今のやり取りでかなりの不信感を先輩たちに与えてしまった。こんなことで争っている暇なんてないのに。血を吸われたことは黙っておこう。人食いに類する行いは聖王国では禁忌だ。

 

 ・・・・・・おかしいな。なぜ僕はそのことに嫌悪感を抱かない?

 

「本当に・・・大丈夫かよ」

 

「いや、これは彼女なりのコミュニケーションなんですよ!牢獄にいた時もよくこうやって甘噛みされてましたし」

 

 嘘だ。そんな事はされたこともない。なぜ、こうも庇うのか?

 

「まま、いいじゃないの副団長どの。彼女がいれば探索も捗るってもんさ。なあ?」

 

「・・・・まあ、おめえがそう言うのなら・・・・・・・・・いや、お前は誰よ」

 

 

 さっきからごく自然に会話に参加してくる見知らぬ男。騎士団にこんな男はいなかったはず。

 

 ・・・驚いたな、こいつ脱走者の生き残りか。まさか他にも無事な者がいたのか。

 

 赤毛の男はケラケラと笑いながら喋る。

 

「いやー酷いな。俺たちを囮にして逃げるんだから。脱走者同士仲良くすべきだろと思うな」

 

「ほう・・我々以外にもそれなりに使えるやつがいたか。あとお前たち冒険者は別に仲間じゃない。恨むなら俺たちではなく己の実力の無さを恨むべきだな冒険者」

 

「手厳しいが全く同じ意見だ」

 

 くくく、と不敵な笑みを浮かべる精悍な顔つきをした赤毛の男。自然と騎士団全体に警戒が行き渡る。

 

 まさかあの包囲網を超えたものが我々聖騎士以外にもいたと夢にも思わなかったのだ。見た限りそれなりの実力者であることを窺わせる。腰のバックルから吊吊り下げた冒険者の認識タグがそれを裏付ける。

 

 こ、こいつランカーか―――ッ

 

「素材は銀に黄一色か、まさかBランク冒険者まで捕まっているとは・・・Bランカーは久しぶりに見たぞ。・・・・我々はセプストリア聖王国、氷水騎士団所属の聖騎士だ。そちらの名前を伺おうか?」

 

「ご丁寧にどうも、俺はエルモディア冒険者ギルドに在籍する冒険者のリズだ。よろしくで頼むよ。気軽にリズとでも呼んでくれればいい。ちなみにランクはBです!BだぜB!ふははは」

 

 Bランク・・とんでもない大物が現れたものだ。強気な姿勢で話すマンディス副団長は内心冷汗をかく。

 

 冒険者に与えられる階級でもBランクは実質最高ランクに値する。おまけにエルモディアか・・・その一言で途端にこの場の雰囲気が変わる。

 

「待て、落ち着け馬鹿ども。こんな場所でおっぱじめるつもりか」

 

 このリズという冒険者。我々が聖王国の騎士だと知った上で包み隠さず発言しているのか。エルモディアは帝国領の主要産業都市だ。

 

 聖王国にとって帝国はその祝福の特性から無視できない脅威を孕む戦争国家だ。両国間での摩擦でどれ程血が流れたことか。

 

 リズの態度だが・・・・敵愾心をまるで気にしない振る舞いは国勢を気にしない冒険者の気質そのもの。そしてそれが許されるのはランク持ちだけだ。

 

「だがよぉ、こいつ帝国の冒険者だろ。どれだけ多くの同胞が殺されたと思ってる!」

 

「時と場合を考えろって言ってるんだ!それにわかるだろ、こいつは・・・・」

 

「見りゃわかるッ!」

 

「そういきり立つな。俺は聖王国とのくだらん戦争に関わったことなんてない。ここで争うよりも俺としては是非ともあんたらと仲良くしたいね。一人とは寂しいものだぞ」

 

 リズと名乗った男に戦意はないようだが一挙手一投足に嫌でも意識が向いてしまう。

 

 ここまで彼を警戒する理由。帝国の冒険者は変わった事情があり、戦時中は傭兵として参戦できる。クエストとしての傭兵業に従事する彼らに秩序は無ければ常識も無い。戦場の習わしもなんのそのどこ吹く風だ。過去何度も痛々しい事件を起こしている。

 帝国の冒険者は民度が低すぎる。ある意味統制の利いた帝国の銃士どもがまだ紳士的に思えるほどだ。品性を感じさせない下劣さだ。

 

 それを改善しようともしないのは帝国は国教の性質故、成り立ちから戦争賛美国家だからだ。そのあまりにも好戦的な国風。歴史の浅い新興国家のクセして聖王国とまともに戦う事が可能な非常に強力な祝福である”万物貫通”と”火の属性の疑似貸与”は雪原では脅威そのものだ。

 

 吸収した小国の信仰の破壊はせずに許容し着実に領土を広める小賢しさ。信仰の自由を保障することで反抗勢力を最小限に留めている。聖王国では考えられない寛容さ。その自由な気風が冒険者の肌に合うのだろう。冒険者天国と言われる所以もここにある。

 

 だからか様々な神による恩恵の多様性に富んでおり非常に厄介な国へと変貌したのだ。魔術への知見はほぼ無いが神のオリジナリティ溢れる恩恵や祝福で急発展している。

 

「待ってください、彼はランカーであるなら戦争に関わる理由はないはずです。そうじゃないですか、リズさん?」

 

 グレイズの意見にマンディスは頷く。

 

 そうだ、たしか戦争に駆り出される冒険者にはある条件があったはず。戦争への参列は増えすぎた使えない人間を削るための措置。帝国は恩恵狙いで多くの人間を受け入れたがそのせいで人口過多に悩まされている。

 

 ギルド側からすれば貴重なランカーである彼を戦争に参列させるメリットは無い。

 

 

「へえ、ずいぶん帝国の冒険者事情に詳しいんだな。勤勉なのはいいことだとも少年」

 

「別に大したことじゃないですよ。敵の事を知っているかどうかで戦闘結果が左右されるんですから」

 

「そうか、だが残念な。君の考えは大外れ。俺は積極的に参加してたよ」

 

「な!?」

 

 さっきくだらないとか言ってなかったかこの人!?

 

 不敵な笑みを浮かべるリズ。先輩たちはますます警戒心を剥きだしにし、剣に手をかける。騎士になれば誰もが嫌と言う程に帝国による被害を知らされる。戦場の常とは言えどれだけの村が帝国の冒険者によって被害に遭ったか。あれは戦略的な略奪行為ではない。戦士ならば意味も無く人を殺さない。弄ばない。

 

 ・・・本当に仲良くする気あるのだろうか。冒険者はやはり野蛮なのか。各々が重心を低く保ちいつでも動けるよう戦闘態勢に移行する。

 

 相手はBランク冒険者。自然災害そのものと評される害獣を撃破可能とされる実力の持ち主にどこまでやれるのだろうか――――――

 

 ピリピリと震える空気の中でリズは口を開く。

 

「なんせ・・・・戦争のどさくさに紛れて他国の管理するダンジョンを探索できるんだからな!」

 

「・・・は?」

 

 リズは興奮気味に語り出す。その在り方はまさに自由人。

 

「国によって冒険者でも立ち入り禁止のダンジョンがあるが戦時中は警備がどうしても緩くなるからな。略奪の名目で聖王国に行き探索しに行かない理由がないよな」

 

「おい、誰かこいつしょっぴけよ」

 

「Bランカー相手に無茶いうな」

 

 戦争が起きれば略奪が起きるのも世の常。雪の影響で補給路の維持が難しい戦場では略奪は貴重な補給源である。略奪は戦場の習わし。現地調達は基本である。

 

 帝国における国教の祝福は継続戦闘時間と探索能力を高め自然を完全に味方につけていた。それを活かし国力差をものともせず帝国は聖王国相手に雪原で立ち回る。そこらの軟弱な弱小国家とは違い非常に小賢しい戦い方をするのだ。周辺国に戦争難民として工作員が紛れ込むことが大きな問題になっている。リズはそれを利用し便乗し戦争そっちのけでダンジョン探索に向かうというのか。

 

 やはりランカー上位は冒険バカしかいないのか。それができてしまう実力を保有しちゃってるのか。

 

 急に相手をするのが馬鹿らしくなってくる。

 

「はあ、Bランカーでも捕まってしまう難度のダンジョンか・・・一時的に協力体制を結びたいがどうだ」

 

「話がわかるな。聖王国の騎士ってのはお堅い奴ばかりかと思っていたよ」

 

 副団長は決断する。大抵の騎士団はそもそも外界の探索はやれどダンジョン探索は専門外の領域。雪原を回遊し異常の確認作業と空白地帯の穴埋めが主な任務。

 

 ここが本当に三大禁忌の一つであれば噂通り生きては帰れない。優先すべきことは生きて情報を持ち帰る事。詳細が一切不明なダンジョンの情報ともなればその価値は計り知れない。今までその位置すら知られず噂ばかりが独り歩きしていたのだ。攻略の目処が立てば国益にも繋がる。

 

 そのためにも専門家が必要だ。我々はダンジョンの歩み方も知らないのだ。

 

「御託はいい。それでどうなんだ」

 

「返事は最初からしてるんだがね」

 

 マンディスが差し出した手をリズは握り返す。敵国の人間だがこれほど心強い味方はいなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。