「さて、一つ聞いておくがあんたらのダンジョン探索の経験はどれぐらいだ。聖王国って騎士が探索を独占してるんだろ?」
セプストリア聖王国にも冒険者ギルドはある。だが領土内に存在するダンジョンに踏み入る権利がない。それはやはり聖王国内での冒険者の地位が低いというのもあるが外様の人間を呼び込んでまで攻略する必要性がないからだろう。偏にダンジョン内の取得物を独占するための方策。上位の騎士団率いる軍隊による攻略は花形であり国による手厚いバックアップを受けれる。お陰で非常に効率的な探索が可能。それもこれも高い国力があってこそ可能。列強国は伊達ではない。
国によって徹底的に管理されたダンジョンは例外を除いて国が認めた騎士団にのみにしか探索の許可は下りない。
氷水騎士団の主な仕事は根城とする都市内外の不穏分子の調査に排除、主に防諜関連となる。
つまり・・・
「ない」
「ん?」
「無いんだよ。ダンジョン攻略なんて一度も経験がない。これが初めてだ」
「・・・なんで初心者が古戦場跡に来てんだ。舐めてんのか?」
「・・・・ここにいるのは我々の意思ではない」
まったくもって返す言葉が見つからない。余り考えないようにしていたがやはり禁忌区域に踏み込んでいたか。よりにもよって最悪の場所に迷い込んでしまった。
「我々はもともとある人物の追跡のため禁忌区域の近くまで訪れていたんだが、魔獣に襲われてカンテラを破壊されてしまってな」
「ああなるほど、よくある全滅パターンか。それで彷徨った挙句、塔にたどり着いて罠に嵌ったってとこか。運がいいのか悪いのやら」
「塔?・・・何を言っているんだ。ここは城の地下だろ」
「・・・・・・なるほどあれは全部デコイだったか」
食い違う認識。遭難するほどの緊迫した状況でも流石にそびえ立つ建造物を塔だと見間違うはずがない。吹雪の中、白い雪にその全貌が包まれた建造物の影は確かに古城だった。つまりそういった建造物がいくつもあり我々はまんまと誘い込まれたということとなる。
「・・・・思ったよりも普通じゃないな」
「どういうことです?」
「地上の構造物は要は全て罠ってことだろ、魔獣も含めてな」
「我々が魔獣に誘導されたとでも言いたいのか?ありえん!奴らにそんな知能があるものか・・」
「なんだ知らないのか。人気のない地域に生息する分布する魔獣ほど獰猛で恐れ知らずの知能高めマシマシなんだぜ。カンテラの火程度なんぞで襲撃を躊躇わない。寧ろ興味本位で襲ってくるぐらいだ」
リズの認識でも騎士団による探索は非常に優秀だ。徹底した情報共有に後方支援。優秀な人員の存在と拠点設置による中継。効率的に攻略してみせる。だがそれはあくまでも領土内のダンジョンに限る話。遠方の未開のダンジョンとは訳が違う。そこに至るまでの道中の厳しさを騎士どもは知らなすぎる。
地図の空白地帯が埋まらない、探索が上手くいかないのは基本的に都市から離れれば離れる程魔獣の厄介さが増すからだ。コミュニティを築いた原生生物の縄張りに踏み入れるにはリズでも勇気がいる。やたらと賢くて人間の扱い方を熟知している。
凍てつく環境に魔獣、運が悪ければもっとヤバイ害獣。そこからダンジョン探索も行わなけらばならない。
ダンジョンは初見で攻略はまず不可能。そんな僻地にあるダンジョンなど碌でもない難易度をしているのが常。情報を持ち帰りまずは存在をギルドに認知させるのが優先。都市まで無事に帰り付いて初めて第一段階を終える。第一発見者ともなれば位置を特定するだけでもその情報はかなりの金になる。
そこから多くの冒険者の流動が始まり情報と屍が蓄積されていき攻略への道標となるのだ。
「奴らも人間の弱点を知っているから積極的にカンテラを破壊しにくる。魔獣は火を恐れ自分から近寄ることはないって認識は誤った知識だ。度胸がある奴はどこからでも襲って来る。探索にはイレギュラーが付きものさ」
「いや、もしかすれば魔獣じゃなかったかもしれない。雷を放出する見たことのないタイプだった」
「・・・・・それ害獣じゃね?噂の雷獣殿は聖王国領よりに生息してたのか。狩り損ねた」
・・・狩り損ねた?気軽に言ってくれるがこいつは何を言っているんだ。聞き間違いではないよなとマンディスは耳を疑う。
―――害獣。
災害レベルの脅威と言わしめられる魔獣の上位個体とされる謎の多い生物。一説によれば魔獣の突然変異や長生きした魔獣が最終的に至る形態と未だに議論され続けているがその正体は未だ不明。滅多に人前に現れることがなく目撃情報も少ないため存在自体が半ば噂と化しているがそれは確かに存在する。一度遭遇すればそれが最後。未だに大した情報が集まらないのは遭遇した者がことごとく殺されるからだ。
だが目の前の男はそんな化物を気軽に狩り損ねたとぬかす。害獣は情報量が一定に集まれば賞金が賭けられるとのことだがまだ情報が曖昧な段階でそれ目当てでこの地に訪れたとなれば正気の沙汰ではない。立ち振る舞いから発言内容との乖離を感じない辺り実力者なのは間違いないが。
「さっきの奴らにしてもだ。なんだありゃあ。なんでダンジョンに部隊めいた連中がいるんだよ。意思疎通できてたしあれ人間だよな?何者だよ」
「ああ、やっぱり変だよな。人型の守護者なんぞ聞いた事も無い。ここはもう誰かに攻略されていたのか?それともあれか?冒険者が洗脳されてんのか?」
他国の兵士だと考えた方がまだ納得がいく。銃器を扱うことは火属性の証。火継守で構成された特殊部隊かなにかが既にここを攻略したのか?ダンジョン跡を利用し拠点とすることは珍しくも無い。
「それなら何かしらの形で公表されてもいいだろ。一応ここは帝国と聖王国の間に位置するんだからして。どっちも監視の目は光らせているはずだぞ」
両国からは腫れもの扱いの三大禁忌に指定されてからはその線引きも曖昧になってしまったが既に攻略されていたとなれば新たな領土問題が発生する。どこの誰とも知れぬ国家が占有していたとなれば両国がそれを許すはずがない。両国と敵対する以上のデメリットは無いと思うが・・・
「異変があればすぐにばれる。そうまでして不法占拠するメリットってなんだ?俺たちを捕まえた理由は?そう考えるとやっぱりしっくりこない。世にも珍しい人型の守護者が居座るダンジョンとして考えるしかない」
「あまり・・納得がいかないな」
あの黒ずくめの部隊がダンジョンの守護者?統率された組織めいた動き。そしてなにより恐ろしく強い。あんな化け物どもがたくさん徘徊していると考えるだけで震えてくるな。冗談はよしてくれ。
「話は戻るがさっきの黒ずくめの奴ら。あいつらの使う連射が可能な銃。銃の本場である帝国でも見たことないんだよなー」
あの銃をリズは第三級遺失物に相当すると見ている。そこに魔術大国の騎士ならではの意見が飛ぶ。
「それを言うなら奴らの魔術もだ。こちらの神言魔術に完璧に合わせた上に、ただの魔術で迎撃しやがった。こっちは神性付与なんだぞ・・・普通は貫通する。なんで・・・こちらの魔術が通らないんだ」
携行した近接武器にしてもそう。あんなにガチャガチャ動く可変式の武器は見たことがない。手に提げた長方形の黒いケースが大剣や斧に変形するのは素直にカッコいいのだが初めて見た時は驚き圧倒されるものだ。身の丈を超える武器を軽々と片手で振るう筋力に神性付与の魔術に対抗する通常魔術。そして火の使い手。
まるで・・・・人間と戦っているかのようだ。先行きが危ぶまれる。
リズは懐から何かを取り出す。
「例えばこれとか・・・なんだろな?」
手のひらサイズの黒い何か。四角いそれは小さな突起物がついており、それを押すたびにピピピと音を立てる。
「それは?」
「さっきどさくさに紛れて奴らの懐から拝借した。この”タイミング”でこれが俺の手の内にあったってことは重要な何かだと思うが・・・使い方がわからんね。高度な機械類の一種だろうが、知識がなければ意味がねえな」
生き死にが懸かったあのどさくさに紛れて盗みを行ったのか。冒険者根性凄まじいというか、あさましいというか。
グレイズは急にクイッと腕を引かれる。
「どうしたの?」
「・・・・・・」
少女がじっと黒い機械をじっと見つめている。地形を把握していることと言い何か知っているかもしれない。リズにその旨を伝えるとすんなり了承を得た。彼も少女に対し何か期待をしているのかもしれない。断りを入れ少女に手渡す。
すると慣れた手つきでボタンを押し始める。その淀みない行動にやはり少女はダンジョン側の存在では無いかと疑念が深まりゆく。周囲が見つめる中、音だけが静かに響く。
先行き不安な現状。何をすればいいのかもわからない我々にとって僅かな可能性をも手繰り寄せたいのが心情。果たして啓示は下るのか。不用意な行動は出来ぬなら新たなる展望を座して待つしかない。
「!」
祈りは通じたのか、小さな機械から透明な光が漏れる。
周囲がざわつく中”それ”は喋り出す。
『ん、突然呼び出されたかと思えばまさかの相手。何かご用かな?虫けらども』
空中に投影された半透明の女はこちらを尊大な態度で見下しそう言い放った。
◇
(なんだか、妙なことになってしまった)
目の前に広がる映像に統括室長リフォルクルスは内心ため息を吐く。
各関連機関に指示を出し、自室にて仮眠をとっていたところに急な通信。
端末の表示ではお相手は黒殖白亜A部隊からと判明する。有る筈の無い通信に眉を顰める。現在、黒殖白亜のほぼ全てを第二、第三階層に投入し事態の収拾に当たらせている。第二階層に所在するメインシステムが何者かに掌握され第一階層より下との通信は遮断されており設置された監視カメラも沈黙。モニターで確認することもできない。
それなのに、この表記はなんだ。
いや、なぜ私の個人端末にアクセスしてくる?
通信不能によりお互いの情報共有は急務なはず。普通は指令室に渡りをつけるべきだろう、それがわからぬ奴らではない。
そもそも私の端末と連絡がとれる者は限られているはず。A部隊内の人間で知る者はいない。
・・・このタイミングでの意図不明な通信。どう対応するか決めねばならなかった。
考えようには渡りに船でもある。隔壁封鎖は機密の塊である特定種別A種を外部へと流出するのを阻止するための止むおえない行為。隔壁が降りたため物理的にも確認が不可能な現状でこの怪しい通知は応答するしか選択肢はない。
さて鬼が出るか蛇が出るか。
そんな覚悟で挑んだ結果は思いもよらぬ相手を引いてしまった。
現れた映像にはアホ面をさげた脱走者どもであり空間に投影された私の姿を驚きの眼差しで見つめている。ある意味予想外の顔ぶれに変な笑いが出そうだった。
(繁殖用に捕らえられた外界の人間どもか)
混乱に乗じ逃げたと報告は受けていたが・・・知性をまるで感じさせないが本当にこいつらが起動させたのかと訝しむ。たまたま端末を起動し通信機能を立ち上げたなどあり得ない。暗証ロックはどう突破するんだよと辺りを見渡し――――――ある人物が目に留まる。
脱走者どもの中で一際異彩放つ唯一の少女。フードから覗く金髪や服装からその正体に嫌でも察してしまう。私は目を見開く。
なぜ・・・特定種別A種がここにいる――――??
手に持つそれこそが端末。こいつが操作したとでもいうのか。この面子では一番納得がいくが・・・いや、やっぱ無理がある。
それよりも周りの奴と集団行動がとれている事実に驚きが勝る。A種は自分以外の存在を皆殺しにするのに少年の腕を握り寄り添う姿に目を疑う。
このアリスはどのアリスなのだろうか・・・持ち前の異能で無理やり通信回線を繋げたのだろう。そうでなければこうして連絡できる状況に説明がつかないが記憶の限りそのような異能は確認されていない。
記憶に点在する情報が絞られていき、ある答えを導き出す。
まさか例の実験個体なのか――――
「お、女ぁ!?空中に女がッ!」
「え、あ、あんた。何者だよ!なんで浮いてんだ!すげえ!」
「幻?いや、もしかして別の場所から姿だけ映し出してるのかこれ?」
冒険者どものなんとも間抜けな感想に呆れる。知ってはいたがやはり外界のレベルは低いな。程度が知れる。映像の投影程度で騒ぐな。ざわめく雑音が彼らへの期待を下回らせる。既に評価は地に落ちていた。こいつら相手になにを期待してしまったのか。いつまでも騒ぎ続ける冒険者に辟易する。
・・・
・・・・・・
・・・・・それにしても騒ぎ過ぎでは?
「うおっ!すっげえ丸見えだぞ」
「すげーの穿いてる!すげー!!」
「幻影は中まで再現しているのか。やっぱり技術レベルに差があり過ぎる。恐るべし」
「・・・・おい何やってるんだ。トンネルじゃないんだからそこを出入りするのやめろ」
見れば投影された私の足元で屈みスカートを覗く馬鹿ども。こいつら覗く以外にもっとやる事あるだろ。お前は何者だとか、ここは何処だとか。
まるで緊張感の無い冒険者に呆れを通り越す。
そして、こんな時でも好奇心を忘れないまだ余裕を感じさせるその態度に関心を寄せる。考えようによってはその図太い精神は頼りになるかもしれないが・・・個人的には立場が呑み込めない無知は嫌いだな。もっと必死になるべきだろ。危機感が余りにも足りてないぞ脱走者ども。
私の機嫌を察したのかA種に寄り添うつがいが恐る恐る声をかける。
「あ、あの。あなたはいったい何者なんですか」
流石に全員がこんなのばかりじゃなかったか。仕方なく本題に入る。猫の手も借りたいとはまさにこのことか。
「答える義務はない。そんなことよりも・・ここから脱出させてあげようか?」
「なんだと?そもそもあんた何者だ。誰の許可を得てここを占拠してやがる。ここが聖王国領だと知っての――――」
私の高圧な態度に反発する者たち。やはり自身が置かれた現状をまるで理解していない。そこは地獄の渦中だというのに。お気楽で羨ましいものだ。
「はあ、同じことを二度も言わせるつもりか虫けらども?せっかく私という偉大な存在に渡りがついたというのに、たった一度のチャンスを不意にするつもりかな?もっと媚びてみたらどうなんだ」
「な、貴様の靴を舐めろとでも言うつもり、か・・?」
「なんだっていいが、どちらが上の立場かははっきりさせておきたいな。お前たちの命は息を吹きかければすぐに消える炎でしかない。手助けが無ければすぐに死ぬだろな。それが嫌なら態度を改めろ」
「くっ」
私はニコニコと笑みを浮かべ集団のリーダーらしきボウズ頭がどのような答えを出すか見守る。まあ結果は見えているが。
空間異常の発生し第二階層のメインシステムルームとの応答が完全に沈黙してから10時間以上が経過している。最後に観測できた記録によれば第二階層中心部で異界化の兆候が見られたとの報告があったがこいつらは運よくそれを避けたみたいだ。
異界化が始まったのならそれに巻き込まれるのも時間の問題だ。どれだけ広がったのかも確認が取れないのなら通信可能な彼らに確認してもらうしかない。殺戮の権化であるA種やその鎮圧部隊である黒殖白亜、そして祈り手も動いているのではたとえ高名な聖騎士や冒険者であろうと会敵すれば死ぬ。彼らの脱出を妨げる障害が多すぎるが故に私の助けは必須だ。
そんな中、彼らは未だに生きていた。目は死んでおらず気力に満ち溢れている。なにより運がいい。知ってか知らずかこの虫けらどもは騒乱の種の一つであるA種の一体と行動を共にしている。そこそこ長生きしそうだと期待できそうだった。
これが実験効果だとでもいうのか。どちらにせよこいつらは”なにか”持ってる。
このどうしようもない状態で、それこそダンジョンを運営する管理者たちが頭を抱える未曽有の渦中で私とこいつらの間に繋がりができた奇跡を無駄にしたくない。
彼らに全てを教えれば絶望に沈む可能性もある。私が徹底的に行動を管理しなくてはすぐにでも死んでしまうだろう。知らないからこそできる動きもある。私自ら手を貸してやるんだ。決して死なせはしない。是非とも長生きしてもらい使い潰す。だから立場だけは明確にしておこう。飼い犬に手は噛まれたくないのでな。
なんだか勝手に籠の中の虫に愛着が湧きはじめたリフォルクルスをよそに、副団長の中でどうやら答えが出たようだ。
「さあ、どうする。従属の意をしめすか?お利口さん」
「・・・わかった。無論、部下の為だ。服を脱ぎ全裸になったところで逆立ちをしたまま放尿しろというのなら従おう」
「そこまで求めてないよ」
「うし、やれッ!!グレイズ。お前の力を見せてやれっ!!」
「え、えッ僕!?なんで?なんで?」
「俺たちはチームなんだぞ!俺が俺がは通用しないんだよ。こういう時は一番新米が泥を被るもんなんだよ!先輩に恥をかかせるつもりかよ!」
「~~――――~ッッ!わかりました!わかりましたよっ!やればいいんでしょ!畜生!後輩ができたら優しくしてやる!」
やけくそ気味にテキパキと服を脱ぎだす若者。全裸となりそのまま逆立ちしようかというところで、リフォルクルスはようやく本気だと気づき慌てて止めに入る。なぜ、こいつらの痴態を見なくてはいけないんだ。
「だ か ら!やめろって言ってんだろッ!本気なのは伝わったから、その汚い〇〇〇をしまえ!」