オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第18話 不死者

 

「・・・・?」

 

 ふと足を止め来た道を振り返る。どうやら遠方で何かが起きた。一応の構えを取るも目まぐるしく輝く点灯がグルグルと光の軌跡を振り回すだけで特に変化はない。強いて言うならば空気が温かくなった気がする。ここは地中深きに在する第三階層。地熱で寒さとは無縁の万里。A種の気配も遠く特に気にすべきことではないと”彼女”は判断する。

 

 ピチャピチャと足元で音が立つ。ぐちゃぐちゃとした赤とピンクで舗装された道に足を取られないように気を張らし踏み抜いていく。薄暗さが絶妙に音の正体を曖昧にしてくれるが死体はもうとうの昔に見飽きた。

 寧ろ懐かしさを感じさせる。あれほど恐れた闇が今は心地よい。もう後戻りが出来ぬ証明でもあった。

 

 端末は依然沈黙を保ち、頼りになるのは記憶のみ。あっているかも分からないあやふやな帰り道を邁進していく。帰路は未だ遠くどこにあるかもわからない。

 

 今は肩に担ぎ上げた”この者”だけが唯一の行動の指針であった。ここでは珍しい男の人。名前も知らないというのにどうしてこうも気になるのか。

 

 あの獣人?と戦ったあと気絶したこの男をこうして律儀に運ぶ理由。助けられたからか・・・?

 

「・・・・・」

 

 ・・・・・いろいろと記憶がはっきりしてきた。ぼやけた脳みそが活力を取り戻し冴え渡る。以前の”私”がまるで他人事のように感じるのは記憶の無い期間の方が長かったからだろうか。記憶の中のある強い思いが”我”に劇的な変化を与えたのは間違いない。これまでの人生で何か大事なものが欠けているという自覚はあった。心の空白。それが何なのかわからず不安で不安で仕方ない。他人には打ち明けることのできない心の弱さ。それが無くなった”我”はもはや別人なのやもしれない。

 

 ―――不死者―――

 

 その存在が空っぽな我を強い使命感で埋めていく。永き旅にまだ終わりは迎えない。

 

「・・・・ここは」

 

「む、起きたか。体は大丈夫か?」

 

 まずはお互いの事を知ることから始めよう。同郷の人間同士でも礼節は非常に大事。それがリムルベルタ王国の習わしなのじゃから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけで我は原因の調査の為に裏で蠢く恐るべき存在の尻尾を掴むためにこの地に仲間と赴いたのじゃ。調査の結果、まさか戦場の地下を根城にしているとは思わなかったがの。怪しげな建造物を見つけたまではいいが敵が余りに強すぎて我が調査隊をまるで赤子の手をひねるかの如く容易に滅ぼされてしもうたわ。我は無様にも・・・一人生き残ってしまった。その後色々と体をいじられ運が良いのか悪いのか今日まで生きながらえたが、なっははははは。まさかこの地で同胞と巡り合えるとは驚きじゃのー!まさしく奇運!生き恥を晒した意味はあったのだな。あ、これでも最年少高位魔術師であるからしておもむろに頼りにするがよいぞ!よいな?」

 

 恋都は今、物凄く困惑していた。

 

 ブンブンと手を握り振り回すこの女、名はフラメンツ、じゃなくて本当の名前はヨルムング・サナトリアージというらしい。

 

 態度の豹変、もたらされた情報過多っぷりに混乱してくる。

 

 なんでも彼女は終末戦争時の不死者であり不滅の戦士らしい。ようは伝説に出てくる例の不死者ご本人である。

 

 どういうことだよ・・・本当にいるとか聞いていないのだが?

 

 ・・・・・迷信じゃないのかよ。

 

 戦時中、戦争発端の事件を調査の為、敵の本拠地を強襲。だがたった一人に逆に壊滅させられ捕らえられたとのこと。

 他にもいろいろな話を勝手に話すがこの世界の根本的な基礎知識に乏しい俺に全てを理解できるはずもなく、情報を噛み砕くうちに次の情報が追加されパンク状態を引き起こしていた。

 

 終末戦争時の当事者?不死者の王国リムルベルタ?ちょっと待ってくれ。じゃあ不死者関連の伝承って全部本当だってことになる。生き証人だと?これで900歳以上って嘘だろ・・・

 

 思わず頭を抱えたくなる。こちらも聞きたい事は山ほどある。だがそれができずにもいる理由もある。

 

 この女がここまで一方的に喋り倒す理由。俺の事をその当時から生きている不死者、同胞だと思っているからに尽きる。そう思える材料をどこで判断したかが俺にはわからない。

 

 戦いの際の傷が回復したところをがっつり目撃されたからだろう。頭から部品を取り除いた結果記憶が復刻。不死者への同胞意識も復活しそれで俺をあの時助けてくれたということだろうか。

 

 このテンションの高さは嬉しさと興奮から来るもの。こちらからすれば都合がいいとも言える。

 

 イグナイツがいなくなった以上この少女の手を借りるしか道はない。下手に質問を行いぼろが出るような真似だけは回避しなければいけない。

 

 ってこれイグナイツの時と一緒じゃないか・・・女に手を引かれてばかりだな。

 

(にしてもこの性格の変わりよう。頭から取り出したあれが絶対に関わっているよな・・)

 

 ああ知りたい。根本的な疑問。死なない不死者が現代にいない理由。きっとそれは彼女にとって知っていて当然の常識。900年前に何かがあった筈。当時を知る不死者が目の前にいるのに知ることができないジレンマ。俺も不死者としてこの世界の不死者の生態は興味津々だ。

 

 喉までこみ上げた疑問で胸でつっかえそうになる。

 

「ところで」

 

 落ち着きを取り戻したヨルムングが声をかける。

 

 さて、ここから俺も慎重に言葉を選ばねばならない。あらかた喋りテンションがいったん落ち着けば彼女も色々と視野が広くなり俺に対する疑念が湧き上がる。来るであろう質問に耐えねばならない。

 

「おぬし、いつからここに捕まっておったんじゃ?その様子じゃと実験を受けた様子も見えぬし、そもそもなぜ第三階層におったんじゃ。聞かせてくれ」

 

 大丈夫、これなら予測の範囲内だ。あらかじめ用意しておいた答えをもってお返しするのだ。

 

「ああ、実は―――」

 

 

 

 

 

 

「く、はははははははっっ!なんとそれは愉快な話じゃな!この異常現象はおぬしが引き起こしたとは、なかなか見所があるのう!うひひひ」

 

 余りにも痛快でヨルムングは笑い床を転げる。まさに因果応報。我らが神も粋な事をしてくれる。

 

「列強の勇者どもとの戦い、その異能でここに飛ばされてくるとは・・・それも900年以上もの未来へようこそか。なんとも運命を感じるのう!?その傷はやはり勇者から受けたものか」

 

「ああ・・勇者には手を焼かされたよ。滅茶苦茶強くて、なんかもうすごかった・・・・すごい!」

 

「うむうむ、今思い起こしても腹立たしい。奴らの理不尽さときたら天下一品じゃ。もし目の前にいたら縊り殺すところじゃ」

 

 すごいすごいと要領得ない言葉を連発するコイトと名乗る我が同胞。名前の響きからして東部前線辺境の出身か。思い返してみても確かに勇者のヤバさは単純明快にすごいと表すほかないだろう。実際すごい。

 

「その体、実に痛ましい。不死者と言えども不死性には個人差はあるのじゃから無理はいかんぞ」

 

「え・・あ、ああそうだな(個人差?人によっては再生力が違うのか?)」

 

 コイトの体に刻まれた傷。そこからどれほどの激しい戦いだったかが窺える。再生力は低いが生命力は高い、あまり見ないタイプの不死者のようだ。傷の直りは遅く苦痛が続くはずだが平然としている。泣き言一つ吐かぬか・・・不死性が低いというのになかなか無茶をする。

 

 それでこそリムルベルタの男児の生き様よ。懐かしいものを見てどこか寂しげな気持ちに浸る。いつの間にか感傷に浸る歳になっていたのか。

 

「ところであの獣人の女、いったい何者じゃ?・・・おぬしとはどういった関係なのじゃ?」

 

「・・・彼女も何かしらの実験を受けた被害者らしくお互いに協力して脱出を図っていたのだが、そこで君と出会ったんだ」

 

「ううむ、奴も実験体とは・・・それはわかった。”リベンジマッチ”はやめておこう。じゃが様子がおかしかったがいったいなにがどうしたのけ」

 

「それは俺にもわからないよ。だが、あいつは存在するはずのない第四階層にいた」

 

「なんと・・第四階層とな。なんぞこの900年間聞いたことも無い話じゃの。重要な何かを握っていそうじゃな」

 

 まるで悪人のような面で不敵な笑みを浮かべるヨルムング。力が全身に張り、今までの鬱屈とした人生が嘘のように感じる。なんせ記憶が戻ったのだ。永い眠りから覚め欠けた歯車が揃い正常に動き出したのだ。記憶に閉ざされた魔術が復刻する。おまけに同胞も生きており、我は一人ではないと感じさせる。だからこそより一層死にたくないという思いが鮮明となる。我もコイトも不死性はそう高くないがここから脱出することは可能だろう・・・

 

 だが、それでいいのか?

 

 結局なにも真実を掴めないまま逃げた先に何がある?もはやリムルベルタ王国は存在しない。誰の記憶からも消え真実は闇に葬られたまま、我々の存在は都合のいいように伝聞されているじゃないか。

 

 勝利者特権だが納得ができない。残された者として果たすべき使命がある筈。誇り高き祖国が辱めを受けたままなど、とても許容できることではない。誇りを穢されたまま生きてくなど傷を背負い生き恥を晒すことと同義。借りは必ず返させていただく。

 

 沸々と決意が体を満たしていく。

 

 本当に・・・不器用だと自覚はある。この勇敢なる戦士と地上に逃げ、子をなし血を紡いでいく未来もあったであろうに・・子供の頃から戦争の中で生きてきた我にそのような選択肢はとれるはずも無し。

 

 ヨルムは戦うことでしか上手く自己表現できない。多大な勢力をどう効率的に敵を殺すかしか考えてこなかった。女の生き方はとうの昔に諦めている。憧れのような幻想にあきらめのような境地。それを上回る激しい憎悪の炎が燃え上がっている。

 

 ”奴”を燃やし尽くさねば我が先に怒りで灰塵と果てそうだ。生ある限り終末戦争に終わりはない。一億玉砕こそ本懐。最後の一兵までその身を戦乱の劫火で燃やしくべる。列強国に連なる者どもはどいつもこいつも皆殺しにしてやる。記憶に新しく刻み込んでやるのだ我々がいることを。それこそが存在証明だ。

 

 それに――――コイトが我を見ている。

 

 時空間を操る勇者の話から戦争初期に先陣を切った青年勇士たちの生き残り。勇者との最初の邂逅を果たし情報を持ち帰った偉大なる先輩方。今でも街中を凱旋する彼らの戦列は覚えている。そんな彼の前で恥ずかしいマネはできない。

 

 彼はリムルベルタが敗北したことを知っても我に対し何も言ってこなかった。

 

 そ、そうか、がんばったんだな。など気遣う有様だ。それがひどく我を苦しめる。責められた方がまだマシだった。

 

 それでもコイトは言葉にせずともなにかを期待するような視線を我に送る。

 

 きっと・・・コイトも我と同じで諦められないのだ。

 

「ええと・・・・」

 

「ヨルムングじゃ、気安くヨルムちゃんとでも呼んでくれぬかコイトよ?・・・・・・・頼む」

 

「・・・・じゃあヨルムちゃん、今後の方針なんだが―――」

 

 久々に誰かに名前を呼ばれた。たったこんなことで嬉しくなってしまう。この温かさこそ我が守りたかったもの。流石火継守なだけあり素敵だなと思ったが・・いや関係ないか。

 

 栄光と繁栄の象徴である火継守がいることがなんと頼もしい事か。900年もの間祈りの一つも捧げなかった我を神はまだ見捨てていなかったんだ。

 

 必ず、殺してやるぞ。黒幕気取りのゲームマスターが。

 

 それまでこの火は絶対に絶やすことはないとここに誓うのであった。

 

 ああ、新たなる戦火が待ち遠しい。

 

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