オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第19話 緊迫

 

 真っ黒に熱を帯びた通路。所々が変形している。時間が経ったというのに未だに咽かえるような熱気を想起させる。

 これほどの熱量とは縁のない雪の世界の住人にはとても幻想的なものに見えてしまうのは仕方がないことである。

 

『驚いた・・お前たち生きていたのか』

 

「どうなってんだ!あんた何か知ってんのかよッ!?今のはなんだ!?」

 

 リズの問いかけは至極当然の疑問だ。端末から浮かび上がる包帯を纏うダンジョンマスターの姿。流石に無関係とは思えない。前に比べ少々疲れている印象を抱く。それは誰の目から見ても明らかであった。

 

『現状はわかったが貴様らが気にすることではない。それよりも早く目的を達成したらどうだ?ノロマは嫌いだ・・・・・・まあ、下手人は始末したとだけ教えておいてやる。それでは健闘を祈る』

 

「ん!おいっおいッ!クソ、切りやがった。目標が死んでたらどうすんだよ―――――ッ」

 

 ブチリ、と一方的に切られる通信に怒りを感じるリズ。目標は二つ。そのどちらも達成しなければ意味はない。この惨状から推察するにダンジョンマスターにとっても想定外のことが起きたのだろう。少しは協力する素振りぐらい見せてもいいだろうに、この塩対応だ。

 

 どれだけぞんざいに扱われているのかよく思い知った。奴にとって我々は数ある方策の一つにすぎないのだ。

 

「どうする?幸い何かが起こったであろう場所と目的地は離れているから無事だとは思いたいが」

 

「・・・出鼻を挫かれてしまったが予定通りに行く。全員変形した足元に気を付けろよ」

 

 リズが先頭に立ち、その次に僕とアリス。そして騎士たちといった隊列で周囲を警戒しつつ通路を進む。熱でやられたせいで設置された点灯が消え道が闇に飲まれている。闇をかき消す光の魔術を使える者は先の戦闘で死んでしまった。

 

 【夜光】という魔術なのだが、光属性の者が習得する分には問題ないのだがそれ以外の者が習得する場合これが存外に容量と魔力を喰う。魔術は基本的に自己の属性にあった魔術を習得するのが普通なのである。そもそも【夜光】は本来あるはずの【光玉】の代用として作り出された魔術。これもまた例の如く劣化した代用魔術。【光玉】もまた失伝せし始原魔術(プライマギア)の一つ。

 

 珍しく【光玉】の魔術効果は文献により伝わっており光の玉を周囲に浮かせ光源を確保しつつ、それをぶつけ攻撃することができる魔術だったらしい。そして残された断片的な情報から性能や効力が被らないように調整され出来上がったのが【夜光】である。一時的に闇を薄らげ白けさせるという魔術も中々使いやすいと好評だが応用性がないことが明確な差となってしまっている。一つの魔術で複数の事が出来るのは魔術容量節約にも繋がる。

 

 【夜光】はなにぶん闇全体に作用するため魔力消費も大きい。こういった代用魔術は完全な下位互換という訳ではないのだが使い勝手が悪く応用しずらいのでどうしても見劣りしてしまう。

 

 歴史上、魔術学会では失伝後の魔術の制作関連で数々の問題を起こしている。魔術は樹界目録(テーブルレコード)に登録されると基本的に取り消しも改変もできない。改変に関しては魔術の製作者のみ可能だがそれはそれで多大な代償が伴う。後からもっと洗練された魔術理論が見直されるのはよくある光景であるため現代では魔術の制作は一部の者でしか行えない認可制である。魔術理論を詰め直し無駄を省き魔力消費を極限まで抑える。それを何度も繰り返し学会の承認が降りてようやく登録されるのだ。一部の者が魔術知識を独占するのは粗製乱造を防ぐための措置でもあり当然の措置である。

 

 だから承認も得ずに登録をすれば製作者の真名も樹界目録(テーブルレコード)に登録されるため異端魔術撲滅委員会から執行者が差し向けられる。制作者が樹界目録(テーブルレコード)に干渉できる者に殺されれば登録された魔術も消える。そのため死ぬまで逃亡生活を余儀なくされてしまう。

 

(特に何も感じないが・・・ここまで違うのか)

 

 グレイズは前と違い異様に鋭くなった五感を張り巡らせる。特に嗅覚がおかしなことになっている。目をつぶっていても匂いが精密に認識しているのだ。困惑しているのに体はきっちりとその変化を甘受している。これが実験の影響なのは間違いない。以前は感じることができなかった気配も手に取るようにわかる。気配を読むとはこういうことだったのかと理解する。

 

 世界が――――広く感じた。

 

(だからこそ、彼の底知れなさがわかる)

 

 索敵が得意ということで迷いのない足取りで自ら先導を行うリズさん。一番リスクの高い先頭に立つこの男の背中が大きく見えてしまうのは別に錯覚ではなかったのだ。

 足運びや体幹の安定具合だけで歴然の差があった。Bランカーは化け物ぞろいというのは本当のようでマンディス副団長はそれに気が付いたからこそ戦闘を避けたのだ。この中で突出した強さの領域にいるのは確かなのだろう。普段の緊張感の無さが逆に余裕に感じ追随する者たちの不安を払拭する。

 

 とても頼もしい冒険者である。これまで冒険者なぞチンピラ・クズどもの巣窟だとばかり思っていたが考えを改めるとしよう。

 

 ふと、僕に腕を絡め横でぴったりとくっつき歩くアリスを見やる。片手に握った端末から地図が伸び中空に投影されている。そこから発生する光量で明るさを確保していた。

 時折フードを被った美麗な顔が僕を見つめる。その度にドキリと心臓が跳ねるも得体の知れなさにずっと警戒心を抱いてもいた。

 この少女もまた計り知れない。リズさんとは別の意味で心強いが気配をまったく感じ取れないのはどういうことか。

 

 存在感が薄い・・・いや寧ろ浮いている?

 

 半ば世話を焼いていたことからみんなに自然とアリスを押し付けられてしまったが・・・やはり新人はどこでもこき使われるのが世の常か。

 

「あ、そこ右です。その次にまた右に曲がってそのまましばらくは直進です」

 

 喋らないアリスの代わりにグレイズが声を発しナビゲートする。厄介そうなシンボルを避けつつ前に進む。とにかくこの闇の中から抜け出したかった。

 

 

 

 

「・・・・あの」

 

「どうかしたか?」

 

「さっきの話を聞きたいですが、その、ユーモアが無い云々について」

 

 グレイズは気を紛らわせるかのようにリズに話しかける。リズは後ろにいる僕の顔を一瞥する。

 

「ダンジョンに殺意があるのは当然のことではないのですか?相手側からしたら冒険者は侵入者でしかないのですから」

 

 当然の疑問を投げかける。ユーモア云々は所詮は高位冒険者の余裕からくるものではないのではと訝しむ。

 

「まあ普通はそう思うよな、普通は・・・・なあ、そもそもダンジョンってなんだと思う?」

 

「え、ダンジョン・・・ですか?」

 

 グレイズは逆に質問を返され困惑する。そういえば考えた事も無かった。ダンジョンがただ漠然と存在すると知っているだけで行ったこともなく、耳に聞こえる程度の縁のない存在でしかなかった。その話を聞いていた後ろの先輩騎士たちがあーだこーだと話し合う。

 

「ダンジョンはダンジョンだろ。それが何だって言うんだ?」

 

「待てニューリーダーはそういうことを言いたいんじゃないと思うぞ。ダンジョン、つまり・・・・なんだ?」

 

「わ”か”ら”ん”!!」

 

「それよりもダンジョンで催したらどうするのか、気になる。というかどうすればいいと思う?」

 

「あ、この先にトイレあるみたいですよ」

 

「まじかよ。超助かる」

 

「・・・・・えぇ、やっぱおかしいなここ」

 

 リズは仕切り直すように咳払いする。

 

「何を言いたかったかというとダンジョンは余りにも俺たち人間にとって都合が良すぎるってことだな・・・流石にトイレ完備は初めてだが」

 

「おいおい、毎年の冒険者のダンジョンでの死亡率は相当なもんだと聞き及んでいるぞ」

 

「それはこちら側の視点だろ?まあ帝国にとっては寧ろ都合がいいみたいだけどな。ただでさえ人口過密国家なもんで死亡率が高くないと困るのさ」

 

 殆どの冒険者が知らない帝国内の冒険者ギルドの真意。

 

 帝国が積極的に推し進めている人口調整計画。口減らしの切っ掛け作りのために冒険者を推しているのだ。他国と違い冒険者の地位が非常に高く夢があるのはその謳い文句につられる無知なる者を地獄に引きずり込むための方便。冒険者の道に入ったが最後抜け出すことはできない。冒険者に憧れる者は一応にまだ見ぬ秘められた才覚に希望を抱き門戸を叩く。こんな所で燻ってはいられないと恩恵を受けさえすればと信じて疑わない。

 

 そして誰もが現実を知る。

 

 冒険者になる際の二重契約で利用が解放される”職業(ジョブ)システム”。自身の才覚はステータスとして表示され初めて己を知る。この時点で決して安くない費用を支払っているため後戻りも安易に出来ない。冒険者は基本食い詰め者の集い。ランカーを目指すもその壁の高さに皆が挫折し、冒険者の独自の社会に心をすり減らす。確実に冒険者同士の足の引っ張り合いで地獄を見る。新人である程食い物にされる。

 どの世界も弱肉強食。適応しようにも芽が出るのを待つことなく無く潰される。職業(ジョブ)システムは良くも悪くも便利な機能であるが皆平等に恩恵を受けることを忘れてはいけない。

 

 ちなみにリズは通常の契約しかしていない。故に公開されるステータスもない。それでも職業(ジョブ)システムにより解放されるスキルもステータス底上げもなくBランカーに上り詰めた。

 

 ・・・なぜならば、デメリット部分である他者からのステータス公開・開示だけは絶対に避けねばならなかったからだ。これは冒険者として上に行くほど足を引っ張る。特にリズのような特異な”技”を持つ者にとって足枷でしかない。手の内を晒すことは命の危険と同義。

 

 

「話を戻すがダンジョン、それも霊廟型のほとんどには必ずと言っていいほどに遺失物が綺麗な状態で置いてある。それもご丁寧に宝箱なんかでラッピングされて、だ。意味が分からな過ぎてワクワクするだろ?ダンジョンを守る守護者といい罠といいまるで誰かに攻略されるのを前提に作られているようじゃないか。攻略する楽しさ、驚き、ワクワク感に達成感・・・それらを覚えさせるようなカタルシスに満ちたデザインや工夫が俺ぐらいになると見えてくるのさ」

 

 ダンジョンは災厄と祝福を与える神からの試練というのがどの国でも一般的な認識であるが結局のところその真意は未だにわかっていない。閉ざされた雪と死の世界に点在するダンジョンがいつから発生するかなど誰にも分かるはずもない。いつの間にかそこにできているのだから。

 

「だがここはどうだ、というかなんだ?最初に突入した時の殺意まみれの罠はどこにいった。古臭さとは一転したこの垢ぬけた様式。ここは本当に・・・同じダンジョンなのか?」

 

「つまり・・最初のダンジョンはただの罠ってことか?」

 

「そうだ。恐らくここが本質。遺跡の地下ダンジョンはあくまで罠。さらに下に位置するここは明らかにそれ以外の目的のために存在する。そもそもここに俺たちがいること自体想定外だろなぁ、うへへ」

 

 そもそもダンジョンではないのかもしれない。大きな実験施設と捉えるべきなんだ。地図から見てこれほどの規模のダンジョンは聞いた事も無い。ここには今だ人類が知り得ない何かがあるとリズは確信している。

 

 彼らには悪いが帰る気がまるでしない。悪い癖だ。

 

 ”また”連れ合いを殺そうとしている。

 

「流石に・・考え過ぎじゃあ」

 

「・・・まあ今は忘れてくれ。とにかくだ。世界的な大発見が眠っていると俺は期待してるのさ」

 

 リズは後方で飛び交う意見を耳にしながら歩みを速めていく。内に秘めた期待が体を突き動かす。

 

 もしかすればの話。ここには師匠が言う”ゲームマスター”がいる可能性が高い。そう夢想すると胸の高まりが止まらないのだ。正体不明の存在、一握りの冒険者だけが存在を垣間見たダンジョンの黒幕的存在。ダンジョンマスターはあくまでもエリアボスでしかないというのが上位冒険者の見解だ。碌な情報がない知的生命体だが存在を証明できればある仮説を立証できる。世間では一緒くたにされるがそもそもダンジョンの種類が二つのパターンがあることがおかしいのだ。恐らくは奈落型が真のダンジョンであり霊廟型はその模倣にすぎない。アイテムの配布と言い何が狙いなのか想像にも及ばない。

 

 だからこそロマンを感じるのだ。意図があるなら知りたいと思ってしまう。俺は好奇心のままに冒険者を振る舞う。

 

 ―――ゲームマスター

 

 高い知性を有するとされ、直接的な戦闘記録が見当たらず強いのか弱いのかもわかっていないのに一度その姿を目にした者はこぞって同じ意見にたどり着く。あれは戦っていい存在では無いと本能的にそう悟ってしまうらしい。

 

 そうなるとあの例の尊大な女がゲームマスターなのかと考えるがどうにもしっくりこない。直接会えば印象も違ってくるかもしれないが勘が違うと囁く。

 

 俺はどうしても知りたいのだ。奴らがいったいどこから来てどこに行こうとしているのかその目的を。絶え間なく各地での移動を繰り返しダンジョンを設置していくゲームマスターと会いまみえるチャンスはこれっきりかもしれない。

 リズには勝算があった。勝ち目がなければ勝ち目を作ればいいだけの事。俺の”技”であれば可能だ。ならばそれに賭けようじゃないか。博打は嫌いじゃない。冒険者として未知なるものに挑み続けたい。わからぬからこそ心が惹かれるのだ。地雷は積極的に踏み抜くのが俺の流儀だ。

 

 俺はそういう生き方しか知らないのだから。一度止まればそこでダメになってしまう。生き方には流れがある。一度でも外れれば修正は不可能だ。自分に嘘はつけないもの。

 

 それでこそ冒険者だろうと胸を張り謳い続けたい。

 

 

 

「――――止まれ」

 

 

 

 木霊する声。その声はとても冷たく硬く圧し掛かる。突然の出来事に思わずリズは足を止め後続の騎士たちもなんだなんだと様子を窺う。動揺が表情に出なかったのは長年の経験からくるものか。

 

 赤いレーザーポインターが先頭に立つリズの体を照り揺らす。リズにはこれが何を意味するのかわからなかったが自身が狙われていることは理解した。

 

(先手を取られた・・・っ)

 

 別にお喋りに夢中になり警戒がおざなりになったのではない。純粋に隠形で探知を上回られただけのこと。まあ、偶にある。

 

 こういった遭遇戦において先手を取られることは死に直結する。その分野においてかなりの自信があったリズは相手の潜伏能力の高さに舌を巻く。ダンジョンにおいて敵の察知を行う斥候役は必要不可欠。なぜなら待ち伏せを受ければ死ぬ。バックアタックを食らえばやっぱり死ぬ。後手に回るのは一手遅れるということではない。襲撃の段階で相手は何手も積み上げているということであり既に周回遅れである。

 

 驚くべきはこの距離からでも一切の気配を感じさせない隠形の精度。地図を頼り敵シンボルを回避してきたつもりだったがどうやらそれが仇になってしまった。便利さに慣れると足元が疎かになるものだ。

 なぜ敵のシンボルマークが地図上に表示されないかなど今はどうでもいい。目を凝らしレーザーポインターの軌跡を辿り薄暗さの通路を見通し敵の姿を探り当てる。

 

 壁際の支柱の影から半身を覗かせ、膝をつき中腰のまま銃らしきものを構える何者かがそこにいた。

 黒い衣服が迷彩となり闇と同化している。大分意匠が違うが先の守護者の部隊の同類か。数は一人、距離にして約24メートルと冷静に分析していく。

 

 リズの見立てでは伏兵はいない。不意打ちも仕掛けず先に声を掛けてきたのは何かしらの意図があると思われる。不意打ち時に声を出す馬鹿がどこにいる。それとも一人でどうにかできると高をくくっているのか?

 

 ・・・・・これ以上の情報は会話をもってでしか得られそうにないな。

 

 とにかく会話が先決か。歩み寄る精神こそ最善の一手。それにさきほどから起きている異常事態が想定外の産物なのは例の女の様子から把握済み。敵の見た目は多少違うが外観のディティールから先ほどの部隊と同種の人員前提で行動するとしよう。

 

 偶に力無く転がる黒服どもの死体を見る度に不穏な気配を感じていた。あれほど強かった守護者が無残な姿で死んでいる事実に自身らの矮小さを思い知らせそれを可能とする何者かが徘徊している事実に恐怖を感じさせられる。部隊行動もせず単身となるときこの襲撃者はその生き残りなのか。

 

 精神を集中する。僅かない息遣いから相手が傷を負っているのを看破する。敵は一人だ。いくら強かろうと俺や獣人擬きに変身できるグレイズに騎士達がついている。アリスは・・・よくわからん。こちらの勝算は高いが・・・無傷ともいかぬだろう。

 

 ・・・最悪”アレ”を人目に晒す覚悟はしたほうがいい。

 

「貴様ら・・・なぜ軟弱な冒険者が未だに生きていられる?こんなところで何をしている?」

 

「待て。こちらに戦闘の意思はない。そいつを下げてくれないか」

 

 じりじりと一歩一歩を詰める。ゆっくりとした動作で足を踏み出す。後ろでじっと固唾を飲む騎士たち。流石に先の戦いで守護者の実力を把握しているようで余計なことはしない。

 打ち合わせ通り後ろ手にサインを送り動かぬよう指示を送る。最善を求めるならば俺一人で仕掛けるのが最良だ。あとは距離を稼ぐのみ。

 

「止まれと言っている!」

 

 語気が強まり引き金に掛かる指に力が籠る。リズは素直に止まり手を挙げ従順な姿をさらす。あと15メートル・・・戦いでの有利さを考えまだ近づく必要がある。確実に”アレ”を直撃させるなら近ければ近いほどよい。距離を稼ぐことで少しでも安心を積み上げる。

 

 汗がずっと止まらない。相手は精神に余裕が無く落ち着きからは程遠い状態。いつ銃弾が炸裂してもおかしくない。その気が無くとも誤って引き金に触れるかもしれない。形状から連射可能な銃。避けるのは面倒そうだな。

 一歩、踏み出そうと体を少し動かしただけで相手の警戒心が急激に上昇するのが手に取るようにわかる。

 

 これ以上は・・・動けない。危険域ギリギリか。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 完全なる膠着状態となってしまった。次に動けば撃たれる、予知めいたヴィジョンを幻視した。どうする、どうするのが最善なのだ。

 

 だめだ、踏み出したい。危険と分かっていても駆け引きも関係ないく不遜に進みたい。

 

 冒険して踏み込みたい。それだと仲間が死ぬぞ。

 

 でも、一歩だけ、いや半歩なら許されるのでは?

 

 やめろ、今は仲間がいるんだぞ。いつもと違う。

 

 

 理性と冒険心がせめぎ合う。本来であればここまで苦悩することもなかっただろう。だが久方ぶりにできた守るべき存在が判断を鈍らせる。もう二度と誰とも組まないとソロでやってきた彼にとってこの出会いは胸の奥底にわだかまる何かを刺激する。緊張と焦りで判断にまごつくリズであったが、一方の相手はリズ以上に動揺していた。

 

 

 

 

 

「(な、なぜA種がここにいるッ?それも冒険者と!?)」

 

 黒殖白亜のF部隊隊長ベルタはあり得ない光景を目にし動揺を隠せずにいた。異変に乗じ逃げ出したであろう冒険者の集団。先頭のBランク冒険者の他に特筆すべき所が無い非力な集団である、と思いきやその中に無視できない存在がいた。

 

 はみ出た金髪。フードで身を包み若い男の背中に隠れているがあれは間違いなく最優先抹殺対象である特定種別A種だ。余りにも自然に溶け込んでおり最初は存在すら気が付かなかった。なぜかA種がそこにいた。その特性上思いもよらなかったのだ。手を繋ぎ仲睦まじく男と寄り添う姿に幻覚でも見ているのかと正気を疑った。

 

 つい先ほどまでA種と対峙し部下を全て失ったからこそ理解が及ばない。A種に言葉は通じず問答無用で殺しにかかる殺戮の権化。異能を振るい、ただただ殺す壊れた主体性。統合したG部隊の部下もすべて失い一人生き残ってしまった。苦楽を共にした部下たちはもうどこにもいない。

 

 そんな存在がなぜ、冒険者と行動を共にする。じりじりと距離を詰める男に警告を飛ばし負傷に伴う痛みを平静で装う。相手は14人。実験の方に回された者たちばかり。普段であれば私一人でも余裕で対処可能な相手だがA種がいるのでは話も変わってくる。緊張が走り一帯の空気が重苦しく圧し掛かる。引き金に触れる指が今にも暴発してしまいそうだった。

 

 

 お互いがお互いに脅威を正しく認識し自身の立ち位置を理解しているからこそ衝突は避けられない。方や己がここでは弱者であると弁える者、方や最悪の脅威を知りそれでも指令を遂行しようとする者。

 

 状況はどちらも最悪。誰がいつ仕掛けてもおかしくない触れれば簡単に壊れてしまう薄氷の地。

 

 ―――そこに突如乱入者が現れた。

 

 

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