オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

30 / 88
第21話 共同戦線

 

「――――――――」

 

 

 ここは第一階層都市部。天高く立ち上る不惑の摩天楼が織りなす街並みは初めて訪れる者を圧倒することだろう。天井に展開されたモニターが青空を描き”光源体”が輝いていた。

 

 もし恋都がそれを見ればまるで太陽みたいだと評したことだろう。

 

 ここは第一階層中央区。

 

 冒険者を誘い込むダンジョン擬きの表層とは違い異質な未来都市で構成された守護者の楽園が広がっていた。

 

 守護者たちが暮らすための区画・・・なのだが、ビル街は崩れ去り、天井に映し出された景色も今はなく、金属の壁が張り付くだけ。普段よりも窮屈さを覚えさせるのも非常時故。居住区での大炎上や地下からの謎の光線、A種の襲撃により至る所に災禍が渦巻いていた。

 

 その余波は凄まじく隣接する区画にも影響が及んでいた。修復や物資の搬送で忙しなく交差する守護者たち。張りつめた空気など知らんとばかりに再び異変は巻き起こる。

 

 最初に感じ取ったのは誰だっただろうか・・・一人また一人とふとつられて天を仰ぐ。

 

 異変は空。

 

 何もない空中に巨大な瓦礫の山が突然現れた。

 

 誰もが目を見開き退避しようと動き出す。

 

 ――――だが、大迫力の異物の山は地面に落ちる前に真っ二つに割かれた。

 

 連続する不測の事態。安堵するまでも無く瓦礫の中から新たな脅威が現れた。

 

 

 

 

 

「―――ッく、うおおああああああああッッ!?」

 

 リズは空中に投げ出された体を必死に動かし瓦礫を蹴り、襲い掛かる(ハイパー)アリスの斬撃を躱す。

 

 見慣れぬ景色、明るく広い空間。これまでいた決して広くない入り組んだ通路とはまた違った、視線を釘づけにする煌びやかで異質な光景。

 

 なんだこの建造物群は!?

 

 遥か上空から見下ろす絶佳なる眺望。まさしく圧巻であった。文明の光がリズの目を眩ます。

 

 これこそ冒険!・・なのだがそれどころではなく、間抜けな顔を晒す暇すらも無い。

 

 お互いに空中で衝突する質量の塊と(ハイパー)アリスにより放たれる伸びる不可視の斬撃を必死に避ける。大地や巨大建造物ごと易々と斬り裂くその剣を受けるわけにはいかなかった。回避を繰り返す内にどこが上で下なのかもわからなくなる。敵は空気を蹴り執拗にリズを襲い瓦礫の足場ごと破壊していく。360度縦横無尽に襲い掛かる相手を視認することは諦め勘と気配だけで捌ききる。それでも首の皮一枚の攻防。仲間を信じ機会を窺う。

 

「ヲッッ!!」

 

 落下する瓦礫の影から何かが投擲される。

 

 それは強大で武骨な斧であり高速回転しながら見事に(ハイパー)アリスへと直撃する。消去法でベルタの仕業だと確信する。

 

 が、なんと(ハイパー)アリスは斧を頭突きで粉砕する。

 

(そいつを・・――――――待っていたんだよ!!)

 

 致命的な隙を晒せば当然の如く死が差し込む。リズはただがむしゃらに瓦礫を伝って少女に飛び掛かりがら空きの脇腹を蹴り穿つ。

 

 メキメキと中々の手ごたえ。ようやくの一撃。ついでにと接触時に深々とナイフを腹部に突き立てた。

 

 不可視の斬撃といっても剣閃の方向と宙を舞う微細な破片がその軌道を露わにする。術式で強化された今の俺の五感ならばッ!!捉えることも可能!あとは祈る!

 

「いくら何でも無茶苦茶が過ぎるッッ!」

 

 力任せの化け物の傍にいるのは危険だ。その身を震わせるだけで人は簡単に死ぬ。ヒット&アウェイは基本であり、深追いは思わぬ事故を引き起こす。

 

 リズは離脱時に投擲した赤いナイフが残像を描き追撃とばかりに(ハイパー)アリスの肩を貫く。

 

 そこを起点に即興とは思えぬコンビネーションが襲い掛かる。

 

【起爆】(イグニッション)!!」

 

 突き刺さったナイフが真っ赤に輝き爆炎が巻き起きた。

 

 突然の熱量が周囲を覆いグレイズは顔をしかめる。炎ということはあの守護者の仕業だ。視界が炎で埋まるもグレイズの嗅覚は正確な敵の位置を把握する。一瞬の隙を突き火達磨の(ハイパー)アリスにグレイズは身の丈を軽く超える瓦礫の塊を叩きつけた。燃え盛る空中での攻防。こうして自身が燃えることなく戦えるのもベルタが何かしたとしか思えない。焼き付いた空気の中で息が可能なのは火属性の特性が僕自身にも適用されているのだから。

 そうなるとベルタはいつ僕に魔術をを施した?そんな素振りは全く見せなかった。あるとすれば回復魔術を行使した時。派手な青い炎をカモフラージュに並列で魔術を行使するしかない。処理の難しい特性の付与と回復魔術を、それも隠蔽しながら使用したとでもいうつもりか。

 

 なぜ黙っていたのか・・・いくら考えても疑念が晴れることはなかった。

 

 

 長く感じた滞空時間も終わりそのまま瓦礫は(ハイパー)アリスを巻き込んだままグレイズたちよりも先に地面へと激突する。そのままの落下の勢いと共にグレイズは一切の躊躇も容赦もなく、すかさず追撃を加える。

 

「祖たるは望まれぬ落胤【強靭】!」

 

 聖句が口火を切り全身からパワーが溢れる。元々剛力であった獣人の膂力に加え神言魔術による筋力強化。

 

 純然たる力の塊が弾ける。

 

 想像を超えた破壊力を産み出す。

 

 ―――それは偶然の一致。思わぬところで魔術的シナジーとは生まれるものだ。

 

 

 

 グレイズはもともと魔術の才能に恵まれず魔術に対する理解の深さが表面上にしか留まらず浅い。そのため魔術基盤は無駄が多く魔術容量を大幅に無駄にすると騎士学校で教官にさんざん指摘されていた。

 

 魔術を理解する理力とも言える力は産まれ持っての才能でありこれがなければ魔術師を目指すことは難しい。魔術基盤とは習得する魔術の骨子理論であり人それぞれで基盤の大きさは違う。人によって魔術の解釈は違うのだ。

 個人が保有する魔術容量にそれを打ち込んでいくのだがそこには理力が大きく関わってくる。理力は魔術への理解度だ。理解が深ければオリジナルの理論に近づきおのずと基盤も小さくなる。如何に基盤を圧縮するかは課題であり、それは使用できる魔術のレパートリーにも関わるため一切の無駄も許されない。行使可能な魔術の数は一種のステータスだ。

 

 理解度の浅いまま魔術を習得すれば自身の魔術容量を無駄に埋める魔術基盤を組み込むことになり習得可能な魔術の数に限りが出る。

 

 おまけに一度習得し形成された内なる魔術基盤は二度と消すことはできない。

 

 

 グレイズは超困った。騎士学校で自身の才覚の無さを知らされた時、早くも自身の目指すべき将来のヴィジョンを求められたからだ。

 

 望むべき未来に沿った魔術を習得しなければ間違いなく失敗する。魔術も剣も一定以上なければ騎士団に入るのはまず不可能。入団選考段階で弾かれてしまう。魔法大国である聖王国で習得魔術が3つ程度ではお話にならない。

 

 能無しと馬鹿にされる学園生活であったがそれでも憧れの騎士になることを諦められなかった。何かしらの魔術を習得しなければ履修した魔術関連の講義の実技評価も得られない。

 煮え切らない頭は重く振り払うかのように奇声を上げ夜な夜な剣の稽古を行う。現実逃避なのは百も承知。能無しと馬鹿にされる自身の相手をしてくれる相手はおらず学園では教官意外と碌に話もしない。灰色の学園生活であった。

 

 もちろんグレイズと同じ様に弱い立場にいる者たちはいるが、腐ることなく努力をすることもしないで互いの傷をなめ合い寄り添うような集団に迎合する気は無かった。これなら孤高を気取っている方がまだマシ。でも正直友達は欲しかったなあ。

 

 これでは騎士学校に入れてくれた親戚に顔向けできない。焦る気持ちを吐くことも出来ず悶々とした日々。

 

 だが、転機は訪れた。

 

 ある時、勝手に追い詰められ精神的に不安定なグレイズの前にちょっかいをかけてくる上級生どもが現れた。普段ならば今後の学園生活の事を考え穏便に済ませてやるはずだった。

 

 いつものように頭を下げ奥歯を噛み砕くだけの情けのない姿を晒すだけでよかったのに。

 

 ―――――決め手は下半身を丸出しにされ面白がって火を付けられたことか。貴族様はやることがエゲつない。

 

 

 気が付けばグレイズはベットの上だった。よく世話になる医務室で教官が何かを言っているが頭に入ってこない。

 

 ただただ、あの時の情景が、感触ばかりがグレイズの中で繰り返し反芻する。5人相手に素手で立ち回り最終的には袋叩きにあった情けの無い状況。立ち回りはよかったのでしばらくは戦いになっていた。その結果こちらは骨折に火傷な重症であり、あちらは4人の鼻を折る程度。もっと力があれば二人は倒せていた。もっと早く動ければ袋叩きにもあわなかった。魔術も剣も使わずここまでやれたのだ。これはもう実質僕の勝ちではと前向きに考える。

 

 強がりかと言われればそうだと言う。おくびにもなくそう答えよう。でも気が付いたんだ。簡単な事じゃないか。ようやく自身が目指すべき方向性が見えたのだ。今までの稽古は無駄ではなかったのだと確信した。魔術も碌に習得せずに剣ばかり振って騎士学校に何しに来たんだと自己嫌悪する日々とはおさらばだ。最初から答えはすぐ近くにあったのだ。まともに魔術を習得できないなら魔術を剣の糧にしてしまえばいい。

 

 それからのグレイズの動きは速かった。動けないベットの上で初級魔術を習得し自身の魔術容量を全て埋めた。それは覚悟の表れでもあったし、ヤケクソじみた行為に清々しさと妙な快感すら覚えた。

 

 習得した魔術は全て肉体の補助を目的としたものであり、派生無しの単発魔術。どこまでもシンプルだがやたらと魔力を喰う所謂、後発の失敗魔術。失伝したとされる始原魔術(プライマギア)の一つである【強化】には遠く及ばない。それでもグレイズからすればほんの一瞬発動できればいいと割り切り習得したのだが・・・

 

 だが、どうだ?

 

 今のグレイズは以前では考えられない量の魔力を保有している。魔術容量の幅も広がり、更なる魔術を習得可能となった。

 

 単発魔術は魔力を喰う・・・が、効力は消費した魔力量によって効果が劇的に変わる。後発の失敗魔術のどれもがそれに該当する。類似性を削るために個性を失い、苦し紛れに付け加えた利点。製作者が垣間見せる後世の魔術師の苦悩と意地。別の面から見ると違った形が浮かび上がる。

 

 もし大量の魔力を持つ者がそれを使うとどうなるか?

 

 やたらと魔術を食らうがそれと引き換えのように馬鹿げた火力を叩き出すことが可能。一部の者にしかわからない真価。

 常人では求められる魔力量が多すぎてとても推奨されない魔力切れ覚悟の用法。魔力切れは命にかかわり学園が絶対に教えることのない邪道。いかに理論上最高効率を叩きだすとしても求められる魔力量が個人が捻りだせる域を超えている。

 

 

 つまりだ。

 

 

 ドゴッッッ――――!!!!

 

 

 振り上げた獣の怪腕。ビキビキと荒縄めいた血管が浮かび上がり屹立すると瓦礫の塊に叩きつけられた。

 その力たるや衝撃は瓦礫を砕きその下にあるであろう(ハイパー)アリスの小さな体に容易く浸透する。

 さらに強力になった獣臭い一撃は留まるところを知らない。瓦礫諸共押し潰し大地が陥没した。

 

 獣の一撃がアリスを押し潰したのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。