オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第27話 問題児

 

 研究フロアの一室。ヨルムは自動販売機を素手で破壊し取り出した食料や水を補給しながら合流した他の祈り手メンバーと情報交換を行う。

 

「なるほどようやく合点がいったな。一部の者が離反し祈り手全員に抹殺指令が出ておるのか」

 

「ああ、こっちはとばっちりもいいところだ。フラメンツは違うみたいでよかったよ・・・なんか雰囲気違うけど。あ、もしかして髪切った?」

 

 

 恋都はもそもそと食料を齧りながら相手を窺う。その異様なビジュアルはどうしても目を引く。

 

(変な奴らだ)

 

 対面に座る黒い角を生やすくすんだ白髪の女性と首から上にブローバックとリボルバーが合体したような銃口のようなものが鎮座する大柄の男。どちらも全身が血で汚れており、それを気にする様子もなく食事をとっている。

 

 会話からヨルムの同僚なんだろうが、なんだこいつら。

 

 あの、肩に内臓みたいのがぶら下がってますよ。誰か指摘してくれよ。よく食事がとれるな。

 

「そういうおぬしもまたパーツ変えたか?また一段と尖ったデザインになりおって・・かっこよいな!」

 

「ああ、目が覚めたらまた勝手に改造されていた。頭は重いし首も痛いときた。もう・・最悪だ」

 

「そんなことないよー、まじイカしてるってー私は好きだよーぴょいぴょい」

 

「マジか?」

 

「マジマジー」

 

「・・・案外悪くないかもしれんぜこいつはよ」

 

 隣の白くデカいTシャツの上から黒いノースリーブのダウンを着た女性、インクリウッドはニコニコとそう答える。服の下から黒い尻尾のような物が垂れさがっており重いのか床に接触するたびにゴトゴトと鈍重な音を立て床に深い跡が残る。なんだよこいつも。頭銃口男のインパクトには隠れるがこいつも変だぞ。

 

 ガンッガンッ!

 

 突然部屋に響く衝突音。なんだなんだと収束する視線。その先には併設されたトイレの扉があり、扉が音と共に歪んでいく。

 

 ドガンッ!!

 

 跳ね跳ぶ扉が部屋の中央を横切り、―――恋都に直撃する。

 

「むおッなんじゃ!?避けろコイト!」

 

「おゲェッッ!!」

 

 くの字に歪んだ扉が綺麗に顔面にぶち当たる。鼻から熱いものが溢れ鼻骨が砕ける。ついでに額も割れた。

 

「はががああああああッッ!!?」

 

「セーフじゃ!不死者ならば顔面はセーフじゃぞ!」

 

「どう見てもアウトだろおッうおああガッ」

 

 直撃したことにより軌道を変え頭上に舞い上がった扉が落下。俺は下敷きになる。おまけにこの重み、誰かが上に乗ってやがる。

 

「クソがッ。この扉壊れてやがる!!いくら引いても空きやしねえじゃない!」

 

「セーニャそれスライド式だぞ」

 

「ンなわけないだろ☆まるで反応がなかったじゃないかよ!この不感症ドアがッ!」

 

 引き続き下敷きになる俺に構わず扉を踏み続ける。恐るべき力が扉越しに俺に浸透し、赤いシミとなる。

 

「グェ!」

 

「コイトおおおおおおおおおッッ!!?」

 

 叫ぶヨルムをよそにセーニャはさらなる怒りに駆られる。

 

「長かったねーうんこー?」

 

「ガンヘッド!そのアマ黙らせろよッ!」

 

「自分じゃ勝てないからって俺に頼るな。俺も命は惜しい」

 

「うおおおおおおおおテメぇしゃオラあッ!インクリウッドオオオ!オレとテメエで頂上決戦だあああああ!!がおおおおお」

 

「ぐえぇ」

 

 ヨルムの手助けもあり何とか這い出した俺を踏み台に飛び掛かる白髪の女。なんだこの猿は。それに対しインクリウッドは丁寧に尻尾で叩き落し締め上げる。

 

「まだやるー?無駄は嫌いだねー」

 

「ぐあああああああああ振るんじゃねえぇエッ!」

 

「ねえ、ねえー相変わらずよわーい。よわよわー」

 

 ブンブンと拘束で激しく前後左右に振り回し最終的には投げ飛ばす。

 

「素早いムーブじゃッ!」

 

 床で倒れ伏したままの、碌に動くことのできない体では避けることなど到底無理な話で。

 

 恋都は顔を上げるとそこには知らない誰かの顔。

 

「え」

 

 間抜けな声が漏れそのまま顔面と顔面が激突する。柔らかな唇の感覚の後から来る歯の痛み。なんだこれ。これはいったいなんだというのだ。歯が折れたのか血の味と痛みが口内に広がっていく。さっきから俺に何が起きている。なんだよこの流れは・・・

 

 セーニャは俺の上で状況を把握したのか頭を抱えたまま俺を睨みつける。誰だコイツ。初めて俺と言う存在を認識したような目をしていた。

 

「お、おまえ今・・うっ」

 

「う?」

 

「おげえええええ☆」

 

「ちょっおわあああああああッッ!?」

 

 容赦のない吐しゃ物の雨が俺を襲う。

 

 俺が、俺が何をしたってんだ・・・・誰か教えてくれ。

 

 

◇ 

 

 

「気を取り直して、では探索を再開と行こうかの!」

 

「・・・・・おー」

 

「なんじゃあノリが悪い・・・それにおぬしもいい加減気を直せ。それでもリシモアテルの男児か!」

 

「じゃあどうして俺から距離をとるんですか?」

 

 目を合わせるとすぐに逸らすヨルム。おいおい、なんだいこれは?

 

「そりゃオメエがくせーからでしょッ☆クッサ!おまえクッサ!」

 

「誰のせいだと思ってんだ!お前だって避けられてんじゃねーかああッ!俺は怪我人なんだぞ!労われよ半ケツ女ああッッ!」

 

「お、おおおォ!おいフザケンナッてめえら!オレもか!?」

 

 ヨルムら三人に微妙に距離を置かれる俺とセーニャ。だいたいなんだコイツの服は!?後ろから見たらお尻が丸見えだ。なんだこの服!?異世界のファッション進み過ぎだろ。俺にもとても着こなせねーよ。

 

「フラメンツ!!助けてよォ!」

 

「責任もっておぬしが運ぶのじゃ、おぬしがな」

 

「そもそもコイツ誰だよ知らねえよッ!誰!?知らない人ォ」

 

 皆の視線がセーニャと取っ組み合う俺へと集まる。

 

「確かに見たことがない面だよな、お仲間かと思ったが改造されてる様子もないし」

 

「・・・当たり前じゃ。そやつは新人じゃからの。おぬしらの後輩じゃから仲良くするのじゃぞ~!」

 

「そうなのか、あんたがそう言うなら信じるさ。だが―――なんで女の格好をしてるんだ?」

 

「・・・そう言えば・・な、なんでじゃろな?女装の気でもあるのかの~~」

 

 生暖かい視線が非常に痛い。

 

 ・・・・よくよく考えたら俺も変な恰好してたんだが。気にもなるよなそりゃ。俺だって好きで着ているのではない。断じて変態ではないのだ。それを説明しようにも俺の素性に関わることは話す訳にはいかない。それはつまりゲームマスターとやらの娘であるイグナイツの話に繋がり、俺が終末大戦時の不死者ではないと勘付く恐れもある。ヨルムはあくまでも同胞だからこそ手助けしてくれているに過ぎない。語れば語る程話の齟齬やボロがでてしまう。

 

 もうこの際、変態扱いでもなんでも構わない。奥歯噛みしめ耐え忍べ。逆に利用しろ。察する気持ちがあればこそ深入りはしてこまい。

 

「男が女の格好をして悪いのかよ!」

 

「ま、まあそういうことじゃ(なるほど上手く視点を逸らす)」

 

 ヨルムは真意を察っし同調する。そりゃそうだ自ら女の真似事をするなどカマ野郎ではあるまいに。ヨルムは少し安心する。

 

「それにしてもおぬしら黒殖白亜と戦りあって無傷とは恐れ入った。成長したの」

 

「あまり褒めてくれるなよ。照れるぜ。正面から戦ってたら無傷といかなかっただろうが、俺らには策があってね。ああ勿論思いついたのは俺だが、いやまいったな、ははは」

 

「ほうほう」

 

 恐らくは我を狙撃した連中のことだろうとヨルムは思案する。攻撃が通じないと見るやすぐに撤退。気配を感じさせない隠密行動。相当優秀な人員で固まった部隊であるようだが我はともかく他の祈り手では手こずりそうなものを・・こう言ってはなんだが三馬鹿が無傷で切り抜けるヴィジョンがどうしても思い浮かばない。

 

「土下座だ」

 

「・・・・・すまん、なんて?」

 

「出会い頭で三人で土下座して油断を誘い不意打ちをかました」

 

「・・・・・は?」

 

 隣のインクリウッドはどこか誇らしげだ。ガンヘッドのどこが目なのかよくわからない頭を遠い目で見る。彼らの目は真剣で嘘を言っている様子はない。そんな情けの無い勝利でどうしてそうも誇らしげでいられるのだ?

 

 こいつら頭は悪くないのに、突拍子もない事をやるせいで変わり者揃いの祈り手でもかなり浮いた存在であった。面倒だからと常に三人で行動させるようにまとめられていたぐらいだ。記憶がないころの”私”はとても優しかったらしい。こういった手合いの者に慣れていたからこそ、こいつらの面倒を押し付けられてしまった経緯がある。

 

「あの猟犬どもに見逃してもらったというのか?それなら肩に引っかかったその十二指腸はなんじゃ!?」

 

「土下座したまま敵意が無い事を延々とぐだぐだ説明して誤解を説いてるスキに奇襲かけた」

 

「なにやってるんじゃッ!?おぬしら鬼か!?余計話がこじれるッ」

 

「俺は戦うつもりはなかったぞ。勝手にインクリウッドが一人で隊員の首跳ねて仕掛けちまったから流れでやったが、おまえあんなことができるんだな・・・こわい」

 

「へへへ、そんなに意外かなー」

 

 好戦的なセーニャがビビっていた様子にも納得がいく。いつもふわふわしていて捉えどころないインクリウッドが真っ先に仕掛けたとは正直驚いた。なぜと聞いたところでまともな答えは返ってきまい。いつもと変わらぬ微笑みを浮かべるインクリウッドにある種の安心感を覚える。

 

 それにしても祈り手の粛清か。恐らく原因は我の様に記憶が戻った他のグループが何かを仕出かしたのだろう。いいとばっちりだよ。

 

「あいつら既にボロボロで3人しかいなかったから何とかなったが、もうやめろよな」

 

「はーいわかったよー」

 

「で、部隊の奴らを軽い気持ちで殺しちまった俺たちはどうすればいいと思う?助けてくれませんか?」

 

「クソみたいなムーブじゃ・・・逃げるしか、あるまい。そもそも我らには抹殺指令が下っておる」

 

 話し合いに応じるような甘い連中ではない。A種と同じ力を振るう者をそのままにしておくはずがない。

 

「なあ反逆すんのはいいけど、オレら今どこにむかってんだ?ここってどこに繋がってんのよ」

 

 コイトを担ぎあげ駆け寄るセーニャ。口は悪いが放置することはしないか。

 

「記憶が正しければこの先に地上直通のエレベーターがあったはずじゃが・・・」

 

 暗く古ぼけた道をしばらく歩む。道は階段となり下に下にと恋都たちを誘う。

 

 しばらくすると広大な空間に出るのだった。

 

 

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