オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第28話 異能

 

 目の前には天辺が見えないほどの巨大な扉が佇む。様々な機器やケーブルが散りばめられていた研究所から一転、無機質な石造りの広間。中央に6つの太い柱がそびえ立っている。周囲にはコントロールパネルといった機械の類は見当たらず、他とは違う厳かな気配を漂わせていた。なんとも重苦しい。

 

「エレベーターがあると思ったのじゃが・・・記憶違いじゃったのか?」

 

 立ち入りが禁止されるよりも大昔の話だが、施設の古さとうろ覚えの記憶からこの辺りで間違いないのだが・・・それに例えエレベーターが機能しなくとも設備さえ残っていれば・・第三層から一気に上層まで駆け上がれる。

 

「いや、そう判断するにはまだ早いと思うぜ。扉の先が気になる。どこかにスイッチは無いのか?ここって祈り手にとっては立ち入り禁止区域だろ」

 

「よし探そっかー」

 

 手分けして周辺を探すヨルムたち。誰もがヨルムの言葉を信じて疑わないのかすぐに行動に移す。

 

 それを・・・・俺は扉にもたれかかったまま眺める。体がまともに動かないので仕方がないが、一方的に他者に寄りかかるしかできない自分が情けない。俺にも・・・・足さえあればな。

 

「・・セーニャは探さなくていいのか?」

 

「てめえを運ぶのに疲れたんだよッあと気安く呼ぶな☆寝る!」

 

 俺の右横で同じように扉に寄りかかるセーニャ。どこからか毛布を取り出し身を包むが何気に俺の分も投げ渡してくれる。世の中を舐めたような目つきをした女だが面倒見はいいようだ。優しい・・

 

「?・・なんだ、オレの顔になんかついてるの?」

 

 セーニャも見た目通りの身体能力ではなかった。ヨルムのように平然と俺を担ぎ上げ重心がぶれることなく走る。祈り手では一般的な身体能力なのだろう。ヨルムが語った祈り手になった経緯から推察するにセーニャや他の二人もこことは別の場所から連れてこられたのだろうか。

 

 俺は正しき使命の上で人体実験を行ったからよかったが、彼女らは無理やりであろうことは想像に難くない。捕まって目が覚めたら体にナニカされてましたなんて堪ったもんじゃないな。なんて非人道的な行為だろうか。異世界やばいな。

 

「おい?急に黙るなよ。オレがかわいいからってジッと見んなよ」

 

「・・・・」

 

「ああ!もしかしてさっきのアレで怒ってんのかー?ノロマなお前が10割わりぃと世間は思うだろうが気にすんな☆オレは全然気にしないでおくんだからな!ヒャハハ」

 

「いや、あれはどう考えてもお前が悪いんだぞ。もう一度言うが、お前が悪い」

 

 ガンヘッドが首を鳴らしながら俺の左側に座る。赤く塗装された銃身の頭が鮮やかで張っている。

 

「その頭、重そうですね」

 

「・・・わかるのか」

 

「はい、上半身が前傾しないように心掛けた動きをしてますから」

 

 非常に大柄でしっかりとした恵体。筋肉の作り込みから体幹が安定しており所作の一つ一つから頭部に気を使っていることが窺える。その特徴的な見た目からまるで戦車のようなイメージが浮かぶ。

 

「コイト、だっけな・・お前も火属性らしいな」

 

 ギザギザとした歯のような部分が口なのだろうか。声は思ったよりも若いがおっさんだな。声といい外見と言い非常にかっこいい。名は体を表すとはまさにこのことだ。俺なんかよりもよっぽど出来のいい改造人間だ。こうも振り切れば違った印象を受けるというもの。

 

 ・・・少し羨ましいよ。

 

「やはりあなたも?」

 

「見てのとおりだ。火属性だったばかりにこんなふざけた改造されちまった。気が付けばこうだ。元がどんな顔だったかも知りもしねえ」

 

「それやっぱり銃なんですか」

 

「ああ、実際に撃てるしな」

 

 パカリと銃身が下がりシリンダー部分が解放される。そこから銃弾を取り出し投げ渡す。

 

「!!?」

 

 右手で受け止めるも想像とは違った重量にビックリする。

 

 重い、この銃弾のサイズからは考えられない重さ。どんな素材を使えばここまで重くできるのか皆目見当も付かない。常人が今の感じで受け取れば肩が落ちるんじゃないだろうか。

 

 こんなもの説明も無しに投げ渡すなよ。怪我人だぞ。

 

「悪かったよ・・少し確かめておきたくてな」

 

「どういうことだ?」

 

 右手首のスナップを利かせ投げ返す。頭に収納される弾丸。装弾数は5発か。あれでよく平然としていられる。

 

「ガンヘッドはねー確かめたかったんだよー・・・君が本当に私たちといっしょなのかをねー」

 

 うお!

 

 いつの間にやら目の前には屈んだ姿勢で膝に両肘をのせるインクリウッド。微笑みを浮かべながらも背後では黒い武骨な尻尾が揺らめいている。

 

 俺の右にはセーニャ。左にガンヘッド。そして正面にインクリウッド。

 

 こ、これは三角形!

 

 俺は見事に囲まれた形となる。新人の歓迎会って雰囲気じゃなさそうだが・・・俺なにかやっちゃいましたかね?

 

 この感じ、ただお話ししに来たという訳ではなさそうだ。冷汗が止まらない。どこかでボロを出したのか、警戒と疑惑の色――――

 

「どこにも改造の形跡はないみたいだし、記憶もはっきりしているな。―――いろいろと聞きたいことはあるが、一番の問題は・・・・フラメンツだ」

 

 ・・・ああなるほど、つまりはこういうことか。ヨルム、いやフラメンツの急激な変化を危惧しているのか。突然知り合いが別名を名乗り始め、口調も違うと来た。おまけに隣には覚えのない女装した不審人物。疑われてもしょうがないわ。

 

「どうしちまったんだろな。急に、のじゃのじゃ言い始めちゃってさあ、頭大丈夫かよ・・・いやマジで☆」

 

「いつも自信無さげで怖がりで、それでも仲間の為に必死で頑張るような奴だったのに・・・あんなのフラメンツじゃないぞ。俺たちのアイドルはどこ行った?なあ、なにか知らないか。些細な事でもいい心当たりがあるなら教えてくれ、敵はどこだ」

 

「え、え?」

 

 俺に詰め寄るガンヘッドの頭部が頬にめり込む。なんか思っていたのと違う。普通ここは俺が怪しまれる流れだと思うんだが。もしや俺が余りにボロボロ過ぎて敵とすら思われていないのか?

 

 それに原因って・・・イグナイツじゃん!

 

 ここは・・・俺の目的の為にも素直に伝えるべきか。でもヨルムと戦闘になったことは伏せておこう。ややこしくなる。

 

「・・・・実はだな。なんかヤベーやつにボコられてからああなった。俺の体を見ろ、どうだ痛々しいだろ」

 

「ボコボコってフラメンツが?・・・それマジか・・・ヤっべえ」

 

 おや?どうしたんだろうな。急に三人は顔を見合わせちゃって、何を考えているんだ?沈鬱な空気から不安が読み取れる。

 

「フラメンツちゃんはねー祈り手でいちばーん強いんだよー」

 

「そうなのか?」

 

「異能はアタリで魔術に対する含蓄は至高の頂きだぞ。並外れた再生能力。改造も受けずにあのパワーだ。A種を相手に数百年も生き残った実績。守護者からも人気があるんだぜ」

 

「それをボコるってー・・・やば・・・やば」

 

 ヨルムとイグナイツ(+オレ)の戦いはまさしく熾烈な戦いだった。魔術という俺の常識を打ち破る技術の応酬。異能による過負荷に超加速、肉弾戦によって破壊される地形。凍てつく空気。最後に勝ったのはイグナイツであった。

 

 短い時間でヨルムの操る異能の正体に予測をたて完全に相手を屈服させた。思うにイグナイツにはまだ余裕が見受けられた。

 全身が刃で串刺しになりながらも決して動きは衰えず、壁を破壊するような衝突を受けても生きているタフさ。頭に剣ぶっ刺さってたけどなんで生きてんだあいつ?出血量が明らかに許容量超えていたのに・・・

 

 続く二戦目。もともと頭のおかしい奴がさらにおかしくなるという珍事。赤い糸のような物に繋がれ変わり果てた様相を呈したイグナイツ。前の戦いからそんなに経っていないのに疲れや衰えを見せない体さばき。凍結しようと構わず動く理不尽さ。

 

(イグナイツってかなり強かったんだなあ・・)

 

 いまさらながらあいつも何か異能持っていたんじゃないかと訝しむ。

 

「おぬしらあああああ、なにサボってんじゃ!ちゃんと探さぬかッ!!」

 

「まあ・・・年相応でいいんじゃない?」

 

「よくねえ・・もはや別人じゃないか・・」

 

 そう言われてもこっちがヨルムの本当の姿だから仕方がない。慣れるか諦めるかしかないだろう。

 

「そういや・・さっきのアタリがどうとか・・・どういう意味なんで?」

 

「ん?ああ新入りは知らないか。適合者は必ず異能が発現するんだが、個人によって差が激しいんだ。はっきり言ってフラメンツみたいな強力な異能の発現は稀でそのほとんどが微妙なんだ」

 

「そうなのか。・・・ちなみにあなたたちはどのような異能をお持ちで?」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 ガンヘッドたちは急に黙り込む。その沈黙はある意味答えでもあった。アタリと評すのだ。つまりは・・・

 

「ああ、そういう・・」

 

「いやまだ使えない力だとは決まってはいない!これから活用方法が見つかるかもしれんだろっ決めつけは良くないぞ!!」

 

「くひ☆電撃を蓄えるだけの力が何に使えるのか教えてくれよ~」

 

「実質電撃無効だろ!それに専用の機材を使えば貯めた電気も扱えるんだよ!」

 

「一人で扱えないからそんな改造されんだよ」

 

 電気を蓄え、放出も可能。こちらの世界では電気の重要性がどれほどか知らないが元の世界ならかなり有用な異能に思える。魔力が存在し火が重要視されるこの世界でのエネルギー事情ってどうなっているのだろうか。少なくともここでは電気が使われている様子。このような近代的構造物においてはその異能は活用できそうなものだが。

 

「オレを見ろ!この綺麗な肉体、柔らかな肌!メンテの必要のない体は最高だなあッッ」

 

「えー私の体がなんだってーよく聞こえなーい」

 

「うるせえぞセーニャッ!単に活用方法が無いから放置されてるだけだろが!無駄飯ぐらいめ!そんなに自慢したいならひん剥いてやるよ!」

 

 ぐあーよせ!ヤメロ!ナマイキダ!二人がかりで抑え込まれ次々と衣服を剥かれるセーニャ。産まれたままの姿で投げ出される。白い素肌に凹凸の少ない肢体。何もかも丸見えだが隠す素振りを見せない。やはり猿か。

 

「いや、隠そうぜ」

 

「隠す?そいつらと違って恥ずかしいところなんざオレにはないもん☆全裸でも恥ずかしくないから!」

 

 どういう基準だよ。見た感じ16歳くらいに見えるがこいつもヨルムのように見た目通りの年齢ではないのかもしれないが・・あまりにも人としての意識が低すぎる。恥を知れ。

 

 裸のまま胡坐をかくしな。ああ、もう。ここまで大ぴらにされると恥ずかしいもクソもないな。

 

「で、セーニャの異能は?」

 

「はぁー?知らね」

 

「・・・・・・ガンヘッドさん」

 

「俺も実のところ詳しくは知らん。物事を曖昧にする力って聞いたことはあるが・・・」

 

 なんだそれ。訳の分からないことを。まるで意味が分からんぞ。

 

「そんな目で見るなよ。異能そのものはアタリらしいが扱いが難しすぎて研究所でも腫れもの扱いされてるんだ。なまじ事象に直接干渉できる異能のせいか下手な実験も行えない。補助的な改造措置も受けれないときた」

 

「ふふふ、訳がわかんないよねー」

 

「その分インクリウッドはセーニャの逆でかなりの改造を受けてる。能力があからさまに使えないと、な」

 

「・・そうなのか?」

 

「環境が悪いよ、環境が~。ふふふ、確かめてみるー?恥ずかしいなー」

 

 インクリウッドは急に立ち上がり尻尾を器用に使い膝上まであるダブダブのプルパーカを捲り上げる。その中身を見て恋都は思わず凝視した。きわどい水着のようなパンツ。腰に取り付けられた脊髄に直結しているであろう黒い装置。そこから伸びる黒々とした無機質な尻尾。頭の横から生えた二つの角と言いいくらなんでも盛り過ぎだろ。どんな目的があればこんな改造を施す?

 

 ・・・・・・・・ん”?

 

「ちょっと、なんで手首から先が無いの?」

 

「わかんなーい。何かをモデルにかいぞうされたって聞いたけどー忘れちゃったー」

 

 萌え袖のようなサイズの合わない服の両腕部分を尻尾で器用に捲り上げる。両手首にまかれた血の滲んだ包帯が痛々しい。食事をとる際、顔を机に伏せ犬食いしてたのはそういうことだったのか。行儀がなってないとか思ってすまない、許せ。

 

「・・・インクリウッドの異能は氷を水に変換する力。至って使いどころのないカスみたいな力だ」

 

「カスっていうなーころすぞ」

 

「ハハッガンヘッドの言う通りだな!外界で力を使った時に雪を片っ端から解凍したのに次から次へと凍っていったじゃねーか、あれじゃあ意味ないよね☆マジでカッス!!」

 

「むがーゆるさーん嬲る!」

 

 クヒヒハッ!と笑いながらぶっ飛ばされるセーニャ。氷を水に変換するのは別に熱で溶かすのではなくただ変換するだけなのか。それでは解凍してもすぐに固まる・・・のか?どんな環境だよ。寒さが厳しい外界で通用すれば有益な異能だっただろうにと、話からここが相当な極寒地帯であると当たりをつける。これは脱走後のことも考えないといけないな。

 

 無改造のヨルムとセーニャ。改造されたガンヘッドとインクリウッド。異能と言ってもかなり限定した力が発現することはわかった。彼らに施された改造とはつまり能力の補填だろう。祈り手はあくまで異能を主体とした部隊なのが窺える。A種との共通点である異能。実験を主導するゲームマスターとやらは何を見据えているのだ?実験の結果から何を得ようとしている? 

 

 異能の重要性が如実になるほどイグナイツの異様さが露わになるな。あいつは比較にならない程に厚遇されている。よそから人を攫い人体実験を行いそのほとんどが廃棄処分にされている。イグナイツの語る父親の像とゲームマスターはどうにも一致しない。身内には優しいだけかもしれないが第四階層の存在といいまるで一人の為にあつらえた場所じゃないか。

 

 何なのアイツ・・・あの強さの源泉には何か秘密がある。

 

「で、新入りはどんな異能を持ってるんだ?ついでに教えてもらおうか」

 

「・・・え?」

 

「おいおい、先輩には語らせて自分はなしとかお堅いことは一切なしだからな新入り」

 

 異能か・・いや、ここで聞かれるのは当然の流れか。三人が興味津々な顔で熱い視線を送る。ここで無改造の意味を思い知らされる。少なくとも改造組以上の異能でないとおかしいことになるのではなかろうか。

 

「いや、実は俺もどんな力が発現したのかまだわかっていないんで」

 

「んなわけあるかよ!処分されずに生きてるってことはそういうことだろがッ!さっさと吐いてオレを気持ちよくさせるんだよッ☆!!」

 

 こいつ、新人に対してマウントとる気まんまんじゃん・・・嫌な先輩だ。

 

 俺も勇者に名を列っする者。だから間違いなく異能があるはずなのだが、未だに実感がない。

 

 そして異能が発現していても困る。

 

 ヨルムの認識では俺は900年前の不死者であり同胞。俺が現代に召喚された勇者であっても敵であった勇者と同じ括りではいい感情を抱くとは思えない。

 

 あの最初の嬉しがりよう。本当のことを黙っていたことがばれれば気持ちを裏切ったことになる。ヨルムの純粋な気持ちを利用した俺を手助けする意味もない。見捨てられて当然で最低だが俺にはこれしかないのだ。これしか―――

 

 取りあえずイグナイツに言ったようにこの不死性こそ異能とでも言っておくべきか?

 

 それならヨルムも意を汲んで話を合わせてくれるはずだ。抵抗はあるがここで一度死んでみれば納得するだろう。

 

 ・・・・いや待て待て、ヨルムの認識では俺は不死性が低いと認識されていたな。だからこそ体の傷がまったく癒えないことに言及しないのだ。非常にゆっくりと再生しているというのがヨルムの認識だぞ。

 

 イグナイツとの一戦で受けた傷はまだ残している。俺が傷の再生をコントロールしているだけなのだがそうでないとイグナイツから受けた傷が勝手に治ってしまう。そうなるとヨルムに不審がられてしまう。なぜ古い傷の方はまったく治らないのかと?

 

 ―――――――――辛い。言葉にできない生き地獄だ。

 

 ヨルムはそれを察しているがどこか満足げに見ている。泣き言は不死者には似合わないらしい。好感を維持するには仕方のないことだ。

 

 要は媚びを売っているのだ。俺も・・・必死だ。一人になれば本当にどうしようもない。どうにも・・ならない。

 

 ここで一度即死するほどのダメージを負って復活すれば、左目と左手などを筆頭に他の傷が治らない事に疑問を持たれる。俺は後天的要因で不死者に変貌したが、当時の不死者はどうやって産まれるのだ?

 

 まさか産まれた時から不死者な訳があるまい。ヨルムは子供の姿のままだが、一定期間時が経てば不死者になるのか?

 

 話では不死者になったのは埒外の出来事の様に語っている。話から不死者とはそれまで無縁の存在だった様に受け取れるのだが900年前の不死者の国リムルベルタの実態が分からないせいで迂闊に答えられない。

 

 やはり常識的に考えて不死は後天的に与えられたものと考えるべきだ。

 

 大戦はヨルムが11歳の時から始まったと言っていた。その前年に事件が起きたとも。ならばそれこそが不死者が産まれる切っ掛けとなる出来事なのだろう。それならヨルムの姿が幼い姿で固定されたままの理由として納得がいく。そんな彼女からすれば・・・青年の姿で固定された俺は年上。しかも戦場に出るのに適した若者だ。徴兵され大戦初期から戦っていてもおかしくない。だからこそヨルムは時折俺に対して敬意を匂わせる。

 

 話のつじつま合わせで俺はその頃に勇者の異能で今の時代に飛ばされたということになっているがこの設定は失敗だった。

 

 ヨルムは俺の傷を大戦で勇者に負わされた傷だと思っているのぞ。

 

 もしこの古傷が大戦以前からの傷だとして事件で不死者に固定化されたのであれば、余裕のない大戦末期ならばともかく普通は邪魔になるだけで戦場に駆り出されるとは思えない。

 

 そもそもこんな状態では戦えない。尚更勇者と戦えるはずがないのだ。立つこともできない状態でどう戦えと?

 

 だいたい俺は勇者と直接戦ったからこそ異能で飛ばされたことになっているだぞ。それだと今まで誰の助けも無くどうやってここに至ったかという話になるし嘘を問いただされる。そうなればお終いだ。

 

 ああ、嘘に嘘が重なり俺をピンチへと追い立てる。これを自滅ともいう。慣れないことはするものじゃない。じゃあ他にどんな道があったのだ。

 

「ええとほら・・あれだ。この体!多分手術に耐えられないと判断されて何もされなかったんだよ!」

 

「それならそれでなぜ傷の手当てもしないんだ?ある程度ならポーションでいけるだろ。半端な真似はしないと思うぞ」

 

 殺すか治療か。確かにそうだわ・・・クソおおお!

 

 思い出せ!もしかすれば俺が気が付いていないだけで既に異能に目覚めているのかもしれない!何か・・不可解な現象は無かったか!?

 

 厳かな石づくりの医療室。フォトクリスと初めて出会った時から記憶を掘り起こす。頭が痛い。常識外れの出来事ばかりで判断が鈍る。あったはずだ。明らかに不可解な現象が・・・!!

 

 まるで逃げ場はないと言わんばかりに背にした門が俺を押しのける。今はただ一心に念じるほか無かった。

 

「・・・もしかしてコイト、お前・・・」

 

「・・・・・」

 

「廃棄前だったのか・・」

 

「・・・・え」

 

 同時に背後からガコンと開錠音が広間に響き渡る。音はもちろん背後から、体を通し感じた。

 

 俺は別の意味で驚いていた。

 

「・・・・んえ?」

 

「お、フラ姉が見つけたのか?」

 

「そうみたいだな。さてこの先に何が待っているのか・・・それと無理に聞いて悪かったな。すまない」

 

「・・・・いや、あ、ああ」

 

 都合のいいことに勝手に勘違いして勝手に納得している。いやそれよりもだ。背後に振り返り徐々に開こうとする扉に目を向ける。

 

 

 偶然、―――なのか?

 

 

 俺はイグナイツがいた白い部屋を出る際の出来事を思い出し一心不乱に開くよう念じていた。あの時は精神が不安定ながらも開け開けよと拳を叩きつけていた。あれがなぜ開いたか、イグナイツもわかっていなかった。そもそもアイツを閉じ込めておくための部屋なんだからイグナイツには絶対に開錠は不可能だ。

 

 その後に現れた幽霊は驚いていた。元はと言えば扉の存在を仄めかしたのは幽霊自身だったはず。開けれるのなら既に開いている。

 

 今までに無い要因として俺以外にあり得るか?これこそ俺の異能ではないだろうか?

 

 また扉は開いたのだ。これを偶然と片付けるには少々無理があるように思えるがそれを判断するのはヨルムの確認をとってからでも遅くない。これが装置によるものならよし!そうでなくても、なんか勝手に開いたってことでいけるはず!いけるいける!

 

 やけくそ気味にそう思い込む。異能であって欲しいがそうでなくてほしい気持ち。やっぱ俺も超能力使ってみたいと思うのは仕方がないだろう。せめぎあう気持ちに揺れる心。興奮で心臓が高鳴るが、今は返事の無いヨルムに意識を向けるべきだろう。

 

「フラメ―――ッ!・・あン?」

 

「・・・んー?」

 

 声を掛けても一向に姿を現さないヨルムもといフラメンツ。返事はなくどれだけ呼び掛けても反応が返ってこない。呼びかけは空しく響くばかり。

 

 お互いに顔を合わせ訝しむ。セーニャがいそいそと服を着替え、ガンヘッドはどこからともなく大型の二丁拳銃を取り出す。インクリウッドはフワフワとしている。俺は・・・拾った銃を手に寝ている。

 

 背後の扉が地面と擦れ開いていく。音が警戒心を表すようであった。

 

 ギ、ギギ

 

 微かだがはっきりと耳にした。音は空間を支える巨大な柱の一つから。その陰から何者かと剣を鍔迫り合いをするヨルムが現れる。押されているのかゆっくりとその姿を覗かせる。

 

 相手は黒く骸骨を想起させる部隊服・・・あの隊章はまさか―――ッ

 

「避けろッッ!!?」

 

 ガンヘッドの叫び。警告と共に俺たちがやって来た通路奥から光が瞬き、何かが飛来した。

 

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