オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第29話 強襲

 

 

 マズルフラッシュと思われる閃光。少し遅れて轟音が追随する。

 

 警告と共に一斉に散開するガンヘッドたち。俺はどうしようもないので瞬時に銃を構え飛来物に向け銃口を向ける。

 

 

「――――――ッ」

 

 改造人間特有の集中力が、――――高まる。

 

 時間が凝縮されたような錯覚。

 

 俺は頭痛を振り切り飛来物の動きと形状を捉える。

 

 目から血を流しながらも砲弾と判断。引き金を引く。

 

 バガァッン!!

 

 迎撃により中空で爆発する砲弾。

 

 それで安心することなかれ。怪しげな機械音をたて奥から何かが・・その巨体を響かせ姿を現せる。この異様なフォルム。

 

 四足歩行型の戦車のお出ましだと・・・異世界って・・・ヤバイな・・・

 

 

 それを見たヨルムは大声で競り合う相手に問いかける。

 

「機甲兵群四型<天鳴>じゃとッッ!?あのようなものを連れ出して!おぬしら正気か!!」

 

「ああ!ご覧の通りだ!私が直接出ているのだから当然とも言える!!諦めるがいい反逆者達よッ!!君たちには地べたに這いつくばるのがお似合いだ!平伏せ下郎!!」

 

「お、おんし――――ッッがア!!」

 

 ここまで接近を許すとはッ!こやつの隠形はどうなっておる!?

 

 持ち前の異能が刹那の剣閃に反応し速度を減退しなければアンブッシュ成功で首が跳ねられておったわ。まさか”私”に救われるとは・・・記憶を失う前の”私”はよくやった褒めていい。異能の本当の効力を虚偽申請していなければ今頃―――

 

 だが、依然状況は最悪。離れようにも敵に右足先が杭のように踏み抜かれ右足先が骨ごと砕かれていた。おまけに鍔迫り合いにおける馬鹿力で全身に負荷をかけられている。

 

 足腰が砕けそうだ。全身の骨が軋み海老ぞりに押し潰さんとする。

 

 

 

 ―――――なによりもだ。

 

 そんなことよりも!!!!!

 

 こいつの振るう獲物、もしや、もしや――――――黒殖白亜最強とまで称されしあのA部隊隊長セイランか!!

 

 となると、マズイッ!!マズイッッ!

 

「気を付けよぉぉッ!こやつらは”あの”A部隊じゃあ!副隊長にも気をッぐおあ!」

 

「私を相手によそ見か”氷結界域”・・舐められているのかな!それにもはや手遅れ。許せよ戦いとは無情!それすなわちッ―――」

 

 

 その時ガンヘッドは見た。

 

 ガトリング砲を構え迫る天鳴に注意がいく皆の後方。コイトの背後から何の前触れもなく気配が生じる。

 

 飛び散るは鮮血。力無くばたりと仰向けに倒れるコイトとその背後に立つ影。

 

「まずは一人・・」

 

 先ほどまで会話をしていたコイトの首をその手に提げる副隊長の姿。

 

 死んだ――――――こんなにも、あっさりと。

 

 ドクリとヨルムの心臓が脈打つ。ああまでされればコイトの不死性では生きているはずもなく・・・受け入れがたい光景が、事実が眼前で起こる。グニャリと記憶の奥底から死にゆく同胞たちの姿が掘り起こされる。

 

 これで何人目だ・・・・?

 

 また――――――同胞が一人逝った。

 

「おまえッ犬風情がッ!新入りに何しやがるッッ!」

 

「後は天鳴に任せよう。それが一番楽。なにより安全、ね」

 

 頭を投げ捨て一瞬で襲撃者の姿が掻き消える。セーニャの蹴りが空しく空を切る。

 

「クソクソォォッッ!!オレの後輩があああ殺してやる!!!」

 

 セーニャが吠え呼応するようにブチリ、とヨルムの中で何かが切れる。

 

「おのれ!おのれええええええッッ!」

 

「・・・・驚いた。そんな顔ができたのか、何度も言うが許せよ。その上で死んでもらう」

 

 既に右足の指の感覚が無い。分断された上にあの三馬鹿で天鳴と残りのA部隊員を相手にしなくてはいけない。記憶が戻ってからの初戦がこいつらとは慣らし運転の時間ぐらい寄越せと泣き言を吐きたくもなる。

 

 一切の猶予はない。同胞が殺された時点で、もはや戦う以外の選択肢は消えた。和平なぞ糞喰らえだ。

 

 他の部隊であればまだ交渉の道もあっただろう。だがA部隊はダメだ。こいつらだけは己が全てを尽くさねば一方的に狩られる。やれるのか・・・まだ完全とは程遠いのだぞ??

 

 ああ、なんて、絶望的なんだ。

 

 本当に――――――楽しいのなあッッ!

 

 記憶が戻り今ここに復活したリムルベルタの高位魔術師の恐ろしさ、その身をもって味わうがいいのだ。

 

 いかに祈り手のことを知り尽くしておろうと蘇った”我”に関しては違う。

 

 900年の長き時を超え未だ顕在する神が我に力を与える。記憶の戻りし”我”ならば神の祝福も受けられる。祈りは常に我が身を安寧の地へと誘う。戦闘意欲が向上する。

 

 遠き世界でありながら未だ我が神は不滅であった。

 

 あらゆる要因が、過去と未来が繋がったこの時こそ全盛期超え始めた瞬間であった。後は加速していくのみ。

 

 

 ――――――さあ終末戦争の続きだ。今ここに暇を返上し宣言しよう。

 

 

「昏迷なる大地に根ずく腐れ血脈ども。一切合切の希望を捨てよ――――【雹月】」

 

 内なる深淵が世界をかき回す。純然たる力による形成。見てくれだけの構成は崩れ去り次なる舞台が演目を繰り上げ塗りつぶす。

 

 始めたからには後には引けない。誰にも主導権は渡さない。誰しも例外なく流れに沿え。出来ぬのならば、意に沿わぬならば――――そのまま死んでしまえ。

 

 我が終末は未だ終わらず、怒りの鉄槌を世界に知らしめるために。今日も今日とて知の底から全力で叫ぶ―――

 

 魔術が、発動する。

 

 空間上空と床一帯が濃霜に覆われ白く漂い始めた。それはまさに未知なる魔術そのものであり、戦いの始まりを知らせる狼煙であった。

 

 

 

 

 轟音と共に粉砕される主柱。

 

 広大な空間を赤と黒でペイントされた機甲兵群四型”天鳴”の巨体が走る。その形はまるで蜘蛛の様な四足の戦車。搭載された高性能AIの補助を受け正確な射撃の予測演算が敵の動きを捉える。大型に似合わず動きは機敏、小回りが非常に効き備え付けられた1秒間に250発も発射可能なガトリング砲が火を噴く。周りには歩兵が随伴し天鳴を盾にしながら魔術を飛ばす。

 

 次々と打ち込まれる弾丸の嵐。

 

 急発進する巨体は薬莢を地面に吐きながらその巨体ごと標的へと迫る。

 

「――――――ッ」

 

 それを持ち前の身体能力を生かし避ける三人。その様はまさしく三者三様の避け方であった。祈り手ならば銃弾程度対処できる。それでもまともに当たればただでは済まない威力ではあるが。

 

 特にインクリウッドの動きは人間離れしたものである。尻尾を壁や天井に突き刺し縦横無尽に空間内を三次元に跳ねる。まさしく獣。壁を蹴る度にそこが陥没する。

 

 そんな機動性とパワーに長けるインクリウッドが天鳴に高速で攻撃を加え、注意を逸らしてくれる。やたらと伸縮性に富んだ尻尾が激突しガリガリと天鳴の装甲を削り火花を散らす。

 

 が、装甲の上に展開された透明な”壁”が阻害し重量を生かした体当たりで尻尾を弾き飛ばし小型ミサイルで追随する。

 

 天鳴が出張って来た時点でガンヘッドの役割は決まっていた。こちらの攻撃は装甲表面にぴったりと展開された魔力ともまた違った特殊な障壁に阻害され通らない。勿論魔術もだ。

 

 魔術が使えないとなると物理的にどうにかするしかない。天鳴の主砲の制作に携わったのがガンヘッドだ。天鳴のことはそれなりに精通している。大まかなスペックを改めて再確認する。

 

(特殊兵装の障壁・・・・内蔵された魔力コンバーターと遺失物を併用し半永久的に稼働が可能だって代物だったはず。障壁が抜けたとしても装甲自体に対魔術特殊加工が施してある。”第二級”遺失物による神秘耐性もあって高位魔術師でもなければまともにダメージも与えられまい!ならばッ―――)

 

 ガンヘッドはしゃがみこみ、姿勢を整え瓦礫の陰から天鳴に向け頭部の主砲を構える。手持ちの武装で全ての防壁を抜けるのはコイツのみ。物理にいくら耐性があろうと驚異的な質量の暴力まで防ぐことはできない。そのまま弾き飛ばすのみ。

 

 相手もこちらを警戒してか縦横無尽に移動し攻撃を加えようとするがインクリウッドの伸びる尻尾や強烈な蹴りが動きを鈍らせる。

 

「うがガあああああああー!!」

 

 限界を超え舞うインクリウッドの残像が分身となり天鳴のターゲットを散らすまでに至る。流石だと褒め照準を合わせる。

 

 その程度の動き、当てる!

 

 心の中の撃鉄を引こうと力んだ瞬間―――

 

「ツ”ッ――」

 

 銃身がブレ金属音と衝撃が頭を揺らした。

 

 ガンヘッドは別の角度から攻撃を喰らい倒れ込む。そう簡単には、いかせてくれないらしい。

 

「ッ!俺じゃなきゃ死んでるなァッ!!」

 

 狙撃を行った下手人たる隊員へと銃撃で牽制するも相手はチーム。盾役が前面で身構えその陰から他の守護者が銃弾や魔術で応戦する。数に勝るのが相手だ。当然圧される。

 

 まずい・・・やっぱり練度が尋常じゃない。角度を付け手にした盾で銃弾を受け逃されジリジリと距離を詰められる。連携で来る以上、大口径での撃ち合いは守護者に軍配が上がる。隙さえあれば魔術も行使してくる。ガンヘッドの腰に下げたカンテラから展開する火の結界で受けきるには限度を超えている。

 

 銃弾が頭に直撃し未だに脳内でガンガンと鳴り響く。だがこちらも特別製。重みに見合った頑丈さを誇る。対戦車砲程度じゃビクともしない。でも首は痛いからやめてくれ・・

 

 さっきから主砲の構えを見せる度に横やりが入る。まるでイタチごっこだ。主砲を使うにはどうしても構えが必要。構え無しに撃てば反動で後方に吹っ飛び壁に叩きつけられ死ぬ。

 

 頭に装填された弾は威力も反動も体への負荷も何もかもが度を超えている。俺に天鳴の攻撃が集中しないのはインクリウッドの過度な働きのおかげであり、早くしなければ先にあいつの体力が尽きてしまう。

 

(クソ!セーニャは何やってやがる!こっちは仲間が殺されてんだぞ―――)

 

 戦況は常に動いている。セーニャを確認するもA部隊相手にボロボロになりながらも食い下がるがっているがまるで相手になっていない。

 

 よく頑張っている。そんな事は知っているとも―――ああ、そうだとも!!

 

 ガンヘッドは頭に血が上っていた。仲間が殺され憤慨していた。

 

 セーニャは異能の都合上一番タフであり死ぬ事はないと確信があって一人で向かわせたが数の暴力の前ではどうすることもできない。無理を言った自覚はあるだがほんの一瞬でも主砲の発射時間を稼いでくれさえすればよいのだが、明らかに手が足りていない。

 

 苛立ちを抑え天鳴から発射された小型ミサイルを虚空から取り出した機関銃を両手に構え弾幕を張り迎撃する。戦いにおいて熱くなった者から死ぬとはわかっていてもこの怒りを抑えるつもりは毛頭なかった。仲良くなれそうな人間が死んだんだ。気の合う男の友人がここではどれほど貴重な事か。ああ気分が悪い。それがたとえ短い付き合いであったとしても未来の友が死んだことに何もできなかった己に腹が立つ!

 

 迎撃したミサイルの爆炎が広がり一帯を覆う。どんなに爆炎が広がろうと衝撃波や破片にさえ気を付ければ火属性にはなんら影響はない。属性ごとの特に優れた副次的な特性がその身を守る。

 

 そんな中、煙の塊から急に飛び出したるは円柱状の塊。

 

 あれは―――と絶句する。

 

 まさしく対A種使用を想定した一帯焼却ナパームであった。着弾と同時に信管が作動した時にはこの空間全てを熱量で焼き尽くす代物。酸素が消えてしまう。あんなものが実装されたなんて聞いてない。

 

 マズイ!酸素マスクは【蔵書】で常備しているが火属性の俺は耐えれてもセーニャ達が―――ッッ!だが、それは奴らも同じはずッ―――

 

 視界の端でA部隊の面々はお互いに固まりその周囲に火のついたカンテラを構えてみせる。複数の火継守による陣形。守護の形成。

 

 こいつら隊長もろとも俺らを殺るつもりか!?行動の淀みの無さ。ここまでの流れ全てが予定の範囲内か。となると隊長には既に対策は施されていると考えるべきか。

 

「ひゃうあああああッッ!マジで死ぬぅ!ガンヘッドおおお何とかしてよオオオオッ!」

 

 ボロボロになりながら床に転がるセーニャが叫ぶがセーニャもインクリウッドも距離が離れすぎて来たる煉獄から守ることができない。

 

 ナパームが放物線をなぞり地面へと落ちていく。弾頭が地面へ接触するまでの動きの全てがスローモーションに見えた。

 

 弾頭が重力に引かれる。

 

 

 

 

 

 ゴン!

 

 鈍い音と共に接地し直立したナパーム弾は作動することなく傾き倒れた。

 

 誰もが来たる衝撃に身構えていたからか、一瞬の間が生まれる。ガンヘッドは転がって来たそれが足に当たり、この場はひとまず助かったことに気が抜けそうになる。

 

 ふ、不発・・・?こんなことがありえるのか?ジャムるのとはわけが違うんだぞ。

 

 疑念はすぐに解消されることとなる。辺りに冷気が立ち込め白い霜が空気中を漂い濁らせていく。

 

 なんだこれはと事態の変貌ぶりに警戒が散漫となる。守護者も同じく変化に戸惑うも天鳴は機械。その隙を敵が逃すはずがなかった。機械には違和感など些細な事だと関係なしに無機質に命令を全うする。

 

「ガンヘッドッッ!!」

 

 セーニャの呼びかけにはっとなり意識が戻るがもう遅い。天鳴の主砲が完全に俺を捉えていた。

 

「ッう、く!」

 

 何もかもが遅い。主砲相手に意味も無いのに両腕クロスさせ守りの体勢をとる。全てが咄嗟の反応。避けるのではなく防御を選んだのが運の尽き。まともに受ければ即死する銃弾の連撃。身を竦ませ足が動かなかった。頭ではわかっていても体は正直だ。力んだ全身から汗が噴き出る。

 

「――――――??・・どうなっている?」

 

 だが、主砲はいつまでも発射されず、天鳴の巨体は微動だにしない。ガラガラガラとガトリング砲の砲身も回るが一向に弾が出ず空回り。ミサイルポットのハッチが開くもミサイルは一向に飛び出る事も無い。

 

 なんだ、なにが起きている???

 

 この一帯を漂う冷気の塊といい、こんなことができるのはただの一人しか俺は知らない。

 

「なんだ・・あいつッ全然変わってないんだなぁぁッ――――!!」

 

 新たな魔術の産声。勝負はこれからだと肌で感じた。

 

 

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