オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第31話 乱戦

 

 セーニャは果敢に挑む。何度血を吐こうとも役割を全うする。二度と後悔しないために身を削る。

 

「うおオおおおおああぁ死ねええヨおおおおッッッ!!」

 

「撃ち殺せ」

 

 正面から馬鹿正直に突っ込むセーニャに向かい銃を構えた部下たち。副隊長の命令が引き金を引かせる。まるで学習能力が無い無鉄砲さ。さっき同じことしてボロボロにされたのをもう忘れてる。

 

 しかもあの丸出し臀部。こんなのが我らと同等な地位にあるとはまったく悪い冗談だ。やはり統一性のない色物集団だな。誠に残念だよ。祈り手と懇意にしている守護者は多い。それでも我々は職務を全うする。何を優先するかなどわかりきっている。

 

 命令は・・・絶対だ。

 

 交差する射線がその軌道を沿って弾丸が対象の風穴開ける      はずだった。

 

「――――どうしたッ」

 

「た、弾が発射されませんッ!まったく反応が―――」

 

「オラアあッ」

 

 セーニャの蹴りが動揺する隊員に直撃し吹き飛ばす。

 

「死ねよ☆あひゃひゃひゃひゃあああ!死ね死ねッッ!【ブローニング・オーダー】」

 

「全員下がれッ!【炬火】(バーンストライプ)

 

 高位魔術の行使。敵の魔術を飲み込む程の強大な熱線の波動。個人に使用するには過ぎたものであるがこの距離での相手の魔術ではこちらにも相応の出血を強いる。ならばそれを飲み込むほどの火力をもって制そう。

 

 かざした腕の先から灼熱の波動が飛び出す。

 

 だが――――想定した結果を生むものではなかった。

 

 散弾銃のように巻き散らかされる闇の飛沫。直撃した数名の部下に直撃し吹き飛ぶ。【炬火】(バーンストライプ)は不発に終わったのだった。

 

(不発だと!?それになんだこの感覚と違和感!?)

 

 自身に組み込まれた魔術基盤が属性と噛みあっていない。それは自身の属性以外の魔術にアクセスしたような感覚に似ていた。

 

 傷を負った部下の体を支え副隊長は指示を飛ばす。

 

「魔術は使うな!銃もだ!全員いったん下がれ――!」

 

 セーニャにナイフを投げつけ怪我人を預けた仲間の体に身を隠す。

 

「やん☆」

 

 セーニャは体に軽い衝撃を受けるが飛んできたナイフは空気中で凍り体に刺さることなく服に弾かれ砕け散ったのだ。

 

 どうなってんだこりゃあ。おまけに副隊長があの一瞬で消えやがった。

 

 自身の首筋に感じる熱。どういうことか背後に一瞬で回った副隊長による不意打ち。

 

 それは唐突で両者に驚きをもたらす。

 

「どうなっているんだ貴様の首はッ?」

 

「ああ!痛ったー☆ッこのへたくそがあああよおおお!」

 

 セーニャの背後には誰もいなかったのにいつの間にかナイフを突き立てた副隊長がいた。

 

 自身の役割はガンヘッド達への邪魔を防ぐこと。そういう立ち回りを受け持ったからには戦線が維持できなければ引くぐらいのこともする。

 

 なのに奴は【転移】も使わずに背後から奇襲を掛けて見せた。魔力の発露が無かったので間違いない。

 

 ならばどうやって――――――――

 

 首を抑えつつも振り返りざまに裏拳を飛ばすも受け止められ太ももに刃を突き立てられる。それでも構わずセーニャは相手を蹴り飛ばすが仰け反りざまにさらに振り上げられたナイフが腕を切りつけて行く。

 

「アがあッ!うざってえええええ。この犬畜生どもがッ」

 

 セーニャはそれでも構わず攻める攻める。気のせいか相手の動きのキレが悪いように感じた。

 

「グッッ!?どうなってる!?これあッ!」

 

 A部隊副隊長ヲタルもまた不調に蝕まれていた。手足が凍り付いている。魔力障壁ごと凍り機能していない。氷の重みで動きが鈍るばかりだ。おまけにセーニャへの致命打が何一つ有効にならない。これも異能の恩恵か―――

 

「我らも副隊長に続くぞ!」

 

 負傷した仲間を運び終えた守護者どもが加勢してくるが関係ない。多勢に無勢な状況でもセーニャは笑う。寧ろ注意を引けるならこちらとしても望むところ。ヘイト管理の為にも口汚く叫ぶ。

 

 セーニャの蹴りを主体とした体術は全ていなされ痛烈なカウンターで返される。攻撃をするたびに血が舞うがセーニャはやはり笑っていた。

 

 定期的に投与される薬の副作用を事前に大量投与しハイになっている。

 

 オレは―――無敵!だからこそ己の傷を顧みない。

 

 攻めて攻めて攻め続ける。

 

 体術では相手が上の様でまともな感触が得られないがそれがなんだって?

 

 守護者どもが近接武器を手にセーニャを追い立て、血は滴り動けば動くほど体に熱を帯びていく。袋叩きもいいところだ。傍から見れば絶望的な状態。銃器と魔術抜きでもコンビネーションは抜群であり今にも死にそうだ。見た目からは考えられないような膂力による暴力が波のように押し寄せる。

 

「こ、コイツ――――!!?」

 

「くひ、そんなじゃッ殺せない!!そんなものかよカスどもがッッ!!」

 

 それでも膠着していた。未だ戦っていられるのはいくつかの要因からくるものであった。

 

 展開された【雹月】の影響で敵はいくつもの制限を受けている事。瞬間的に音速を超える剣や槍の刃先は次第に武器そのモノを凍り付かせ耐久性や殺傷力を奪ってしまう。冷えきった空気は息をするたびに体温を奪い、動きのキレを悪くする。時間がセーニャに味方する。

 

 なによりこのセーニャとか言うふざけた女の保有する異能。先の戦闘でもだが異様に攻撃が通らないのは異能でダメージを曖昧にしているからに他ならない。どんな致命傷の一撃でも煙に巻かれ都合のいい結果へと導く。軽い傷程度ならすぐさま自然治癒する生命力も合わさり大量の出血も期待できない。

 

 そしてなにより――――

 

「【オーシャンズエッジ】ッッッ!!」

 

 闇で形作られし小さな刃の連なり。無造作に列するそれらはお互いにぶつかり合いながらも無茶苦茶な起動を描き射出される。その数優に300は超えるか。

 

 辺り一面を針の筵へと変貌させ守護者の血が飛び散る。

 

 皆、必死に受け流し守護者たちは柱等の瓦礫を盾に耐え忍ぶ。読めない軌道が運悪く部下一人に殺到し直撃。即死する。

 

「―――――――――――リニスッッ!?」

 

 一方的な魔術の使用。それも魔力消費が高く、操作性の難がある・・・所謂後年に代用制作の末生まれた闇属性の単発魔術である【クロナイフ】の派生。

 精製された全ての刃を常にコントロールしなくてはお互いに干渉しあい消滅してしまう期待値以上の効力を発揮しないのが特徴である。それを異能と併用することにより魔術の判定を曖昧にし攻撃範囲を広げてくる。相互にぶつかり合えば威力は下がるか消滅するはずだがその判定をも操作し威力は衰える事も無い。それどころか見た目よりも攻撃範囲を広くしているじゃないか。連発してくることから異能で魔力消費にも干渉していると考えていい。

 

 クソ、隊長はなにをしている。展開された術式は明らかにあの女のものだろうが。確認しようにも漂う霜のベールが視界を妨げ見通しが悪い。

 

 先ほどの耳を劈く衝撃音。あれは間違いなく一文字。アレを受けて死ななかった者はいないのに。なぜ術式が切れない?

 

 まさか隊長が負けた?いや、それなら【氷結界域】に動きが無い理由がわからない。

 

 凍り付く体を抱え縋るように大声で後方に控える部下に声を掛ける。

 

「観測官ッ!」

 

「副隊長!我々の自己属性が強制的に変更されております!なので火属性以外の魔術の使用は問題ないようです!属性変更による魔力消費量と威力低下に気を付けてください!ただ凍結の条件はなにかしらの動作が起点となっているのですが詳細は不明!」

 

 だからといって動かない選択肢は採れない。長期戦になればなるほどこちらが不利なのは一目瞭然。ならば即効で大本を絶つしか手は無し!

 

「やはり・・あの女が先決か!出来る限り散開しセーニャに魔術で飽和攻撃を仕掛けろ!とにかく時間を稼げ!その間に私が隊長の加勢に出る!!―――特攻【影喰み】」

 

「逃げんじゃッ―――ぐおあ!アギャガy」

 

 セーニャが飛び掛かるも守護者が阻む。吹き飛ぶセーニャに追撃の魔術が飛び体を貫く。

 

 それでも血を吐き地面に爪を立て必死に立ち向かう。

 

 まだ元気だ、まだ動ける。未だに柱に背を持たれまともに動くことのできずにいるフラメンツの元へと詰め寄ろうとするが黒い人垣が壁となり頑強に阻む。戦力の差はあれど、この有利な条件下でようやく互角だと言うのか。フラメンツがボロボロに成りながらも均衡を維持しているのにこのままでは―――間に合わない!

 

 ”お姉ちゃん”が殺される!!!

 

 いや!いやァァァ!!

 

 涙目になりながら叫ぶ。

 

「ガンヘッドッ!インクリウッドッッおおおおお!誰でもいい止めろおおおおおオオオッッ!」

 

 セーニャの必死の叫びは独りよがりに響き渡る。

 

 

 

 

 

 凍結し動きが鈍る天鳴。回らないローラーを捨て多脚の足をそろえ、飛び跳ね駆け巡る。

 

『銃火器管制システムに異常。プロセス・・失敗。状況からの推定・・・原因の特定完了。これにより対象の脅威度判定を2レベル引き上げます。優先対象の変更。自己保存機能の一部解除を許可。緊急時におけるマニュアルを参照。ロックの解除を確認。【異なり底の聖剣】を展開します。黒殖白亜の皆さまは至急この場からの撤退を推奨します』

 

「なになになに、あれなにー???」

 

「気を付けろッッ!あれは―――ッ」

 

 天鳴の上部装甲が解放され何かが姿を現すと眩い光が辺りを覆い尽くした。

 

 現れたるは剣の形。

 

 一目見ただけでわかった。あれは、マズイ。

 

 体が、心が聖剣が放つ波動に竦んでしまった。実物を見たことは無かったがあれこそが――――――ッ

 

『【異なり底の聖剣】を展開します。危険ですので黒殖白亜の皆さまは至急この場からの撤退を推奨いたします』

 

 光が聖剣に籠る。

 

 今にも”何か”が解放されそうだ。

 

 ダダダダダッッ!

 

 ガンヘッドが放つ銃弾が天鳴を襲うが持ち前の硬い装甲が防いでしまう。

 

 こんな豆鉄砲ではダメだ!やはり主砲を使うしかない!ローラー部が凍結し動きが鈍い今ならば前よりも狙いやすい。

 

 

「ガンヘッドッ!インクリウッドッッおおおおお!誰でもいい止めろおおおおおオオオッッ!」

 

 

 セーニャの叫び声が聞こえるが目を向ける暇もないほどにこちらも切迫している。

 

「――――――当たってくれええええええええッッ!!!!」

 

『解放』(リリース)

 

 無機質な機械音声が冷徹に敵意を剥きだし牙をむく。両陣から閃光が瞬く。

 

 先にガンヘッドの頭部から発射された弾丸が聖剣を戴く台座を掠め――――聖剣より発射された光の柱の着弾点を僅かにずらした。

 

 脇に逸れたが余波でガンヘッドは吹き飛ぶ。常人であれば熱量で死んでいた。

 

「――――――――オ”―――ッ」

 

 光線は地面から天井へと薙ぎ貫く。予想もしない軌道に尻尾で壁に張り付いていたインクリウッドはなすすべもなく余波で吹き飛ばされてしまう。全身に酷い火傷を負っている。

 

 そのまま壁に激突し気絶するインクリウッド。意識も無く頭から落下する。あの高さはまずい。そう思いガンヘッドは走り出す。未だに発射される光の柱がインクリウッドを追随している。

 

 このままではインクリウッドが殺される。あいつは火継守じゃないんだぞ!!そうであっても直撃はマズイ!!

 

 ――――だめだ間に合わない!

 

 堕ちるよりも先にインクリウッドがやられる――ッ!

 

 主砲を使おうにも構える時間も無い。無理に撃っても命中するはずもない。

 

 ならば、ならば、ならばこそ――――!!

 

 

 

「そのまま行けぇッ!あいつは俺に任ぜろッッ!」

 

 

 誰かの声がした。背中を押された気がしたのだ。

 

 誰だったのかわからなかったがその後押しのおかげで一歩前に踏み込めた。

 

「オオオオオオオオしゃおらああああああアアアッ!」

 

 全力で助走をつけ体を反転させながら前に跳ぶ。

 

 頭部の銃口は天鳴ではなく何もない俺の背後へと向ける。手で頭を抑え首を固定し体を出来る限り丸める。どういうことか衝迫の行動ながらも確かな手ごたえを確信する。

 

 ――――主砲が火を噴いた。

 

 それはただの思い付きであった。こんなバカげた真似”普段”はやらない。だから試したのか。

 

 バガアアアアンンン!!!

 

 反動で一気に急加速した俺の体に凄まじいGがかかる。それでも必死に足を延ばし蹴りが弾丸のように天鳴のボディを障壁ごと突き刺し弾き飛ばした。

 

 天鳴は重量を感じさせないほどに機体は浮き上がり支柱を砕きそのまま壁に激突してしまう。光線の軌道は完全に逸れたがインクリウッドはどうなったのか。折れた右足を引きずり落下地点へ急ぐ。

 

 そこには――――

 

「よぉ」

 

「く、ははははッ、なんだ生きてたのか!」

 

「まあ、な。ところでこいつの角抜いてくれない?すんげー痛いんだが。死にそう」

 

 首を斬り飛ばされたはずのコイトがインクリウッドを受け止めてくれていた。さっきの声はやはり彼のものであった。幻聴ではなかったのだ。こうして軽口を叩くのだ。彼は生きている。なぜ、どうやってなんて些細な問題だった。

 

 腹に突き刺さった角を抜いてる所でインクリウッドの意識が戻った。

 

「あれ生きてるー!!?私も生きてるー!?なんでー!」

 

「あ、揺らさないで。まだ角が刺さってるんだが」

 

 混乱し暴れるインクリウッドの角が引き抜かれる。血がドクドクと溢れる。傷が内臓まで達しているじゃないか・・・・これでは・・・・いやこいつなら大丈夫か??

 

「――――時間が無いから聞いてぐれ。ガンヘッド、インクリウッド。今からヨルムたちを逃がすからそのまますぐに大扉に向かって逃げろ」

 

「助けるって―――――そんな体であれを相手にどうするつもりだ」

 

「そうだよー思いあがるなよこぞうー皆で逃げるよー」

 

「こんな傷どうってことはない俺は――――不死身だ。この場は任せてくれればいいんだよ」

 

 それでもガンヘッドには納得がいかない。バレバレの嘘を言ってくれる。ただのやせ我慢にしか聞こえないのだ。

 

 この目を知っている。死地に向かう者が見せる最後の光だ。

 

 ・・・・どこで見た光景だろうか。なんだか頭痛がする

 

「どうしてそこまでしてくれる。俺たちまだ会ってちょっとだろ」

 

「あんたらが死んだら誰が俺を運ぶんだよ・・・正直邪魔なんだよ。怪我人を庇いながらじゃ戦えない」

 

 そんな体で言ってくれる。だが、その軽口が頼もしく思えたのも事実。

 

「むーなまいき。新入りのくせに」

 

「それが一番みんなの生存確率が高いからじゃいけないか?・・それでその恩人から頼みがあるんだが」

 

「なんだ言ってみろ」

 

 ギャリギャリと何かが近づいてくる。”その”正体に驚く俺たちをよそにコイトは”それ”から伸びるアームに掴まれ上に乗り込む。

 

「ヨルムに言っといてくれよ。嘘ついて悪かったなって」

 

 

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