オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第33話 異能(???)

 

 ガタガタと振動する地面で俺の全身が痛む。それでも流れる冷たい風が心地よい。

 

 やっぱり、偶然でも勘違いでもなかった。イグナイツがいた扉とここの大扉が開いたのも全ては俺の”異能”が機能した結果だったのだ。都合のよさに疑念が残るがそうとしか考えようがない。

 

 ヨルムと守護者の一人が睨みあう中、柱の陰からゆったりとした動きで近づく者の影。俺はしっかりと視界に収めていた。

 

 ヨルムに氷像にされたなのになぜ動けるのか。これはちょっと・・普通の相手ではない。

 

 この大広間を傾かせ、ずれを生じさせた張本人の復活に俺をどうしようもなく焦らせる。ヨルムは未だ満身創痍。奴が参戦すれば薄氷の上で保たれた力の均衡が崩れるのは明白。ここから狙撃することは可能だが、銃弾程度が通じるような相手ではない。インクリウッドは火傷に裂傷。ガンヘッドも無理がたたって筋肉がいくつも断裂し骨折していた。再生するにはまだ時間を要す。

 

 もはや不死者がどうとか勇者がどうとか考えてる場合ではない。俺はこいつらを助けないといけない。何よりも自分の為に、受けた恩は返す”人間”ではありたい。こんな醜い改造人間にも意地はあるのだ。

 

 それに少しだけヨルムという不死者に興味を惹かれていた。苛烈な戦いぶりもそうだがその根底に根差す燃える様な強い瞳をまだ眺めていたかった。

 

 さっきの”あれ”が本当に異能であればできるはずだ。おおよそのアタリはついている。

 

 だったら、俺をすぐにでも導けッ!

 

「天鳴」

 

 静かに口からこぼれる名前。誰にも聞こえそうにない言ったかどうかもわからないくぐもった声。

 

 だが、それは確かに反応してくれた。

 

 

 

 

 銃弾の雨がヨルムと対峙する守護者どもを牽制し聖剣から発射された閃光が幾重に分裂し襲い掛かる。それを刀で受け流す例の守護者。やはりこいつが隊長か。

 

 ――――――やはり恐ろしい。

 

 一瞬のスキを突き天鳴から飛び出たサブアームがセーニャたちを掴み上げ大扉の方へと投げ飛ばす。さながらカタパルトの如く。

 

「セーニャッ!ヨルムを連れて逃げろォ!時間は稼ぐッ」

 

「お、お前ッ!」

 

「また会うぞッ!ガンヘッドオオオ!拾ってくれええええ!」

 

「ッ―――任せろッ!そのまま行けッ!」

 

 俺の覚悟を察しガンヘッドが意気揚々に相槌を打つ。

 

 インクリウッドを抱えたまま投げ出されたセーニャとヨルムをガンヘッドの巨躯が器用に拾い上げひとりでに閉じ始めた大扉へと駆け出す。骨折しているだろうに無理をする。

 

 それでいい、頼むぞガンヘッド。

 

 ミサイルをばら撒きながらガンヘッドを追撃する守護者を牽制する。

 

『・正式・・るコー・・ピピ・ガガガ・・認・・しまし・・・更なる・許・・移譲し・・・・ガガピ』

 

 無機質な機械音声がノイズ交じりに喚く。正直うるさい。それでいていい気分でもある。まるでもう一つの体を得たように思い通りに動く。機体に張り付きながら縦横無尽に駆け巡る。やはり俺にも異能があった。

 

 恐らくは電子機器に干渉する力、と思われる。確証はない。脳みその奥底で何かがこいつと深く繋がり合っている。膨大な情報が流れ込み頭をくらくらとさせる。でもこの感じ以前どこかで・・・

 

 これは天鳴のデータか?読み取れた情報に驚愕させられる。なんだこりゃあ。対外用戦術兵器?遺失物?よく分からないが機体スペックは凄まじいの一言に尽きる。エリートの俺の理解をも超えたテクノロジーの数々。これ一つで元の世界の兵器群を凌駕してるのではなかろうか。異能持ちと言えどこんなものを人間に投入するとか頭がおかしい。対外って、一体何を想定して作ったんだよ。その余りにも過剰過ぎる火力と殲滅力。せっかくだから頭おかしい一撃をお見舞いしてやる。

 

 どこまでも我が身突き抜き行け刃ァ!

 

 ――――――殺人に対し忌避感も罪も感じない。改造人間にそんなものは積まれてはいない。だから容赦なく戦える。理由さえあれば人は殺せる。ましてや敵の命など、どうだっていい。

 

 台座に戴く聖剣の剣先から光線が発射される。機体にへばり付いた俺を余波で焼きながら一直線に敵へと伸びる。

 俺は炎上しながらもしっかりと敵を見定める。狙いはもちろん部隊長。ガトリングで弾丸をばら撒き回避の為の選択肢を予め潰しその上で動きを予測し光線を薙ぎ払う。手数で攻めるしかない。

 

 だというのに奴は必要最低限の動きで銃弾を回避し光線を紙一重で躱すか受け流す。

 

 どういうことだよっ!?光線だぞッ!?

 

 生じた熱量が掠めていくもお構いなしだ。余波で吹き飛びもしない。

 

 無論他の守護者も黙ったままではない。魔術を放ち機体に張り付く俺をひっきりなしに狙う。無駄だ。俺は不死性ゆえに死なず、この天鳴もまた魔術は効かない。そうか、これも遺失物とやらの応用で作り上げた障壁なのか。

 相手もこいつのスペックはわかっているのに、なぜそんな無駄の事を・・・それにどういうことだ、なぜ未だに誰も死んでいない。こいつらはまさに一人ひとりが強者でもあるのか!

 【雹月】の解除で魔術が解禁されたことで急激に戦闘力が上がった事実を恋都はわからない。なにより火継守の存在が熱波をものとしない。

 

 焦りがじわじわと肩を撫でる。焦るぐらいがちょうどいい。目的は勝利ではないのだ。

 

 彼の知る所ではないことだが黒殖白亜に所属する者たちには機甲兵群の情報は全て筒抜けであり、敵に奪われる事態も当然想定されている。これこそが手ごたえの無さの正体であり、そんな彼らの行う行動に意味が無いはずがなかった。

 

 

 

(・・・・・これは、間に合わないな)

 

 閉じ行く大扉。人ひとり通れるかどうかの僅かの隙間。なぜだかガンヘッド達の姿が俺のぼやけた視界でもはっきりと捉えた。どうにも寂しく思える。変な奴らだったが表裏が無くて付き合いやすかった。あいつらの中でなら己のコンプレックスも表面化しないとでもいうのか。生物として劣ったこの俺が・・・

 

 いいさ脱出は諦めよう。これで存分に全ての武装が使用解禁だ。なんだか体が軽い。脳みそが二つになったようだ。いいOSとマシン積んでいる。ここには俺一人。孤立奮闘の独壇場。

 

 ・・・そもそもどうしてこうなった。なぜ俺はこいつらと戦うことになってる。こんな異郷の地で俺は一体何やってるんだ。ぶっちゃけひどい目にしかあってないんだが?

 

 潰されたりバラバラにされたり串刺しになったり・・どれだけ死んだ?死ねない体に永遠の苦痛。これからも死ぬのであろうな。

 

 最先端なおもちゃと繋がったことで得も言えぬ万能感に支配される。俺は明らかに増長していたが戒める気にもならなかった。

 

 明確な力を手に入れこれまでの鬱憤が弾けた。

 

「俺が何したってんだよおおおおおおおお!どいつもこいつも死ねよッッ!」

 

「ッ!?」

 

 ギャリギャリとローラーが細かい破片を砕き駆け巡る。急に傾く機体の上で俺の体が転がりまるで瞬間移動のように急に現れた黒服の奇襲を避け、天鳴のサブアームが襲撃者を殴りつける。

 

「(読まれた!?)」

 

 ガンッ!

 

 襲撃者・・・ヲタルはとっさにアームを蹴り飛ばし回避する。咄嗟の判断でこの反応は強者の立ち振る舞い。そのまま一回転し近くの支柱に張り付く。そんな副隊長の肩を銃弾が抉る。

 

(ッッ~)

 

 

 ガンヘッドから別れ際に受け取った特別製の大型拳銃。すごいな。撃った反動で手骨が砕けたぞ。それでも当てるか俺ェ!!

 

「ッツ!また!?」

 

 驚いているようだけど、あの一瞬で俺にも投擲用ナイフが三本刺さってる。しかも全て急所。いい腕してるよほんと。不死者じゃなきゃ死んでる。どうして気持ちよく戦わせてくれないんだ?

 

 まあちょうどいい。その支柱で最後の一本、これさえ壊せばこのフロアは崩落する。俺もただでは済まないが不死者には関係ない。ここが崩壊しようと天鳴があればどうにでもなる。緊急脱出機能で遺失物だけを転送させる機能がある。それに便乗させてもらおう。人間の相乗りは想定されてないだろうからまた体が欠けるかな。

 

 勢いに任せ台座の聖剣を振り回そうと機体を走らせようとした時、守護者どもの激しい魔術の攻勢にあう。視界が奪われるも、生体反応感知センサーがはっきりとその存在を知らしめてくれる。めくらましなど・・・そう思った矢先にがくんと天鳴が傾く。

 

 その正体は落とし穴。

 

 こんなものさっきまで・・!・・・しまッ動きを―――

 

 正面には刀を構えた部隊長。地獄の門が形を変え立ちふさがる。刀を上段に構えそのまま振り落とす。

 

 

                特攻【一文字】

 

 

 余りにも強大で無慈悲な一撃が世界を静かに揺らがす。この身を衝撃が突き抜けていく。

 

「・・・・・・」

 

 ずるりと視界がずれる。甲高い音を立て天鳴が崩れ、堕ちる。これだけの防御性能を有しておきながらこの有様か。奴の前では防御は意味を成さないらしい。

 

 散発的な攻撃は俺の意識を地面に向けないための目くらまし。広範囲で持続性の強い魔術をひたすら行使していたのは姿を隠し照準を避けるためだと思いこんでいたが、全てはこの落とし穴に嵌めるための布石。それを嫌がった俺は見事に移動先も無意識にコントロールされたのか。あれほどまでに接近を拒んだ部隊長を近寄らせるための追い込み作業。

 

 例の一撃を恐れ敢えて守護者を射線上に挟み込む戦い方は筒抜けで逆に誘導されてしまう。確実に必殺技を決めるため、か。

 

 誰一人殺せなかった。俺は完全に負――――――

 

 

 

 「まだ、だッ!」

 

 徐々に傾いていく天鳴の上から口で聖剣を咥え右腕の力だけで跳ね跳ぶ。

 

 熱い―――――触れた部分が腐り聖剣に吸収されていく。爛れ千切れた体。魂が叫び呼応するかのように再生力が上回る。折れることの知らないあきらめの悪さが俺を、前へと自由落下に誘う。咥え込んだ聖剣を手に取り渾身の一撃を振るうが為、霞む視界を振り払い最後の意地をぶつける。

 

「う”お”お”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!」

 

 そんな俺を見て、刀を構えた奴は少し笑ったように見えた。

 

「撃て」

 

 複数の銃声。恋都の頭が弾け意識が飛ぶ。地面に撃ち落されながらも無様に右手を振るうが握りしめていたはずの聖剣の感触が無い。

 

 ―――――どこだ、どこにった!?俺の聖剣はッ!!?俺はまだこんなにもピンピンとしているのにィぃぃぃぃぃッッ!!

 

 剣を振るう事すら許されないのか。

 

 銃撃で残り一つの目玉を吹き飛ばされ落下時に自身の腹部に突き刺さった剣に気づかぬまま、感触だけを頼りに無様にワタワタと手探りで探すがどうしても見つからない。

 

 眼前へと足裏が迫ることにも気付かない、わからない。

 

 強い意志だけが空回りしていく。完全に負けたことを認めれない。死なないからこそ、通常終わるはずの戦いも負けたと諦めきれず醜態をさらす。

 

 俺はヨルムたちを逃がしたことで己の充足感を満たしておけばよかったのだ。

 

 『また会おう』、その言葉はもう―――、

 

 グシャリと、頭を踏み砕かれ俺はまた死ぬのであった。

 

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