オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第45話 無視したい地雷

 

 

「グレイズ君こちらは勇者のコイトさんです、失礼のないように」

 

「お目にかかれて光栄です!さ、先ほどは本当にすみませんでしたァッッ!!!勇者様!!」

 

「・・・気にしてないし別にいいよ」

 

 恋都は復活したグレイズとの挨拶も終わりお互いの誤解も解けたが・・・・紛らわしいとも思った。

 

 最初はこんなキャラクター物語にいたか?と、頭を捻らせたがまさか俺以外にも引き込まれた人間がいたとか・・

 

 先ほど戦い合ったグレイズという青年・・・彼はダンジョンで捕らえられた聖王国の騎士見習だ。

 

 その白髪に色白な肌は祈り手の証だと俺は勝手に決めつけ異常な再生力を持ち合わせることから祈り手の可能性を疑ったのだが話を聞く限りどうも最近異能が発現したばかりの未登録の祈り手新入りのようだった。

 

 なるほど情報に無いはずだ。彼もまた巻き込まれただけの関係のない部外者のようだ。聖王国にはいい思い出が無いのだが少し会話しただけで彼は裏表のない善良な人間なのは理解した。

 

 聖王国出身とのことでフォトクリスの教えがここで生きる。不死者とバレて話が拗れるのはごめんだと不死の件は同じ様に異能ということにして通している。脇道に逸れる暇はない。

 

 ・・・問題はこの男。

 

「・・・・・・」

 

 不死性が異能ではないことを知っているのに口に出さないのは敵対する意思はないという表れか、或いは・・・・

 

 俺はクラウン大主教との先ほどのやり取りを振り返る。

 

 

 

 

 グレイスとの戦闘後、対面する二人。警戒のためかお互いに沈黙を保つも最初に切り出したのはクラウン大主教であった。

 

『先に一つ聞きたいことが―――単刀直入に聞きますが勇者様がここにいるのは聖王国の命令なのですか?』

 

 第一声がそれか。クラウンは相手が先に喋ることを待っていたはずなのに自分から質問を投げかけた。つまりは彼が知りたい情報が異能では読めなかったと言外に証明したようなもの。

 

 敢えて知った上で聞いている可能性もあるが・・・そうする意義を感じない。不信感を無駄に与えるだけで利に繋がるとは思えない。この場だけの関係ならばともかく・・・

 

 第一に故郷の名を出すあたり未練たらたら。過去の人間といえ愛国心は失っていないようだ。反乱理由はやはり脱出が目的か。

 腹の探り合いは必要ない。どこまで情報を読まれたかわからないので隠すだけ時間の無駄だ。この考えも読まれている前提でいく。

 

 ・・・ん、つまりは相手も腹の探り合いを嫌ったのか?

 

 相手の質問も直球そのもの。相手は俺も異能の詳細を知っている前提だ。頭に触れるのが条件なのに普通に俺の名や勇者の称号を発言している。異能の条件が違う事はわかりきっている。だからストレートにいくつもりなのか。

 

 そもそも反逆者と部外者の立場、お互い敵対関係でも何でもない。敵対意思が無いのは伝わっているだろう。相手にしても俺と戦う理由がどこにもない。

 

『違う。ここに来たのは偶発的な理由によるものだ』

 

『偶発的ですか・・・それにしてはここについて知りすぎですね』

 

 この言いよう・・相手から自身の異能の存在をほのめかしてきたか。どうやら俺が異能で天鳴から情報を吸い上げたことまでは知らない。ここで俺の本当の異能についてはクラウンは知らないと断定する。まあこんなピンポイントな異能があるとかわかるはずもない。言外に心を読んだと主張してくるがはったりやブラフの可能性は低いだろう。発言内容もどうとでも受け取れるが、嘘は通じないと釘を刺しに来たのだ。面倒くさい・・・情報を出し合っていけば真実の境界線が見えてくるだろうが、ここははっきりと言葉にしておこう。

 

『俺は機械類に干渉できる異能を持っている。対外用戦術兵器って言えばわかるか?あれからここの情報を吸い出した。あんたのことだってもちろん知っている。記録上では・・・元は高位魔術師、所属は祈り手、出身地は聖王国、属性は風と、闇もあるのか。こういうのって珍しいらしいな。それと異能は読心。これ明らかに効果範囲詐称してるだろ。ははは!用心深いなあ。クラウンさん本当に記憶がなかったのかなぁ?』

 

 伝いたいことはただ一つ。お前の異能が俺に対して機能してないことは知っているぞだ。

 

 だが、予想とは違う反応が返って来た。

 

『・・・・・あなた不死者なんですか?』

 

 少し驚いた顔でクラウンは疑問を投げかける。なんか・・期待した反応と違うな。もしかして俺の不死性を異能だと思っていたのか?

 

 聖王国が不死者を嫌っているのはフォトクリスに散々聞かされたから知っている。これは不死者に対する嫌悪感ではなく純粋な驚きの感情だ。

 

 この男は900年前の人間。時期的に間違いなく終末戦争に関わっている。ヨルムングがあの歳で戦争に参加してるんだ。あいつと同じ高位魔術師なら関りがあってもおかしくない。不死者の実態、伝説上で語られるように突然湧いてきたのでなく普通の人間だったと知らぬはずもあるまい。俺が勇者として召喚された以上、終末戦争時の人間ではないと理解しているだろうに。

 

『ああすみません、気に障られたのなら謝罪します。ただ・・因果なものだと思いまして。まさか異界から不死者が栄えある勇者として呼ばれてしまうとは・・・』

 

『やっぱり不死者ってだけで嫌いか?』

 

『終末戦争と関係のない不死者な勇者様に思うところはありませんよ。ただ、よく今の聖王国で無事でいられましたね』

 

『そうでもない。逃げた結果がこれだが』

 

 話を合わせるだけのつもりだったが逃げた経緯は大体あっている。思い返すとやっぱり聖王国は糞だと思う。

 

『最後に一つ、あなたを聖王国に召喚した者・・主導者はわかりますか』

 

 やけにこだわるな。質問はすべて勇者関連だ。俺がここで何をしようとしているのか興味がないのか?それともすでに読まれたのか、判断に困るんだが。会話の主導権がなかなか掴めず苦労する。

 

 まだ先のことばかりを気にしているあたり脱出することしか頭にないのかもしれない。わざわざ深入りするまでもない。

 

『それは召喚者の巫女のことを指しているのか?儀式自体は国主導と聞いているが』

 

『・・・・・・そう、ですか。ありがとうございます。そろそろグレイス君も復活しそうですね。彼の前ではその不死性は勇者の特性としておきましょう。彼は敬虔なる聖王国の民です。不死者と分かればいい顔はしないでしょう』

 

『バレない?』

 

『一般人に当時の勇者の実態などわかるはずもありません。勇者は不死身とでも言っておけば勝手に信じますよ。肥大化させた勇者像がそうさせますので』

 

 

 

 

 

 そんな・・・・やり取りを経て今に至る。

 

 ・・・・とにかくだ。しばらくは信用するしかない。

 

 俺がする質問の答え次第で対応も変わるけども。

 

「そろそろ俺も質問いいよな」

 

「ええもちろん。情報交換ですので」

 

 

 

 

 クラウンは勇者からの申し出に返事をする。

 

 一方的な質問攻めになってしまったがこちらも答えねば失礼だろう。何より相手は勇者なのだ。クラウンにしても畏敬の念はもちろん忘れてはいない。

 

 グレイズ君が起き上がったので面倒な質問はしないだろう。それはお互いに困る。

 

「なぜ俺の心が読めない?」

 

 ・・・・本当に直球だ。やはりばれていたか。中々に察しのいい方だ。正確には読心とも違うがその体で答えよう。

 

「読めないわけではありませんよ。なぜか深くは読み取れないというだけで」

 

 クラウンの異能は対象の歴史を俯瞰的な視点で物語のようにログとして読み解く。対象を取り巻く周りの状況も文字で起こされ描かれるため対象本人が知らない情報まで読めてしまう。まるで一つの物語を読んでいるかのような感覚に陥る。

 

 実はあの精神感応禁止指定のA種でさえも安全に読めてしまう。ただどうにも自我が希薄なためか内容は支離滅裂。文体が滅茶苦茶で本人についての情報はまるで読み取れない。理解が及ばないとも言える。

 

 直接頭に触れるか、他の個体との差異や共通点から検証すれば見えてくるものがあるかもしれないがA種相手にそんな余裕はない。異能の効果範囲は視界とリンクしておりかなり優秀だ。直に触れるのもありで読み込みスピードが段違いだ。自動的に読み込んでいくが相手の過去まで読み込むとなるとそれなりに時間がかかる。特に長生きするような相手は気を付けねばならない。頭に触れさえすれば丸裸にできるが戦闘中に行うには相当リスキーだ。

 

 勇者の記録も直近の記録までは読み込めた。

 

 【氷結界域】がまだ生きていたこと、彼はチシャ猫という人物にここに連れてこられたこと、チシャ猫の”思惑”・・・どういうことか彼がA部隊に捕まったあたりの記録から読み込めない。まるで別人と思わせるような空白が地平線を描いていた。おまけに心なしか・・・気分が悪い。どこからか誰かに睨まれているようで悪意ある視線を感じる。ゲームマスターにも有効な異能が機能しないとなると、何者かの干渉と考えるべきだろう。

 

 ・・・チシャ猫の最終的な目的と関係しているとすれば・・・恐らく・・この視線の主は”例の勇者”であり恐らくこの夢世界の主なのだろう。

 ”例の勇者”は当時の私でも直接会ったことは無い。広がり過ぎた戦線を考えれば仕方のない事実。予定にない番外勇者の存在など寝耳に水。噂程度にしか知らない勇者の全貌だがあのゲームマスターならどうにかして生き長らえさせたとしてもおかしくない。A種の存在からまず間違いないだろう。

 

 そうなると彼はすでに手遅れなのかもしれない。これは・・・思わぬ爆弾だ。

 

「じゃあ頭触っていいからもっと探ってみろよ」

 

 やめろ。それでとんでもない記録を掘り出してきたらどうする。こちらの異能に介入する相手はA種の素である勇者”不思議の国のアリス”だ。

 

 知らずといえダンジョンでの異変の中心に深く関わる者に深入りたくない。こうして向こう側からおもむろにコイトに干渉しているのだ。異能経由で私にも影響が及ぶ可能性は高い。異能の大本ならば干渉してみせてもおかしくない。

 

 ・・・それで、本当にそれでいいのか?

 

 彼もまた勇者様なんだぞ。アリスとコイトの間にどんな因縁があるかは知らないし、知りたくもない。

 

 だが、勇者は曲がりなりにも当時の聖王国を救った存在。勇者とは希望と転機、救済の象徴だ。彼がここに呼ばれた理由がただ”記憶の補完と処刑のため”とは考えずらい。戦時中でも噂でしか聞いていないがアリスとはそんな生易しい存在ではなかった。殺しても死なない様な奴だ。

 

 この先の過酷な運命を本当に伝えなくていいのか?それとも彼もまた神に試されているのか。

 

 ・・・ここで何もしないのは大主教として間違っている。勇者を見殺しにしたとあっては聖王国の礎となった英霊たちに顔向けできないではないか。

 

「無駄でしょうね。恐らくですが混線してるのだと思われます。何者かが勇者様の精神に干渉をしているため壁になっているのかと・・・心当たりはございませんか?」

 

「・・・・・いや、わかった。ありがとう」

 

「私に可能な範囲であればお手伝いも致しましょう」

 

 彼にもある程度の自覚はあるようだ。この世界に引き込まれた時点で手遅れかもしれない時点で忠告は無駄かもしれない。彼の旅路の先に希望があることを願うしかないのか?覚悟があればどうにかなるのか?

 

 ・・・私自身も早急に帰還せねばならない。先ほどの勇者様の発言。まさか巫女の名が出るとは思いもしなかった・・・900年前に考案された勇者召喚のための効率重視の生贄。

 

 それはあくまでも案の一つにすぎず才能あるものを使いつぶすなど言語道断と採用は見送られ廃案となったはずであった。

 

 当時は人手が足りなかったのもあるがいくら戦況が劣勢とはいえ未来を担う有益な命を犠牲にするなど論外だ。巫女だってそんな簡単に作れる存在では無い。だがどうしてここで巫女の存在が出てくるのか。すべて記録は廃棄したはずがまだ残っていたのか?

 

 抜かりは無かったと記憶している。誰かが持ち込んできたとしか考えられない。

 

 もともと、勇者召喚計画はおかしいところだらけだ。当時の先代教皇経由でもたらされた技術だが教皇はどこで手に入れたんだ。発表された時、様々な魔術に精通し開発にも携わった私にも寝耳に水だった。

 

 そもそも勇者召喚という発想がぶっ飛んでいる。そもそも勇者ってなんだ・・?

 

 勇者を異界から召喚して戦わせるだと?なにをどう思えばその考えに行き着く。精神向上剤でもやってるのか?とても世襲で教皇の地位を得た凡人の発想じゃないのは明らか。

 

 術式自体もまるで見たことのない形式。何もかも別次元であった。その術式が現代でも使われたと来た。裏で関わった何者かの系譜が聖王国で何かを企んでいる。これ以上の狼藉はとても見過ごせない。もう異物を招くことは避けるべきなのだ。

 

 これ以上、世界の営みに歪みを与えるな。

 

 

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