オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第46話 勇者の噂

 

「勇者様!勇者様!実はお願いがあるのですが・・」

 

 恋都はクラウン大主教との情報交換も終えたところでグレイスに話しかけられる。

 

 先ほどまで俺たちの話についていけず、わかっている風に頷いているだけのグレイズだったが・・・交戦したときはもっと賢そうだっなあ。

 

 なかなかの精神力と決断力。再生するとしても迷いなく自分の足を切断できるものではない。普通は躊躇う。

 

 これが一般的な聖王国民だとすると恐ろしいが、今の彼は無害そのもので警戒にあたわない。

 

 つまりクラウン大主教と違って気兼ねなく話せそうだということだ。

 

「アレ見せてくれませんか!?」

 

 何かを期待するような眼差しで口を開くグレイズ。だがアレと言われても俺には何のことだかわからない。

 

 なんだよ・・・あれって。ふわふわとした指示代名詞を使うな。もっと具体性に富んだ物を言え。

 

 ・・・とは言え察しのいい俺にはわかってしまう。エリートは辛いな。その意はきっと”勇者”のことを差しているんだろう。

 

 勇者はグレイズにとって伝説上の存在。聖王国では一般的な常識の中の勇者の振る舞いを俺は求められているのか。

 

「あれって言われてもな・・・・別に大したことはできないよ」

 

「・・・え?じゃあ山を持ち上げて敵国にぶつけたり、大声を上げただけで三日三晩地殻変動が起きたり、勝てないから過去に戻って魔王が赤ん坊のころにタイムスリップして襲撃かけたおかげで今の聖王国があるってのも全部嘘なんですか!!」

 

「なんだよそれっ!そんなことできるわけないだろっ!!?」

 

 何言ってんだこいつ!!そんなことできるわけないだろ!?

 

 伝説だからっていくら何でも盛りすぎだろ。勇者信仰ってかなり広まっているらしいがみんなそんな認識なのかよ。

 

 普通はでたらめって思うじゃん。マジもんの神が存在するだけあって現実と虚実の境界線があやふやなのかもそれない。魔王ってなんだよ、魔王って。初耳なんだが?

 

「・・・・え?」

 

 いやそんなサンタの正体を知った子供みたいな顔するなよ。俺何も悪くないじゃん。そもそも、そこの大主教がちゃんとした記録を後世に残さないのが悪い。立場ある人間ならそれくらいやっといてくれよ。

 

 だがクラウンは億尾にも出さず真顔で答える。

 

「安心してください。確かに脚色は多いですが半分くらいは本当ですよ」

 

「嘘だろ!それ絶対嘘だろ!」

 

「私は・・・直接見てきましたからね・・・異能もそうですが勇者様は性格が誰もかれも、その・・非常に個性的でしたね。はい、特に意味はないですよ、はい、ええ感謝はしてますとも」

 

 初めて見せるクラウン大主教の疲れた顔。どこか遠い目をしておりなにやら反芻しているようだ。やめろ、それじゃあ逆に真実味が増すじゃないか。

 

「じゃあ勇者様は何ができるんですか?飛んだり、ビーム撃つぐらいできないんですか?」

 

 グレイズは勇者が何でもできると思い無理難題を振ってくる。気のせいか俺に対する畏敬の念が弱まっていないか?

 

 そもそも俺の異能はこの世界の文明レベルでは使い勝手が悪そうだ。おまけに地味ときた。

 

「できないに決まってるだろ!じゃあなんだ!?他の勇者三人はできたのかよ!」

 

「知っている限りでは出来る子もいましたよ。保有魔力も桁違いですからね、それにしても勇者様は・・・・ふむ??」

 

「ま、魔力・・・」

 

 魔力があれば可能なのかよ・・・

 

 恋都にはなぜかその魔力が無い。魔力は使用しない限りは測ることができないとイグナイツは言っていた。一般人は大概に微量の魔力が大気に溶け揺らいでおり、それが無ければ魔力の扱いに長けた心得の在る者による制御だとまず勘違するとも。なんせこの世界の人間は魔力があることが大原則。魔力が無いのは獣人しかあり得ないとのこと。

 

 他にもあと3人の勇者がいたが、まさか本当に勇者は飛んだりビームが撃てるのか?

 

「・・・?」

 

 だが俺の言葉にグレイズは何を言っているのかわからないとばかりに首をかしげる。

 

「いや、俺の他にも召喚された勇者が、いただろ?・・・・・・・まさか公表されていないのか」

 

 十分あり得る話だ。勇者の異能が祈り手やA種と同種のものと考えれば戦力としては十分すぎる。勇者信仰が聖王国以外の国でも広まっているとすれば・・・・・まさか政治的な判断で存在を隠しているのか?聖王国のような覇権国家ならば国を挙げて押していきそうな気もするが・・・・

 

「ああ、彼は何か月前かにここで捕まっているので直近の情報は知りませんよ。ですが今の聖王国ならば秘匿してもおかしくはありません。グレイズ君、聖王国の政情はどうですか?」

 

 あくまで知識としてではなく、聖王国に暮らす一住人としてのグレイズにクラウン大主教は問いかける。異能では読み取れない、聖王国の空気を肌で感じる者にしかわからないこともあるのだろう。

 

「・・・どうでしょうか。あ、僕が住んでいる都市は聖王国5大都市の一つにも数えられるアルマディア商業都市って場所なんですが特に目立った事件はないですし、せいぜい異端者集団が公開処刑されてるぐらいですかね」

 

「それは大事じゃないのか・・・」

 

「それはもう、僕が産まれる前から行われてますから。一種の伝統行事みたいな感じですね。都市の子供はみんな処刑の光景を飴を頬張りながら見物するものですから」

 

 治安の引き締め的にも意義はあるのだろうが・・やはり野蛮だなと恋都は思った。

 

「なるほど異端者集団、併合した属国の元国教を混合することに反対する者たちによる抵抗があるということですよ。混合、つまり聖王国のアンティキア正教と敗戦国の宗教の融合。まあ融合といっても他の宗教が崇める神を聖王国の神と同一視させるんですが」

 

 クラウン大主教が補足するように説明をするのは常識の違う俺に対する配慮か。

 

 つまり今まで信じていたものの中身の強制的なすり替え。ある日突然信じているものを否定され汚されるのだ。お前たちの信じてきた神は実はうちの神様だったのだと。

 

 反乱の火種としては十分だ。異端者集団はつまるところのレジスタンスか。

 

「正直気持ちはわからないでもないです。一定の年月がたてば完全にその宗教と歴史は完全に融合し別の宗教に置き換えられてしまいますから。でもそれでこちらに死人がでるのは僕も見過ごせません。吊るされても仕方がないかと・・・それにどうせ年月が経てばこっちがよかったって思うんですから」

 

 で、それに馴染めないマイノリティーはつまはじきにされ弾圧される、か。よくある光景だ。

 

「ふむ、おまけに現代は力を持つ貴族が各地を収めているそうじゃないですか。聖王国内に小さな王様が複数内在しているようなものですよ。おそらく勇者の存在を明るみに出せないのは政治的な理由があるのでしょう。私の時も貴族連中には手を焼いたもんです、ええ」

 

「異端者集団であれば勇者の威光を使えばいいがそれができないのは貴族に警戒されるからってことなのか?貴族にしても不穏分子はどうにかしたいはずじゃないのか?」

 

 クラウンは困った顔で答えてくれる。お陰で段々と聖王国内の社会構造が掴めてくる。

 

「力のある貴族となると家の歴史はかなり古く教会と密接に繋がっているんですよ。それこそどんな大貴族ですら教会に一定の配慮があった。それを・・・元々教会が国の舵取りをしておりましたが抜け駆けする形で王家樹立を容認させたヴェンディルド家という例が出来てしまった。現王家は貴族からすれば裏切り者に近いんでしょう。教会と王家の派閥が生まれてしまったのですから他の貴族も王家の前例ができてしまったためにその後釜を狙っていてもおかしくありません」

 

「ええと、そうなんですか?今まで考えたこともなかった・・・」

 

「グレイズ君・・騎士を目指すなら政治とは無縁ではいられないんですからよく勉強しましょうね。しろ」

 

 聖王国は意欲的に他国を侵略し無理やり併合する覇権国家だ。おそらく多種多様な民族を内包する。民族問題に宗教問題と領土がでかくなりすぎて獅子身中の虫が増えすぎたか。領土を広げればそれだけ統治が難しくなる。過激な統治が容易に予想できる。そうまでして国を大きくする必要性があるのだろうか?

 

 すると恋都の心を読んだのかクラウンが答える。

 

「ちゃんとメリットはありますよ。混合した宗教は一定の歳月を過ぎると国教にその宗教固有の加護を吸収されてしまいます。聖王国は、もともとただの農業国家でしたが様々な戦闘系神話体系の信仰を吸収し力を蓄えていった歴史があります」

 

「ようは他の神を殺すってことか。抵抗する理由としては十分すぎる」

 

「勇者様は不快に思いますか?」

 

「いや別に。神とは無縁の世界の人間だ。勇者だからと言って内政干渉する気もないよ」

 

 好きになれそうにもないけどなと内心で呟く。思ったよりも宗教色の面が強い世界だ。まあこんな過酷な自然に囲まれていればそうなるのだろう。雪の影響で陸地の孤島と化した都市群だから情報の伝達も遅そうだ。食料の搬入や交易などはどうしているのやら。聞けば聞くほど不思議な世界である。これが彼らにとっての普通なのだ。

 

「そういや魔法国家だったか、さっきの魔法はすごかったな」

 

 交戦の最後にグレイズが放った魔法。その軌道上は抉れ更地と化しむき出しの大地が凄惨さを物語っていた。上半身が一瞬消し飛んだ時は何が起きたのかっと思った。

 

「す、すみませんです!勘違いと言え勇者様に怪我を負わせるなんて」

 

 ペコペコと頭を下げるグレイズ。俺は彼に思うところはない。予測だがクラウン大主教が俺の実力を図るために差し向けたのだろう。なかなか板についているじゃないか。

 

「ああそうだった、グレイス君。さっきの一撃はなかなかよかったですよ。その感覚を忘れないでください」

 

「はい!ありがとうございます」

 

 いろいろ事情がありそうだが深入りはしないでおこう。それよりも先ほどから探しているのだがあのすごく使いづらい糞みたいな剣が見つからない。

 

「あ」

 

 先ほどの戦闘で吹き飛んでいたようだ。土に埋もれた剣拾おうと腰をかがめ手を伸ばす。

 

 が、何者かが先に掠め取る。

 

 見覚えのある白く細い腕。恋都は顔を上げるとアリスが剣を握っておりそのままグレイズに走り背中に隠れようとするがその腕を掴み止める。

 

「アリス、なぜ逃げる」

 

 お前が俺を呼んだのに何も話してくれないし別の男にべったりでなんだか面倒だぞ。

 

 このままではグレイズらと行動を共にせざる負えない。はっきり言って部外者の存在は邪魔だ。それが物語にどう影響してくるのかわからない。アリスには一人で行動してもらい、問題が起きれば影からサポートする形が望ましい。

 

 外部から呼ばれた俺も不純物であり関わるのは極力控えるべきなのだ。

 

 じゃあ彼らにそのことを打ち明けるか?そもそも打ち明けるに足り得る者たちか?

 

 ここにきて聖王国での殺されそうになった経験が恋都の不信感を募らせる。打ち明けた結果どうなるかも予想もつかない。

 

 ・・・・・よくよく考えたらアリスは俺のことを知らなくてもおかしくないのではなかろうか。現状を見かねた夢の住人が勝手に俺を呼びこんだ可能性は十分ある。じゃあ偶に幻覚の様に現れるボロボロのアリスはなんだって話にはなるが無意識なアリスの導きの可能性もある。

 

 だってこのアリスの顔を見ろ。無垢過ぎて純真さに溢れてやがる。常に意識がフワフワしている。

 

 とても正気には思えなかった。

 

 アリスがグレイズに懐いている現状、この男とは仲良くしておくべきだろうがそんな悠長なことが許されるのか。

 

 アリスは今も苦しんでいる。それは・・・いつまでもつ?

 

「・・・・・・・・」

 

 さて、―――――どうするかな。

 

 

 

 

 

 ――――――――――Side/グレイズ

 

 

 嫌がるアリスの手を掴んだまま、なにやら物思いにふける勇者様。どうしてかグレイズは胸騒ぎがした。

 

「先生、勇者様はあのままでいいんですか?」

 

「放っておきなさい。お互いにいろいろあるんですよ」

 

 グレイズは本当のことを伝えなくていいのかと疑問に思う。いまだにアリスが別人であるのを話さないのは彼の目的が不透明だからだと先生が押し止める。

 

 確かに勇者様のアリスを見る目は普通ではない。先生はこのまま静観しろとの判断だが、騙すようなまねが許されるのであろうか。

 

「・・・・」

 

 勇者の存在は偉大だ。伝説上の人物が目の前にいることにいまだに興奮を隠しきれない。そのことがどうしても後ろ髪を引く。

 

 真実を伝えれば彼は独りでどこかに行ってしまうだろう。彼の戦いぶりに堂に入った佇まいは心強く安心感を与える。危険極まりないダンジョンではできうる限り行動をともにしたいと思うのは仕方がないことでもあった。

 

 グレイズに迷いと罪悪感が生じる。

 

 だからか、勇者様の急な行動に対応が遅れる。

 

 

 

 勇者様は――――――――――アリスを無理やり抱えるとそのまま王城の方へ急に翔け出したのであった。

 

 それは余りにも自然すぎる起ちあがり。呆気にとられてしまう。

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 きっとグレイズは間の抜けた顔をしていただろう。なんの脈絡もなく急に行動するのでグレイズとクラウンは呆気にとられていた。

 

 クラウンが勇者様に勘違いさせたつけがすぐに回ってきてしまう。後悔してももう遅い。

 

 そう思いつつもクラウンの動きは鈍かった。

 

 900年前の勇者召喚の儀に関わった者としてはどうしても目の前の勇者よりも聖王国の先兵として活躍した勇者アリスに肩入れをしてしまう。この苦しみの遠因は間違いなく私にあるのだ。コイトに対しアリスジョーカーが勇者アリス本人ではないと告げなかったのは結局のところ迷っていたからだ。

 

 勇者アリスの救済はコイトという要因でしか救えないのか・・・それを阻害してしまうのではないのかと・・・判断が遅れる。

 

 慌てて追いかけるグレイズに続き今にも消えそうな勇者の背をクラウンが追う。

 

 この霧のようにいつまでも迷いは晴れることはなかった。

 

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