オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

62 / 88
第53話 奇縁戦局

 神に比類する者と戦うなど前代未聞。マニュアルにだって載ってない。

 

 グリムとて神とは漠然とした存在としていつも身近に感じていたが所詮は幻想だと祈ることはなかった。力ある者に信仰は不要。いつだってどうにかしてきた。

 

 ゲームマスターにとって神とは符号でしかなく決して現実に現れることがない非物質的なナニかでしかなかった。

 

 それが・・・・こうも・・・恐るべき存在とは知り得なかった。

 

 神の如き力の躍動を漏らすクリムゾンの存在は絶対的な脅威でしかなかった。

 

 存在感が尋常でない。全身の毛穴が引きつくようだった。

 

 

 神性が――――――――流出する

 

 軽度であるが、グリムの意識をぐらつかせる。

 

 こうなってはどうにもにもならない。それがわかっていてもグリムは娘を前にして逃げなかった。

 

 娘を屍姦するような悪い奴が目の前にいて冷静さを保てる親がどこにいる。

 

「クリムゾンンンンッッ!!」

 

「さあ死ねよッ!古き法典の象徴ごと洗い流してやるッ!」

 

 グリムの足元で転がる旧き理の象徴たるアリスごと消し去るつもりなのか、再びクリムゾンの前方に力の奔流が産まれる。それだけで世界が軋む。恐ろしいまでの神性の暴力が渦巻いていた。

 

 運命は簡単に決する。

 

 

「ア” リ” ス”ッ!!」

 

 

 ――――――――だが、諦める者いれば足掻く者もここにあり。

 

 戦局はさらなら混迷の局面を迎えることとなる。

 

 眠りについたアリスとグリムに放たれた不可思議な一撃を前に何者かが直撃寸前で割り込む。

 

 力と力。

 

 一瞬の拮抗を感じ取ったグリムは勢いのまま我武者羅に想術でサポートする。

 

 瞬間、熱量が弾け大爆発が起きた。

 

 (い、生きている)

 

 神性にチリチリと神経を侵されながらグリムは生を実感する。

 

 驚くことにその何者かはその身を削り血を飛ばしながらも攻撃を受けきった。

 

「ハァ――――ッ!―――ハァッ!!にゃぅぅぅッ」

 

(な、誰なんだこいつは――――――――)

 

 グリムの前でその者は激しく息を吐き出す。呼吸の度に体が脈動する。臀部から垂れる尻尾に毛並み逆立つ耳。獣人めいたその姿に見覚えは無い。誰の記憶にもありはしない。

 

 グリムには”傷ついた”アリスを背後に立ちふさがる獣人の姿が子を守る母親のように見えた。

 

 

 

 ――――――――――Side/チシャ猫

 

 

 クリムゾンは苛立ちのまま問いかける。事あるごとに何者かが邪魔に入る。

 

「まだ、生きている・・・誰の邪魔をしていると「女王ッッ!!貴様どういうつもりだッッ!?」

 

 獣人もとい・・・チシャ猫はクリムゾンの問いかけも無視して叫ぶ。

 

 その叫びに呼応するようにひょっこりと岩陰から顔を出す女王。

 

「チシャ猫ちゃん、どういうつもりもなにも見てのとおりなんだけどー?」

 

「アリスを見殺しにするつもりだったなッッ!!?」

 

「顔が怖いよーおまけに・・・あははは!語尾はどうしたの!どこかに忘れてきたのかにゃー?」

 

「誤魔化すな!本気で見捨てるつもりだったのか・・ッッ信じられない!それでも女王なのか!」

 

 はあ・・と、女王は一際大きなため息をつきながら見下したような目で語る。

 

「女王、ね。その馬鹿みたいに薄っぺらいキャラ付けしているような奴には言われたくないな・・・・そもそも私は別にアリスの味方じゃないんだよ?」

 

「・・・・なに?」

 

 チシャ猫にはまるで意味が分からなかった。

 

 チシャ猫も女王もアリスの異能により産まれいでた眷属。アリスがここで死んで魂が肉体のある現実に帰ればこの世界も我々も無事で済まない。恋都にアリスを殺されるのとはまったく違う結末を呼び込む。

 

 この国の支配者たる女王とてそれは望むべき未来ではないだろうに。皆が皆、永遠に創造主たるアリスを愛しアリスに愛されたい。

 

 特にこいつはアリスを過保護なまでに自身のテリトリー内で保護していたじゃないか。それがなぜ・・・?

 

 本当に・・・最初からそのつもりだったのか・・・チシャ猫たる私を差し置いて・・・・・ッギギ

 

「ああ・・やっぱわかんないかーまあそうだよね。わかってたよ、うんうん。私って本当に孤独だなぁ。よもや自分の役割すらわからないまでに彼の記憶で存在を再構成した結果がこれか。最初の精神崩壊でこの夢世界はあのまま消滅したほうがまだよかったね。私もねー再構成してこうしている現存している身だけど役割の枠を超える真似はしていないし過度な干渉もしていないお利口さんなんだよ?こんな見た目だけどどこまでも女なチシャ猫ちゃんと違って、ね」

 

「だから何を言っているッ!?」

 

「だからぁ私は昔からいつだってアリスに敵対的だってこと。例え異能によって再現された世界あり”元より”歪な存在であっても・・それが私の役割だもの。だから壊してあげる。こんな原典からもかけ離れた物語はね、消えるべきなんだよ」

 

 不意に動き出す女王の右手を前にハッとチシャ猫はアリスの元へと駆け出す。

 

「――――ッやめて!?」

 

 唐突に水平に切られる女王の人差し指。

 

 それと同時に刎ね跳ぶアリスの首。信じられない光景がチシャ猫の瞳に映し出さる。

 

 

 アリスが、、、、、殺された。

 

 

 よりにもよって下手人は従属たる存在である女王。

 

 

 

 

 

 

 

 まさか・・・こんな結末を選ぶとはな・・・

 

 主たるアリスに限定するが死因が夢の住人によるものであれば夢の中での死は現実での目覚めの合図。

 

 夢に逃げ込んだアリスが現世に戻ればどうなるか女王が知らないはずがないのに・・・・

 

 そもそもアリス救済計画の提案者は女王であったのに・・・

 

 間もなく現実世界のアリスの目が覚める。

 

 現実世界にどんな影響が起きるのか予測できない。余りにも現実が辛すぎる為に夢世界に避難してきたアリスの精神が現実に戻ればその心は容易く死ぬであろう。

 

 あのメンタルでは耐えられるはずがない。

 

 異能でできたこの夢世界はアリスの精神状況と直結している。

 

 精神崩壊・・それに連動した二度目の大崩壊がが起こる。

 

 夢世界はそれでもうおしまいだ。

 

 アリスの魂が夢の世界に逃避してからどれ程の歳月がたったと思っているのだ。未だにアリスの心はこの世界においてもひどく不安定。女王の献身的な介護である程度復帰はしたが性格は捻じ曲がり薄汚れあどけなさが消えた。彼女はもう少女ではない。

 

 それでもまだ初期に比べればましという現状。むしろ夢を現実だと認識しているきらいまである。ことさら現実に耐えられるわけがない!!

 

 現実世界のアリスの無残な現状が拍車をかけてしまう。

 

(・・・・・ああ、そういうこと)

 

 女王がこのタイミングで動いたのはそれを待っていたからだ。だからこそああも甲斐甲斐しくアリスを甘やかし続け、烏滸がましくも”独占”し軟弱で惰弱で依存的なアリスを意図的に作り上げたのだ。

 

 こちらの世界にアリスが逃げ込んで数百年は経っている。あのころとは違い現実のアリスの体は改造につぐ改造で異形と成り果てた。最低限の生命維持と改造され肥大化した下半身。どこまでも生命を冒涜した施術。

 

 夢の中との相違がアリスの心を壊し発狂させる。

 

 女王の行動は夢世界が終わると理解した上での主への反逆行為。

 

 ・・・・・どうやら・・・女王はこの世界が気に入らないらしい。

 

 チシャ猫も”こればかり”は少々予想外だった。

 

 まさか自ら創造主たるたるアリスの世界を否定する者がいようとは――――

 

 そんなにも今の在り方が認められないのか。アリスで満ちた楽園を否定するか。裏切者が。

 

 女王がアリスを・・・見捨てるのか。

 

 ああまでアリスを独り占めにしておいて貴様が・・よりにもよってぇッッ!!

 

 チシャ猫は諦めない。こうなったのであれば・・・・ここで”もう”動くしかない。

 

 

 だが、唐突にどこからともなく声が響く。

 

 早すぎる終わりはまだ認められない。

 

 

 足掻く者、またここに在り。

 

 

「終わってなどいないッ!!散りざく彼方の綻び、裁きには能わず【悲劇の再演】(リ・アクト)!!」

 

「――――!!」

 

「再び舞えッッ!」

 

 

 聞き覚えのある声がチシャ猫達に届く。これはいったいどういうことなのか―――

 

 視界に映るあらゆるものが静止し色彩を失い、全てを灰色へと回帰する。

 

 世界が―――逆行する。

 

「―――――ッ!?」

 

 気が付けば・・・・・何もかも元通り。

 

 飛んだはずのアリスの首が元通りになっている。いや、それだけじゃないチシャ猫の位置関係すら元通りだった。

 

 これは時間の逆行・・!?

 

 幻かと疑念を抱く間もなく何者かがアリスの体を拾い上げそこに割り込むかのように大きな影がアリスを覆い姿を隠した。

 

 これには女王も瞠目する。

 

 

「・・・へー、やるじゃん」

 

 

 ガギギギギン―――ッッ!!!!

 

「く、おぐああアアアアアっ!!!」

 

 ガリガリと火花を散らせ盾を削る。

 

 騎士は盾を構え纏った鎧を削りながらその全身で受けきる。アリスへの不可視の攻撃は割り込んだ騎士によって完全に防がれた。

 

 そのまま攻撃を払いのけ飛び掛かる騎士を女王は華麗に躱し薔薇の意匠が施された王笏で払う。鍔迫り合いになる剣と杖。お互いの顔が迫り女王は嬉しそうに甘言を吐く。

 

「あらら、私の攻撃を防ぐとか間の悪い奴め。せっかく私の騎士にしてあげたっていうのになあレグナントちゃん。いつまでも際限なく姫という幻想を追えていた騎士君はなぜ現実と向き合う。そんなに忠義が大事か、んん?犬は嫌いかな?」

 

「やはり貴公が――――このつけは高くつくぞ・・・それに貴公の趣味は私には合わない」

 

「私のセンスが、なんだって?白黒のコントランスは大好き!だからそれが似合う祈り手も好き!それで騎士でもある君はもっと好きだ!だから私の騎士になればいいんだよ・・・正直女王の役回りは退屈だ。誰一人といない王国に権威の象徴たる王冠も色褪せ、いつからかかび臭く感じるようになったよ。王国の骨子がアリス個人で成り立つようではな。私よりも偉い奴がいては女王の立場が無いではないかよーここは私の王国なんだぞー」

 

「自身の神をも否定するのか・・・?なんと傲慢な。生みの親ならば感謝はすれど恨みなどもってのほか!」

 

「しかたないだろ女王なんだから、そういう役を望んだのはその神なんだからさぁ!!さあさあお立会い!せっかく出会ってしまったんだ。寂しい独り身同士語り合おうじゃないか放浪騎士!挑むがいい、朱ノ女王はいつだって退屈なのだよ?」

 

 

 

 

 

 

「(おいおい、これは・・・・)」 

 

 グリムは妙な流れを感じていた。勝負の流れとでも言うべきか・・・

 

 相対するグリムとクリムゾンの前に現れる想定外の来客たち。異能を携え恐るべき戦闘力を保有する祈り手の中でも上位クラスの実力者二人。

 

「おや、懐かしい顔ぶれ・・・・でもないか。クリムゾン。あなた病気で死んだはずでは?」

 

 どこからともなく現れたクラウンはまるで旧友にでも会ったかのような馴れ馴れしさでクリムゾンに話しかける。そうか、異能で中身を読み取ったのか。異能の虚偽申請とはいただけないな・・・・

 

「そっか、そうだった。また君と会うとはクリムゾンも思っていなかったよクラウン。ゴミクズにしては利口なゴミだと思っていたけど思い違いだったか・・・・ちょっとさ、いまいいところなんだから邪魔しないでくれる?それともあの時の両親と同じようにグチャグチャに殺されたいの?」

 

「・・・・・・忘れるはずがない。私の頭を好きに弄るような人の事。ええ忘れるものですか。私の父を、母を殺した者の顔は・・・」

 

「ふーん、だからってそっちにつくんだ。そいつも私と何ら変わらないでしょうに」

 

「なに簡単な話ですよ。まずは潰せるほうから潰す。ずっとこの時を待っていた。清算・・・よろしいですか?」

 

 クラウンの視線がグリムに向かうも遮るように刀を構えたセイランが待ち構える。クリムゾンや私に対して動けないだけでそれ以外の相手には問題なく動くか。

 

 だが、それは待ってもらおうか。

 

「セイラン!お前は何もするな」

 

「・・・・・・・・・・了解」

 

 グリムは人知れずホッとする。命令権はやはりクリムゾン以外には有効か。さあクラウンよ、今ので意図は伝わったはずだが・・・・もちろんこちらにつくよな貴様は?

 

 

 

 

 

 

 

 交差するセイランとクラウンの視線。その目は両者ともに悲し気な感情を浮かべていた。

 

 道が・・・違えてしまったのだ。あくる日の日常はもう戻ってこない。いつか訪れる運命だったのだ。

 

 もう既にクラウンの手は守護者の血で濡れている。どんなに時間を戻しても変えようのない事実。

 

 

 沈黙は続くが口火を切ったのはセイランからであった。

 

「お久しぶりです先生・・・・・とても残念です」

 

 先生・・・その一言がクラウンを刺激する。

 

 完全に記憶が戻ろうとも、守護者たちと過ごした穏やかで楽しかった日常も真実。別に・・・悪いモノではなかったのだ。

 

「・・・・長い、長い夢を見てたんです。それが覚めてしまった。それだけの話なんですよ」

 

「それは夢のままではいけなかったのですか・・?」

 

「何の責務も無い子供であれば・・・・許されるかもしれません。それでもいつかは大人になる。どんなに目を背けても現実はいつだって残酷だ。気が付けば私は敵になっていた・・・・」

 

 今まで笑いあってきた者たちを決意で絞め殺す。本当に何をやっているのであろうか。出会ってくれるなと願えど通路内で遭遇してしまったのならば戦うしかない。

 

 何かを捨てねば得られるもの何もない。

 

 彼女たちからすれば私はただの裏切者だ。

 

「セイラン君・・・ここにいるのはただの裏切者です。あなたは黒殖白亜の本来の役割を・・・職務をまっとうしなさい」

 

 斬られるだけの理由はたくさんある。それでも、やはり、ゲームマスターだけは許しておけない。

 

「先生ッ」

 

「・・・・君はひた向きで教えがいのあって今でも好きですよ。もちろん君が私よりも強い事は知ってます。ですがそれでも今は後ろの彼女のほうが恐ろしい。ですので・・これが最後の”祈リ手”としての仕事になりますね」

 

「そう、ですか・・・ではまた後で”クラウン”さん」

 

「ええ、また」

 

 どことなく悲し気で、それでいて覚悟を決め背を向ける。二度と振り返りはしない。既に昔の話へと過ぎ去っている。

 

 クラウンはそのまま倒れ込んだグリムに手を差し出す。

 

 

 それに対しグリムは困惑する。

 

 記憶が戻っているなら私たちがしでかした所業の数々も察しのいいクラウンならば当然気づいているはずだった。

 

 感情は二の次で合理的に動く。そういう奴だったなとグリムは刺し伸ばされた手を掴むやいなや勢いよく引っ張り上げられ、

 

 顔面に拳を叩き込まれる。

 

「ヅッッ」

 

「まあ今はこれで良しとしておきます。業腹ですがあれの一人勝ちはとても許容できない。そうですよね?」

 

「っああ、そうだな。今は・・それでいい。セイランお前は―――」

 

 折れた鼻を治しつつもグリムはセイランを後方へと下がらせる。

 

 それでいて裏切りの保険として手の届く位置を保たせる。

 

 クラウンたちが加入したおかげでクリムゾンに対し勝ちの目が見えてきた。

 

 同じアリスを源泉とした異能であれば―――可能性がある。

 

 ひとまずクリムゾンさえどうにかすれば・・・・・セイランが後の始末は全てつけてくれる。

 

 つまりグリムだけが後先考えずに全力で己が全てを開示できてしまえる。余力の心配はまったくいらなかった。

 

 だがどうだ?

 

 この状況であってもグリムとの衝突は避けられない。そのためにもクラウンは余力を残す必要がある。

 

 聡明な彼はその後をみとおしていることだろう。そしてその身で感じているはずだ。クリムゾン相手に手加減する余地はどこにも介在しないと。

 

 つまりクリムゾンを打倒しようと続くセイランとの二戦目でクラウンは間違いなく死ぬということだ。絶対に死ぬ戦いを強いられることがわかっていてもクラウンにとっての仇が目の前にいるのだ。引けるわけがない。戦うしかないのだ。

 

 なので恐らくクリムゾンが生きているどこかのタイミングでクラウンは私に仕掛けてくる。決着時に細心の注意を払い挑もうか。

 

「・・・セイラン君は動けませんか(厄介なことだ、これでは常に喉元に刃を突きつけられているようなものだ)」

 

「そういうことだ。で、あれは味方と考えていいのか?」

 

 先ほどからクリムゾンと睨みあい対峙する娼婦めいた女の獣人。恐らくあの女王と名乗る者と同種であろう。雰囲気からそう決めつける。

 

 先ほどの一撃を生身で受けた点といい間違いなく人外の類。大事なのは今のクリムゾンの攻撃に対処できるものがいるという事実。

 

 事実、クリムゾンは警戒している。この会話の間も警戒して動けないでいる。一応の味方だと考えていいのだろうか・・・?

 

 

「なぜ、夢の住人が私の邪魔をする?これが貴様らの望みだったでしょうに」

 

「文句なら女王に言えニャ。それにお前が・・・・アリスにしでかしたことを知らないとでも?よくも看病と称して薬の実験台にして虐待してくれたニャ。計画成就の為にどれだけ奥歯を噛み砕いたことか・・・もう”計画の破綻”は許容できない。”ここまで”くれば遠慮も必要ないニャッ!!」

 

「馬鹿馬鹿。このお馬鹿さん、今頃気が付いても遅い!利用したつもりだろうがその計画は私が乗っ取った!お前たちが私と相容れるはずがないだろうがッッ!アリスの残りカスが滅ぼしてやる!!神の力の前にひれ伏せッ!!!」

 

 

 ・・・毛を逆立て威嚇するあの女がいれば戦いになる。やるべきことは獣人女を主軸とした徹底的なサポート。次第に戦術が組み上がっていく。

 

 あと気になる点としては・・・

 

「グレイズ君、君はその女性を連れて後方に離れていてください」

 

「は、はひ」

 

 強大なプレッシャーをまき散らすクリムゾンを前にぎこちない動きで眠ったアリスを持ち上げ運ぶ青年。

 

 まあこいつはどうでも・・・・ん?

 

 どこかで見た顔だと思えばこいつ謎のA種への餌としてぶつけた祈り手新入りか。どこまでも場違いで浮いている戦力外。期待は何もできない。

 

 さて、これでこちらは三人。女王はレグナントが抑えている。少なくとも形だけは整った。

 

「これより神殺しを敢行する」

 

「来るぞ」

 

「ゴミ人間どもがいくら群れようとも意味はないのに。不敬であるぞ。愚か、本当に愚にもつかない愚かさ。偉大なる万象に挽かれて悪路に沈め――――――――天地回倒」

 

「!!?」

 

 脈動する大地が戦いの狼煙を上げる。

 

 終わったはずの戦争の残り火。煙はいつだって見えていた。忘れられない記憶と共にあの日の続きが始まる。

 

 戦争が―――――始まる。

 

 

 ――――――――――Side/グレイズ

 

 

 これはほんの、数分前のやり取りだった。

 

 破廉恥な獣人と神を名乗る不遜な輩の会話中、グレイズは先生に謝罪されていた。

 

 

「グレイズ君巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

 

「いえ・・・」

 

 そう返すも、グレイズは戸惑っていた。

 

 変わりゆく状況でグレイスだけは周囲との温度差を感じていた。それもそうだ。この中で一番若く因縁の浅い彼には理解できるはずも無い。

 

 グレイズは真っ赤に染まった天を仰ぐ。まるで地獄のような世界で彼の立ち位置すらも曖昧。

 

 数百年という積りに積もった抑圧された感情。完全に記憶の咎から解き放たれた者たちにはもはやブレーキなど効かない。レグナントもクラウンも戦火の囲いの内を歩んだ者たちだった。

 

 敵を前にすればとにかく殺す。そんな当たり前の思考が殺意を滾らす。

 

 方や捧げた剣の重さを忘れ肝心な時に何もなす事が出来なかった者、方や敵の証拠隠滅に抵抗したせいで腹いせ紛いに両親を惨殺され、記憶がない事をいいことに仇である者たちへと協力させられていた者。

 

 祈りを取り戻した彼らはその熱に沿うことだろう。

 

 その熱がグレイズにはない。

 

 ・・・・ここにいるのも全てあのチシャ猫と名乗る妖しげな者との取引が起因する。本当にこれでよかったのだろうか。

 

 もちろん先生には感謝している。国の規範たる地位にいる者の手伝いができるのはとても光栄なことだ。それでもグレイズの目的から少しずつ逸れ始めている感覚は否めなかった。

 

 ベルタは恐ろしい。まさか無意識に逃げているのか?

 

 彼女と相対することを恐れているのではないかと思い始めていた。

 

 ――――そしてなによりの気がかりは・・・・アリスジョーカーのことだった。

 

 あの獣人が引き取ったとアリスの姿はどこにもなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。