オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第60話 朱ノ女王

 ――――――――――Side/朱ノ女王

 

 

 女王はアリスのことなど気にかけやしない。

 

 あれもこれも我が望みの為にある――――――回帰すべき世界がそこにあった。

 

 

 女王が帽子屋たちに提示した本来の計画では哀れなアリスを恋都の手で直接終わらせ魂を強制的に開放、その後アリスの魂を新たなる肉体である恋都の肉体へと転生させるのが目的であった。

 

 アリスの魂は次に最もふさわしい器に魂が入り込む。その際に発生する魂と魂の衝突で肉体を奪われ恋都は死ぬ。そういう筋書きだったのだ。

 

 アリスがどの器も気に入らないが為に、仕方なくアリスに対し原罪を持つ恋都を使うと協力者に宣った。

 

 だがそれは大嘘。女王の望みを叶えるために協力不可欠な夢の住人を計画に乗せるための方便。女王にそんな気はない。アリスなんてどうだっていい。

 

 女王の根底にへばり付くのは自己嫌悪ばかり。元より感じていたエゴは恋都の記憶からの存在の補完で多大な影響を受けて完成した。

 

 全てはこの醜い物語を潰すための計画であり、何者でない存在へと還るのが目的だった。

 

 アリスを殺せばアリスは夢から覚める。そして発狂することだろう。そうなれば二度目の大崩壊で今度こそ跡形もなく歪んだ物語である夢世界は露と消える。

 

 それを行うには越えなければいけない条件があった。

 

 前提として眷属たる夢の住人は”アリス”を殺害できない。それをクリアするために夢の住人でない恋都を利用した。どちらにせよ恋都をアリスと仕立て上げるための物語を始めるには再構成が必要。

 

 アリスにとってただならぬ存在である彼こそ都合がよかった。記憶からキャラクター性を補強しなければ女王の配役を演じることもままならないほどに我々は酷い惨状だったのだ。アリスの気分次第で容易に夢世界も夢の住人も変貌してしまう。アリスに依らない恋都による記憶から存在を強化しなければいけなかった。

 

 これは執念だ。

 

 何が何でもアリスを目覚めさせ無に還る。大崩壊により修正が効かないまでに歪んだ物語上で生きねばならない息苦しさ。あるべき姿に戻れぬならいっそのこと壊してしまいたい。

 

 女王と言う支配者の立場が誰よりも物語の歪さを知らしめる。

 

 それを誰も共感してくれぬ。まさに生き地獄なのだ。

 

 

 

 

 傑作器であるイグナイツがアリスに産み落とされると同時に起きた大崩壊とは精神の崩壊を表し、遂にアリスの魂はその時を同じくして夢世界に逃げ込んだ。

 

 精神摩耗から来る小さな崩壊は今まで何度も起きてはいたがここまで大きな崩壊はなかった。逃げたことからアリスの限界が見えてしまう。

 

 お陰で夢世界は穴だらけ。語るべき物語は飛び飛びでまともなのはお茶会と裁判ぐらい。キャラクターの殆どが消滅していた。そのくせ大分前から量産される醜いアリスの魂の断片ばかりが行き付く安息の無い地獄と化していた。どこもかしこも醜悪な獣が蠢き彩っている。こいつらが消えればよかったのにね。

 

 悲惨な物語の惨状に心を痛めた私はある計画を企てる。

 

 それは夢世界に逃げて来たアリスからもたらされた情報が発端だった。アリスは壊れる前に最後の力を振り払い記憶の欠片を手紙におこしていたのだ。

 

 それは”ある男”の話であり、アリスがこの世界に召喚された全ての原因。外界で伝え聞いた不思議なお話。いわば終末戦争が起きた原因と本当の目的。

 

 なぜか確信をもってその原因たる存在が”この場所”に現れると壊れる前のアリスは予言した。

 

 確実性も無い荒唐無稽な話だったがこの時は藁にも縋る思いだった。そもそも空想上の存在であるアリスが召喚された時点で常識は崩れている。今更の話だ。

 

 アリス救済計画の概ねの流れだが、異界からダンジョンに降り立った恋都に出来る限り新編の物語【不思議の国のアリス】を沿わせるのが大筋だ。

 

 アリスとここまで因果がある恋都をアリス足らしめることは不可能ではない。崩れた物語だからこそ可能な暴挙である。まったく酷い改悪だと呆れかえる。歪ながらも物語を踏襲させ恋都のアリス性を高めさせることがなにより重要。女王としても恋都に少しは痛みを覚えてもらわねば気が済まない相手でもあった。

 

 そして裁判の一幕終盤で恋都にアリスを殺させるはずだった。そうすることでアリスの役を継承させる。大事なのは器たる肉体であり、アリスの魂がその肉体を奪う瞬間に恋都の魂は衝突事故を起こし一方的に消滅させる。

 

 途方もない回り道だったが、過程を重視する世界にとって避けて通れぬ道。

 

 大崩壊で消滅した配役を生き残りや部外者だけでなんとかやり繰りし物語の体裁を整え紡いだ。始まりたる導きの兎役は見た目の似たイグナイツを勝手に流用。

 

 霊体のクリムゾンを派遣し監視させながら決められたチャート通りに進ませる・・・予定だった。

 

 ここでクリムゾンが想定外の反逆を行ったが今は割愛する。それでも運命は収束するらしく完全に運を味方につけた。

 

 そこからは完全なオリジナルチャートだったが収まるべきところに収まった。

 

 クリムゾンの反逆をカバーする為に急いでチシャ猫を派遣するも、なんと敵だった未覚醒の【氷結界域】に恋都は連れられてしまう。しばらく静観していると今度は例の”剣聖”が率いるA部隊と交戦。下手すると恋都は一文字で終わっていたが勘のいい剣聖ちゃんはどうも無意識に彼がどういった存在か気が付いていたようで手加減してくれていた。でなきゃ死んでる。ずっとヒヤヒヤしていた。

 

 それから祈り手どもは敗走し今度は黒殖白亜に囚われてしまう。危険極まりなかったがチシャ猫の強行で恋都を夢世界に連行を試みる。追手の隙を突きクリムゾンが開いたゲートに間に合い難を逃れる。

 

 流石にここまで来ればと・・・なんとか元のチャートに合流したかと安心したのだがここでまた予想外な行動を起こす者が現れる。

 

 気狂い帽子屋達が恋都を自身のテリトリー内に閉じ込めたのだった。

 

 計画の一番の賛同者によるまさかの裏切り。おまけにお茶会は我が法廷以上に無傷な物語の一幕。この女王ですら手の出しようがなかった鉄壁の領域。

 

 型破りなチシャ猫ですら干渉不可と来た。裁判の目前で寸止めされた女王の気持ちたるや。中で何が起きているかもわからず生きた心地がしなかった。

 

 だが、しばらすると恋都が自ら脱出してきたではないか。

 

 目論みは見事成就し裁判は無事開廷する。幕間における不意な遭遇からの恋都によりオリジナルアリスの魂が殺害されないようにアリスはちゃんと女王の手元に置いておき抜かりはない。奴をこちらのテリトリー内に引き込めばこっちのものだった。

 

 だが、そうまたなんだ。

 

 ここで今まで振り回されるだけだった恋都が牙をむく。

 

 奴はそれぞれに課せられた役の配置の意図を見抜き検事たるアリスを公然の場で死に至らしめようとした。

 

 あれにはマジでかなり焦った。

 

 恋都による殺害もそうだがアリスが自殺しても魂は消滅し”アリスの役”だけが次に相応しい恋都に継承される。自殺では恋都の肉体での転生はない。それはどうだっていいが”アリスの役”引継ぎだけは認められなかった。

 

  ここまでお膳立てをしたのだ。恋都からすれば異世界そのものが不思議の国として舞台設定が成り立つ。因果による見えない紐がアリスを紡いでしまう。引き継げば歪んだ物語もそのまま続く。それでは大崩壊はありえない。大事なのは女王が最後にアリスに手を下す事ただ一つ。

 

 そのためにアリスを疲弊させ弱体化させることなのだが、恋都はアリスを自殺寸前まで追い込んできた。誰がそこまでやれと言った。

 

 新旧二つのアリスをぶつけ合い疲弊させることが大事なのだ。アリスを扱き下ろし”アリス”でなくする。アリス性を奪いただの少女へと至らせる。二人を秤にかけアリス性が薄らげば女王でもアリスを殺害せしめる。

 

 殺害と言っても創られし夢の住人ではせいぜい現実に送り還すしかできないがそれでいい。現実とのギャップが二度殺す。精神崩壊からの夢世界の崩壊で今度こそ、この物語も終わる―――

 

 正直恋都は手に余る駒だった。無自覚に誰に言われることもなく自ら”アリスの役”に成りきった恋都には驚いた。奴は誰に言われるでもなくアリスを演じて見せた。誰かの指示で動くのとは訳が違う。自然にその答えを導いてくれたのだ。

 

 それが恐ろしくもあった。まるで女王ですら見えない何かに導かれているようで、順調過ぎて逆に怖かった。

 

 運命に感謝したかった、のだが。

 

 そこでアリスの自殺だ。

 

 兎に角笑うしかなかった。まともな裁判であれば手の出しようもある。だが最初から裁判に相応しくない意味不明な出来事を黙認し行い続けたせいで介入する口実を失っていた。セーフラインの境界線を見余った。裁判中って石投げたらいけないのか・・・スルーしていたせいで恋都によるガチビンタにすら介入出来なかった。

 

 逆に女王は立場で苦境を強いられる。

 

 そういった出来事もあり恋都が予想外に裁判を長引かせ時間を掛け過ぎた。

 

 これでは女王の真意を知らないチシャ猫が戻ってくるのも時間の問題。

 

 ・・・チシャ猫はアリス第一主義者だ。盲目的にアリスに尽くす。故に女王の真意を察すれば障害となり得る。

 

 アリスに依存気味なチシャ猫には普段から現実世界の調査を頼み外界へと遠ざけ、計画終盤では偶然拾った外界の騎士を洗脳し力を与え徹底的にチシャ猫の邪魔もさせていた。ついでに面倒なクラウン大主教を潰してくれれば更によかった。小賢しい男は嫌いだ。

 

 本来のチシャ猫の役回りは神出鬼没な狂言回し。完璧なお茶会と違い不完全な裁判になら踏み入る可能性は十分考えられた。急がねばならなかった。

 

(ああ、なぜ気が付けなかった・・・奴をアリスから遠ざけ過ぎたのか)

 

 

 ・・・そもそもアリス育成から間違いだったかもしれない。

 

 アリスが夢世界に逃げ込んだ時点で幼児退行していた。それをいいことに私はアリスをいいように育てた。裁判でぶつかり合う以上どうしても恋都が敵対してくれるような子に仕上げなくてはいけなかった。

 

 自身のテリトリーである城にアリスを閉じ込め、寝る時も食事の時も遊ぶ時もアリスを全肯定してきた。贅沢三昧の日々、全てに満たされ死ぬほど甘やかしてやった。一人で着替えもできやしない。介護などとても女王のする仕事ではないし苦痛であったが、率先して溺愛してみせれば他の夢の住人に本心を勘繰られる事も無くここまでこれた。最終的な目的を掲げていればなんでもできた。

 

 お陰様で想定通りに我儘で幼稚で自己中心的で自己愛に富んだクソ面倒臭い精神構造が出来上がった。プライドは天井知らず。気に入らない事があれば恩人である私にすら石を投げるレベル。泣くと子供の様に・・・いや陸に上がった魚の様にジタバタし、すぐ物に当たる。しかも現実での後遺症で躁鬱病を持つ。テンションがヤバイ。もう誰にも手に負えないぜ。

 

 

 

『死ねッ!死ねよぉ!アリスの前をよこぎる奴!』『あれッアレが欲しい。あ、あ、あッッちょうだいィィィアリスの物をとるなぁ!女王ォォォあいつがアリス物をとったああああああああ殺してよおおおおッツッ!!!!』『マズイ!!野菜きらい!!くずどれいさんの分際でアリスにこんなもの喰わせる七アアアア亜』『イィィィィいぎぎぎギあ”あ”あ”あ”あ”ああっぁぁいひいイィィィィ!!あぎゃぐぎゃあああ』『あ、おしっこでた。拭いてー女王。早く拭けー。あ、またでるでちゃう、うわ女王汚いよー臭いからちかよるな』『くしょどれいさんが話しかけるな。息をすうな』『女王ッ早く来て女王!女王!!はやく来いってアリスがいってるでしょおおおおおおおくずどれいの分際でええぇぇぇ!!』『ぶさいくが視界にはいるな。どけ!!アリスが先に並んでたんだよ!!アリスが1番なのォッ』『老いぼれがさっさと死ねよ。いきててもみじめなだけじゃん』『アリスに逆らうなッ女王は黙ってまたをひらけよー』『ねぇきもちいい?きもちいい?女王!女王!えひえひひ、アリスのどれい~』

 

 

 

 

 

『好きー』

 

(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ・・・我ながらとんでもないモンスターを作り上げてしまった。私でも許容できないレベルにすごい。完璧だ!完全に依存している!!身を削り”色々”と教え込んだかいがあった。

 

 体ばかりデカくなる一方で脳みそはすっからかん。愚鈍な方が扱いやすいからこれでいい。性格は顔に出ると言うがこんなの詐欺だよね。見てくれだけはいいのだから。それでも口を開けば一言目に罵倒が飛ぶ。でも行儀や作法は会得している矛盾。それでマウントをとって悦に入る。趣味はアリの巣を水責めすること。この時とベットの上が一番素直でおとなしい。

 

 これもひとえに脆弱な精神性を作るためだと女王は耐え忍んだ。

 

 何より信じられないことに恋都はこういうヤバイ女がタイプであることを知っていたからだ。趣味が悪すぎる・・・・・実際、奴は裁判中滅茶苦茶楽しそうだった。

 

 敵対はして欲しいけども、殺害は躊躇ってくれるといいなと願った。

 

 今日と言う日をずっとまちわびていた。楽しみで仕方が無かった。

 

 糞みたいな”私のアリス”が泣きっ面を晒すたびに大いに笑った。恋都の予想外の行動に泣かされるアリスに腹を抱えた。

 

 ――――――でもさ。

 

 私はそんな胸がデカいだけの究極のアリスが自殺する筈がないと高を括っていた。

 

 あの男は手加減を知らないのか容赦なくアリスを言葉で痛めつけ自殺へと誘導する。あれはただの脅しでなく本気で殺しに来ていた。私は少し彼を見くびっていたのだ。どこかで駒の一つでしかないと思いあがっていた。私の作ったアリスが自ら負けを認めると微塵も思っていなかった・・・・・・

 

 

 アリスが最後に見せた一面、あんな穏やかな顔を私は知らない。

 

 

 どうしてか――――胸が痛んだ。

 

 

 ・・・・一応裁判も終わり想定通りに恋都によるアリスの殺害は防いだ。

 

 彼自身も考える脳みそがあり保身のために直接的な殺害を回避しようとしていたがアリスの自殺という想定外のアドリブから彼をアリスの傍に置くのはリスクに感じ致命傷を負わせ外界に放逐した。

 

 あの致命傷では不死性も発揮せぬままに死ぬ。危惧することは何もないと安心していた。

 

 残るは無防備なアリスただ一人。アリス性が薄れた無防備なアリス。チシャ猫たちの邪魔は入ったがクリムゾンの攻撃でアリスが負傷した事実が私の眼を曇らせた。私でも殺せるのだと判断してしまった。

 

 クリムゾンは勘違いしているがその力はオリジナルアリスの力でなく女王の力を分け与えたものでしかない。夢世界限定の現実世界ではなんら意味の無い力だ。女王の力の一端でやれたのなら私に殺せないはずがなかった。

 

 ゴールは目と鼻の先。こんな物語だろうと、もうこれで終わりだと思うと名残惜しく戦いを楽しむ余暇を自身に与えてしまった。

 

 ・・・・そのはずだったのだ。

 

 まさかあのアリスがだ。

 

 もたらされるだけで与えることをしないあのアリスが、唯一のアイデンティティを譲渡すると誰に予想できるのだ。

 

 クリムゾンの繰り出した一撃で”アリスの役”を譲渡したアリスはすでに死亡していたと思われる。

 

 元々あの一撃は試しの一手。本当に女王由来の力でも殺せるかの確認作業だった。

 

 アリスが”アリス”でなくなった時点で何者でもなくなっってしまえば余波で蒸発する。あれはそういう攻撃だ。威力と規模が大きすぎて一瞬アリスの姿を見失ってしまったのだ。そこにチシャ猫に付け入る隙を与えてしまう。

 

 死ねば精神崩壊による夢世界の崩壊が起きるのにそれが起きない。そのせいでまだアリスが健在だと勘違いしてしまう。恐れていたことが既に起こってしまっていたのだ。アリスの魂が消滅しようと”アリスの役”が引き継がれてしまえばこの世界も引き継がれてしまう。醜い物語は健在してしまう。

 

 ”アリスの役”の譲渡の完了を私に悟らせないようにチシャ猫はクリムゾンの攻撃のどさくさに紛れて更に大人のアリスに化けさせたジョーカーで偽装した。

 

 この時点でジョーカーはギリギリ一歩手前まで生かされていた。私を釣るための生餌。チシャ猫は真実味を帯びさせるためにジョーカーに丁寧に致命傷を負わせていやがった。

 

 なぜ、そんなことをしたかだと?

 

 アリスを殺せるのだと私に勘違いをさせ躍起にさせたかったのだ。放逐された本命から目を逸らすためにッ―――――

 

 役を譲渡された恋都でもあの致命傷では不死性も発揮せぬままに死ぬ。

 

 だが、そうならないのだろう。

 

 現実世界で何かが起きている。

 

 もう死ぬと恋都を適当に投棄したのがまずかった。運が介在する適当さでは付け入る隙を与えてしまう。必然的に現実にいるであろう元凶たる渦中へと導かれる。

 

 私はこの場で戦う事を選んでしまった。祈り手もゲームマスターも支配者たる女王に立ち向かえる戦力差じゃない。負ける要素はゼロだった。その考え自体は間違いではない。ただ奴らは勝てなくともこちらに食い下がれる程度の力は持っていた。そこに余裕が産まれつい、騎士と遊んでしまった。目的が達成できると思い込み歓喜に沸いていたのだ。

 

 チシャ猫もまた私と同じく時間を稼いでいたのだな。

 

 ・・・いや、騎士がここにいることも計算の内か。恐れ入ったなチシャ猫・・・そんなにもアリスが好きか。

 

 

 この騎士、この私が気に入るだけの実力、培われた泥臭い技量もありこちらの純然たる力と速さの暴力を前に剣技のみで凌ぎ、神言魔術で致命傷を耐えるのだ。その姿に今は亡き我が下僕たちを彷彿させた。

 

 ・・・興が乗り過ぎたのだ。はっきり言って感心していた。下僕たるトランプ兵を失い久しく、騎士という女王に使える者に飢えていたのだろう。これもまた自らに課せられた役による弊害か。

 

 

 

 ・・・・・それに比べ保険として用意していたクリムゾンなのだが思ったよりも使えない。外界から拾い上げた深淵とは無縁の魂。女王の絶大な力の一部を与え持ち前の憎悪を利用したのはこちらの計画が失敗した際の予備戦力にするためでもあり、チシャ猫は優秀だがどうしても現実世界では活動限界があるため制限の無い駒が必要だったというのもある。

 

 今日まで飼いならし変わりの目や耳としてチシャ猫とは別に情報収集をさせていた。システム障害などのゲームマスターとしての力も存分に振るわせた。封印から解き放たれたイグナイツにはコイトともっと行動を共にさせるつもりだったが、クリムゾンは勝手にイグナイツに憑依したのは予想外であった。

 

 洗脳がどうして解けたのかわからない。まさかこれもチシャ猫の仕業か・・・?

 

 クリムゾンは私への反旗に調子づいたのか、イグナイツに憑依したことで秘められた真価に気が付きグリムの確保前に夢世界へ突撃。反抗するも私が女王である意味をわかっていないようで一蹴し再度の洗脳による都合のいい役回りを与えてやった。処刑するのは計画が上手くいってからでも遅くはない。

 

 

 まさかチシャ猫があれほど腹に一物抱えているとはな・・・・

 

 

 どいつもこいつも勝手によく動く!

 

 

 

 ・・・・先ほどの現実からのオリジナルアリスによる干渉。なぜかオリジナルアリスは”二人”いる。

 

 夢に逃げたアリスとそうじゃない正体不明のアリス。外界を渡り歩くチシャ猫は最初から知っていたことになる。

 

 どさくさにまぎれ消滅したアリスのダミーとしてジョーカーで偽物を用意し負う必要のない傷をあえて受け戦闘を長引かせる。全部現実世界から目を逸らせるための演技。

 

 まだ間に合うか・・?

 

 門を破壊したことで現実世界への到着時間にずれを生じさせてやった。この時間をどう使うかによって命運は分かれる。

 

 ”アリスの役”を譲渡された恋都は恐らく謎のもう一人のアリスの元に導かれる。

 

 ・・・何が起こるのか想像もつかない。だがアリス救済計画を放り出しチシャ猫が動いているという事はアリスの為に他ならない。

 

 どちらにせよアリスが完全に覚醒すれば大崩壊は二度と不可能。その事実がどうしても許せない。女王はこの紛い物に溢れた世界が、何より自分自身が嫌いなのだ。原典は一度崩壊、恋都の曖昧な記憶からの再構成。物語を紡ぐための行為が逆に致命傷となる。元より女王は女王でない。最初から何もかも狂っている。

 

 恋都の意識に一番引っ張られのはきっと私だろうな。偽物の体に混じり物だらけの歪な心。形亡き形で形成された情報の寄せ集めでしかない。原典からは乖離した姿に型にはまらぬ言動が目立つ夢の住人達。

 

 まったく吐き気がする。

 

 再構成からより一層思いは強くなったのは間違いなく恋都の影響だ。余計な情報を吸い上げ過ぎた。だからこそ心情的には完全に恋都よりであり同情もしてしまうが憎くもある。乙女心は複雑だ。

 

 そんな時に現れた純然たる騎士の在り方を示し、生き方に則るレグナントは眩しく羨ましかった。真っすぐな奴を見てるとついちょっかいを出したくなる。つい足を引っ張りたくなるし、助けたくもなる。

 

 それが叶わぬ願いだとしっているのにだ。

 

 世の中・・・ままならないものだ。

 

 ・・・・・・さあ、決断を下そう。ごちゃごちゃと悩む余裕はない。

 

 女王は異能の制限を解き、叫ぶ。

 

「クラウンッ!」

 

「―――――――――ッ!!?わかりました!すぐにでもッ」

 

 やはり物わかりがいい男だ。異能でこちらの状況とお願いを読み取ったクラウンの行動は迅速だった。大局が見える男であり違和感に対し考えることを止めなかっただけはある。

 

 騙したりもしたが与えた情報では奴も素直に動かざるおえまい。

 

 

 このままでは皆、死ぬ事になるのだから。

 

 

 女王は門を展開し現実世界へとクラウンを送り出そうとするも炎が巻き起こり邪魔が入る。

 

「貴様ぁ、よくもこの私を利用してくれたなああああああああ!!」

 

 不意打ち紛いのクリムゾンの横やり。

 

 まさか洗脳が解けた?今ここで?なぜに?

 

 違う――――――この力の躍動。まごうことなき神性。私が与えた借り物の力とは違う、異なる別種の力。

 

 これはまさにオリジナルアリスの力。どこからか、力が与えられているだとッ!?だ、誰が!??

 

 間に合わなかったのかッ!?

 

「消えて無くなれええええええええええッ!!【イフ・ドミネイト】!!!」

 

 時間が、空間が、歪み黒い飛沫となりどこまでも波紋を広げていく。地殻はめくれ何もかもが吹き飛び無へと回帰する。

 

 それを前にここにいる者全てが終わりを悟る。これはまさに神の御業。足掻くことそのものが愚かにも等しい。

 

 

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