異変はどこまでも飛び火する。広がる変化は大河であり全てを飲み干す。
それでも一石を投ずる者ここにあり。
この地は”不帰の古戦場跡”。その名を確固たるものにした者たちが集いし不落領域。
「指令代行!前線部隊から救援要請です。複数体のA種による奇襲で被害甚大!損耗率、約半数ゥ!?」
「―――ッ!?ならば、前線を放棄!予定通り部隊を3ブロック後退させて新たに戦線を張り直す!支援部隊に撤退の援護をさせろ!時間稼ぎで機甲兵群捌型を残して隔壁も下せ!その間に体勢を整えろ!」
「ほ、報告です!D-319号通路にて配備した機甲兵群漆型が撃破後自爆!敵は貪食アリスです!と、止まらない!このままでは居住区到達まで23秒!」
「隣接ブロックの黒殖白亜に厳命しろ。方法は問わん!なんとしてでも止めさせるんだ!!」
「ですがッB部隊は連戦に次ぐ連戦で既にほぼ壊滅状態!人員もたったの3人。よろしいのですか?」
「・・それでもだ。B部隊には隊長がまだ残っている。他に誰が止めれる!」
暫定的に設置された天幕下でオペレータの報告が飛び交う。だがどれも芳しくない内容。異様な熱気に包まれていた。
守護者達による攻防の一幕がそこにあった。
それもこれも謎の怪物の流入が原因だった。
突如時空間が歪んだかと思えばダンジョン各所から黒い怪物が現れ出口を求め暴れ始める。
守護者にすれば一体一体は大したことは無い。魔術の効きが悪い膂力だけの獣。知性の無さには呆れかえるばかりだ。その特異な特性すらある程度分析済み。それでも苦境に陥っているのは様々な要因が重なり合った結果だった。
それは黒い怪物の終わりの見えない増援のせいであり、突然の動きが活発化したA種の猛攻が重なる。
そして最悪な事に外界からの敵性勢力の攻勢も合いまった。
ダンジョンは今、上と下からの二面攻勢を受けていた。安全圏は第一階層の都市部のみ。水際での防衛戦が巻き起こる。
(なにもこのタイミングで来ることはないだろお――――ッ)
指令代行と呼ばれる守護者は初めての事態に心労で倒れそうだった。握りしめた端末が軋む。余りにも対応すべき問題が多すぎる。
内部と外部からの両面攻撃。まるで呼応したかのような連携。内通者の存在を疑ってしまうのも無理はない。
まだいい。統括室長の采配で半信半疑に控えさせていた虎の子の黒殖白亜H部隊と対外用戦術兵器の二機のおかげで外部はなんとかなっていた。予備戦力の重要さを改めて思い知る。
というか統括室長は何処に行った?
そう聞くも誰も知らないとくる。私は仕方なく指令代行やってるんだぞ!重くのしかかる責任で心臓がキュウキュウと締まるんだけどぉ!?
「黒殖白亜の、全体の現状はどうなっている」
「まともに機能している部隊はA、D、E、Jと外部のH部隊の四部隊のみ。一応報告しますが、先ほどF部隊隊長ベルタ様の生存は確認しております」
ベルタ様といえばマスターの行方の捜索を担当したF部隊隊長だ。歴戦の黒殖白亜でもこの有様か。結局マスターはどうだったのか確認したいところだが・・・・
「ベルタ様との連絡は可能か?」
「それが・・確認はあくまでも監視システムによる映像判別によるもので、どうやら端末を紛失しているみたいで通信のしようがありません」
せっかくシステムが復旧したのにこれか。
舌打ちをしながらも古株の守護者が生きていることに安堵する。総合ランキング第4位の彼女だ。そう簡単に死ぬことはないだろうと信じたい。
送られてきたデータからそう判断を下す。生きた年月の長さは信頼へと直結する。老いとは無縁でもやたらと死亡事故が多いこのホーム。A種は突然現れては殺しつくす。守護者の入れ替わりは激しい。それを400年も生きてきたベルタさんの実力は相当なものだ。ちょっと変わっている人だけども!優しくしてくれるし!
陽気が広がり植物が群生する異変が起きた途端、第一階層のメインシステムによる下層のシステム掌握ができてしまった。そこからは問題なく全階層の現状解析、端末通信、防衛プログラムの起動が行えるようになった。
だからこそ現状の凄惨さが露わになる。対外用戦術兵器も黒殖白亜も半壊状態。裏切った祈り手もメンバーも全員が消息不明ときた。
・・・・”先生”が裏切っただなんてとても信じたくなかった。
とどめにだ。強さに関しては守護者個人が勝るが、黒い怪物も無尽蔵に湧きあがり数でこちらを圧殺してくる始末。物量は正義でもあるがそれで守護者に勝るつもりか。
「指令代行!ようやく最後の建造物の破壊が済んだとの報告が!作戦遂行にいつでもはいれます!!」
「破壊確認よしとする!―――ッこれで攻勢に移れる!待ってろよウジ虫どもめぇッッこの☆#▼§μ〇ッッ!!」
「指令代行!罵倒が電波に乗っておりまするッ」
ようやく転機がやってきた。散々苦しめられてきた怪物による奇襲攻撃。奴らは急に現れては巨体と膂力を生かし致命傷を与えてくる。なんてことのない雑魚だがその性質だけは厄介だった。いつどうやって現れるかわからずに耐え忍ぶしかなかった。それでは精神が持たない。いつまでも気を張りつ続ければ限界はすぐにでもやってくる。
だが、種はもう割れた。
奴らは影より現れる。それもその巨体がすっぽりと入ってしまうような大きな影、いや闇から湧いてくる。そのために建造物の多い第一階層の破壊可能な施設は可能な限り破壊し、重要施設は魔術や機械の光でライトアップする。影の大きさも重要だが影の濃さが薄ければそこから湧かないのも証明済み。
影を作らぬように部下には密集しないように徹底させている。
第一階層都市部はは光に満ち溢れていた。これにより背を気にせず前の敵だけに集中できる。
それもこれもA部隊副隊長の助言のおかげ。彼女が保有する”特攻”の性質から何か感じ取ったのか彼女の報告のおかげで早期発見に繋がったのだ。行幸であったのは事実。それでも信じたくない報告も受けねばならなかった。
まさかあの個人戦ランキング1位のセイランが恐らく死亡したなど・・・信じられなかった。
異変が起きる少し前に起きた全階層を斜めに切り裂いた一撃。A部隊副隊長はセイランの一文字だと断言した。
あれこそが完全なる一文字ッ。ここまで現実に爪跡を残せるのかと目を疑った。その一撃は外界で戦闘中の黒殖白亜からも確認できたとのこと。なんでも天を切り裂き一瞬光が瞬いたとか。
・・・あれ以降、二の太刀は無い。そして未だにセイランからの連絡が無い。神経たるバイパスも根こそぎ切り分けたものだから東部ブロックの一部の通信機能は不能状態。状況は完全に不明である。
まさか、そのまさかだ――――
こればかりは公表するべきではない。ようやくの転機に水を差すのは困る。士気まで失うのは避けねばならない。
留意するべきは、本気の一文字を使用させた相手は誰なのか、だ。
「外部部隊と有線通信しろ。恐らく内部のごたごたは敵にもばれている。なんせ光線やら熱線がバンバン足元から飛んでくるんだ。外界でも異変の影響が出ているのだろう?いっそのこと戦線をだな、雪原を侵食する翠緑地帯ギリギリまで展開。相手は豪雪地帯を前提としたフィジカルエリート集団だ。雪の迷彩を無効にしこちらの機動性が上回れば一方的に殲滅可能となる。ホーム入口の防衛は決戦兵器一機に当たらせる」
戦線を突破されても最悪、第一階層表層部分の偽ダンジョンがある。冒険者用に調整した難易度設定を最高レベルまで上げれば足止めは可能だ。
(・・・・・・・・・・・・・)
私は信じない。セイラン以上の脅威の存在などあっていいはずもない。セイランならば最悪相打ちに持ち込んでくれる。
これまでの実力と実績を信じできることを行うまで。そう思わねばやってられなかった。
◇
――――――――――Side/クリムゾン
――――それは突然やってきた。災厄はいつだって唐突。黙示録にだって載ってない。預言者はいつだってそう頭を悩ませる。
クリムゾンは唄う。ただ一人の為に――――――
憧れであり、グリムこそがこの世を変革する選ばれし者なのだと、信じていたのだ。
それがどうして・・・・今はただ呪いを振り撒き、口を開けば呪詛を吐き出す。こんなはずではなかった。
苛立ちを発散するように力いっぱいに叫ぶ。
――――――いい加減目を覚ませ。
彼はある日突然狂った。有る筈もない感情に夢を見てしまった。いつの間にか呪いに掛かっていたのだ。
何もかも”奴”との出会いがグリムの運命を狂わせた。もっと早くにクリムゾンが合流していれば違和感に気が付いたはずだ。手遅だとしても見捨てるのはあり得ない。
救えるのはクリムゾンだけなんだから。
グリムは、グリムはクリムゾンの・・・・
クリムゾンがやらねば誰がやる。そう何度呟いたか。
高位的存在の手駒となり約束の日を待ち続けた。その甲斐あってか長い月日の中でクリムゾンは黒幕の正体を掴んだ。
”奴”だけは生かしておけない。ゲームマスターの天敵と成り得るあの男だけは・・・
絶対に。
「【皇世のマグナ】」
数百年もの間に沈殿し凝り固まった地層のような決意が容赦なく力に変換されていく。
振るう神性孕みし波動はただただ破壊だけを産み出す。天と地を思うがままに愚か者へと振りかざす。
まさに天災。人知を超えた異次元戦闘。振るえば死ぬ摂理の果て。
それなのに、どういうことなんだ――――?
クリムゾンに迫りくる銀の一閃。
膨大な質量を持った魔力の流動。
そして界の主導権を掻き乱す想術。
それらが三位一体となりクリムゾンに差し迫る。
結論から言えばクリムゾンはまた攻めあぐねていた。神の力を得ておきながらも戦いが成立していた。
流れがおかしくなったのは何も守れなかった騎士が聖剣を手にしてからだ。
いや、違う。聖剣ではなくこの男はもっと別の何かを拾ったのだ。
前まであんな目はしていなかった。
迷いなき決意を秘めし眼光で挑むか。
なぜ・・こうも苦戦する―――ッッ!!
それもこれもクリムゾンを召使いの如く扱ったあのクソ女!なにが女王だッ所詮はお前も女だったなァッ!
何を思ったのか人間どもを庇った挙句、余計な置き土産を渡しやがって!死ぬなら大人しく死ねォォッッ!
異次元領域でありながら衰える様子を見せず聖剣と王笏の変則的な組み合わせによる二刀流で襲い掛かる騎士。どちらも第二級遺失物。天上の一品。それを二つも扱って見せるなど常軌を逸している。第二級遺失物は相互に干渉し合いその際に発生する神性は容赦なく使い手を変異させる、摩擦にすり殺されるはずなのに―――――その兆しも無い。
「えぇいッ!鬱陶しいッ―――――重力決壊」
「ウ、オオオォォォォォッアアアア!!!」
放たれた空間圧縮による重力崩壊の余波も聖剣を振るだけで怪しげな光と共に相殺され対消滅する。面倒なのはその力を必ず聖剣が喰らいこちらに叩きつけてくる。その一閃はどこまでも伸びまるで終わりが見えない。
「ゼヤッァァァァッァ!!薙ぎッ散れ!」
鈍い音と共に吹き飛ぶクリムゾンの体。当たりはしたがなんだってんだ。致命傷には成り得ないではないか。それでも確かな痛みは感じる。深紅の血が流れていた。
「ッ!」
あの剣、たしか【異なり底の聖剣】・・・今は亡きフェザーンの至宝の一つだったか。周囲を喰らい力に変える剣。恐るべきはその変換効率。必ず倍以上で放出し神性すらも吐き出す悪食の剣。
そしてもう一つ、杖も問題だった。あれのせいでどんな干渉も軽減する朱の守りが展開されている。それは騎士を襲う神性をも軽減し騎士の異能も相まって全てが完全に噛み合っていた。
なんせ奴の異能は装備品の強化。持ち前の技能と噛み合い何倍にまでも戦闘力を高めている。
・・どおりで第二級遺失物の二刀流が両立が可能なはずだ。あの騎士はこの中で唯一クリムゾンを殺しうる存在へと成長したのであったのだ。騎士はこの土壇場で全てが揃い覚醒していた。
未知なる両翼で羽ばたいて見せた。
(・・・・・・・・・・ぶへぇ、うぐぐ)
レグナントは既に限界を超えていた。彼を突き動かすは孤独な支配者の涙、一端に触れてしまったという下らぬ感傷。どうしても見捨てることができなかった。
彼はどこまでいっても愚直な騎士であったのだが見えない女王の手が彼を導いていた。
(神殺しが許されるものか―――っ)
クリムゾンは憤慨する。
やはり第二級遺失物ともなると常識では測れない。第二級は神の忘れ物と語られてきたが眉唾ではなかった。それが実力者の手で振るわれればどうなるか身をもって思い知らされている。すぐにでもこいつを落とさなくてはいけない。それがわかっていながらも実行に移せないのも他の二人の徹底的なサポートの賜物だった。
「いい加減にしろぉぉッッ天地回倒オオオッッ!!!」
「想起【ドリームマン】・・・・そのまま跳べッ祈り手ども!」
どんな攻撃も待っていたかのように繰り出される想術で僅かにずらされる。
また、してもだ。
急激に強化された三人は自力で自転静止を耐え抜く。想術による事象誘因はクリムゾンの神たる力には圧し負けてしまう。それでもある程度の干渉は可能。力場を乱しつつグリムは祈り手二人を強化支援し個を増大させる方針に出る。的確に瞬間的に力を増幅させてくるのだ。敵に干渉できなければ味方を限界を超えてまで強化するまでと際限なしにサポートに徹する。
精密な情報を楔の様に現実に穿ち本物へと昇華する想術はまさに使い手次第でいくらでも化ける天井知らずの力であった。
「
「ッ!また――ッグオオオオッ!!?」
これで何度目だ。切り替わる意識の混乱。
またしても時間が遡った。
下手人は守護者に先生と慕われる顔色が悪い男、クラウン。
この世に時間を操作する魔術はいくらか存在するも、ここまで時間を戻す魔術は存在しない。
その魔術の詳細は知っているとも。
その様な短い時間ではなんの意味も持たないのに・・・・・だ。
時間は早めたり止めたりは可能だが戻すことに関してはゲームマスターにも不可能。
ああ、産廃魔術と評したがあの魔術の発案者は天才だ。戻した時点で偉業。ただ実用性が無いのもまた事実。これは嫉妬交じりの称賛にすぎない。
それをだ。この男はすました顔で運用するのはどういうことなんだッ!?
聖王国特有の聖句による神性付与による効力の底上げもなしに発動するとはどういうことだ!
何をすればそんなことができるんだ!?
クラウンの操るそれはなぜか15秒近くも時間を戻す。その魔術は派生も派生。駆動から発動までに数秒間のインターバルは要する魔術でありながらクラウンは連続行使を可能にした理由。
クリムゾンが知る筈もない。なんせクラウンすら最近まで忘れていたくらいだ。
ディアス家に継がれし固有継承魔術【狂歌】による賜物であった。それはとても古い魔術。
その詳細を知る者も彼と、グレイズだけになってしまった。
【狂歌】の効力とは後に使う魔術の連続使用。一回分の魔力消費で同じ魔術を何度も発動可能とする・・・・のだが【狂歌】の真価はそこではない。
これと組み合わせ使用された魔術は絶対に暴走する。それが意図的に仕組まれたモノだったのか偶発的であったのか今ではわからない・・・
暴走とは駆動と言うインターバルを無視し過剰に魔力を喰らい続け枯渇させる。本来暴走状態は歓迎すべきものではない。魔力が枯渇すればその先には死が待つのみ。
魔力の過剰使用は寿命や免疫力に著しく影響が出るし、暴走は自力で抑えることは不可能だ。
それがおかしなことに【狂歌】は初回だけ消費する魔力量が増えるだけで連携する魔術を何度も何度も平均として60~80回前後の連続使用をインターバル無視・二回目以降の魔力消費無しで行うのだ。それは
故に個人であれほどの弾幕領域を常に展開できるのだ。矢は雨となり激しい風化にクリムゾンは曝される。
そのすべての矢をコントロールしフレンドリーファイアを避けるクラウンの精密なコントロールも筆舌に尽くす。
つまりだ。隙間なく使用される魔術は一つの塊となり別種の魔術を発現させる。
門外不出の魔術として定められただけのことはあったのだ。
どんなに不利な状況も巻き戻されては回避される。15秒も時間を稼がればグリムが想術で対応してみせる。何度だって挑戦してくる。それは記憶を引き継ぐクリムゾンも同じで先読みで手を打っていく。読み合いが永遠と続いていくのだが・・・
――――ここでデメリットでしかないはずのクリムゾンの記憶の引継ぎが牙をむいた。
「ぐバぁッエ”ェァァァぁぁッッ――――!!!!」
もう一人。
グリムはそれになぞる様に想術でまるで時間が戻ったかのように周囲の環境、位置関係を数秒前の場景へと修正し偽の時間逆行を演出して見せる。それこそ精密に傷や欠けた大地や空気中の塵まで再現させる。相も変わらず異常な記憶力をしている。いや空間認識力か。
時間逆行か、その模倣か・・・二択を突きつけられれば当然、錯覚を引き起こし判断力が鈍る。その数コンマの間に伏兵の様に潜む一人だけ立ち位置が変わる事の無い神殺しの剣たる騎士が襲い掛かる。場合によっては騎士だけ視覚外に転移させ奇襲を仕掛ける。
騎士ばかりに注視していれば、それを利用しクラウンが極限にまで圧縮した超質量の魔力障壁で一撃離脱の体当たりを仕掛ける。その際圧縮された超質量の魔力の柱を叩きつけてくる。その速度もまた異常。自身を弾丸の様に射出する戦い方はとてもじゃないが魔術師の戦法ではない。まさしく蒼い流星。これが後方勤務のインテリの姿なのか・・・・?
クリムゾンは知る筈もない。クラウンが魔力運用技術を重用するのも彼が質量攻撃の有用性を知っていたからだ。どんな強固な魔力障壁も物理無効の結界であろうと、物理的な干渉が少しでも可能であれば質量は裏切らない。一方的に相手を弾く。触れた時点で速度の乗った質量は相手をその守りごと弾き圧し退ける。あやふやな理想よりも目の前の現実。彼はリアリストであり過度が付く程の超質量主義者であった。
巨大な建造物や山、石像や石柱、大地に根ずく高大な存在感が大好きだった。観ているだけで力が湧いてくるし興奮する。やっぱり太ももはいくらでも太いに限る!
だから戦時中もそっせんして文化保護を推し進めた。変わる事の無い真実は全てを解決する!
「我が聖剣よオオオオォォォッ!!」
よりいっそうと鈍く輝きを増す聖剣による鋭すぎる斬撃。
「そこだ。直上!!そのまま挟撃!」
異能によりこの中で一番状況を把握する魔術師による的確な指令と痛烈な妨害。
「援護する!迷いなく飛翔せよッ!」
完全にサポートに徹底する個人主義なゲームマスターではあり得ない連携援護。
「なんなんだ、――――何だと言うのだ貴様らはッ!!このゴミ屑がアアアアアッ!!!」
圧されているだと・・・!??
クリムゾンは血を吐き慟哭を漏らす。こんなバカなことがあってたまるか。クリムゾンは神なんだぞ!この吐き出された血も汗も同等の価値だと思うてかッ!
こんな奴らに構ってやるような立場ではない。格が違うのだぞ。すぐにも使命を果たさねばならないのに。
それだというのに、この身の程知らずどもは――――こちらの事情も知らないでええええぁぁぁッ!!
聖剣によりクリムゾンを守る障壁を吸収されその力をもって大地に叩きつけられる。地面に転がり顔を上げる。
ふと、その視界に何者かの足元が映った。
(――――――――――――アハッ)
思わず口角が上がった。予定外の僥倖。
(幸運はやはりクリムゾンへッッ!)
クリムゾンの体は跳ね上がる。
思わぬ人物の登場に動きを止めたのはクリムゾンだけではない。死力を尽くした戦いの中でも幾分かの冷静さは残っていた。
だからこそ男たちは違和感を覚えた。”彼”がここにいる意味を。三者三様に感じていた。
「アハハハハアハ!!勝った!これが正真正銘の最後だァッ!!」
”彼”の背後に回り込み首元に爪を食い込ませ、高らかに勝利を吠える。この時クリムゾンが何をしようとしていたのか、3人にはわからない。
無体を晒しながらも醜聞に笑うからには勝利を確信していたに違いない。だからだろうかクリムゾンは肝心な事実に気が付かなかった。
肝心なことに気が付かない。
”それ”を見ていたゲームマスターは知っている。裁判所の一件から”彼”が不死者であることを。そして不死性が否定されたのを目撃していた。腹へと貫通する娘の一撃は致命傷であったが・・・・
クラウンは異能により知っている。部外者たる”彼”こそがこのダンジョンのキーパーソン。黒幕の目的に深くかかわる自覚無き人物。それがここにいるという意味。クラウンの異能が完全に無効化され読み切れない。
まったく読み込めないのは初めての経験であり、つまりこの男は、いや”彼女”は・・・この事実から、全部手遅れなのだと気が付く・・・
レグナントは思う。本気でないが自身の一撃に反応した”彼”の登場にどんな意味があるのかわからない。それでも託された女王の杖が震えていた。何かを伝えようとしている・・・
「くひっ」
パチン
”彼”は指を鳴らした。
「ッ?―――!??」
グググッとそのまま無理やり引きずり出されたのかイグナイツの肉体からクリムゾンの魂が引き抜かれた。余りにも容易く脅威的な存在であったクリムゾンは意図もあっさりと無力化された。
「くぅグ、ギッ??な、なにが、え」
戸惑うクリムゾン。先ほどまで勝利を確信していたのに急に踏み外した、外された。
クラウンはただでさえ不健康そうな顔を蒼白にする。予想が正しければ・・戦いはもう終わる。これで決着・・・終わるのが戦いだけで済めばの話だが・・・
”彼”は明確に笑った。途端にぐにゃりと神性が溢れ周囲を歪め始める。
「「「ッッ!!!!???」」」
三人の勇士たちは何処に立っているのかもわからない。不安定さの中での泰然自若な足場。体中がチリチリとする。変異の兆候。濃すぎる神性はあらゆる生物を篩いにかける。
不遜なる者には罰を、宿業は内なる原罪を検める。
やはり手遅れだったかとクラウンは戦意を失う。
魂を掴まれたような息苦しさ。勇者はその身に”本物”の神を降臨させたのだ。クリムゾンを神の如き存在だと誤認した自身が恥ずかしかった。
”本物”ならばただ膝を折り祈るしかないのだ。
「想起【サイファー・プロトコル】」
「・・・」
「立てよ、まだ何も終わちゃいない、何も・・・」
クラウン達を守る様に幾何学模様が走り保護する。
「障壁を張れ。多少はマシになる。変異までの時間は稼げるはずだ。特にアリスの因子を受け継ぐ祈り手であればこそな」
「アリス・・・そうか、そういうこと・・・・」
グリムは苦し気な表情でゼエゼエと息をする。ゲームマスターでも耐えれるものではないらしい。もしかすればこの中で一番耐性がないのかもしれない。
「ならば貴公ら、私の近くに寄るがいい。聖剣と王杖が少しは盾となってくれる」
流石の第二級遺失物。レグナントの周囲はどこか空気が違い落ち着いていた。
「それで・・・どうする」
「・・・どうするも何もできることなんてないですよ。かの存在は本来降臨するはずがない絶対者にして超越者、経典に綴られし神格。まさか戦おうとか思ってませんよね」
「・・・・・・そんなことはわかっている」
グリムだって馬鹿ではない。あれがどのような存在か知らない訳ではないが、あくまでもそれは空想上の存在でしかないというのが我々の見解だったのに。
この時までは・・・
高位的存在の確認はされているが神とはまったくの別物。クラウンとレグナントの物わかりの良さは、信仰に生きる者だからこその反応だ。
所詮は厳しい環境に閉じ込められた者たちが生み出した幻想だと考えていた。どうしようもない自然現象を崇拝し神格化させたのが信仰の源泉。同じものを信仰することで発生する連帯感と団結力が協調を作り秩序を蔓延させた。あくまでも信仰は支配者の都合のいい道具でしかなかったはず。それがいつからか、加護や祝福など魔力由来でないまったく別の力が産まれ始めた。
神の存在の是非は生憎と使命の内に入っていない。だからこそまるで気にすることがなかった。神災だってこの世界では起きたところでなんらおかしくない現象なのだから。
「ここでずっと見ているつもりか?何もせずに死ぬつもりか・・?」
グリムは”彼”の足元で崩れ落ちる抜け殻の娘から目を離せない。
あれが神だろうが関係ない。あそこには娘がいる。私の全てがあんなところで眠っているんだ。誰が相手だろうと知ったことではない。
あれの降臨した時点で世界の崩壊は決まったようなものだ。何もせずにいれば滅びが訪れる。
「何もかも滅ぶぞ。歴史も信仰も生きとし生きる者全てが」
「だからって・・・どうすればいいんでしょうね・・神との遭遇は・・想定外・・」
「今は様子を見るしかないだろう。辛くても耐えるんだ――――今更、諦められるものかッ」
完全なる受けの体勢。受動的な姿勢こそが正しいのだと思うほかない。
クリムゾンと神が何をするのか。その行き先次第で答えは変わる。
だが碌でもない事が起きようとしていることは容易に想像できた。
クラウンとレグナントは国の中枢に携わる立場だったので知っている。
神に近しい巫女の一例から、神の興味を一身に受ける者がどうなるかなど想像に難くない。過度な恩寵は呪いとなんら変わりはしない。
呪いが祝福となりクリムゾンに襲い掛かる。