オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第68話 継ギ接ぎのアリス

 

 

 ――――――――――Side/???

 

 

 どこまでいっても黒き暗礁に行き先知れずの亡者が漂う。深淵に誘われるがままに罪人は奥に潜む紺碧の瞳へと吸い込まれて行く。多くが佇む者であり選ぶ意志を戴かぬ死人。

 

 ”彼”もまた迷い人。鬼の手に引かれ歩む幼子。その先に何があるか考えるだけの意志も無い。魂は引力に囚われ次第に闇の淵が飲み込もうと渦を描く。

 

 あと一歩、と来たところで闇の逢瀬が躱された。

 

「・・・・・?」

 

 数多の亡者が闇に身を投じる中で、”彼”だけは何者かに後ろ手を引かれ動きを止める。

 

 ”彼”は・・・・”恋都”は・・ゆっくりと視界が開けていく。

 

 温かい・・・掴まれた手首に感じた”熱”。

 

 同時に何者かの小さな影が恋都の腹部にいるのにも気が付いた。

 

 それはもう決して会えない小さくも大きな背中をした彼女。氷の獣の君。俺の腹部に顔を埋めその全身をもって俺を押しとどめる。そのせいで顔が見えない。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 どうして、なにも言ってくれないのだ。・・・・俺を一緒に連れて行ってくれないのか。

 

 しだいに雪解けていく鮮明な意識・・・氷に包まれた無貌の精神が解放される。

 

 じゃあ、この手は誰の手なのだと、振り返る。

 

 

 そこには―――――――大人のアリスが泣きながら俺を必死に繋ぎとめていた。

 

 

 

 意識が覚醒する。

 

 

 

 ――――――

 

 ――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――

 

 

「―――――――ここは・・」

 

 恋都の微睡みは初々しくも視界を広げる。

 

 思い起こすは体に感じた重みと首の圧迫からの息苦しさ、怨嗟交じりの感謝の念。もがくことも出来ない不自由な肉体の檻。

 

 俺は確かに死んでいだ。では、これはいったい・・・

 

 恋都は揺る脳を前に吐き気を催す。

 

 なんだってこんなにも浮ついているんだ――――

 

 妙な解放感に違和感。

 

 意識が戻る過程で色々なモノが見えてくる。例えば頭に感じる柔らかな感触と俺を見下ろす影。

 

「よかった、まだ、生きていてくれた・・・・・にゃ」

 

 温もりの正体はチシャ猫であった。俺は膝枕をされているのか。

 

「こ、恋都に、お願いがあるの・・ニャ。恋都にしか頼めない重要な・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 起き抜けにこれか。この女がどうこうして俺を助けたのは間違いないが、恐らく不測の事態が起きたのだろう。死人を蘇らせてまで何をさせるつもりか。

 

 どうして・・・あのまま死なせてくれなかった・・・・

 

 そう思いながらも心臓は鼓動する、している。俺は・・・どっちなんだ。

 

 本当は生きたいのか?それすらもわからない。

 

「どこまでも都合のいい奴だよなぁ・・・いい加減付き合えない。俺が協力するとでも?」

 

「お願い、お願いしますぅぅ。助けてください・・・騙したのは謝ります!でも、もうこれしかないの!恋都でなければどうしようもない!何卒・・何卒・・ッッ」

 

「・・・・・・・」

 

 みっともなく子供の様に縋るチシャ猫を膝の上から無関心に眺める。恥も外聞もなく泣いているがそれがどうした。顔に降りかかる涙が鬱陶しい。

 

 俺が死んだ後に想定外の出来事が起こったのが明白だ。

 

 この女は一貫して黒幕であるオリジナルアリスの為に動いていたのだぞ。つまりそのアリス関連で何かがあった。でなければ用済みの俺を蘇らせる理由が無い。見た限り俺の肉体を奪ったアリスはここにはいない。ぽっかりと無理やり開けた凄惨な現場と化した一室だが前よりも辺り一面から血の匂いが漂う漂う。

 

 ・・・これは拳による傷か。チシャ猫は手ひどくやられている。打撲痕がよく目立ち首を絞められた跡も残っている。腫れあがったチシャ猫の右頬に目蓋。殴られた箇所の角度的に俺の体を得たアリスの仕業か。アリスは何をするつもりだろうな。これ以上関わりたくないなぁ。

 

 ・・・そう言えば俺も首を絞められ最後に首の骨を折られて死んだんだったっけ。そうなるとやっぱり現況にある疑問が浮上する。

 

 ・・・いい加減、体の妙な違和感の正体を確かめるとしよう。

 

 

 

 この先最悪の予感がする。

 

 

「・・・・鏡を出せ・・・・・・早くしろッ!!」

 

「は、ハひィッ!」

 

 ・・・今更、か。もう知ったことではない。とにもかくにも早急に確認するべきであろう。膝枕された状態からでも見える俺の腕や足。

 

 なんか・・・おかしくないか?

 

 そもそも俺の魂はアリスの肉体へと移されてしまい、本来の肉体は奪われたのだ。

 

 眼球も無く手足も無い羽化することのない飼い殺しにされた芋虫の現状が今の俺であったはずなんだ。

 

 それがどうだ。手と足が見える。おまけに動く。忌々しい例のエプロンドレスから伸び主張する手足は俺そのものだ。そもそもなぜ、こんなものを着せられている・・??

 

 

 チラチラと視界の端に映り込む見惚れた白髪も、全身に感じる”熱”の正体も確認しなくてはいけない―――

 

 

 フラフラと立ち上がり覚悟のまま顔を上げる。虚空より出現した大きな姿見が俺の全身を曝け出した。

 

「――――――ふ、くくくく・・・・・よくも、やってくれたなッックソ女がぁッ」

 

 そこにはアリスがいた。

 

 小さな体に品質保証のエプロンドレス。血に染まった包帯まみれの手足に顔。俺は服を全て脱ぎ去り真なる姿を露わにする。

 

「やっぱり・・かッ!!ここまでするのか貴様は!!?」

 

「あ、う―――」

 

 平坦なる無垢なる肢体。幼さを残しながらも穢れを感じさせる悍ましさ。継ぎ接ぎだらけの人形そのもの。それが今の俺だった。ああ、縫い目が痛々しい・・・

 

 辺りに四散する大量の肉片から察する。あれも、これも、それもアリスのパーツの寄せ集め。この体を構成するパーツの出どころ。これこそ”熱”の正体。接合面から滲み出る血は視覚的にも痛みを幇助する。

 

 

 だが、俺にはそんなことがどうでもよくなるぐらい許せない事がある。

 

 

 俺の顔面。

 

 頭部パーツ。

 

 鏡の中でヨルムが目を見開き瞳が揺れていた。俺は鏡に噛り付き何度も何度も確認する。

 

 潰された左目が復活していたが白く濁った瞳をしている。それ以外はヨルムそのもの。首に走る縫い跡が痛ましい。

 

 そうこれは・・・・ヨルムなのだ。

 

 ヨルムの顔なんだ――――

 

 姿見が罅割れる。

 

 俺の感情を察したか言い訳の様にチシャ猫はまくしたてる。それが更に勘に障る。

 

「し、仕方が無かったのッ!使えそうな頭部がそれしかなくて、時間も無かったからッ!」

 

「そうか死ね、殺してやるよ――――」

 

 恋都自身も不思議に思う。なぜこうも怒りに駆られるのか。新たな少女の肉体によるものか、はたまた別人になることで枷から解き放たれてしまったからか・・・恋都は初めて他人の事で激情を覚えた。ヨルムを穢されたことにブチギレていた。

 

 恋都は己の隠し切れないエゴを実現させるために実験で多くの人間を消費してきた。そのことに関し一度だって罪悪感を覚えた事は無い。彼はそういう教育と遺伝子操作により仕上がった改造人間。憐憫の情など持ち合わせない。それは変異した後でも変わらなかった。彼はいつだって本音じゃない。変異で意識は変われども根本的に無意識な憎悪が勝っていたからこそ表に出そうとしない。根底的に自身を産み落とした環境、社会や世界を嫌っていたし、歪な自分が最も嫌いであった。

 

 いつだって建前と体裁ばかり。

 

 それがだ。自身と関わりの無い異世界に来たことで意識に新たな変化が見られた。最初にフォトクリスとの契約を通し、偽りの感情であれ家族のような親しみや、温かさをフォトクリスを通し知った。彼女もまた苛烈に、自分本位に生きる憧れのような存在。俺とは違い環境に左右されず己を第一に主張できる自由な人間であった。それが羨ましかった。

 

 それを転機に元からの変異も相まってか憎しみの対象のいない世界で花開く。様々な出会いが刺激を生み、比較させ彼を人間らしくした。イグナイツという理解を超えた常識を持ち合わせる怪物に出会い客観的な目線を持てたのも大きい。今まで矛盾した行動をしていたと理解した。だからこそ断言できる。昔の俺は変だったと。

 

 この怒りは正真正銘、恋都の心からの発露。ヨルムの脳みそを得て手にした借り物の感情でもある。美しくも最後まで戦士として突き抜け散ったヨルムの死を穢されたのだと。これは正統なる怒りであり、侮辱されたようで許せなかった。

 

 ヨルムの最後を穢されたのだ。

 

「ぶッ殺してやる」

 

 恋都は全裸のまま、ここで初めてチシャ猫を見る。そこで異常に気が付いてしまう。

 

 

 ア  ??

 

 

 

「――――――――――おい、なんだ・・それは・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 急激に冷める激情。恋都は勘が良すぎた。握りしめた拳を緩めてしまうも衝撃の余り指先が震える。

 

 チシャ猫の異様に膨れた腹部から目が離せなかった。きわどい服装は布地は少なく丸出しのお腹は存在感をこれ見よがしに主張する。

 

 

 これじゃあまるで妊婦のそれじゃないか――

 

 

 急に冷や水をぶっかけられた気分だった。腫れた顔面、一人取り残されたチシャ猫、俺の体を奪ったアリス・・・まさか、まさか――――

 

 

 確信はない。証拠も無い。それでも状況が指し示す。違う違うと否定するも答えは無慈悲に下される。子供が出来るのが早すぎるとかそういう問題ではないのだ。その胎の中身が彼の原罪を揺さぶる。

 

「ミャ、ミャーを殺せばこの子も死ぬニャ!そうでなくともいずれみんな死ぬ!アリスに殺されるニャ!だ、だからこの子の為にアリスを――――そ、それとも、ま、また我が子を殺すのか、ニャ?」

 

「―――――――――――うギぇぇ」

 

 トラウマが再起する。自身のエゴを通し捨てたあの子。どれだけ忘れようと薬を服用しようとも消える事の無い罪。唐突に複数の目を携え蠢く不定形なあの子が如実にフラッシュバックする。

 

 それに今の恋都は邪悪な集合体。本来の自分である肉体的要素はどこにもない。全てが借りものの継ぎ接ぎ人形。

 

 見えない糸が俺を絡め取る。これこそ恋都が嫌った歪な摂理の完成系。何もかもが気持ち悪さと生理的嫌悪感で満たされていた。ヨルムの貌だけが唯一の支えだった。それでも、耐えれない。

 

 俺は・・・いったいどこにいるんだ?

 

 全身が震え思わず胃の内容物を吐き出す――――――

 

 

 

 

 

「ニ”ャ!?」

 

 頭を抱えうーうーと唸り出すアリスもとい恋都にチシャ猫は動揺する。チシャ猫にとっては予想外の行動。トラウマの存在は知っていたがまさかここまで爪跡を残しているとは露知らず。ここで存在の再構成による弊害が出る。チシャ猫は夢の住人の中で一番恋都の影響が少なかった。女王と違い思想や行動原理にまで影響はない。だからこそ徹底的にアリス側の存在であれた。

 

 どんな過程であれど彼女とてこの身に宿った生命は大事なモノへと変わっていた。

 

 異神Aliceに襲われ彼の受精率100%の精子をくらえば妊娠したと確信もする。”幻想体”と”唯一無二なる異なりの神”の組み合わせではA、C種の様に分裂した魂が与えられず正真正銘な新たなる命が誕生してしまう。

 

 あれほどまでに散々な目に遭わされておきながら、それでもチシャ猫はアリスの事が好きだった。子を憎むことが出来るはずもない。チシャ猫にはもうこの子しかいない。彼女にとっての新たなる希望であり最後のアリスなのだった。

 

 Aliceはイグナイツの存在は認めても・・この子を許容はしないだろう。絶対に認知しない。腹を裂いて引きずり出すに違いない。

 

 Aliceはもうアリスじゃない。あれもまた歪な継ぎ接ぎ人形。恋都となんら変わりない。そして私が作り上げたアリスでもあった。

 

(・・・・・・・・・・お母さん)

 

 夢の住人たるチシャ猫は外での活動時間をオーバーし過ぎた。何より力を使い過ぎた。消滅は確定された運命。

 

 この先親の顔も知れずに一人で生きていくことになるこの子には残りの力を全て注ぎ込み成長を促した。腹が膨らむたびに愛情が募る。その度になんの感慨も無く子を殺すアリスに恐怖した。早く産まれてくれと祈った。

 

 産んだところでAliceが居ては意味がない。愛憎乱れる複雑な心情は覚悟を決める。

 

 それは――――――神殺しであり、親殺しでもあった。

 

 女王にジョーカー、恋都と・・・・たくさんの命を弄び騙してきた。所詮裏切りまみれの人生だ。今更何を失う・・・?

 

 私はいつまでも道化を続けるのだ。

 

 今度は母たる創造主を殺そうとしている――――――

 

 言葉にするのは簡単だが達成するのは生半可な事でない。前代未聞と言っていい。

 

 在るだけで壊す変革者に対抗することができるのはその生の一端に消えぬ傷跡を残した者だけ。

 

 そのためには剣がいる。

 

 それもただの剣でない。アリスを唯一殺せる最終決戦兵器。それは転生の儀式の際、”アリスの役”に一度でも触れ、頭痛がするような隠れた因縁を持つ恋都にしかできぬ。

 

 例え神であろうと己が過去を消すことはできない。その過去があってこそ今がある。因果は必ず持ち越される。故に彼にしかできない使命だった。奴ほどアリスと縁を結んだ存在はいない。

 

 彼は行き詰った現状を打ち壊す救世主でもあるが、同時にアリスを絶望させる天敵でもあった。

 

 始まりは彼故にアリスの絶望も幸福も全てが彼に起因する。

 

 だからこそ特別な肉体を拵えた。消えた魂が戻ってくるかは賭けであったがやはり彼は帰って来た。

 

 これこそが運命の裏付け、必然性なのだ。

 

 

 ・・・・そんな彼には悪い事をしてしまった。殺されそうになった途端、思わず口にしてしまった。我が子を守るためとは言え、言ってはいけないワードを口にしてしまった。なんであれ、遺伝子上はこの子の父親であるのも事実。彼にまた同じ過ちを踏ませたくなかったのだ。彼の情報を基に存在の定義と再編成を行った身。彼の絶望はよく知っている、いや知っているつもりでしかなかったのだ。だから口が滑ってしまった。帽子屋はそれに感化され哀れに思ったからこそ真っ先に彼を囲った。領分を超えない範囲で同じ時間を繰り返し守ろうとした。

 

「う”――う”――――」

 

「こ、恋都。ごめん、ごめんね。本当にごめんね”」

 

 それでも彼にやってもらうしかないのだ。彼にしかできない。

 

 ・・・・できればこの子の面倒も見てほしかったがそれは酷か。彼もまた子供なのだったよ。

 

「今のは”忘れて”でも・・いつかでいいから思い出して。ちゃんと私に似たかわいい子に産むから。見つけたら可愛がってあげて」

 

「――――――――――――」

 

 子供の様に訳も分からず唸る恋都を抱きしめあやす。落ち着きを次第に取り戻し虚空へと帰結した意識は反転する。しばらくすれば回復するだろう。多少意識に齟齬が現れるだろうが彼は戦かってくれる。父親の責務を果たすことだろう。そう仕向ける。

 

 やはり今、産むしかない。

 

 無意識な世界の変調は得意だが彼はアリスだ。また壊れてもらっては困る。父親を演じてもらわねば困るのだ・・・!

 

「名前、考えたのになぁ」

 

 産み次第、彼の様に外界へと我が子を投棄する。親が親だ。神の子ならば生まれながらにして約束された絶対者。私も力は必要なだけ注いだ。あの雪の中であっても幻想体ならば死ぬ事も無い。

 

 この世は弱肉強食。自由を謳歌するには力が必要。恐らく神たるAlice側の影響で精神構造は普通じゃないだろう。どのような存在になるのか想像もできない。英雄か、殺戮者か、理解されぬ狂人か。

 

 

 あとは・・・・彼に託すしかない。

 

 恋都、、、

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――Side/恋都

 

 

「・・・・あ、あれ俺はなんで・・・」

 

「ようやく起きたかニャン!お寝坊さん!」

 

「あ、お前ッ・・・よくも俺を無許可に改造してくれたなぁ・・」

 

 何か違和感を覚えつつも最初に出会った頃と同じように俺にニヤニヤとした笑みを突きつけるクソ猫に攻め寄る。

 

「――――――――」

 

「どうかしたかニャン?」

 

「――――――――いや・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 なんだか馬鹿らしい。まともに取り合っても相手は狂言回し。こんな事をしている暇はない。ああそうだ。本題に入ろう。

 

 本人にも自覚できない物わかりさの良さが話を促していく。

 

「俺にやってほしい事があるんだろ」

 

「ニャン、だからアリスについて教えてあげる」

 

 それでもチシャ猫は道化を演じる。もう決してぶれることはない。我が子に誓って。

 

 

 

 

「なんか・・お腹の下あたりが痛い・・」

 

 恋都は思わず下腹部を抑える。どうにも体が重い。

 

「ニャァ・・多分それ・・・いや何でもないニャ・・・・摩ってあげるニャ」

 

「うごごご」

 

 くそ、なんか股から血が垂れてきたぞ。どうなってんだ・・・継ぎ接ぎだらけの体だ。どこか縫合が甘いのかもしれない。雑な仕事をする。

 

「というか玉も・・無い」

 

「今はオンニャの子なんだから当たり前ニャ」

 

「お、女の子・・・」

 

 そうか、そうなのか。なるほど気持ちが浮つく原因はこれか。

 

 フワフワと地に着いた足から盤石とした大地の恩恵を感じえない。底を踏み抜いたような足場の不安定さ。体が浮いたようで踏み込みが甘い。

 

 それもこれもあれが無いからだ。そうに決まっている。

 

「勝つために作戦を練る」

 

「急にやる気になってどうしたニャ・・・提案しておいてアレだけどニャ・・・これからやることは前代未聞の神殺しニャ。新時代の秘蹟たる異神Alice。幻想の復刻者にどう戦うのニャ」

 

 はっきり言って無謀。策を講じようと降臨した神相手に通じはしない。小細工など烏滸がましい。

 

「神?とか知ったことか。どんなことでも戦略を練って挑むのは当然だろう。神は存在しない。あれが神なものか。ちょっと世界滅ぼせるだけのクソガキだろ」

 

 どう戦うって・・こいつノープランかつどこまでも他人頼りか。そもそも俺を蘇らせたのは俺が唯一の対抗手段だからなんだろうな。そういう意図が散見する。

 

 だったらやり様はある。Aliceは神かもしれないが同時に人間と同じ視線で物を語る。動機も分かりやすく復讐、安寧、帰郷、色々あるが一番は過去の払拭。そうすれば結果的に”アリス”と会えるのだと思っている。流れ込んだ記憶からそう判断する。

 

 何もかもが汚らしいこの世が大っ嫌いなんだ。ああわかるよ、その気持ち。前までは同じことを考えていた。許せないんだろう自分も含めて。だから全てを洗い流して再起を図ろうとしている。俺との違いはそこだけだ。

 

 俺は・・・死にたくてしょうが無かったよ。でも、ようやくこの世界で己と向き合えたのだ。間違いを知った。いろんな奴にも出会い様々な価値観を知った。誰もが持つ根源たる情熱に当てられてしまった。あらゆるものと無縁なこの世界であればまだ己の足で立ち上がれる。まだ戦える。

 

 ああ・・もしかしたらアリスは・・この世で一番の俺の理解者なのかもしれない。

 

 それに、それにだ。

 

 

「それに・・玉が・・・無いんだ・・」

 

「にゃ、にゃんだって???」

 

「俺の玉が無いんだよッ!どこを探しても!これっぽちっもッ!」

 

 チシャ猫は恋都の発言内容に耳を疑う。

 

 なんだ・・?恋都は何を言っているのだ?記憶は弄ったがこんな反応は想定外だぞ。変な風に作用してないか?洗脳したつもりはないのだが・・・

 

「あれがないとダメなんだよッ!男ってのはッ!まるで重力を感じない!お股すかすかで腰が据わらないんだよッ!?」

 

「え・・あ・・え?」

 

「―――――行くぞ。大事なものを取り戻しに。そのためにも情報をよこせ」

 

 恋都はこの時点でいくつかの確信を得ていた。おかしな言動はともかく冷静に状況を把握していた。今の俺に不死性は存在しない。当然だ、あれは薬による薬効。不死性は奪われたのだ。つまり肉体を奪ったAliceは不死性を有している。

 

 そして俺は一度でも死ねば二度目はない。

 

 だからこそ、できることがある。その肉体の意味を教えてやらねばならない。

 

 Aliceよ、首を洗って待っていればいい。

 

 夢見る少女には現実を叩きつけるのが効果的であろう。その体の意味を直接教えてやる。

 

 

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