オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第71話 あ り す

 

 

 ――――これはとてもふるいふるいおはなし。

 

 

 

 あるところにアリスという少女がおりました。裕福な家に生まれ家族にも愛され幸せな日々をおくっておりました。

 

 アリスは好奇心旺盛で怖いもの知らず。多くのモノに興味を抱き夢見る子供。

 

 アリスはいつだって木陰で姉が読み聞かせる物語が大好きでした。

 

 いつものように姉にねだり甘えるアリス。優しい陽気に包まれ、いつしか夢の中へと誘われる。

 

 夢から覚めると姉はいません。目をこすり周りを探ると、おかしなものを見つけました。

 

 緑の庭園を彩る繁みの上から白い兎の耳がぴょこりと突き出ているではありませんか。

 

 アリスは興奮しました。冒険の予兆を感じながらブツブツと独りごちる服を着た兎の後を追いかけます。

 

 そこからはまさに大冒険の日々。おかしな住人との素敵な出会い。アリスは多くの試練を乗り越えほんのちょっぴり大人へと成長しました。

 

 そして最後に気が付きます。ああ、これは夢なんだって。

 

 そう思うとなんだか寂しく感じるアリスは夢の終わりを拒みながらも瞼を落とします。

 

 拒んだところで終わりは来るもの。子供ながらの我儘。わかっていても望んでしまう程に楽しい夢だったのです。

 

 

 ただの我儘。それがどうしてこうなるのか・・・アリスには分からなかった。

 

 終わりはどこにも無かったのです。

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 ―――――――――――――

 

 ――――――――

 

 ―――

 

 

 

 始まりは酷く曖昧でささくれた生と死の境界線をひたすらなぞる。

 

 何度も何度も・・・

 

 綱渡りはいつまでも続く。暗い地平が広がるこの世界でアリスはゆっくりと足を踏み出す。

 

「ハァ、ハァッッハァッ!」

 

 いつもの様に男の荒い息遣いが聞こえる。一定の振動がアリスを刻む。その行為の意味も知らず。薄暗い一室で天井を仰ぐ。

 

 ここがどこかもわからない。みんながアリスを嫌っている。愛想を振り撒けば殴られ謝っても殴られ組み敷かれる。興奮した声が一室に響く。いつも通りの光景だった。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 劣悪な環境の中で力なく横たわる小さな肢体に窓から鈍い明かりが差す。

 

 首輪が重い。ジャラジャラと鎖の音が連なる。 

 

 虚空を見つめるアリス。一日をぼーと過ごすことが多くなった。

 

 大勢がアリスを怪物として扱う。人として扱われず瞬時に治る傷・・時間が経つほど、成長しない不老不死の肉体がアリスを異端たらしめた。

 

 異常な勇者の中でも突出した異常性の体現者。アリスにしてもどんなにひどい目に遭おうとなんの感慨も無い。僅かな悲しみと家に帰りたいという願望だけだ。

 

 こんな過酷な現状であっても、いつまでも夢心地。

 

 彼女の夢は醒めることが無い。世界はとても曖昧でぼんやりとくぐもっている。誰にも正しく相手にされないアリスは繋がりに飢えていた。あるのは不快な痛みだけか。

 

 戦争は終わった。

 

 苛烈なる戦場の空気は人々の心を荒ませ論理のタガを易々と外させたまま・・・戦争は次なる争いの火種を生んだ。

 

 過剰なる戦力。戦争を乗り越えた各列強国内では勇者の所有を求め新たなる内乱が発生するのに時間はかからなかった。

 

 多くの民衆はそうとは知らず戦いの終わりから解放されたと歓喜に踊らされ・・一部の権力者は次に備える。既に裏では暗闘が起きていた。

 

 老いて死ぬ前に勇者の血を求め権力闘争は続く――――――誰もが力を求めていた。

 

 

 遠くからの残響。アリスは戦後もここに封じられあらゆる行動を阻害された。遠くから賑やかな喧噪が時折聞こえる。戦勝祝いの宴や煌びやかな音楽が僅かなる手慰み。最近では体のあちらこちらを切り開かれ、怪しげな薬に漬されあらぬ世界を揺蕩う。痛くても苦しくても・・・慣れることはない。それでもどうでもいいとしてしまう摩耗した精神。その中でも痛みだけが我こそはと主張を続ける。次第に無視できないものへと肥大化していくようだった。

 

 この世界に呼び出され訳も分からず戦わされたアリスは多くの不死者を葬った。少女でありながら異常なる戦闘力をひけらかす矛盾の塊。アリスは望外の可能性を誇示する夢見る少女であった。夢と現実の境界があやふやのまま立ち縋る。

 

 望まれるままに殺し死体の山で空を仰ぐ。戦果を挙げても人の心は離れるばかり。味方からも化け物として扱われる。ある意味、戦場こそが一番の安らぎを与えてくれる。感情をむき出しに迫りくる不死者が友人のようにも錯覚をする。彼らは戦うことで会話をしている。

 

 

 ・・・最近、よく意識が飛ぶ。脳内では記憶にない傷跡が増えるばかりだ。ここは寒い。一糸まとわぬ華奢な肉体を寄せ合い丸くする。

 

 いつになればこの夢は醒めるのか。もう家族の顔もノイズが走り思い出せない。終わらぬ夢に焼かれ帰郷を望むも帰る場所も忘れてしまった。

 

 どうしようもないまでに、ここがアリスの居場所だった。

 

 

 カツン、カツン

 

 

 また、足音が聞こえる。

 

 来るべき試練に身を任す。なにをするでもなくアリスは全てを受け入れる。

 

 だが、その足音には聞き覚えが無かった。荒く重々しい靴底が擦れる音でなく、初めて聞く上品な足音。軽快でどこか浮ついた奇怪なるリズムを刻む。

 

 それは楽し気な調べを纏っていた。これは・・・踊っている?

 

『おやおや、これはまた』

 

 アリスはその日、マジシャンを名乗る男と出会った。

 

 この出会いがアリスの命運を変えることになる。架せられた運命を”あの男”のことを知ったのだ。

 

 

『やあ、こんにちは。お嬢さん、私と少しお話ししないかい。お菓子は好きかい?紅茶はいかがかな?』

 

 マジシャンはニッコリと微笑み優雅に挨拶する。

 

 それが物語の始まりであったのだ。

 

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