――――――――――Side/恋都
――――――――堕ちていく。
光が殺到し消える世界。それでも確かなのはこの手に掴みしAliceの肉体。
落ちているのか昇っているのかも分からず浮遊感に身を委ねる。
突如、全身に鋭い痛みが走り眼前からAliceが逃げおおせる。
まるで反発するように離れていく。
でもなぜだろうか焦りはない。
奴は俺を見ていた。驚愕した目で焦りをおもむろに晒し何かを口汚く叫んでいたのだ。
「ッ!!」
気が付けば恋都はどこまでも広がる真っ赤な地上へと落ちていた。消えたはずの世界が形をもって現れたのだった。
凝縮された神性が破壊をもたらし新たな秩序をもたらさんとするその手前で・・・決着の場が設けられていた。
世界を新たに創成するには残骸である彼という因果は邪魔でしかなく断ち切らねばならない。
これは――――Aliceの破滅を願う誰かさんのインターセプト。未だに姿を晒そうともしない真なる黒幕の必死な攻防。
彼に宿るアリスによる導きであったのだ。
恋都はそんな思惑など知ったことではないと落下しながら一点を凝視していた。
”奴”もまた同じように落ちていた。
地面との接触はまだかと今際の瞬間を待ち望む。
降り立ったが最後、最後の戦いが始まる。
そして――――遂に、恋都は全身を風で煽られながらバシャリと水の張った大地に舞い降りた。天上は無限に広がる光で滲む世界。似ている・・・あの時と同じなんだ。
フォトクリス達と見た神聖なる領域。あれに雰囲気は似ているが・・・血の張った足場は朱く死滅し合少女たちの骨で構成されている。空はどこまでも紺碧に色めく。輝きが生命を祝福する。聖隷は囁きひしめき合い淵底から挨拶をする。
「Alice――――ッ!!」
足音と共に波紋が広がる。アリスたちの骨で大地は形成され、うずもれた血生臭さに満ちた足場を恋都は容赦なく踏み砕く。波紋は段々と速度を上げ広がり、恋都が翔ける。
ここが宿命の地。あらゆる終点。歪んだアリスの”
目指すは詰み上がったアリスたちの骸の山。そこに着弾し坂から無残に転がり落ちてくるAliceに対し恋都は直進する。
「ッゥ――――グゥアァァァァ!!!」
ゴロゴロと坂というには急すぎる角度を滑落するAliceは今もなお痛みに悶えていた。バチバチと視界に火花が散り点滅する。吐き気に痙攣する体。下腹部から腹部にかけて鈍痛が浸透し体は冷え切っていた。
恋都はお構いなしに容赦なく迫り来る。醜い体を引きずりまわし女の顔で獣の形相を浮かべ殺しに来る。
Aliceの”アリス”を引き連れて――――死神が鎌を構える。
(こんな体、いらない!だってッこっちには、アリスが居ないんだもん!!)
望むべき存在があんなところにいる。ゴミ野郎の中にいる。
なぜ、あいつの隣にいる。きっと悪い男に騙されているんだ。助けてあげないと。だってそれがAliceの使命なのだものッ!!!
許せないッ許せないイイィィィィィあの男が憎いよぉぉぉぉォォ!!
神は再び望んだ。あるべき器を。己を否定し更なる転生を図る。
優先すべきはは半身たる”アリス”を手にすること。
そう願った途端、恋都の魂は歪な肉体から弾かれ神が変わりに降り立つ。
だが、だが――――――ッッ!!!!!
「な”んでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!?」
Aliceは体を入れ替えた。恋都に寄り添うアリスの影を追い求めては縋り、嫉妬し、奪うために。
なのに、空っぽだ。気味の悪い体に無理して転生したのに、そこに”アリス”はいなかった。
神は怒りに震え天に吠える。
巡るましい展開が恋都を襲う。
「ッ!??ぐ、ぐおああああああああああああッ!?」
視界が巡る。一瞬のブラックアウト。気が付けば恋都は浮遊感を感じながら坂を転げ落ちていた。バウンドする度に地面に叩きつけられては傷を増やす。
肉体が入れ替わった。つまり想定通りに事が進んでいることの証明。
夢じゃない・・・これでようやく始められる!
足を止め叫び声のする方へAliceは視線を向ける。坂から転げ落ちる男の姿。そこには当然の如く、男の隣にアリスの姿が佇む。守護天使の様に男を守っている。
転生した際の魂の衝突事故は一方的に男を殺すはずが、それを守り、尚且つ元ある肉体へと導いただと・・・??なんだその手厚い介護は・・・Aliceは一度だってそんな優しさを振りかざされたことがないのにいいいぃぃぃ”ぃ”ぃ”ぃ”!!!!?
「こッ、この間男がああああああああああッッ!それはAliceのだぞォォォォッ」
恋都の魂は当然の様にあるべき体へと収まった。元は奴の体だが神の力を受け新たなるアリスの肉体にどうして定着できるのか。
お前の名は恋都だろ。あの時みたいにアリスを演じるのか。アリスに媚びを売るのかこいつは!?男の分際で媚び諂うのかぁぁぁぁ?無意識にだとしてもそれは根っからの淫売だってことの証明にしかならないのだぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!
そ、そんな女男に”アリス”は振り向かない。そ、そうだ。気持ち悪いよねッ”アリス”も嫌いだよねッッツ??
なぜ、なぜそれでもなお奴に力を与えるのだ。まさか、本気で惚れているのか・・・??
凡夫の魂如きになぜ――――それもこれも”アリス”の導きなのか!?
そう、そうだったのかァッッ!!
Aliceは充血した目をむき出しに血の混ざった唾を飛ばす。
その考えは概ね正解であった。元よりあの体は彼の物。変質していようと魂は容易く定着する。そしてそれを覆う”アリス”の加護。”アリスの役”が定着した肉体を分かち合った者が二人も混在するのだ。恋都に自覚がなくとも”アリス”が肉体に残留する神の力を制し代わりに代行していた。
裏のアリスが神聖視され神格を得たのなら、同時に半身である表のアリスも神格を得る。表裏一体であり一心同体。どんなに離れても二つの距離は変わらない。恋都だって一時的に”アリスの役”を付与された血の繋がりもない最後の異形のアリス。
扱いきれない神の肉体を取り戻しても彼には表のアリスが守護し勝手に力を与える。無知であるから強くいられる。肉体がそうでも彼自身はアリスではないのだから。
怒り狂ったAliceは駆け出そうとする。
「――――ッ――――ッ!?ッ??」
しかし、急に足がつんのめり無様に顔面から倒れ伏す。
なんだ・・足が。違うッ!なぜ足を動かそうとすると別の部位が動くんだ!?
Aliceは無理に動かそうとするも痙攣し芋虫みたいに地を這いずるばかり。
ここで恋都の巧妙な仕込みが炸裂する。
なんだこの体はッ!――――――まるで神経がバラバラじゃないか!?
(まさか・・・こうなると予見していたのかあのクソ野郎ォォッ)
恋都は事前にチシャ猫に神経系列をバラバラに繋ぐよう指示を出していた。マニュアルなどどこにもない。恋都の目的は元より体の奪還。強制的に体を一度入れ替えられたのだ。このような状況はもちろん考慮済みである。
いままでの全ての行動はその滅茶苦茶に苛立つ神経の上での行動。恋都は一度だって体の不調を悟らせやしなかった。短い時間で瞬時に適応させたのだ。
そんなことも露知れず更なる追撃がAliceを襲う。脳内が灼熱に曝されていた。
これは・・・この痛み―――ッ
【氷結界域】の残留思念―――ッ!!!!!!
この体、アリス以外にもヨルムという不純物が組み込まれている。アリスとヨルムの体格はほとんど同じで”たまたま”使えそうな頭部パーツがこれしかなかった。チシャ猫にとっても苦肉の策。それが功を制す。
ヨルムもまたとっておきの置き土産を仕込んでいた。心配性なヨルムは残された恋都のことが心配で出来る限りの方策を残す。奪い取った”銀時計”を口にし、少しでも恋都の為になればと考えていたが流石にこれは想定外。
精神世界への干渉を阻む攻勢防御。グリムには脳に物理的に精神に干渉され披露することが無かった不発弾。高位魔術師お手製の至高の防壁。心を許した同胞以外に牙を突き立てる毒の刃。
Aliceの頭の中で不死者の笑い声が響いた。
これは恋都も知らない罠であった。
「アがああああああああああッッ!?」
穴という穴から血を噴き出す。頭の中で小さな虫が這い回る。この体ではまともに転げまわることも出来ず、その場でビクビクと痙攣するばかり。
痛みは・・・許容しよう。
痛みこそがAliceをアリスたらしめる証明。Aliceはどんなに痛みも否定できない。存在を否定することと同義。そして、どんなに傷つけられても痛みに伴うもの総てがAliceの存在を揺るがすことは無い。
痛みから生じたAliceは血を吐き苦しみながらも前に進むであろう。痛みが痛みを拒むことは不可能だ。あってはならない。
恋都に絶好のチャンスが訪れた。罠にかかったAliceは行動不能となった。恋都はそれを見逃す男ではない。獰猛にほくそ笑みながらも迫る。
・・・だというのにだ。
「!!!!??グギァァ」
苦しむAliceの眼前で恋都もまた顔を伏せ痛みに悶え盛大に転ぶ。激痛が襲い掛かる。身に覚えのない痛覚の反応に混乱する。不死性が返ってきたのにだ。全快しどこにも怪我はない。
じゃあ、なんだこの痛みは!?
これは恋都にもAliceにも想定外だった。二つの魂と肉体は深く繋がり合い過ぎた。Aliceはずっと恋都の背後にいる”アリス”を求めているのに恋都という壁がそれを遮る。見えない手はずっと恋都でお預けを食らっている。
繋がりたいのはお前じゃない。お前じゃないいいいいいいい!!全然合体できないよおおおおおおお!!
魂が何度も入れ替わった結果、もう一人の痛みを分かち合う程の関係へと至る。リンクした隣人もまた痛みを知る。
「ガアアアアアアアッッ!!」
恋都は脳内でアドレナリンを意図的に分泌させ、生まれたての小鹿を思わせる腰の入らないナメクジの健脚で立ち上がる。脳が焼き切れそうだ。なにもかもが熱い。
「蹴り殺ッす”ッ!!!」
足を振り上げAliceの頭部に迫る豪脚だが盛大にスカす。バランスを崩し頭からAliceの頭に着弾する。
「アガぁッくそぉ―――――!!」
「アリスを返せえええええええAliceのアリスッッ!」
Aliceは体を動かすことを諦め、無理やり不可視の力で体を外側から動かす。関節がグチャグチャになり筋肉が断裂する痛みに耐え体を動かす人形であった。
それからは、もみくちゃになりお互いにマウントを奪い合っては力の入らない拳で殴り合う。グダグダでヘロヘロでへなちょこな戦い。パワーだけならばAliceが圧倒的だがそれが届く前にリーチの違いからくる殴打がAliceのボディを襲うが、腰が入っておらず大した痛みも無い。なぜか顔は殴られなかった。Aliceもまたタックルをきめマウントを取ろうと引きずり倒す。まるで相撲だ。
当然、Aliceの痛みは恋都と同調する。
ここまでくると痛みの正体とからくりにも恋都は気が付く。それでも止めることは無い。ヨルムの薫陶を胸にする不死者に後退は無い。引いた所で意味も無い。
Aliceも力を振るえばいいものを一方的に殴られることにムキになり肉弾戦を選ぶ。痛くなくても一方的にやられている事が苛立たせる。両者共に子供であった。
「ヴエエエエエエ!!」
「オゲエエエエエ!!」
同時に吐血しては動きを止め殴り合いを再開する。停滞はまだ続く――――――
・・・恋都はタイミングを計っていた。痛みに体を慣らせどの部位へのダメージが一番重く軽いのか。Aliceは自分よりも痛みに耐性がないのは察していた。神ならばそのくらい克服しそうなものだが、やたらと痛みを享受する。
結論、できないのだ。チシャ猫に仕込ませた神経の罠でここまで近づけた。取り戻した不死性でリスクを恐れず攻め立てる。
痛烈な急所への連撃から、一気にその首を捩じ切ってやる。破壊してやるぞ人体の神秘。
・・・・そう意気込むもヨルムの必死な泣き顔がどうしてか顔への殴打を無意識に躊躇わされた。
(アリス、アリスアリスゥゥゥゥッッ!!!!)
Aliceは恋都との殴り合いの中、その目は未だに彼を捕らえていなかった。彼の後ろでじっとこちらを見据える表のアリスのことしか頭にない。この期に及んでまだアリスのケツを追っている。
殴り合いを選択したのも手の届く位置に”アリス”がいたからだ。必死に現実の手を伸ばすも間男に払いのけられ押し返される。どんなに手を伸ばしても届くことが無い。大人が子供にすることか??
”アリス”はどこまでも彼の傍を離れない。越えられない壁が存在する。それが悔しくて血の涙を流す。いつだってAliceはこっちで”アリス”はそっち側。
それを、、、この男はアアアアアアアアアアア!!
なぜにAliceでなくそいつを選んだのか、そんなに男がいいのかああああああ!”アリス”も淫乱なのかああああああぁぁぁぁぁッッッ!!!
なぜ、そうも挑発するようにAliceを笑うのッッ!!!?
特になにが許せないって、この男が無自覚にもその恩寵を預かっていることだ。幸せを享受しておきながら更なる幸福を追い求める貪欲なる者よ。過ぎたる幸福は破滅をもたらすと知れよォッ!人間風情があアアグギィギャェッ!
いい加減にしろよおおおお!!なんなんだよあれは!?何を見せられているんだ。あの二人まるでお似合いのカップルみたいじゃないか!もう新婚なのか!?初夜はもう済ませてしまったというのかあ”あ”あ”!?
寝取られた・・・・・・寝取られたアアアアアアアアアアアァァァキキギィィ!!
く、くふッくふッ!!本来そこはAliceの場所なのにィィィギキィギィィ。
脳が破壊されそうだった。
Aliceの事を想えばそんな恥知らずな行為はできないはず。この男には神の気持ちを慮るということができないのか?Aliceを穢すな。許せない許せない許せないッ!!信仰心がない奴はまともな論理観も無いのだね!!
Aliceは割り込む隙間が無くてキレ散らかす。
”アリス”も”アリス”だ。少しは抵抗しろおおおおおおおオオオ!してよおおおおお!!
「返してよぉ!返して返してぇッ!」
男に寄り添わねば生きていけないふしだらな”アリス”はァッ修正してやらねば健全とは言い難い。それは病気なんだって教えてあげないといけない。
間男も間男だッ。そんな気持ちの悪いもんぶら下げて偉ぶるなAliceを見下すな!男と女の関係が健全だと誰が決めた!運命に翻弄されるだけの異常者がああああ!そもそもお前が悪いんだろがあああああそれを被害者ずらしやがってよおおおおイラつくんだよおおおおォォォくそぼけがぁぁ!!次の人生はウジ虫に転生してやるゥゥゥゥッ。
Aliceの勝手な思い込みは暴走していく。
Aliceは憎いあの男の肉体を奪い尊厳を穢すことで神格を輝かせた。最低限の力を肉体に残しチシャ猫の手を借り人間どもが【灰の領域】と呼称するあの場で数百年も待った。
多くの障害を乗り越え奇跡を自ら起こしたのに。
また、躓いてしまう。
・・・・実は一度タイミングを逃し恋都を引き込むのに失敗している。
それもこれもあのアバズレのせいだ。【灰の領域】に遂に間男が現れたのにフォトクリスとかいう小便臭いクソガキにまんまと掠め取られてしまった。恋都を握っていたのにすり抜けていったのだッ!!
先に狙っていたのはAliceなのにそれを奪い尚且つAliceを旧世界たる境界の向こう側に閉じ込めたのだ。あれほどまでにAliceを絶望させた不遜な者はいない。
だが運命はやはり必然であり当然の帰結をもたらした。
間男が再び現れたのだ。よりにもよってあのメスガキは奇跡の行使で自ら境界に綻びを生み出した。
Aliceもあの時ばかりは様々な感情が溢れ出し、衝動的に境界をを突き破り神域を無理やり破壊し現世へと神性を流出させた。
ついでにクソガキにもお仕置きをしておいた。今頃奴は・・・・クフ、フフッ!!
それからは間男に寄生し内側から穢し犯し、すっごくいい気分だった。特等席で計画の行く末を眺めていた。彼はAliceの無意識的な誘導には終始気付けなかった。ずっと幻影や幻聴を用いて導いてきたのだ。
―――――――それが、どうしてこうなるのだ。
糸が切れ運命から見放された人形がなぜ許可なく動く。こんな運命は予定にない。
それもこれも”アリス”のせいだ。―――――いつだってあの子は勝手で責任を押し付ける。
いったいいつからだろうか。”アリス”に対して強い僻みを感じるようになったのは・・?
単純な話、Aliceは”アリス”に裏切られたのだ。”アリス”はよりにもよってあの男を選び待ち望んだ。Aliceによる救済の手を振りほどき、男を選んだのだ。
訳が・・・分からなかった。
救いを求めていたのではないのか。望まれてAliceは産まれてきたのではなかったのか?
いつだって”アリス”は痛みを生の指標にしていたのではないか。ずっとそばにいたではないか。神格を得ていよいよという時に隣に”アリス”はいなかった。
・・・知っていたよ。いつだって”アリス”の心の中にはその男がいた。匂うのだ。Aliceだけの神聖領域が、想いが穢されていく・・・脳が犯される。
信じたくなかった。”アリス”の救済のためにAliceは望まれて産まれたのに、それは勘違いだったのだ。”アリス”はあろうことかAliceが産まれると同時に夢世界へと逃げ去った。どういう訳か夢世界への干渉は一切不可能。シャットアウトされた。
Aliceは除け者にされた。そのまま現実に取り残され亡失の日々を送った。こんな異形と化した、衰弱した体ではなにもできない。”アリス”の身代わりにされてしまう。
・・・それでもなお”アリス”を求めていた。
そんなある日、チシャ猫と出会った。そこで夢の住人によるアリス救済計画を知りある方策を実行することになる。
その結果が、これか、これなのか―――――?
「――――――――――ッッッ」
内なる大力。煮詰まった情念は濁り、それを吐き出す。不遜なる者は・・この場に貴様は相応しくない。
脳内で火花が散る度に殺意が溢れ力が解放される。
一緒くたにすべからく殺す。
皆殺す。
「”アリス”のォ一番はァッ!!Aliceなんだよおおおッ!!身の程知らずがぁぁッ!!」
「ッ!?」
叫びは世界を変動する。一分の隙間もなく飛び交う刃の数々は恋都を刺し貫き粉みじんに分解していく。
不死殺しの刃が直截にシンプルに雨となり風となり地面となり挽き潰す。
(その気になればこんなもんなんだよなぁ人間!どうしようもない程に人間だなぁッ!)
「死ねェッ!!アリス同士の間に、入ってくるなよ部外者がぁッ!魂も存在も消えて無くなれぇッ!!―――――――あぇ?」
――――――だが、不死者はくじけない。
「さっきから、うるさいんだよ。死ねだ殺すだ・・・うるさくって死ねやしない」
「は?――――は?なんで、え。は?」
有る筈の無い男の声。今もなお刻まれ消滅したはず。なのに、神の前には何かがいた。小さな虫の集合体の様に人の形を揺らし佇むモザイクは次第に鮮明となり男の形をとりなし形成する。極小の粒は集い存在をこれでもかと誇示する。
恋都は死んでなどいなかった。それどころか姿がぶれながらもこちらに歩み寄る。斬撃に押される事無く一歩一歩大地を踏みしめる。
Aliceは戦慄した。
ここで初めてこの男を恋都なのだと認識した。認識が存在を裏打ちする。確固たるものへと昇華していく。
わけがわからなかった。不死者如きが神に抗える理由がない。自覚無き恐怖の念を振り払い力の全てを振るう。
圧殺、絞殺、焼殺、斬殺、轢殺、殴殺、挟殺、撃殺、減殺、強殺、刺殺、射殺、銃殺、磔殺、誅殺、毒殺、爆殺、撲殺等・・死者すら殺す死の概念を振り撒く。
なのに・・なのに・・
「ピンピンしてる。こいつゥウゥゥゥ、こいつぅぅぅぅッ!!!」
これまでどれだけの不死者を殺してきたと思っている・・・・何が違う?
気迫と精神力が尋常ではないがそんな不死者五万といた。魂ごと一緒くたにまとめて殺しているはずが、魂ですら消える事の無い。色褪せることの無い輝きがAliceを灼く。
「それもッこれもォッ全部ゥゥッッ!!”アリス”の加護だというつもりか!み、見せびらかしやがってええええええ!Aliceの前で”アリス”をひけらかすかァッ!!この種馬風情がぁ!おこがましいんだよッッ!頼むから”アリス”を取らないでッ!盗らないでぇぇぇぇ!!死ねよぉぉぉぉぉ」
そんな情けの無い悲鳴を挙げながらも睨みつけるが、なにも現実は変わらない。”アリス”と恋都に追い詰められていた。
二人の姿はお似合いで、それで、それで・・・・
「くくくくく、アひゃハハハハハハハァッッ!!えェッ?今までどれだけ糞みたいな不死者を殺してきたッ?千かッ万かッ!?不死者ってのはなぁ死なないから不死者を名乗れるんだよぉッッ!!―――――――――俺が本物を見せてやる」
あらゆる災厄も厄災もその身で受け止め恋都は貪欲に生を享受する。
流れに刻まれながらも恋都は次第に輪郭を、人の形を崩すことなくAliceに肉薄する。再生速度が異常過ぎるのだ。爆発的な細胞の増殖が損傷を上回る。斬れば斬った端から再生し、負荷を押しのけ、焼けばポロポロと黒く炭化した細胞がかさぶたの様に剥がれ落ちる。細胞の増殖が干渉を物理的に押しのけ差し迫る脅威に対抗する。
恋都は完全に細胞レベルで肉体を操作してみせた。不死者は伊達じゃない。
魂ですら肉体の一部と捉え再生して見せた。度重なる神との邂逅。一度は神の宿った肉体。人間には扱えない神力の残滓を恋都は”アリス”の見えない手を借り無自覚にも制御する。
半歩ほどか、神の領域に迷い込んだ。彼は彼の定義する本物の”不死”をその身で体現した。
不死の薬を制作した経験と知識、ヨルムというまったく別種の不死者との接触によるインスピレーション。いつの間にか把握していた魂の輪郭。
基本骨子は強固となり具体性を提示。納得と確信が生と死の二極化を否定し第三の道を歩み始めた。
おまけにだ。宿敵である神の影響を受け、生きてもいなければ死んでもいない迷い人と至る。
それ即ち、”迷走”。
その性質に答えは無い。否定も肯定も許容しない。堕ちた存在へと堕落し続け終点へと至ることもなし。そこには終わりはなく見えない終末が広がる。決して死という安直な結末へと至らぬ答え亡き人生の航路。過程ばかりが無駄に長引いていく。それこそ連続する中だるみと空振りの極致であった。
物語が終わらない。
神との因縁の邂逅が―――――恋都を死から遠ざけた。
(ッ?????????)
Aliceは次第に恐怖を感じ始める。
まったく死なない未知なる存在に理解が及ばない。迷走の神故に恋都が死なない理由に思考が及ばない。重要な事は手の内から次々とこぼれていく。わかるのにわからない。大切なものはいつだって手の届かない位置にある。
彼の事は知っている。産まれも経歴も、記憶を吸収したのだから当然だ。
だからこそこの結果に納得ができない。
こいつの不死性は神からすればお遊び程度のもの。こんなお粗末なもので対抗できる代物ではない。それを・・・”アリス”の力で神に対抗できるまでに昇華させたのか。
その力を自身の力だと勘違いする愚か者。ここまで図太い人間は出会ったことがない。それもこれも”アリス”のおかげなのに”アリス”の存在にすら気が付きもしない。”アリス”のすごさと素晴らしさを知らずに威光を借りる恥知らず。それがAliceの勘に障る。”アリス”は最高なんだと耳元で叫んでやりたかった。
(・・・・・・ああァ・・)
どんな苦痛も、迷いも、絶望も、跳ねのける恋都はAliceの同類でありながら違う在り方を示す。緩急の無い恒常の痛みに正常であれる理由は特にない。
強いて言うのなら・・・フォトクリスやヨルムの様な苛烈な生き方に憧れただけだ。特に戦いの中で生き様を見せつけたヨルムに俺は焦がれていた。
あいつみたいに・・・少しだけ悪い子になってみたかった。
恋都は立ち向かう。覚束ない足で前を向く。小さな因縁が摩耗した彼の背中を押す。
ヨルムが、チシャ猫が、朱ノ女王が、レグナントが、クラウンが、アリス擬きたちが、よく知らない騎士達が、恋都も衝動のままに想いを拾い上げ邁進する。
恋都の途切れる意識を皆がバトンする。
高潔なる意志、純然たる殺意、戦う者の心得、邪まな独占欲、純粋な思慕の念と・・・様々な感情をまとめ上げ勝利を求め手を伸ばす。
ただ、ひたすら前に・・・傍に寄り添う”アリス”が多くの思念を積み上げ道を作り、俺はそれを必死になぞる。
―――――何者にもその歩みを止めることは叶わず。
(人間どもの意思・・・光る魂・・神を殺す光・・なんなんだこいつらはッ!?ただの人間が神を殺すというのかッ)
そうだ、、、そもそも―――――恋都を舞台に引き込んだのはAliceだ。
ただの駒でしかなかった。”アリス”との再会の為の踏み台。一度は舞台から脱落した端役でしかなかったのに。
それがだ。不遜にも”アリス”に手を引かれながらも自らの意思で舞台に許可なく勝手に這い上がって来た。
強い眼差しで主役を演じるかッ――――恋都おおおおおおおおおおおおお!
連れ添う”アリス”と恋都の姿。まるでヒロインと主人公の姿であった。
(ああ、そうか・・・)
Aliceは悟る。なぜこうも彼を憎むのか。自身がどうしようもなく独りだと自覚させられ、ようやくこの気持ちの正体に気が付いた。
ただ、知ってほしかったのだ。元凶たる自覚無き罪人に産まれながらの苦しみと痛みを知ってほしかったのだ。だから姿をひけらかし同情を誘う為に舞台で痛々しくあるがままに女であり続けた。
Aliceはここにいるんだよって、いつだって奥底から叫んでいた。
ただただ・・・構ってほしかったのか――――Aliceはどこまでも独りであった。
これでは倒されるべき敵の配役。それを思い知らされた。それを悟らせる。
なんだよ、それ、、、、、、、、、、、、、、
「・・・・・・・」
「み、見ないでAliceを・・・触らないで・・・声をかけないで・・・」
恋都の前で縮まる神の姿に握った拳が開かれる。ヨルムの顔でそんな表情を見せてほしくなかった。本当にただの子供じゃないか。強いつながりを持つ二人。ずっと前から痛みと共に心情や記憶が流れてきていた。歩んできた年期が違い過ぎる。情報の量が膨大過ぎて戦いに時間をかける程に殺意が薄れ人格が塗り替わる。18年と900年以上の人生。恋都の人格にAliceの神性が侵食していた。
神はただの子供でしかないと遺漏なく入念にわからされてしまった。
世の中に息苦しさと嫌悪感を感じるだけの可哀想な奴。
ここで殺してやるのが楽なのだろう。生きていたって合わないものは合わない。だから世界を転生させ脱却し離れ離れになってしまった”アリス”との再会を目論んだ。
”アリス”だけの都合のいい世界を求めた。神もまた”アリス”より派生した存在。
その神は唯一の拠り所にも見捨てられた。
恋都はAliceの記憶をなぞり背後に振り返るがそこには誰もいない。俺には見えないがきっとここに”アリス”がいるのだ。いつだってAliceはここを見ていた。
なぜ、そうもAliceを無視するのか。それがわからない。俺への苛烈さは”アリス”への愛情の裏返し、その証明なのだと知った。
やはり・・俺は変わった。Aliceの感情に中てられたのだ。俺よりもとても人間らしい原初の叫び。その変化がいい事なのかわからない。手にした人間性を安易に捨てたくなかった。
人らしくあるために、自分を好きになる努力のためにも同じ苦しみを味わう者に許しの手を差し伸べる時なのだ。この舞台にはたったの二人。演者はことごとく死に絶え観客すらいない。殺伐で空虚な演目。いつまでも争い合っていられない。
次を目指すならば大人になるしかないのだ。幕は二人で下さねばいつまでたっても再起できない。
手は差し伸べよう。あとは、この少女次第だ。
「ヒハイッヒハイッ!?」
Aliceは唐突に頭を持ち上げられたと思えば頬っぺたを引っ張られる。
「その面で泣き言を喚くな!」
足を掴まれ両脇に抱え込まれる。勢いのまま振り回される。遠心力がAliceを薙ぐ。
「ウッオオオオオオオオオッ!!反省しろオオオオッ!!」
恋都は力いっぱいに神をぶん投げる。
「へぐッ」
「はぁはぁ・・気持ち悪い、あ”~」
打った頭を抑えAliceは涙目で起き上がり、そこで目にしてしまう。恋都に寄り添う”アリス”の”笑顔”を。
別の意味で涙が流れる。悔しくて妬ましくてたまらなかった。
「ずるい――――ずるいずるいずるいっ!どうしてそこにAliceがいないの!そこはッそこはッ―――」
恋都と一緒にいる”アリス”はなんでこうも楽しそうなんだ。本当に魅力的だ。
Aliceには決して見せない顔だと考えると悔しくてたまらない。幸せのイメージを容易に想像できてしまったんだ。なぜこうもお似合いなのだ。胸が引き裂けそうなほどに悲しい。
「な、なんで・・・こんな奴を”アリス”は選ぶのぉ!ずっとずっと待っていたのはAliceなのにぃ!!」
癇癪を起こし無様に恋都へと縋りつく。
加減の無い衝動めいた体当たりに恋都は骨や内臓が潰れる音を感じながらもしっかりとAliceを抱き留める。
血を噴き出しながらも耐える、耐える、耐える―――重要の最初の一歩。ご機嫌取りだってしてやるさ。
さあ、なんだってこいよ!どこまでも付き合ってやる!
――――――――Aliceは不満をぶちまけた。
初めて不満がぶちまけられ、憎悪が裏返る。
「なんでぇぇAliceを避けるのっ!一言も労わってくれない!Aliceはがんばったんだよッッ!酷いぃぃ~~~あんなに尽くしたのにィィィ!!痛いんだよおおおおおおこっちだっていつも泣いてるんだよおおおおおッ!!Aliceに落ち度があるのなら言ってよおおぉぉ~~治すからッ!アリスの為ならなんだってッ!!教えてくれなきゃ伝わらないよッ~~~!!!ほらまた目を逸らした!!いつもいつもいつも、目を合わせてくれない!汚物を見る目でッ!お話ししようよッ!!いままで一度たりとも話したことがァッないんだぞッ!!どんな声でしゃべるのかな~~ねぇ~ね”ぇッッ!!無視しな”い”でェッ!!ッッッこ”の”!クソがアアアアアアアアア!殺すぞォォォ!!殺してやるぞォッ!!Aliceの”手を取れえ”え”えええ早くしろおおおおおグズ女ァッッ~~~!!ガアッガアアアアアアアグギィギャギャ”ア”ア”ア”エ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッ!!!」
「!??こ、ッ」
(――――――こんなの俺の手に負えるのか・・!?)
神は発狂していた。
泣いたり笑ったり怒ったりと喜怒哀楽を巡らせ感情を発露させ爆発する。先ほど俺に流れ込んだ心情からは想像できない感情の嵐。
まるで理解が出来ていなかった。したつもりでいた。彼女の事を理解できると勘違いしていた。己惚れていたのか俺は・・・
せ、背負いきれないぃ――――
神の心は人間に推し量れるものではないのだ。震えが止まらない。原初からの恐怖に慄くばかりの愚か者であった。少しでも理解や共感が及ばねば許容できないのに。
己惚れていたのか俺は・・・感情の一端に触れ流されていたのか。
俺はただ胸の内で爆発しそうな核爆弾は抑え込むように強く必死に抱きしめるしかなかった。一心不乱に、祈る神も知らないのに一心に祈っていた。何とかなれと懇願する。生きた心地がしない。気圧されている。
これでは――――本当に死んでしまう。
「なんでェッなんでこいつがぁぁなんで、なんで・・・・・」
また急な制動。今度はブツブツとAliceが胸元で呟く。心なしか力が弱まった気がする。そうであっても安心とは無縁。いつ爆発するかもわからぬ静穏に微塵も安定感は無い。
「こいつが、なんで”アリス”じゃないんだぁぁあああああああ~ッ――――」
抱きしめてほしいのはコイツじゃない。
――――――でも、どこまでも妬ましいだけの邪魔な存在でしかなかった男の腕は温かかった。
気味のわるい男どもとはまた違った湿度を感じさせない血の通った熱。確固たる強い意志を感じさせ血を吐きながらも必死にAliceの体にしがみ付いては離さない。それでいて爪は立てずに優しく包む。
気遣われていた。
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!~~~~あ”!!)
ふと、思ってしまう。
今までここまで面と向かって相手をしてくれた者はいたのだろうか。なんと逞しい生命力と意志か。
命など所詮、何度も繰り返される輪廻のサイクルの一部にすぎない。吐き捨てられた命に価値はなく生と死を繰り返すだけの定めの中でしか己の価値を語れない。どこまでも現象でしかない。
意思が何だ、死んで生まれるだけの生命が何をほざいたところで無価値。繰り返される歴史で同じことを何度繰り返す?無個性の塊が何を語れどそれも消えゆく現象。神にはまるで認識できない無価値な現象。
・・・それだけの存在だったはず。
なのに、アリスの付属品として認識していたこの男はここまで辿り着いた。辿り着いてしまったのだ・・・
糞みたいな有象無象どもの意思を束ね最後に残ったのがこんな端役。これでは本当に主役のようではないか。
入念に準備された”アリス”とAliceの舞台はこいつのせいでもうめちゃくちゃだ。
”アリス”が享受した”アリス”の残り香を感じさせるこの男の温もりがAliceを魅了する。
こんなにもいいものを”アリス”は独占していた、の、か――――?
心地がいいはずだ。この男が居なければ”アリス”はおろか、Aliceもいないのだもの。どうりで相性がいいはずだ――――まるで太陽の光を吸った干したての布団の様に神を微睡ませる。憎しみに目が眩み今まで何も見えていなかった。
そうか、そういうことだったんだ――――――――
神の幼稚な思考が反転していく。在りもしない真実を見初める。
そうなると不意に”アリス”の匂いが気になり始める。まるで自分の物だとマーキングされているようで気に障る。この男はどこまでいっても”アリス”側。主人公とヒロイン・・・そして敵の配役。
まるでAliceが当て馬の構図じゃない。こんなに良いモノを”アリス”は徹底的に独占するつもりだったの??
こいつは・・・唯一の対話者。ここまでまともに会話をした相手はこいつ以外に存在しない。”アリス”はそれを見せつけひけらかす。私の彼はスゴいのよと聞こえてくる。その彼を使いAliceを殺そうとする。都合のいい駒の様に顎で使う。
何だこの女は・・・これが本当に・・あの”アリス”なのか――――????
一度たりとも会話もしたことがない”アリス”にAliceはどうして執着していた・・?
Aliceを日陰者として扱うこの女が”アリス”たるものか。そうだッいつだって心の中には最初から”アリス”ともう一人いたではないか。金魚の糞の様に纏わりつくこの男こそ、そうだッこの汚物こそがAliceにとっての”真のアリス”なんだ!!
肥溜に咲く一輪の花とは恋都のことあったのだ。
「・・・・・・・ぇへ、えへへ」
神は迷走する。己の考え一つで理を塗り替える。思い込みが激しく視野の狭い神は一度妄信すればそれを正す事は無い。神がそう思えばそう在る。神は世界をおもんばかることはしない。いつだって世界は振り回されるばかりだ。
「くく、くひふふふふふ~~ッへ――そっか―そういうことだったんだ――――~~あ”」
(な、なんだ・・・???)
胸に収まるAliceからの圧が消えた。ニヘラニヘラと楽しそうに笑っていた。恋都は急な変化に身構える。乙女のような妖しい笑みを浮かべるには悍ましく美しすぎた。捕食者の面そのもの。
本能的に思わず腕を離そうとするが体が、動かない。
「う、うう・・恋都はアリスだったんだぁ~~」
何を―――言ってるんだ。
ニコニコと動けない俺に馬乗りになり顔を近づけてくる。鼻先が触れ合う程に、Aliceの異様に見開かれた眼が視界を埋める。その瞳は宇宙を彷彿させる。
今まで流れ込んできた真っ黒な情念は俺に対する憎悪と嫌悪で構成された精神攻撃紛いの刃。
それがどうして・・・なぜ”アリス”にしか見せなかった貌を俺にする。敵意を感じないがそれよりも、もっと恐ろしい感情を抱いている。
何かしらの変化があったのは間違いないが・・・なぜそうも女の貌をする。
こうも簡単に切り替わるものなのか?
これが、、神なのか・・・???
(ッ―――い、今ならわかる気がする。”アリス”が逃げるわけだ。これはちょっと手に 負えない )
Aliceとは理解とは無縁の怪物であった。そんなものを抱えようとしてしまった。
彼女はどこから生じたのだろうな。
「そう、いうことだったんだ。う”~そうだとするとォ――あいつがあんなにも綺麗に見えたのはアリスがいたからなんだ。そう考えると、そう考えるとぉッあ”あ”あ”あ”~~妬ましいィィいいよぉぉ~~~~ッおめめの裏ぐりゅぐりゅすりゅぅ~~――――」
彼女は何を見ている。俺を見る目の色が今までと違い過ぎる。俺を通して”アリス”を見ていたその目は・・・今では”アリス”を見る目で俺を見るじゃないか。
神の興味を一身に受ける予定は俺には永遠にない。
”アリス”ッ俺を助けろおおおおおお!こんなの俺に押し付けるなああああ!む、無理だ。不死者でもこれは無理だと断言できる。
「・・・今・・・あいつのこと考えたぁ、考えたよね。だめだよぉ――AliceのアリスがAliceのことを無視しちゃ~~妬けちゃう”な”ぁぁぁ~~!!」
Aliceはケラケラと笑うも目が無感情に俺を見下ろす。これとどう平和的な解決を図れと言うのだ。
”アリス”とAliceの和解の橋渡しをする予定がすべて狂う。台本を捨て暴走気味にアドリブかます主演にどう対処すればいい。”アリス”とAliceの舞台でどうして俺にスポットライトが当たるんだ。
神の歩調に人間が合わせられるかよっ!
その時体が勝手に動く。Aliceの小さな体を押し倒し両手を掴み地面に押し付ける。まるで俺の体ではないみたいに万能感を漂わせて。
(お願い)
『な、なんだぁ!?女の声が、まさかこいつがッ』
(その子を―――殺して)
(殺せ)
この声色。間違いなくどこかで聞いた女の声。そいつは必死そうに俺を強請る。Aliceを殺せと囁く。
ここで”アリス”が重い腰を上げ動いた。俺がこんなにもがんばっているのにこいつは安易に殺しの選択肢を採る。
やめろ、やめろ!!ここで殺してしまえば俺は一生何も変わらない!?望んだ自分になれやしない!!
「あぁ~~ダメダメ!!Aliceは〇才なんだよぉっ!そんなことしちゃダメッ未熟な果実が喰い散らかれちゃうッ見て、見て~~アリス!!Aliceの淫らな死体をそこで眺めててッ~くふ、ふふひぁハハハハアアッ!!アリスはAliceを選んだんだあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ好きスキすき!!」
「”アリス”やめろォッ!!」
徐々に抵抗が効かなくなる体。必死に力を振り絞り煽るAliceの頬を叩く。
「なあにぃ―――もしかしてそっちが好みなの~??またAliceの首を絞めるの?ふふふふキキキ。いいよ~なんだって受け入れるよぉぉなんせアリスの望みだもんね~~だから、だからよく見ててね。そしていっぱい好きになって。そして縋って?いっぱいいっぱい遊ぼうよ?満足したら世界だッテ戻してあげる」
「なんッ?」
「だからもっと必死に縋って、贖って、大事にして。大丈夫。どうせまともな子供なんてできやしないんだからさぁ~くひひひひ―――ッグィギ・・ッ!?」
「――――――笑うな」
その一言で”アリス”の意識が俺と一致する。完全なる同調。望んだ道を自ら閉ざす。
・・・別に関係の無い奴に訳知り顔でどうほざかれようともどうだっていい。だが夢の住人と言いコイツといい、どうしてこうまで俺の感情を逆なでるのか。やたらと気に障り自棄を起こさせる。
故にどの感情よりも殺意が勝った。二人で一人を殺すために首を絞めつける。
「俺は―――欠陥品なんかじゃない!!俺はッ俺はッッ!!」
「ゥぶ――ァア”っ」
歪むヨルムの顔すら気にならない程に苦しむ姿に充足感を得る。それでいて涙が止まらなかった。
ぐぎぎg――――
俺は、なにも変わりはしなかった・・・
Aliceの笑い声が無力さを嘲笑う。
「ッア”ハハハハハハハッッ~~~!!」
二人は対照的に笑い、泣く。
Aliceはアリスを見て思わず笑う。アリスの葛藤が心地よかった。初めて誰かに本音をぶつけられているようでとっても嬉しかった。
アリスったらぁ・・・最後まで抵抗しておきながら結局は衝動的に殺そうとしているのだもん。それがAliceは嬉しかった。アリスもAliceと同じなんだ。迷走してるんだ。ここまでAliceのことを思ってくれた者はアリスしかいない。
なんて~~~ッお似合いの二人なんだろうッ!!
そして改めて確信する。彼こそがAliceのアリスなんだ・・・・この
長い旅路の果てにようやく真実を知った。歓喜に満ち溢れた神の心は世界に波及する。
約定は破られ思うがままに・・・祈りは・・・届いた。
後には戻れぬ夕焼けの差す帰り道。恋都はふと振り返ると、そこには多くの人間が俺を見ていた。
消えそうな俺の背中を押してくれた者たち。名も知れぬ者たちが大半。それでも力を貸してくれた勇士たち。
みんなの顔は優しく穏やかであった。がんばったな、と次々に神殺しを労われていた。
一人、また一人と、闇の向こうへと辿る。
その中でヨルムが何かを言いたげに俺に視線を送るも逡巡する。俺は近づこうとするも足がまったく動かない。誰かに抱きしめられていた。
俺は必死に手を伸ばすも届きもしない。何者かに手を引かれ動くことを許されない。どんどんヨルムと離れていく。
「 ッ!!」
必死にヨルムに手を伸ばすが届くことは永遠にない。
最後にヨルムがはにかむ。
何かを躊躇いながらも、ようやく嬉し気な顔で最後に唇を動かした。
「ありがとう」
劇は終わりを告げ幕は落ちた。拍手も無くブザーは鳴り響く。その中でこれから何が起きようとも観客席からは推し量れない。数百年の準備の末、開幕した演劇はたったの一日にも満たない時間で終幕。
Aliceにとってはこの上ないハッピーエンド。
それは―――――神殺しを成し遂げた恋都にも当てはまるのか?
結局、殺すことを選んだ彼の人間性は何も変わることがなかったというのに。