オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第75話 黒幕アリス

 

 

 ――――――――――Side/イグナイツ

 

 

 夢、――――夢をボクは見てた。

 

そこはいつもの黒き泡沫の海・・・・ではなく。

 

 無色透明の世界。今まで闇に包まれていた自身の肢体がはっきりと認識できた。兎も目玉の化け物もいない。煌めく空では赤い彗星が尾を描き毒性をばら撒く。遠くに堕ちる彗星の跡をぼーっと眺めるばかり。

 

 やがて星は燃え尽き、大きな目玉がボクを凝視する。

 

 その目は王子様の瞳によく似ていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ボクは・・見ているしかなかった。

 

 迫る王子様の手刀。

 

 美しい放物線を描くパパの首。

 

 夢であってくれと何度も何度も目を瞑る。

 

 目を開ければいつもの部屋。どこまでも退屈で、虚無を喰らう毎日。嫌いであった味の無い日常が恋しくて堪らない。

 

 

 ――――目と目が合う。

 

 

 感情の読めない王子様の瞳がボクを見据える。知らない女の首を片手に抱え剣を拾う。

 

 現実が僕を夢から引き戻す。かつてパパだった者の首が足元に転がっている。

 

 それは嫌でも視界に入り世の残酷さを誇張する。心臓がバクバクと鳴り響く。振動が体を揺らしガクガクと世界も揺れる。汗が酷く粘つく。

 

 震える手で手に取ったパパの頭は重かった。重くて重くて落としそうになる。

 

 動悸が激しく息を荒立て、全身が痙攣する。

 

 何かがボクの奥底で弾けようとしていた。

 

 

 気が付けばボクは―――――――肉を食んでいた。

 

 

 ガリガリと貪り付き何かを啜る。バリバリとカミカミ。一心に喰み倒す。涙と血でグチャグチャ。鼻水を啜り、咳き込みながらも咀嚼は止まらない。

 

 

 ――――――体が熱い。

 

 

「―――――なるほど・・・もう一人の”アリス”はお前だったのか・・・」

 

 恋都は夢中に父親の首に齧り付く娘の姿に目眩を覚える。思わずヨルムの首を抱きしめ恐怖を散らす。

 

 ・・・後でお墓を作らねばならない。それまで俺に力をくれ・・・ヨルム・・・

 

 ”アリス”の影を追っていたAliceが最後まで気が付かなかったのも頷ける。ようやく得心がいく。

 

 俺が神域からこのダンジョンに舞い降りてからオリジナル合流までの間ずっと俺の中にいたはずのAliceは俺に取憑いていたはずの”アリス”にまったく邂逅することなく、どうにかして潜んでみせたのだと思っていた。あの決戦の地でようやくAliceは”アリス”を見つけたのだとばかり。

 

 不思議だったんだあれほどまでに”アリス”を求め合一を図るAliceが気づかぬ理由。

 

 最初からもう一人の”アリス”はイグナイツの中から見張っていたのだ。

 

 決戦時、イグナイツの姿は何処にもなかった。恐らく決戦前にイグナイツから俺へと憑りついていたのだ。

 

 元々、Aliceはイグナイつだけはなぜか生かすつもりだったようだし、こうやって肉体が無事だったのも納得できる。

 

 ”アリス”は既に娘の中に転生していたのか。夢に逃げたと見せかけて転生していたのだ。

 

 イグナイツを通じ様々な細工を施した。”痛み”がAliceとなり自己を主張するまでに神格を得たと同時に娘を産み、そのタイミングで残滓たる大人のアリスを夢に送り込んだ。全ては”アリスの役”を切り離し俺に継承させるためであり、Aliceの眼を夢世界へとそらすためにだ。

 

 裁判所の大人のアリスは支離滅裂だった理由はこれか。真のアリスであれど中身の無い見せかけだけのアリスだったのか。そして俺の中に潜むAliceを”アリス”だと勘違いし(ロール)を譲渡した。

 

 Aliceも旧肉体と神域の二つに分かれ残留していたのだからなんら不思議な事でもない。

 

 つまるところ本当にアリスと言える存在が4人もいたことになる。ややこし過ぎる・・・プラナリアかよ。

 

 どいつもこいつも騙されていた。全てが掌の上か・・・・まあいい。

 

 

 ようやく・・出会えたな・・・”アリス”・・・ッ

 

 

「アリス??・・・何を言っているの?ボクはイグナイツだよ。まあ、あながち間違ってはいないけどね~☆」

 

「・・・・・・」

 

「今、ようやく思い出した。きっと”アリス”が・・・まあ前のボクなんだけど・・そう仕組んだんだっけなぁ・・・もう、そんな怖い目で見ないでよ。ああ、これのこと?人の親を殺しておいて気にするんだね。今更だと思うな~じゅるじゅるじゅぞぞ」

 

 イグナイツ、もとい”アリス”は脳みそが空になった父親の頭を捨て去る。

 

 どこまでも自然体。前とは違い俺に対するよそよそしい遠慮とねっとりとした女の情念が消えたのが逆に距離感を遠くに感じさせた。

 

 すごく生き生きとしている印象を受ける。

 

 だが・・・

 

「嘘をつくな・・・お前がイグナイツだと・・・?お前は”アリス”だろ」

 

「・・・ボクをアリスと呼ばないでよ。特に君はね・・・・すでにAliceは君が殺してくれたじゃないか。よくやった褒めて進ぜよう~えへへ~」

 

 ”アリス”は少しだけ苛立つ。別に望んでアリスで在るのではない。アリスでない何かになりたかった。こんな腐れ果てた舞台から無関係な存在となりたかった。決めつけられたアリスという枷がボクを不幸にするのだぞ。

 

 ねえ知ってる?君がボクを巻き込んだんだよ。

 

「この子はね~、ずっとずっと父親の事を食べたかったんだよ。普通じゃないの、そういう風に設定して産んもん。それがスイッチとなってボクの意識が浮上。そうでもしないとずっ~と気狂いイグナイツのままだからね。君の知るイグナイツなんてね、最初から何処にも存在しなかったんだよ。ボクね~演じようと思えば完璧に演じて見せるのだよ~。まあ、演技にのめり込み過ぎて元の人格に中々戻れないのが一番の問題だけど。この行為もその為のスイッチなのさ」

 

 つまり、こいつはイグナイツでありアリスでもあるのか。あれもこれも全て演技だったのか。

 

「ああ~大変だったよ~それでも楽しかった!いいものも見れたしね・・・・えへへ、Aliceの無様な面が見れてよかった。あいつ嫌いだもん。でも、君は・・・やっぱりいいね。期待通りにボクの見えない手を借りてここまでたどり着いた。すごいね~恋都。なでなでと執拗に褒めてやろう、さあさあ。ほら恥ずかしがらないで来なよ。抱きしめてあげるよ~」

 

 無邪気な笑顔でパチパチと乾いた拍手が鳴らされる。そのまま両手を広げ抱擁を促す。

 

 ・・・・馬鹿にされているようで気に入らない。全てが上から目線だ。

 

 ここまで全部予想通りだと・・・?

 

 ヨルムの死も織り込みなのか・・・そんなことが・・・あるものかよ・・・

 

 それじゃあ、あの涙はなんだったのだ。イグナイツは父親を喰いながら苦しそうに泣いていたんだぞ――――それも演技だと吐き捨てるつもりか・・・

 

「あ、あれ、悲しいの?もしかしてこんな子がタイプだったの??まあ~知ってたけどね・・でもちょっ~と趣味が悪いんじゃないかなーこんな出来損ないのボクなんて・・・でもちょっと嬉しいな嬉しいな☆」

 

「つまりなんだ。”アリス”はイグナイツそのものなのか」

 

「だ~か~ら~ボクのことをアリスって呼ばないでよ~、そんなんじゃ殺しちゃうよ☆」

 

 なにが癇に障るのか”アリス”は唐突に跳ねる右腕を無理やり抑え込む。こいつも我慢強くないな、アリスってのはどいつもこいつも・・・・

 

 そんなにもアリスはお嫌いか。アリスがアリスを否定するか。Aliceとはまるで真逆だな。相容れないのも納得できる。

 

「いろいろ確認したいけど、そういう権利は当然あるよな」

 

「いいけど、そう長く理性は持たないよ、よ」

 

 こういう時、案外質問が思い浮かばないものだ。もっと色々あったのだけども手当たり次第に聞くしかない。推測でなく正解が欲しい。

 

「・・・・夢の中の大人のアリスは結局誰なんだ?」

 

「あれはね、ボクが用意した存在の一部だよ。と言っても”アリスの役”を全部押し付けたからあの時点では本物のアリスそのもの。鬱陶しい夢の住人を動かすメッセンジャーであり、Aliceへの目くらましでもあり、君に(ロール)を継承させるための生け贄でもあるね。アリスの役を捨てたボクが平気だったのはイグナイツとして転生したしたからだよ~。えへへ~不都合な人生はやり直すに限るね。お陰で”あいつ”はもういない」

 

 大人のアリス・・・やっぱりどこまでいっても可哀想な奴だったな。あいつも・・・最後は泣いていたっけ。

 

「ふふふ、そんなにあの気狂いなボクが気に入ったのかな。ちょっと嬉しいなぁ」

 

「あれは・・・おまえじゃないだろ」

 

 そうでなければ未だに俺の後ろで立っているはずがないのだ。大人のアリスは最後まで救いを求めていたのにこいつは手を差し伸べなかった。切り捨てられたのだ。それで寂しくなって仕方なく俺に憑いてきた。行く当てもなく敵である俺の元に身を寄せる。ずっと泣いてばかりだ。

 

 おい、見えているんだろ。見えた上で敢えて無視しているのか??

 

「計画通りって、それ嘘だよな」

 

「・・・・」

 

「結果的に上手くいっただけで、勝ち誇るなよ。”アリス”」

 

 そもそも俺が召喚されなかったらどうするつもりだったのだ。計画と言うには運が絡み過ぎている。

 

「・・・それがそうでもないんだよね。これが厄介なところでさぁ。ねえ知ってる?この世界じゃ”どんな存在”でも過去の因縁や因果は避けては通れない道なんだよ~」

 

 アリスはつらつらと語る。

 

「誰しも必ず因縁深い唯一無二の天敵が存在するんだよ。普段はそれが表面化しないけど苛烈な人生を送る者の前に現れては試練の如く立ちふさがる。運命が放つ刺客。対象に対してのみ絶大的に優位で在れる天敵。それがボクの場合Aliceだったって話だよ~☆」

 

「・・・なんの話をしている・・・?」

 

「まあ聞いてよ。つまりさ、ボクは天敵を殺してくれる存在を待ち望んでいたってこと。Aliceにとっての天敵である君の来訪をね。だからこんな辺境の地でも境界を超えて君が現れるって確信していたよ」

 

 つまりだ。どう抗おうとも―――

 

「結論、ボクがどうこうしようが君は必ず召喚されていた」

 

「なんだよ、それ・・・は・・」

 

 意味が分からない。俺とアリスの間にどんな因果があるというのだ。この言い分では本当に俺のせいで召喚されたととれるじゃないか。900年前に何があったのだ・・・?やはり勇者召喚に関係が・・・?

 

「・・・・それは教えられないなあ。言葉にして因果を紡ぎたくないよ。アリスとしての物語もいい加減終わりにしないとね。イグナイツとしての人生がようやく始まるのだよ、ふっふっふ」

 

 今まで死の淵から俺の手を引いていたのは”アリス”だったのだ。そうやって俺はいいように操られていた。祈り手も黒殖白亜もA種も夢の住人もゲームマスターも神ですら駒でしかなかったのか。

 

 皆苦しみ足掻いていたのにそれをこいつは笑い飛ばす・・・こいつも元は被害者であったとしても、どうしても納得がいかない。見えているのに俺の後ろのもう一人のアリスを無視するのも気に入らない。

 

「さてさて、これでもうボクを止めれる者はいない訳だ。最後のアリスが消え去ればボクはいよいよ自由だけれども~・・・なんのつもりかな~ねえねえ」 

 

 眼前で立ちふさがる俺に対し、アリスは一瞬キョトンととぼけた表情をする。

 

「あれれ~、もしかしてボクに勝負を挑むつもりなの?結果が見えてるのにね。言っておくけどボクを見たままの強さだと侮ったらあっさりと死んじゃうよ」

 

「どうせ俺を殺すつもりだったろ。お前の顔、イラつくんだよ。アリス・・・・不死者を舐めるなよ」

 

「手を煩わせるなよ~もうボクの助けは無いんだよ?いくら不死者として完成していても君はもう長くない。無理は肌に悪いよ~諦めて☆」

 

 ”アリスの役”はまだ消滅していない。俺の肉体に宿っている。だからこそこうなる。戦いは避けれない。

 

「それとね・・・・あのね、あのさ・・・その名で呼ぶなと言ってるんだよ。ボクは、イグナイツだ」

 

 何かがはち切れた。ブチブチと音を立て”アリス”の顔がひしゃげ変革がもたらされる。影は大きくなり恋都を覆い隠す。骨があちらこちらから突き出た巨体。弾力性を感じさせる表皮。刺々しくバランスの悪い鋭角さは荒々しいフォルムを際立たせる。

 

 竜だ。竜が目の前にいる。

 

 悍ましく醜い姿をした竜。感情の無い顔つきは昆虫を彷彿させる。それでいてアリスの象徴であるエプロンドレスを身に着け頭に大きな青いリボンを付けており、アンバランスさが不安を掻き立てる。

 

 なんだよこいつ・・・全然アリスから卒業出来ていないじゃん。その矛盾はどう説明するんだよ。

 

 ”アリス”は長い首を持ち上げ穴の開いた翼を開く。

 

「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ッッッッ!!」

 

 吐き出す息は瘴気となり場を濁らせていく。気味の悪い汁がまき散らされる。

 

 比率の悪い多くの目玉が俺を見下ろし口から涎がダラダラと垂れ流される。空気が腐る。

 

「この脈絡の無さ・・”アリス”はやっぱり気持ち悪いな。どうしようもない不細工が!!」

 

「ボクねッ!最強なんだ!この翼があればどこにだって行ける!宇宙の果てからこの星ごと消し飛ばしてやるよ!こんな箱庭消えて無くなれええええええええ!」

 

「―――ッ!?」

 

 大きな咢で恋都を咥え込む。巨体に似合わぬ機敏さ。なるほどこれは確かに脅威だな。歪な牙に挟まれてじわじわと締まる。どうしてか体が徐々に炭化していく。おまけに莫大な神性がまた流出してやがる。こいつもAliceと同等の存在なのかよ。

 

 

 

 

 

 

 軋む世界を満足げに眺める。

 

 所詮は人間だとイグナイツは笑う。機能停止まであと僅か。

 

 世界も君もがんばりすぎたのだよ!

 

 とうに限界を超えている。人間が神の力に耐えれるはずがない。恋都の肉体にこびりついた純然成る力の残滓が命を削る。それは神殺しの代償だった。うっすい神性とは違うんだよねェ!!

 

 わざわざ手を下すのは因縁を断つためだ。

 

 神殺しの実績は無視できない。これで万が一の永遠は訪れない。

 

 

「ボクは知ったんだ!君が教えてくれた!諦めなければ可能性は潰えない!決意で満たせば巨星すらも落とす!恐れよ不死者ッ!骨髄を砕きッ!臓物を啜りッ!我が腹の中で永久に眠れッ!!!ふへへへ!」

 

 

 

 

「くくく」

 

 そんな絶望の中で救世主は確かに笑っていた。 

 

「そんな力を持っている癖にAliceからは逃げたじゃないか。どこに行ったって”アリス”はまた逃げるぞ。過去を顧みない者に次はないんじゃないかなぁ?」

 

「当たり前でしょッ!奴は自称アリスの精神異常者!ボクが切り離した痛みの概念そのもの。あんなもの受け入られる訳ないだろッ!!どんどん肥大化していく痛みが自我を持つなどもってのほか!!拒絶したからこそのボクがいるッそれをアリス!アリス!と宣う神は悍ましい~ッッ!」

 

「ああ、なんだ。”アリス”は苦手な奴がいなくなってウキウキで出てきたのか。最強が・・・なんだって?」

 

 ”アリス”が表に出るためにAliceの排除は必須だったのか。天敵うんぬんは本当だったか。それはいいことを聞けたよ。

 

 ならば・・仕方のないこと・・・本当は嫌で嫌でしょうがないけど・・・賭けてみるか。

 

 奴のどうしようもなさに――――――――――”アリス”への妄執っぷりに―――――――

 

「黙れッ!もはやどうすることもできない君はッここでボクの養分となる!残りカスでも神の力。喰らってくれるッ!」

 

「・・・確かに絶望的だ。このままじゃ”アリス”の糞か。それは嫌だな。手も足もでない。ああ、本当に・・・だったら―――――――神とやらにでも祈ってみるか」

 

 

 

 

 

「――――――え」

 

 

 神との連戦など想定できる事態でない。俺一人で勝てる存在でもない。異神Alice討伐は様々な因縁、要因、偶然が重なり導き出された奇跡。

 

 一人で勝てると思えるほどに己惚れてない。だったら祈るしかないだろ。俺は賭けてみることにした。

 

 

 んなあ、大人のアリス。おまえも悔しいだろ。色んな奴にいいように使われて裁判所で公開処刑されてさ。そろそろ一泡吹かせてやろうぜ。一人じゃあれだから一緒にな。俺もギリギリなんだよ。だから力を貸してくれ。殺そうとしたことは謝るから、さ。

 

 ・・・誰かが呼応し柔らかい手が俺の手を握る。お互いにボロボロだ。

 

 ”アリスの役”を通し奥底に沈みし彼の者の名を叫ぶ。依代となり境界線の向こう側から慌ただしく何かが降りてくる。

 

 祈りと、代償。

 

 恋都は祈りを得たことで偶然にも奇跡を行使した。

 

 新しき神だからこそ、形亡き所作であるからこそ成し遂げた。

 

 

 本当に神であるのならば、この命救ってみせろよ。

 

 

 肌で実感した【 】こそが今の俺を助けてくれると。俺は全力で縋る。祈りがあれば神は不滅だと・・だから・・・靴だって舐めてやる。

 

 そうまでしてなぜ祈るのかって?

 

 このままやられるのはムカつくだろ。女にいいようにされて堪るかよ。”アリス”には泣き顔がよく似合う。

 

 

 だから、――――助けてくれ、我が宿敵よ。

 

 

 

 

 

「Aliceゥゥゥッッ!!俺を助けろおおおおおおおおおオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 異神は――――――――舞い降りた。

 

 

「うんうんう”んッ!クヒヒッ!大丈夫!アリスの祈り・・おいしいいいいいいよおおおおお!」

 

 

 咥え込んだ恋都の姿に変化が訪れる。外見には目立った変化はない。その背後に死んだはずの神の姿が浮かび上がる。あの時の”アリス”の様に恋都の背後に佇む。

 

 大人のアリスの姿を借り奴は降臨した。”アリス”にとっての死神が完成した瞬間、恋都の意識が飛ぶ。

 

 な ん で 生きてるのおおおおおおオオオオオオオオおッッ!??

 

「や~~~~~と、捕まえた。捕まえたッッ!」

 

「やめろッ!やめろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――ッツッ!!助けてェェェェ!!アリスゥゥゥゥゥ!ピガギャアアア」

 

 激痛と共に竜の牙が弾け四散する。”アリス”が切り離した痛覚が久しく巡る。神が憑依した男の肉体が”アリス”を素手で叩き抉る。原始的に握りつぶしては引きちぎる。あるべき帰郷に躍進する神は悦に入る。

 

「ア ハハハッハ ハハ ハ ハ  ハッ ハハハ  ハ ハ  ハハ  ハ ハハハハ ハハ   ハ ハ ッ ハハ ッッ!!」

 

「イ”タ”イ”ッヤ”メ”テ”ッッ!」

 

 恋都の小さな体が”アリス”の巨体を蹂躙する。ボロボロと竜の輪郭が崩れていく。翼はもがれ腕や足を根元からバラバラにしていく。

 

 まるで・・・虫だ。子供の頃が無邪気に殺した虫と一緒だ。強すぎる興味と関心が”アリス”を襲う。

 

 純真さに殺される・・?

 

 そんな可愛い話か――――

 

 恐怖が・・ぶり返す。”アリス”にはかつての分身を理解することができない。切り離して数百年。この世で唯一恐れる存在。Aliceは見事に手の付けられぬ怪物へと進化した。

 

 痛みが”アリス”の呪縛となり行動を封ず。のた打ち回る無体の”アリス”は次第に動かなくなる。

 

 Aliceこそこの世で唯一痛みを感じぬ”アリス”に痛みをもたらす存在だった。かつてはいらないと断じ切り離したはずの弱みに殺されかけていた。

 

 Aliceは遂に”アリス”の魂を引っぺがした。グロテスクな竜の上で佇む二人。邂逅は果たされた。

 

 ”アリス”の魂とAlice。片手で釣り上げられ首を絞められていた。

 

「―――グッ、ギィッ」

 

「なんか・・違う・・でもやっぱり」

 

 

 一方でAliceはなにも満足していなかった。肩透かしもいいところ。

 

 ・・・こんなものなのか?

 

全身を血で満たす神。内臓を引きずり出し喰らう。腹は満たされているのにアリスが足りない、足りない足りない足りない―――”やはり”アリスが足りないッ。

 

 神はやはり気まぐれだ。

 

 飽きてその場から消えてしまうのだった。

 

 

 

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