オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第76話 アリスとアリス

 ――――――――――Side/恋都

 

 神はやはり気まぐれだった。

 

 

「な、ん!?」

 

 急に意識が切り替わる。恋都は突然の事に空を切る右手が魂を取り逃がす。万能感は消え去り霧散する力。恋都はあっけにとられる。状況から察するにAliceは暴れるだけ暴れてどこかに行ってしまった。

 

 Aliceめが!急にやる気を失いやがった!なんていい加減な神か。

 

 竜はすぐさま形を取り戻す。元のイグナイツの姿へと還る。弱弱しい姿を晒しながらも天敵が消えたと見るや恋都に襲い掛かる。

 

「クソがぁッ!ボクはァ神なんだぞォッ!なんで怯えて生きなきゃいけないんだよ~!!」

 

 ”アリス”は力の殆どを神に取り上げられた。知識すらもだ!喪失感から八つ当たり気味に殴り掛かる。

 

「恋都ッ!余計な事ばかりィィッ!人形がぁ勝手に動くなよッ!」

 

「お前だって!いい加減にしろッ!!いつまでも少女気取りッ人形遊びって歳なのかッ!」

 

 エリートに対する不用意な一撃。手痛いカウンターが”アリス”を襲う、はずだった。

 

 ふわりとした感触。

 

 恋都の拳はまるで手ごたえを感じず、アリスに寸前で受け流され逆に恋都の顔面に稲妻が走る。

 

「!??―――なにッ!ガッ!?」

 

 恋都の意識が追い付かないものの攻撃を受けながらもしっかりと体は動いていた。この程度で不死者は止まらない。驚愕を露わにしつつも怯むことなく攻撃を続ける。

 

 今まで秘められてきた苛烈な攻撃性が解放される。

 

 

 ―――だが、今回ばかりは相手が上手だった。

 

 

 鋭い風が”アリス”の頬を斬る。

 

 戦場で培われた不死者との終わらぬ舞踏。それは常に独りの戦い。血潮が空気を湿らせ肺を満たす。咽かえるまでの血風が戦乱を呼び込む。高揚が風となり純然たる闘争本能が湧き上がる。

 

 ボクがどれだけの首をあげたと思っている。誰を相手にしているのだと思っている!ガキが思い知るがいいんだよ。ボクが思い知らせてやるッ!このボクがッ!

 

 虚空から現れたるは鈍重で武骨な剣の形。”アリス”は無銘の剣を手の内に握る。見た目は普通だが重量がおかしなことになっている、すごい重厚なるロングソード。そんな剣だった。

 

 これこそが導き出した答え。人を殺すのに余計なものはいらない。暴力的なまでの質量で血反吐をぶちまけれッ!!

 

「あのね、あのねぇっ!!」

 

「こ、こいつッッ!」

 

 ”アリス”の長い足が振り上がり爪先が恋都の顎先を跳ね上げる。それだけで恋都の首の骨が折れるも、恋都は構わずボクの喉元へと貫手を飛ばしてくる。

 

 ボクはそれを貫通しながらも掌でしっかりと受け止めてあげる。自然と笑いが込み上げる。貫手とは実に不死者らしい戦い方だね。

 

「ボクがどれだけの不死者と殺り合ったと思ってんだぁッ!!」

 

 恋都の胴体を腕ごと斬り落とす。それでも恋都は動く。もはや痛み程度では止まらないか。再生しながらインファイトをしかける。間合いを詰め剣を使わせないつもりか。

 

 この、諦めの悪さがすべてを狂わせたのだ。 

 

「場数が違うんだよォォォッ!!!ちっぽけなガキがぁッッ!!」

 

 恋都の拳を顔面に受けるが、”アリス”も止まらない。ようやくまともに一撃が入るが”アリス”もまた怯まない。鼻血を垂らし果敢に反撃してくる。

 

 恋都もまた不死者の戦いをする。やはり不死性は戦い方を偏らせる。

 

 

 

 

(――――――――――――ッ)

 

 恋都はアリスの事を知った気でいた。記憶でどういう戦い方をするのか、わかった気になっていた。

 

 恋都に流れ込んだ記憶とまったくの一致。そうだ、”アリス”はいつだって”痛み”の中での戦ってきたじゃないか。俺にできて奴にできないはずがない。

 

 だが結局は”アリス”はそれを嫌って切り離した・・そうだいつも共にあったはずなのに。生きてる証だった。今ではその痛みにすら見捨てられた。

 

 こいつがっ、”痛み”から逃げたからッ!!俺はこんなにも苦しいんだろがッッ!

 

「このクソアマがッ」

 

 ・・・・というか、あの時イグナイツは年齢のサバを読んでいた。何が20歳だ。もっと歳がいってるだろ。甘やかされてばかりで社会性の無いからあんな化物が産まれるんだよ。

 

 それもこれもやっぱりこいつのせいじゃないか!!

 

 

 

 

「ボクの顔を・・女を殴るか!デリケートなんだぞ!」

 

 恋都がアクロバティックにこちらの猛打を全て躱す。ちょこまかと鬱陶しい。まともにやり合えないから変則的な動きで奇を衒う。それは弱者の振る舞いだ。

 

 ほら、すぐに対応しちゃうよ、小僧の浅知恵がそう長く続くかなぁ。

 

 ブシュリ

 

 

 

 

「ッ!!!ッ―――」

 

 切り上げられた剣先が縦に俺を裂く。一瞬にして4つに分割された。何をされたのかわからなかった。剣の重さでどうしても体が圧され偶に浮く。浮けば最後守るしかなくその守りも質量と剛腕がなぎ倒す。何より体の芯によく衝撃が響く。どうしても行動がほんの一瞬止まるのだ。その刹那を決してアリスは見逃さない。

 

 突き上げ掌底からの力任せのスイング。剣の腹が俺の胴体を打ち据え内臓を掻き乱す。

 

 なんだ―――この女ッ?

 

 冗談抜きで強い。あり得ない。この俺が圧倒されている!?エリート産であるこの俺を!女風情がこの俺を嬲るかッ!!女に!?

 

 

 あの時流れ込んだ情景の一幕。黒煙上がる戦場でいつだって一人で敵も味方も殺しつくした忘れられし英雄。

 不思議な力を纏わせ、いつも空を仰ぐ少女。襲い掛かる不死の精鋭との終わらぬ剣戟。いつだって”アリス”は過酷な戦場を支配していたじゃないか。あのヨルムですら何度も敗走している。

 

 ・・・・カリキュラムの一環で俺が外界調査で化物たちと戦った経験があろうとも比にならぬ密度。なによりも対人戦の経験が違い過ぎた。実戦を基に培った戦いの勘は予知めいた動作で俺の行動を手に取る。背後に目でもついているかと錯覚する。

 

 ・・・いや、圧倒されて当然なのだ。意識を変えよう。俺は・・・挑戦者だ。外聞も捨てて勝利を求める。その無駄にでかい胸を借りさせてもらう。

 

 ――――――俺は後ろに大きく跳んだ。

 

 

 

 

(なんだぁ・・・??一端離れた?なんで距離の有利を・・?) 

 

 ”アリス”はその行動に眉を顰める。 

 

 剣の間合いを恐れ零距離での近接戦を選択したはずが自ら離れるだと。だからといって無理に追いはしない。時間はいつだって”アリス”の味方だ。警戒しながらも自然体で構える。

 

 剣技も体術も誰かに習ったことはない。全てを戦場で培い行きついた戦いの所作。自然体こそ万全たる構えと知る。

 

 血塗れの顔面。恋都は素の感情を隠そうともしない。必死な面持ちで拳を構える。そういう態度もできるのだなと微笑ましく思える。こう思えるのも余裕を保つ秘訣だ。

 

 ここにきて初めて両者が構えた。

 

 

 

 

 ドガァッッッ!!!

 

 激突する”アリス”と恋都。

 

 爆音が瓦礫を巻き上げ湿度の足りた空間に土煙を巻き上げる。もちろん軍配を挙げたのは”アリス”であった。灰色のヴェールを勢いよく突き破り恋都の体が地面を跳ねる。

 

「がッハァ」

 

 すぐに追撃はやって来た。後を追うように土煙から飛び出した”アリス”が宙を反転しながら剣を叩きつける。衝撃が地を這い大地を割る。今の衝撃で完全に第三階層は潰れた。

 

「――ッ」

 

 吹き飛んだ勢いに任せ寸前で起き上がり躱してみせる恋都は手ごろな瓦礫を投げつけながら”アリス”に接近する。徐々に加速する健脚。残像を残し大きく飛んだ。まだ残る神の力の残滓が人外じみた動きを可能にする。

 

「無 駄」

 

 それを冷静な面持ちで”アリス”は無駄だと吐き捨てる。

 

 空中では受け身も回避も不可。恋都は残りカスの力を使い肉体を強化するのが精一杯。当たり前だ。人間に神の力は扱えない。器の完成形たる恋都の肉体でも普段はできない非常識な現象を発現させるには頭が足りない。この世に理解及ばぬ限り”この”領域に踏み入れることは人間では絶対に不可能。インスピレーションの問題ではない。人間には無理なのだ。中身の満たされない結果に意味などない。結末だけでは物語は語れない。

 

 ”アリス”は冷静に剣で迎え撃とうとする。そこに巨大な影が差す。崩れ落ちる瓦礫の山の一角が重量を振るわせ”アリス”に向かって倒壊する。

 

 恋都の投石の真の目的であった。

 

 想定通り巨大な物質が恋都の姿を眩ます。

 

「無駄だって・・・いってるじゃんッ!!」

 

 風を切る音は悲鳴を上げる。雑多な塊に対する一閃は光を放ち衝撃が貫通する。

 

 ――――――粉々の瓦礫が舞う中、視界の端に揺らめく何かを捉え”アリス”は間髪入れずに切り込んだ。

 

 切り分けた瓦礫。 

 

 その影には恋都の衣服が張り付いているのみ。

 

 ――――誘われた。

 

 ”アリス”はブラフだと思考が追い付いた瞬間、顎に衝撃が奔る。吹き飛びながらも目だけがグリリと擬音を立て敵の姿を焼き付ける。なぜかパンツ一丁の恋都が肌色全開で転がる”アリス”を追いすがる。

 

「!!!??」

 

 なんだその恰好!?

 

当然の疑問を当然の様に感じながら当たり前の感性で混乱する。まさかの撹乱。

 

 混乱もかくやいなや異常なトップスピードで追いついた恋都は宙を舞う”アリス”の回転剣をしっかりと躱しながら上空に蹴り上げた。

 

「ゴバァッ」

 

 鍛え上げられた肉体から繰り出される手加減なしの全力。腹部に、それも肝臓にしっかりと突き刺さる爪先が内臓を潰す。圧迫される内臓が血を圧し出し浮遊感が包む。急激に上昇していく”アリス”の体。鋭い風に曝されながら天より降り注ぐ破片に身を削り上昇していく。

 

 ドゴォォォォォォォッ!!

 

 恋都が宙に躍り出しお手玉の如き”アリス”を豪脚が襲う。

 

「がァッ」

 

 今度はただでは済まさない。”アリス”は寸前で恋都に剣を突き出す。ただ我武者羅に。

 

 その結果は痛み分け。

 

 恋都の喉元に突き刺さった剣が蹴りの威力を弱めた。”アリス”は蹴り飛ばされまいと必死に柄を放さない。

 

「ガアアァァァァァァァ!!」

 

 首に突き刺さった剣を辿り”アリス”は恋都に掴みかかる。馬鹿げた握力が肉に喰らい付く。

 

「ウ”ッぐおおお」

 

 それからお互いにもみくちゃになり、大地へと落下する。どちらを下敷きにするのか・・主導権を争い髪を掴み合い殴り合う。

 

「ぐぇ!」

 

「うぎゃ!」

 

 そのまま両者共にささくれた大地へ着弾する。頭を打ち据え衝撃が首の骨を折る。ピクピクと痙攣するもしっかりと生きている。起き上がるのもまた同時。

 

 

 俺が、ボクが先だと言わんばかりに体勢を取り直し戦いに挑む。

 

 

 残像を残し二人は駆け何度も激突し合う。恋都はすでに剣の間合いを把握済み。正面からの戦闘でも圧倒されることもなくなったが、不利であることに変わりはない。考えてみれば当たり前だ。”アリス”が今まで相手にしてきた敵は不死者だ。近接戦闘のスペシャリストたちばかり。

 

 こと対不死者の戦闘に関してこいつの右に出る者はいないだろう。不死者との戦い方を熟知した”アリス”に対して、なぜ・・・俺は不死者の戦い方で挑んでしまったのか・・・

 

 戦いとは常に効率を求めるもの。効率のいい殺しの方法をいつの時代も求められてきた。石から始まり、試行錯誤を経てそれがボタン一つで数千万人を殺せるにまで至った。不死者の戦いは自身を顧みない攻めの極致。防御を捨てカウンターでの相打ちで採算を必ず得る。

 

 死なぬのだ。爆弾でも持って敵陣に突っ込む自爆戦法はさぞかし効果的であろう。

 

 そんな戦い方を続ければ正統なる技量は堕ち邪道に走る。知らないうちに技の磨きが色褪せていた。不死者の枠に囚われていては勝てやしない。

 

 考えてみろ。”アリス”がわざわざ剣を取り出したのは少しでも間合いが欲しかったからだ。距離が相打ちを防ぎ遠ざけてくれる。実にシンプルな答えだ。剣は素手の俺に対し十分すぎる間合い。

 

 ――――――だから、これからは”俺の”戦い方をすればいいのだ。

 

 俺が培った技術の全てを開陳してやるまでだ。

 

 それに、まだ体は動く!!俺はまだ生きているッ!

 

 なんでこんなに―――楽しいんだ!?

 

 恋都は困惑しつつもその口元は確かに笑っていた。

 

 そうかッ、ヨルムもこういう気持ちだったのだな。

 

 ヨルムッ!!見ててくれ!それで褒めてくれ!!

 

 命が最も輝きを放つ最後の瞬間。もう時間が無い。

 

 

 

 

 

 恋都の動きが変わった。”アリス”は肌で感じ取る。

 

 戦いの中でしかわからぬ変化の機微。 

 

 ”アリス”に対し未知なる動きで恋都は仕掛ける。変則的かつ鋭い攻撃。鞭の様にしなる腕が防御の隙間を縫い顔面を突く。余りにも不規則であり、倒れたと見せかけあり得ない姿勢からのフィンガージャブで執拗に目を狙い、大胆に肘が目蓋を切り裂き視界に血を垂らす。

 

 不死者特有の容赦のない目つぶし。突き指など些細な問題だ。誰しも目を狙われれば嫌でも意識してしまう。

 

 恋都はバランスの崩した体勢からは想像もできない重い痛打を放つ。驚くことに完全なる重心移動をこの男は心得ていた。打撃の後に重い圧が”アリス”に襲い掛かる。的確に内臓にダメージを負わせてくるのだ。常人であれば内臓を吐いて死ぬ一撃。全ての行動が淀みなく行われるのだ。

 

 不死者特有のダメージ前提行動が消えた――――

 

 自身の攻撃による突き指などは相変わらずだが、こちらの攻撃をよく避けるようになっていた。

 

 不死者は効率よく敵を殺すためにクロスカウンターでの一撃必殺を行う。終末戦争において不死者側は圧倒的な数の不利があった。そのために一人の敵に対し二度以上の攻撃は効率が悪いと、近接戦において確殺戦法が重視された。

 

 一般兵からすれば全身に剣や槍を突き刺したまま迫りくる不死者は悪夢の光景だったそうな。防御する相手にはリミッターの外れた膂力が防御ごと叩き伏せる。もしくは敵の足を負傷させる。雪原で動けなくなれば自ずと冷気で死ぬ。

 

「ゴァ――こ、こいつッぶぇ」 

 

 小細工がっ・・多いぃ!

 

 ”アリス”の体には点々と流血が増えていた。恋都は隙あらば親指を突き刺し肉を抉って出血を強いる。ことあるごとに目を執拗に狙い、肘で額を切り裂き流血が視界を赤く染めその死角に回る。指先が絡めば小枝の様にへし折ってくる。行動の制限を強いることで少しでも有利に戦う。

 

 ほら、また来る。

 

 おもむろに振りかぶったテレフォンパンチ。見え透いた大ぶりの右拳・・と思わせてからの左からの高速のジャブ。着弾点はやはり目。引いた拳による回転からの肘によるエッジ。初見であるが見事に受け流す”アリス”もかくや、恋都の腕を掴み頭突きをかましこちらも負けじと右手に絡めた指先を丁寧にへし折る。

 

 そこに”アリス”の頭へと衝撃が襲う。完全な意識外からの攻撃だった。

 

 ッッこ”、の”

 

 側転からの踵による襲撃。そこを起点に戦いのスタイルがまた切り替わる。腰を低く重心を安定させた蹴り主体の構え。余りにも技の引き出しが多い。ころころ変わる体験したことの無い格闘技を打ち込まれる。おまけに一度見せた技は二度と使わない徹底っぷり。初見の攻撃に対し高い対応力を見せたのが仇となったか。

 

「くふ、ふふふははは!!」

 

 それでも”アリス”は笑う。

 

 どうしてか楽しかったのだ。

 

 投げも織り交ぜ何度関節を破壊された事か。やはり素肌を晒したのは感覚を鋭敏にするためなのだ。肌で、全身で殺気や敵意を感じ視界に頼らぬ獣の戦いを実践するか。

 

 この男はよりにもよって痛みを切り離したボクに痛みを感じさせる。神が降臨した際に恋都に祝福を与えたに違いない。敵がまた一人増えた。

 

 いや、そうか。こいつこそが本当の天敵だったのか。

 

 だがなぁ、もうがんばるなよ~。意味の無い事をするなよ。一時的に圧倒したから何だというのか。先はもう短い癖に。

 

 互いに不死身。どこまでも不毛なる戦いに終止符はつくのか・・一見恋都に圧倒されている”アリス”の構図。その実、焦っているのは恋都の方であった。

 

 彼を今まで守っていた”アリス”はもういない。絶対なる異神を前に不死性を保てたのは彼を影から守る”アリス”のおかげだった。対となる神の加護が完全なる不死性を体現させた。だから、ああまで戦えたのだ。

 

 恋都の魂はすでに限界寸前。神の力に侵され崩壊までカウントダウンが始まっている。

 

 ただ負けたくなかった。座して死を待つなど認められるものでない。意地があった。つまらぬ男の意地。純粋に”アリス”の勝ち逃げが許せない。気にくわない。だたそれだけの理由で無様に足に縋りつき引っ張るのだ。イグナイツが”アリス”ならばまだリベンジは完了していない。

 

 奴を、上から見下ろしたい。

 

 さあ勝負を仕掛けよう。生きた証をこの傲慢なる神の記憶に刻むために。

 

 

「「ッ!」」

 

 

 恋都が踏み込み大地が陥没する。ここにきて不死者の戦いを選択する。真正面からの不意打ち紛い。全体重が乗った至高の一撃が解き放たれる。

 

 だが、、、、

 

(ッ!・・・マジか)

 

 仕掛けたのは彼だけではなかった。来ることが分かっていたかのように”アリス”は既視感の在る構えを取っていた。

 

 それは上段の構えられた必勝の剣。

 

 ヨルムを苦しめ、俺を切り裂きアリスすら認めさせた絶対者の象徴。

 

(神が・・・人の真似事をするかッ?)

 

 おまけに、これは迎撃ではない。

 

 これもまた不死者の――――

 

 交差する記憶の残照。お互いに攻撃をその身に受ける。

 

 

 

「―――――――――――――――うヴ―」

 

 

 恋都は静かに瞼を開く。

 

 どこまでも静かな残心。崩壊する空間だけが取り残されていた。恋都の拳は”アリス”の腹部を突き破っていた。そしてまた、”アリス”の”一文字”も恋都の肩から腹部まで切り裂いていた。

 

 がくり、と恋都は力なく”アリス”の柔らかな体に寄りかかる。

 

「・・やっぱり思い付きでやるもんじゃないね。ボクでも再現は難しいや」

 

「・・・・・・、強い な」

 

「どうしたの急に。ボクを褒めてもボクが嬉しいだけだよ。ほらもっと苦しめ。それでもボクは喜ぶからね」

 

 グリグリと剣を捻じる”アリス”。血を吐きながら恋都は”アリス”を抱き寄せた。

 

「寂しいんだ・・・このまま死ぬのが。初めてそう思えたんだ。俺さ、全力で戦ったのはこれで初めてなんだ。それで負けだ。どうもさ、俺はお前みたいなどうしようもない奴が好きみたいだ」

 

「・・・ボクも君は嫌いじゃないよ。色々とあったけど君なしじゃボクは産まれてこなかったしね」

 

 ”アリス”にしても恋都は奇妙な立ち位置にいた。特殊過ぎてどう評せばいいのかわからない。遠くでは輝いているのに、いざ近くにいると腹立たしい。

 

 この瞬間に至った経緯は感慨深くノスタルジックな気持ちになる。

 

 ――――彼はもう死ぬ。

 

 そう考えると少し寂しい気分にもなる”アリス”であった。

 

 崩壊するゲームマスターのホームが凋落していく。涙の様に瓦礫は崩れ落ち水が滴る。

 

 幾度となく望んだ結末なのに、なぜか余り嬉しく思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?あの、ん?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 剣が抜けない。それどころか傷跡が再生し完全に肉体に埋まっている。ピシピシと不穏な予兆が耳に届く。離れようとするも貫通した恋都の腕も抜けない。

 

「あの、恋都?」

 

「・・・さっき、地面を踏み砕いておいた。位置取りに苦労したけど上手くいったんだなこれが」

 

「ちょッフザケンナよ!!こんなところで水没はシャレにならないって!!」

 

「フッハハハハ!”アリス”ッッ!嫌がらせは楽しいなあ!!いい表情だッこれはヨルムにもいい報告が出来そうだ!――――少し付き合えよ。心中も悪くないぞ」

 

 バゴリ、と地面は斜めになり浮遊感に二人は身を踊らせる。

 

 下は水位は満たされ一帯が水に沈んでいた。”アリス”は叫びもがくも拘束する恋都の腕はビクリともしない。

 

 彼はもう反応しない。満足げな顔ですでに事切れていた。思わず”アリス”は男の名を呟いた。

 

「  」

 

 バチャリとその身を水に晒しながら泡の中に消えていく。彼らはここから二度と浮上することは無かった。倒壊する瓦礫の山が後を追うように続く。粉塵すら起きぬまでに神聖なる霊水が満たしていく。人知れず人知を超えた戦いの一幕に終わりを告げた瞬間であった。

 

 かくして悪名高い”不帰の古戦場跡”は誰にも知られる事無く没した。

 

 長き混迷の微睡は終わりを迎えた。多くの英雄が散り霧散する。勝者などどこにもいない。だが、確かに世界は今も存続しているのは彼らの尽力があってこそ。

 

 だからこそ、運命は魅せられた。どうしようもないこの舞台に。揺り籠はいつまでも揺れ動く。

 

 いつまでも、どこまでも。次なる演目を求め、心待ちにしておりまますス。

 

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