オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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ここからエピローグです。


第77話 首輪の外れた獣たち

 

 ここで、ある一幕を語ろう。

 

 

 ――――――――――Side/守護者

 

 

「指令代行ッ!」

 

「じょ、状況を把握するんだ・・早く・・ゴホッゲホッ―――」

 

「―――――まずは止血を・・」

 

 謎の衝撃と共に間欠泉の如く水が吹き上がる第一階層。下からの突き上げに第二階層との境界線は破壊され建造物も崩壊。指令室もまたその煽りを受け内部では多くの守護者が瓦礫の下敷きになった。

 

「早く・・状況を・・・」

 

 指令代行と呼ばれた守護者は立ち上がろうとする。

 

 一時的な代理・・それでもトップの役職を預かる身。自己を顧みず状況の把握に務める。立場の重さがそうさせるのではない。恥の無い生き方をするために課せられた責務をまっとうする。

 

 比較的軽傷だった者たちはまだ動く機材を使い現状確認を急ぐ。周囲一帯では救出作業が始まっているが・・

 

 未知なる力の爆発。衝撃波は下から突き上げた。第一階層でこの惨状。第二階層より下層の生存者は絶望的だ。おまけに浸水ときた。ここはもう終わりなのか・・・

 

 不安が嫌な想像ばかりを見せつける。これは現実だと状況は逃げ道を崩す。

 

 ホームの陥落は守護者によって世界の終わりと同義。誰に予想できた。我々の世界が日常が崩壊していく。マスターの消息すら分からずじまい。私はなんて無能なんだ・・

 

「ひっくッひッ―――う”うぅ。私がしっかりしてないから”――」

 

「代行!?大丈夫ですって!代行は頑張ってますって!」  

 

「本当かぁ~それ本当か~~ッ?」

 

「ダメだこの人。完全に弱っとるッ!」

 

 咽び泣く指令代行を労わる部下たち。それが更に情けなさを助長させ涙を溢させる。

 

 畜生!統括室長はどこで何してるんだよッ!

 

 本来いるべきはずの上司に愚痴を吐く。

 

「ッ!地上部隊との有線通信です!敵性勢力の殲滅完了。地上での神災も消失を確認したとのこと!救助要請を出しますか・・?」

 

「う”~~ぐす・・ダメ・・それはダメだ。それよりも地表での安全確保と篝火による陣地形成を優先させろ。そして―――」

 

 そして・・・・なんだ・・?

 

 無意識に至った結論に戸惑い、思考が止まる。

 

 私はみんなを地上に逃がしてどうするつもりなんだ・・?崩壊したからと・・我らのホームを捨てるのか?

 

 マスターの安否確認もできていないのに、どうしてそう思い至った。この胸の喪失感はなんだ。どうしてマスターは死んだと思ったのだ。地表に出てどうするつもりだ。

 

 答は出ている。何をどうすればいいのか、その先の方策も明確に提示できる。

 

 それを事実上のトップである私が宣言することは・・この場所の終わりを告げることと同義。

 

 動きを止めるには十分すぎる理由。守護者にとってマスターとは絶対なる創造主。マスター無しに生きていくことが想像もつかない。半ばマスターの死の確信があれどこのまま後を追うことこそが正解ではとすら考えが及ぶ。ここにいても仕方ない。されど感情がここに留まらせようとする。

 

 

『おい、何をやっている』

 

「!!」

 

 沈痛な面持ちを破らせる貫禄のある声。瞠目してしまう。

 

『まったくトップたるもの部下を不安がらせるな。毅然としていろ』

 

「と、統括室長!?――ッあんた今どこにいるんですかッ!?こっちは今大変なことにッ・・」

 

 まさかの通信。喜びよりも戸惑いと怒りが湧いてくる。ここにいない奴が好き勝手に言ってくれる。どんな思いで指揮していたと思っているんだ。感情が爆発し喉元まで顔を出すも統括室長の次の一声が押しとどめた。

 

 

『マスターが戦死なされた』

 

「え」

 

 

 時が、止まったような錯覚に襲われる。思考が光に溶けるが如く麻痺していく。通信を聞いた耳のいい者たちはキョトンとした顔で周囲を見渡す。そうやってわからない振りをする。他の顔色を窺い同調を求める。現実から目を背けようと、聞き間違いだと逃避する。

 

 通信越しでも空気を察したのか大声で呼びかけてくる。

 

『聞けッ!マスターは死んだッ!それでも我々は生きねばならないッ!!それがマスター最後の命令だ。自由に生きろと仰せつかった!!故に遺言立会人の私が宣言する!緊急時指令211を発令するッ』

 

 緊急時指令211・・・つまりそれが意味することは・・

 

『誰一人マスターの後を追う事は許さん。それはマスターの意志に反する愚行と思え。ひいては現時点をもって私の権限の全てを指令代行に移譲するものとする。私の代わりに皆を統率してみせろ』

 

「え、なッ!あなたはどうするんですか!?」

 

『残念なことに私は怪我で後が短い。わざわざ貴様を指名してやったんだ・・・後の事は頼んだよ”ネフティア”』

 

 プツリと一方的に通信が途絶える。

 

「ッ!―――もうッ発信源はどこからッ?」

 

「――――詳細な位置は特定できませんでしたが・・第二階層からです」

 

 ガンッ、と拳を打ち付ける。救出するには遠すぎる距離。先の崩壊で構造も滅茶苦茶。迂闊に転移を使えば大怪我では済まない。

 

 ・・・いつだってそうだ。奴は勝手過ぎるのだ。

 

 統括本部の主席と次席。結局一度も彼女に勝ることが無かった。いつだって私は二番手。このまま勝ち逃げされる私の、私の気持ちはどうなんだ・・

 

 最後の最後に名前で呼びやがって・・・そんなの卑怯だ・・

 

「・・・・・・」

 

「指令・・・」

 

 皆が私の顔を見つめ命令を待っている。よろめきながらも流血する頭を抑え部下の手を借り立ち上がる。もう知らん。マスター最後の命令に則りここからは私流で生きてやる。

 

 頼まれなくたってやってやる。誰の為でなく自分の為に!

 

「統括指令として命令を下す。緊急時指令211に従い拠点を放棄する。生存者は可能な限りの物資を掻き集め、怪我人を回収。地表に出次第、展開された簡易拠点で部隊を編成。終わり次第、痕跡を消しつつ―――――帝国領”工業都市キャナルディス”を目指す。先遣隊は潜入工作組の”黎明”と合流させて受け入れの準備に取り掛からせるんだッ」

 

 

 

 

 かくして”不帰の古戦場跡”は誰に知られる事も無くひっそりと崩壊した。築き上げられた文明は水の底。栄華を誇りし黄金卿は二度と日を拝むことは無い。元よりこの地は僻地。厳しい環境下に魔獣と、隠されし文明の光は誰の目にを触れることはない。正確なダンジョンの位置を知る者は何処にもいないのだから。崩壊した後も噂だけが不帰の伝説を一人歩きさせることだろう。

 

 一部の例外を除けばだが・・・・

 

 結果として首輪の外された獣たちが解放されてしまった。

 

 高度な知識と未知なる技術の流出。そして力。

 

 ――――――それがどんな影響を与えることになるのかまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――Side/統括室長

 

 

「まったく、手のかかる」

 

 崩壊する地下空間で統括室長は一人暮れなずむ。肩の荷が下り深いため息を吐く。すぐ隣にはかつての支配者の遺体。それを複雑な思いで眺める。

 

 これで、よかったのだ。これで。

 

 マスターですら知らない真実。それを考えればこの結末はある意味救いだったのだろう。

 

「・・・・ち」

 

 懐で振動する機械に舌打ちが飛ぶ。ゆっくりとした動作で振動する物体に手を伸ばす。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・はい、お考えのとおり崩壊しました。よかったですね。・・さあ?そのような人物に心当たりは御座いません。肝心のお父様は死んでしまいましたので。もうあなたに協力する意味はありませんから。私も永く生きすぎました。ここで朽ち果てようと思います。―――――今まで本当に無駄な時間をありがとうございました。糞ボケが死ね」

 

 暴言と共に特殊めいた通信機を握りつぶし水中に投げ込む。孤気味のいい音と共に胸がすっとする。ようやく解放されたのだ。

 

 最後の暴言は気持ちがよかったなあ――――

 

 

 

 

 ・・・マスターを殺したあの男。今となっては”あの女”と同士撃ちし水底へと落ち二度と浮上することは無かった。一石二鳥とはこのこと。欲を言えば私が両者を殺してやりたかった。特に女の方は許しがたい。あの簒奪者は特に・・・・・

 

 ・・・が、この私ですら後れを取るまでに彼らの戦闘模様は次元が違った。

 

 あの男がもし”奴”の標的であったのならばこれで奴の企みにも遅延が、それどころか崩壊したのかもしれない。

 

 そう思うと口元も緩むというもの。

 

 まったく・・気分がいいものだ。ね、お父様―――

 

 物言わぬ死体に寄り添いながら一つの栄華の終焉を見届ける。守護者のみんなを巻き込む必要はない。

 

 ネフティアであればこれからの脅威に対抗し見事に統率してくれることだろう。

 

 これで、ようやく休める―――

 

 

 

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