オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第78話 これからの再出発

 

 

 ――――――――――Side/グレイズ

 

 

 ―――――僕は決してあそこでの体験を忘れないだろう。どこまでも広がる命がけの危険地帯。一度だって納得のいく戦いはしていない。生きているのが不思議なぐらいに過酷過ぎた世界。

 

 多くの命が散り探索者は嫌でも三大禁忌の意味を知ることとなる。

 

 それに比べればだ。

 

 現在、騎士見習いのグレイズが置かれた状況などなんてことはない。比べることも烏滸がましい。

 

 ざわざわとした嘲笑交じりの喧騒。不思議と耳に障る事も無い。経験が自身を成長させたのか、随分と感じ方も変わったものだ。

 

「これより、学年別交流戦第一試合を行う。登録選手は前に!」

 

 通路の先から差し込む光を辿り会場へと足を踏み入れる。

 

 そこにグレイズが姿を現すとざわざわと学園の見物人が騒めく。如何にも笑いが抑えられないとニヤニヤとした顔を隠さず指さし揶揄する。

 

 落伍者(ルーザー)と――――

 

 

 

 

 あれから一カ月はたったか。グレイズは命からがら聖王国領、自由商業都市へと帰還することができた。

 

 それもこれも同行者が火継守だったのとBランクな道先案内人がいてこそ。道中の障害を跳ねのけ、正確に最短で目的地へと導いてくれた。火継守が重宝され優遇される理由を身をもって知らしめられた。冒険キチの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 

 問題は帰ってからだった。

 

「はーん、貴様が噂の負け犬か。通りで辛気臭い面をしている訳だ。生きてて恥ずかしくないのかよ、おい」

 

 砂がひしめく円形のドーム。もう一人の入場者が姿を現すと歓声が湧き、熱気が生まれる。それに手を挙げ応える対戦者。

 

 

 本当になんでこうなった??

 

 

 騎士団に体験入団してからの外界探索からダンジョンでの生活。グレイズの帰還は優に一カ月以上もの後であった。

 

 それはもう大騒ぎである。なんせ死人が帰還したのだ。

 

 普通は外界での消息不明は1週間で死亡と見なされる。カンテラに灯した火は強力なモノでも3日しか持たない。火の維持・継続をさせるには熱量の調整が可能な火継守であるか、火石等の道具が必要となる。

 

 懐事情の良くない末端騎士団ではそう確保できる物ではない地味に高価な品。それ故に外界探索時のゲート受付での申請での帰還の目算から大幅に外れれば行方不明扱いとなる。二次被害を考慮し捜索隊など組まれることはまず無い。

 

 このような事情がありグレイズは奇跡の帰還者として少し有名になりつつあった。

 

 ・・・・おかげで要らない噂もたてられる。

 

 

「どいつもこいつも騒ぎ過ぎだよなあ。騎士団は壊滅して貴様みたいな劣等生だけが生き残るとか・・貴様何をしたんだ?見殺しにしたのか?それをいい感じに奇跡を演出して見せて、そうやって煙に巻くつもりだったんだろが浅いんだよ、平民風情が。栄養が脳まで足りてねえなぁ」

 

 中央で対峙する二人。大柄の体格に精悍な顔つきをした特級生代表のマフラス先輩。最初から嫌悪感を隠そうともしない。

 

 彼は僕が鼻をへし折ったフレシアさんの兄になる。明らかに刺客。まさか公の場で合法的に潰しに来るのかよ。それも身内自ら始末を付けに来るとは思いもしなかった。フレシアさんが僕を推薦する理由はこれか。僕を絶対に逃がさないつもりかい。

 

 一年に一度、学園の成果を発表する学年別交流戦。一般人にも開かれ学園の権威を知らしめる。本来であれば僕はここにいていいような人間ではない。対戦相手はよりにもよって特級生代表だ・・

 

 特級生・・騎士学校は通常2年のカリキュラムを持って卒業なのだが、2年目の進級時に貴族の子息は特別棟に編入する。

 

 一応、1年目に才能を見込まれた一般生徒も進むことが可能なエリートコース。特級生は基本貴族の集まり。独自のコミュニティが築かれている。将来的には国の運営に関わる者たちで構成される。

 

 その実力たるや、貴族とは幼少期から既に魔術や宮廷剣術を嗜み一般人とは土壌が違う。なにより血というわかりやすい才能。貴族だけあって火属性も多い。貴族とはステータスであり強さの証明でもある。

 

 そして魔術師の卵だ。

 

「妹の、女性の顔を傷つけるなど言語道断!劣等生はここで事故に遭わせてやるよ。取るに足りない落ちこぼれが」

 

 グレイズにしても代表選手推薦は断りたかったがこれを断ることはまずあり得ない。おまけに貴族からの推薦だ。断れば泥を塗り遺恨を残す。

 

 多くの者が指標とし目指すのがこの交流戦への出場だ。将来を決める第一ステップ。名誉ある代表選手を断ればそれを目指す者にどう映るかなどわかりきっている。被害が及ぶのが僕だけならまだいい。だが世話になった人まで後ろ指を指されるのは御免だった。都市と言う広いようで小さな隔絶世界で生きていくには風評は無視できるものでない。

 

 

 

 

 ――――――――――Side/???

 

 

「ほうほう、彼が例の古戦場跡からの”自称”帰還者君か」

 

「・・ヘレス様。お部屋をご用意しております。なにもここからでなくても」

 

「かまわんだろ。私の継承位では顔を知る者もいまい」

 

 会場の上層。流れる一般人に交じり何者かが全体を見渡す。

 

「いつ来てもここの空気はいい。今回は趣向も違っているし、これはこれでなかなか・・」

 

 一般人はまさかこれから公開処刑が執り行われるとは思いもしないだろうな。

 

 視線は依然、会場中心部へと注がれる。

 

 グレイズ君、だったか・・ヘルベフス家に相当に恨まれているじゃないか。平民が貴族の鼻を折るなど前代未聞。それも火継守のだ。教官達の離間工作も空しく公の場にまで引きずり出されてしまった。

 

 せっかく見事に演出して見せた奇跡の帰還も意味がなくなる。

 

「それにしても古戦場跡から逃げ帰った、ね・・・うくく、もう少し。こう、他に言い訳は思いつかなかったのかな?」

 

「まあ、理に適っております。なにせ実際にあるのかどうか確認の仕様がないのですから」

 

 三大禁忌とまで言わしめた不帰の古戦場跡。あのダンジョンから逃げ帰って来たなど、彼はどうも不帰の意味を知らなかったらしい。

 

 私は正直伝説が独り歩きし過ぎた結果ではないのかと思っている。そもそも誰にも見つけることができないあるかどうかも分からないダンジョン。奇跡の演出にしては盛り過ぎて杜撰に見えるがこれぐらい大げさなほうが大衆受けはいい。

 

 一部では生き証人としてどこぞの団体が彼を擁立しようとする話も出ているくらいに・・・

 

 そのせいで自身の首を絞めることになっているのが笑えるのだ。身から出た錆とはまさにこのこと。少し有名になり過ぎて余計な者に目を付けられてしまった。

 

「だが、まさか緋色原石を持ち帰るとはな・・」

 

 恐らくどこぞの未発見ダンジョンに潜ったのは本当だろう。原石は学園に帰納され万々歳・・といきたいところだが。

 

 功名心に欲が出たのかよりにもよって古戦場だと喧伝したのは良くない。

 

 彼は元々、学園内での揉め事が原因で立場が危うくなり退学になる予定だったと聞く。退学すれば学園の庇護の下から離れヘルベフス家から刺客が送り込まれていたのが容易に想像できる。顔がいいからもっと悪い目にあっていたかもしれない。

 

 だからこそある教官が古巣のコネを使い騎士団へと潜り込ませ退学を撤回できるだけの”何か”を手にし、それでヘルベフス家と手打ち、もしくは有益な発見を狙った。

 

 その成果で学園内での箔を付ければ易々と権力によって退学に追い込めない。この学園の根差す土地は聖王直轄の中立地帯。学園の一生徒として功績を挙げればそう易々と外部からの口出しも難しい。例えそれが多額の出資をしているヘルベフス家でもだ。歴史と伝統のある学園は聖王様の権威の象徴。限度を超えた干渉、つまり一線を超えれば聖王の顔に唾を吐いたのと同義。地方貴族にそこまでやるメリットはない。

 

 ・・・だからこんな事になってるんだがね。

 

「そもそもあの一帯が禁忌指定を受けたのは何もダンジョンの存在だけではありません。厳しい環境に、あそこを縄張りとするホワイトブリムがおります。騎士見習いの実力で生き延びれる可能性はゼロでしょう」

 

 ホワイトブリム・・・例の危険原生生物か。そりゃ無理な話だ。

 

「まあ、これはこれで面白い見世物だ。もしかすれば、なんてこともあるかもしれんぞ」

 

「・・はあ、まったく、心にもないことを」

 

 古戦場跡からの帰還者として一躍有名になってしまった彼だが、もはや成果云々の話では済む段階でなくなった。持ち帰った緋色原石が噂に真実味を持たせてしまった。伝説に、生き証人、そして明確な成果が合わせれば、熱に当てられ夢想を抱く愚か者も現れる。

 

 はっきり言って彼が有名になると困る者たちがいる。勿論嫉妬ややっかみもあるだろう。理由の大半は模倣犯の抑制と無謀な自殺志願者を減らす為だ。

 

 古戦場に眠る未知なる技術や財宝の話が本当かどうかはなど、この際どうだっていい。危険地帯に踏み込む犠牲者を減らさねばならない。既に先走った愚かな冒険者は数百人規模だと報告を受けている。当然生還者もまたゼロだ。

 

 それもこれも彼の不用意な発言が原因だ。

 

 残念だが有名になれば危険は及ばないとでも考えたのだろう。それは悪手だ。

 

 騎士の存在から聖王国とは仲の悪いあの冒険者ギルドからも嘆願がくる程に冒険者達は熱狂している。ギルドからしてもあるかどうかも分からない黄金卿よりも身近な生活圏での堅実な依頼を費やすことのほうが大事だ。ただでさえ聖王国では依頼をこなす冒険者の数が少ないのだ。騎士団の存在から存在意義を疑問視されている。

 

 この都市の多くの権力者が事態の収拾を望んでいる。だからこそ用意された舞台。市民にも開かれたこの大舞台で彼は惨めな姿を晒すだろう。功名を利用され交流戦に無理やり捻じ込まれたのだ。彼はヘルベフス家に時間を与え過ぎた。用意されたこの場において実力は誤魔化せない。謀略に殺されるのだ。

 

 氷水騎士団が全滅しておきながら一人生き残ったのも囮にしたからという噂も耳にする。

 

 ここで実力を暴き大ウソつきであることを世に示すことこそ真の目的。個人的に殺す必要はないと思うが、ヘルベフス家のお坊っちゃんは”事故”を起こすつもりのようだ。噂通りのいいお兄ちゃんじゃないか。実力も同年代でも突出した麒麟児とも聞く。勝負はもうついている。

 

 一か月間もどうやって生き延びたのかなど不可解な点も多いがもはや関係無い。そこは大した問題ではないのだ。

 

 

 

 ―――――ざわざわと何やら人ごみがざわつく。

 

 

「ん?どうした」

 

「あれは・・・」

 

 向かい正面。会場渦巻く熱気とは違うどよめきが人垣を掻き分ける。歩み来る二人組。変わった格好をした赤髪の男と、そして、なんだ・・一際異彩を放つ銀髪の女性。妙に浮いた男女のペア。周りの視線を気にすることなく我々の横合いを通り抜けていく。

 

「あれが・・・最近入国したというBランク冒険者・・」

 

 従者の溢す言葉に目を見開く。

 

(ほう、あれが・・・)

 

 男の腰から釣り下げた黄金の認識票がその在り処を主張する。

 

 Bランクとなると・・・事実上の最高ランク冒険者じゃないか。やはり格好もそうだが漂わせる雰囲気からして違っている。それとも一際輝く黄金に目を灼かれただけか?

 

「そういえば【死神】が入国しておりましたな」

 

「知っているのか?」

 

「はい、冒険者でありながら職業(ジョブ)システムの恩恵を受けぬ変わり者だと」

 

 となると職業によるステータスの底上げも、スキル抽出も無しにBランクに至ったのか。それでは本物の怪物ではないか。

 

「衣服で確認できませんでしたが、最近利き手を失ったとの情報も出回ってます」

 

「・・・それでもまだBランク・・なのだな?」

 

 コクリと大柄な従者は頷いた。険しい顔をするじゃないか。

 

 ランク制度は非常に査定が厳しい。完全なる実力と実績の世界。どんな偉業を達しようとも弱体化すればすぐにランクを下げられる。右手が使えないとなれば相応に試されるはずだが・・・それでもBランクとして問題ないと判断されたのか。

 

 大半の冒険者は取るに足らない連中ばかりだが、ランク持ちにまで至ると侮れない。とても個人が保有していい戦力ではなく野放しにできない存在。

 

「ふふ、どうだ。お前なら勝てそうか?」

 

「お戯れを姫様。少なくとも”正面から”では厳しいですな・・・」

 

「それは・・・・・驚きだな・・驚愕」

 

 幾多の戦場を経験し生き残った騎士の中の騎士がそう評すのだ。人生で初めて見たBランク冒険者。やはり市井では面白い発見がある。

 

 

 

 

 

(・・・・・・・・・恐ろしいものだな)

 

 従者は何やら気分を良くされた姫様の姿に微笑みながら、もう一度二人組の背に視線を送る。

 

 男もそうだが、相方の方がどうにも気になって仕方がない。美しさに目が眩んだだけやもしれない。それでも長年の経験からなぜか女の方に警鐘が鳴り続ける。

 

 一抹の不安を感じつつも顔には出さない。従者が主を不安にさせるなど有ってはならない。

 

 女の首から下げた認識票は無色(クリア)。あの見た目だ。ただの愛妾である可能性もある。

 

 だが、あの【死神】の連れともなれば・・・いずれその実力もわかるというものか。

 

 

 ・・・それにしても彼らも物見に来たのだろうか?

 

 

 

 

 ――――――――――Side/リズ&ベルタ

 

 

「・・・・・」

 

「あらら、どうしたのかなリズ」

 

「なんでもないのさ。それよりもいい席を確保しないと」

 

 露店で買ったのか両手いっぱいにジャンクフードとドリンクを抱えた男女の冒険者。露店で打っている変な形の眼鏡や帽子を付け見るからに変な二人組。混雑した人の波の中でありながらまったく接触することなく器用に運ぶ。

 

 それも当然、どういうことか人垣の方が彼らを避けるように道を開けるのだ。一般市民では感じえぬ、リズが前方に放つ微量な殺気が自然と人垣を割る。本能的に避けてしまうのだ。そうでなくとも目ざとい者は腰に下げた認識票の色から避ける事だろう。荒くれ者でも格付けを重んじる。

 

「それ便利だねーリズ」

 

「通りで人に避けられるはずだ。俺は悲しいよ。まあ、お前ならすぐになれるさ。この”高み”に、な。フハハ」

 

 Bランクどうこう以前にランカーはそもそも避けられやすい。糞みたいな荒くれ者が多い冒険者でも顔を下げ道を譲る目に見えた強さのステータス。それが色つきの認識票。ランカーは必ず目に見える位置にそれを掲げる義務がある。

 

 <無色>(クリア)の冒険者が色つきに自ら話しかける事はまずない。それも色つきの中でも最上位の位であるBランクは同じ色つきからも特別視される。生きている世界が違い過ぎる。いきなりぶん殴っても寧ろ相手が謝る程度には効果はある立ち位置だ。

 

 視野の広がったリズがそのことに気が付いたのはごく最近。

 

 今まで周りを慮ることが無かったリズは古戦場跡での筆舌に尽くしがたい体験を経て世界が広がった。

 

 それは成長とも呼ぶ。

 

「人間どもも中々おいしいものを作るじゃん。おいしーよリズ。さあ、リズが持つそのクレープも調査させるんだ!」

 

「食べかけだぞ。まだ手を付けてないこっちにしろって」

 

「それがいいんだよ、それが」

 

「えー汚・・イタッ!!ちょっイタイ!!」

 

 手ごろな冒険者を無言の圧力でどかせ席を確保する。誰だってランカーと敵対したくないものな。ふはは。

 

 それにしてもなんだか面倒なことになったものだ。視線は渦中の人物へと注がれ、これまでの経緯を思い返される。

 

 ダンジョンから脱出し都市付近でグレイズとはひとまず別れた。理由としては、まず彼はある理由から明確な成果を求め外界探索に志願している。一カ月前に消息を絶ったグレイズが帰還すれば騒ぎになることは確実。事前に相談し合い、ならば逆にと騒ぎを利用し功績を広めることにした。

 

 自力で帰還させたことにするためにはBランク冒険者は邪魔である。ベルタが”作った”緋色原石を持たせ、あたかも一人で帰還させれば実績の無いグレイズにとっていい箔付けになる。需要の高い火石の原石の価値ともなれば無下にも出来ない。

 

 貴族との交渉にも役に立つと思ったが・・・流石に50キロの原石は盛り過ぎたかぁ。デカければいいってものでもないらしい。

 

 後で知ったが国宝級とのこと・・・なにそれ。いつも適当に売っぱらってたから知らなかった。グレイズすまん!

 

 作った本人は隣で知らん顔している。火石はダンジョンや鉱脈で入手するか火継守だけが制作可能な叡智の塊で原石は天然由来の自然物だとばかり周知されてきたが原石って作れるんだなー・・・・

 

 ダンジョンで大量に入手できる理由がよくわかった。あれ、つまり必然的に原石の欠片である火石も作れるってことじゃん。

 

 ・・・・最高かよ。無限に探索し放題じゃないか。

 

 火石は種火であり、生活の上で様々な活躍をする必需品。カンテラの火を継続させる燃料でもあり、それなりに値は張るし気にもなる。

 

「う~んおいしい。人間どもの食文化は極めて文化的だ。メシマズは覚悟の上だったけどなかなかどうして。あれ、どうしたのかなリズ?」

 

「いや、ベルタは・・・最高だなって」

 

「ふふーん。今頃気が付いたの?もっと褒めてくれてもいいんだぜ!」

 

「調子に乗るな」

 

「なんで!?」

 

 一旦、グレイズと別れたのにはまだ理由があった。

 

 これはベルタから目を逸らさせる為にも必要であった。Bランク冒険者でも一カ月以上の消息不明はまずい。帰還すれば過去の事例から成りすましの疑いも持たれるため身辺調査が入る。

 

それにだ。古戦場跡の名を出し喧伝することはベルタのお願いでもある。なんでも都市内に潜む敵性勢力をあぶり出すのにちょうどいいとかなんとか。

 

 彼女が明確に敵と評す相手とはいったい・・?

 

 ・・・・世界って広いな!

 

 ずっとワクワクが止まらないな。最近浮ついているな、オレェ!

 

「あ、始まるみたいだよ」

 

「・・・さて、楽しみだな」

 

 そんなこんなで良かれと思ってやった事だったがこんな事態を呼び込むとは・・・

 

 裏目に出てしまい内心グレイズに謝りながらも、リズはいい機会だとも思っていた。

 

 このまま騎士への道が断たれれば遠慮なく冒険者の道に引きずり込める。あの地獄を共に経験しベルタの正体を知る内情に不和を起こさないグレイズを仲間に引き込みたいのが本音である。少なくともBランク冒険者が後ろ盾になれば貴族ですら矛を収めざる負えない・・収めるよな?

 

 まあ、いざとなれば別の都市に逃げ込めばいいけどさ。都市によって法も違う。

 

 ・・・それもこれもこの結果次第。どう転んでも彼は殺させはしない。横やりが入れば介入する気満々である。

 

 冒険者の力が弱い聖王国内においてもBランクは無視できる存在ではない。試合結果に納得がいかず公然の舞台で揉め事でも起こりどうにもならない状況になってくれれば颯爽と介入し仲間であることを喧伝し助ける。騎士と冒険者は仲が悪い。ここで外で助けてやったことをばらすことでグレイズの印象を悪くし、逃げ場をなくす。大ウソつきのグレイズは冒険者以外に行き場はなくなる。そうなれば目の敵にしている貴族も便乗し排斥の流れを作るだろう。熱狂する民衆の熱は冷め態度は反転する。そうなればもうこの都市では暮らせない。

 

 グレイズに対して悪いなぁとは思う。だが付け入るスキを与える彼もいけない。世の中甘くは無いと教え、冒険者として存分に啓蒙し一流に仕立て上げてやるのも面白い。

 

 この試合がどう転ぶかで彼の人生が決まる。できればあの地獄(主にベルタ)を体験した彼の成果を改めて見せて頂きたいものだ。しがらみと陰謀渦巻く騎士の世界はさぞ生きづらかろうに。

 

 ・・・それでも騎士として苦難の人生を冒険していくのならば、オレはそれを祝福しよう。

 

 

 頑張れ、グレイズ。

 

 でも負けてもいいぞ!

 

 

「なあ、どっちが勝つか賭けないか?」

 

「それだと賭けにならない。様々な要因があったとはいえ、ベルタちゃんと戦って生き残っているんだぜリズ」

 

「やッぱそうだよな~。実は裏で賭けが始まってるんだがグレイズのオッズは9.6倍だと。・・・・今夜はパーっと行くかッ!あいつも誘ってな!」

 

「なに!?いやグレイズはいらなくないかなぁ?二人がいいけどなぁ~」

 

「そう言うなよ。あいつの門出を祝ってやんないとな。祝ってくれるような友達いないみたいだし・・・ギャハハハ。だから、な?」

 

「わかるけども・・わかるけれどもぉ・・・くおぉ」

 

 彼らはグレイズの身を一切心配してなどいない。なんたってその実力はすでに彼らも認める程に体感している。勝つのは必然。彼らは会場中が驚きどよめくさまを見に来たに過ぎないのだ。

 

 なんたってグレイズは未来の一軍なのだからな。

 

 

 

 

 

 ――――――――――Side/マフラス

 

 

「では初め!」

 

 壇上から開始の合図が高々に鳴り響く。

 

「【ファナリー】!!」

 

 開始早々衝撃波がマフラスから放たれる。衝撃は突き抜け大量の砂埃を巻き上げた。砂による天幕。マフラスはそこに飛び込む。

 

 手応えが無いのも当然。あくまでも砂埃を巻き上げ観客の目を排した空間を作り上げることが目的。剣を抜き一直線に敵の喉元へと振りかぶる。

 

 視界の利かない戦闘であれど、いちいち魔術を使わずとも空気や気配を読むことで敵のおおよその位置を把握することは可能。彼はそれができてしまう。

 

 ”誤って”急所に首に剣を当てる。この中では視界も効かず事故として処理されることだろう。刃引きされた剣で在れどマフラスの技量であれば両断できる。そうでなくとも首の骨はへし折れる。気配から相手は棒立ちそのもの。今頃慌てふためいている事だろう。そのことが暗に実力の浅さを如実にしていた。そんな情けの無い実力でよくもまあ大嘘を吐ける。

 

(勘違い野郎は潰しておかねばなぁ!未来の反乱分子は推定死罪だ!貴族に歯向かう愚か者は死ぬべきなんだよォッ!!)

 

 砂を掻き分け鈍い鉄の塊が人影へと一閃を興じる。

 

 ――――少なくともマフラスにはそう見えた。

 

 会場では二人の姿が消えたことでわからない。何が行われようとしているのかは一部の者のみが把握していた。

 

 煙を突き抜け上空へと昇る物こそ誰もがグレイズの影だと思い込んだ。

 

 そんな中で二人の冒険者だけは笑った。

 

 

「やったぜ」

 

 

 

 

 

 

 会場はこれでもかというぐらい静まり返っていた。天井に突き刺さる人影。試合開始から一歩も動くことなく仁王立ちするグレイズ。状況からどう見ても彼が勝者だった。

 

 だのに、思考が追い付かない。理解を拒み、動作が静止する。

 

 どこからか挙がる二つの拍手につられ観客たちの時が動き出す。歓声がドッと襲い掛かる。実力を知る同期は未だに信じられないと目を見開き間抜けに口を開く。ただの劣等生が特級生に勝つなどあり得ない。

 それでも天上に突き刺ささった先輩の体が揺れ現実を物語る。まるで現実味が無かった。多くの者は初手の魔術の威力ばかりに目を釣られ直撃したとばかり思っていたのだ。

 

 誰がこの結果を予想できるのか・・

 

 

 巻き起こる歓声の中でグレイズは改めて決意する。

 

(姉さん、僕はまだ諦めないよ。必ず・・・探しに行くよ)

 

 もはやグレイズにとって特級生代表は敵で無かった。その目はもっと別の所を見ていた。

 

 この世界にはもっとすごい人たちがいる。クラウン大主教の教えは今でも胸で息づいている。

 

 彼はようやく歩み始めたのだ。ダンジョンでの鮮烈な体験が一人の人生を変えた。

 

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