オレをアリスと呼ばないで   作:淫ヴェルズ

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第79話 Aliceは祝福する

 

 ――――――――――Side/???

 

 

 冷たい水の流れがこれでもかと迷い人の体温を奪う。

 

 感覚は遠く身近にあるであろう”アリス”の体すら感じえない。視界には永久の暗黒が広がり”亡者”は流れるままに運ばれていく。

 

 暗雲は未だ晴れず。

 

 

 

 ・・・結局何も分からずじまいだった。

 

 それでも最後に一矢報いてやったからか、気分はいい。

 

 いや違うな・・・俺は初めて全てを出し尽くした。感情も剥き出しに我武者羅だった。最高の時間だったのだ。後悔などあるものか。もう終ってしまったことだ。どうだっていい。

 

 ・・・ヨルムには怒られるかな、それとも褒めてくれるだろうか・・・

 

 水底は深く底の無い深淵を思わせた。肉体も意識もどこまでも、どこまでも堕ちていく。

 

 

 

 

 

 

「バァ♪」

 

「ッ!!?」

 

 突然眼前に広がる女の顔に驚き跳ね起きる。

 

「な、なんッ!?」

 

 初めて見る女がそこにいた。

 

 いや、この隠し切れない邪悪なクソガキ臭に言葉にできない異物感は―――――Aliceだ。

 

 Aliceの顔が間近でニコニコと俺を凝視している。顔を逸らすも瞬時に両手で固定され目を逸らすことも許されない。この有無を言わせない強引さ、神性を含んだ吐息の温もり。

 

 どこか獣臭く心地が良いのだが生理的嫌悪感が体を痙攣させ全力で俺を飛び退かせた。

 

「えへへ、きちゃった♪」

 

「・・・・・・」

 

「もしかして~、あれで終わりだと思った?祈りがある限りAliceは不滅なのにぃクひひふひ」

 

 なけなしの祈りは神を呼び込むには最適だった。満足したと言っても俺は結局どこかにまだ未練があったのかもしれない。

 

 それを見逃す神ではなかったか。そういう神だよなぁこいつはよ。

 

「また、謎の空間・・・つまりはお前の仕業か!」

 

「え~~ここ?ここはね~神域なんだよ。誰もいない何者かの、形だけの玉座だよ。また戻ってきちゃったねぇ。クヒッ、そんなにAliceに会いたかったの?嬉しいなぁ嬉しくって世界がAliceに平伏しちゃうよクヒックヒヒあ”~~」

 

 ここがあの神域だと・・絶句しても仕方がない光景。何もない不気味な光に満ちた空間は見る影もなく、どこもかしこも顔の無い精巧な人形で敷き詰められていた。アリスを象った人形が天と地に所狭しとひしめき合う。なんと趣味が悪い事か。なんか蠢いてるし気のせいであって欲しい。

 

 というか・・Aliceの姿も全然違う。体の関節が全て球体関節に置き換わっている。名残を感じさせるあの大人のアリスを模した人形―――ッ

 

「ああ、この体。いいでしょ。あの子がね、くれたんだよ。救済の代償に体と存在をもって、アリスを助けてって・・・かわいいよねぇ。嫉妬しちゃう”ッだから融合しちゃったの」

 

 キリキリと音を鳴らし新たな体に指を這わせる。

 

 なんだ・・・こいつ・・少しばかりまともになったの、か・・・?

 

 前とは違い精神が安定をきたしている。

 

 正直、不安だ――――――

 

 そんな中、ティーテーブルがポツリと存在感を主張する。倒れた椅子から、今まで俺はそこで突っ伏していたのだと理解する。

 

 椅子は三つ。俺とAlice・・・・そして”アリス”の分。引き込まれたのは俺だけではないらしい。

 

「・・・・・・・ッ」

 

 プルプルと震える”アリス”は無言で顔を下に向けている。恐怖で打ち震えている。あれほど避けてきた存在が傍にいるからなのか。

 

 それよりも、――――――なんだこの視点の低さは!?

 

 

 またかッ!またなのかッ!!

 

 

「何がしたいんだっ!」

 

 恋都はまた継ぎ接ぎのあの体へと戻っていた。勢いあまって椅子を蹴り飛ばしちゃう。

 

「ねえ、知ってる?神は不滅なんだよ。祈る者がいる限りAliceはどこにでも存在するの」

 

「だから俺を生かそうと言うのか!そうまで生きたいのか!頼むからいい加減死んでくれ」

 

「だって、アリスは神ッなんだよ!神は信者を守るんだよ!嬉しいでしょ!ほら感動の再開だよ?抱き着いてそのままあの時の続きをしようよ」

 

 人形が色目を使うのかッ!女の情念とは手に負えんな!!

 

「俺が信者だと?ふざけているのかッ」

 

 アハハハハハハハハハッ!!腹を抱え大笑いする神に”アリス”は小さな悲鳴を上げる。もう半泣きだ。

 

「あれ?あれ?助けてあげたのになんで好きにならないの?褒めてくれないの?なんで?あの時の祈りは嘘?敬いが・・足りない。もしかしてAliceを殺した程度で縁が切れるとでも思ったの?おもしろくないよ」

 

 神は自分の首を締め上げ舌をだらりと垂らす。

 

「Aliceは見つけちゃったんだ!本物のアリスは君だったんだ」

 

 やんやんと顔を抑え興奮気味に悶える。

 

「あんなにAliceに正面からアプローチしてくれたのはアリスだけだよ~酷い目に合わせたのにこれってもしかして両想い・・?クフフ、胸が弾けそうにバクバクしてる。今にも催してしまいそう。神がお漏らしだなんて、クヒヒアハハッ!・・・見たい?」

 

「・・・・・・・・お、俺をアリスだと・・勝手に、捨てておいてッ」

 

 ピキピキとこめかみに血管が浮き上がる。つくづく神って奴は糞なのだなッ!

 

「ねえ、その目やめてよ~やめてやめてやめろ。馬鹿みたいに泣いて喜んで縋ればいいんだよ。これから先はAlice無しでは生きていけない癖に・・・かわいいなぁかわいいよアリス。やっぱり会話って楽しいなあ、思い通りに行かなくてーあ”あ”ぅぅぅ脳みそがぐりゅぐりゅしゅるよ~~~ッ!クフックフッ!切り捨てられた者同士仲良くイチャイチャしようよ~ウフクフギギ、ギ」

 

「ッ!!?」

 

 突然、恋都の視界が暗転する。身に覚えのない窮屈感が体を締め付ける。すぐ真横には神の顔。Aliceの両脇に腕を回され俺と思考放棄した”アリス”が抱えられていた。ビクともしない怪腕はさながら拘束具。加減無しに内臓を圧迫する。

 

「ゴペッ」

 

「ちょッやめ、ガェッ」

 

 血を吐き出す二人に目もくれず神は頬擦りする。

 

「ずっ~~~~とこうしたかったぁ。二人の輪に入りたかったッ!お母さんとアリスに挟まれて嬉しいなぁぁこれが幸せなんだぁ」

 

 痙攣しぐったりとする二人をよそに血みどろのまま楽しそうに語る。

 

「お母さんはAliceを捨てたけどAliceは見捨てないよ。必死に心の底から命乞いしてくれたから許してあげる。あとは・・アリスだけ。祈って?できるよね?子供じゃないんだから。あの時、祈ってくれたもん。ね、ね?」

 

「アリズゥゥッ!!早く祈れッ!ボクの為にもすぐ祈れェ!!お願いだから祈ってッ!あががが」

 

「・・・・・・・ふ、ふぐぐぅ」

 

 祈るのは簡単だ。俺には分かる。この女かなり怒り狂っている。祈りをただ利用されたことに腹を立てている。想いを踏みにじられたと思っている。一番の問題は本人がそのことを理解していない。感情がぐちゃぐちゃでまるで読めない。怒っているかと思えば喜んでいるし、泣いてもいる。もうわけがわからねない。

 

 それだけ神にとって祈りは貴く不可侵な行為なのか。言っておくが俺だって好きで祈ったのではない。大人のアリスに縋り奇跡を願っただけだ。貴様が勝手に勘違いしてやったことだろが。助けろとは言ったが、俺だってなんで祈ったのか・・・よりにもよってAliceなんかに。くそ、わけがわかんねぇ!!こいつの名を真っ先に口に出していたのだ。そう、口が滑ったんだ!”アリス”にはAliceをぶつけるしかなかったんだよッ!!あんなの・・・俺の意志じゃない!

 

 

「勘違い?え、え”、え、え、はぁ?ああ、クヒッ素直じゃないな”あ”!」

 

「アリスゥゥ!?煽るのやめろ!!嘘でもいいからそこは嫌でもイエスだろがああああ!!ボクを殺す気かあああああああんぎゃあああああ」

 

「俺をアリスって呼ぶなッッ!アリスはてめえだろが!だいたいお前が大人しくしていればぁ!!こんなに泣きたいのは初めてだ!!」

 

「ボクはもうアリスじゃないでーす。残念でした!イグナイツでーす。べー」

 

 ナチュラルに心を読む神にはまいったね。そうやって勝手に読んで先走った結果なんだよ!こんな神、願い下げだよな!可能ならば返品したい!

 

 ペッ!吐き出した血の唾が神のご尊顔に直撃する。

 

 今までのAliceの行動原理から読めている。察するにこいつはあくまでも自分が持っていいない物に執着しているだけ。アリスの付加価値を受けた俺は付属品でしかなく、こいつは俺に宿った”アリスの役”にしか興味が無いのだ。一度たりとも俺を見ていない。アリスであれば誰だっていいのだ。

 

 ちょっと優しくされただけで勘違いするメンヘラのキ〇ガイだ。そして手にすれば途端に興味を失う子供メンタル。そうなれば命の保証もない。独りよがりでエゴイストで自己中で幼稚な神。目的はすぐに迷走する始末。

 

 まさに、これが神だ。

 

 気分一つで俺は死ぬ。逆に抵抗し続ければ殺されないという事だ。

 

 俺が死ねばどうなる。世界に何の興味も無いAliceはいよいよもって終幕に導く。あくまでも世界を復元したのは俺の付属品として舞台装置が必要だからだ。数多くの者が命がけで守った世界を簡単に壊されてたまるのかッ!

 

「・・・どいつもこいつも、なんなの?許してあげるって言ってるじゃん。言葉は通じてるよね。こんなに好きだって言っているのに・・う”ぅヒックッ・・・・Aliceのこと・・いぢめないでよ・・・・・・・・・・・・・殺すぞ」

 

 ゴゴゴ、と。

 

 地面が揺り動く。盛り上がる大地。人形の波から現れた巨大な手が俺と”アリス”を掴み上げ、巨大な神が現れる。

 

「Alice!!超待って!許して!ボクがッ超間違って」

 

「うん!うるさいよ!」

 

 大きな口を開けそのまま”アリス”を丸かじりにする神は幾度の咀嚼後飲み込んだ。

 

「お、俺も殺すつもりか?これが神なのだなッ!!」

 

「別に殺してないよ?こいつはなんだかんだ言ってお母さんみたいなものだし、おもしろいよ!」

 

「何がしたいんだ・・・」

 

 神の大きな目が俺を捕らえる。瞳に映る手に捕まれたヨルムの顔をした俺の姿。とても弱弱しく無力な存在。とても抜け出せそうにない。

 

「ねえ思ったことは無い?物語のその後をさ。王子様とお姫様が結婚してそれからどうなったのか?Aliceはね、それが見たいの。物語は自分で作るに限るよね」

 

「それがなんでこの体になるんだッ!?」

 

 ヨルムに申し訳がない!

 

「本来のアリスの体は神の力で崩壊寸前。だから継ぎ接ぎの体を更に継ぎ足したんだよ。それでもまともに動かないだろうからAliceが無理やり外から力を加えて動かしてあげる。アリスは男であることに拘ってたよね。ちゃんと男にしておいたよ、よかったねーヒューヒュー重力って偉大だね」

 

 ・・・なぜそんなサービスをする?本当に行動原理が理解できない。

 

「あと、ついででいいんだけど、この箱庭に蔓延る”運命”気取りのウジ虫どもを退治してくれればいいよ。そしてみんなに偉大なる神の存在を知らしめよう!異教徒は皆殺しにしようね~そのための力もあげたからね、ね。教えてあげないとねAliceのほうが偉いんだって」

 

「わけがわからん!なんとでも説明しろよォ!そもそもなんで俺が召喚された!?アリスとどんな因縁があるんだ!?いい加減答えろおおおおおおAlice――――――ッッッツ!!」

 

「アリスは物語を語る上で結末だけしか教えないの?脈絡も伏線も無い最後だなんてAliceは嫌いかな。だってつまらないもん、くふ。大丈夫~終末戦争について調べて行けばいつかはわかるよ。がんばれがんばえ~!」

 

 なんだよそれッふざけるなよッッツ!!

 

「さーてアリスはどんな味がするのかな~」

 

「クソガアアアアアアアアア!」

 

 

 ガリガリと噛み砕かれる恋都。それは何とも甘美な幸せ。お腹の中にいると考えると良からぬ思いで溢れそうだ。まるでそう、あの時のキャンディみたい。

 

 

 Aliceは既に幸福に満たされている。欲しいものはただ一つ。祈りだ。この世に蔓延る神モドキとは違う真なる支配者。その証拠として神域には神など存在しなかった。盤面へと唯一介入可能な存在。それがAliceだった。

 

 さあ、Aliceだけの舞台を作ろう。

 

 主人公はアリス。

 

 演目は【迷走】

 

 原点たる”痛み”を経て”迷走”こそがAliceの本質。

 

 答えの無い出口が迷い人を永遠に惑わし続け終わりから遠ざける。アリスもお母さんもこの舞台で踊り続けてくれるだけで満足だ。

 

 それでも貪欲で無慈悲な神は祈りが欲しい。もっと頼ってほしい。だから過酷な環境に送り込み試練を与えてやる。そうなればきっとアリスも心から祈ってくれる。外様の”運命”かぶれどもには好きにさせない。

 

 この舞台はAliceの物だ。意味不明な改悪も介入も許さない。Aliceの大好きな駒こそが主役なんだ。”運命”は、全て迷走が喰らい尽くしてやる。

 

 私のアリスが最高なんだって奴らの創作物を滅茶苦茶にしてやる。

 

 ああ、早く祈らないかな。アリスが恋しいよ。

 

 こんなに可愛い神様に愛されているのに・・・何が不満なのだろうか?

 

 愚かなアリスも・・・・・・・いいね!

 

 両想いになるまで試練を与えないと!

 

 これもきっと”愛”なんだって、きっとアリスならわかってくれるって信じているのだから。

 

 だから、Aliceは―――――諦めない

 

 がんばるぞー

 

 

 

 

 ――――――――――Side/アリス

 

 

 寒い。

 

 寒くて凍えそうだ。

 

 恋都は雪原に転がり仰向けのまま天を仰ぐ。灰色の空は限りなく続く。豪雪地帯であるはずが、この時だけは雪はまったく降っていない。冷たい風が吹き抜ける度に身もだえする。全身水に濡れていれば当然の反応か。いや、それ以前に全裸じゃん・・・

 

 また生き残ってしまった。喜ぶべきか、残念がるべきか・・・神って糞だ。

 

「・・・寒い」

 

「・・・・・・」

 

 先ほどから荒い息遣いが耳に障る。

 

 隣に寄り添うもう一人はそれどころではないらしい。それでもなお静寂が勝る。深々と降る雪が如実に演出する。

 

「くそくそくそ!なんでボクがこんな目にいいぃぃぃッ!」

 

「ハハハ、超笑えるんだが?」

 

「ボクはただ自由になりたかっただけなのに!酷いよ!アリスお前が!」

 

「ぐぇ」

  

 高揚した”アリス”が俺に圧し掛かる。争ったところでどうにもならない。糞みたいな神はきっとこの光景もどこからか眺めているのだろう。

 

「笑い事じゃないよ!ボ、ボクッ肉が喰いたい!人肉が食べたくてしょうがないんだよッ!!?」

 

 恋都はドクリ、と血が騒ぐ。それは危機感から来るものなのか・・・

 

 なんだ、何かがおかしい。こんなにもこいつを近しく感じたことがあっただろうか?

 

 何かが二人の間でリンクした感覚。そう、まるであの時のフォトクリスとの契約―――――

 

「Aliceめえええええええ!食人衝動を残しやがったああああああ!人間なんて食べれる訳ないだろおおおお」

 

 イグナイツの食人衝動は生来のものではない。ボクが産んだ際に意図的に付け加えた設定でだ。イグナイツとして新たに生まれ変わる上で痕跡を残し裏のアリスに気取られないようにするためには一時的に記憶を消さねばならなかった。イグナイツを演じればしばらくは以前の人格も記憶も忘れてしまう。その時のイグナイツを演じるボクが計画通りに動くかはわからない。それにはどうしても、いつか現れる恋都にべったりである必要性があった。人食いはその指標。彼が不死者であることは把握済み。だからこその食人衝動。裏のアリスが囁く前から夢の中でボクは何度も王子様を登場させ刷り込み理想の男性に昇華させた。

 

 それがだ、あの性悪な神はあろうことかその設定を復刻させ残していきやがった。どうしても行動を共にさせ、あろうことか共依存を狙っている。まるで制約だ。神が神に制約をつけるのか!?

 

 そして、それはこの男にも当て嵌まる。

 

「お、俺から離れろッッ!」

 

 ボクを根源的な三大欲求。そのうちの食欲で縛るつもりなのか。

 

 この男を食べたい。

 

 つ、辛い。衝動に抗うってこんなにも辛いのか―――

 

「ね、ねえ。ボクの話を聞いて、聞いてよ!て、提案なんだけどさボクたちってもっと仲良くできると思うんだよね!苦しみってッお互いに分かち合えるよね!?血、血ならいける!!」

 

「そんなのお断りだ!いいから離れろッ退けよ!」

 

「へぐ!」

 

「はぁ、はぁ!ひぃぃ」

 

 ぶん殴ったアリスの股下から這い出る恋都は這う這うの体で逃げ出す。それを後ろからタックルし腰にしがみ付くアリス。必死に引きはがそうとするも力負けしている。出力が安定しないだと!

 

「アリスッ!ボクが必要なんだろ!恥ずかしがらずに言ってみろ!そんで譲歩してッねね!?」

 

「・・・・・・・・ッ俺をぉアリスって呼ぶんじゃねぇぇ。触るなッ!」

 

「意地悪!もういいっ喰ふ、い、いただきますッおえ無理無理~、があクソ!食べれないよこんなものッ」

 

 葛藤するイグナイツが俺を喰らおうと密着する度に嫌でも女体の素晴らしさを思い知らされる。とにかく理性が綻ぶ。寒さなどまるで感じていなかった。心臓がはち切れそうに高鳴り響く。

 

 俺は・・・こんなにも破廉恥だったのかッ!!

 

 ここで過ちを犯せば二度と日の目を見ることは無い。

 

 こんなことでッ神に祈ってたまるかよおおおおお!!

 

 

 冬空の下、絡み合う二人。お互いにマウントを取り合い、雪原をどこまでも転がり行く。理性の飛んだ獣との死闘はまだまだ続く。諦めない限り彼は間違う事は無いだろう。

 

 神は観客席からニコニコと楽しそうに見守る。行動の全てが供物となり逃れることを許さない。推し二人の絡み。見ていて楽しくない訳がない。

 

「はぎゃああああああああああああ!!」

 

 最後に大きな絶叫が響いた。それがどんな結果に落ち着くのか、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 仄暗き水底で渦巻く魂の輪廻は救われた。

 

 少女は愛を捧げられ、神を産み出した。奔放なる神の来訪は見えない場所に大きな爪跡を残し、無名の魂は楽園へと辿り着く。長い航路の末、神は手に入れたのだ。誰にも忘れ去られた存在だったが、少女は忘れなかった。募る思いはエゴを強化し遂には彼を呼び寄せた。救世主の到来はまさしく必然。その結果、盤上に新たなる参加者が現れるが誰もそれを知ることがない。

 

 それでも世界は巡る。

 

 例え・・それが世界が嫌う異物であろうとも、”迷走”は祝福するだろう。

 

 

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