ブラック・ブレット〜紅の斬撃〜   作:阿良良木歴

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孤立無援のプロモーター

「……はぁ」

 

男は白みだした空を見ながら溜め息こぼした。助けた女の子の怪我の状況を確認し、入院する必要があると判断。彼女を信頼している医者に預けた……その帰り道である。男は別段、彼女を助けた事に溜め息をついた訳ではない。むしろ助ける事が出来て良かったと思っている。それならば何故、憂鬱そうな雰囲気を醸し出しているのか。それはーー

 

「今月……ピンチだ……」

 

ーーただの金欠である。

 

月のちょうど半分の時点で、男の財布と銀行から諭吉さんは姿を消していた。男は"呪われた子供たち”をなんの見返りも無しに助けている。誰に言われるでもなく。ただ今月は助けた数が多かった。今日助けた女bの子で10人目。自分で介抱したのも何人かいるが、それだってタダじゃない。金が入るのが月末ということもあり、生活が困窮するのは明らかだ。

 

「……まあ、しゃーなしか」

 

それでも、男は気楽に構える。楽天家な男はなんとかなると考える。朝焼けの空の下、あくびを噛み殺し男は歩く。

 

 

* * *

 

 

「……で?最後に言い残すことは?」

 

「反省はしているが、後悔はしていない」

 

「キメ顔でカッコつけんな!!」

 

とある建物の一室。男は女に怒鳴られていた。女と言っても、見た目にはまだ中学生になったばかりぐらいの容姿をしている。

 

身長は150くらい。黒い瞳は少しタレ目気味だが、怒っているせいか少しつり上がっている。艶やかな黒髪は肩口までのボブカットで左側の一部だけ長くなっている。体の発育はまだ発展途上といったところか。顔は幼さがあるものの、目を見張る程に美しい。どこかの上流階級のお嬢様のようだった。

 

その女に机を挟んで反対側に立っている男は、女と正反対な容姿であった。

 

身長は190に届かんばかりに高く、服の上からでもわかる程度に筋肉がついている。赤く燃えるような髪は伸ばしっぱなしなのか背中までかかりボサボサと広がっていた。瞳は濁った色の黒目で、まるで世界全てを恨んでいるかの様な鋭い眼孔。顔のパーツ自体は整っているが、鋭すぎる眼孔とへの字に曲がった口が常に不機嫌そうに見せていた。控えめに言っても、裏社会の人間にしか見えなかった。

 

「つーか。朝からそんな叫んで疲れない?疲れなくとも血糖値上がるよ」

 

「誰のせいだと思ってんの!だッ・れッ・のッ!」

 

「あんま叫ばないでくれよ、梓(あずさ)。寝不足で頭がガンガンすんだから」

 

「自業自得でしょ、蓮華(れんげ)君」

 

盛大に溜め息をつきながら女ーー梓は言う。

 

「私、お使い頼んだんだよね?」

 

「ああ。今週の食料、洗剤、その他諸々の消耗品全部のな」

 

「で、その頼んだ物はどこにあるのかな?」

 

引き攣った笑みを浮べた梓に向かってーー内心、ビビリながらもーー蓮華はいつもの調子で答えた。

 

「買い物の途中で出会った女の子を助けるためにお金を全部使ったので、ない」

 

「このバカ!変態!ロリコン!!」

 

「ちょっと待て!人助けしたのにそれは無いだろ!!」

 

「うるさい!人助けって言ったって女の子、しかも幼い子だけ助ける蓮華君はロリコン決定だもん!!」

 

「”呪われた子供たち"が女の子しかいねーんだからしょうがねーだろ!!」

 

そこから数分、意味の無い言い争いは続いた。

 

 

* * *

 

 

「で、ここに寄った用件。また別にあるんでしょ?」

 

「ああ、仕事が欲しい」

 

数分後、言い争いから取っ組み合いになり、梓の尻に敷かれたまま蓮華は答える。

 

「まあ現在、三件のガストレアの討伐依頼が入ってるけど。どれにする?」

 

「全部オレに回してくれ」

 

「全部一人でやるの?他の同業者だって動いてるはずだよ?」

 

「大丈夫だ。オレなら全部最速で回ってカタを付けれる」

 

「女の子の尻にしかれて無ければ、説得力あったかもね?」

 

「うぐっ!?」

 

クスクスと笑いながら、梓は立ち上がる。蓮華も軽くホコリを払いながら、立ち上がる。梓は机の引き出しを開け、何枚かのプリントの束を蓮華に渡す。

 

「はい、これが三件分の資料」

 

「さんきゅ。悪いな毎度毎度」

 

「いいよこれくらい。蓮華君は毎回ちゃんと討伐してくれるから信頼してるし。おかげで仕事も多く回って来るし」

 

「お、じゃあオレに感謝感激雨あられってか?」

 

「そうやってすぐちょーしに乗らない!」

 

梓は目一杯背伸びをしてポカリと頭を叩く。蓮華もそれを受け止め、へいへいと苦笑い。少しだけ和やかな雰囲気になるが、すぐに蓮華は踵を返す。

 

「ほんじゃま、行ってくるわ」

 

「ぁ……蓮華君!!」

 

部屋を出ていこうとする蓮華を呼び止める。蓮華も振り返り、首を傾げる。

 

「なんだ?言い忘れた事でもあったか?」

 

「ううん。そうじゃないんだけど。

 

……気をつけてね」

 

「……おう」

 

心配そうに見つめる梓の頭をぽむぽむと撫で、部屋を出て行く。一人残された梓はポツリと呟く。

 

「本当に気をつけてね。だって君は……」

 

その先の言葉は紡がれなかった。

 

 

* * *

 

 

「ふぅ……。三件目、討伐完了」

 

「よくやった民警。後はこっちで処理する。ほら、報酬だ」

 

「どもっす!そんじゃあオレはこれで」

 

報酬を受け取ると、蓮華はそそくさと立ち去った。現場に残った警部は蓮華の姿をしばしの間見送り、現場を見返す。

 

「多田島警部!アイツもう帰ったんですか?」

 

「ああ、現場の後始末は俺達の仕事だからな。アイツもそこら辺はよく弁えてる」

 

警察と民警は仲が悪い。ポッと出の民警が、自分達の仕事にズカズカと入って来てたと考える警察の人間は少なくない。

 

「お知り合い……なんですか?」

 

「まあな。現場でよく顔を合わせてるからな」

 

「アイツは、毎回こんな感じで倒してるんですか?」

 

警部ーー多田島の部下の男は討伐されたガストレアを見る。モデル・ドッグのガストレア、ステージⅠ。まだ犬としての原型は保っているものの、その大きさは人の何倍も大きくとても犬とは思えない。その亡骸には穴が3ヶ所。頭に一発、両胸に一発ずつ。正確無比に脳と心臓のある位置を撃ち抜いていた。

 

「ガストレア化して両胸に心臓があるかもしれないからどっちもに撃ち込むんだと。用心深いこった」

 

「狙ってこんなことしてるんですか!?」

 

普通、動く標的に銃弾を狙って当てるのは難しい。それもガストレアになり動きが予測しづらい。それに毎回狙って撃ち込むのは、もはや達人級の技だ。

 

「お前だって聞いたことあるだろ?"孤立無援のプロモーター”」

 

「噂は聞いたことありますけど……まさか!!」

 

「そのまさかだ。紅 蓮華(くれない れんげ)、IP序列666位。そして……」

 

「イニシエーターのいない、プロモーター……」

 

遠く、蓮華の去った方を見つめる。一人、孤独に戦う男はもう見えない。

 

 

* * *

 

 

「ひぃ、ふぅ、みぃっと。ぼちぼち儲かったな」

 

封筒の中を確認しながら、蓮華は笑みをこぼす。梓の買い物も済ましてこの金額なら、当分は大丈夫だろうと考える。エコバッグを揺らしながら、帰路を歩く。

 

「梓に詫び入れないとなぁ」

 

一人ごちりながら、空を見る。東京エリアを守るモノリスを真っ赤に染まった月が照らしている。不気味な風景に悪寒が走る。早く帰ろうと足を早める。ーーと、

 

「……ん?」

 

どこからか、鈍い打撃音が響いた。

 

 

* * *

 

 

「ぅ……あぁ」

 

「なんだよ、これ」

 

暗い路地裏。そこには複数の男が血を流しながら倒れていた。腕や脚があらぬ方向に曲がり、顔面が陥没している者も少なくない。その中心に立つのは、真っ赤に輝く目の少女だった。

 

くすんだ銀の髪を返り血に染めながら、無機質な瞳を蓮華に向ける。

 

それを蓮華は美しいと思った。

 

これが後に、最強のコンビと言われる”紅銀(あかがね)"の邂逅であった。




仕事の関係上更新が週一にならざるを得ない事に気付いた作者です。

まだ原作の内容に入れませんが、次回には追いつけるように頑張ります!

それではまた次回。
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