ブラック・ブレット〜紅の斬撃〜   作:阿良良木歴

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七星の遺産争奪戦

「今回民警のみなさんへの依頼は二つ」

 

部屋のざわめきが落ち着いたのを見計らい、聖天子は説明を開始する。

 

「1つは昨日東京エリアに侵入した感染源ガストレアの探索及び排除。

 

2つ目は、このガストレアに取り込まれてると思われる"とあるケース”を無傷で回収してください」

 

スクリーンの隅にケースの写真が、成功報酬とともに映し出される。ケース自体はごく普通のジュラルミンケースだ。しかし成功報酬の金額が異常だった。高々1匹のガストレア討伐に出される金額ではない。再びざわついた部屋の中から、1人手を上げる者がいた。

 

「そのケースの中身、お尋ねしてもよろしいですか?」

 

木更のその質問をする姿に蓮太郎は驚き、蓮華は口笛を吹いた。他の社長連中やプロモーターも気になっていたのか、質問の答えを聞く為に静まり返る。

 

「あなたは?」

 

「天童木更と申します」

 

「ああ、あなたが……」

 

そう呟き、隣に立つ天童菊之丞に目を向ける聖天子。その様子を見て蓮華は、木更と菊之丞に何らかの因縁があるのかと推測していた。

 

「お噂は聞いております。しかしそれは依頼人のプライバシーに関わるので、当然お答え出来ません」

 

「納得出来ません」

 

反論の声を上げ、木更は言葉を続ける。

 

「感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝子を持っているという常識に照らすのなら、感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。その程度なら、ウチのプロモーター1人でも倒せます。

 

問題は、

 

何故そんな簡単な依頼を破格の報酬付きで、しかも民警トップクラスの人間に依頼するのか腑に落ちません。ならば報酬に見合った危険がそのケースの中にあると邪推してしまうのも当然ではないでしょうか?」

 

「……それは知る必要のないことでは?」

 

「かもしれません。しかしそちらが手札を伏せたままにするならば、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

 

「……ここで席を外すとペナルティがありますよ」

 

「覚悟のうえです。そんな不確かな説明で、ウチの社員を危険に晒すわけにはいきませんので」

 

木更と聖天子の睨み合いで、場の空気が硬直する。蓮太郎が何か言葉を発しようと口をあける。が、それより先に蓮華が発言する。

 

「お二人さん、睨み合うのは大いに結構だが。侵入者だ」

 

「おや?バレていたか。やはり君は危険だね」

 

突然上がった声に周囲が騒然となる。そして空席だったはずの大瀬フューチャーコーポレーションの席に燕尾服にシルクハット、ピエロの様な不気味な仮面を被った男が座っていることに気づき、距離をとった。男はゆったりとした動作で、机の上に立つ。

 

「お初にお目にかかります。無能な国家元首殿?」

 

「……誰です?」

 

挑発的な挨拶に聖天子は冷静さを保ちつつ、尋ねる。

 

「私は蛭子。蛭子影胤という。簡単に言うと、君たちの敵だ」

 

いきなり現れた敵にプロモーターは一気に殺意を向ける。そんな中、蓮太郎が声を荒らげながら拳銃を抜く。

 

「テメェは!!」

 

「おや、我が新しき友。里見君じゃないか」

 

どうやら顔見知りらしい二人に木更が尋ねる。

 

「里見君、あいつとどこで会ったの?」

 

「それは……」

 

「とりあえず蓮太郎。いくら友達がいないからって、友達は選んだ方がいいと思うぞ」

 

「うるせぇ!友達じゃねぇし、一言余計だ!!」

 

蓮華は蓮太郎にちゃちゃを入れたが、事態を重く見ていた。昨日の交戦と今日の立ち居振舞いからして、この場にいる誰よりも強いことを肌で感じていた。そして、あの少女も血の匂いを撒き散らしながら、こちらに向かっているのも感じた。

 

「おやおや、そういう君だって我が新しき友の1人だよ?昨日は名前を聞きそびれてしまったがね」

 

「紅蓮華だ。あいにく、お前の友になる気はない」

 

「くれない……紅君ね。振られてしまったかな。まあいい。少々遅れてしまったが、私の娘を紹介しよう。おいで、小比奈」

 

「はい、パパ」

 

後ろから上がった声に、影胤に意識を向けていた蓮太郎が驚いた様に後ろに拳銃を向ける。が、小比奈はその横をすり抜け、机の上によじ登っていた。そしてスクリーンに向け、スカートの端をつまみ自己紹介をする。

 

「蛭子小比奈。十歳」

 

「私のイニシエーターにして、娘だ」

 

腰に佩く双剣からは血が滴り落ちていた。拳銃を向けたまま、震える声で蓮太郎が尋ねる。

 

「テメェ、下にいた警備員とどうした?」

 

「ん?五月蝿い蝿なら小比奈に排除させたが?」

 

「テメェ!!」

 

蓮太郎の慟哭に動じず、影胤は聖天子や他の民警に向け手を広げる。

 

「話を戻そう。私もこの七星の遺産争奪戦に参加させていただこう」

 

「七星の遺産?なんのことだ」

 

「おやおや。本当に何も知らされていないようだね。あのケースの中身だよ」

 

「ならあの日、あの部屋にいたのは!」

 

「ご明察。だが肝心の感染源はどこかに消えてるし。ぐずぐずしていたら窓から警官隊が突入してくるしね。びっくりしたから殺してしまったよ。ヒヒヒッ!」

 

「貴様ァ!」

 

「諸君!ルールの確認といこう!私と君たちどちらが先に感染源ガストレアを見つけ、"七星の遺産”を手に入れられるか勝負といこう!掛金は、君たちの命でいかがか?」

 

(オレが小比奈に会ったのは、どっちにケースがあったかわからなかったからか?それにあの男が手に入れたがる”七星の遺産"ってなんなんだ……)

 

影胤の言葉に疑問を浮かべた蓮華を他所に、将監が叫ぶ。

 

「ごちゃごちゃとうるせぇな。ようはテメェが死ねば問題ねぇだろうが!」

 

その言葉とともに一瞬で間合いを詰める。その速さに蓮華は舌を巻く。

 

(あいつ、以前より速くなってやがる)

 

「ぶった斬れろやぁ!!」

 

体重と速度が乗ったバスターソードの一撃が影胤を襲う。が、バスターソードは何かに弾かれ、宙を舞った。

 

「ちぃ!夏世!」

 

「叫ばないでください。わかってます」

 

いつの間にか壁を駆け上がっていた夏世が、バスターソードを影胤に向けて蹴飛ばした。それを空中で掴み取ると、将監は影胤に速度を落とさず突き刺した。先程よりも威力の上がった一撃。蓮華と蓮太郎は感嘆の声を上げる。

 

「あれが千番台のペアの実力……」

 

「あの野郎、かなりレベルアップしてんじゃねぇか」

 

誰しもが今の攻撃で何かしらのダメージを与えたと思っていた。しかし、

 

「フフフ、今のはいい攻撃だった。だが、もう一歩届かなかったね」

 

「ッ!?」

 

「さがれ、将監!」

 

無傷の状態で余裕すら感じさせる影胤に将監は動揺する。すぐに他の民警の銃撃によるサポートが入る。将監が飛び退いた後、さらに多くの銃弾が飛び交い辺りは硝煙の香りに包まれた。数十にも及ぶ銃弾の嵐の中心で、影胤は微動だにせず立っていた。そして銃弾はどれ一つとして届いていない。

 

「なんだよ……それ」

 

蓮太郎が呆然とした様子で問う。影胤はそれが嬉しいのか嬉々とした声で答える。

 

「斥力フィールド。私は"イマジナリィ・ギミック”と呼んでいるがね」

 

他の民警も言葉を発せないでいた。蓮華も目の前の光景を信じることが出来なかった。なぜなら、放たれた無数の弾丸がまるで時が止まったかの様に影胤の周りで静止していたからだ。影胤と小比奈の周りには半透明の膜のようなものが半球状に展開されていた。影胤の言う斥力フィールドだと考えるが、その発生装置が見当たらない。なにか対策をと考える中、影胤が仮面の下で笑みを深めるのを感じた。背筋を走る悪寒に、反射的に叫ぶ。

 

「全員伏せろッ!!」

 

咄嗟に梓を抱き寄せ、床に身を投げ出す。刹那、静止していた弾丸が巻き戻る様に部屋を蹂躙した。激しい音の嵐の後の静寂。部屋にいた民警の半分はうめき声を漏らし床に崩れ落ちた。

 

「てめぇ……人間か?」

 

「人間だよ。もっとも、これを発生させるために内臓のほとんどをバラニウムの機械に変えているがね」

 

「機械……ッ!?」

 

蓮太郎が驚く中、蓮華は冷静に思考を巡らせる。

 

(バラニウム……機械……ということはッ!)

 

「改めて名乗ろう!里見君、紅君!!

 

私は元陸上自衛隊東部方面隊第787機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ!」

 

その言葉に皆一斉にありえないといった言葉を零す。それもその筈、影胤が名乗った肩書きはガストレア戦争が生んだ対ガストレア用特殊部隊なのだが、いわばそれは都市伝説であり、人々の願望に似たものだからだ。

 

「ああそうだ。里見君、君にささやかなプレゼントだ」

 

そう言って、蓮太郎の前に大きめの箱を置いた。そのまま銃弾で割れた窓の方に歩いて行く。

 

「絶望したまえ、民警の諸君。滅亡の日は近い!それでは、ごきげんよう」

 

その言葉を残し、影胤と小比奈は窓の外へ姿を消した。数秒の沈黙。だが、それはすぐに破られる。

 

「天童閣下ッ!新人類創造計画は……あの男の言ってたことは本当なのですか!?」

 

「……答える必要はない」

 

1人が菊之丞を問いただす。が、菊之丞は黙秘。部屋のざわめきがより一層大きくなった。そのざわめきをかき消すように大きな音を立て、1人の男が部屋に駆け込んできた。

 

「た、大変だぁ!!しゃ……社長が!」

 

「欠席した大瀬社長の秘書ね」

 

「様子がおかしいぞ?」

 

「なにかあったのか……」

 

「社長が自宅で殺された……。だが、死体の首がどこにもないんだ!!」

 

「……ッ!?」

 

部屋の全員が影胤が置いていった箱に目を向けた。箱の隅から赤い液体が漏れ出している。蓮太郎が震える手で箱の包みを解き、上蓋を外す。そこにはーー、

 

「……ぁの野郎ぉ!!」

 

上蓋を戻し、拳を握り締め怒りの声を漏らす蓮太郎。蓮華も凄惨な光景に怒りに顔を歪める。

 

「静粛にッ!事態は尋常ならざる方向に向かっています。みなさん、新たにこの依頼の達成条件を付け加えさせて頂きます。ケース奪取を企むあの男より先にケースを回収してください。でなければ、大変な事が起こります」

 

聖天子の言葉に部屋は何度目かの沈黙に包まれる。その沈黙を破ったのは、再び木更だった。

 

「聖天子様、今度こそケースの中身説明していただけますね?」

 

「……ケースの中に入っているのは『七星の遺産』邪悪な人間が悪用すればモノリスの結界を破壊し、東京エリアに”大絶滅"を引き起こす封印指定物です」

 

聖天子から発せられた言葉は想像以上に残酷な内容だった。




更新が遅れてしまい、申し訳ありません。

仕事の都合でこれからも更新が遅くなると思いますが、長い目で見守ってください。

それでは、また次回。
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